薬剤師塾の今後の取り組み2022年6月23日
今回の6月18日(土)から「基礎から学ぶ薬剤師塾」は皆様のご希望により、13:30から開催し、参加登録をしていたのに、見逃した方にはYoutubeで6月24日午後から7月1日17時まで再視聴可能になります。ただしQ&Aはありません。
それと終了後のアンケートは励みにもなって、非常にありがたいのですが、いつものことですが、満足度(5点がとても満足、1点が大いに不満)が「大いに不満」な1点なのに、とても良いメッセージを寄せていただける方が毎回非常に多いです。今回は前もって、「1点は大いに不満ですよ」という説明があったのですが、1点が3割を占めました。本当に内容がひどくてごめんなさい。でも確かに今回は下準備不足で、あまり面白い内容にならなかったですね。僕も録画を聞いていて、今回の内容では1点でも仕方ないと思っています。
実は平田は、この平均点を参考に今後のアーカイブ放送をやろうと思いましたが、今回の満足度の平均は5点満点の3.68点でした。この満足度の内容のものをアーカイブ放送はやるべきではないと思っていますので、本当に大いに不満でしたら、それなりの理由を聞かせていただきたいと思っています。薬剤師塾をよりよいものにしたいと思っていますので。
「少人数でのディスカッション」の開催も要望は多いのですが、これも個人情報の問題がありますので、個人情報の使用許可・著作権などの問題で、実施することがむつかしいなと考えています。実際にはI&H株式会社内では薬剤師塾が終わった土曜日の16時から2時間の「平田塾」を開催して「少人数での症例検討会」をやっており、腎臓病に限らず、高血圧、糖尿病、慢性心不全、心房細動、感染症、虚血性心疾患などの典型的な症例に関する平田塾(少人数での難しくないディスカッション)をやっています。これはI&H株式会社に属している薬剤師さんのみ参加可能です。今後とも、先生方のご意見、ご要望をいただくことによって「基礎から学ぶ薬剤師塾」をよりよいものにしたいと思っておりますので、ご意見、ご要望を頂ければ、幸いです。
今までの薬剤師塾とこれからの薬剤師塾の予定
回数 | 講演タイトル | 日時 |
01 | 薬剤師ってなに? | 2021.04.24 |
02 | 高齢者薬物療法について考える triple whammy処方への対応 | 2021.06.01 |
03 | 腎機能をしっかり見れる薬剤師を目指そう | 2021.07.06 |
04 | CKD患者の腎機能を守るための薬剤師の役割 ポイントは蛋白尿と血圧 | 2021.08.10 |
05 | 腎機能低下時に減量が必要な薬 根拠は尿中排泄率だけじゃない | 2021.09.07 |
06 | NSAIDsの腎障害 アセトアミノフェンに腎障害はある? | 2021.10.05 |
07 | SGLT2阻害薬の腎機能低下抑制作用とAKI防止作用 | 2021.11.02 |
08 | 初めての学会発表から、博士号取得までの道 | 2021.12.07 |
09 | 透析患者の薬① 基礎編 病態と薬物療法 | 2022.01.04 |
10 | 透析患者の薬② 応用編 合併症と薬物療法 | 2022.02.01 |
11 | 腎臓が何をやっているか①糸球体編 ようこそこの複雑で精密な世界へ | 2022.03.01 |
12 | 腎臓が何をやっているか②尿細管編 ようこそこの複雑で精密な世界へ | 2022.04.16 |
13 | 透析患者の便秘と下剤の適正使用 たかが便秘と考えないで!透析による虚血によって腸管穿孔することも |
2022.05.14 |
14 | 腸腎連関 心血管病変・腎機能を悪化させる尿毒素は腸内細菌によって産生される |
