薬物除去率予測式

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平田・浦田・村上式(HUM式)の予測性

 薬物の特性を以下の特徴的な6つのカテゴリーに分類し、予測式に用いなかった薬物を主に用いてHUM式による予測性を再確認した(図14)。①分子量100Da未満の水溶性物質は極めて除去されやすい、②PBRが低く水溶性の薬物で細胞外液のみに分布する薬物の除去率はとても高い、③水溶性の薬物で細胞外液のみに分布する薬物の除去率はPBRに依存して変化する、④Vdが小さいもののPBRが95%以上の脂溶性薬物は除去されない、⑤分子量が数万Da以上のものおよびPBR 100%の薬物は全く除去されない、⑥Vdが5L/kg以の上脂溶性薬物は除去されない。それぞれのカテゴリーに合致した特徴的な薬物でMW、PBR、fe、Vdの4つのパラメータが既知の薬物を2~3個ずつ、ランダムに示した。実測値と予測値の間にはy=1.009x-2.113でR2=0.924, P<0.0001の有意な正相関が認められた(図15)。

 

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 Kellerら6)の予測式はR2=0.27、平田は定性的にHDで除去されない基準を作成した9)。そして浦田の簡易式の予測性はR2=0.64になり10)、HUM式でR2=0.81に向上し11)、臨床使用可能な高い予測性を示すことができるようになった(図16)。

 

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透析による薬物除去率予測式をどのように活用するか?

 2020年9月に神戸国際会議場で開催された第66回化学療法学会学術大会のハイブリッド形式でのシンポジウムでは「SARS-COV-2感染症でCHDFを施行している患者にはアビガンを多めに投与しているが、どれくらい量を投与したらよいかわからない」ということが話題になったが、HUM式を使用する際に必要なVdが「0.34L/kg未満」となっているが、その値を代入すると透析による除去率は「少なくとも32.5%」と推算され、数日間での透析とCHDFのクリアランスを比べるとクレアチニンに関しては透析で週に3回、1回4時間だが常時行われると仮定すると5~10mL/min、CHDFで13~14mL/minなので、CHDF患者では透析患者よりも多めに投与する必要があることが分かる(図17)。またじほうから販売している「第3版腎機能別薬剤投与量ポケットブック」では透析性が「不明」となっているペメトレキセド(アリムタ注)が、HUM式を用いると透析による除去率が27.95%と算出され、PBR81%にしては無視くらい抜けることが分かる。

 

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引用文献
6) Keller F, Wilms H, Schultze G, Offerman G, Molzahn M: Effect of plasma protein binding, volume of distribution and molecular weight on the fraction of drugs eliminated by hemodialysis. Clin Nephrol 19: 201-205, 1983
9) 平田純生, 和泉 智, 古久保拓, 太田美由希, 藤田みのり, 山川智之: 血液透析による薬物除去率に影響する要因. TDM研究22: 142-1430, 2005
10)  Urata M, Narita Y, Fukunaga M, Kadowaki D, Hirata S: A simple formula for predicting drug removal rates during hemodialysis. Ther Apher Dial 22: 485-493, 2018
11)  Murakami M, Narita Y, Urata M, Ichigi M, Nakatani S, Fukunaga F, Kondo Y, Ishitsuka Y, Irie T, Kadowaki D, Hirata S: Revised Formula for Predicting Hemodialyzability of intravenous and oral drugs. Bllod Purif 9: 1-11, 2021

 

 

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村上らによる透析による新たな薬物除去率予測式の改訂11)

 Urataらによる簡易式は静注製剤のみによって構築されていたため、筆者の指導学生であったMurakami11)はこれに信頼性の高いバイオアベイラビリティのデータの備わった経口薬を含め、これまでに重要と言われてきたPBR、1/Vd、MWに加え、新たなパラメータとしてインタビューフォームの多くで記載されているn-オクタノール/水分配係数(O/W係数)の導入を検討したが、フィット性はUrataの示した3項目が最大であったため、断念した。再びMW、PBR、fe/Vdを用いるUrataの方法を踏襲して、新たな透析除去率の予測式の構築を試みた。これまでの簡易式の問題点として医薬品インタビューフォームに記載されているデータは①透析前後の濃度変化率で示されている可能性があること、②尿細管分泌や尿細管再吸収の寄与する薬物はfeの精度が低くなる可能性がある、といった問題点があることに着目した。

