透析導入が必要な患者さんはこれから透析が必要と聞くとかなり落ち込む。ある患者さんから聞いたんだけど、医師Aから「週3回1回4時間、実質的には週3回何もできなくなる、穿刺、透析中の低血圧、不均衡症候群、貧血、シャント感染、骨がもろくなる、心不全、カリウム制限、リン制限、水分制限」と言われて死にたくなったそうだ。でもB先生からは「現在ある尿毒症症状、つまり全身倦怠感や食欲不振がなくなって、食事制限・水分制限も楽になるんだ。果物だって食べ過ぎは良くないけど少量ずつなら食べていいんだよ。しかも透析をやっている同じ境遇の友人がたくさんできる。透析って悪くないぞ!」と言われて随分気持ちが楽になったそうだ。確かに導入前と比べて透析すると尿毒素が抜けて、尿毒症症状が軽減し、食欲不振、全身倦怠感もなくなり、食事制限も水分制限も導入前と比べると随分楽になるのは本当のことだ。ただし実感としては腎炎や高血圧の方は透析をすると元気になるけど、その当時は糖尿病の方はすでに合併症が多くてなかなか思い通りにならないことも多かった。だけど僕もB先生の話し方を服薬指導に生かしていた。そうすると本当に透析導入後、「平田さん、あんたの言うように透析して本当に活気が出てきたよ」という患者さんがいるんだ。すべてじゃないけどね。患者さんを落ち込ませるだけの暗い服薬指導はやめよう!
2019年の日本の高血圧ガイドラインは高血圧の定義は140/90mmHg未満(診察室血圧で収縮期140mmHg未満かつ拡張期90mmHg未満で、それよりも重要な家庭血圧は135/85mmHg未満)だが、実質上ほとんどの降圧目標血圧は130/80未満になったのだ。この中で例外的に140/90でよかったのが脳血管障害患者(両側頸動脈狭窄や脳主幹動脈閉塞あり、または未評価)、CKD患者(蛋白尿陰性)、後期高齢者だけに過ぎなかった。しかしこれらは今回の高血圧管理・治療ガイドライン2025では診断の基準値は140/90mmHgでこれまでと変わっていないが、治療の降圧目標がすべての患者で130/80と厳しくなった(図1)。すべての高血圧患者(75歳以上であっても)に対し一律の降圧目標「130/80mmHg未満」としたが、高血圧の基準値は「診察室血圧140/90mmHg以上、家庭血圧135/85mmHg以上」で据え置きとなった。基準値と降圧目標が違うので、ややこしいが、基準値は高血圧と診断される値(140/90mmHg以上)のことで、降圧目標は血圧値をどこまで下げるかという目指すべき値(今回のガイドラインでは患者背景を問わず一律130/80mmHg未満になった)のことだ。降圧目標が一律130/80mmHg未満になったのはわかりやすくするためかもしれない。

また新ガイドラインでは新たに降圧薬が、使い方や特徴によってG1~3の3つに分類された(表1)。G1は降圧治療開始時から使用する主要降圧薬で、長時間作用型ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬、RAS阻害薬、少量のサイアザイド系利尿薬、β遮断薬の4種。JSH2014からβ遮断薬は心血管イベント発症抑制効果が他の第1選択に比べると弱かった、低血糖症状を隠蔽するなどのため外されたが(図2)、2025では特に心不全での有用性が期待できる病態で、あまり使用されていない実態があるので復活したらしい。そして降圧利用の3ステップの2ステップ目、つまりG2降圧薬にARNIとMRAが加わった。


要約すると診断基準は140/90で変わらないが、
(1)患者背景を問わず、降圧目標は一律「130/80mmHg未満」
(2)薬物療法の早期開始、早期ステップアップを推奨(今回新たにSTEP 1から2、2から3へは「できるだけ早期にステップアップ」するよう示された(図3)。)

