腎臓病教室 ~検査値と腎機能~
2日目 腎臓がやっている仕事の限界を知ろう
1日目で腎臓はすごいことができるスーパースターだと思っていないかい?腎臓はとても努力家であって天才ではないのだ。だから何でもできるわけではない。つまり水をいくら飲んでも処理できるわけではないし、塩を無制限に摂取したら、対処できないのだ。腎臓のできる仕事はすごいけれども限界がある。今回はしょっぱなから「腎臓の限界」について知ってもらうためのクイズに答えてもらおう。今日はすべて腎臓に関するクイズだ。
Quiz: 1. 健常者が1L/hrの水を飲み続ければ低Na血症になるか?
育薬に活用できるデータベースの下記の2表を改訂しました。
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1.腎不全・検査値
1.血清クレアチニン値が異常値になりやすい人 改定
26.偽性腎障害原因薬物2 改定
腎臓病教室 ~検査値と腎機能~
1日目 腎臓がやっている仕事
1.腎臓はどんな仕事をしているの?
時々、ラーメンが無性に食べたくなることがある。ほぼ毎日ラーメンを食べる人もいるかもしれないが、健康な人であれば、こんなにたくさんの塩の入ったスープを全部飲んでも高ナトリウム血症になったり、むくんだりしない。日本人のほぼ半分はお酒を飲むと赤くなり、血中アセトアルデヒド濃度が高くなって頭痛や吐き気がしてあまりたくさんのお酒を飲めない。平田もビールは大好きだが顔が赤くなる弱いタイプなので、たくさんは飲めないのだ。これはALDH2の働きが弱い、またはその酵素がないので、採血時のアルコール消毒でも皮膚が赤くなる人などはビールを小さなグラス1杯でも飲めない。小柄な女性でもALDH2の働きが十分あれば、大ジョッキのビール3倍飲んでも平気な人がいる。こんなに飲んでも健康であれば浮腫になることはない。また夏暑いときに大きな西瓜を半分食べたとしても、健康であれば高カリウム血症になることはない。塩の全く摂れない山中で遭難しても、水さえ飲むことができれば通常体型の健常成人は1~2か月は死ぬことはない。
ここで何度も「健康な人であれば」と念を押したのは腎機能が廃絶した人であれば、ラーメンスープを全部飲めば溢水、高ナトリウム血症になるし血圧も上がる。ビールをたくさん飲めば浮腫になり低ナトリウム血症になる。西瓜をたくさん食べれば高カリウム血症によって不整脈を起こして突然死してしまうであろうし、山中で遭難すれば、いくら水があっても尿毒症で死亡してしまう。では腎臓は具体的にどんな仕事をしているのだろう?
2.腎臓は“体液の恒常性(Homeostasis)維持”を司る臓器
水・塩分・電解質などの摂取量(in)は毎日、大きく変動しうるが、腎臓が尿の組成を変化させることによって(out)、体液量,体液の組成をほぼ一定で、狭い正常範囲に調節されている。
① 老廃物・薬物の排泄
② 体内水分を一定に保つ
③ 体液電解質濃度を正常に保つ
④ 血液のpHを7.4に保
これらに加えて以下の3つのホルモン作用も腎臓が関わっているので、覚えておこう。
⑤ 尿細管間質における造血ホルモン(エリスロポエチン)の産生
⑥ ビタミンDの活性化
⑦レニン分泌
ではどうやって①~④の「体液の恒常性を保つ」仕事をし、何のために一見、腎臓とは無関係な⑤~⑦の仕事をしているのであろうか?深掘りしてみよう!
3.糸球体のやっている仕事~腎機能は糸球体濾過量で表す~
左心室内腔から拍出される血液は1回に80mLで、心拍数は60回/分だとすると、80mL×60回で心拍出量はほぼ5L/minと考えられる。その心拍出量のなんと20%もの大量の血液である1.0L/分(60分で60Lだから24時間でほぼ1500L/日)が1個120~130g程度で2個併せても体重の0.5%に過ぎない「小さな腎臓」に流れている。いうまでもなく腎臓は、大量の血液をろ過する必要があるためなのだ。
腎動脈から分かれてきた輸入細動脈から入った血液1,500L/日は糸球体を通る間に50~60mmHgの高い糸球体内圧によって150L/日の原尿を産生し、ボウマン嚢から尿細管に原尿が流れてゆく。原尿産生速度は言い換えれば正常値が100mL/minの糸球体濾過速度(GFR: Glomerular Filtration Rate、つまり腎機能)を表す。イヌリンは100%糸球体濾過され、濾過された量が尿中排泄された量と等しい(つまり尿細管で再吸収も分泌されない)ため、GFRのゴールドスタンダードとされる。
そして薬剤師や医師は腎機能GFRが分からないと、腎排泄性薬物をどの程度減量すべきかが分からない、つまり腎機能低下患者や高齢者で容易に中毒性副作用が起こってしまうので、非常に重要で頼りになる検査値になる。
でも1.5Lの尿を作るのに150Lの原尿を濾過してからまた再吸収なんて無駄な仕事って思っていない?
