SGLT2阻害薬による心腎保護作用と急性腎障害抑制作用~ケトン体って何よ?~
1日目 SGLT2阻害薬の登場と副作用報告

(1)SGLT2阻害薬の驚異的な心・腎保護作用

 ダパグリフロジンが非糖尿病心不全患者を含むDAPA-HF試験の結果を踏まえて2020年11月に慢性心不全(ヘフレフ HFrEF: heart failure with reduced ejection function左室駆出率の低下した慢性心不全)の適応症を取得しました。また非糖尿病CKD患者を含むDAPA-CKD試験によってRAS阻害薬との併用で腎機能の悪化、末期腎不全への進行、心血管死または腎不全による死亡のいずれかの発生による複合主要評価項目のリスクを、プラセボと比較して39%低下させ、全死亡の相対リスクを有意に31%低下させました。これらの試験結果から、アステラス製薬は2020年12月14日に糖尿病のないCKD患者への適応を申請していましたが、2021年8月25日にやっと「慢性腎臓病(ただし、末期腎不全又は透析施行中の患者を除く)」の効能又は効果の追加承認を取得しました。米国、EU、台湾などではすでに2型糖尿病合併の有無に関わらず、CKDの治療薬として承認を取得しています。これからわが国でも透析導入を防ぐ腎保護薬の決め手として積極的に使われていくものと考えられます。

 ダパグリフロジンは慢性心不全の成人患者さんの治療薬としてはすでに承認されており、これから心不全・腎臓病治療が大きく変わると思われます。ダパグリフロジンだけではありません。エンパグリフロジン、カナグリフロジンなどのSGLT2阻害薬による心腎効果を検証した大規模臨床試験が多数報告され、それらのほとんどが既存の糖尿病治療薬、腎保護薬、心保護薬の概念を覆すくらいのクラスイフェクトの数々です。

 これまで、HFpEF(ヘフペフ: heart failure with preserved ejection function:左心駆出率の保たれた心不全)は左心室が硬化して拡張できず、心臓へ血液が戻る力が弱くなるため、うっ血が起こり、むくみなどの症状が起こりやすいといった特徴があり、高齢者に多い心不全です。臨床的に有効と証明された治療法がなく、心血管領域で最大のアンメットニーズとされていましたが、2021年9月にはエンパグリフロジンが心不全だけではなく、HFpEFの治療薬(正確には治療補助薬ですが)としてFDAからブレークスルーセラピー(画期的治療)の指定を受けました。Walters Kluwer社のUpToDateには「 2型糖尿病の有無にかかわらず、一貫してベネフィットが証明された」と記載されております。ということで今更ですが、今回は話題沸騰中のSGLT2阻害薬について解説したいと思います。

(2)SGLT2阻害薬の基礎知識

 ブドウ糖は親水性の小分子化合物であるため、糸球体濾過されても受動拡散で再吸収することはできませんが、重要な栄養物であるため、近位尿細管の前半部(S1, S2セグメント)では輸送能力の高いトランスポータであるナトリウム-グルコース共輸送体2、つまりSGLT2(sodium/glucose co-transporter 2)によって90%が再吸収されます。残りの10%は近位尿細管の後半部のS3セグメントに存在するSGLT1によって再吸収されるため、健常者では尿中にブドウ糖が排泄されることはありません。ただしトランスポータはその基質濃度が上昇すると飽和するため、血糖値が170mg/dL以上になると、完全に再吸収することができなくなって尿糖が発現します。SGLT1は小腸にも発現しており、強く抑制すると下痢を起こしてしまうので、臨床使用するにはSGLT2選択性が高い必要があります。ブドウ糖を認識して再吸収するため、SGLT2阻害薬もブドウ糖構造を持っていることから(図1)、SGLT2がこれらの薬物をブドウ糖と誤認識して結合して、作用を表すと予測されます。要するにSGLT2阻害薬はブドウ糖を再吸収させずに、尿中にダダ洩れにして血糖値を下げる薬です。日本人で多い痩せた高齢者には使いにくいですが、前述の凄まじい心保護作用・腎保護作用から、使用量が増えつつあります。

 SGLT2阻害薬の薬物動態学的特徴は蛋白結合率が82~98%と高く、尿中排泄率は0~22%と低いです。半減期は図1には載せておりませんが、トホグリフロジンが約5時間と短いのですが、そのほかは10~18時間なので、夜間頻尿を訴える患者にはトホグリフロジンが適しているかもしれません。ただしトホグリフロジンには今のところ2型糖尿病の適応しかありません。

