2022年2月

先日、ある県の薬剤師会の講演会で以下のような質問がありました。

Q.ナラティブとイナーシャはどう使い分けたらいい? この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます

【1位】日本腎臓病薬物療法学会誌グリーンブック(特別号改訂4版, 2022)

 日本腎臓病薬物療法学会一覧表委員会編集 500ページ以上 学会員には無料で送付されます 。
 2022年8月までに日本腎臓病薬物療法学会に入会するとこのグリーンブックだけではなく、腎機能別薬剤投与量POCETBOOK(3版は¥3,960ですが今年改訂される4版はもっと高価になるかも?)が送付されます!

 僕が一番重宝している本がこれ1冊。この1冊が手元にあれば「薬についての論文」を安心して書けます。腎機能別用量に関して掲載されている薬物数は本号では2,145品目でおそらく世界最大級です。読書というよりあればとても便利な辞書のような存在と言えるでしょう。

 一覧表委員会委員長がいい加減な平田から、まじめで律儀な浦田元樹先生に変り、そして白鷺病院で独自の「透析患者の投薬ガイドライン」を作成している古久保拓先生、そしてわが学会理事長の竹内裕紀先生と平田の4人のメンバーで定期的に「あーでもない、こーでもない」と審議して改定し、会員の皆様からのパブリックコメントをいただくことによって進化を続けている「一覧表」です。2012年1月に日本腎臓病薬物療法学会が設立されて以来、その学会誌 (抄録集以外) には毎号、「腎機能別薬剤投与方法一覧」を薬効群ごとに順番に掲載し、2年間かけて全薬効群の医薬品を掲載しています。そしてそれが2年に1回発刊される腎機能別薬剤投与量POCETBOOK (じほう) に反映されます。

 ただしこのグリーンブックの真骨頂は左側ページの「腎機能別薬剤投与方法一覧」ではなく右側ページにあると平田は信じています()。右側ページには各薬物のクリアランス、分布容積、尿中未変化体排泄率、バイオアベイラビリティ、蛋白結合率、消失半減期などの薬物動態パラメータに加え、代謝経路、CYPの分子種、CYP阻害・誘導作用、トランスポータの基質および阻害・誘導などの情報、さらには「特記事項」として有効性・安全性に関する情報を濃縮して記載しています。これらの内容は添付文書、インタビューフォームだけではなく様々な論文を参考にして、内容が精査されており、年々、内容が濃くしかも正確になっています。ということはこれ1冊あれば患者様の腎機能や体格を考慮しつつ様々な薬物の個別投与設計が可能になります。TDMにも欠かせませんが、より詳細な情報に関しては古久保拓先生が作成している白鷺病院の「透析患者の投薬ガイドライン」がおすすめです。

 僕は「薬物動態」について講演することがよくありますが、実際のところ薬物動態学は得意ではありません。理論的な説明が不得手なのです。でもこれだけの薬物の動態パラメータをインプットしていくうちに、自然とNSAIDsのPBRはほぼ99%に近いので、Vdはアルブミンにトラップされてそんなには大きくならない。だからVdは小さいけれども透析では抜けっこない。ベンゾジアゼピンもPBRに関してはほぼ同じようなもの。だけど投与量が少ないからアルブミンの競合阻害は考えなくていいよね。向精神薬はBBBを通るから脂溶性の高いものが多いので尿中排泄率は一般的には低いよね。でも中にはプラミペキソールのように尿細管のOCTによって尿細管分泌されると、例外的に尿中未変化体排泄率が高いものがあるよね。ということがナチュラルに理解できるようになりました。英文法について教えることはできないけれど英語は話せるような感じです。皆さん、グリーンブックは持っているけど、使っているのはPOCETBOOKだけでは情けないです。右側ページを活用してこそ、薬剤師の真の力をあらわすことができるのですから。またグリーンブックがあれば前述のように論文を書くとき、速やかに薬のコアな情報が得られるのでこれほど重宝するものはありません。重宝さから比較すると僕の場合、①グリーンブック、②PubMed、③医中誌、④UpToDate、⑤グーグル検索の順ではないかと思っています。というか、この一覧表は記憶力の極めて悪い自分自身のために、僕が作り始めたものですから、使いやすいのは当たり前ですけどね。薬剤性腎障害の分類も6ページ以上にわたり載っていますのでこれもお得です。

