2023年6月

『腎臓病教室 ~検査値と腎機能~』のテキスト(PDF)ダウンロードができます。

この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます


『腎臓病教室 ~検査値と腎機能~』の目次です。

1日目:腎臓がやっている仕事

2日目:腎臓がやっている仕事の限界を知ろう

3日目:CKDの基準となる検査値は何? 薬の投与量を決めるための腎機能は何?

4日目:CKDの問題点について知ろう 日本と米国ではCKDの問題点が異なる

5日目:透析患者Aさんの検査値
    腎機能が低下すると起こる検査値異常や症状(1)

6日目:腎機能が低下すると起こる検査値異常や症状(2)

7日目:腎機能が低下すると起こる検査値異常や症状(3)

8日目:腎機能が低下すると起こる検査値異常や症状(4)

9日目:腎機能が低下すると起こる検査値異常や症状(5)

10日目:腎機能が低下すると起こる検査値異常や症状(6)

11日目:腎機能が低下すると起こる検査値異常や症状(7)

12日目:国立大学病院の検査データ13項目を薬物療法にどう生かすか

13日目:クレアチニンを科学する

14日目:クレアチニンの動態

15日目:クレアチニン測定法~Jaffe法と酵素法の違い~

16日目:クレアチニン測定法がJaffe法からIDMS法に準じた方法になるとともに
    eGFR推算式も変化していった米国

17日目:米国では薬剤投与量・腎機能の推算にCG式を使うなと指示

18日目:ラウンドアップ法を誤解していないかい?

19日目:添付文書の腎機能別用量の表記が標準化eGFRだったときの対処

20日目:腎機能検査指標を整理してみよう(最終回)

腎臓病教室 ~検査値と腎機能~
20日目 腎機能検査指標を整理してみよう


 2023年6月に改訂された「エビデンスに基づいたCKD診療ガイドライン2023」ではeGFRと言っても日本腎臓学会(JSN)の作成した日本人向けのeGFRなのか米国のCKD-EPI式によって算出されたeGFRか迷うことがあるため、血清Crに基づいた日本人向けeFGRは今後、JSN eGFRcrとし、血清シスタチンCに基づいた日本人向けeGFRは今後、JSN eGFRcysと称することになった。

腎機能評価の指標
イヌリンクリアランス(糸球体濾過量GFR) 男90~120mL/min, 女80~110mL/min
  この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます

腎臓病教室 ~検査値と腎機能~
19日目 添付文書の腎機能別用量の表記が標準化eGFR (mL/min/1.73m2)だったときの対処


 2023年の4月、5月の基礎から学ぶ薬剤師塾のテーマは「腎機能をしっかり見れる薬剤師を目指そう」であり、2回目の塾開催前にアンケートを取らせていただいた。「2. 添付文書に標準化eGFR(mL/min/1.73㎡)による腎機能別薬物用量が記載されているとき、どの腎機能を用いていましたか?」という問いに対して、参加者235名の薬剤師の54%が標準化eGFR(mL/min/1.73㎡)を使うと答え、個別eGFR(mL/min)を使うと答えた薬剤師28%を大きく上回った(図1)。 この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます

腎臓病教室 ~検査値と腎機能~
18日目 ラウンドアップ法を誤解していないかい?



ラウンドアップ法を用いると(腎機能の)予測精度が向上する?
 ある成書に「ラウンドアップ(round up)法を用いると(腎機能の)予測精度が向上するが、血清Cr値を一定値に切り上げることは科学的ではない」と書かれてあった。後半の「血清Cr値を一定値に切り上げることは科学的ではない」はまさにその通りで問題ないが、「round up法を用いると(腎機能の)予測精度が向上する」という表現を看過するわけにはいかない。また薬剤師と話していると「代入するCr値に0.6mg/dLを用いた方がシミュレーション結果と実測値がよく相関する」と言う方がいる。これも完全な誤解なのだ。 この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます

腎臓病教室 ~検査値と腎機能~
17日目 米国では薬剤投与量・腎機能の推算にCG式を使うなと指示


 

 2011年(細かいことを言うと2010年12月31日)以降から、血清Cr値の標準化(IDMS traceable)が行われた。それとともに米国の治験ではeGFRが使用されるようになったのだと思う。おそらく平田の推測では、肥満患者が非常に多い米国では過大評価の著明な推算CCrは役に立たなくなったと判断したのだろう。推算CCrはIDMSに準じた測定法に適するように改定されることはなく、ほぼ捨てられたのも同然のような扱いになったと思われる。米国腎臓財団(NKF: National kidney foundation)のGFR calculatorのサイトでは(図11)、CKD-EPICr式、CKD-EPICr-CysC式、CKD-EPICysC式のみが載っており、「Cockcroft-Gault formula (use for drug research only)となっている。 この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます

