腎の構造と機能から学ぶCKDの病態

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10日目 蛋白尿(-)のCKD患者の血圧の下げすぎには要注意


 日本の高血圧の定義は140/80mmHg未満、つまり診察室血圧で収縮期血圧(SBP)140mmHg未満で、かつ拡張期血圧(DBP)が90mmHg未満でなければならない。だから140/65だとSBPが140未満じゃないし、135/90だとDBPが90未満じゃないので高血圧と判定され、家庭血圧はそれぞれ診察室血圧よりも5mmHg低い135未満、かつ85未満でなくてはならない。ただしこの降圧目標にしてよいのは高血圧ガイドライン2019では75歳以上の高齢者(併存疾患の降圧目標がSBP130未満の場合、忍容性があれば130未満)、脳血管障害患者(両側頸動脈狭窄や脳主幹動脈閉塞あり、または未評価)、CKD患者(蛋白尿陰性)だけなのだ(前回の表2右参照)。つまり実質的にほとんどの患者の降圧目標は130/80mmHg未満になったと考えてよい。欧州も血圧の定義は従来通り140/90mmHg未満だが、実質上はほとんどの患者で130/80mmHg未満にしなくてはならないという日本の考え方と同じだが、心血管病変による死亡リスクが極めて高い米国では血圧の定義を130/80mmHg未満にしてしまった。なんで? この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます

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9日目 CKDの降圧療法はどうあるべきか?


 5日目にアルブミンを漏らさないための糸球体の役割について学んだ。アルブミン尿や蛋白尿はなんでこんなに重要なのか知ってる? CKD、つまり慢性腎臓病という病名が21世紀に生まれたのは、分かりやすい言葉で一般市民に腎臓病の脅威を伝える必要があったからだよね。そしてそれは腎機能が低下するか、アルブミン尿または蛋白尿が陽性になれば心血管病変、透析導入リスクがともに著明に上昇する怖い病気だからだ。そのためにアルブミン尿または蛋白尿を抑える必要がある。その1つのアプローチとして全身血圧のコントロールが重要だ。もちろんRAS阻害薬もSGLT2阻害薬もミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)も特異的に蛋白尿を抑制するが、それらについては後でゆっくり解説することにして、今回は蛋白尿(+)の時の全身血圧のコントロールについて考えてみよう。 この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます

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8日目 輸液療法
~腎機能正常者への輸液は簡単だが腎不全患者への輸液はとても難しい~


 腎機能が保たれている患者であれば、輸液管理に詳しくない医師が不適切な輸液をしても、最終的には腎臓が帳尻を合わせてくれるので、通常、脱水気味の高齢者は輸液をするだけで元気になることが多い。基本的に腎の代償機能が期待できる患者への輸液は簡単なのだ。このような患者ではどんな質、量の輸液をしても問題はほとんど起こらない。ただし腎機能が正常でなければ話は異なり、輸液はとてもむつかしい。末期腎不全患者への輸液は下手をすると高カリウム血症・高リン血症・溢水・アシドーシスを悪化させることがあり、非常に厄介なのだ。すなわち水・塩分・電解質などの摂取量(in)と尿の組成(out)のバランスに異常のある腎不全患者では容易に電解質・酸塩基平衡異常や体液過剰・欠乏を起こすからだ。



 Quiz 1 

ネフローゼ症候群で浮腫を認める症例で、血清Na濃度は130mEq/Lと低ナトリウム血症だったので生食の点滴を行った。これって正しい? この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます

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7日目 腎臓のできることと限界 ~尿量と尿の濃さ~



 Quiz 1 

乏尿と無尿の定義を言え



 Anser 

乏尿は400mL/日以下の尿量のこと、無尿は1日400mL/日以下の尿量のこと

 炎天下でスポーツして「今日は尿が少ない」と思っていても500mL/日以上の尿量はあるし、汗をかき、ただし脱水状態になると口渇中枢が刺激されてのどが渇き水を飲む。この時に飲水を我慢できるだけ我慢すると尿量は減るが1日400mL以上はある。脱水になって尿量400mL/日未満が持続すると、腎機能が低下して電解質異常・血清クレアチニン値やBUNが上昇する。これと同じことが高齢者でのNSAIDs、利尿薬、RAS阻害薬のtriple whammy処方±活性型ビタミンDによる高カルシウム血症による脱水によって薬剤性腎障害が頻発している この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます

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6日目 糸球体の仕事をまとめ、糖尿病性腎症の進展について考えてみよう



まとめのクイズ:健常者の腎臓について下記の問いに答えよ

1.腎血流は1日何L?

