SGLT2阻害薬による心腎保護作用と急性腎障害抑制作用~ケトン体って何よ?~
8日目 再び食事について考えてみよう
~再びケトン体について~
(1)ケトン体は有益?有害?
ヒトは24時間エネルギーを消費しているため早朝、8時間もたつと前夜に蓄えた肝臓のグリコーゲンは枯渇してしまいます。このような空腹時でブドウ糖を最も多く消費しているのは脳で、肝臓が10g/hr産生して血中に放出したうち、1時間に5~6g(安静時に全身で使われる60%に相当)のブドウ糖を使います。赤血球には核がないので自分でエネルギーを産生できないからでしょうか、ブドウ糖しかエネルギーとして使えません。そのほかの細胞はブドウ糖を節約して脳に回すため、代謝エネルギーの50~60%を遊離脂肪酸で賄っています。 この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます
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7日目 食事について考えてみよう ~糖質制限食の重要性~
(1)糖質制限食の重要性
日本糖尿病学会では国際的に認められ、エビデンスの高い糖質制限食ではなく、炭水化物を50~60%含むカロリー制限食を「糖尿病診療ガイドライン2019」以前はずっと推奨してきましたが、そろそろ見直す時期に来ていると思います。平田もこの説を長期間、信じていました。アメリカ人に肥満が多いのは脂っこいものばかり食べるから、カロリー摂取量が多いからだと思っていましたが、実は肥満の原因は糖質の摂りすぎと食べ過ぎだったのです。そういえばアメリカのケーキ、アップルパイなど日本人の僕には甘すぎて食べられないくらい甘かったし、マクドナルドのコークのLサイズは1300mLのようにバケツ並み、レストランで食べるパスタの量も食べきれないくらいの大盛でした。 この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます
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6日目 人類の歴史のほとんどでエネルギー産生の主役は ブドウ糖ではなくケトン体だった?
(1)人類はケトン体を主要エネルギーとしていたかもしれない
200万年前にホモ属が誕生し、20万年前に東アフリカでサピエンスが誕生しましたが、人類は長期間、ずっと狩猟採集生活、つまり主な食物は狩りで得た肉類と木の実(ナッツ)、つまり低糖質食(ケトジェニック食)でしたので、長期間、ケトン体がエネルギー産生の主役だったと考えられます(図1)。低糖質食の摂取によって肝臓で脂肪がβ酸化によってアセチル-CoAになってβ-ヒドロキシ酪酸、アセト酢酸、アセトンなどのケトン体となって血流に乗って各臓器で効率の良いエネルギーとして消費されていたのです(図2)。 この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます
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5日目 SGLT2阻害薬の糸球体過剰以外の腎保護効果のメカニズムは?
(1)ケトン体の様々な作用
SGLT2阻害薬を投与すると、尿中ブドウ糖排泄の増加により血糖値および血中インスリン濃度が低下し、グルカゴン/インスリン比が大きくなり、肝臓での糖新生が増加するとともに脂肪組織では脂肪分解が亢進して産生された遊離脂肪酸が肝臓でケトン体に変えられて全身循環します。ケトン体はケトアシドーシスの原因になる非常に危険な酸性の物質というイメージがあるかもしれませんが、最近になってブドウ糖に替わるエネルギー源として心臓・腎臓で利用されることによって、心腎の仕事の効率化・機能改善に寄与している、あるいはケトン体自身が健康にとって良い効果を持っているのではないか、という説が提唱されはじめています。ケトン体の中でアセト酢酸とβ-ヒドロキシ酪酸は酸性が強いので、血中のケトン体濃度が高くなるとアシドーシスになりますが、インスリンの働きが正常で、ブドウ糖の利用が適切である限り、ケトン体は安全なエネルギー源となるといわれています。 この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます
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4日目 SGLT2阻害薬の心・腎保護効果のメカニズムは?
(1)SGLT2阻害薬の主作用は尿細管・糸球体フィードバックの正常化?