(3)生活習慣改善の重要性をより強調
ということで2019年までは2019年までは「75歳以上の人は少し緩めに」「たんぱく尿(-)のCKD患者の降圧目標は140/90mmHgで過降圧は腎機能を悪化させる可能性がある」と言われていたが、今回の改訂では75歳以上も「蛋白尿(-)のCKD患者も「130/80mmHg未満」の目標値を一律に当てはめたのはなぜなんだろう。この間にエビデンスレベルの高い論文が出てきたわけではない。逆になんで2019年に分かっていた75歳以上のSPRINT試験におけるフレイル患者のCVDアウトカム(JAMA. 2016; 315: 2673-2682:図4)を2019年には採用せずに、今回になって重要視したんだろう?蛋白尿なしの新ガイドラインの解説を読んでみると(原則個別対応)と書いてあり、蛋白尿なしのCKD患者では低血圧やめまいなどの過降圧の兆候に注意して・・・・、など、その解説の言い訳が長いのなんの。多分、疾患によって降圧目標を変えるとわかりにくいし、「140/90でいいや」と積極的な治療をやめてしまう医師・患者がいることから統一されたのかも。


モーラスⓇテープなどのいわゆるNSAIDsの貼付薬では副作用はどうなのか?これについてはよく質問を受けるので考察してみよう(図1)。胃障害についてはケトプロフェン経皮製剤大量使用(20 mg×8枚/日)による小腸出血が中止後に回復した報告があるし、NSAIDs小腸障害に関してはPPIなどの酸分泌抑制薬の併用は無効だ。2年にわたり治癒が遷延した胃潰瘍が,ケトプロフェン経皮製剤(40 mg×4~6枚/日)の使用中止により2か月後に治癒したという症例があった。モーラステープの経皮吸収率はインタビューフォームによると69.7 %という、経口投与以上ではと思わせる高さだ。テープを何枚も貼付すると内服薬カプセルの常用量である50mg連続投与時のAUCよりも高くなり、胃への直接刺激がないだけでもましではなく、胃潰瘍の原因になるということだ。ロコアⓇテープでも出血性胃潰瘍の学会報告はあった。

ではロコアⓇテープなどの経皮吸収型NSAIDsで腎障害は起こりうるのか?ロコアⓇテープによるAKIの報告は地方学会レベルの発表が1報、地域の医学雑誌に1報のみあった。またPubMed検索では「Esflurbiprofen patch×AKI」、「Ketoprofen patch AKI」では全くヒットしないが、「Loxoprofen patch×AKI」で76歳の女性でロルノキシカム投与によりネフローゼレベルの蛋白尿を伴う微小変化型の腎炎・間質性腎炎を発症した日本の報告がある。ロルノキシカムの投与によってネフローゼを発症したが、中止により改善傾向だったところ、ロキソプロフェンパッチを投与すると、アルブミン尿が再燃し腎機能が悪化したという報告だ。ただしステロイドなどの治療なしで投与中止のみによって回復している(図2)。さらに同じく日本でNSAIDの経皮パッチ製剤により、急性間質性腎炎および急性尿細管障害が生じたという報告があるが、活性型ビタミンD製剤と市販のCaサプリメントの服用を受けていたというのが気にはなるが、生研で証明された初の急性間質性腎炎の報告らしい(図3)。


ロキソニンⓇパップ2枚を反復投与した時の活性体AUCは内服の37.6%、Cmaxは約20ng/mLとロキソニン錠活性体trans-OH体のCmax850ng/mLのわずか、2.3%しかない。しかし特にアレルギー性の間質性腎炎、免疫系を介した蛋白尿など用量依存的ではないAKIは無視できないように感じた。
結論として高齢者にNSAIDsを使用するともっとも起こりやすい腎前性腎障害はほとんど起こっていない。腎障害が起こったとすればアレルギー性の間質性腎炎か、免疫系を介した糸球体障害だけみたいだ。濃度依存性の腎前性腎障害が起こらない理由はよくわかっていないが、最高血中濃度Cmaxが貼付薬では極めて低いことではないかと勝手に推測している(図4)。もしこれが正しいとすれば、パップ剤のCmaxはテープ剤の3.7%、錠剤の0.68%に過ぎないのだ。ただし貼付薬でもAUCが高くなるものは前述の症例のように消化管障害は起きている。テープ剤に比べパップ剤のほうが吸収率はより高いので、濃度依存性の副作用を起こさないようにするにはパップ剤のほうがより安全だろう。

