第41回の「基礎から学ぶ薬剤師塾」は2024年11月15日(金)18時半から(20時までの予定)です。登録していただいた方のみ視聴できます。ライブのみで再放送はありませんが、質問をお受けすることができます。医療関係者であればだれでも、無料で毎回視聴できます。
「腸腎連関」という用語が汎用されつつありますが、腎機能を悪化させ、心血管病を引き起こす尿毒素は腸内細菌が持つ酵素によって産生されます。そこで今回のテーマは「CKD、透析患者の病態と腸内細菌叢の変化」です。近年、インドキシル硫酸、パラクレジル硫酸に加えてトリメチルアミン-N-オキサイド(TMAO)が新たな尿毒素として注目されています。透析患者は透析でよく抜けるカルニチンが欠乏しますが、カルニチン錠ではなく、静注製剤を用いるべきです。それはなぜかわかりますか?
そしてプロバイオティクスとしては酪酸菌が腸漏れleaky gutを防ぐことで注目されています。腸内細菌叢を健全に保つことは腎機能悪化や心血管病を防いでくれるだけでなくアレルギー疾患や自己免疫疾患の発症予防にもなります。
参加を希望される方は 申し込みフォーム に記入のうえ、11月10日までに送信してください。
薬剤師塾となっていますが、医師・看護師など医療従事者であれば参加可能です。
2024年12月~2025年3月 基礎から学ぶ薬剤師塾 予定表
回数 | タイトル | 日程 |
42 | SGLT2阻害薬について深掘りしてみよう~腎機能低下抑制作用とAKI防止作用の謎~ | 2024.12.20 |
43 | 慢性心不全とその治療薬~これからはFantastic Fourの時代~ | 2025.01.17 |
44 | 透析患者の便秘は「たかが便秘」ではない深刻な合併症 | 2025.02.21 |
45 | 腎機能悪化を防ぐこれからのtriple therapy~SGLT2阻害薬、RASi or ARNI、MRAの適正使用について考える~ | 2025.03.14 |
このウエブセミナーでは「まとめの部分」を時間が足らずに、というか、いつもの平田の冗長な話し方のため、うまくまとめられませんでした。言い足らなかった部分を以下にまとめさせていただきます。
1.PK/PDにも限界はある~①PPIについて~
PK(pharmacokinetics)/PD(pharmacodynamics)理論、つまり薬物の血中濃度推移と臨床効果の関係がほぼ確立し、有効かつ安全な投与設計が確立しているのは抗菌薬・抗真菌薬くらいです。抗菌薬・抗真菌薬のPK/PDに関しては米国ウィスコンシン州のMiddleton Memorial Veterans HospitalのWilliam A. Craig博士による感染症マウスを使った実験によって体系化されました。Craig先生は2016年の日本TDM学会で来日し、ご講演される予定でしたが、直前になって脳卒中のため、来日できなくなったため、その当時、TDM学会の理事であった平田は大いに落胆したことを覚えております。
TDM対象薬は現在、抗てんかん薬22種、抗不整脈薬16種、免疫抑制薬6種、抗菌薬11種、抗がん薬4種、テオフィリン、ジゴキシン、リチウム、サリチル酸、ハロペリドール、ブロムペリドールの65種ありますが、TDM対象薬であっても抗てんかん薬などではPK/PDが不明なものもあります。ただし抗てんかん薬に関してはノンコンプライアンスを血中濃度を測定して確認することはできます。
抗菌薬と異なり、多くの薬物に関してはPK/PD理論が通用しない薬物が多くあります。例えば、薬物の生体内での曝露量と作用(期待される薬効と副作用)の関係が不明な薬は多くありますし、曝露量と作用強度が相関しない薬もありますし、効果が用量依存性ではない薬もあります。例えばPPIもプロトンポンプを不可逆的に阻害するので血中濃度と効果は相関しないことは皆さんよくご存じですね。ネキシウムⓇの半減期は1~1.5時間と短いので、半日後には血中から消失しているはずなのに1日1回の投与でOKですよね。でもオメプラゾール注やランソプラゾール注は内服薬のFが50~60%程度なので、1日の経口用量の2倍以上と、かなり高用量になりますが、1日2回投与になっているのはなぜなのでしょう?