2022.06.18 |
15 | 透析を科学する CHDFの薬用量、透析後の補充用量ってわかります? | 2022.07.09 |
16 | 物性から薬物動態を理解してみよう 「動態=薬の顔・特徴」だと思えば動態なんて難しくない |
2022.08.13 |
17 | 広げてみようTDMの世界 薬剤師が主役になれる薬物療法 | 2022.09.10 |
平田への講演依頼に関しましては平田のメールアドレス
hirata@kumamoto-u.ac.jp までお気軽にご連絡ください。
大学での非常勤講師も可能です。「実務実習で代表的な8疾患」のうち高血圧、糖尿病、心疾患、感染症の4疾患の薬物治療学+腎疾患、輸液、TDMなどについて国家試験対策も含めを教えることができます。またsmall group discussionによる少人数の症例検討会なども実施可能です。
第 14回 基礎から学ぶ薬剤師塾 Q&A
腸腎連関
心血管病変・腎機能を悪化させる尿毒素は腸内細菌によって産生される
チャットによる質問
まつもと薬局本店 岡幸博先生
Q.クレメジン細粒をあえて少ない量1日1~2gで処方されるのですが、効果あるのですか?教えて下さい。
A.アドヒアランス不良を憂慮して、少量投与されているのかもしれませんが、6g投与群とプラセボ群とで行われたRCTのCAP-KD試験ではRAS阻害薬服用のSCr<5mg/dLの460人を対象に56週間のRCTが行われました。エンドポイントは透析導入、腎移植、死亡、SCrの2倍化またはSCr6mg/dL到達でしたが、1次エンドポイントに差はありませんでした(図1:Akizawa T, et al: Am J Kidney Dis 54: 459-467, 2009)。したがって1-2gの投与では効果があるかどうかは疑わしいと思います。
ただしこの研究のサブ解析ではeGFRの低下率を有意に遅延することができました(図2)。この試験ではおそらくプラセボを作成しやすいアドヒアランス不良の代名詞ともいうべきクレメジンカプセルが用いられましたが、飲みやすい即崩錠を使っていたら、アドヒアランスが改善してもう少しいいデータが出ていたかもしれません。その後の試験でも生存率を改善しないものの、透析導入は有意に遅延することが明らかになりました(Hatakeyama S, et al: Int J Nephrol 2012;2012:376128.doi: 10.1155/2012/376128. Epub 2012 Jan 12)。
日本赤十字社和歌山医療センター 榊本亜澄香先生
Q.最後の研究のヒントのところで、「便秘の強度」とあったのですが、具体的にどのように分類すればよいでしょうか?「便の頻度」での分類、「便の状態」での分類など、いろいろあるかと思っています。
A.便の性状を排便ごとに患者さんに選んでいただいて、スコア化する「Bristol stool scale」が一番有名だと思います(図3)。便秘スコア(constipation scoring system)は様々な方が様々な方法でスコア化していますが表1にその1例を示します。僕は患者さんに便の硬さによって10cmの棒にバツ印を入れていただくVAS scaleを研究に使ったことがあります(図4:平田純生, 他: 透析会誌37: 1967-1973, 2004.)。これらを参考にして、榊本先生もぜひ研究に取り組んでください。
アンケートによるご質問
平成横浜病院 廣瀬先生
Q.体調不良で下痢が続いている患者さんで早くミヤリ菌が定着して欲しいのにいつまでも下痢が続いているケースがあります。せっかくの良い菌が腸内に定着するためのプレバイオティクスの研究で何か効果が出ているものなど報告はありますか?