12月18日(木)開催の、「バラシクロビル腎症・脳症を防ぐ!」について以下のようなアンケートの回答をいただきました。原文のまますべてのアンケート内容を紹介させていただきます。
バラシクロビルの先発メーカが、「適正使用のお願い」をなぜとりさげたか質問したものです。やはり、ヤッフェ法の時代なので、個別化eGFRで考えるのが妥当ということが分かりました。長年の悩みが解決してとても感謝しております。
抗ウイルス薬の投与量の注意、分布容積、蛋白結合率など苦手でしたが、とても理解出来ました。高齢、40kg女性の場合には、抗ウイルス薬の選択、水分摂取量、NSAIDの使用、脱水時のビタミンD3など疑問がある場合には医師へ提案できるだけの「目」をもっと勉強しようと思います。自分の不勉強さを実感しました。本日は有難うございました。次回も引き続き講義を受けたいと思います。
アメナリーフの薬剤師視点での使用時の注意がもう一度考え直せた。何回か聞いたことはあるが何回か聞くことで考え方などが理解できてきている気がする。
いつもわかりやすく学びの多い講義をありがとうございます。 リリカについてもまた講義があると嬉しいです。 よろしくお願いいたします。
ご講演ありがとうございました。 質問にもご回答頂きありがとうございました。 最後の方のみの参加となってしまいましたが、参加して良かったと思えました。 今後、腎機能評価についてご講演頂けるとのこと、より深く学べるよう、アドバイス頂いた内容をふまえ、知識を深めていきたいと思います。
HAPの平田塾を受講しています。婦人科門前薬局勤務です。今回こちらでより深く学び、帯状疱疹についてより興味を持ちました。まだ理解できていないことが多いです。次回の活性型VD3製剤についても受講予定です。よろしくお願いします。
今回から、資料配布があるとのこと、後で、確認するとき、また、ほかの薬剤師に説明すときに助かります。 アメナリーフについては、高齢者の単純ヘルペスのPIT療法に腎機能を気にしないで使用できると思っていたのですが、思っていた以上の注意する薬物相互作用のことがあり、勉強になりました。
腎機能が低下してくるとトリプルワーミーの1つであるRAS阻害薬を投与し続けてよいのだろうか?一応、アルブミン尿(+)の糖尿病関連腎臓病、蛋白尿(+)のCKD患者には後期高齢者でない限りは投与すべきだと思うが、蛋白尿(-)の高血圧患者には米国の調査では末期腎不全ではRAS阻害薬の処方率が低下している。これはRAS阻害薬を高度・末期腎不全患者に投与しても効かないんじゃないの?あるいは腎機能悪化が怖い、透析導入を早めてしまうかもしれない、という危惧からだと思う。RAS阻害薬の代わりに腎保護作用や蛋白尿抑制作用もないけど急性腎障害を起こさないCa拮抗薬の処方率が増えている(図1)。

じゃあRAS阻害薬は腎機能が悪化すると中止すべきなの?投与し続けていいの?ということに関しては報告がある。まずは観察研究だが、「RAS阻害薬中止で死亡率、CVDは増えるが透析は減る」ということで、わかりやすく言うとRAS阻害薬を続けると死亡率は下がって〇、心血管合併症も下がって〇だけど、透析導入患者は増えちゃったって、つまり×ってことだ。でも観察研究だとエビデンスレベルとしては弱い(図2)。そこで行われたのがSTOP-ACEi TrialというRCTだ。結果は図ではわかりにくいけど腎機能悪化に関してはeGFRは続けたほうがよいように見えるが有意差なし、透析導入にも続けたほうが透析導入が少ないように見えるので両方、続けたほうが〇だが、統計的には有意差なし。N数が少ないため検出力が弱かったのかもしれない(図3)。ということで、CKD診療ガイドライン2023では「高度腎障害・末期腎不全になってもRAS阻害薬を一律には中止しないことを提案する」という結論に至った。ただしRAS阻害薬を投与している患者で血清Cr値が上昇するほど透析導入、死亡リスクが高くなるということは複数の大規模コホート研究で一致しているので(図4、図5)RAS阻害薬はトリプルワーミーの1つであるということを意識し、急性腎障害が起これば速やかに一時中止すべきだ。