腎臓病教室 ~検査値と腎機能~
16日目 クレアチニン測定法がJaffe法からIDMS法に準じた方法になるとともにeGFR推算式も変化していった米国


 

米国の腎機能評価の歴史はどのようになっているのだろうか、調べてみよう。

まず1976年にCockcroft and Gault式が18~92歳の男性249人のデータを用いて開発された。
推算CCr= [Weight (kg) × (140 – age) / (72 × SCr)] ×0.85 (if female)

1990年代に血清シスタチンC の測定が可能になった。

1999年にJaffe法による血清Cr値、年齢、性別、アルブミン、人種を基にしたMDRD式によるeGFR推算式 この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます

腎臓病教室 ~検査値と腎機能~
15日目 クレアチニン測定法~Jaffe法と酵素法の違い~



Jaffe法の様々な問題点

 Jaffe法はクレアチニン(Cr)にピクリン酸を加えると赤色を呈するので、生成したピクリン酸-クレアチニンを比色計を用いて490nmで比色定量する血清Cr測定法だ。Jaffe法ではアスコルビン酸やピルビン酸などのCr以外のカルボニル基を持った物質によるnon-creatinine chromogen(NCC)とも反応してしまうので、Jaffe法では血清Crは酵素法に比し0.2mg/dL高く測定される(図1)。逆に酵素法ではビリルビンなどの還元物質により負の誤差を生むことが知られている。 この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます

第 26回 基礎から学ぶ薬剤師塾 Q&A
CKD患者の血圧・血糖管理~クリニカルイナーシャに陥るな!~

 


 

2023年6月3日(土)アンケートによる質問

手束病院 楠本倫子先生

Q.前回の勉強会でシスタチンCの話題が出てきましたが、初めてDr.にシスタチンCの測定を依頼する時に、その理由を短い時間で示すにはどの資料や説明がわかりやすいでしょうか?まだ測定依頼を始めたばかりなので、きちんと説明出来ている自信がありません。何かヒントがあれば、ご教授お願いいたします。

A.僕たちの経験を示しましょう。図1に寝たきり患者さんの血清クレアチニン値によるeGFRは赤丸でしまします。5人とも実測値(実測クレアチニンクリアランス×0.715でeGFRに近似します)と比べるとeGFRcrはすごく高い腎機能に見えますが、筋肉量が少ないだけなのです。この腎機能によって腎排泄型薬物を常用量投与したら、おそらく重篤な中毒性副作用を起こしてしまうでしょう。図2では赤丸の寝たきり患者でもシスタチンCによるeGFRと実測値はほぼY=Xの線上に乗って乖離がなくなりました。つまりシスタチンCの測定によって正確な腎機能が把握できるたのです。

 

 

 

 「シスタチンCは3か月に1回しか測定できない、測定が外注、測定費が高価、医師も薬剤師もシスタチンCについて詳しく知らない」という実態は、薬剤師がほとんど測定依頼をしていないから、医師も何の検査かご存じない、測定機会が少ないままだから、3か月に1回の頻度が改善することもなく、測定費用は高いまま、測定が外注になっているのです。測定機会を増やしていけば、毎月、いや何回でも安く、病院内で迅速に測定できるようになるはずだと平田は考えます。


金沢医科大学病院 山崎幸恵先生

Q.腎不全でも心不全治療薬(β遮断薬、SGLT2阻害薬、利尿薬など)は止めるべきではないという認識であっているのでしょうか。

A.心不全治療薬はFantastic Fourと言って、「β遮断薬+RAS阻害薬をARNI(サクビトリルバルサルタン)に変更+MRA+SGLT2阻害薬」+呼吸困難などの溢水の症状があれば自覚症状の改善のためのループ利尿薬の治療がメインになりつつあります。心不全で使うβ遮断薬はビソプロロールは腎機能に応じた減量が必要ですが、腎機能が低下しても止める必要はないです。SGLT2阻害薬も添付文書上は「高度腎機能障害患者又は透析中の末期腎不全患者では本剤の効果が期待できないため、投与しないこと」となっていますが、透析導入になるまでは使っていいと思います。ただしMRAは腎機能低下あるいは高カリウム血症になれば投与できません。一番緩いフィネレノンに関しては末期腎不全(eGFR<15mL/min/1.73m2)や血清カリウム濃度が5.5mEq/Lを超えた患者には投与できないことにはなっていますが、問題なければ医師との協議のうえ、使うこともできるかもしれません。