A.ごめんなさい。「良い菌が腸内に定着するためのプレバイオティクスの研究で何か効果が出ているものなど報告 」を調べようがありません。この質問内容では具体的に何をお知りになりたいのが分かりません。下痢につきましてはストレスによる下痢、潰瘍性大腸炎の下痢など慢性的な下痢を対象とすべきでしょうが、細菌性の下痢、ウイルス性の下痢の予防効果を見るようなプロトコルも可能かもしれませんが、いずれにしても特定した下痢に対して効果があるかどうかの試験プロトコルが必要になってくると思います。定着するかどうかは宿主の病態にもよりますので、漠然と下痢に対して宮入菌C. butyricumが効くかどうかの研究はできないと思います。
ただし私が講演で話したように小児のCD(Clostridioides difficile)腸炎の予防効果については報告されています(Seki H, et al: Pediatr Int 2003;45:86-90)。最新の総説でもCDの増殖を抑制するプロバイオティクスだけではなく、C. butyricumは、院内感染の原因菌であるClostoridioides difficileだけではなく、胃がんの原因菌であるHelicobacter pylori、抗生物質耐性大腸菌などに広く有効であることが定説になっているように記載されています(Ariyoshi A, et al: Biomedicine 2022; 10: 483. doi: 10.3390/biomedicines10020483.)。
それによるとC. butyricumの産生する酪酸がCDトキシンを阻害するだけでなく、腸管免疫を介してCDの成長・定着を阻害すること、H. pylori感染には抗生物質による除菌療法時の腸内細菌叢の破壊による下痢に対し、C. butyricumの投与によって嫌気性菌であるBacteroides属とBifidobacterium属の減少を防ぐことなどが記載されています。宮入菌って、地味そうですが、改めてすごい薬だと思いました。
一般社団法人唐津東松浦薬剤師会薬局七山店 高木一範先生
Q.今まで地域ぐるみの取り組みで平田先生が関与された活動があれば教えて下さい。
A.透析導入患者数を減らす、腎機能低下患者で起こりやすい薬剤性腎障害や中毒性副作用などを防ぐことは、薬剤師の学会を作るだけではなく地域ぐるみでやらないとできないことですので、「腎と薬剤研究会」の設立を地元の腎に興味ある薬剤師の有力者にお願いしました。現在、全国で27か所ある各地の「腎と薬剤研究会」は年2回以上の定期的な講演会を開催しています。おかげで熊本で生まれたCKDシール(平田が作ったのではありません。僕の熊本での仲間たちの発想がオリジナルです)も各地に広がりつつあります。各地の「腎と薬剤研究会」は日本腎臓病薬物療法学会の下部組織ではありません。各地の腎薬が「地域連絡協議会」を通じて我々の学会組織と協力して活動しています。
北見赤十字病院 加藤理愛先生
Q.本日も非常に勉強になるご講演ありがとうございました。病棟担当の薬剤師ですが、便秘の患者さんが多く、医師からよく下剤の相談をされます。アミティーザⓇが効く人もいれば無効で、同効薬のリンゼスⓇに変更したら著効したというような方もいます。どちらも効果がなくモビコールⓇや酸化マグネシウムが効いたという方もいます。この個人差には何か原因あるのでしょうか?
A.それぞれ、薬理作用の異なる下剤ですから、どれが効きやすいかは便秘の原因によると思います。例えば過敏性腸症候群で下痢型の方であればリンゼスⓇがあっているでしょうね。ただし、僕の経験からはモビコールⓇや酸化マグネシウムなどの浸透圧下剤は用量を増やせば効かない人はいないんじゃないかと思っています。
手束病院 楠本倫子先生
Q.第三世代セフェム系の経口薬についてですが、大腸菌などが原因になりやすい膀胱炎に著効例が見受けられます。特に、高齢者や若い女性にもレボフロキサシンより使いやすい様に感じておりますが、先生のご意見をお伺いできればと思います。
A.効いたからいいんじゃなくって、吸収率の低い抗菌薬は腸内細菌叢に悪影響を及ぼします。それによって膀胱炎は治っても、Fが低すぎるため、下痢は良く起こりますし、若年者では腸内細菌叢の変化によっておこる、アレルギー性疾患、自己免疫疾患、精神神経疾患になれば一生の問題になりかねません。ほかに吸収率の高い抗菌薬がありますし、重症であれば静注製剤を使えば腸内細菌叢に悪影響も低くなると思います。
