腎の構造と機能から学ぶCKDの病態
1日目 体内水分量と電解質の調節
~細胞外液の主役はNa、細胞内液の主役はKである~
腎臓の主な役割は何度も言ってきたが、下記の4つだ。
①老廃物・薬物を排泄する
②体内水分量を一定に保つ
③体液電解質濃度を正常に保つ
④血液のpHを4に保つ(酸塩基平衡の調節)
上記の②③④について深掘りしてみよう。では皆さんは以下のクイズに答えられるだろうか?
水の組織内分布についてのクイズ(解答は最後)
1.体内水分量は体重の何%?
2.細胞外液量は体重の何%?
3.細胞外液量は体重の何%?
4.細胞間液(間質液)量は体重の何%?
5.循環血漿量は体重の何%?
6.循環血液量は体重の何%?
細胞内液と細胞外液の組成の違いについてのクイズ(解答は最後)
7.細胞外液のカチオンの主役は何?
8.細胞内液のカチオンの主役は何?
9.細胞外液のアニオンの主役は何と何?
10.細胞内液のアニオンの主役は何と何?
11.Mg濃度は細胞内液、細胞外液のどちらが高い?
12.Ca濃度は細胞内液、細胞外液のどちらが高い?
13.細胞間液(間質液)と血漿の組成の最大の違いは何?
体内水分分布の意義
体内水分量は健常成年男性では体重の60%だが、胎児は90%、新生児は80%、体内脂肪量がやや多い成人女性や筋肉量が減少し脂肪に置き換わる高齢者は55%、肥満成人では40%になる(図1)。高齢者、特に日本人で小柄な高齢女性(体内水分量が少ない)でバラシクロビル、シベンゾリンなどの様々な腎排泄性薬物(≒水溶性薬物)などの副作用発症率が高いのはもともと体内水分量が減少していることと、高齢者は脱水になりやすいためにこれらの血中薬物濃度が上昇しやすいことが関係しているのだと思う。
血清電解質の意義
電解質とは体液中に含まれる無機イオンのうちNa,K,Cl,Ca,P, Mgなどを総称する言葉であり、細胞内液と細胞外液とでは組成が大きく異なっている(図2)。これらの電解質は腎臓の尿細管に存在する様々なトランスポータやアルドステロンなどによって精密に制御され、バランス良く一定の濃度・比率で存在する。しかし電解質の体内分布、調節機序の異常などをきたす病態によって、これらのバランスが乱れると致命的な濃度変化を引き起こすことがある。電解質の体内濃度の観察は通常、血清(血漿)濃度によって表す。血清量は体重の5%を占めるに過ぎないが、血清電解質は生命維持のため重要な役割を果たしている。たとえばNaは細胞外液の浸透圧の維持、Kは神経伝達や心筋の活動に重要な働きを持っているが、高カリウム血症は不整脈によって突然死するくらい怖い。MgはNa, Kほど注目されないが最近になって様々な酵素の働きを助け、神経伝達と関係して腎不全患者の心血管合併症を防ぎ、リン毒性を中和する作用などが注目されている。血清は血管内にあって全身を循環しながら組織間液との間で物質交換をしており、血清と細胞間液とで細胞外液を構成している。このことから血清電解質の濃度変化を観察することにより全身の電解質代謝異常の有無を知ることができる。
水の組織内分布についての解答(図3)
1.60%だが、女性・高齢者は脂肪の割合が多いので、50-55%
2.40%で体内水分量の2/3
3.20%で体内水分量の1/3
4.15%で細胞外液量の3/4だが浮腫の時に増えるのはこれ
5.5%で細胞外液量の1/4
6.7%(体重の1/13と覚える。心拍出量に近似するのは偶然?)
細胞内液と細胞外液の組成の違いについての解答(図3)
7.Na+で水と一緒に移動する
8.K+で溶血、細胞崩壊による高カリウム血症は危険
9.Cl–とHCO3–で細胞外液の緩衝系の主役は重炭酸緩衝系
10.リン酸と蛋白質で細胞内のリン酸はATPや核酸産生に必須
11.細胞内液
12.細胞外液が1万倍高い(細胞内へのCa流入は情報伝達に重要)
13.血漿は蛋白質濃度が高い。物質移送や膠質浸透圧維持のために蛋白質は必須
図2はmEqで示しているため「細胞内液のほうが細胞外液よりも浸透圧が高い?」と誤解されがちだが、細胞内液には2価のMg2+や3価のHPO43-など他価イオンが多く含まれるため、多く見えるが、浸透圧はモル濃度と相関するので細胞内液と細胞外液では浸透圧は同じである。では最後に、なぜ細胞内液組成と細胞外液組成がこんなに違うのかについて考えてみよう。それは地球の長い歴史と生命の誕生と進化が大きく関与しているからだ。この続きは次回に解説しよう。
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