 インタビューフォームには薬物の透析性について透析前後の血中濃度変化率を「透析による除去率」として記載されているものがあるが、「薬物の透析性」とは透析前後の血漿薬物濃度変化率ではなく、体内から薬物がどれだけ除去されたかを示す値である(図10)。透析終了直後から数分から1~2時間後にはすべての薬物でリバウンド現象が起こるため、濃度変化率では過大評価されてしまう(図11)。我々はこれらの問題点を考慮し、尿細管分泌や尿細管再吸収の寄与する薬物、および透析による除去率であれば越えるはずのない限界値、maximum dialysis rate by hemodialysis (MDR)を超えているため、濃度変化率と思われるデータを除外した。

 

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 ここで初めて用いたMDRの概念は日本透析医学会の統計調査における透析患者の平均体重54.9kg、2015年版慢性腎臓病患者における腎性貧血治療のガイドラインを参考としてヘマトクリット値30%の患者についてリバウンド現象を考慮して、日本の標準透析条件 (QB = 200mL/min、QD = 500mL/min、週3回で1回4時間) で施行されたときに遊離型薬物の最大値、つまり、透析による除去率であれば越えるはずのない限界値、MDRを式(2)によりそれぞれの薬物について算出し、これらを超える薬物は血漿濃度変化率であるか、透析後のリバウンドが考慮されていない薬物として除外したのである。

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 さらに我々はO/W係数を用いても予測性が向上しなかったことから、やむなくUrataの方法と同じ親水性を表すパラメータとしてfeを用いたのだが、feは糸球体濾過のみによって排泄される薬物の予測性には問題ないものの、尿細管分泌される薬物や再吸収される薬物は糸球体濾過量を反映しないことに着目した。つまり脂溶性の薬物で、通常は腎排泄されない薬物であっても尿細管分泌されるようなプラミペキソールやフロセミドのような薬物や、親水性であってもフルコナゾールのように尿細管で再吸収される薬物のfeは80%と高いものの、再吸収されるため腎CLは極めて小さいので、正確な親水性のパラメータになりえず、透析性が極めて高い(図12)。この理論に基づき、医薬品インタビューフォームあるいは文献上で尿細管分泌や尿細管再吸収の寄与することが明らかな薬物、つまり尿細管トランスポータの基質になる薬物も除外した。

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 まず浦田の方法と同様に訓練データを用いて透析による薬物除去率(実測値)を目的変数、様々な薬物動態パラメータ・物理科学的データを説明変数として、ステップワイズ法による重回帰分析を行い、最終的にlogMW、PBR、fe/Vdが透析による薬物除去率と独立して相関しており、Urataらの簡易式(rs = 0.75)に比し、より高い相関性を示した(R=0.911、P=2.2e-16)、作成した予測式は以下の通りとなった(平田・浦田・村上式: Hirata, Urata, and Murakami formula: HUM式)。

透析による薬物除去率(%)=
-17.32×[logMW(Da)]-0.39×[PBR(%)]+0.06×[fe(%)/Vd(L/kg)]+83.34    (3)

 テストデータを用いて予測値と臨床報告値の相関性の検定を行ったところ、高い相関性を示した (R=0.93, P=1.87e-6) 。また、ME、MAE、RMSEはそれぞれ-3.34(95%CI: -10.03, 3.35)、9.59、16.48であった(図13)。

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引用文献
11) Murakami M, Narita Y, Urata M, Ichigi M, Nakatani S, Fukunaga F, Kondo Y, Ishitsuka Y, Irie T, Kadowaki D, Hirata S: Revised Formula for Predicting Hemodialyzability of intravenous and oral drugs. Bllod Purif 9: 1-11, 2021

 


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浦田基樹らによる透析による薬物除去率を予測する簡易式の構築10)