「腎は尿を作る臓器」だろうか?間違ってはいないが不正確だ。「腎は老廃物や薬物などの不要なものを排泄し、身体にとって必要な栄養素はできる限り再吸収して、体液の恒常性を保つ臓器」が正解としたいと思う。「不要なもの、余剰なもののみの含まれた尿を作るという手段」によって「体液の恒常性を厳密に保つ」目的のために働いている臓器が腎臓といえる。150Lの原尿から1.5Lの尿を作るため、通常の水・Naの再吸収率は99%だけど濾過・再吸収という2段階の仕事をしているため再吸収率を1%から2%にするだけで1.5Lの尿を3Lにすることができるし、0.5%にすることで750mLにすることができる。だから腎機能の良い人はビールを大ジョッキ2杯(1.5L)飲んでも浮腫にならないし、水がなくても脱水で即死することはないが、これは健康な腎臓を持っているおかげなのだ。これは最初の原尿産生量が150Lという大量だから、余裕にできる芸当なのだ。もしも健康な人の原尿産生量、つまりGFRが150L/日から
自分を変えようとしたら、一歩踏み出すこと、そして継続すること。
止まっていれば変わることはなく、みんなに追い抜かれるだけだ。
誰かの役に立てること、そして正しいと思ったことを情熱をもって続けられたら幸せだよね。
患者さんを診る力と薬を見る力の両方に
情熱を注ぎ続けることができれば、
誰でも力のある薬剤師になれると思う。
第 24回 基礎から学ぶ薬剤師塾 Q&A
腎機能をしっかり見れる薬剤師を目指そう①
2023年4月8日チャットによる質問
①岡山済生会総合病院 横田健司先生
Q.いつもわかりやすい講演ありがとうございます。講演でもうお話し済みで聞き流していたらすみません。2011年以降は海外でも酵素法で測定されてるのでしょうか?もし2011年以降酵素法で測定した薬の添付文書にCCrでの記載でしたらCCrで推算してもよろしいのでしょうか?宜しくお願い致します。
A.講演で話した通り、2011年以降(正確には2010年12月31日より)は米・カナダではIDMS(isotope dilution mass spectrometry)法に準じた測定法に全面的に変更しました。クレアチニン測定法をIDMS法に変えたのではなく、各医療機関でIDMS法によって血清クレアチニン値が正確に測定された検体を用いてキャリブレーションするようになっただけのことです。これによってそれまでJaffe法を使っているために血清クレアチニン値が0.2高く測定される不都合が解消されました。米国に医療機関がより正確な酵素法に変えたのかどうかについてはよくわかりませんが、論文を読んでいるとJaffe法のままIDMS法に準じた方法に変えているものがありました。だから酵素法がどれだけ普及しているのかどうかは分かりませんが、おそらく米国では今もJaffe法を使っている医療施設は多いのだと思います。
2011年以降は基本的にIDMS法に準じた血清クレアチニン値をもとに算出されたeGFRを用いて治験するようにFDAがメーカーに指導していると思いますので、「2011年以降、酵素法で測定した薬の添付文書にCCrでの記載」というケースはなくなるはずです。ただし2010年までCCr を用いて行っていた治験中のものを2011年から急にeGFRに切り替えることはできません。CCrとeGFRが混在すると統計上、おかしなことになりますので、2011年以降もCCrで治験が持続された薬物は例外的にあると思います。この場合、CCrJaffeなので、講演で話したように酵素法による推算CCrEnzを使うのはあまりよくないと思います。
②ファーマライズ薬局株式会社 羽村知穂先生
Q.すみません。初歩的な質問ですが、eGFRとGFRは違うのでしょうか?
