2日目ですね。最初に各種腎機能パラメータにはどのようなものがあり、どのよう使い分ければよいのかについてまとめてみたいと思います。
腎機能の見誤りによって腎排泄性経口抗凝固薬による出血死、腎排泄性抗がん薬による骨髄抑制による敗血症死など、重篤な有害反応が現れることがあります。あるいは腎毒性のある抗菌薬の過量投与によって腎機能が急激に悪化し透析導入になることもあります。腎機能の正しい見積もりは中毒性副作用によって死に結びつく腎排泄性ハイリスク薬の投与設計はもちろん、高度腎機能低下患者・末期腎不全患者の中毒性副作用腎毒性の防止、あるいは「腎障害に禁忌」の腎機能を正しく判断する際にも必ず身につけておきたいものです。
AUCで表す薬物の血中濃度は投与量が同じであれば総クリアランス(CLtotal)に依存します。
投与量=CLtotal×AUC
腎排泄型薬物のクリアランスは患者の腎機能、つまりGFR(mL/min)と相関します。すなわちGFR(mL/min)が低下すれば腎排泄型薬物の血中濃度が上昇し、中毒性副作用が起こりやすくなります(図1)。腎機能低下患者では腎機能が低いほど、または薬物(活性体)の尿中排泄率が高いほど、1回投与量を減量するか投与間隔を延長する必要があります。そのため患者の腎機能を正確に評価し、薬物の活性体の尿中排泄率を把握することは非常に重要です。
腎臓は1個100~150g程度と体重の1%に満たないのに循環血(心拍出量5L/min;7,200L/日)の20%、つまり約1,500L/日の血流量があります。そのうち10%が細動脈から成る糸球体で濾過されて、つまり約150L/日の原尿が産生されます。そのうち99%の水分、必要な栄養素を再吸収し、不必要な生体内物質を尿細管分泌して1.5L/日の不要な濃縮尿を生産しています(図2)。
時間当たりの原尿の産生速度が腎機能、すなわち糸球体濾過量(GFR: glomerular filtration rate)として表されます。つまり150L/日≒6L/hr=100mL/min=GFRとなり、GFRの正常値は100mL/minです。イヌリンクリアランス(GFR)で用いるイヌリンは生体内で代謝されず、タンパクと全く結合せず、完全に糸球体濾過され、尿細管で全く再吸収も分泌もされないため糸球体濾過量のgold standardになります。チオ硫酸Naや造影剤のイオヘキソールなどでもほぼGFRに近い値が得られますが、クレアチニン(Cr)は生体内物質のため、薬物を静注投与する必要がないのでより簡便に腎機能を測定できます。またCrは産生速度が一定で、代謝されることなく、タンパクと結合せず完全に糸球体濾過され、尿細管で再吸収されますが、わずかに尿細管分泌されるため、GFRよりも20~30%高めの値になります(図3)。
古い論文や教科書ではCrは腎機能が悪化すればするほど尿細管分泌の寄与が増すと言われていましたが、実際にはその寄与は小さく、腎機能が悪化すればゼロに収束するため、投与設計上、大きな問題にはなりません。しかしCockcroft & Gault(CG)式による推算CCrはGFRより高値になるので0.789倍し(若年者のみ)、 GFRとして評価できます。
一般的に、簡易に腎機能を評価するには日本人向けGFR(糸球体濾過量)推算式が用いられます1)。ただし通常、検査箋に書かれている推算GFR(eGFR)の単位はmL/min/1.73m2になっており、これはCKDの診断指標のために作られたものです(たとえばeGFRが40mL/min/1.73m2であればCKDステージG3bというように(図4))。
図4. CKDの重症度分類 (CKD診療ガイド2012)
薬物投与設計に用いる腎機能は日本人向けGFR推算式で体表面積補正を外したもの、あるいはCG式を用いた推算CCrを用います。
日本人向けGFR推算式(18歳以上の成人が対象であり、小児には適用できません)。
eGFR (mL/min/1.73m2)=194×Cr-1.094×Age-0.287×0.739(女性)
CG式を用いると2)
薬物投与設計にはeGFR(mL/min/1.73m2)の体表面積補正を外すために、患者の体表面積を算出して補正を外し、eGFR (mL/min)として評価する必要があります。また逆に実測CCr(mL/min)は体表面積されていないので、日本の多くの病院の検査室や検査センターではCKD診断指標にするため、患者の体表面積を算出して体表面積補正CCr(mL/min/1.73m2)とする慣習が今もなお残っています。これも薬物投与設計時には未補正値にする必要があるのと、0.715倍するとGFRに換算して評価できます3)。
体表面積を算出するDu Boisの式4)
BSA(m2)= 体重(kg)0.425 × 身長(cm)0.725 ×0.007184
体表面積未補正eGFRは以下の式で求められます。
体表面積未補正eGFR=体表面積補正eGFR×BSA/1.73
引用文献
1)Matsuo S, Imai E, Horio M, Yasuda Y, Tomita K, Nitta K, et al: Revised equations for estimated GFR from serum creatinine in Japan. Am J Kidney Dis 2009; 53: 982-992.
2)Cockcroft DW, Gault MH: Prediction of creatinine clearance from serum creatinine. Nephron 16: 31-41, 1976
3)日本腎臓学会編: 腎機能の評価:成人. CKD診療ガイド2012, P1-4東京医学社, 東京, 2012
4)Du Bois D, Du Bois EF; A formula to estimate the approximate surface area if height and weight be known. Nutrition 5: 303-313, 1916
ただし以下の2項目は予測式の元になる血清Cr値に影響しますので、覚えておいてください。
①血清Cr値には10%程度の日内変動があり(朝が高い)、0.1mg/dLの差が推算値ではCCrやGFRで10mL/min前後の差になることがある(特に血清Cr値が低いときに推算値の差が大きくなる)。
②血清Cr値は肉の大量摂取時には上昇し、蛋白摂取制限時には低下する。
表.各種腎機能パラメータの正確性と特徴
「今日はここまで、それではまた次回お楽しみに!」