 2018年当時、筆者の属する熊本大学生命科学研究部大学院博士課程に在籍していたUrataら10)は成人の透析による除去率ならびに、全ての薬物動態パラメータが抽出された90品目の注射薬を対象として薬物の透析性の予測式作成を試みた。Spearmanの順位相関係数の検定より透析による除去率と有意な相関を示すパラメータは、尿中未変化体排泄率fe(rs = 0.67)、PBR(rs = −0.53)、Vd(rs = −0.32)、1/Vd(rs = 0.32)、(100−PBR)/Vd(rs = 0.61)、fe/Vd(rs = 0.68)、fe*(100−PBR)/Vd(rs = 0.78)、fe *(100−PBR)/ (Vd*logMW) (rs = 0.79)であった。ベイズ情報量基準(BIC)を用いたステップワイズ法による重回帰分析の結果、BICを最小とするパラメータは、logMW(B=−18.87)、PBR(B=-0.40)、fe/Vd(B=0.05)の3項目であったので(表2)、回帰式としてこの3項目のパラメータを用いることを採用し、透析による薬物除去率を予測する以下の簡易回帰式が作成された(図9)。ここで特筆すべきはfe/Vdの採用である。前述したとおりVdが大きければいかなる血液浄化法でも除去不能であるが、Vdが小さいと除去可能かというとそうではない。例えばワルファリンは脂溶性薬物であり、PBRが99%以上と極めて高い。そのためアルブミンにトラップされて血管外に出ていけないのでVdは0.15L/kgと小さい。Vdは小さいものの、PBRが極めて高いため、透析クリアランスは血流量200mL/minの場合、透析クリアランスは2mL/minにもならない低値であり、当然、血液透析では全く除去できない。Vdを補正する何らかの親水性・疎水性を表すパラメータで修飾する必要があったが、Urataはfeを選び、fe/Vdを採用したところが、素晴らしいアイデアであったと思える。Urataの作成した式は以下のとおりである。

透析による薬物除去率(%) =
-18.87×logMW(Da)−0.40×PBR(%)+0.05*fe(%)/Vd(L/kg)+90.78 ―(1)

 

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 簡易回帰式より導いた予測値とインタビューフォーム値は有意な正相関(rs = 0.75)を示した。Mean prediction error (ME)、mean absolute prediction error (MAE)、root mean squared error(RMSE)はそれぞれ0.59(95%CI: −5.10, 6.28)、8.29(95%CI: 4.66, 11.93)、7.07であった。この薬物除去率予測式は当時としては世界で最高の精度であった。というよりもこのような試みはほとんど検討されていなかったのが事実だが、R2=0.64では、簡易式の域を出ることができず、臨床に用いるにはもう少し高い精度のものが必要と思われた。

 

引用文献
10) Urata M, Narita Y, Fukunaga M, Kadowaki D, Hirata S: A simple formula for predicting drug removal rates during hemodialysis. Ther Apher Dial 22: 485-493, 2018

 


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血液透析で除去されにくい薬物

 1997年に筆者は血液透析で除去されにくい薬物の共通点はPBRの高い薬物、脂溶性の高い薬物、腎排泄性の低い薬物、Vdが大きい薬物、分子量の大きい薬物であると推測した7)。さらに2004年に筆者は血液透析による除去率とVdの関係は図4に示すように双曲線を描くため8)、直線回帰では1/Vdの方が相関性は高くなるというKellerら6)の報告を確認した。そのうえで、①PBR>90%以上の薬物は血液透析によって除去されない(図5)、②Vd>2.0L/kgの薬物は除去されにくい(図6)、③PBR>80%かつVd>1.0L/kgの薬物は除去されにくい(図7)ことを明らかにした9)

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 重回帰分析を行うとPBR、1/Vdは薬物の透析性に関与する有意な因子になったが、分子量は有意な因子ではなかった(表18)。分子量と除去率の間に相関性は認められなかったものの(図8)、分子量の大きい薬物(MW>2,000)は除去されにくく、アルブミン以上の分子量の薬物(MW>60,000)は全く除去されないことは予測できた。これらの取り組みによって透析によって抜けるか抜けないかを定性的に示すことはできるようになったが、透析による薬物除去率が何%で、透析後に薬物をどれだけ追加すべきかを推算する式、つまり定量的に推算できる薬物除去率推算式については、その後の浦田基樹博士、村上鞠奈氏の貢献が大きい。

