7日目です。腎機能推算式はほとんどが血清Cr値(例外的にシスタチンCもありますがこれについては後述します)を用いて腎機能を推算しています。Crは筋肉を構成しているクレアチン(体内に約120g程度存在します)から筋肉で代謝されて1日約1%が老廃物であるCrが産生されています。Crは代謝されず血漿タンパクと結合しないため、100%糸球体濾過され、再吸収もされませんが、20~30%程度尿細管分泌されるため糸球体濾過量(GFR: 正常値100mL/min)よりも高く、CCrの正常値は120~130mL/minになります。

 血清Cr値は筋肉量と相関するため男性で高く、女性で低いなど筋肉量による個人差があります。またこの血清Cr値を基に推算される推算CCrやeGFRは痩せた患者では血清Cr値が低いため腎機能がよいとみなしてしまうために腎機能を過大評価し、腎排泄性薬物の過剰投与から副作用の原因になります。

 一方、蓄尿して得られる実測CCrは尿細管分泌されるため0.715をかけてGFRとして評価することができる非常に正確に腎機能マーカーになります。ただしこれは蓄尿が正確に行われていないと正確な評価ができません。蓄尿し忘れは腎機能を低く見積もられ、腎排泄型薬物が効果を示さないことが危惧されます。またシスタチンCを測定してeGFR(mL/min)を算出するのもよい方法ですが、これについては後述します。


【 鉄則5 】

高齢者のフレイルなど、腎機能予測式では正確な評価ができない症例には24時間畜尿による実測CCrenz×0.715によりGFRとして評価すると正確な腎機能が得られる。畜尿CCrは畜尿忘れがないよう「畜尿忘れがあれば必ず伝えてください。正直に言ってくれないと薬が効かなくなる恐れがあります」と指導する。

  CG式による推算CCrもeGFRも血清Cr値を基にした予測式です。血清Cr値に影響を与えるものの中に栄養状態(筋肉量)、筋肉疾患、食事摂取内容、薬剤の併用による相互作用などが考えられます。高齢者で血清Crが低値であるということは腎機能が非常に良いというよりも、ほとんどの場合、筋肉量が少ない栄養状態が不良の患者、つまりフレイル症例と考えてよいでしょう。

  栄養状態の不良な患者あるいは筋肉量の少ない患者では血清Cr値は低値です。血清Cr値の基準値は男性で0.6~1.2mg/dL、女性で0.4~1.0mg/dLで、男女差があります。Crは筋肉を構成しているクレアチンの最終代謝産物ですから、筋肉量の少ない人では血清Cr値が低いため、これらの推算式では腎機能がよいと推算されてしまいます。一般的には長期臥床の高齢者がこれにあたります。痩せた高齢者のeGFRが150mL/minだったからと言って、健常青年よりも腎機能がよいなんて判断はしないでください。

  その他に筋ジストロフィーなどの筋肉の委縮する疾患では0.1mg/dL以下の顕著な低下を示すため、eGFRが1,000mL/minなどの健常者の10倍くらいの値になることもありますが、これもあり得ないことです。これらの患者で腎機能を正確に把握する必要があるときには蓄尿CCrまたはイヌリンクリアランスを測定する必要があります。あるいはシスタチンCを測定しeGFRcysによって判断するのもよい方法です(後述)。

  栄養状態が悪く痩せた長期臥床高齢者では筋肉量が少ないため、eGFR、推算CCrがともに高く見積もられる症例が多くあります。このような症例に対しては蓄尿による実測CCr×0.715をGFRとして投与設計するとよいでしょう。ただし高齢男性では前立腺肥大による排尿困難患者が多いため、短時間畜尿は適していません。24時間蓄尿が推奨されます。

  蓄尿し忘れると腎機能を過小評価してしまいます。「絶対に蓄尿を忘れてはいけませんよ」と言われれば「忘れると怒られる」という心理が働きます。「蓄尿を忘れないほうがよいのですが、忘れることはよくあります。もしも忘れたら正直におっしゃって下さい。もしも正直に言ってくれなかったら、腎機能が悪いとみなされ、薬の量が減ります。そうするとあなたの飲んでいる薬が効かなくなる恐れがあります」というように説明しましょう。

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「今日はここまで、それではまた次回お楽しみに!」

プロフィール

平田純生
平田 純生
Hirata Sumio

趣味は嫁との旅行(都市よりも自然)、映画(泣けるドラマ)、マラソン 、サウナ、ギター
音楽鑑賞(ビートルズ、サイモンとガーファンクル、ジャンゴ・ラインハルト、風、かぐや姫、ナターシャセブン、沢田聖子)
プロ野球観戦(家族みんな広島カープ)。
それと腎臓と薬に夢中です(趣味だと思えば何も辛くなくなります)

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