A.GFRは糸球体濾過速度glomerular filtration rateの略でイヌリンクリアランスのことで、静注投与されたイヌリンは「全く蛋白と結合せず、糸球体で100%濾過され、尿細管で再吸収も分泌もされずにそのまま尿中に排泄される」という特性から濾過されたイヌリン量=尿中に排泄されたイヌリン量になるため血漿イヌリン濃度×糸球体濾過速度(mL/min)=尿中イヌリン量×尿量になります。この式を変形すると
GFR(mL/min)=尿中イヌリン量×尿量/血漿イヌリン濃度 となってGFRが算出できます。
eGFRは推算糸球体濾過速度です。国内80施設が参加して413人を対象に腎機能評価のgold standardであるイヌリンクリアランス(GFR)と血清クレアチニン値を測定し、2009年に大阪大学の堀尾勝先生が以下の新たな推算式を作成しました(Matsuo S, et al: Am J Kidney Dis 53: 982-992, 2009)。
eGFR(mL/min/1.73m2) =194×Cr-1.094×Age-0.287×0.739 (女性)
この式によって血清クレアチニン値、年齢、性別の3項目だけで腎機能を推算することが可能になりました。
eGFRは体表面積補正されていますので、これによって体格に関係なく、腎機能がよいのか悪いのかをG1(正常または高値)~G5(末期腎不全で透析が必要)と診断することができるようになりました(図)。CKDはeGFR(mL/min/1.73m2)が60mL/min/1.73m2未満か蛋白尿またはアルブミン尿が陽性が3か月以上持続した場合、CKDと診断します。
③千葉大学医学部附属病院 椎名瞳先生
Q.抗菌薬治療の参考書であるサンフォードではCCrを元に記載されていますが、患者の体格を考慮すると個別化eGFRを当てはめ、かつ感染の重症度で判断すべきでしょうか。
A.日本の抗菌薬TDM臨床実践ガイドライン2022も、それ以前の2016年も基本的にCCrではなくeGFRに変わったと思います。ただし重症感染症に罹患しやすい方は、ほとんどが高齢者で免疫能が低下して栄養状態の不良な方々です。講演でも話した通り、栄養状態が不良で活動度が低下した方の筋肉量は少ないので、eGFRでは腎機能が過大評価されるのでほとんど使えません。使えるとしたらシスタチンCを用いたeGFRcysか、蓄尿による実測CCr×0.715でGFRとして評価する方法のみです。感染症専門の薬剤師の前で講演した時には、血清Cr値によるeGFRcrは感染症症例では過大評価することがほとんどですから、よりフィットしやすい推算CCrを用いている方がほとんどでした。サンフォードでもCCrがフィットしやすいために用いているのか、新たな抗菌薬が開発されていない=eGFRで治験された抗菌薬がないから治験時の腎機能のCCrを使っているのかよくわかりません。米国ではFDAはeGFR≒ 推算CCrとみなしてよいとしているので、そのままCCrを使っていても問題ないからかもしれません。例えば95歳の認知症患者でご家族が延命を望まない症例と、70歳で本人もご家族も延命を望んでいる症例を同じよう「○○で腎機能を判断すべき」などとは言えません。どの腎機能で選択すべきかについては症例ごとにご自身で判断していただきたいと思います。
④日本調剤 中島鉄博先生
Q.「推算CCrがサルコペニアに意外と有効」というスライドがありましたが、最後寝たきりなどでは実測またはシスタチンCでないとわからないということで、推算CCrはどこまで有効なのでしょうか。
A.血清Cr値によるeGFRcrはサルコペニアでは確実に腎機能を過大評価します。推算CCrはサルコペニア患者には意外とフィットしやすいのは確かです。少なくともeGFRcrよりも推算CCrの方が加齢に伴う低下が急峻なため、高齢患者での過大評価の程度は少なくなります。ただし「どこまで有効」という疑問に答えられるほどの答えは持ち合わせていません。サルコペニア患者の腎機能の絶対値を知りたいのであればシスタチンCを用いたeGFRcysか、蓄尿による実測CCr×0.715でGFRとして評価する方法のどちらかを用いるのがベストだと思っています。
⑤望星薬局 加藤博昭先生
Q.本当に初歩的な質問で申し訳ありません。仮に毎日血清クレアチニンを測定すると、数値の変動はあるのでしょうか?それとも大きな変動はないのでしょうか?