 

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引用文献
6) Keller F, Wilms H, Schultze G, Offerman G, Molzahn M: Effect of plasma protein binding, volume of distribution and molecular weight on the fraction of drugs eliminated by hemodialysis. Clin Nephrol 19: 201-205, 1983
7) 平田純生, 金 昌雄, 上野和行, 田中一彦: 薬物の透析性. TDM研究 14: 277-287, 1997
8) 平田純生, 和泉 智, 古久保拓, 太田美由希, 藤田みのり, 山川智之: 血液透析による薬物除去率に影響する要因. 透析会誌37: 1893-1900, 2004
9) 平田純生, 和泉 智, 古久保拓, 太田美由希, 藤田みのり, 山川智之: 血液透析による薬物除去率に影響する要因. TDM研究22: 142-1430, 2005

 


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薬物の透析性
 透析で除去されやすい薬は透析後に補充投与しないと効かなくなる。例えばアミノグリコシド系の抗菌薬は細胞外液のみに分布し、アルブミンなどの蛋白質にほとんど結合しないため、透析で半分以上が除去されてしまう。当然、濃度依存性の抗菌作用を示すこの抗菌薬の殺菌力は期待できなくなってしまうであろう。βラクタム系抗菌薬も細胞外液のみに分布するが、蛋白結合率(PBR)は薬によってさまざまだ。汎用されているカルバペネム系抗菌薬のメロペネムのPBRはほぼ5%足らずで、ほぼアミノグリコシド系と同様、半分以上は透析で抜ける。ただし第3世代セフェムのセフトリアキソンやセフォペラゾンのPBRは90%なので、ほぼ除去できないので透析後の追加投与は必要ない。グリコペプチド系のテイコプラニンのPBRは90%と高いだけではなく、分子量が1,564~1,894Da(6種の薬物の混合物である)と大きいため、主に拡散の原理によって生体内物質を除去する血液透析では全く除去できない。

 薬物の透析性予測式なんて、必要ないと思っている方もいるかもしれないが、体中から抜けた薬物を抜けた分だけ補充する必要があるとすれば、「抜けやすい」「抜けにくい」だけではなく明確に何%抜けるという精度の高い予測式があれば、それは有用なものになるであろう。たとえば抗がん薬を透析患者に投与された報告は極めて乏しい。投与量も論文によって実にさまざまだ。そして透析による除去について体系的に言及した論文はさらに少ない、というかほとんどない。抗がん薬の場合、効きすぎれば、当然、有害反応が起こるであろうし、効かなければがんの悪化によって生死を分けるかもしれないのに、透析によってどれくらい除去されるかどうかについて分かっているものは、シスプラチンなど特殊な抗がん薬を除いてほとんどない。

 米国では麻薬の濫用が大きな問題になっており、オピオイドの透析性についてはかなり探求されている。横紋筋融解症やQT延長といった重篤な副作用の多いメサドンに関しては、PBRが89.4%で分布容積(Vd)が1~8L/kgであることから、動態的に見て透析では抜けないことは明らかである(後述)。透析で抜けないという報告が古くからすでに複数あり1)2)、最近の報告ではメサドンの1日投与量の2.3%(範囲、1,25-3,70%)であったという報告3)や古い報告でも1%しか抜けないという報告4)があるにもかかわらず、メサドン専用の透析性の予測式を作ったという報告もあるが5)、ほとんど臨床的な価値はないと思う。

 ある種の薬物の透析性は論文になりやすいのだ。例えばAという新薬の透析性については検討がされていなければ、動態的には除去されないことが分かり切っていたとしても、医師が査読をすると「新規性がある」とみなされ、容易にアクセプトされる。そしてCHDならまたノイエス、CHDFの報告は初だからノイエス、CHFでもノイエス、CVVHDFでもノイエスとみなされアクセプトされる。もっとひどい文献だと、知りうる限り最大の分布容積の薬物「アミオダロンによる透析性」についての英語論文の査読を依頼されたことがあるが、本来、筆者は教育的な配慮からrejectしない方針であるが、さすがにこれは「透析で全く除去されないことは動態的に明らかなことなのに、数名の透析患者で頻回採血を行って透析性を調べた」ことは倫理的に間違っているということですぐさまrejectしたことがある。このように薬物個々の報告、様々な血液浄化法での報告もまた、あまたとあるが、このような報告を待たなくても、あるいは文献を検索しなくても、1つの予測性の高い式ができれば、有用なことは間違いないのだが、これに関する報告は極めて少ないのが現実なのだ。