おそらく、注射薬は消化管出血などの重症な場合には1日2回の投与でないと有効性が示されないような緊急時に使うためにあり、症状が改善すれば内服薬に切り替えます。つまりPPIの静注製剤の投与は緊急事態の時に短期使用のみで、用量が多いのは早期から効果を得るためです。それと平田の個人的な感想ですが、プロトンポンプのturn overが非常に短いからというのも関係していると思っています。これも個人的な感想なのですが、熱いものを食べて口の中に水泡ができても1~2日で治りますよね。でも手足を火傷してできた水疱は数週間消えません。だからプロトンポンプの存在する胃壁の細胞の入れ替わる時間turn overが極めて短いため、重症の場合、1日1回よりも2回投与の方が効いているのだと思っています。調べてみると皮膚のturn overは4~6週間、消化管粘膜のturn overはずっと早く1~3日と言われているそうです。
2.PK/PDにも限界はある~②SGLT2阻害薬について~
「SGLT2阻害薬の消失半減期は通常、10時間前後と長いけど、トホグリフロジンの半減期は4-6時間と短いので、主に日中に作用し、夜間頻尿になりにくい」という情報を聞いたことがありませんか?様々なウェブ検索で複数の医師・薬剤師がこのように言っていますが、僕はこれらの考えに懐疑的です。SGLT2阻害薬の服用を中止して数日間継続して血中濃度がゼロになっても尿糖排泄作用は持続します。SGLT2阻害薬の服用を中止しても尿糖の陽性は数日以上持続するからです。
しかもSGLT2阻害薬の利尿作用は持続しないので、夜間頻尿になりにくいメリットは1日~数日(ループ利尿薬を併用するとこの期間は延長します)です。SGLT2阻害薬だけでなく他の利尿薬も初回投与と同等の利尿作用を示しません。それは腎尿細管の遠位部での抗利尿ホルモンやNa+/K+/Cl-共輸送体、Na+-Cl-共輸送体やアルドステロンなどの生体防御機能によってホメオスタシスが保たれているからです。 SGLT2阻害薬、利尿薬の尿量増加作用がなくなると言っているのではありません。初期の利尿作用と同じ利尿作用は続かないのです。だってフロセミドをはじめて飲んだ時に1.0L/日の尿量増加が得られるとしても、毎日1.0L/日の尿量が持続すればみんな重篤な脱水によって死の危機にさらされますよね。でもそうならないために生体の防御系が働いているので、強力な利尿作用は持続しないのです(図1)。
随分、難しい話になってごめんなさい。でも薬物動態を意識した投与設計ができる医療人は薬剤師だけなのです。医師は薬物動態学を学んでいませんから。だから薬効(PD)を理解し患者の病態をしっかりと把握している医師と、PKを理解している薬の専門家である薬剤師が患者さん個々の薬物療法において協力することができれば、最高の薬物療法を提供することができるはずです(図2)。皆さん、これから医師との会話をできるだけ増やして薬剤師の力を発揮していただきたいものです。頑張ってください。
講演依頼に関しましては平田のメールアドレス hirata@kumamoto-u.ac.jp までお気軽にご連絡ください。
9月に収録された第36回薬剤師アカデミーウェブセミナー「どんな薬かをイメージしてみよう! 学び直し 薬物動態学」では講演後のアンケートでたくさんのあたたかいご意見をいただきました。この中で個人が特定できそうな内容や、少し強めのご意見は除いて、お見せすることが主催者の株式会社EPファーマライン様のご厚意で可能になりましたので開示させていただきます。また第36回薬剤師アカデミーを見逃した方、公開期間は2024年10月8日までですが、見ることが可能になりました。
今後は「平田の薬剤師塾」後のアンケート内容も個人の特定されないようなものを除き、ためになるご意見やご批判も載せていき、今後の運営の参考にさせていただこうかなと前向きに考えています。
平田純生
1.平田先生の著書はいつも参考にしています。平田先生の講義が聞けてさっそく役に立ちそうです。
2.とても分かり易くかつ面白く、90分があっという間でした。先生のホームページでも、ぜひ勉強させていただきます。
3.平田先生の講義は大変ためになり興味あるので勉強になりました。平田塾のサイトも確認してみたいと思います。
4.薬物動態が少し好きになりました。
5.苦手な薬物動態に関して大変分かりやすく講義いただいてとても嬉しかったです。実際の現場での薬の使い方をもっと具体的に聞きたかったので、続編の講義をぜひお願いします
