腎の構造と機能から学ぶCKDの病態
18日目 集合管は尿量を最終的に決める~主役は水を保つADH~
腎の尿細管の最終部にあたる集合管は主細胞と間在細胞からなる。集合管主細胞にはアルドステロンによって活性化される上皮型Na+チャネル(ENaC)のほかにもカリウムチャネルやバソプレシンV2受容体(血管平滑筋や中枢にV1受容体もあるが腎臓には関与していない)とそれによって誘導された水チャネルaquaporin 2が発現している。集合管の主細胞に隣接して間在細胞が存在し,管腔側にプロトンポンプ(H+ -ATPase)を発現するα間在細胞と,Cl– /HCO3 – 交換輸送体を発現するβ間在細胞とに分類される(15日目図1と図2を参照)。 この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます
腎の構造と機能から学ぶCKDの病態
17日目 non-steroidal MRAフィネレノンの快進撃
FIDELIO-DKD試験
George Bakris先生が主導して行ったアルブミン尿陽性で、RAS阻害薬を用いて治療中のCKD合併2型糖尿病患者(詳細は微量アルブミン尿の糖尿病網膜症または顕性アルブミン尿のDKD)を対象にフィネレノンの効果を見たFIDELIO-DKD試験では複合腎イベント(末期腎不全発症、eGFR 40%以上の持続的な低下、腎臓死)のハザード比0.82(95%CI: 0.73~0.93、p=0.001)と腎複合イベントリスクを18%有意に低下した(図1)。フィネレノンはアルブミン尿を有意に軽減した(図2)。これはアルドステロンが糸球体のメサンギウムとポドサイトに、直接悪影響して足突起の剥離を促進して蛋白尿を増やすのをMRAが防いでくれているという動物実験の結果を支持する結果と言えるかもしれない。カリウムの上昇は平均0.25mEq/Lと軽微であったこともFIDELIO-DKD試験で明らかになり(図3)、懸念される高カリウム血症も従来の抗アルドステロン薬に比べると使いやすいと思われた。 この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます
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16日目 かなりあくどいアルドステロン
アルドステロンは実は、前述のように水や塩がなくても即死しないために、陸上生物にとっては必須のホルモンだった。血圧が低くては機敏に動くこともできないために容易に猛獣に襲われしまうし、水が得られない場所で遭難しても水・Naを保持することによって生きてゆくためにはアルドステロンは必要だったのだが、人類の生活が豊かになって豊かで平和な世の中が続き、肥満・飽食・塩分を過剰に摂取するようになると、アルドステロンの主作用のNa・水の貯留による血圧上昇は高血圧などの生活習慣病にとって非常に危険なものに変わってしまった。 この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます
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15日目 レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系阻害薬の使い方
陸上生活するうえでどうしても必要なシステム
海で生まれた生物が進化をして、陸上生活をするためには水や塩がなくても生きてゆけるシステムが必要だ。循環血漿量の減少を感知した腎臓の傍糸球体装置からレニンが分泌され、副腎皮質でアルドステロンを産生してくれることによって、Naを腎臓で再吸収して尿中に出すことなく循環血漿中に保持することができる。細胞外液の喪失、つまり脱水(この場合、下痢・嘔吐・出血などによって起こるhypovolemiaまたはvolume depletionであって、高齢者に多いdehydrationではない:わからなかった人は8日目の図2参照)や血圧低下による腎機能悪化から守ってくれているありがた~い存在なのだ。 この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます
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14日目 傍糸球体細胞による糸球体内圧の維持とレニンの役割
全身血圧が変化しても糸球体内圧が一定、腎機能(GFR)が一定に保たれているのはなぜ?