レボフロキサシンは膀胱炎を治すには抗菌スペクトルが広すぎます。キノロンはグラム陰性にも陽性にも細胞内寄生菌や結核菌にまで効く原爆のような薬で、投与した後には何も残らないです。こんな抗菌薬は生命を左右する重症感染症のために取っておくべきだと思っていますが、開業医の先生方は好きですね。しっかりした感染症専門医のいる病院では在庫を置かないところもあるそうです。それとキノロンは使いすぎたことによると思いますが、E.coli耐性率が高いです。ただしFが99%と非常に高いのは第3世代セフェムよりはいいですね。膀胱炎では経口剤であればβ-ラクタマーゼ配合ペニシリン、ホスホマイシン、ファロペネムの方がまだましでは?と思っています。
南相馬市立総合病院 中島鉄博先生
Q.経口第三セフェムは動態、原因菌を考慮すると必要な場面はほぼ無いと思いますが、Dr.の中には経口第三セフェムが有効な場面もあり、あえて選択肢を狭めるべきではないっといった記事もありました。実際には経口第三セフェムが使用されている印象があります。どのように捉えるべきでしょうか。宜しくお願い致します。
A.セフジトレンのバイオアベイラビリティ(F)は14%、セフジニルの吸収率は25%といわれていますから、成人用量の1回100mgを投与してもそれぞれ14mg, 25mgを静注投与したのと同じことになります。実質、セフジトレンの1日吸収量は42mgのみでピペラシリンの最大用量4gの1%程度しかないのです!。βラクタム系の静注抗菌薬製剤の成人用量で1回100mg未満のものはないはずですから、これらが本当に効果あったとは思えません。適応のある咽頭・喉頭炎、急性気管支炎、中耳炎、副鼻腔炎などは本当に抗菌薬が必要でしょうか?神戸大学医学部附属病院の感染症科の岩田健太郎教授のおっしゃる「使った、治った、だから効いた」の「サンタ論法」で認可されたものではないかと思います。
光晴会病院 薬剤科 杉本悠花先生
Q.クレメジンのアドヒアランスが分かる検査項目(採血など)がありますでしょうか?
A.クレメジンは吸収されないので、全身作用を示しません。だからアドヒアランスに影響するような検査データに直接、大きな変化を及ぼしませんので、検査値によってアドヒアランスの良否は分からないと思います。ただし、きっちりと服用していただければ、インドールなどの尿毒素前駆体を吸着し糞便中に排泄できますので、これらの尿毒素濃度を低下させる可能性はあります。また長期的に投与すれば、服用以前と比べて血清Cr値の逆数、あるいはeGFR、CCrの悪化速度を緩やかにする作用は期待できます。
第15回 基礎から学ぶ薬剤師塾 2022年7月9日(土)13:30から15:30まで の申し込みを始めます。前回より皆さんの要望により土曜日13:30から15:30に変更し、登録していただいた方には再放送も視聴できるようになりました。ただし、再放送は質疑応答のQ&Aはありません。今回のテーマは「透析を科学する~CHDFでは透析よりも薬がよく抜けるのはなぜ?~」です。
透析で除去されやすい薬は透析日には透析後に投与しますが、その用量は透析によって抜けた分だけを補うことが基本とされています。だけど透析でどれくらい抜けるかというデータは乏しく、インタビューフォームにもほとんどが「該当資料なし」となっていますし、透析クリアランスのデータ、透析前後の血中濃度変化が記載されているものもあります。しかしこれらのデータは投与設計には役立ちません。また血液浄化法には血液透析だけではなくCAPDなどの腹膜透析やCHDFという持続的血液浄化法もあります。これらの血液浄化法による薬物除去率は血液透析による薬物除去率とは異なります。今回は透析の原理、透析性に関わる薬物の動態パラメータを用いて定性的な除去されやすいか否か、定量的にどれくらい除去されるのかについて学びましょう。
参加を希望される方は 申し込みフォーム に記入のうえ、送信してください。
薬剤師塾となっていますが、医師・看護師など医療従事者であれば参加可能です。ただし薬剤師塾への参加者は、ぜひ学会発表を目指している方に参加していただきたいと思います。そしてその先には原著論文を書くんだという大きな夢を持つ人になっていただきたいと思います。300名まで参加可能ですが、最近の登録者数は200名を超えていますので、早めに登録してください。