 

【2位】腎臓のはなし 130グラムの臓器の大きな役割

坂井建雄 新書 ¥902

 解剖学の日本の大家、坂井建雄(たつお)先生の著した腎臓の本です。なぜ2つ合わせて250gくらいしかない小さな臓器に1日で1500Lもの大量の血液が流れ、片側100万個ずつある糸球体で1日150Lの原尿を作り、最終的に1.5Lの尿を作っているのでしょうか?それはとりもなおさず糸球体が濾過し、尿細管が再吸収することによって体液の恒常性を保つためということは皆さん理解していると思います。

 尿中の成分は食べた内容によって、住んでいる環境によって、時によって全く変わります。なぜなら大量にろ過された原尿の中から必要なものを完璧に尿細管で再吸収し、不要なもの(余剰な電解質・酸・水・不要な薬物・不要な老廃物など)はすべて腎臓が排泄しているのですから。水を多く飲めば尿量が増える。塩をたくさん摂れば喉が乾いて大量の水を飲み、大量の尿中に溶かすことによって余分な塩を排泄する。でもこんなスーパーマンのような仕事をこなしている腎臓にも限界があります。①塩を1日50g以上摂取すれば血清Na濃度を140mEq/Lに保つのがむつかしくなるし、②1日30L以上の水を飲むと血清Na濃度を140mEq/Lに保てなくなる。③水を飲めなければ、極力尿量を少なくして脱水になるのを防いでくれますが、尿量を1日500mL未満にすることはむつかしい。このように腎は脆いため、原尿産生能が150L/日、つまりGFRが100mL/minと極めて大きな予備能を持っているのだということが理解できます。

 この腎臓のできる仕事の限界はどのようなもので規定されているのでしょうか。どうやって必要なものを再吸収し、不要なものだけを尿中に排泄しているのか、そしてその能力と限界について理解するはやはり腎臓の解剖学的な特徴を知る必要があるのです。近位尿細管の管腔側の表面は草原のごとく繊細な微絨毛で埋まっています。ブドウ糖もアミノ酸もペプチドもアルブミンも必要な栄養素をみじんたりとも逃がさないためです。でもどうやってブドウ糖やアミノ酸は再吸収されるの?じゃあ糖尿病になって高血糖になると尿糖が出るのはなぜ?腎炎になってアルブミンが漏れ出るのはなぜ?糸球体内圧が通常の50mmHgを超えてしまうと大量のアルブミンが漏れ出し、尿細管がその大量のアルブミンを再吸収すると疲弊しますが、じゃあアルブミンはどういうときに漏れ出るの?どうして尿細管がたくさんのアルブミンの再吸収をするときに疲弊して障害を起こすの?

 皆さんは尿細管が必要なものを再吸収するためにあるということは知っていると思いますが、それぞれ、近位尿細管の役割は?ヘンレループの役割は?遠位尿細管の役割は?集合管の役割は?について説明できますでしょうか?マクラデンサ(緻密班)はどこにあって何をしている?腎髄質の浸透圧が高くて皮質の浸透圧は低いのはなぜ?じゃあその浸透圧はどれ程度までコントロール可能なの?尿量や尿中のNaやK, Caなどの濃度を調節しているのはどこ?海水魚が高ナトリウム血症にならず、淡水魚が低ナトリウム血症にならないのはなぜ?渡り鳥は数千kmも飛ぶこともあるけど、その間、尿はどうやって排泄するの?これらはクイズではありませんが、この本1冊を読むことで難なく回答することができるようになると思います。

 さらに腎臓はこのような重労働をしているためか、脆いですし、一度悪くなると基本的に治りません。この脆い臓器の腎臓を虚血や腎毒性薬物から守っていただくためにも、腎臓のことをより深く理解していただきたいのです。僕自身が解剖学なんて薬剤師には必要ないと思っていましたが、完全に間違っていました。この本はまさに「目からうろこ」です。よく理解している坂井先生が書いたから、素人にも分かりやすく解説されていますし、医学部・薬学部の学生だけではなく、すでに腎臓の専門医になっている先生方にも勉強になる本だと思います。だって、日本腎臓学会誌にも坂井先生は「腎臓の構造と機能」について何度も寄稿されていますし、日本腎臓学会学術大会でも数年連続で講演をなさっていますから。これを読むことによって理解できていなかったことが理解でき、読み終えた後には巨大なジグソーパズルが完成したかのような爽快感と軽い疲労感を感じさせてくれました。これが1,000円足らずで購入できます。僕はこれを読んで以降、熊本大学薬学部臨床薬理学分野に配属された学生の教科書に指定しました。これを読み終えた方はアドバンス版としてカラー図解 人体の正常構造と機能〈5〉腎・泌尿器【改訂第4版】(6,600円)をお勧めします。豊富なカラーイラストや写真が満載されていますので、さらに腎臓の機能についての理解力が高まります。

