SGLT2阻害薬による心腎保護作用と急性腎障害抑制作用~ケトン体って何よ?~
3日目 SGLT2阻害薬によるAKIの報告が少ない、
それどころかAKIを明らかに減らすのはなぜ?
SGLT2阻害薬の大規模臨床試験ではほとんどの患者でRAS阻害薬と併用されており、腎予後を主要アウトカムにしたCREDENCE試験では100%の患者が併用されています。また利尿薬も多くの報告で処方割合が多かったのですが、利尿降圧作用を有するSGLT2阻害薬は果たしてAKIを増やしたのでしょうか?実は調べてみるとSGLT2阻害薬はAKIを増やすに違いないというバイアスがあったからでしょうか、日本でも海外でも症例報告は脱水による腎機能低下などの報告はたくさんありました。そのころの平田は「やっぱりね」と思い込んでいました。
しかしDiabetes Careの2017年8月21日オンライン版1)ではSGLT2阻害薬を投与した群は、非投与群に比しKDIGO分類によるAKIの発症が50~60%低いという驚異的なデータが載りました。ただしMount Sinai, Geiingerという2つのコホートでSGLT2阻害薬によるKDIGOのAKI基準を用いてAKI発症率を調査したものでRCTではありません(図1)。2019年にはSGLT2阻害薬を投与されたRCT3試験のメタアナリ
シスによってAKIの可能性が増加するのではなく、一貫して確実に減少することが明らかになり(ハザード比0.66, 95%信頼区間0.54-0.80)2)、その3か月後にもSGLT2 阻害薬を投与されたRCT4試験のメタアナリシスによってAKIの可能性が増加するのではなく、相対危険度が0.75(95%信頼区間0.66-0.85)、つまりAKIの発症を25%減少することが明らかになりました(図2)3)。この論文を見てからは平田
も急性腎障害原因薬物一覧表からSGLT2阻害薬を除外しています。さらにSGLT2阻害薬を投与された41の研究で循環血液量減少に関連する副作用は、SGLT2阻害薬治療を受けた患者でより一般的に報告された(OR 1.20, 95%CI 1.10-1.31, p <0.001)ものの、AKIのオッズを0.64にしました(95%CI 0.53-0.78, P<0.001)4)。その後のメタアナリシスでも一貫してSGLT2阻害薬はCKDの進行を抑制するだけではなく、AKI予防効果も持つということが確認されています。しかもRAS阻害薬との併用はより効果が高いこと(図3:この理由は後述)、アルブミン尿(-)でも効いていること(図4)、eGFRは45mL/min/1.73m2min未満になった群、つまり腎機能が低下しても効かないわけではないことなども明らかにされました(図5)3)。SGLT2阻害薬は腎機能低下とともに効果が減弱すると言われていましたが、GFR<30mL/minでは血糖値は改善しないものの、体重・血圧は低下することが確認されています4)。
これらの結果については4日目に解説するDAPA-CKD試験でも同様なのですが、平田は以下のような疑問を持ちました。
しかしeGFR 45mL/min/1.73m2未満の患者でも効いている3)。これはDAPA-CKDでの対象患者はeGFR25~75 mL/min/1.73m2で試験期間中に15mL/min/1.73m2未満になった患者も数%います5)。日本のダパグリフロジンの添付文書にはeGFR 25mL/min/1.73m2未満では「腎保護作用が十分に得られない可能性がある」と記載があるものの、適応症は「末期腎不全または透析患者を除く」とあるため、15mL/min/1.73m2まででも投与できないわけではないと読み取れますし、透析導入になるまで使い続けることもあると思われます。SGLT2阻害薬がどこまで効果が期待できるのか今のところ誰も知らないのですから。
しかしメタ解析では正常アルブミン(尿中アルブミン/Cr<30mg/gCr)の方が微量アルブミン(尿中アルブミン/Cr30-300mg/gCr)よりもRRが低値(図4)3)でした。DAPA-CKDでもアルブミン/Cr比 1000未満でも1000mg/gCr以上と同様に効いています。また非糖尿病CKD患者でもDAPA-CKD試験で腎保護効果があることが確認されています。高齢高血圧患者の腎硬化症であれば蛋白尿(-)のケースが多いでしょうが、機能ネフロン数が減少すれば糸球体過剰濾過は起こっているはずと考えればいいのでしょうが、このような患者ではRAS阻害薬との併用は両刃の剣となって、AKIを起こすはずという次の疑問につながります。
しかし実際にはRAS阻害薬と併用した方が腎保護作用の成績がよかったのです1)3)6)。日本人CKD患者を対象にしたレジストリー(Japan Chronic Kidney Disease Database(J-CKD-DB)ではRAS阻害薬の有無に関わらずSGLT2阻害薬が効果的であったことが報告されています(図6)7)。また、蛋白尿の有無、投与前のeGFRが60mL/min/1.73m2以上か未満か、eGFRの急速低下の有無に関わらず、65歳以上と65歳未満に関わらずSGLT2阻害薬が効果的であったことが報告されています。そしていずれもeGFRの50%低下と末期腎不全への移行を複合エンドポイントにしてHRが0.5未満ですから50%以上の改善が認められました。
これらのほかにも投与を中止した後でも、腎機能悪化抑制効果やアルブミン尿改善効果が持続するなど、非常に謎が多い薬です。さて、どうしたことか……。CKDの進行抑制のメカニズムもAKIの発症抑制のメカニズムも分からない。これから論文を精査して得た情報から、解説してみたいと思います。
引用文献
1)Nadkarni GN, et al: Diabetes Care 40: 1479-1485, 2017
2)Gilbert I, Thorpe KE: Diabetes Obes Metab 21: 1996-2000, 2019
3)Neven BL, et al: Lancet Diabetes Endocrinol 7: 845-854, 2019
4)Menne J, et al: PLoS Med 2019 Dec 9;16(12):e1002983.doi: 10.1371/journal.pmed.1002983.
5)Heerspink HJ, et al: N Engl J Med 383: 1436-1446, 2020
6)Qui M, et al: Diab Vasc Res Mar-Apr 2021;18(2):doi: 10.1177/14791641211011016
7)Nagasu H, et al: Diabetic Care 44: 2542-2550, 2021