第 26回 基礎から学ぶ薬剤師塾 Q&A
CKD患者の血圧・血糖管理~クリニカルイナーシャに陥るな!~

 


 

2023年6月3日(土)アンケートによる質問

手束病院 楠本倫子先生

Q.前回の勉強会でシスタチンCの話題が出てきましたが、初めてDr.にシスタチンCの測定を依頼する時に、その理由を短い時間で示すにはどの資料や説明がわかりやすいでしょうか?まだ測定依頼を始めたばかりなので、きちんと説明出来ている自信がありません。何かヒントがあれば、ご教授お願いいたします。

A.僕たちの経験を示しましょう。図1に寝たきり患者さんの血清クレアチニン値によるeGFRは赤丸でしまします。5人とも実測値(実測クレアチニンクリアランス×0.715でeGFRに近似します)と比べるとeGFRcrはすごく高い腎機能に見えますが、筋肉量が少ないだけなのです。この腎機能によって腎排泄型薬物を常用量投与したら、おそらく重篤な中毒性副作用を起こしてしまうでしょう。図2では赤丸の寝たきり患者でもシスタチンCによるeGFRと実測値はほぼY=Xの線上に乗って乖離がなくなりました。つまりシスタチンCの測定によって正確な腎機能が把握できるたのです。

 

 

 

 「シスタチンCは3か月に1回しか測定できない、測定が外注、測定費が高価、医師も薬剤師もシスタチンCについて詳しく知らない」という実態は、薬剤師がほとんど測定依頼をしていないから、医師も何の検査かご存じない、測定機会が少ないままだから、3か月に1回の頻度が改善することもなく、測定費用は高いまま、測定が外注になっているのです。測定機会を増やしていけば、毎月、いや何回でも安く、病院内で迅速に測定できるようになるはずだと平田は考えます。


金沢医科大学病院 山崎幸恵先生

Q.腎不全でも心不全治療薬(β遮断薬、SGLT2阻害薬、利尿薬など)は止めるべきではないという認識であっているのでしょうか。

A.心不全治療薬はFantastic Fourと言って、「β遮断薬+RAS阻害薬をARNI(サクビトリルバルサルタン)に変更+MRA+SGLT2阻害薬」+呼吸困難などの溢水の症状があれば自覚症状の改善のためのループ利尿薬の治療がメインになりつつあります。心不全で使うβ遮断薬はビソプロロールは腎機能に応じた減量が必要ですが、腎機能が低下しても止める必要はないです。SGLT2阻害薬も添付文書上は「高度腎機能障害患者又は透析中の末期腎不全患者では本剤の効果が期待できないため、投与しないこと」となっていますが、透析導入になるまでは使っていいと思います。ただしMRAは腎機能低下あるいは高カリウム血症になれば投与できません。一番緩いフィネレノンに関しては末期腎不全(eGFR<15mL/min/1.73m2)や血清カリウム濃度が5.5mEq/Lを超えた患者には投与できないことにはなっていますが、問題なければ医師との協議のうえ、使うこともできるかもしれません。

 RAS阻害薬は透析導入後は心不全リスクが増しますので、降圧薬の中では透析導入になっても使い続けたい薬だと思います。利尿薬は腎不全(eGFR<30mL/min/1.73m2とさせていただきます)ではループ利尿薬が中心になると思いますが、透析導入後も使えなくはないです。ARNIはサクビトリラートの血中濃度は上昇しますが、透析患者でも一応、禁忌にはなっていません。透析患者ではARBは効いたとしても、Na利尿ペプチドの作用がどれだけ期待できるのかについてはよくわからないと思っておりましたが、先日、参加した日本腎臓学会では、他院の循環器医が心不全治療のために透析患者にARNIを投与するとSBPが40mmHgも下がり、透析中の過降圧も見られなかった。心駆出率も改善したという症例を聞きました。あくまで1症例ではありますが…。


日本調剤 中島鉄博先生

Q.NSAIDs, RAS-I, 利尿薬のうち、組み合わせの順番を比較した報告で、1st NSAIDs,2nd RAS-IだけNSAIDsとの組み合わせでリスクが低く、この順番による差異はなぜでしょうか。

 もう一つ、Schmidtの報告を心腎連関で考えますと、SGLT2阻害薬などについても場合によってはリスクとなり得ますか。また、臨床的にCr上昇を抑えられるような、RAS-Iの使い方、患者背景への介入などはありますか。

A.順番による差異がなぜ起こったかという理由まではこの報告の結果だけからは判断できかねます。

 2番目の質問ではSGLT2阻害薬がメタ解析で急性腎障害の発症を抑制している結果は出ているものの、SGLT2阻害薬も投与初期には利尿作用が強く表れますし、ループ利尿薬と利尿作用においては相乗作用を示すことも報告されていますので、投与初期には脱水から腎機能悪化を起こす可能性はあると考えて、服薬指導に生かすべきだと思います。

 RAS-Iはアルブミン尿、蛋白尿の陽性の患者を対象に投与すれば多くの報告で腎機能悪化を抑制できています。逆に蛋白尿(-)では腎保護作用のエビデンスはなく、高齢者では腎虚血による腎機能悪化リスクが高くなる可能性があるので、定期的な腎機能のモニタリングをしながら使用すべきでしょう。腎機能悪化リスクの高い、特に後期高齢症例の降圧療法にはCCBを中心に治療するのが一番無難だと個人的には思っています。

プロフィール

平田純生
平田 純生
Hirata Sumio

趣味は嫁との旅行(都市よりも自然)、映画(泣けるドラマ)、マラソン 、サウナ、ギター
音楽鑑賞(ビートルズ、サイモンとガーファンクル、ジャンゴ・ラインハルト、風、かぐや姫、ナターシャセブン、沢田聖子)
プロ野球観戦(家族みんな広島カープ)。
それと腎臓と薬に夢中です(趣味だと思えば何も辛くなくなります)

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