6.普段薬物動態まで考えて仕事をしていなかったので、目から鱗な話が多くて聞いて良かった
7.薬物動態学は学生時代ぶりで忘れていましたが今回の講義を聞いてとてもためになりました。
8.学生の頃から苦手だった分野なので有り難かったです。これをきっかけに先生のブログで勉強したいと思います。
9.日常の業務中にももっと1つの薬剤、1枚の処方箋について深く掘り下げたいと再認識しました。
10.日頃の疑問がある程度解決されましたが、まだまだ、学習が足りないため、もっと努力が必要。学習の方向性を定めるための有意義な講義だった。
11.グラフや数値を表示させて口頭説明するだけでなく、それらによりどう解釈できるのか、結論まで文章で表示していただけたので、大変わかりやすかったです。振り返りやすいです。
12.ずっと平田先生の講義を楽しみにしておりました。薬物動態が苦手という意識が和らぎました。大変勉強になりました、ありがとうございました。
13.薬物動態について大学時代の勉学の意義を改めて感じられる素晴らしいご講演でした。
14.それぞれの剤形の薬物動態について詳しく学び直すことができ、とても勉強になりました。また他の方がされていた質問も鋭い視点のものが多く、勉強になりました。
15.わかりやすかったです。というのも、例題を、交えたり、色々なことに例えて下さいましたので、楽しかったです。平田先生のブログを見させて頂き、更に勉強したい気持ちが湧きました。ありがとうございます。
16.やはり講義が素晴らしいです。教えたい、という先生の熱意が伝わってきます。また、知りたいことについて話してくれる、とてもスッキリするご講演です。
17.薬物動態は一つ一つ理解するとより薬剤師として成長できると感じた。
18.大学での勉強以来、業務に活かしづらいため失念していた部分がありましたが、改めて学び直すことができ、大変面白かったです。
19.薬物動態学を苦手なまま薬剤師として働いていることに大変恥ずかしいという思いを抱きました。しっかり勉強・理解をし直して、患者さんのために働いていかなければと決意を新たにしたところです。ありがとうございました。
20.薬物動態は仕事中意識することが少なかったが、考え方や捉え方を参考に患者さんへのアドバイスなどに生かせそうです
21.大学で学んだはずなのに実務でほとんど活かせておらず、このままではいけないと感じて受講しました。症例形式でイメージしやすく、もう一度教科書を開いて学び直しをしたいと思えました。患者さんの治療に還元できるよう、今日から頑張りたいです。
22.苦手だった薬物動態をわかりやすく説明していただき、とても理解しやすかったです。これからやり直して学んでいきたいと思います。
23.基本的な内容から、腎機能低下時の投与量の計算という臨床に役立つ内容まで幅広く勉強になりました。薬物動態というと難しいイメージがありますが、平田先生のお話はわかりやすかったです。ありがとうございました。
24.薬剤師の職能を発揮できる分野であるのに、とても苦手な分野です。学び直しをしよう!とやる気がでました。きっかけを与えてくださりありがとうございました。平田先生のブログは存じておりましたので今後も拝読させていただきます。本日は大変ためになる講義ありがとうございました。
25.薬物動態が苦手なので少しでも理解が深まればと思い受講しました。 今回のセミナーをきっかけに取り組みやすくなったので続けていきたいとおもいます
26.学生時代以来、久しぶりに聞く用語などもあり、復習的な部分と実例を用いた実践的な部分があり、勉強になる内容でした。
27.苦手な分野であったが、分かりやすく説明いただけ良かった。ただ基礎知識がないため理解が難しいところもあった。もう一度やり直してみます。先生が仰るように、かっこいい薬剤師になりたいです。ありがとうございました。
28.恥ずかしながら薬物動態学に触れるのは学生以来でしたが、わかりやすく噛み砕いて説明してくださり興味を持って学ぶことができました。動態学の基礎から、筋肉量が少なく見かけの腎機能がよくなる例にいたるまでたいへん勉強になりました。少しずつでも、今日学んだことをもとに学習を続けていきたいと思います。ありがとうございました。
29.今まで薬物動態についてよく分かりませんでしたが、初めてなるほど~と思いました。添付文書をより活用できそうです。学生時代に平田先生の講義を受けたかった!平田先生の薬剤師塾で勉強します!
30.苦手だしもはや諦めていた薬物動態を、大学時よりも関心強く聞き、少しかもしれませんが理解が深まったと感じました。薬剤師としてより自信を持って取り組める気がするので、ブログの方も読ませていただこうと思いました。タイトル通りの良いセミナーをありがとうございました。
31.病院勤務ですが精神科ということもあり、日頃は調剤業務がほとんどです。今回の講義で、本当の薬剤師の存在意義は何なのかを考えさせられました。もっともっとお話を聞きたかったです。
32.薬物動態、これまで何回聞いたり調べたりしても、結局身につかないまま、使うこともないまま、ここまできてしまいました、、。とても分かりやすく、テンポの良い講義で、これなら薬物動態も好きになれそうと思いました。HPなど参考に見直ししたいと思います。ありがとうございました。
33.苦手な薬物動態を自己研鑽するきっかけになればと思い拝見させていただきました。現場でどう考えるか、例をまじえての話があり分かり易かったです。ありがとうございます。
講演依頼に関しましては平田のメールアドレス hirata@kumamoto-u.ac.jp までお気軽にご連絡ください。
第40回の「基礎から学ぶ薬剤師塾」は2024年10月18日(金)18時半から(20時までの予定)です。登録していただいた方のみ視聴できます。ライブのみで再放送はありませんが、質問をお受けすることができます。医療関係者であればだれでも、無料で毎回視聴できます。
今回は薬剤師が病態を解釈し薬物療法の効果を確認し、服薬指導に生かすために必須の「検査値・臨床データから病態をどう解釈し、服薬指導にどう生かす?~生活習慣病編~」です。糖尿病、CKD、高血圧による腎硬化症、心不全などの生活習慣病症例の病態を解釈し、より有効な薬物療法を遂行するための検査値や生理機能検査の見方について考えてみましょう。
参加を希望される方は 申し込みフォーム に記入のうえ、10月13日までに送信してください。
薬剤師塾となっていますが、医師・看護師など医療従事者であれば参加可能です。
2024年11月~2025年3月 基礎から学ぶ薬剤師塾 予定表
回数 | タイトル | 日程 |
41 | CKD, 透析患者の病態と腸内細菌叢の変化~腎機能悪化、心血管病変発症のカギは腸内細菌が握っている~ | 2024.11.15 |
42 | SGLT2阻害薬について深掘りしてみよう~腎機能低下抑制作用とAKI防止作用の謎~ | 2024.12.20 |
43 | 慢性心不全とその治療薬~これからはFantastic Fourの時代~ | 2025.01.17 |
44 | 透析患者の便秘は「たかが便秘」ではない深刻な合併症 | 2025.02.21 |
45 | 腎機能悪化を防ぐこれからのtriple therapy~SGLT2阻害薬、RASi or ARNI、MRAの適正使用について考える~ | 2025.03.14 |
以下は講演後にいただいた質問に回答させていただきます。 今回の講演で言い足らなかったことは、数日後までにまとめて解説したいと思います。
平田純生
1.講演内容からはずれるかもですが、アダラートCRの動態部分で。 L,CRの動きがわかったのですが先発とGEの錠剤の構造が違う(先発は梅干しみたいになってません?)のにGEと同じ動態を示すというのはどう考えたらよいでしょうか?もしくは先発とGEでBAが異なるということになりますか?
A.個人的な感想ですが、バルクに賦形剤を加えただけの白色裸錠であれば先発とジェネリックに差があるとは思えませんが、アダラートCRはバイエル社の高度な製剤技術によって血中濃度が安定化するように作られた製剤ですので、このような特殊製剤は先発とジェネリックのBAだけでなく血中濃度推移も変化する可能性があるため、先発品のアダラートCRを個人的には使いたいと思います。でも製剤技術の高いジェネリックメーカーもかなりの努力をしてアダラートCRの血中濃度推移とほぼ重なるように努力していますね。どの社のジェネリックを導入するかが薬剤師の腕の見せ所かもしれません
2.授乳中に気をつける投薬タイミングはありますか?
A.申し訳ありません。私は婦人科の薬については勉強不足なので回答できません。
3.IFでも入手できないデータが多くて動態計算ができないというケースが多いのですがIFでもわからない動態の各種データはどのように入手しているのでしょうか?
A.薬物動態学、薬剤学専門誌に掲載された日本語・英語論文に載っている場合があります。検索ワードは薬名と薬物動態pharmacokinetics, 知りたいパラメータ名を入力して検索すればよいでしょう。それとインタビューフォームのデータは基本的に若年成年男子ですから、透析患者、高齢者の動態パラメータを知りたいときがよくありますが、その時は血液透析hemodialysis、高齢者elderlyを検索語に加えます。
4.キノロン系の毒性とは、どのようなものがありますか?
A.痙攣はよく言われていますが、どちらかというと安全性の高いと言われているβラクタム系抗菌薬の最重要な副作用(アレルギー性副作用を除けば)だと思っています。QT延長、血糖以上、アキレス腱炎、光線過敏症などがありますが、クラビットⓇが古くからあって製造中止にならずによく使われているのはこれらの副作用が少ないよい薬(運のよい薬かも?)だからかもしれません。キノロン系の毒性ではありませんが、キノロン系の最大の問題は抗菌スペクトルが広すぎる「原爆のような薬」ですので、有益な共生細菌叢まで殺菌してしまいます。そのため耐性菌を増やさず、ずっと有益な抗菌薬として使い続けるためには、安易に使用せず、「生命を左右する病態の時に限り」使う最終兵器として残しておくべきではないでしょうか。
5.門前医が「AGE制限食」を推奨しています。平田先生はどう思われますか?
A.AGE(Advanced Glycation End Products:終末糖化産物を増やさない食事というのは意識したことがありません。ただし糖質の摂取過多は血糖値を上げインスリン分泌を促し、糖尿病・肥満を助長しますので、よいはずがありません。糖質制限、空腹、絶食はオートファジーを亢進してミトコンドリア機能を高め、長寿遺伝子を活性化して長生きできることが最近の今井眞一郎先生やD.Sinclair先生などの報告で明らかになっています。かといって厳格な糖質制限食(ケトジェニックダイエット、ライザップの減量法)は肉・卵・チーズはいいけどごはんやパンは一切NGというものなので、極端すぎて続けにくいです(だってたまには寿司やラーメンも食べたくなりますから)。それと食物繊維としての野菜はたくさん摂取すべきだし、糖質の多すぎないフルーツは適度に摂取した方がいいと思っています。僕は緩やかな糖質制限食、ロカボ食+野菜たっぷりが持続しやすいと思って実際に実践しています。厳格な糖質制限食と同じケトーシスの状態にしてくれる薬がSGLT2阻害薬です。DMだけでなくCKDや心不全の病名があれば、辛い食事療法を強いるくらいなら1日1錠のフォーシーガⓇかジャディアンスⓇ錠をのんでいただいたほうが、楽でしかも透析導入を減らして医療費削減できるのではないかと思っています。そしてSGLT2阻害薬のややこしい副作用は薬剤師の服薬指導で防いであげましょう。
6.私の勤める薬局のお隣のクリニックの医師は、レボフロキサシンを処方される際、腎機能に問題のない患者に対しても250mg/日でしか処方なさいません。今回のご講演内容を聞く限り、この使い方では薬効が十分に得られるか、薬剤耐性菌が発生しやすくならないかと不安になりますが、先生はどう思われますでしょうか?
