腎臓病教室 ~検査値と腎機能~
1日目 腎臓がやっている仕事


1.腎臓はどんな仕事をしているの?

 時々、ラーメンが無性に食べたくなることがある。ほぼ毎日ラーメンを食べる人もいるかもしれないが、健康な人であれば、こんなにたくさんの塩の入ったスープを全部飲んでも高ナトリウム血症になったり、むくんだりしない。日本人のほぼ半分はお酒を飲むと赤くなり、血中アセトアルデヒド濃度が高くなって頭痛や吐き気がしてあまりたくさんのお酒を飲めない。平田もビールは大好きだが顔が赤くなる弱いタイプなので、たくさんは飲めないのだ。これはALDH2の働きが弱い、またはその酵素がないので、採血時のアルコール消毒でも皮膚が赤くなる人などはビールを小さなグラス1杯でも飲めない。小柄な女性でもALDH2の働きが十分あれば、大ジョッキのビール3倍飲んでも平気な人がいる。こんなに飲んでも健康であれば浮腫になることはない。また夏暑いときに大きな西瓜を半分食べたとしても、健康であれば高カリウム血症になることはない。塩の全く摂れない山中で遭難しても、水さえ飲むことができれば通常体型の健常成人は1~2か月は死ぬことはない。

 ここで何度も「健康な人であれば」と念を押したのは腎機能が廃絶した人であれば、ラーメンスープを全部飲めば溢水、高ナトリウム血症になるし血圧も上がる。ビールをたくさん飲めば浮腫になり低ナトリウム血症になる。西瓜をたくさん食べれば高カリウム血症によって不整脈を起こして突然死してしまうであろうし、山中で遭難すれば、いくら水があっても尿毒症で死亡してしまう。では腎臓は具体的にどんな仕事をしているのだろう?


2.腎臓は“体液の恒常性(Homeostasis)維持”を司る臓器

水・塩分・電解質などの摂取量(in)は毎日、大きく変動しうるが、腎臓が尿の組成を変化させることによって(out)、体液量,体液の組成をほぼ一定で、狭い正常範囲に調節されている。
 ① 老廃物・薬物の排泄
 ② 体内水分を一定に保つ
 ③ 体液電解質濃度を正常に保つ
 ④ 血液のpHを7.4に保つ(酸塩基平衡の調節)
これらに加えて以下の3つのホルモン作用も腎臓が関わっているので、覚えておこう。
 ⑤ 尿細管間質における造血ホルモン(エリスロポエチン)の産生 
 ⑥ ビタミンDの活性化 
 ⑦レニン分泌
ではどうやって①~④の「体液の恒常性を保つ」仕事をし、何のために一見、腎臓とは無関係な⑤~⑦の仕事をしているのであろうか?深掘りしてみよう!


3.糸球体のやっている仕事~腎機能は糸球体濾過量で表す~

 左心室内腔から拍出される血液は1回に80mLで、心拍数は60回/分だとすると、80mL×60回で心拍出量はほぼ5L/minと考えられる。その心拍出量のなんと20%もの大量の血液である1.0L/分(60分で60Lだから24時間でほぼ1500L/日)が1個120~130g程度で2個併せても体重の0.5%に過ぎない「小さな腎臓」に流れている。いうまでもなく腎臓は、大量の血液をろ過する必要があるためなのだ。

 腎動脈から分かれてきた輸入細動脈から入った血液1,500L/日は糸球体を通る間に50~60mmHgの高い糸球体内圧によって150L/日の原尿を産生し、ボウマン嚢から尿細管に原尿が流れてゆく。原尿産生速度は言い換えれば正常値が100mL/minの糸球体濾過速度(GFR: Glomerular Filtration Rate、つまり腎機能)を表す。イヌリンは100%糸球体濾過され、濾過された量が尿中排泄された量と等しい(つまり尿細管で再吸収も分泌されない)ため、GFRのゴールドスタンダードとされる。

 そして薬剤師や医師は腎機能GFRが分からないと、腎排泄性薬物をどの程度減量すべきかが分からない、つまり腎機能低下患者や高齢者で容易に中毒性副作用が起こってしまうので、非常に重要で頼りになる検査値になる。

 でも1.5Lの尿を作るのに150Lの原尿を濾過してからまた再吸収なんて無駄な仕事って思っていない?

 「腎は尿を作る臓器」だろうか?間違ってはいないが不正確だ。「腎は老廃物や薬物などの不要なものを排泄し、身体にとって必要な栄養素はできる限り再吸収して、体液の恒常性を保つ臓器」が正解としたいと思う。「不要なもの、余剰なもののみの含まれた尿を作るという手段」によって「体液の恒常性を厳密に保つ」目的のために働いている臓器が腎臓といえる。150Lの原尿から1.5Lの尿を作るため、通常の水・Naの再吸収率は99%だけど濾過・再吸収という2段階の仕事をしているため再吸収率を1%から2%にするだけで1.5Lの尿を3Lにすることができるし、0.5%にすることで750mLにすることができる。だから腎機能の良い人はビールを大ジョッキ2杯(1.5L)飲んでも浮腫にならないし、水がなくても脱水で即死することはないが、これは健康な腎臓を持っているおかげなのだ。これは最初の原尿産生量が150Lという大量だから、余裕にできる芸当なのだ。もしも健康な人の原尿産生量、つまりGFRが150L/日から100L/日に減少するだけで、GFRは69mL/minと計算される。ということは少し悪化しただけで60mL/min未満になればCKDになってしまう。すなわち、150L/日(GFR100mL/min)という十分な余力がないと、速やかにCKDになり、ヒトの死亡率トップはがんや心臓病ではなく、猫のように腎不全がトップの死因になってしまうかもしれない。だから1.5Lの尿を作るのに150Lの原尿を濾過していることは全く無駄な仕事ではないのだ。

プロフィール

平田純生
平田 純生
Hirata Sumio

趣味は嫁との旅行(都市よりも自然)、映画(泣けるドラマ)、マラソン 、サウナ、ギター
音楽鑑賞(ビートルズ、サイモンとガーファンクル、ジャンゴ・ラインハルト、風、かぐや姫、ナターシャセブン、沢田聖子)
プロ野球観戦(家族みんな広島カープ)。
それと腎臓と薬に夢中です(趣味だと思えば何も辛くなくなります)

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