糖尿病ではSGLT2の発現量が増大しており、それによるブドウ糖・Naの再吸収の亢進につながり、尿細管・糸球体フィードバック(TGF: Tubuloglomerular feedback )の抑制を来たして、糖尿病初期の糸球体過剰濾過、GFRの上昇につながっているのを改善することが主要な薬理作用と考えられています。また糖毒性、つまり食後高血糖による血糖値の乱高下が動脈硬化や認知症を起こすのを軽減できる、あるいは利尿降圧作用によって心・腎の負荷を軽減するのは当然ですが、単に血糖降下作用、利尿降圧作用によるものではないことは、既存の血糖降下薬や降圧薬でこれほどまでの心・腎保護作用を示さなかったことからも明らかです。 この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます
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3日目 SGLT2阻害薬によるAKIの報告が少ない、
それどころかAKIを明らかに減らすのはなぜ?
SGLT2阻害薬の大規模臨床試験ではほとんどの患者でRAS阻害薬と併用されており、腎予後を主要アウトカムにしたCREDENCE試験では100%の患者が併用されています。また利尿薬も多くの報告で処方割合が多かったのですが、利尿降圧作用を有するSGLT2阻害薬は果たしてAKIを増やしたのでしょうか?実は調べてみるとSGLT2阻害薬はAKIを増やすに違いないというバイアスがあったからでしょうか、日本でも海外でも症例報告は脱水による腎機能低下などの報告はたくさんありました。そのころの平田は「やっぱりね」と思い込んでいました。 この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます
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2日目 SGLT2阻害薬の目覚ましい臨床試験結果
(1)驚異的なエンパグリフロジンの心・腎保護作用
2015年、エンパグリフロジン投与によるEMPA-REG OUTCOME試験が報告され1)、心疾患による死亡、非致死性の心筋梗塞、非致死性の脳卒中の複合を主要アウトカムとし、二次アウトカムは不安定狭心症での入院としました。RAS阻害薬が投与された方は81%、利尿薬が投与された方は43%で、主要アウトカムにおいてエンパグリフロジン群4,687人中490人(10.5%)に対しプラセボ群では2,333人中282人(12.1%)(ハザード比0.86:CI 0.74-0.99)でした。脳卒中、心筋梗塞では群間で差は見られなかったのですが、心疾患による死亡、心不全による入院ではプラセボ群に比べエンパグリフロジン群において有意に低下させるという、皆さんご存知のように、驚異的なデータを示しました。 この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます
第9回 基礎から学ぶ薬剤師塾 2022年1月4日(火)18時~20時まで の申し込みを始めます。テーマは「透析患者の薬~基礎編 病態と薬物療法~」です。
透析患者は高リン血症、二次性副甲状腺機能亢進症、腎性貧血、高カリウム血症、アシドーシス、尿毒症と腸内細菌叢の変化・腸腎連関、高血圧、低血圧、腸管穿孔と便秘といった様々な合併症とともに、栄養状態の不良、易感染性、高齢化など様々な問題を抱えています。薬物療法も複雑で多彩ですが、慢性腎不全の病態を知るためにはわかりやすい疾患です。今回は透析患者の病態とそれに対して用いられる薬物療法の基本について解説します。
参加を希望される方は 申し込みフォーム に記入のうえ、送信してください。
薬剤師塾への参加者はどなたでも構いませんが、ぜひ学会発表を目指している方に参加していただきたいと思います。そしてその先には原著論文を書き、海外の学会で発表し、英語論文をまとめて博士号を取るんだというような大きな夢を持つ人になっていただきたいと思います。300名まで参加可能ですが、最近の登録者数は200名を超えていますので、早めに登録してください。