加齢とともに腎機能は低下する。じゃあ、加齢とともにeGFRは低下するかといわれると、じつは加齢に伴って腎機能eGFR値が信頼できなくなるんだ。eGFRは血清クレアチニン値を基に以下の式で算出される。
eGFR: 194 × Age -0.287 × Cr -1.094 × 0.739(女性)
例えば寝たきりの高齢者は筋肉を使わないため、みんなサルコペニアだから、骨格筋由来の血清クレアチニンは0.2~0.4mg/dLの世界で、なんとeGFRが100を超える、200mL/min/1.73m2を超えるということが普通にあるが決して腎機能が素晴らしくいいのではなくて、筋肉量が少ないだけなのだ。活動度の低い要介護度の高い人も同じことだ。このような患者にバラシクロビル3000mg/日を投与したら、当たり前にアシクロビル腎症・脳症をきたし、2~3日の連続透析が必要となる。こんな時に頼りになるのが筋肉量に依らない腎機能マーカーのシスタチンCだ。腎機能は加齢とともに最も低下する生体機能だ(図1)。でも加齢とともに骨格筋量が減少し80歳代の男女ともに50%以上がサルコペニア。ということは80歳代の患者さんの血清クレアチニン値を基にしたeGFRは過大評価され、ほとんど信用できないってことだ(図2)、血清シスタチンCは上がって腎機能は確かに低下しているのに、血清クレアチニン値は上がってくれないのだ(図3)。僕たちの検討でも赤丸で示す寝たきり患者はみんな実測腎機能よりも腎機能が高く見積もられていた(図4)が、その他のリハビリに励んでいる高齢者のeGFRは実測腎機能との相関性は非常に高かった。