2.糸球体濾過量は1日何L?

3.平均尿量は1日何L?

4.輸入細動脈圧は何mmHg?

5.ネフロンの数は左右の腎臓を併せると何個ある?

6.腎臓の細動脈圧は通常の細動脈に比べて高いのに風船のようにパンクしないのはなぜ? この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます

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5日目 最終的にアルブミンを漏らさない糸球体の濾過障壁は何?


 

 最終的にアルブミンを原尿中に漏れ出させない仕組みは糸球体のどこにあるのだろうか?糸球体のサイズバリアとしての濾過障壁は実は3層構造になっている。①内皮細胞の小窓の直径は50~100nmで赤血球(直径7~8µm)は通さないが、分子量68,000のアルブミン(直径3~8nm)は容易に通過できるザルのようなものだ。②スポンジやフェルトのような粗いフィルターの糸球体基底膜(図1)の小孔(直径 この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます

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4日目 なんで腎臓病は良くならない?
~脆弱な腎細動脈を守っているものは何と何?~


 糸球体内圧は一般的な細動脈に比し、50mmHgと非常に高い。これは大量の原尿を産生するために高い内圧を保つ必要があるからなのだが、糸球体高血圧の持続によって、高齢者に多い腎硬化症で透析導入患者が増えつつある。ただしNSAIDs、利尿薬、RAS阻害薬の投与(薬剤性腎障害の原因になるtriple whammy処方)などによって、糸球体内圧が低くなると原尿の産生速度、つまりGFRが低下=腎機能が悪化する。このように糸球体毛細血管は非常に脆い。その脆い糸球体細動脈を内側から束ねて支えているのがメサンギウム(メサンギウム細胞mesangial cellとその周りのメサンギウム基質である(図1)。メソは「中間の」の意味で、アンギウムは血管を表 この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます

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3日目 腎臓の構造について学ぼう
~まずは糸球体の役割から~


 腎の構造を知らないと「CKDはなぜ治らない病気なの?」とか、「糖尿病の症例って最初は腎機能がとびきりいいのに、そのまま無治療で放っておくと、なんで急激に悪化して透析導入になってしまうの?」とか、「なんで腎臓は高血圧で悪化するの?」などについて理解できないし、薬剤師なのにサイアザイド系利尿薬とループ利尿薬の違い、フォシーガなどのsodium-glucose cotransporter-2(SGLT2)阻害薬、レニベースやオルメテックなどのrenin-angiotensin system(RAS)阻害薬、ケレンディアなどのmineralocorticoid receptor antagonist (MRA)、ネスプなどのerythropoiesis stimulating agent (ESA)、エベレンゾなどのhypoxia-inducible factor prolyl hydroxylase(HIF-PH)阻害薬などの腎に作用する薬の作用機序がいまいち理解できないのだ! この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます

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2日目 ヒトは細胞内液に原始の海を細胞内液には太古の海を持っている


 46億年前に生まれた原始地球には大陸はなく、1,000℃以上の高温のマグマで赤色をした海に覆われた殺伐としたものだった。地球にはじめて降り注いだ雨は、地殻の底に閉じ込められていたNa、Mg、K、Fe、Cu、Caなどのミネラルを溶かし出した。こうして多くの物質を含んだ海になったが、この時の大気中に酸素はほとんどなかった(図1)。

 

 

 その後、38億年前に安定した海の中で蛋白質や核酸が合成されて単細胞の生命体が誕生した(図2)。単細胞生物は海水中の栄養分を細胞内に取り込み、 この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます

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1日目 体内水分量と電解質の調節
~細胞外液の主役はNa、細胞内液の主役はKである~


 

腎臓の主な役割は何度も言ってきたが、下記の4つだ。
 ①老廃物・薬物を排泄する
 ②体内水分量を一定に保つ
 ③体液電解質濃度を正常に保つ
 ④血液のpHを4に保つ(酸塩基平衡の調節)
上記の②③④について深掘りしてみよう。では皆さんは以下のクイズに答えられるだろうか?



水の組織内分布についてのクイズ(解答は最後)

 1.体内水分量は体重の何%?

 2.細胞外液量は体重の何%?

 3.細胞外液量は体重の何%?

 4.細胞間液(間質液)量は体重の何%?

 5.循環血漿量は体重の何%?

 6.循環血液量は体重の何%?



細胞内液と細胞外液の組成の違いについてのクイズ(解答は最後)

 7.細胞外液のカチオンの主役は何?