 

 

【3位】糖質制限の真実 日本人を救う革命的食事法ロカボのすべて

山田悟著 新書 ¥858

 無理のないゆるめの糖質制限「ロカボ」を薦める糖質制限のトップドクターで北里大学北里研究所病院の糖尿病センター長の山田悟先生の著です。今や誰もが知っている「ロカボ」という言葉はおそらく山田先生の造語だと思います。糖尿病学会が長い間、提唱してきたカロリー制限食を正しいものだと信じて、患者さんにずっと指導してきたけれど、実は実行は大変で、効果もあまり期待できない。今のカロリー制限食は、糖尿病治療ガイドライン2019よりも前のガイドラインに載っている内容では、体重を減らせなかっただけでなく、LDLコレステロールの低下、中性脂肪の低下、HDLコレステロールの増加、CRPの低下、アディポネクチンの低下、空腹時血糖、空腹時インスリン分泌、インスリン抵抗性など、すべてにおいて低糖質食に比し劣っていたというRCT研究が引用されています1)。これって2008年の報告なのに、なんで糖尿病診療ガイドライン2016には反映されず、エビデンスのない炭水化物 50~60%エネルギーとする低カロリー食を推奨し続けたのでしょうか。

 ロカボとは糖質を控えるだけで、肥満、高血糖、高血圧、脂質異常症といった、いわゆるメタボリックシンドロームの構成要素がすべてよくなるという食事です。簡単に言うとご飯の量を少なくし、おかずの量は増やしてよいという実践可能な食事療法なのです従来の常識の脂質はカロリーが高いし肥満になりやすいというのはウソだし、脂質摂取で糖尿病になることはありません。血糖を上げるのは糖質だけだから、体にいいといわれていた蕎麦、玄米、全粒粉パン、山芋は糖質なので実は糖尿病には良いわけではないのです(腸内細菌叢の健全化にはとても良い食事だと思いますが、糖質ではあるため、血糖値が上がらないわけではない;山田先生は糖尿病食として解説しています)。油脂やコレステロールの高い卵を摂ってはいけない、等は間違っていました。チャーハンはカロリーは高いけれども白米より糖尿病になりにくい。植物性油だけでなく動物性の脂もバターも脂質は悪玉ではない。バターは動脈硬化にならないから食べてもいいのです。卵の黄身などのコレステロールを控えても、心臓病や肥満の予防にはほとんど役立ちません。

 糖尿病患者にとって本当に怖いのは動物性の脂ではなく食後高血糖等の血糖異常です。脂質制限は意味がなく、実際には動物性脂肪(飽和脂肪酸)は、脳卒中を減らしています。油の摂取量の上限自体を撤廃すべきだし、それよりも老化につながる血糖値の乱高下が危険だし、酸化ストレスで認知機能が低下します。抗酸化作用を発揮するためには、糖質を控えケトン体にする事で、酸化ストレスから逃れられます。昔は、糖質を食べないと筋肉内のグリコーゲンという栄養源が足りなくなってしまうと、僕らも教わっていました。しかし、実はエネルギーさえしっかり取っていれば、糖質を制限していてもグリコーゲンの貯蓄はちゃんとできることも分かってきています。

 「食の知識」に関する書物は、非常に多くありますが、専門家でもない人が誤った情報、民間療法のレベルの情報を発信していることがよ~くあります。糖尿病についてのエビデンスのある正しい食事療法の常識を、薬剤師が得るためにはこの書をお勧めします。新書版なので1000円以下で買えますし、この後編ともいえる「カロリー制限の大罪」も併せて読みたい本です。

 

引用文献
1)Shai I, et al: N Engl J Med 359: 229-241, 2008

 

 