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(3)SGLT2阻害薬の安全性

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 SGLT2阻害薬は2014年に発売され、翌年1月にはSGLT2阻害薬投与中に下痢・嘔吐が頻回に発現していたが水分摂取が不十分であり、脱水によって死に至った症例、おそらくこれも脱水に起因する心筋梗塞や脳梗塞による死亡症例が新聞報道されました(図2)。脱水の原因として、SGLT2阻害薬併用時の下痢、嘔吐、入浴による発汗、利尿薬併用が脱水を助長することが原因と考えられています。発売当初から、メーカーから「適正使用のお願い」が発行され、水分摂取を心がけるよう注意喚起がされていましたが、SGLT2阻害薬の特徴的な副作用として利尿作用による脱水の助長、頻尿・多尿、皮膚乾燥に起因する発疹、大量のブドウ糖の尿中排泄による膀胱炎・性器感染症、サルコペニア、ケトアシドーシスなどがあげられています。そのため、投与を避けたい患者は認知症・うつでは特に摂食中枢の異常を起こしやすいので脱水になりやすい、両総頚動脈狭窄も脱水による脳梗塞になりやすい、下腿切断になると動けないので性器や尿路感染しやすいので避け、BMI 18.5未満のやせ、フレイル、サルコペニア患者なども投与を避けたい患者になります。

 SGLT2阻害薬は特に投与初期に利尿作用があるため、RAS阻害薬、利尿薬、NSAIDsのTriple Whammy処方などとの併用はとても危険で、腎前性の急性腎障害を頻発するに違いないと、発売当初から平田は思っており、自ら作成した急性腎障害原因薬物一覧表の腎前性腎障害原因薬物の中にSGLT2阻害薬を明記しました。その後、FDAも2016年6月14日、2型糖尿病に対するSGLT2阻害薬のカナグリフロジンとダパグリフロジンの急性腎障害に関する安全性情報を発出し、添付文書に急性腎障害に関する警告を含めるよう指示を出しています。日本糖尿病学会はSGLT2阻害薬の適正使用のRecommendations1)として、特に後期高齢者には慎重に投与すること、脱水防止について患者に指導し、利尿薬の併用の場合には特に注意すること、発熱・下痢・嘔吐などがあるとき、ないしは食思不振で食事が十分摂れないような場合(シックデイ)には必ず休薬することなどが記載されています。このようにSGLT2阻害薬には利尿作用も降圧作作用もあるし、脱水もきたしやすいので、RAS阻害薬や利尿薬と同様に腎前性腎障害を起こすだろうということは誰もが予想していたと思います。

 ということでSGLT2阻害薬についての最新の副作用の関する論文についてまとめてみました(図32)。8つの大規模試験をまとめたもので、赤色で書いてある糖尿病ケトアシドーシス、性器感染、脱水が統計的に有意に起こりやすい副作用と言えますが、発売当初から注目されていた低血糖や下肢切断、尿路感染は有意ではありません。急性腎障害(AKI)に関しては1をまたがず左側にありますし、RR(相対危険度)が0.75になっていますので、AKIはSGLT2阻害薬の投与によって有意に減少したといえます。「えぇっ!なんで?」と思う方がいると思いますが、実はSGLT2阻害薬がAKIを防ぐということは2016年ころから言われ続けています。今に始まったことではないのです。2019年以降になって、平田も薬剤性腎障害原因薬物一覧表からSGLT2阻害薬を削除しています。これについては4日目に詳述したいと思います。

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引用文献
1)日本糖尿病学会: SGLT2阻害薬の適正使用のRecommendations 2020年12月25日.
2)Qui M, et al: Diab Vasc Res Mar-Apr 2021;18(2):doi: 10.1177/14791641211011016.

 

 

 

プロフィール

平田純生
平田 純生
Hirata Sumio

趣味は嫁との旅行(都市よりも自然)、映画(泣けるドラマ)、マラソン 、サウナ、ギター
音楽鑑賞(ビートルズ、サイモンとガーファンクル、ジャンゴ・ラインハルト、風、かぐや姫、ナターシャセブン、沢田聖子)
プロ野球観戦(家族みんな広島カープ)。
それと腎臓と薬に夢中です(趣味だと思えば何も辛くなくなります)