薬剤師であれば「傍糸球体細胞(あるいは傍糸球体装置)からレニンが分泌される」という文言は何度か聞いたことがあるだろう。じゃあ傍糸球体細胞ってどこにあるの?これは読んで字のごとく「糸球体の傍(そば、わき、かたわら)」にある細胞だ(図1)。傍糸球体細胞は全身血圧が大きく変動しても健常者であれば糸球体内圧を50mmHgと一定に保ち、GFRを100mL/minに維持している。これらの調節には輸入細動脈、輸出細動脈の血流を調節して一定にするための傍糸球体装置における尿細管糸球体フィードバック(TGF: 6日目に説明済み)とレニン-アンジオテンシン系が関与している。
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13日目 近位尿細管の機能
~刷子縁膜構造を持ち、必要な栄養素を完全に再吸収し尿に出さない~
近位尿細管上皮細胞の管腔側は図1左に示すような、大草原のような刷子縁膜(微絨毛ともいう)構造をしている。極性の高いアミノ酸やブドウ糖、ペプチドやアルブミンなどは身体にとって必要な栄養分だ。それらを尿中に排泄していたら、栄養失調になってしまうが、これらの栄養物は親水性なので細胞膜上にある脂質二重層を介して再吸収できないため、図1右の小腸の刷子縁膜構造と同様に、面積を広くして栄養物を再吸収できるよう、脂質二重層上に能動輸送をするためのトランスポータが豊富に埋め込まれている(図2)。 この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます
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12日目 尿細管の名称と機能を知ろう
腎臓は大量の糸球体濾過を行っている。「1.5Lの尿を作るのに150Lもの大量の原尿を濾過するなんて無駄なことをやってるな」と思ってことはない?でも健康な人の原尿産生量、つまりGFRが150L/日から半分の75L/日に減少するだけで、GFRは正常値の100mL/minから明らかにCKD患者と分類される50mL/minに低下する。ということはあと少し悪化しただけで30mL/min未満という不可逆的に悪化して重度腎障害患者になってしまい、徐々に高カリウム血症、高リン血症などの電解質異常、高窒素血症、アシドーシス、溢水、腎性貧血などの腎不全症状が次々と起こり、透析導入になってしまう可能性が高くなる。すなわち、150L/日(GFR100mL/min)という十分な余力がないと、速やかにCKDになり、不可逆的に腎不全へと進行してヒトの死亡率トップはがんや心臓病ではなく、猫(がんに次いで死因の第2位が腎不全)のように腎不全が主要死因になってしまうであろう。慢性腎臓病は基本的に良くはならない この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます
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11日目 薬剤師の皆さん、イナーシャになってない?
薬剤師のみんな、高血圧に対してイナーシャになってない?えぇ!「イナーシャ」を知らない?実は僕も4年前に高血圧ガイドライン2019を読んで初めて知ったんだけど(図1)。Clinical inertia(臨床的な惰性・怠惰)とは、治療目標が達成されていないにもかかわらず、治療が適切に強化されていないことだ。患者さんの問題を認識していながら、それを解決する行動を起こすことができずに医療人の惰性によって患者の症状が悪化することが問題になっている。 この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます
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10日目 蛋白尿(-)のCKD患者の血圧の下げすぎには要注意
日本の高血圧の定義は140/80mmHg未満、つまり診察室血圧で収縮期血圧(SBP)140mmHg未満で、かつ拡張期血圧(DBP)が90mmHg未満でなければならない。だから140/65だとSBPが140未満じゃないし、135/90だとDBPが90未満じゃないので高血圧と判定され、家庭血圧はそれぞれ診察室血圧よりも5mmHg低い135未満、かつ85未満でなくてはならない。ただしこの降圧目標にしてよいのは高血圧ガイドライン2019では75歳以上の高齢者(併存疾患の降圧目標がSBP130未満の場合、忍容性があれば130未満)、脳血管障害患者(両側頸動脈狭窄や脳主幹動脈閉塞あり、または未評価)、CKD患者(蛋白尿陰性)だけなのだ(前回の表2右参照)。つまり実質的にほとんどの患者の降圧目標は130/80mmHg未満になったと考えてよい。欧州も血圧の定義は従来通り140/90mmHg未満だが、実質上はほとんどの患者で130/80mmHg未満にしなくてはならないという日本の考え方と同じだが、心血管病変による死亡リスクが極めて高い米国では血圧の定義を130/80mmHg未満にしてしまった。なんで? この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます
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9日目 CKDの降圧療法はどうあるべきか?
5日目にアルブミンを漏らさないための糸球体の役割について学んだ。アルブミン尿や蛋白尿はなんでこんなに重要なのか知ってる? CKD、つまり慢性腎臓病という病名が21世紀に生まれたのは、分かりやすい言葉で一般市民に腎臓病の脅威を伝える必要があったからだよね。そしてそれは腎機能が低下するか、アルブミン尿または蛋白尿が陽性になれば心血管病変、透析導入リスクがともに著明に上昇する怖い病気だからだ。そのためにアルブミン尿または蛋白尿を抑える必要がある。その1つのアプローチとして全身血圧のコントロールが重要だ。もちろんRAS阻害薬もSGLT2阻害薬もミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)も特異的に蛋白尿を抑制するが、それらについては後でゆっくり解説することにして、今回は蛋白尿(+)の時の全身血圧のコントロールについて考えてみよう。 この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます