SGLT2阻害薬による心腎保護作用と急性腎障害抑制作用~ケトン体って何よ?~
2日目 SGLT2阻害薬の目覚ましい臨床試験結果

(1)驚異的なエンパグリフロジンの心・腎保護作用

 2015年、エンパグリフロジン投与によるEMPA-REG OUTCOME試験が報告され1)、心疾患による死亡、非致死性の心筋梗塞、非致死性の脳卒中の複合を主要アウトカムとし、二次アウトカムは不安定狭心症での入院としました。RAS阻害薬が投与された方は81%、利尿薬が投与された方は43%で、主要アウトカムにおいてエンパグリフロジン群4,687人中490人(10.5%)に対しプラセボ群では2,333人中282人(12.1%)(ハザード比0.86:CI 0.74-0.99)でした。脳卒中、心筋梗塞では群間で差は見られなかったのですが、心疾患による死亡、心不全による入院ではプラセボ群に比べエンパグリフロジン群において有意に低下させるという、皆さんご存知のように、驚異的なデータを示しました。

 2016年にはEMPA-REG OUTCOMEの副次的評価項目である腎機能への影響に関してサブ解析した結果2)、腎障害の発症・進行はエンパグリフロジン群で4,124人中525人(12.7 %)、プラセボ群で2,061人中388人(18.8 %)に認められ、腎障害の進行を39%抑制しました(ハザード比0.61 {95 %信頼区間 0.53-0.70}, P<0.001)。血清Cr値の倍増はエンパグリフロジン群で4,645人中70人(1.5 %)、プラセボ群で2,323人中60人(2.6 %)に認められ、相対リスクは44 %減少しました。腎代替療法を開始した患者はエンパグリフロジン群で4,687人中13人(0.3 %)、プラセボ群で2,332人中14人(0.6 %)に認められ、相対リスクは55 %減少し、腎に関してもエンパグリフロジンは驚異的なデータを示したのです。ちなみにアルブミン尿陽性の糖尿病性腎症を対象にしたRENAAL試験3)でARBのロサルタンが通常治療に比し、透析導入・腎移植の発症を低下できたのは28%でしたから、いかにEMPA-REG OUTCOME試験の結果が驚異的であったかというのが分かると思います(相対リスク同士を比較するのは科学的ではないかもしれあせんが…)。これらをまとめますと、腎症の悪化防止のリスクが39%低下し、顕性アルブミン尿への進行が38%低下、血清Cr値が2倍になるリスクが44%低下し、腎機能低下群(eGFR30~59mL/min/1.73m2)でも複合腎イベントが46%低下するなど、心保護作用だけではなく腎保護作用も大いに注目されたのです2)

 図1はこの試験でのエンパグリフロジン投与群はプラセボ群に比し、初期に腎機能の低下があったものの(これをdippingと言います)、その後のeGFRの低下が極めて緩徐であり、約1年後からプラセボ群とeGFRの変化曲線が交叉し、以後は高いeGFRを保っていました。一時的な腎機能悪化が認められたものの、腎機能悪化速度を表す傾斜が緩やかになり、プラセボ群を約1年で上回ることを示し、10mgでも25mgでも同様の作用が認められたため、用量依存性はないことも明らかになりました(ただし尿中ブドウ糖等排泄、血糖降下作用は用量依存的です(図24)。平田はこの当時、熊本大学薬学部育薬フロンティアセンター長でしたから、近隣薬剤師・医師を招いての抄読会でこれらの論文を取り上げ、興奮し

て熱いディスカッションを繰り広げていたことを思い出します。

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(2)ダパグリフロジンのDAPA-CKD試験

 SGLT2阻害薬は臨床的には血糖低下,体重減少,血圧低下,脂質改善(中性脂肪およびLDLの減少,HDLの増加)、尿酸低下効果などがすでに明らかにされており、EMPA-REG OUTCOME試験後にも、CANVAS Program試験、DECLARE-TIMI 58 試験、CREDENCE試験など様々な大規模臨床研究で主要評価項目である主要血管イベントのMACE(心血管死,非致死性心筋梗塞あるいは脳卒中)をプラセボと比較して有意に減少させることが明らかになりました。

 DAPA-HF 試験では2型糖尿病患者および非糖尿病患者を含む患者層でダパグリフロジンの複合心エンドポイント(心血管死+心不全による入院)に対する有効性が報告されています。DAPA-CKD試験5)では腎機能低下を伴う2型糖尿病患者のみならず、非糖尿病患者32.5%を含めて、SGLT2阻害薬の腎機能と心血管疾患への影響を検討したはじめての試験になります。eGFRが30mL/min/1.73m2未満の高度腎機能低下患者が14.5%含まれていたことも特筆すべきでしょう。その結果、ダパグリフロジンeGFRの50%以上の持続的な低下、末期腎不全への進展、心血管死または腎臓死の主要複合エンドポイントを全体ではハザード比(HR) 0.61(プラセボ群に比し39%低い)と有意に減少させました(図3)。治療必要例数NNT(number needed to treat)は19でしたが、これは19人に投薬して1人のイベントを予防できるという治療効果を示す指標で、小さいほど有効性が高いのです。NNTが19ということは、ほぼ使わなきゃいけない有効性の高い薬と考えられます。しかも糖尿病合併患者のHR 0.64(95%CI: 0.52-0.79)だけでなく、非糖尿病患者でもHR 0.50(95%CI: 0.35-0.72)と驚異的な有意な低下が認められました。

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 eGFRが50%以上低下した患者はHR 0.53と有意に減少しましたが、腎死はN数が少なかったため、検定できず、心血管死はHR 0.81でしたが有意ではありませんでした(図4)。二次エンドポイントである複合腎エンドポイントあるいは複合心エンドポイント(心血管死+心不全による入院)についても、ダパグリフロジンはHRをそれぞれ 0.56と0.71と有意に減少させました。初期に腎機能の低下があったものの、その後のeGFRの低下は緩徐で、他のSGLT2阻害薬と同様に約1年後にプラセボ群とeGFRの変化曲線が交叉し、以後は高いeGFRを保っていました(図5)。一次エンドポイントについて、糖尿病患者と非糖尿病患者で層別しても、HRは前述のように、それぞれ0.64と0.50であり、非糖尿病患者においても、ダパグリフロジンの腎・心保護作用が証明されたのです。またeGFR 45mL/min/1.73m2未満か以上か、アルブミン/gCr比 1000未満か、それ以上かで層別しても、両群でダパグリフロジンの腎・心保護作用に差異

はありませんでした。

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引用文献
1)Zinman B, et al: N Engl J Med 373:2117-2128, 2015
2)Wannar C, et al: N Engl J Med 375:323-334, 2016
3)Brenner BM, et al: B Engl J Med 345: 861-869, 2002
4)田辺三菱株式会社: カナグル錠100mg医薬品インタビューフォーム, 2021年10月24日閲覧
5)Heerspink HJ, et al: N Engl J Med 383: 1436-1446, 2020

 

 

プロフィール

平田純生
平田 純生
Hirata Sumio

趣味は嫁との旅行(都市よりも自然)、映画(泣けるドラマ)、マラソン 、サウナ、ギター
音楽鑑賞(ビートルズ、サイモンとガーファンクル、ジャンゴ・ラインハルト、風、かぐや姫、ナターシャセブン、沢田聖子)
プロ野球観戦(家族みんな広島カープ)。
それと腎臓と薬に夢中です(趣味だと思えば何も辛くなくなります)

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