SGLT2阻害薬による心腎保護作用と急性腎障害抑制作用~ケトン体って何よ?~
5日目 SGLT2阻害薬の糸球体過剰以外の腎保護効果のメカニズムは?

(1)ケトン体の様々な作用

 SGLT2阻害薬を投与すると、尿中ブドウ糖排泄の増加により血糖値および血中インスリン濃度が低下し、グルカゴン/インスリン比が大きくなり、肝臓での糖新生が増加するとともに脂肪組織では脂肪分解が亢進して産生された遊離脂肪酸が肝臓でケトン体に変えられて全身循環します。ケトン体はケトアシドーシスの原因になる非常に危険な酸性の物質というイメージがあるかもしれませんが、最近になってブドウ糖に替わるエネルギー源として心臓・腎臓で利用されることによって、心腎の仕事の効率化・機能改善に寄与している、あるいはケトン体自身が健康にとって良い効果を持っているのではないか、という説が提唱されはじめています。ケトン体の中でアセト酢酸とβ-ヒドロキシ酪酸は酸性が強いので、血中のケトン体濃度が高くなるとアシドーシスになりますが、インスリンの働きが正常で、ブドウ糖の利用が適切である限り、ケトン体は安全なエネルギー源となるといわれています。

 例えば酸素消費量が非常に高いことで知られる心筋細胞では脂肪酸やケトン体、グルタミン酸塩、乳酸、酢酸が重要な原動力になっており、心不全になると、心臓はタンパク質分解によってより多くのケトン体と乳酸を消費するようになります1)。牛や羊などの反芻動物(ruminant)はブドウ糖ではなく、酢酸を主要なエネルギー源にしています。これは白鷺病院で透析中の低血圧やショックの原因がアルカリ化剤として加えている酢酸が原因だったということで、世界初の重曹透析液による多人数透析液供給装置による無酢酸透析を行った時に酢酸に関する英語論文を散々読まされたので、22-23歳当時の平田はruminantについては詳しかったものです。動物実験では糖尿病で心筋梗塞のラットにエンパグリフロリジンを投与すると非投与群に比し血清Cr値とNGAL(neutrophil gelatinase-associated lipocalin)値が有意に低下し、メサンギウム基質が減少し糸球体面積が低下し、ラットのAKI発症を予防します。NGAL、KIM-1(kidney injury molecule-1)などの腎障害マーカーのmRNAレベルを下げるだけでなく、腎のTNF-α, IL-1βなどの炎症性サイトカインのmRNAレベルも低下したことが報告されており、この論文でもケトン体のβ-ヒドロキシ酪酸の濃度が上がることによって糖尿病患者のAKIを予防できることに言及しています2)。同様に虚血再灌流モデルマウスにβ-ヒドロキシ酪酸を持続投与すると腎虚血によって起こる炎症や酸化ストレスを軽減する作用、近位尿細管の細胞死を減少させる効果があることも報告されています3)

 ケトン体はエネルギーの枯渇した心臓の代替エネルギーになるだけでなく、遺伝子転写、炎症と酸化ストレス、内皮機能、心筋リモデリング、心血管危険因子など多様な細胞過程に有利な影響を及ぼすことも明らかにされています4)。さらに飢餓状態や低酸素、活性酸素をなどの細胞ストレスで活性化されるNAD依存性脱アセチル化酵素Sirt1(silent information regulator 1:当ブログ「老化は避けて通れないもの」ではない -後編-で紹介したメトホルミンとレスベラトロールが寿命を延ばすことに関して解説した長寿遺伝子のサーチュインファミリーです!)とAMPK(Adenosine monophosphate-activated protein kinase:これもメトホルミンによって活性化され、ミトコンドリアのオートファジー機能[ライソゾーム依存性の細胞内分解経路で古くなったタンパク質を再利用する働き]を促進する機能をもちます)を活性化します。つまりSGLT2阻害薬投与によって産生されたケトン体を介してSirt1やAMPKが活性化され、抗酸化、心筋症の発症抑制作用を示すのです。またSGLT2阻害薬は貧血の改善と血清尿酸値の低下ももたらしますが、これもSirt1の活性化によると書かれていますが5)6)、これらについては基礎研究の苦手な平田の理解力を超えていますので詳しくは解説できませんが、SGLT2阻害薬による絶食に似た効果はSirt1とAMPKの活性化を介して、寿命を延ばす効果が期待できるかもしれません。また2型糖尿病患者の膵島ではオートファジー機構の不全があるのですが、SGLT2阻害薬がオートファジー機能を補完して心・腎保護作用を示し、エネルギーの恒常性を調節するのではないでしょうか。