第 10回 基礎から学ぶ薬剤師塾(2022年2月1日) アンケート結果

 今回の薬剤師塾では3名の方から質問をいただき、初めてディスカッションらしいことできました。ほかの参加者の皆さんも、単純にわかりにくいことを気軽に聞いていただければと思います。徐々に「薬剤師塾」らしいものができつつあると思いますので、次回が楽しみになりました。次回より内容はコンパクトにして、皆さんとより議論できるような薬剤師塾にしていきたいと思っております。 この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます

【4位】脳の不調を治す食べ方

Uma Naidoo 単行本 ¥1,980

 ハーバード・メディカルスクールの精神科医であり栄養士でもあるウーマ・ナイド博士の著。腸は第2の脳といわれ、腸の神経細胞数は4~6億で脳の次に多いのです。ストレスをコントロールすることによって消化吸収が改善し、野菜,果物,ナッツ,種子,マメ,全粒穀物などカラフルで繊維質の豊富な食物の積極的摂取によって腸内細菌叢を健全に保つことが、鬱、不安障害、自閉症、パーキンソン病、肥満などの現代病を改善させることができると説いています。この腸内細菌叢を介した精神神経疾患については「【6位】あなたの体は9割が細菌: 微生物の生態系が崩れはじめた」の内容と共通しています。腸脳連関(腸脳相関ともいう)の第一人者ということで、期待して読ませていただきました。

 気分が落ち込んでいる時には甘いものをつい食べ過ぎてしまうことがよくありますが、必要以上のブドウ糖の摂取は鬱病のリスクになります。脳は1日62gのブドウ糖を必要としますが、それ以上の過剰のブドウ糖は脳内であふれてしまい、炎症を引き起こしうつ病につながります。37,131人を対象にした2019年のメタ解析で飲料による砂糖摂取量と鬱の相関係数は0.95であったことを紹介しています1)

うつや不安を避けるためにどんどん食べた方がよいもの
 プロバイオティクス(ヨーグルト、味噌、キムチなどの発酵食品)、プレバイオティクス(豆類、オーツ麦、バナナ、ベリー類、玉ねぎなど)、低GI炭水化物(玄米など)、体にいい脂質(オリブ油、ナッツ、アボカドなど)、オメガ3脂肪酸(魚)、ビタミンD、ミネラルと微量元素(鉄、Mg, K, Zn, Se)、スパイス、ハーブ。ほかにも不安を避けるためには七面鳥やひよこ豆に含まれるトリプトファン、カリフラワーやブロッコリーのような低糖炭水化物、魚、鶏、卵、草食で健全に育てられた牛肉、イワシ、豆類のような良質なタンパク質はよい

 

逆にうつや不安を増強するため、できるだけ食べない方がよいもの
 砂糖(ソフトドリンク、焼き菓子など)、高GI炭水化物(精白パン、白米、ジャガイモ、パスタ)、人工甘味料(特にアスパルテーム)、揚げ物、体に悪い脂肪(マーガリン、ショートニング、硬化油など)、硝酸塩(ベーコン、サラミなど加工肉に用いられる)。ほかにも工場生産されたような赤身肉、過量のカフェイン、過量のアルコール、グルテンはよくない

 

 ただし尿毒素として最も認知されているインドキル硫酸の原料はアミノ酸のトリプトファンで、本書では不安を解消できるアミノ酸として紹介されています。これはしあわせホルモンと言われるセロトニンや不眠に使われるサプリメントのメラトニンもトリプトファンを原料にしていることによります(図12)。腸脳連関は腸腎連関よりもはるかに進んでおり、腸で生成されたセロトニンはBBBを通過しないものの、なぜかセロトニンの前駆物質であるトリプトファンが欠乏すると脳内セロトニンは減少します。トリプトファンに富む食品の摂取によって憂鬱や不安が減ったこともランダム化クロスオーバー試験で報告されています3)

 さて憂鬱で不眠を訴えるCKD患者さんや透析患者さんに、糸球体硬化・尿細管間質線維化から腎機能を悪化させ、ROSを誘導し酸化ストレスを亢進して心筋線維化・動脈硬化を悪化させ、Klotho発現低下から老化を促進させることなどが明らかにされているインドロキシル硫酸の原料であるトリプトファンの摂取を簡単に勧めるわけにはいきません。なんと悩ましいことか……。腸内細菌叢の健全化によって短鎖脂肪酸、特に酪酸が腸の健全性を保つことも書かれているので、まさに宮入菌がこれから、注目されそうな気がします。またセロトニンの前駆物質であるトリプトファンが欠乏することなく摂取して、腸内細菌の持っているTriptophanaseを腸管内のみで阻害する新薬ができることに期待したいものです。