 8.細胞内液のカチオンの主役は何?

 9.細胞外液のアニオンの主役は何と何?

 10.細胞内液のアニオンの主役は何と何?

 11.Mg濃度は細胞内液、細胞外液のどちらが高い?

 12.Ca濃度は細胞内液、細胞外液のどちらが高い?

 13.細胞間液(間質液)と血漿の組成の最大の違いは何?



体内水分分布の意義
 体内水分量は健常成年男性では体重の60%だが、胎児は90%、新生児は80%、体内脂肪量がやや多い成人女性や筋肉量が減少し脂肪に置き換わる高齢者は55%、肥満成人では40%になる(図1)。高齢者、特に日本人で小柄な高齢女性(体内水分量が少ない)でバラシクロビル、シベンゾリンなどの様々な腎排泄性薬物(≒水溶性薬物)などの副作用発症率が高いのはもともと体内水分量が減少していることと、高齢者は脱水になりやすいためにこれらの血中薬物濃度が上昇しやすいことが関係しているのだと思う。

 

 

血清電解質の意義
 電解質とは体液中に含まれる無機イオンのうちNa,K,Cl,Ca,P, Mgなどを総称する言葉であり、細胞内液と細胞外液とでは組成が大きく異なっている(図2)。これらの電解質は腎臓の尿細管に存在する様々なトランスポータやアルドステロンなどによって精密に制御され、バランス良く一定の濃度・比率で存在する。しかし電解質の体内分布、調節機序の異常などをきたす病態によって、これらのバランスが乱れると致命的な濃度変化を引き起こすことがある。電解質の体内濃度の観察は通常、血清(血漿)濃度によって表す。血清量は体重の5%を占めるに過ぎないが、血清電解質は生命維持のため重要な役割を果たしている。たとえばNaは細胞外液の浸透圧の維持、Kは神経伝達や心筋の活動に重要な働きを持っているが、高カリウム血症は不整脈によって突然死するくらい怖い。MgはNa, Kほど注目されないが最近になって様々な酵素の働きを助け、神経伝達と関係して腎不全患者の心血管合併症を防ぎ、リン毒性を中和する作用などが注目されている。血清は血管内にあって全身を循環しながら組織間液との間で物質交換をしており、血清と細胞間液とで細胞外液を構成している。このことから血清電解質の濃度変化を観察することにより全身の電解質代謝異常の有無を知ることができる。

 

 



水の組織内分布についての解答(図3)

 1.60%だが、女性・高齢者は脂肪の割合が多いので、50-55%

 2.40%で体内水分量の2/3

 3.20%で体内水分量の1/3      

 4.15%で細胞外液量の3/4だが浮腫の時に増えるのはこれ

 5.5%で細胞外液量の1/4

 6.7%(体重の1/13と覚える。心拍出量に近似するのは偶然?)



細胞内液と細胞外液の組成の違いについての解答(図3)

 7.Na+で水と一緒に移動する

 8.K+で溶血、細胞崩壊による高カリウム血症は危険

 9.ClとHCO3で細胞外液の緩衝系の主役は重炭酸緩衝系

 10.リン酸と蛋白質で細胞内のリン酸はATPや核酸産生に必須

 11.細胞内液

 12.細胞外液が1万倍高い(細胞内へのCa流入は情報伝達に重要)

 13.血漿は蛋白質濃度が高い。物質移送や膠質浸透圧維持のために蛋白質は必須

 

 

 図2はmEqで示しているため「細胞内液のほうが細胞外液よりも浸透圧が高い?」と誤解されがちだが、細胞内液には2価のMg2+や3価のHPO43-など他価イオンが多く含まれるため、多く見えるが、浸透圧はモル濃度と相関するので細胞内液と細胞外液では浸透圧は同じである。では最後に、なぜ細胞内液組成と細胞外液組成がこんなに違うのかについて考えてみよう。それは地球の長い歴史と生命の誕生と進化が大きく関与しているからだ。この続きは次回に解説しよう。

 

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プロフィール

平田純生
平田 純生
Hirata Sumio

趣味は嫁との旅行(都市よりも自然)、映画(泣けるドラマ)、マラソン 、サウナ、ギター
音楽鑑賞(ビートルズ、サイモンとガーファンクル、ジャンゴ・ラインハルト、風、かぐや姫、ナターシャセブン、沢田聖子)
プロ野球観戦(家族みんな広島カープ)。
それと腎臓と薬に夢中です(趣味だと思えば何も辛くなくなります)

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