A.まさにその通りです。250mg/日では、世にも恐ろしいMICの高いmutantのみが生き残って、キノロン耐性が蔓延する可能性がありますから止めてほしい処方です。でもそれ以前に、開業医がレボフロキサシンのように殺菌力が強力で広い抗菌スペクトルの薬を投与する必要はないように思われます。あとは質問4と同じです。
7.本日は大変貴重なご講演ありがとうございます。
講義内容にはないですが、サムスカについて教えていただきたいです。
心不全に対してはeGERの具体的な数値がメーカーからは示されていません。
重度の腎障害とは、APDKDと同様に15以下と考えて良いでしょうか?それとも医師の判断で15以下でも使用して良いのでしょうか?
A.通常の考え方は重度の腎障害=高度腎障害でeGFR<30で、15未満を末期腎不全end stage kidney diseaseと言いますが、サムスカに関しては添付文書で重篤な腎機能障害(eGFR 15mL/min/1.73m2未満)と定義しており、APDKDには禁忌となっています。でもいつものeGFRが15以上ある患者さんが1回だけでも14になったので「禁忌です」と疑義紹介する薬剤師を「デジタル薬剤師」とぼくは呼びます。患者さんを診る場合には長期的な目線で病態の変化を観察すべきですし、CKDの重症度分類の判断は3か月間持続した時点でステージが上がったと判断すべきだと思っています。
8.精神科の処方箋で併用禁忌をDrに伝えても処方変更にならないことがあるのは何故でしょうか?
A.ごめんなさい。精神科の薬物療法についてはよく知りませんので、答えられません。
9.高齢者、腎機能不明で泌尿器科検査後にクラビット500mg1錠1回のみの処方を何度か受けたことがありますが、auc/mic の観点からは効果的に問題ないでしょうか。
A.AUC/MICが大きい=投与量が多いということで問題ありませんし、1日1回投与であればMICの高いmutantも殺菌できますので、よい投与法、というよりクラビットの普通の投与法です。
10.るい痩著明・寝たきりの方の血清クリアチニン値だけをみて、主治医が腎機能悪くないから!とよく言い、何度、筋肉量の説明しても理解していただけないため困っています。どうすればよろしいでしょうか?
A.寝たきり高齢者で血清クリアチニン値が0.2~0.3mg/dLであればeGFRは150以上(正常値は100)になりますが、この時のeGFRを信じてはいけません。クレアチニンは筋肉にあるクレアチニンの分解産物ですから、筋肉量が少ない=サルコペニアと判断すべきです。ただし腎機能がかなり悪くなれば血清クレアチニンが排泄されなくなるので明らかに上昇するはずですから、血清クリアチニン値が0.2~0.3mg/dLの患者の腎機能はそんなに悪くはないはずです。でも80歳以上でシスタチンCで測定するとeGFRが60以上あることはまれです。ということで僕は血清クリアチニン値が0.2~0.3mg/dLの寝たきり高齢患者の腎機能はeGFR45~60程度だと思っています。ただし85歳の寝たきり高齢患者で血清クリアチニン値が0.6以上あれば、腎機能はかなり下がっているはずなので、ハイリスク薬を投与するときにはシスタチンCの測定を医師に依頼します。
11.頓服で効く薬、効きにくい薬の差は、1回で有効血中濃度に入るかどうかと考えてよろしいでしょうか。
A.一般的な臨床薬理学的な考え方では血中濃度と薬効の相関性は高いので、血中濃度が高いほどよく効き、高すぎると中毒性副作用が起こると考えます。有効性が高く、副作用が起こらない血中濃度を有効治療域とします。頓服で効く薬は効果発現時間が短く1回の服用で有効濃度に入る必要があります。効果発現時間が短い薬は一般的に効果持続時間も短いですから定常状態のない薬が多いです。
12.最後の症例に関して質問です。小柄な女性での腎機能評価という所だと思うのですが、標準化eGFRを個別化eGFRとして算出して使用するのは適さないのでしょうか?実際に計算するとおそらく適していないとは思うのですが、どのような場合であれば個別化するのが適するのでしょうか?