 また本書では砂糖は最悪のように言いながらも、ショ糖を多く含むバナナ(ただし低GI食です)は食物繊維を含むため、チョコレートはポリフェノールを含むため推奨されていることは疑問ですし、人口甘味料のアスパルテームやアセスルファムK、スクラロースは不安と関係するので避けるべきとしています。アスパルテームは脳内でドーパミン、ノルアドレナリン、セロトニンの合成、分泌を妨げ、酸化ストレスの原因にもなるそうです。人口甘味飲料は砂糖飲料に比べ、脳梗塞やアルツハイマー病を有意に増やすというフラミンガムハートスタディの報告4)を引用していますが、この報告は米国の肥満糖尿病患者は人口甘味飲料を飲む傾向が高いというバイアスがあるからではないのかなとも感じました。これらは矛盾していますし、砂糖も人工甘味料もいけない、それに対する代替が示されていないということは甘党の方々は耐えられないような気がします。摂取上限が規定されていないわが国の人工甘味料の主役であるエリスリトールなどの糖アルコールについては悪い情報がないのが救いのような気がしました。

 うつや不安だけでなく双極性障害や統合失調症、不眠症やなど幅広い精神疾患について、あるいは集中力を高めるため、記憶力を高めるためについても、上記のような「どんどん食べた方がよいもの」、「できるだけ食べない方がよいもの」のリストやメニュー、そして調理法が載っているのもありがたいです。

 

引用文献
1)Hu D, et al: J Affect Disord 245: 348-355, 2019
2)Cheng Y, e t al: Sci Rep 2020 Jul 29;10(1):12675.doi: 10.1038/s41598-020-69559-x.
3)Linseth G, et al: Arch Psychiatr Nurs 2015; 29: 102-107
4)Pase MP, et al. Stroke. 2017;48:00-00. DOI: 10.1161/STROKEAHA.116.016027.

 

 

 

 

【5位】LIFESPAN(ライフスパン): 老いなき世界

David A Sinclair著¥2,640

 腎機能は良くはならず加齢とともに低下していくのと同じように、老化は避けて通れないものと、誰もが考えているでしょうが、非常に著名な医学者のDavid A Sinclair教授が2019年に著し翌年、邦訳された「ライフスパン 老いなき世界 人類は老いない身体を手に入れる(原題:Lifespan: Why We Age – and Why We Don’t Have To)」が話題になっています。内容は今はやりの「健康本」や「ダイエット本」ではありません。ちゃんと査読の厳しいNature, Cell, Scienceなどの医学のトップジャーナルに掲載された根拠のあるものです。500ページ近くあって、とてもわかりやすく書いているものの、科学に疎い人には内容的には難しいのですが、非常に興味深く、インパクトの強い内容、すなわち老化を防ぎ健康寿命を増やす(だけでなく最高寿命も増やせる)方法について記されています。ワシントン大学の今井教授のNMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)というニコチン酸誘導体に関する仕事や、平田の薬剤師としての持論も交えて解説してみたいと思います。

 かつては、そして今も老衰や高齢による衰弱は主な死因であり、加齢に伴い疾病数は増え、高血圧、糖尿病罹患率も上昇します。現在の医療のようなもぐらたたきのように、個々の病気を治療するだけでは健康寿命は伸ばせません。老化は一つの病気であり、治療できるというのが本書の内容です。なぜ老いるのか?我々の体にはDNAの損傷が見られるとき、つまり厳しい環境下では細胞の増殖を遅らせることで、損傷が治るまで自身の修復にエネルギーを振り向ける仕組みが備わっています。これまでの生命科学ではDNAの損傷、恒常性の消失、ミトコンドリアの機能の低下などの様々な要因によって老化が起こると考えられてきました。それは間違いではないのですが、「そもそもどうして老化現象が表れるのか」については解明できていなかったのです。著者は、これら諸要因に共通する「唯一の原因」を探し出しました。それは「エピゲノム情報の喪失」です。つまり老化とは情報の喪失によるものだったのです。エピゲノムという可逆的なアナログ情報に生じたエラーを取り除くことができれば、若いころのDNAを復活させることができるはずなのです。

