NSAIDsによる腎障害 ~Triple whammyを防げ~
26日目 アセトアミノフェンについて深く知ろう
⑧アセトアミノフェンは効かない薬じゃない!~腰痛診療ガイドライン2019の深い謎~

 「アセトアミノフェンは効かない」という声をよく効きます。ただし1回500mgという低用量で「効かない」って言っていないでしょうか?せっかく4000mg/日(この用量で連日投与すると欧米に比し小柄な日本人にとっては肝障害が心配ですが)という国際的用量を投与可能になったのに…。せめて600mg×4回/日または1000mgの頓服(2~3回/日まで)をしないのでしょうか。

 腰痛診療ガイドライン2019 改訂2版1)で急性腰痛にはNSAIDsは1A(1は推奨度、Aはエビデンスレベル)で、アセトアミノフェンは2D(推奨度の合意率は100%になっています)で、これに関しては異論ありません。腰痛に関してはスタディが行われていなかったのですから。

 でも有効成分が不明なのに日本でのみ承認されているノイロトロピンの2Cには大きな違和感があります。推奨度の合意率は71.4%と低いのです。このガイドラインでは投票により投票者の7割以上の同意の集約をもって全体の意見(推奨決定)としていますが、7割以上の同意が得られなかった場合は、投票結果を示したうえで十分な討論を行ったのち、再投票を行ったとあるので、71.4%はぎりぎりセーフなのでしょうか?(1)

20211104_1.png

 ノイロトロピンについては1977~1987年に行われた日本人の書いた5本の論文が収載されていますが、5報中、急性・慢性腰痛の疼痛を有意に改善したのは1977年の1報のみ、しかも5報で100%のうち5.4%しか寄与していないノイロトロピン使用者31名のみの論文です(図11)

20211104_2.png

図2では、有効であったという論文はTsuyama1977とありますが、引用文献を見ると日本語で、しかも基礎と臨床(検索期間外)となっております2)。ちなみに「基礎と臨床」という雑誌はメーカーと医師が共同して「○○の使用経験、臨床効果」など主観的判断で薬効を評価するようなレベルの低い雑誌で、毎月発行され、その1冊が400ページもあるメーカーのお抱え雑誌で、複数査読性雑誌ではないと思います。だって「○○の使用経験」という論文ってタイトル名だけで、まずタイトルだけでまともな査読者はリジェクトするでしょ?同じ刊には「腰痛症におけるポンタールの使用経験」という論文がありました。ポンタールはロキソニンが販売される前の同じ会社の主力NSAIDでしたが、この論文は当然ですが腰痛診療ガイドライン2019のシステマティックレビュー(SR)論文の対象にはなっていません。ノイロトロピンのエビデンスを示した図2 1)のその他の論文もすべて和文でClinical Question2「腰痛に薬物治療は有用か」という章の中で和文論文は奇異なことに、このノイロトロピンに関する非常に古い論文5報のみでその他はすべて英語論文でした。これらの中には二重盲検比較試験も含まれていますが、今だったら二重盲検比較試験を和文で書く人はほとんどいません。なんで「複数査読制の英語にしなかったの」と思ってしまいます。このようなレベルの低い論文でシステマティックレビューをしたガイドラインって信頼できるのでしょうか?1980年前後って論文執筆者のCOIなんか調べていないのに、こんな和文論文を採用できるのでしょうか?ノイロトロピンは副作用の少ない薬であることは認めますが、アセトアミノフェンよりもエビデンスレベルが高いことが不思議でなりません。ちなみに2018年に刊行された慢性疼痛治療ガイドラインではアセトアミノフェンは1A(使用を強く推奨する)なのですから。

