SGLT2阻害薬による心腎保護作用と急性腎障害抑制作用~ケトン体って何よ?~
7日目 食事について考えてみよう ~糖質制限食の重要性~

(1)糖質制限食の重要性

 日本糖尿病学会では国際的に認められ、エビデンスの高い糖質制限食ではなく、炭水化物を50~60%含むカロリー制限食を「糖尿病診療ガイドライン2019」以前はずっと推奨してきましたが、そろそろ見直す時期に来ていると思います。平田もこの説を長期間、信じていました。アメリカ人に肥満が多いのは脂っこいものばかり食べるから、カロリー摂取量が多いからだと思っていましたが、実は肥満の原因は糖質の摂りすぎと食べ過ぎだったのです。そういえばアメリカのケーキ、アップルパイなど日本人の僕には甘すぎて食べられないくらい甘かったし、マクドナルドのコークのLサイズは1300mLのようにバケツ並み、レストランで食べるパスタの量も食べきれないくらいの大盛でした。

 マラソン大会の直前にはつらいカロリー制限(熊本のころ講演会後の飲み会でも刺身も食べずに刺身のツマの大根ばかり食べていたのを思い出します)をして、63kgに減量し、それが終わると普通に食べるだけで、直ちにお腹が出て67kgに戻るという繰り返しをしましたが、David A Sinclair博士の「ライフスパン 老いなき世界」を読んでから「16:8ダイエット」という16時間何も食べないが、食事量は減らさない「辛くなくリバウンドしないダイエット(具体的には夕食を20時に食べると16時間後の翌日12時までナッツ[糖質を含まないもので、ピーナッツはNG]以外は食べない)」+緩めの低糖質食で常に62kgの体重を維持しています。

 基本的に低糖質であれば満腹になるほど食べても、カロリー過多であっても太らないのです。そして糖質摂取量が少なければ少ないほど体脂肪は減少し、それに伴って体重が減少するのです。現在ではコンビニに行っても食品のカロリー数ではなく炭水化物量(糖質量)を気にするようになりました。ただし「16:8ダイエット」は糖尿病患者やフレイル気味の高齢者、成長期の小児には勧められません。平田は若年者ではありませんが、今のところ毎日ジムに通うくらい健康なのでやっています。 67歳にして平田は6年連続フルマラソンを完走でき、「脱いでも凄い(人前で脱ぐことはありませんが)」体型を手に入れることができたのです。

 医療者である薬剤師であれば患者さんから食事の質問を受けることがあると思いますが、北里大学北里研究所病院の内分泌・代謝内科部長であり糖尿病センター長の山田悟先生の著した「糖質制限の真実(図1)」1)または「カロリー制限の大罪」2)、いずれも新書の文庫本ですから1,000円もしません。真実を伝えるためにはこれらのエビデンスを重視した著書を読んでいただければと思います。

 

(2)カロリー、脂質は気にしないでいいんだ!

 これらの本で学んだことは、いまだに推奨されている「カロリー制限食」による心臓病発症率が低下するエビデンスはなく、骨密度が低下することが明らかになっています。カロリー制限食は1gで9kcalあって、糖質や蛋白質よりもカロリーの高い脂質を制限するのが最も効果的と思われがちですが、脂質制限をしても痩せないし、血清脂質濃度もコレステロールも下がらないので、脂質異常症も改善せず、動脈硬化や心筋梗塞を予防できません。有酸素運動をしてもコレステロールはエネルギー源ではない(胆汁酸やステロイドの成分として必要なだけ)ので下がりません。LDLが高すぎればスタチン薬を服用するしかありません。逆に動物性脂肪の摂取は脳卒中リスクを減らし、動脈硬化を予防できるので、脂質を制限する必要はありません。コレステロールを多く含む卵黄などを制限してもコレステロールは下がりません(一時的に下がったとしても元に戻る)。平田の検査値異常はLDL高値だけだったので、長期間、卵を食べるのをやめていましたが、これは全くの無駄でした。

 1984年には米国の著名な一般誌「TIME」は「コレステロールに関する悪いニュース」で「食物中のコレステロール、血清コレステロールと心臓病の関係という試験からコレステロールは死をもたらす」と飽和脂肪酸が心臓病の原因になると警告を鳴らしました。このような間違った知識によって数十年、脂質は怖いというイメージがついてしまったのです。しかし実際には脂質の摂取よりも重要なのは、CRPなどの炎症マーカーの方が総コレステロール値や心臓病と密接に関連していたのです。何十年にもわたる低脂肪食(低カロリー食)は、肥満、糖尿病、心臓病の発生率の上昇と一致しています。「バターは何十年もの間、それはアメリカの食事療法の中で最も邪悪な栄養素でした。しかし、新しい科学は、脂肪が私たちの健康を害するものではないことを明らかにしています。脂肪を減らすことが、病気の発生率の上昇にどのように寄与するのでしょうか? 人々は実際に非常に高炭水化物の食事に切り替え、そしてそれらの炭水化物は肥満、糖尿病に関しては飽和脂肪よりもはるかに悪いように見えることがわかりました。」ということでTIME誌は謝罪の意味も込めて、30年後の2014年に「バターを食べろ!」という特集を組んで、それまでの脂質に対する否定的な考えから30年間にもわたって「低脂肪/高炭水化物(カロリー制限食)」を推奨してきたことを謝罪しています(図2)。ただし、単にバターを食べることがいいと推奨しているのではなく、「ファストフード、加工食品を減らすことが重要で、脂肪の摂取量はこれから気にしなくていい」というメッセージが込められています。