 老化を防ぐためには、①食べる量を減らすこと(飢餓状態を作る)や②運動療法:「高強度インターバルトレーニング(HIIT: High-intensity interval training限界に近い高強度の短距離走30-40秒の全力疾走と20秒と徒歩の繰り返しなど)」がとくにいいし、③薬物療法・サプリメントについてはNMN, メトホルミン、レスベラトロールの服用などが有効ですし、今話題のSGLT2阻害薬も産生されたケトン体のβヒドロキシ酪酸を介してSirt1やAMPKが活性化され、抗酸化、心筋症の発症抑制作用だけではなく、寿命を延ばす効果も期待できる可能性があります。

 そうこうしているうちに老化細胞除去ワクチンを順天堂大学大学院医学研究科循環器内科学の南野徹教授らの研究グループが開発し、Nature Aging誌の2021年12月10日付で掲載されたというニュースが入ってきました。このワクチンは免疫系を刺激して、老化細胞(分裂をやめるが、死なない、いわゆるゾンビのような細胞)に対する抗体を作り、老化細胞を白血球に貪食させることによって除去します。これによって感染症や様々な疾病(肥満に伴う糖代謝異常や動脈硬化、加齢に伴うフレイル)から我々の体を守るだけでなく、早老症マウスの寿命が延長することが確認されました()。健康寿命が延長して、年をとってもずっと元気に仕事ができ、お迎えが来たら、ぽっくりと死にたいと思っているは僕だけでしょうか?

 

 

 第11回 基礎から学ぶ薬剤師塾 2022年3月1日(火)18時~20時まで の申し込みを始めます。今回のテーマは「腎臓が何をやっているか ~糸球体編 ようこそこの複雑で精密な世界へ ~」です。そして次回の4月5日(予定)は続編の「~尿細管編~」の予定です。

 腎不全患者はたんぱく制限、水分制限・食塩制限、カリウム制限、リン制限などを怠ると、それぞれ、尿毒症、溢水・浮腫、高カリウム血症・不整脈・突然死、腎性骨症・血管石灰化などの致命的な合併症が起こりますが、腎臓が正常である限り、これらの症状は全く現れません。その理由は腎臓が非常に狭い範囲内で血清電解質濃度、血清pH、体液量などの恒常性を保っているからなのです。2つ合わせて500-600gのこの小さな臓器が、どうやってこんなにすごいことをやり遂げられるのでしょうか?

 腎臓は血液を無選択に150L/日も濾過しているのに、尿中にはアルブミンもアミノ酸もブドウ糖も健康な腎臓は全く排泄しないのはなぜ?そして細胞外液のカチオンの主役はナトリウムなのに細胞内のカチオンの主役がカリウムなのはなぜ?腎臓が異常をきたすと老廃物がたまるだけではなく、貧血が起こり、骨がもろくなり、血圧も高くなるのはなぜ?これらの深遠な謎を解き生かすには、腎臓のどの部分が何をやっているか、つまり解剖とその機能を知ることが意外と近道になります。CKDの病態が理解でき、薬物投与設計の基本が理解でき、薬剤性腎障害のメカニズムなどが「な~るほど!」と理解できるようになることでしょう。

 参加を希望される方は 申し込みフォーム に記入のうえ、送信してください。

 薬剤師塾への参加者はどなたでも構いませんが、ぜひ学会発表を目指している方に参加していただきたいと思います。そしてその先には原著論文を書き、海外の学会で発表し、英語論文をまとめて博士号を取るんだというような大きな夢を持つ人になっていただきたいと思います。300名まで参加可能ですが、最近の登録者数は200名を超えていますので、早めに登録してください。

 

 

プロフィール

平田純生
平田 純生
Hirata Sumio

趣味は嫁との旅行(都市よりも自然)、映画(泣けるドラマ)、マラソン 、サウナ、ギター
音楽鑑賞(ビートルズ、サイモンとガーファンクル、ジャンゴ・ラインハルト、風、かぐや姫、ナターシャセブン、沢田聖子)
プロ野球観戦(家族みんな広島カープ)。
それと腎臓と薬に夢中です(趣味だと思えば何も辛くなくなります)

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