【4位】脳の不調を治す食べ方

Uma Naidoo 単行本 ¥1,980

 ハーバード・メディカルスクールの精神科医であり栄養士でもあるウーマ・ナイド博士の著。腸は第2の脳といわれ、腸の神経細胞数は4~6億で脳の次に多いのです。ストレスをコントロールすることによって消化吸収が改善し、野菜,果物,ナッツ,種子,マメ,全粒穀物などカラフルで繊維質の豊富な食物の積極的摂取によって腸内細菌叢を健全に保つことが、鬱、不安障害、自閉症、パーキンソン病、肥満などの現代病を改善させることができると説いています。この腸内細菌叢を介した精神神経疾患については「【6位】あなたの体は9割が細菌: 微生物の生態系が崩れはじめた」の内容と共通しています。腸脳連関(腸脳相関ともいう)の第一人者ということで、期待して読ませていただきました。

 気分が落ち込んでいる時には甘いものをつい食べ過ぎてしまうことがよくありますが、必要以上のブドウ糖の摂取は鬱病のリスクになります。脳は1日62gのブドウ糖を必要としますが、それ以上の過剰のブドウ糖は脳内であふれてしまい、炎症を引き起こしうつ病につながります。37,131人を対象にした2019年のメタ解析で飲料による砂糖摂取量と鬱の相関係数は0.95であったことを紹介しています1)

うつや不安を避けるためにどんどん食べた方がよいもの
 プロバイオティクス(ヨーグルト、味噌、キムチなどの発酵食品)、プレバイオティクス(豆類、オーツ麦、バナナ、ベリー類、玉ねぎなど)、低GI炭水化物(玄米など)、体にいい脂質(オリブ油、ナッツ、アボカドなど)、オメガ3脂肪酸(魚)、ビタミンD、ミネラルと微量元素(鉄、Mg, K, Zn, Se)、スパイス、ハーブ。ほかにも不安を避けるためには七面鳥やひよこ豆に含まれるトリプトファン、カリフラワーやブロッコリーのような低糖炭水化物、魚、鶏、卵、草食で健全に育てられた牛肉、イワシ、豆類のような良質なタンパク質はよい

 

逆にうつや不安を増強するため、できるだけ食べない方がよいもの
 砂糖(ソフトドリンク、焼き菓子など)、高GI炭水化物(精白パン、白米、ジャガイモ、パスタ)、人工甘味料(特にアスパルテーム)、揚げ物、体に悪い脂肪(マーガリン、ショートニング、硬化油など)、硝酸塩(ベーコン、サラミなど加工肉に用いられる)。ほかにも工場生産されたような赤身肉、過量のカフェイン、過量のアルコール、グルテンはよくない

 

 ただし尿毒素として最も認知されているインドキル硫酸の原料はアミノ酸のトリプトファンで、本書では不安を解消できるアミノ酸として紹介されています。これはしあわせホルモンと言われるセロトニンや不眠に使われるサプリメントのメラトニンもトリプトファンを原料にしていることによります(図12)。腸脳連関は腸腎連関よりもはるかに進んでおり、腸で生成されたセロトニンはBBBを通過しないものの、なぜかセロトニンの前駆物質であるトリプトファンが欠乏すると脳内セロトニンは減少します。トリプトファンに富む食品の摂取によって憂鬱や不安が減ったこともランダム化クロスオーバー試験で報告されています3)

 さて憂鬱で不眠を訴えるCKD患者さんや透析患者さんに、糸球体硬化・尿細管間質線維化から腎機能を悪化させ、ROSを誘導し酸化ストレスを亢進して心筋線維化・動脈硬化を悪化させ、Klotho発現低下から老化を促進させることなどが明らかにされているインドロキシル硫酸の原料であるトリプトファンの摂取を簡単に勧めるわけにはいきません。なんと悩ましいことか……。腸内細菌叢の健全化によって短鎖脂肪酸、特に酪酸が腸の健全性を保つことも書かれているので、まさに宮入菌がこれから、注目されそうな気がします。またセロトニンの前駆物質であるトリプトファンが欠乏することなく摂取して、腸内細菌の持っているTriptophanaseを腸管内のみで阻害する新薬ができることに期待したいものです。

 また本書では砂糖は最悪のように言いながらも、ショ糖を多く含むバナナ(ただし低GI食です)は食物繊維を含むため、チョコレートはポリフェノールを含むため推奨されていることは疑問ですし、人口甘味料のアスパルテームやアセスルファムK、スクラロースは不安と関係するので避けるべきとしています。アスパルテームは脳内でドーパミン、ノルアドレナリン、セロトニンの合成、分泌を妨げ、酸化ストレスの原因にもなるそうです。人口甘味飲料は砂糖飲料に比べ、脳梗塞やアルツハイマー病を有意に増やすというフラミンガムハートスタディの報告4)を引用していますが、この報告は米国の肥満糖尿病患者は人口甘味飲料を飲む傾向が高いというバイアスがあるからではないのかなとも感じました。これらは矛盾していますし、砂糖も人工甘味料もいけない、それに対する代替が示されていないということは甘党の方々は耐えられないような気がします。摂取上限が規定されていないわが国の人工甘味料の主役であるエリスリトールなどの糖アルコールについては悪い情報がないのが救いのような気がしました。

 うつや不安だけでなく双極性障害や統合失調症、不眠症やなど幅広い精神疾患について、あるいは集中力を高めるため、記憶力を高めるためについても、上記のような「どんどん食べた方がよいもの」、「できるだけ食べない方がよいもの」のリストやメニュー、そして調理法が載っているのもありがたいです。

 

引用文献
1)Hu D, et al: J Affect Disord 245: 348-355, 2019
2)Cheng Y, e t al: Sci Rep 2020 Jul 29;10(1):12675.doi: 10.1038/s41598-020-69559-x.
3)Linseth G, et al: Arch Psychiatr Nurs 2015; 29: 102-107
4)Pase MP, et al. Stroke. 2017;48:00-00. DOI: 10.1161/STROKEAHA.116.016027.

 

 

 

 

プロフィール

平田純生
平田 純生
Hirata Sumio

趣味は嫁との旅行(都市よりも自然)、映画(泣けるドラマ)、マラソン 、サウナ、ギター
音楽鑑賞(ビートルズ、サイモンとガーファンクル、ジャンゴ・ラインハルト、風、かぐや姫、ナターシャセブン、沢田聖子)
プロ野球観戦(家族みんな広島カープ)。
それと腎臓と薬に夢中です(趣味だと思えば何も辛くなくなります)