A.基本的に体調や生活に大きな変化がなければ、血清クレアチニン値はいつ測っても一定です。だから朝に測っても夜に測っても一定で、月曜日に測っても水曜日に測っても一定です。筋肉の中に含まれる筋力のパワーの源となるクレアチニンリン酸がクレアチンとして約100g(男女差があるので男120g 、女80gで平均100gくらいじゃないかなと思います)ありますが、そのうちの1%の1gが非酵素的に老廃物のクレアチニンに変換されます。そして産生されたクレアチニンは不要な老廃物ですので、尿中にすべて排泄されます。
だから薬を24時間365日、持続点滴でクレアチニンを投与して一定の血中濃度に保ち、クレアチニンの尿中排泄率が100%で一定速度で排泄されているので、「クレアチニン産生速度=クレアチニン排泄速度という定常状態になっているため、血清濃度はずっと一定になっている」と想像すると薬剤師的には理解しやすいのではないでしょうか。
2023年4月8日アンケートによる質問
介護老人保健施設 玉川すばる 薬剤部 廣瀬里美子先生
Q.病院から老健に転職しましたが腎機能が危うい高齢者ばかりです。しかし点滴での水分が補充できない状態にあるが(ルートをとっていない)腎負担の薬剤を投与しなくてはならないシーンに出会いますが、十分な飲水もままならず薬用量については先生はいかがお考えでしょうか。マニュアル通りに(体格や生活スタイルは考慮していますが)もう一つ工夫はあるでしょうか。ご意見あれば教えていただきたくよろしくお願いいたします。
A.ご本人、および家族がずっと長生きしたい、長生きしてほしいと願っているのでしたら、患者様たちのご希望に沿って、一生懸命、治療する必要があると思います。
リハビリを積極的に取り組んでいて、全く介護を必要とせず、運動機会の多い方は血清クレアチニン値を基にした推算腎機能(eGFRまたは推算CCr)でほぼ正確な腎機能が分かると思いますが、老健施設では要介護度の高い高齢者がほぼ全員と思います。このような場合、ある種の工夫で腎機能が分かるなんて魔法のようなものはありません。面倒だとは思いますが、下記の①か②しか腎機能の真の値(に近いもの)を知ることは不可能です。
腎不全で血中濃度が上昇する本当に怖い薬を投与せざるを得ないときには①血清シスタチンCを測定していただき、eGFRcysを日腎薬のHPで計算して投与量を決める、②実測CCrを測定していただくのも腎機能を把握するにはよい方法ですが、おむつをしている患者さんには無理です。バルンカテーテルを入れ、蓄尿できる患者さんでは24時間畜尿は勧められませんが、実測CCrの測定をトライしてもいいかもしれません。
手束病院 楠本倫子先生
Q.聞き逃していたらすみません。リリカやTS-1の投与設計で血清クレアチニンに0.2を足して計算する方が良いという事でよろしかったでしょうか?日常的にその計算はした事がなかったのですが、そうすべき薬かどうかはどこで判断できますか?今日お話になかったDOACもそうなのでしょうか?
A.血清クレアチニンに0.2を足して腎機能を計算すると、米国でJaffe法による治験時のデータに極めて近くなります。ということは添付文書でCCrによる腎機能別用量の記載が信頼できるものになります。
ただしこの方法をすべての薬に適応すると、大変だと思いますので、楠本先生ご自身が、この薬はハイリスク薬とお考えであれば、トライしてみてください。DOACに関しては腎排泄型のダビガトランは絶対に避けること、そして腎排泄の影響の最も少ないアピキサバンなどを使うほうがよいと思います。
第25回 基礎から学ぶ薬剤師塾 2023年5月13日(土)13:30から15:30まで の申し込みを始めます。
登録していただいた方は再放送を繰り返し視聴できますが、再放送は質疑応答はできかねます。今回のテーマは「腎機能をしっかり見れる薬剤師を目指そう(2)初めて臨床現場での実践的な疑問にお答えします!」、つまり前月の続編です。このテーマは、薬剤師塾の中で一番、人気の高いテーマじゃないかなと思います。
今回は
(1)添付文書の腎機能別用量がCCrになっていた時
(2)添付文書の腎機能別用量がeGFR(mL/min/1.73m2)になっていた時
(3)筋肉量が少なすぎてeGFRが200mL/min/1.73m2以上になった時
などの場合にどうすればよいかについて考えてみたいと思います。
腎機能についての話は、結構難しい内容になりがちですが、前回の薬物投与設計のための腎機能の推算方法などの基本から、今回の実践編を併せると分かりやすくなるような気がします。
参加を希望される方は 申し込みフォーム に記入のうえ、送信してください。
薬剤師塾となっていますが、医師・看護師など医療従事者であれば参加可能です。ただし薬剤師塾への参加者は、ぜひ学会発表を目指している方に参加していただきたいと思います。そして活発なディスカッションに参加して薬剤師塾を大いに活性化いただける方に参加していただきたいと思っています。300名まで参加可能ですが、最近の登録者数は200名を超えていますので、早めに登録してください。