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村上らによる透析による新たな薬物除去率予測式の改訂11)
Urataらによる簡易式は静注製剤のみによって構築されていたため、筆者の指導学生であったMurakami11)はこれに信頼性の高いバイオアベイラビリティのデータの備わった経口薬を含め、これまでに重要と言われてきたPBR、1/Vd、MWに加え、新たなパラメータとしてインタビューフォームの多くで記載されているn-オクタノール/水分配係数(O/W係数)の導入を検討したが、フィット性はUrataの示した3項目が最大であったため、断念した。再びMW、PBR、fe/Vdを用いるUrataの方法を踏襲して、新たな透析除去率の予測式の構築を試みた。これまでの簡易式の問題点として医薬品インタビューフォームに記載されているデータは①透析前後の濃度変化率で示されている可能性があること、②尿細管分泌や尿細管再吸収の寄与する薬物はfeの精度が低くなる可能性がある、といった問題点があることに着目した。
インタビューフォームには薬物の透析性について透析前後の血中濃度変化率を「透析による除去率」として記載されているものがあるが、「薬物の透析性」とは透析前後の血漿薬物濃度変化率ではなく、体内から薬物がどれだけ除去されたかを示す値である(図10)。透析終了直後から数分から1~2時間後にはすべての薬物でリバウンド現象が起こるため、濃度変化率では過大評価されてしまう(図11)。我々はこれらの問題点を考慮し、尿細管分泌や尿細管再吸収の寄与する薬物、および透析による除去率であれば越えるはずのない限界値、maximum dialysis rate by hemodialysis (MDR)を超えているため、濃度変化率と思われるデータを除外した。
ここで初めて用いたMDRの概念は日本透析医学会の統計調査における透析患者の平均体重54.9kg、2015年版慢性腎臓病患者における腎性貧血治療のガイドラインを参考としてヘマトクリット値30%の患者についてリバウンド現象を考慮して、日本の標準透析条件 (QB = 200mL/min、QD = 500mL/min、週3回で1回4時間) で施行されたときに遊離型薬物の最大値、つまり、透析による除去率であれば越えるはずのない限界値、MDRを式(2)によりそれぞれの薬物について算出し、これらを超える薬物は血漿濃度変化率であるか、透析後のリバウンドが考慮されていない薬物として除外したのである。
さらに我々はO/W係数を用いても予測性が向上しなかったことから、やむなくUrataの方法と同じ親水性を表すパラメータとしてfeを用いたのだが、feは糸球体濾過のみによって排泄される薬物の予測性には問題ないものの、尿細管分泌される薬物や再吸収される薬物は糸球体濾過量を反映しないことに着目した。つまり脂溶性の薬物で、通常は腎排泄されない薬物であっても尿細管分泌されるようなプラミペキソールやフロセミドのような薬物や、親水性であってもフルコナゾールのように尿細管で再吸収される薬物のfeは80%と高いものの、再吸収されるため腎CLは極めて小さいので、正確な親水性のパラメータになりえず、透析性が極めて高い(図12)。この理論に基づき、医薬品インタビューフォームあるいは文献上で尿細管分泌や尿細管再吸収の寄与することが明らかな薬物、つまり尿細管トランスポータの基質になる薬物も除外した。
まず浦田の方法と同様に訓練データを用いて透析による薬物除去率(実測値)を目的変数、様々な薬物動態パラメータ・物理科学的データを説明変数として、ステップワイズ法による重回帰分析を行い、最終的にlogMW、PBR、fe/Vdが透析による薬物除去率と独立して相関しており、Urataらの簡易式(rs = 0.75)に比し、より高い相関性を示した(R=0.911、P=2.2e-16)、作成した予測式は以下の通りとなった(平田・浦田・村上式: Hirata, Urata, and Murakami formula: HUM式)。
透析による薬物除去率(%)=
-17.32×[logMW(Da)]-0.39×[PBR(%)]+0.06×[fe(%)/Vd(L/kg)]+83.34 (3)
テストデータを用いて予測値と臨床報告値の相関性の検定を行ったところ、高い相関性を示した (R=0.93, P=1.87e-6) 。また、ME、MAE、RMSEはそれぞれ-3.34(95%CI: -10.03, 3.35)、9.59、16.48であった(図13)。
引用文献
11) Murakami M, Narita Y, Urata M, Ichigi M, Nakatani S, Fukunaga F, Kondo Y, Ishitsuka Y, Irie T, Kadowaki D, Hirata S: Revised Formula for Predicting Hemodialyzability of intravenous and oral drugs. Bllod Purif 9: 1-11, 2021