『NSAIDsによる腎障害 ~Triple whammyを防げ~』のテキスト(PDF)ダウンロードができます。
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1日目 SGLT2阻害薬の登場と副作用報告
(1)SGLT2阻害薬の驚異的な心・腎保護作用
ダパグリフロジンが非糖尿病心不全患者を含むDAPA-HF試験の結果を踏まえて2020年11月に慢性心不全(ヘフレフ HFrEF: heart failure with reduced ejection function左室駆出率の低下した慢性心不全)の適応症を取得しました。また非糖尿病CKD患者を含むDAPA-CKD試験によってRAS阻害薬との併用で腎機能の悪化、末期腎不全への進行、心血管死または腎不全による死亡のいずれかの発生による複合主要評価項目のリスクを、プラセボと比較して39%低下させ、全死亡の相対リスクを有意に31%低下させました。これらの試験結果から、アステラス製薬は2020年12月14日に糖尿病のないCKD患者への適応を申請していましたが、2021年8月25日にやっと「慢性腎臓病(ただし、末期腎不全又は透析施行中の患者を除く)」の効能又は効果の追加承認を取得しました。米国、EU、台湾などではすでに2型糖尿病合併の有無に関わらず、CKDの治療薬として承認を取得しています。これからわが国でも透析導入を防ぐ腎保護薬の決め手として積極的に使われていくものと考えられます。
ダパグリフロジンは慢性心不全の成人患者さんの治療薬としてはすでに承認されており、これから心不全・腎臓病治療が大きく変わると思われます。ダパグリフロジンだけではありません。エンパグリフロジン、カナグリフロジンなどのSGLT2阻害薬による心腎効果を検証した大規模臨床試験が多数報告され、それらのほとんどが既存の糖尿病治療薬、腎保護薬、心保護薬の概念を覆すくらいのクラスイフェクトの数々です。
これまで、HFpEF(ヘフペフ: heart failure with preserved ejection function:左心駆出率の保たれた心不全)は左心室が硬化して拡張できず、心臓へ血液が戻る力が弱くなるため、うっ血が起こり、むくみなどの症状が起こりやすいといった特徴があり、高齢者に多い心不全です。臨床的に有効と証明された治療法がなく、心血管領域で最大のアンメットニーズとされていましたが、2021年9月にはエンパグリフロジンが心不全だけではなく、HFpEFの治療薬(正確には治療補助薬ですが)としてFDAからブレークスルーセラピー(画期的治療)の指定を受けました。Walters Kluwer社のUpToDateⓇには「 2型糖尿病の有無にかかわらず、一貫してベネフィットが証明された」と記載されております。ということで今更ですが、今回は話題沸騰中のSGLT2阻害薬について解説したいと思います。
(2)SGLT2阻害薬の基礎知識
ブドウ糖は親水性の小分子化合物であるため、糸球体濾過されても受動拡散で再吸収することはできませんが、重要な栄養物であるため、近位尿細管の前半部(S1, S2セグメント)では輸送能力の高いトランスポータであるナトリウム-グルコース共輸送体2、つまりSGLT2(sodium/glucose co-transporter 2)によって90%が再吸収されます。残りの10%は近位尿細管の後半部のS3セグメントに存在するSGLT1によって再吸収されるため、健常者では尿中にブドウ糖が排泄されることはありません。ただしトランスポータはその基質濃度が上昇すると飽和するため、血糖値が170mg/dL以上になると、完全に再吸収することができなくなって尿糖が発現します。SGLT1は小腸にも発現しており、強く抑制すると下痢を起こしてしまうので、臨床使用するにはSGLT2選択性が高い必要があります。ブドウ糖を認識して再吸収するため、SGLT2阻害薬もブドウ糖構造を持っていることから(図1)、SGLT2がこれらの薬物をブドウ糖と誤認識して結合して、作用を表すと予測されます。要するにSGLT2阻害薬はブドウ糖を再吸収させずに、尿中にダダ洩れにして血糖値を下げる薬です。日本人で多い痩せた高齢者には使いにくいですが、前述の凄まじい心保護作用・腎保護作用から、使用量が増えつつあります。