 
薬物の透析性に関わる因子
 1983年にKellerらがPBR, 分布容積の逆数(1/Vd), 分子量を基に薬物の透析性の予測式を作成したが、R2=0.27と低く、臨床では全く使えないものであった6)。ただしこの報告により薬物の透析性に関わる因子はPBRと分子量以外にも、Vdが重要であることが明らかにされた。

 Vdは薬物の組織移行性を表す指標で、前述のようにアミノグリコシド系の抗菌薬やβラクタム系抗菌薬は親水性であるため細胞膜の脂質二重層を通過できないので細胞外液のみに分布する。細胞外液が体重の20%であるためこれらの薬物のVdは0.2~0.3L/kg(重症感染症では炎症によってアルブミンが間質液に漏出するため0.3L/kg近くになる)となるが、PBRが90%のセフォペラゾン、セフトリアキソンはアルブミンにトラップされているため、間質液内濃度は血清濃度の1/10になるので、Vdは0.2L/kg以下になる(図1)。20211117_1.png

 尿素や炭酸リチウムは分子量が100Da以下の水溶性物質であるため、脂質二重層の細孔を自由に行き来できるため(図2)、細胞内液・細胞外液に均等に分布する。そのためこれらのVdは体内水分量に等しい0.6L/kgになる。

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では強心配糖体のジゴキシンはどうだろうか?ジゴキシンはNa+-K+-ATPase阻害薬であるためこの酵素が多く存在する心筋や骨格筋に高濃度で分布し、心筋では血清濃度の30~70倍、骨格筋には10~20倍の高濃度で分布するため、血清濃度は相対的に低くなる。Vd=体内薬物量/血清濃度で表されるため、ジゴキシンのVdは4~8L/kgと高い。血清及び間質液、つまり細胞外液を中心に浄化している血液透析だが、ジゴキシンは体内総量の4%しか細胞外液には存在しない(図3)。また組織から細胞外液へのジゴキシンの移行速度が透析による除去速度に比し極めて遅いため、Vdの大きいジゴキシンは透析では除去不可能だ。PBRが高くても活性炭による血液吸着や血漿交換によって除去可能であるが、Vdが大きい薬物は透析だけでなく、いかなる血液浄化法によっても除去されにくいのである。20211117_3.png

 

引用文献
1)Furlan V, et al: Methadone is poorly removed by haemodialysis. Nephrol Dial Transplant 14: 254-255, 1999
2)Perlman R, et al: Intradialytic clearance of opioids: methadone versus hydromorphone. Pain 154: 2794-2800, 2013
3)Opdal MS, et al: Effects of Hemodialysis on Methadone Pharmacokinetics and QTc. Clin Ther 37: 1594-1599, 2015
4)Kreek MJ, et al:  Methadone use in patients with chronic renal disease. Drug Alcohol Depend 5: 197-205, 1980
5)Linares OA, et al: In silico ordinary differential equation/partial differential equation hemodialysis model estimates methadone removal during dialysis. Daly AL. J Pain Res 8: 417-429, 2015
6)Keller F, Wilms H, Schultze G, Offerman G, Molzahn M: Effect of plasma protein binding, volume of distribution and molecular weight on the fraction of drugs eliminated by hemodialysis. Clin Nephrol 19: 201-205, 1983

 

 


プロフィール

平田純生
平田 純生
Hirata Sumio

趣味は嫁との旅行(都市よりも自然)、映画(泣けるドラマ)、マラソン 、サウナ、ギター
音楽鑑賞(ビートルズ、サイモンとガーファンクル、ジャンゴ・ラインハルト、風、かぐや姫、ナターシャセブン、沢田聖子)
プロ野球観戦(家族みんな広島カープ)。
それと腎臓と薬に夢中です(趣味だと思えば何も辛くなくなります)

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