 脂質は悪くなかったのです。αリノレン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸などのω-3多価不飽和脂肪酸、あるいは一価不飽和脂肪酸のオリブ油が、心臓病のリスクを軽減することはよく知られていますが、栄養素としては飽和脂肪酸も悪くなかったのです。米国ではすでに脂質摂取量の上限が撤廃されており、脂質を多く摂取するとカロリー摂取量は増えても、脂肪組織の中性脂肪が分解されて脂肪酸が使われるため、脂質代謝が亢進して肥満が解消されるのです。悪いのは血糖値を上げる糖質だったのです。厳格な糖質制限食(炭水化物は20g/日でカロリー、たんぱく質、脂質制限なしだが動物性は避ける)vs低脂肪食群(カロリー制限食で男性1800、女性1500kcal/日でカロリーの30%が脂肪)vs健康に良いとされる地中海食(低脂肪食と同じカロリー制限症で脂質は35%以下で30~35gのオリーブオイルと5~7個のナッツを含む)の体重変化を検討したRCTであるDIRECT試験の報告3)では体重減少は平均で,低脂肪食群で 2.9 kg,地中海食群で 4.4 kg,糖質制限群で 4.7 kg でした(図3)。ただし完遂率は糖質制限食が78%で最低で低脂肪食で90.4%、地中海食で85.3% だったことは、厳格な糖質制限食はこの研究ではなかなか楽にはできなかったのかもしれません。これは炭水化物は20g/日という極端な糖質制限だったからだと思われます。

 山田悟先生は緩やかな糖質制限、つまり「糖質摂取量1食40グラム以内、1日130グラム以内のロカボ」を推奨しています。ちなみにライザップの食事は厳格な糖質制限食+高たんぱく食だそうで、糖質を制限することで効率よく体脂肪を減らす作戦です。健康を保つための食事やダイエット本の中には根拠のない嘘で固められたものが多くありますので気をつけてください。たとえば下記のような記載はすべてウソです!

 コンビニ食品はすべてダメいうのはウソです。アスパルテーム、スクラロースなどの人工甘味料(摂取制限はある)、糖アルコールのエリスリトールなどのカロリーにならない甘味料もダメというのはウソです。蕎麦はカロリーが低いが糖質そのものですし、果物もブドウ糖や果糖(もっとも太りやすい)が多いもの(ブドウ、リンゴなど)、ショ糖の多いもの(バナナ、パイナップルなど)の摂りすぎはよくありません。果物の中ではイチゴやブルーベリー、ラズベリーなどのベリー類は食物繊維が豊富で低糖質なのでおすすめです。そういう意味では果物は良いが、フルーツジュースはダメというのも食物繊維の有無による差、リンゴやブドウの皮に含まれる抗酸化物質アントシアニンなどの差はありますが、果物の糖質量はジュースと丸ごとの果物に差があるわけではありません。玄米は良いが白米はダメいうのは微妙です。玄米には確かに食物繊維が含まれているので腸内細菌叢などに好影響を与え、総死亡率、がん、心疾患、脳血管疾患、糖尿病などのリスクが低下する報告が多いのですが、糖質量としては白米とほぼ同じです。同様に全粒粉パンは白パンよりは健康によいのでしょうが、糖質量が劇的に減っているわけではありません。

 カボチャやジャガイモに糖質が多いのはよく知られていますが、ニンジンや玉ねぎなどほのかな甘みのある野菜にも糖質を含んでいるようです。アボカドはカロリーは高いですが糖質を含みませんし、ブロッコリーやカリフラワーも糖質を含みません。砂糖を吸収されない甘味料のエリスリトール、スクラロースに変更するだけでも「甘いもの」を減らすことなく糖質を減らすことは可能です。

 ちなみに平田は厳格な糖質制限食は糖尿病、肥満患者にはいいかもしれませんが、赤肉やソーセージやハム、ベーコンなどの加工食品を増やすのは「がん」予防の観点からは良くないですし、腸内細菌叢を健全に保つ(これもがんだけでなく免疫系の暴発によるアレルギー性疾患や自己免疫疾患を防ぐことができると思われます:わかりやすい細菌と抗菌薬の話の第8回 吸収率の低い第3世代経口セフェムってこんなに必要?を参照)には多少は糖質を含んでいてもいいから、食物繊維の豊富な野菜をもっと摂るべきだと思います。ヨーグルト、納豆などの発酵食品も積極的に摂りたいと考えています。そして食事を楽しむためには、たまには羽目を外して、甘いものも取りすぎにならない程度に摂ってもいいと考えています。

 

引用文献
1)山田悟: 糖質制限の真実日本人を救う革命的食事法ロカボのすべて. 幻冬舎新書, 2015
2)山田悟: カロリー制限の大罪. 幻冬舎新書, 2017
3)Shai I, et al: N Engl J Med 359: 229-241, 2008

 

 

プロフィール

平田純生
平田 純生
Hirata Sumio

趣味は嫁との旅行(都市よりも自然)、映画(泣けるドラマ)、マラソン 、サウナ、ギター
音楽鑑賞(ビートルズ、サイモンとガーファンクル、ジャンゴ・ラインハルト、風、かぐや姫、ナターシャセブン、沢田聖子)
プロ野球観戦(家族みんな広島カープ)。
それと腎臓と薬に夢中です(趣味だと思えば何も辛くなくなります)