A.標準化eGFR(mL/min/1.73m2)はCKDの重症度診断のために用いる検査値です。薬物投与設計には個別化eGFRを使うべきです。個別化しても最後の症例のeGFRは高すぎます。
13.フロモックスは腎機能低下者の減量すべきと書籍に記載がありますが、先生のお話では減量は必要ないと考えてよろしいのでしょうか?
A.フロモックスだけでなく経口セフェムなどのβラクタム系は腎排泄性ですから、腎機能に応じた減量が推奨されます。しかしβラクタム系で問題になる副作用はアレルギー性の副作用がメインで投与量過多による中毒性の副作用は極めてまれで、透析患者なのイミペネムを毎日1gの点滴をしたら、1週間後に痙攣が起きるくらいで、低用量の経口セフェム薬は極めて安全性が高いです。10年以上前には「腎不全患者にフロモックスが常用量投与されていたので医師に減量をお願いして適正使用に貢献した」という開局薬剤師の学会発表がよくあったのですが、「初日から減量したら有効濃度まで上がらないので、適正使用にはならない。だって感染症は急性疾患だから初日から効かせる必要があるはずなのに」と思っていました。ということで僕はβラクタム系は腎機能が低下していても初日は常用量投与し、2日目以降は腎機能に応じて減量すべきという考えです。だって投与量不足で初期感染症を抑えられなくて入院・死亡となってしまったら、あとで絶対後悔しますから。
14.サルコペニア時に0.6の代入はやらないですか?
A.血清クレアチニン値が低すぎるので、0.6を代入する「ラウンドアップ法」をやっている薬剤師はとても多いです。だって安全性は確保できますから。でもラウンドアップ法では有効性を担保できない症例が一定数いるのです。血清クレアチニン値が低い方はサルコペニアの方もいますが、腎機能がいいという人も少ないですが一定数、必ずいます。これは僕の研究成果でも示しています。僕は0.6を代入するんだったら腎機能を測らないと同じ、なんでクレアチニンが役に立たない症例であれば、シスタチンCの測定を依頼しないの?シスタチンCは3か月に1回しか測れない、ドクターが「シスタチンCってなに?聞いたことない」と言う、測定費用が高い、すぐ結果が分からない・・・・ってことは聞き飽きた。腎機能をしっかりみるべき薬剤師がこんな状態だから3か月に1回、高い、すぐ結果が分からない状態のままになってるんだよ。測定回数が多くなれば検査費用も安く、毎月測定可能で、検査センターもすぐ測ってくれるようになるはずなのに、医師も薬剤師もこの素晴らしい検査値を測ろうとしない。あ~情けない。
15.ニフェジピンの血中濃度の個人差はCYP3A4の遺伝子多型が原因かもしれないというお話がありましたが、CYP3Aの中で、遺伝子多型が指摘されているのはCYP3A5だけかと思っていたのですが、CYP3A4においても遺伝子多型が多いとの報告があるのでしょうか?ご教授いただければと思います。よろしくお願いいたします。
A.僕は「ニフェジピンの血中濃度の個人差はCYP3A4の遺伝子多型が原因」と言っているわけではなく、遺伝子多型があるCYPは2C9、2D6、2C19です。ニフェジピンは3A4の基質だから遺伝子多型はないはずなのに血中濃度の個人差が大きい。これが脂溶性薬物・肝代謝型薬物の特徴、薬物の肝代謝能を表す検査値は存在しないという例を示したかったのです。CYP3A4は小腸での初回通過効果をになっているため、個人差が大きくなることも原因かもしれません。水溶性の腎排泄薬物であれば腎機能に応じた投与設計が可能(一部非腎クリアランスが変化するものもありますが)ですから、薬剤師のレベルが上がれば腎不全患者であっても腎機能に応じて腎排泄型薬物を使うようになる時代が来ればいいなと思っています。これ以上、腎不全でバンコマイシン中毒など起こさないよう、もっともっと薬剤師のレベルを皆で上げていきましょう。