  SGLT2阻害薬による腎保護効果は糖尿病腎臓病によるmTOR1(mammalian target of rapamycin 1)の過剰活性化をケトン体上昇によって抑制することに起因することも報告されています7)。mTORを阻害するとオートファジーが促進します。これも「老化は避けて通れないもの」ではない -後編-で紹介していますが、オートファジーによるたんぱく質の再利用は前述のように健康寿命を延ばすことが期待できます。

 糖尿病の病態はインスリン分泌が減少、あるいはインスリンが作用しにくい病態であるため、細胞内にブドウ糖を取り込めなくなる細胞内飢餓状態になって、様々な臓器障害を起こしやすのだと考えてみると分かりやすいかもしれません。糖尿病では主要なエネルギー源として糖を利用できにくいため、脂肪から肝臓で合成されたケトン体にATP産生源になってもらうことで腎臓病の悪化を防ぎ、心筋の代謝改善によって心不全の悪化を阻止しているのではないでしょうか。糖質とケトン体はほぼ同等のエネルギーを生産できるので、SGLT2阻害薬を投与してグルカゴン濃度を上げて肝臓で脂質からケトン体を作ることによって心収縮力が上がり、腎臓の機能が温存されるのだと思います。

 近位尿細管のS1およびS2セグメントはSGLT2が存在するところですから、ブドウ糖とNaがSGLT2によって再吸収されると近位尿細管上皮細胞内には大量のNaが入ってきます。ところが細胞内のカチオンの主役はカリウムですからNa+/K+ ATPase(Naポンプ)をフル稼働させてNaを細胞外に出してカリウムを取り込む必要があり、そのためには大量のATPが必要になるので、低酸素状態になった腎髄質での虚血に対してケトン体の利用が増えるのは理に適っていることではないでしょうか。腎臓の尿細管はATPを必要とする水、Na, Kを再吸収するトランスポータが豊富なため、ATPを産生するミトコンドリアが大量に存在しますし、心筋は拍動のためにATPを消費します。SGLT2阻害薬の投与によって近位尿細管上皮細胞でのATP消費が抑制されることも、RAS阻害薬や利尿薬、NSAIDsなどのTriple Whammy処方などによっておこる虚血性のAKI発症抑制に寄与しているのではないかと平田は愚考しております(図1: Naポンプを動かすために大量のATPが消費される)。ATPの産生に伴い活性酸素が産生され、酸化ストレスにさらされると尿細管やそれを取り巻く細動脈が障害されるはずだからです。そしてSGLT2阻害薬による酸化ストレスの軽減は腎臓だけではなく心不全状態で心筋虚血に陥っている心臓でも起こっているはずなのです。

 

(2)貧血改善作用と血行動態改善作用

 SGLT2阻害薬が脳梗塞を起こすのは、当初の新聞記事(1日目の図2)になった時のニュースでは利尿作用により生じる血液濃縮のためだと平田は思っていましたが、それだけではなさそうです。糖尿病や心不全、CKDではRASが刺激されて産生されるアンジオテンシンIIが腎尿細管間質性低酸素を誘発し(SGLT2阻害薬はTGFを抑制することによって体液量が減少することによってレニン分泌を促すのではないかと考察する専門家もいます)、低酸素誘導因子(HIF)を刺激し、エリスロポエチン産生を介して赤血球産生を促すことによると考えられています8)。それに対しRAS阻害薬が貧血に関与していることはよく知られていますが、糖尿病におけるSGLT2の活性化は腎尿細管間質を高グルコース環境にすることによってHIF-1を損ないエリスロポエチン産生細胞を損傷し、貧血を助長します。SGLT2阻害薬は投与数週間で貧血が改善し、RAS遮断薬に加えて投与されたSGLT2阻害薬によるヘマトクリット値の上昇は、達成された心腎保護に大きく寄与する可能性があるというのです8)。最近の総説ではSGLT2阻害薬はHIF-1αを抑制してHIF-2αを活性化し(前述のSirt1を介したHIF-2αの活性化するという専門家もいます)、それによって赤血球形成を増強すると同時に、オルガネラ(細胞内小器官)の機能障害、炎症、線維症を抑制することが明らかになっているようですが9)、これは平田の理解を超えておりますので詳しく解説できません。これが腎組織や心組織への酸素供給を高めることに寄与して、過剰の糖を再吸収することによって起こる近位尿細管の低酸素状態・虚血を改善して腎保護効果を示しています。そういえばRAS阻害薬の副作用に貧血がありましたよね。