20211104_3.png

 急性腰痛に対して東京大学医学部附属病院の2018年の報告によるとロキソプロフェン60mg×3回/日とアセトアミノフェン600mg×4回/日の群をランダムに割り当てられる無作為化比較試験を実施しました3)。疼痛強度は0〜10の数値評価尺度(NRS)を使用して測定され、一次転帰は非劣性マージン(疼痛の変化で0.84-NRS)でテストされ、二次転帰は2週目と4週目に従来の統計的方法を使用して比較されました。その結果、アセトアミノフェンはロキソプロフェンと比較して、少なくとも非劣性マージンに基づいて、同等の鎮痛作用が認められたため(図23)、アセトアミノフェンは日本の急性腰痛患者にとって合理的な第1選択薬になるとされています。この論文のabstractの冒頭に「現在の世界的な診療ガイドラインでは、急性腰痛の治療の最初の選択肢としてアセトアミノフェンが推奨されています。しかし、アセトアミノフェンまたは非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が日本で急性腰痛の治療に効果的であるかどうかに関する具体的なエビデンスがありません」という理由でこの試験をやったというのです。

 さらに2020年には同じく日本での多施設共同研究(筆頭著者は北里大学医学部整形外科)でアセトアミノフェン、セレコキシブ、ロキソプロフェン、トラマドールとアセトアミノフェン(図のT+ACDはtramadol+acetoaminophen combination drugの略)の慢性腰痛への有効性をvisual analog scale(VAS)などを用いて比較した報告(図34)では、アセトアミノフェンを含むこれらの4種の鎮痛療法の報告とも痛みの有意な改善を示しています。しかもアセトアミノフェンの1日平均用量は

20211104_4.png

1095~1167mg/日と非常に低いのです。ランダム化がされていないというリミテーションはありますが、こんな低用量のアセトアミノフェンがNSAIDsやトラムセットと同等に効果があったのです。しかも日本発の腰痛特異的健康関連QOL評価法として日本整形外科学会腰痛疾患問診票(JOABPEQ: Japanese Orthopedic Association Back Pain Evaluation Questionnaire)というメンタルスケールではアセトアミノフェンとトラムセットでは各々5点、2.5点改善したものの、ロキソプロフェンとセレコキシブの両NSAIDsのスコアが悪化したというおまけつきで、これはアセトアミノフェンの中枢におけるプロスタグランディン合成の抑制かもしれないと考察されています。JOABPEQではアセトアミノフェン投与1か月後で有意に改善(P=0.02)し、さらに日本整形外科学会が制定した整形外科的な身体機能の判定基準として用いられる身体機能のスコアもアセトアミノフェン群は6か月後に有意に改善しました (P<0.01: 図4)。ということでアセトアミノフェンは腰痛に効きます!腰痛診療ガイドライン2019 改訂2版に示されたように決してノイロトロピンよりも劣るような薬ではありません。NSAIDsに十分対抗できる鎮痛薬、しかもNSAIDsと異なり、安全で様々な有用性を秘めた鎮痛薬だと思います。次回に改訂されるドラインではアセトアミノフェンは2Dからよりエビデンスレベルの高いものに変わるはずです。

20211104_5.png

 

引用文献
1) 日本整形外科学会診療ガイドライン委員会, 腰痛診療ガイドライン策定委員会他: 腰痛診療ガイドライン2019(改訂第2版), 2019
2)津山直一, 他: 基礎と臨床11: 309-320, 1977
3)Miki K, et al: I Orthop Sci 23: 483-487, 2018
4)Inoue G, et al: Spine Surg Relat Res5: 252-263, 2020


プロフィール

平田純生
平田 純生
Hirata Sumio

趣味は嫁との旅行(都市よりも自然)、映画(泣けるドラマ)、マラソン 、サウナ、ギター
音楽鑑賞(ビートルズ、サイモンとガーファンクル、ジャンゴ・ラインハルト、風、かぐや姫、ナターシャセブン、沢田聖子)
プロ野球観戦(家族みんな広島カープ)。
それと腎臓と薬に夢中です(趣味だと思えば何も辛くなくなります)

月別アーカイブ