80歳代の高齢女性で体重40kg以下になっているような患者さんは日本にはとても多い。前述のように活動緯度の低い高齢者の腎機能は血清クレアチニン値を基にしたeGFRでは測っても意味がない。腎排泄性のハイリスク薬を投与しなきゃいけないときには血清シスタチンCを基にしたeGFRを用いてほしい。だけど薬剤師が測定依頼をしないから医師も「シスタチンCって何?」と言って測ってくれない。だからいつまでたっても3か月に1回しか測定できない、測定費用は1回1000円以上かかるという状態が続くんだ。測定回数が増えて、当たり前になれば、検査費も安くなり検査感覚も短くできるはずだ。「シスタチンCって何?」っていう医師をなくそうよ、薬剤師の力で。
12月11日(木)開催の、「Triple whammyを防げ!」について以下のような質問をいただきましたので回答させていただきます。
Q.ARB +利尿剤 +ロコアテープの質問の回答ありがとうございました。
A.一度、可能であれば主治医とディスカッションすることをお勧めします。僕自身は脆弱な高齢者にトリプルワーミーは投与すべきではないと思っていますが、この患者さんに対しては十分量のアセトアミノフェンの投与というのが試されていないと思いますので、十分な理論武装をして、それを提案するのが1つの選択肢だと思います。
それと全身吸収性のロコアテープやジクトルテープで消化器障害の報告は複数ありますが、急性腎障害は起こったとしても間質性腎炎、つまりアレルギー性の腎障害の報告だけだと思いますので、全身吸収性NSAIDsは今までに報告されていないから安全なのか、実際には起こっているが報告されていないだけ(NSAIDsによる腎障害は当たり前なので報告してないだけというのも大いに考えられます)なのかが不明です。患者さんの希望がロコアテープであれば、こまめな飲水指導をして、主治医には定期的なクレアチニン値の測定を依頼して注意深く観察しながらロコアテープを投与するというのもありだと思います。
Q.今回、ブログ平田の薬剤師塾からNSAIDsによる腎障害の部分を事前に拝見させて頂いたことで、より理解が深まったと感じております。次回講演に向けて、事前に予習出来るような良いアドバイスがあればご教授いただければ幸いです。
A.「予習」、素晴らしいですねしいですね。わくわくしながら講演を聞けていいと思います。できれば鋭い突っ込み、つまり講演後の質問もよろしくお願いしたいところです。
事前に予習出する内容は次回の講演タイトルによって変わってくると思います。例えば次回の平田塾はバラシクロビルについてですから、ウェブで様々な帯状疱疹治療に関する情報を仕入れておけば理解量は格段にアップすると思います。
たとえば次回タイトルが「腎機能の評価方法」であれば僕の書いた総論(日腎薬のHPのCKD関連情報から「総説:患者腎機能の正確な評価の理論と実際. 平田純生, 他, 日腎薬誌 2016」が読めますし、平田の薬剤師塾にも『腎機能評価の10の鉄則』や『腎臓病教室 ~検査値と腎機能~』が載っています。でも同じ内容の平田の講演を聞くよりも他の方の意見を取り入れたほうがよいかもしれません。その場合にはCKD診療ガイドライン2023やじほうの「腎薬ドリル」には僕以外の著者が、異なった視点で腎機能評価について記載していますので、そちらを参考にした方がよいかもしれません。勉強方法は個人個人によって合う、合わないがありますので、自分に合った方法を取り入れればいいと思います。
12月11日(木)開催の、「Triple whammyを防げ!」について以下のようなアンケートの回答をいただきました。原文のまますべてのアンケート内容を紹介させていただきます。
ご講演ありがとうございました。 悩んでた部分がいくつか解決しました。
いつもとても勉強になります。ありがとうございます。 できましたら、薬物動態の講演の際に、メトトレキサート についてもお話しいただけたら幸いです。
ご講演ありがとうございました!
平田の薬剤師塾を読んでいる最中ですが、理解が追い付かない部分が本日の講義で納得出来ました。有難うございました。
分かりやすくお話し頂き、また、各国でのデータなども伺え、大変勉強になりました ありがとうございました
いつも丁寧な説明で勉強になります。 拙い質問にも回答頂き、大変勉強になりました。ありがとうございました。質疑応答が30分もあり、理解が深まります。これだけ質疑の時間を設けている勉強会はないと思います。
今回も大変勉強になりました。
トリプルワーミーについて基本的なことがわかりました。調剤薬局では、医師との距離が遠くなかなか疑義照会が難しいと考えています。そのため、基本的な知識を身に着けたいと講演をいつも楽しみにそして真面目に聞かせていただいております。
大変勉強になりました。
ご講演ありがとうございました。 以前にも心不全、NSAIDsの講演を伺った事があり、今回の講演で、より理解が深まったと感じております。 途中からの参加となりましたので、アーカイブにて学ばせて頂きます。
楽しみに拝聴させていただいております。
経口NSAIDsとして使うとしたら、腎障害の少ないものはあるのだろうか?1990年前後に言われていたプロドラッグで腎におけるプロスタグランジン(PG)阻害の程度が他のNSAIDsと比べ軽いといわれていたクリノリルⓇ(スリンダク;腎組織において再度非活性型に変換されるため、腎機能障害が少ないとされていた)COX-2選択性が高いとわれていたハイペンⓇ(エトドラク)などが、AKIを起こさないという確たるエビデンスがないのに、メーカーに騙されて使っていた医師が多かったようだが、さすがに今は状況が変わっているはずだ。COX-2選択性阻害薬のセレコックスⓇ(セレコキシブ)に関しては腎障害が少ないという報告は平田が検索しただけでも少なくとも6報ある。腎障害患者にはアセトアミノフェンと並んで推奨できる可能性のある唯一のNSAIDとなるかもしれない。ではそれらの論文を精査してほしい(図1)。ただし最もレベルの高い報告のPRECISION study(RCT)でイブプロフェン群(平均2,045mg/日で日本人用量の3倍以上)に比しセレコキシブ群(平均209mg)で有意に腎イベントが低かったのは当たり前だよね。