SGLT2阻害薬の薬物動態学的特徴は蛋白結合率が82~98%と高く、尿中排泄率は0~22%と低いです。半減期は図1には載せておりませんが、トホグリフロジンが約5時間と短いのですが、そのほかは10~18時間なので、夜間頻尿を訴える患者にはトホグリフロジンが適しているかもしれません。ただしトホグリフロジンには今のところ2型糖尿病の適応しかありません。
(3)SGLT2阻害薬の安全性
SGLT2阻害薬は2014年に発売され、翌年1月にはSGLT2阻害薬投与中に下痢・嘔吐が頻回に発現していたが水分摂取が不十分であり、脱水によって死に至った症例、おそらくこれも脱水に起因する心筋梗塞や脳梗塞による死亡症例が新聞報道されました(図2)。脱水の原因として、SGLT2阻害薬併用時の下痢、嘔吐、入浴による発汗、利尿薬併用が脱水を助長することが原因と考えられています。発売当初から、メーカーから「適正使用のお願い」が発行され、水分摂取を心がけるよう注意喚起がされていましたが、SGLT2阻害薬の特徴的な副作用として利尿作用による脱水の助長、頻尿・多尿、皮膚乾燥に起因する発疹、大量のブドウ糖の尿中排泄による膀胱炎・性器感染症、サルコペニア、ケトアシドーシスなどがあげられています。そのため、投与を避けたい患者は認知症・うつでは特に摂食中枢の異常を起こしやすいので脱水になりやすい、両総頚動脈狭窄も脱水による脳梗塞になりやすい、下腿切断になると動けないので性器や尿路感染しやすいので避け、BMI 18.5未満のやせ、フレイル、サルコペニア患者なども投与を避けたい患者になります。
SGLT2阻害薬は特に投与初期に利尿作用があるため、RAS阻害薬、利尿薬、NSAIDsのTriple Whammy処方などとの併用はとても危険で、腎前性の急性腎障害を頻発するに違いないと、発売当初から平田は思っており、自ら作成した急性腎障害原因薬物一覧表の腎前性腎障害原因薬物の中にSGLT2阻害薬を明記しました。その後、FDAも2016年6月14日、2型糖尿病に対するSGLT2阻害薬のカナグリフロジンとダパグリフロジンの急性腎障害に関する安全性情報を発出し、添付文書に急性腎障害に関する警告を含めるよう指示を出しています。日本糖尿病学会はSGLT2阻害薬の適正使用のRecommendations1)として、特に後期高齢者には慎重に投与すること、脱水防止について患者に指導し、利尿薬の併用の場合には特に注意すること、発熱・下痢・嘔吐などがあるとき、ないしは食思不振で食事が十分摂れないような場合(シックデイ)には必ず休薬することなどが記載されています。このようにSGLT2阻害薬には利尿作用も降圧作作用もあるし、脱水もきたしやすいので、RAS阻害薬や利尿薬と同様に腎前性腎障害を起こすだろうということは誰もが予想していたと思います。
ということでSGLT2阻害薬についての最新の副作用の関する論文についてまとめてみました(図3)2)。8つの大規模試験をまとめたもので、赤色で書いてある糖尿病ケトアシドーシス、性器感染、脱水が統計的に有意に起こりやすい副作用と言えますが、発売当初から注目されていた低血糖や下肢切断、尿路感染は有意ではありません。急性腎障害(AKI)に関しては1をまたがず左側にありますし、RR(相対危険度)が0.75になっていますので、AKIはSGLT2阻害薬の投与によって有意に減少したといえます。「えぇっ!なんで?」と思う方がいると思いますが、実はSGLT2阻害薬がAKIを防ぐということは2016年ころから言われ続けています。今に始まったことではないのです。2019年以降になって、平田も薬剤性腎障害原因薬物一覧表からSGLT2阻害薬を削除しています。これについては4日目に詳述したいと思います。
引用文献
1)日本糖尿病学会: SGLT2阻害薬の適正使用のRecommendations 2020年12月25日.
2)Qui M, et al: Diab Vasc Res Mar-Apr 2021;18(2):doi: 10.1177/14791641211011016.