 RAS阻害薬は透析導入後は心不全リスクが増しますので、降圧薬の中では透析導入になっても使い続けたい薬だと思います。利尿薬は腎不全(eGFR<30mL/min/1.73m2とさせていただきます)ではループ利尿薬が中心になると思いますが、透析導入後も使えなくはないです。ARNIはサクビトリラートの血中濃度は上昇しますが、透析患者でも一応、禁忌にはなっていません。透析患者ではARBは効いたとしても、Na利尿ペプチドの作用がどれだけ期待できるのかについてはよくわからないと思っておりましたが、先日、参加した日本腎臓学会では、他院の循環器医が心不全治療のために透析患者にARNIを投与するとSBPが40mmHgも下がり、透析中の過降圧も見られなかった。心駆出率も改善したという症例を聞きました。あくまで1症例ではありますが…。


日本調剤 中島鉄博先生

Q.NSAIDs, RAS-I, 利尿薬のうち、組み合わせの順番を比較した報告で、1st NSAIDs,2nd RAS-IだけNSAIDsとの組み合わせでリスクが低く、この順番による差異はなぜでしょうか。

 もう一つ、Schmidtの報告を心腎連関で考えますと、SGLT2阻害薬などについても場合によってはリスクとなり得ますか。また、臨床的にCr上昇を抑えられるような、RAS-Iの使い方、患者背景への介入などはありますか。

A.順番による差異がなぜ起こったかという理由まではこの報告の結果だけからは判断できかねます。

 2番目の質問ではSGLT2阻害薬がメタ解析で急性腎障害の発症を抑制している結果は出ているものの、SGLT2阻害薬も投与初期には利尿作用が強く表れますし、ループ利尿薬と利尿作用においては相乗作用を示すことも報告されていますので、投与初期には脱水から腎機能悪化を起こす可能性はあると考えて、服薬指導に生かすべきだと思います。

 RAS-Iはアルブミン尿、蛋白尿の陽性の患者を対象に投与すれば多くの報告で腎機能悪化を抑制できています。逆に蛋白尿(-)では腎保護作用のエビデンスはなく、高齢者では腎虚血による腎機能悪化リスクが高くなる可能性があるので、定期的な腎機能のモニタリングをしながら使用すべきでしょう。腎機能悪化リスクの高い、特に後期高齢症例の降圧療法にはCCBを中心に治療するのが一番無難だと個人的には思っています。

腎臓病教室 ~検査値と腎機能~
14日目 クレアチニンの動態



クレアチニンの動態~分布容積は?消失半減期は?~

 本ブログの5日目にも記載したように、尿素は分子量60Daで分子量100Da以下の水溶性物質なので細胞膜を自由に行き来できるが分子量180Daのブドウ糖はGLUT4というトランスポータによって細胞内に入ることはできるが、尿素のように細胞内外濃度が瞬時平衡にはならないので有効浸透圧物質になる。だから高血糖の糖尿病患者は口渇(それにともない多飲・多尿)になるが、高尿素血症になった非糖尿病CKD患者は血清浸透圧は高いのに口渇を起こさない。それは尿素が有効浸透圧物質にならないからだ。

 じゃあ薬剤師の諸君、クレアチニン(Cr)の動態は知ってる? Crのクリアランスの正常値が120~130mL/minで、おそらく尿中排泄率が100%でアルブミンなどの血漿蛋白質と結合しないということは分かっているだろうが、Crの分布容積はどれくらいだろう?実は平田もCrのVdが0.2L/kgが0.6L/kgのどちらなのだろうかと迷っていた。分子量は113Daなので尿素よりも大きいが、ブドウ糖よりも小さいから細胞内に入れるかどうかがよくわからなかったのだ。

 腎機能正常者であれば1日1gのCrを産生し、1日1gのCrを排泄して定常状態になっている。その時のCCrは125mL/minだから、もしもCrが細胞外液のみに分布するのであれば体重50kgの人だと この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます

プロフィール

平田純生
平田 純生
Hirata Sumio

趣味は嫁との旅行(都市よりも自然)、映画(泣けるドラマ)、マラソン 、サウナ、ギター
音楽鑑賞(ビートルズ、サイモンとガーファンクル、ジャンゴ・ラインハルト、風、かぐや姫、ナターシャセブン、沢田聖子)
プロ野球観戦(家族みんな広島カープ)。
それと腎臓と薬に夢中です(趣味だと思えば何も辛くなくなります)

月別アーカイブ