そしてなんといってもNSAIDsの中では胃障害が少ないので、上部消化管出血のリスクが最も低い(図2)ことが消化性潰瘍診療ガイドライン2020(改訂3版)に記載されている。胃障害が少ないCOX-2選択的阻害薬という触れ込みでコキシブ系の第1号のロフェコキシブは世界中で、8,000万人以上の患者に使われブロックバスターになったが、抗血小板作用がないためか、88,000~140,000例の重篤な心臓病・脳卒中が発生して市場から撤退した。しかもメーカーのメルク社はこれらのリスクに関する情報をキャッチしていながら、データを操作したり公表を差し控えるなどが明らかになり、FDAも心血管リスクを知りながら隠ぺい、NEJM誌は分かっていた誤りを訂正しなかったなど社会的問題に発展し、大問題になったのだ。

セレコキシブも同じコキシブ系ということで、心血管リスクの疑念がかけられたが、欧州4か国8,246,403人の10年間にわたる大規模研究ですべてのNSAIDsを総合すると心不全の入院リスク入院が24%増加している中で、セレコキシブが一般的な服用量で心不全入院のリスクを上げないことが明らかになった(図3)。NSAIDsには様々なデメリットがあるので、特に高齢者へのNSAIDsの漫然投与は避けてもらいたいのだが(図4)、胃障害が明らかに少なく、腎障害も他のNSAIDsに比し少なく、心不全リスクの最も低いセレコキシブはアセトアミノフェンに次ぐ高齢者への選択肢になるかもしれない。


60歳代の透析患者が、下肢膿瘍による発熱のため、数種の抗菌薬によって治癒したが、その後、下痢、発熱を伴う重篤なClostridioides difficile(CD)感染による偽膜性大腸炎を発症した。経口バンコマイシン2.0g/日の投与がされ、下痢・発熱の症状及びCRP は低下したが、2週間後に血清バンコマイシン濃度の測定を主治医にお願いした。「経口バンコマイシンは吸収されないから測っても意味ないじゃん」と言われたが、「最大用量を2週間投与しているので念のため」と言ってを測定すると、吸収されないはずの経口バンコマイシンの血清濃度が59µg/mLと当時の偽膜性大腸炎患者の世界最高記録になったことを経験した。結腸が白くなっており、結腸の粘膜細胞が破綻し、リーキーガットの状態だっていたのだと思う。吸収されっこないはずのバンコマイシンが吸収され、透析患者なので尿中排泄率90%のバンコマイシンは排泄されないので世界記録になってしまったが、バンコマイシンによって偽膜は消失しオレンジ色の健康な結腸に戻り、治癒できた。それよりも怖いのはその後、この症例のCDは他の患者に接触感染してアウトブレイクになってしまったことだ。アウトブレイクで死亡者が出れば新聞に載るかもしれないと大いに焦った。スタッフの手洗い(エタノールが効かないのは知ってるよね)の徹底を中心として接触感染対策で、何とか1か月後に収束できたが、CD腸炎のアウトブレイクを防ぐ方法が後で分かった。その方法のヒントは
①CD腸炎感染患者はほぼ要介護で全員、抗菌薬が投与されていた、②感染者のほとんどがPPIかH2ブロッカーの服用者だった、③ビオフェルミンRなどの耐性乳酸菌製剤はバンコマイシンで容易に殺菌されるため、アウトブレイクを防ぐには芽胞形成菌のミヤBMやビオスリーを投与すべきだった。
ということで、アウトブレイクを防ぐには胃酸による殺菌が期待できないPPI服用患者に抗菌薬を投与すると腸内細菌叢が破壊され、CDが増殖する。そのような症例には芽胞を形成する酪酸菌の併用が大事ってこと!
Hirata S, et al: Jpn J Clin Pharmacol 34:87-90, 2003.