 糖尿病患者のSGLTによるグルコース再吸収の増加はNaポンプによる過剰なATPを消費し(図1)、腎細管間質に高グルコース環境を作り出し、尿細管近傍にある腎エリスロポエチン産生細胞を損傷させ、EPO分泌低下と赤血球減少をもたらすそうです(図210)が、これは分かりやすいですね。 このことはRAS阻害薬単独だと貧血を助長するのに対し、SGLT2阻害薬を併用するとそれを打ち消してくれることもCKDの進行やAKIの発症を防ぐことになるかもしれません。それを裏付けるように3日目の図3ではSGLT2阻害薬阻害薬の腎保護作用はRAS阻害薬を併用したほうが、より腎保護作用が強い傾向が認められています(この考察が正しいかどうかは分かりませんが……)。

 非糖尿病虚血再灌流モデルマウスでは,SGLT2 阻害により尿細管への糖取り込みを抑制することにより,尿細管からの血管内皮増殖因子VEGF 発現増加に伴って傍尿細管低酸素症を抑制し、毛細血管網を改善し,尿細管周囲毛細血管うっ血を抑制して腎の線維化の発症を抑制することが報告されています11)。これによってもTriple Whammy処方などによって起こるAKIの発症を抑制することが期待できるかもしれません。図2に示すように酸素需要増大が腎虚血を起こしているのをSGLT2阻害薬によってEPO産生細胞が守られる、あるいは代替エネルギーのケトン体の多面的な作用によってEPO産生細胞の障害を防いでいるのかもしれません。

 

(3)血清尿酸値低下作用

 尿酸は糸球体でろ過された後、近位尿細管において尿酸トランスポータURAT1によってその90%が再吸収されますが、その後50%が分泌され、40%が分泌後再吸収されるため尿中には10%が排泄されます。SGLT2阻害薬はSGLT2を阻害することによって尿中にブドウ糖を排泄するため、管腔内の高濃度ブドウ糖が近位尿細管管腔側への尿酸の排泄を促進し、集合管で尿酸を再吸収するGLUT9 isoform 2(GLUT9: SLC2A9)を阻害することによって血清尿酸値をSGLT2阻害薬の用量依存的に低下させます(図312)。これはSGLT2阻害薬による尿酸低下作用は直接GLUT9を阻害するのではなく、SGLT2阻害薬による管腔中の高濃度のブドウ糖を介した作用と推測されています12)。GLP-1受容体作動薬投与群に比し、SGLT2阻害薬群において、痛風発症率リスクが有意に低かった(ハザード比0.64、95%信頼区間0.57-0.72)ことも報告されています13)

 

(4)NHE抑制による心保護作用

 Na/H交換輸送体(NHE-1: sodium hydrogen exchanger 1: Na+-H+ exchanger 1)は⼼筋細胞に発現しており、Na濃度勾配を利用して細胞内のHと細胞外のNaを1:1で交換輸送し、ナトリウムの細胞内への取り込みに働きます1)。NHE-1が過剰に活性化すると、Naの取り込みが過剰となり、細胞内のNa/Ca交換体を介して、Caの過負荷状態となります。そのためNHE-1 の過剰な活性化が、⼼筋細胞の損傷およびアポトーシスを誘発し、⼼線維化に繋がると考えられます14)。SGLT2阻害薬はNHE-1 に結合することによってその活性を阻害し、細胞内Na濃度を低下させる結果、細胞内Ca濃度を低下させて、⼼筋細胞の⽣存能を改善し、⼼線維化を抑制する可能性があると考えられています14)。腎臓にも近位尿細管にはNa/H交換輸送体3(NHE-3)が発現しており、Naを再吸収していますが、SGLT2阻害薬は腎臓においても阻害しているそうです。また腸管NHE-3阻害薬のtenapanorは食事からのNaの吸収を抑え、結果として細胞内のプロトン濃度を上昇させます。それにより、消化管のリン吸収を制御する細胞間接着を強固にして、強力にリンの取り込みを抑制する作用があるので、新たな透析患者用高リン血症治療薬として注目されています。

