最初の講義は昨日と同じで、Dr.Dreilingという医師による心疾患検査について。僕にはあまり理解できなかったがエコーや画像診断についても習った。彼はなぜか僕に興味を持っているらしくて、「君の英語はすばらしい。どこで習った?」と聞くから「まだまだだめです」と答えると「私の日本語よりずっとうまい」だって。これってほめ言葉?

興味を持ってくれたのは、昨日ドクターが「尿酸は心疾患のリスクファクターである」って言ったから、「透析患者では尿酸値が上がるけどそれによって心疾患が悪化することはない」と質問したからかもしれない。「腎不全患者は別の話で、尿酸値は心血管病変のリスクファクターにはならない」と答えてくれた。

オレゴンでの講義スタイルは教授によって個性がまったく異なる。今日のドクターはジーンズをはいていたし、講義中に実践的なクイズを出すことも多い。中には正解者にキャンディを配る先生もいる。みんな身振り手振りを交えながら話し、広い階段教室を歩き回ったり、ジョークで笑わせるなどエンターテイナーみたいだ。学生の心をつかむのは大変なんだと思う。学生は帽子をかぶったままでもOKだし、授業中にバナナやリンゴをかじっている子もいる。でも日本と最も違うのは居眠りしている学生が1人もいないということ。

今日は授業が終わって講義内容についてのアンケートが回ってきた。講義はわかりやすかったか?配布資料はうまくまとめられているか?配布資料やスライドが見やすかったか?を5段階評価しそして自由に建設的なコメントをという欄が広いスペースであった。このようなアンケートを行っているからか、教授は後ろからは見えづらい黒板を使うことは全くなく、授業前にはパワ-ポイントの6分割のスライドをファイルで渡しておいて、まったく同じスライドを使って講義したりOHPを使ったりの形式が多かった。だからみんな予習できるし鋭い質問をする。スライドに写ったものがテキストになかったら「それを後からコピーして配ってくれ」と学生側から文句が出ることもある。

 

午後はAliについて病棟に行く。例の腎移植後、薬剤性糖尿病になった1歳の女の子が下痢をしている。これは矯味剤にソルビトールを多く使ったためだ。シロップ剤の種類の少ないアメリカでは錠剤をつぶしてイチゴシロップ、オレンジシロップ、単シロップなどに溶解して作るのだが、ソルビトールは溶解性が高いためと、DMだから血糖値が急上昇しないようにという配慮から多く使われたみたいで、シロップを作り直してもらった。

フェリチン値が2500ng/mLと異常高値のため腎障害を起こした患者にはデスフェラールの内服が使われた。これはPhase Ⅲで発売前だが注射薬に比べて皮膚炎が起こりにくいのだそうだ。

PharmD4年目のJanに「これは高アルミニウム血症にも使われるんだよ。高アルミニウム血症は透析痴呆症といわれる脳症と骨軟化症の原因になるんだ」とデスフェラールの構造を書きながら教えてあげた。Janの医薬品集にはちゃんと高Al血症の適応があった。

今日は退院処方が多いので、Aliは大忙しだ。ちなみに退院処方は30日分だ。ドクターが処方を作成してくれるようにAliのオフィスをよく訪ねてくるが「今は忙しいので、1時間待ってくれないか?」と丁寧に追い返す。その後ドクターとディスカッションするが、Aliの言われたとおりの新規処方をし、言われたとおりに不要な薬剤を中止した。ここではドクターとAliの立場まったく逆転している。カルテには付箋が張ってあるページがあって「これはナースか薬剤師が書いているのですか?」と聞くと「アメリカではCase managerという保険についてチェックする職種の人がいて、ドクターの医療行為に介入することがあるんだ」と説明を聞き、アメリカの医療制度の問題点を感じた。

Aliは講義もする暇がないから廊下を歩きながら「一番優れているβブロッカーは何だと思う?そしてその根拠は?」などと聞きながら、各々エビデンスを説明しながらカルベジロールの有用性について説明した。

処方変更すると続いて服薬指導だ。Aliは普通は早口だが服薬指導は非常にゆっくりわかりやすくちゃんと相手の目をみて説明する。日本のように目線をあわせるために座ったりはしない。「透明のインスリンは1日3回ブン、ブン、ブンとすばやく効くんだよ。だけどにごったインスリンは(両手を伸ばしながら)すごーく長く利くんだ。」こんな説明だとだと誰でも理解できる。

薬剤起因性の昏迷があるかないかをチェックするときには「大統領の名前は?」「Bush」「じゃ今日は何曜だったっけ?」「木曜日」と聞いて「パーフェクト」といって確認していた。

Janは中国から来た子で、レジデントのBryanよりもはるかに優れている。彼女に聞くとundergraduateを2~4年行って、PharmDを4年行く。さらに薬剤師免許を取得したら、調剤薬局(オレゴンではスーパーの中にあったり、巨大チェーン店が多い)に勤められるけど、病院薬剤師になるにはさらに           Residentを1年、専門薬剤師になりたかったらさらにその専門の病院に1年間、さらにFellowshipで1年研究する人もいるそうだ。一人前の薬剤師になるには10年近くかかる。Janは薬剤師の卵のPharmD最後の年だが、臨床のことも薬理学も、薬物の構造についても動態についても実によく知っている。白鷺病院にいた頃、ある薬科大学の教授が白鷺病院に訪問したとき、「ピラマイド」を見て、「この病院では古い薬を使ってるんですね」と言ってたが、この教授は臨床を教えているにもかかわらず10年も前に結核治療のガイドラインが変わったことすら知らなかったのだ。こんなことはアメリカでは起こりえないことだと思う。

これから医師や医学生に臨床薬理学の重要性を教えれば、難しい症例は優秀な薬剤師に処方をまかせようということになるかもしれない。そのためには「臨床をよく知った優秀な薬剤師」を育てる必要があるなと感じた。一方、薬剤師は医療薬学会や薬学会などの薬学系の学会にとどまることなく、自分の行っている病棟の専門性を生かした臨床系の学会に参加しなければ最新の情報は得られない。最新の情報を知らない薬剤師は医師から信頼されることはないと思う。

今日は初めて迷子にならずにすんだ。オレゴンは霧雨が多いし、この時期からよく雨が降るそうだが「インディアン、嘘つかない」「オレゴン人、傘ささない」。

今日習ったこと:10/6

カルベジロールの利点はインスリン感受性を挙げて体重を減少できる。コレステロールを下げるが、アテノロール、メトプロロールはコレステロールを上昇させる。ロプレソール、カルベジロールは中枢神経系の副作用が少ないが、アテノロールは半減期が長いので、中枢神経系の副作用が起こりやすい。

Crを上げずにBUNだけが上がることのある薬物はシメチジン、プロベネシド、ペニシリンなど。

ソルビトールは単シロップに比べ溶解性が高いために矯味剤として用いやすい。

屯服のことはAs neededという

プロフィール

平田純生
平田 純生
Hirata Sumio

趣味は嫁との旅行(都市よりも自然)、映画(泣けるドラマ)、マラソン 、サウナ、ギター
音楽鑑賞(ビートルズ、サイモンとガーファンクル、ジャンゴ・ラインハルト、風、かぐや姫、ナターシャセブン、沢田聖子)
プロ野球観戦(家族みんな広島カープ)。
それと腎臓と薬に夢中です(趣味だと思えば何も辛くなくなります)

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