 心保護作用には、このほかにも利尿作用による体液量減少および左室の前負荷軽減、ケトン体産生による心筋のエネルギー効率の改善、貧血の改善、腎機能改善による「心腎連関」なども考えられます。そして心機能が改善すれば「心腎連関」によって腎血流の低下を防止することで腎機能の悪化も防止でき、腎虚血によるAKIを防止できるかもしれません。

 

(5)SGLT2阻害薬によるAKI予防効果がもたらすもの

 

 これから糖尿病を合併しないCKD治療にもSGLT2阻害薬が使えるようになったことは、2日目の図1,  図5で示されるように腎機能悪化速度を遅らせるだけではなく、併用されやすいRAS阻害薬、利尿薬(これだけでdouble whammy)によるAKIを帳消しにしてくれるかもしれない希望を持たせてくれることは福音に違いありません。だって高齢CKD患者がAKIを発症すると末期腎不全に至る確率がうんと高くなるのですから(図415)

 

 ということでまとめるとSGLT阻害薬の長期的腎保護作用およびAKI抑制作用は①尿細管糸球体フィードバックによってGFRを調節している、②ケトン体がブドウ糖の代替エネルギーとなって腎臓で利用され腎虚血によるエネルギー不足を解消してくれる、あるいはケトン体のβ-ヒドロキシ酪酸が抗酸化・抗炎症作用など心臓・腎臓に対して有利な作用を示す、③近位尿細管の過剰なATPの消費を防ぎ、腎細管間質に高グルコース環境を改善して、EPO分泌を促進して貧血を改善することによって近位尿細管の虚血状態を改善する、④心保護作用から期待される心腎連関や尿酸低下作用など、が考えられるのではないでしょうか。これらはSGLT2阻害薬が長期の腎保護効果だけでなく、短期的なAKIを予防してくれているメカニズムになるのではないかと思っています。

 

引用文献
1)Murashige D, et al: Science 370: 364-368, 2020
2)Ahmed A, et al: Biomed Pharmacother  2021 Jul;139:111624. doi: 10.1016/j.biopha.2021.111624.
3)Tajima T, et al: Kidney Int 95: 1120-1137, 2019
4) Yuriska S, et al: J Am Coll Cardiol 77: 1660-1669, 2021
5)Packer M: Cardiovasc Diabetol 2020 May 13;19(1):62. doi: 10.1186/s12933-020-01041-4.
6)Yang X, et al: Adipocyte 9: 484-494, 2020
7)Tomita I, et al: Cell Metab32:404-419, 2020
8)Marathias K, et al: Am J Nephrol 51: 349-356, 2020
9)Packer M: Am J Kidney Dis 77: 280-285, 2021
10)Sano M, et al: Clin Med Res 8: 844-847, 2016
11)Zhang Y, et al: Kidney Int 94: 524-535, 2018
12)Chino Y, et al: Biopharm Drug Dispos 35: 391-404, 2014
13)Fralick M, et al: Ann Intern Med 172: 186-194, 2020
14)Verma S. et al.: Diabetologia 61: 2108-2117, 2018
15)Ishani A, et al: J Am Soc Nephrol. 20: 223-228, 2009

 

 

プロフィール

平田純生
平田 純生
Hirata Sumio

趣味は嫁との旅行(都市よりも自然)、映画(泣けるドラマ)、マラソン 、サウナ、ギター
音楽鑑賞(ビートルズ、サイモンとガーファンクル、ジャンゴ・ラインハルト、風、かぐや姫、ナターシャセブン、沢田聖子)
プロ野球観戦(家族みんな広島カープ)。
それと腎臓と薬に夢中です(趣味だと思えば何も辛くなくなります)