8日目です。推算CCrは肥満患者の腎機能を過大評価することを鉄則4で述べましたが、今回は逆に痩せた患者ではeGFRが過大評価してしまうということについてです。これは体表面積補正eGFR(mL/min/1.73m2)でも未補正eGFR(mL/min)でも同様の傾向を示します。この場合も蓄尿して得られる実測CCrに0.715をかけてGFRとして評価することができる非常に正確に腎機能マーカーになりますが、そこまで出来ない場合、血清Cr値が0.6mg/mL未満の場合には0.6を代入すると予測性が高くなることがあり、ラウンドアップ法とよばれています。シスタチンCを測定してeGFR(mL/min)を算出するのもよい方法ですが、これについては後述します。


【 鉄則6 】

血清Cr値が0.6mg/dL未満の高齢フレイル症例の腎機能推算式の血清Cr値として0.6mg/dLを代入すると予測性が高くなることが多い。ただし自分の目で症例の体格を確認すること。まれに痩せているがフレイルではなく活動的な症例の場合、腎機能がよい可能性がある。

  GFRは推算式を用いる場合、血清Cr値をもとに算出しています。Crは同一個人では産生速度が一定で、タンパクと全く結合していないため100%糸球体濾過され、まったく再吸収されないため腎機能を反映しやすい生体内物質です。ただし尿細管からわずかに分泌されるのがやや欠点です。血清Cr値は0.6から0.9mg/dLに上昇しても正常値範囲内で腎機能を判断しにくいためeGFR(正常値100mL/min/1.73m2)で表すと90から60mL/min/1.73m2と30%も低下していることがわかるため、eGFRは腎機能を評価するのに分かりやすいですね。

  ただしCrは筋肉を作っているクレアチンの最終代謝産物であるため筋肉量が少ないとeGFRが高く推算されてしまうのが大きな欠点です。ですから長期臥床高齢者で筋肉量が少ない患者さんでは90歳なのに150mL/min/1.73m2のような正常値以上に推算されることがあります。腎機能は加齢とともに低下するためこれはあり得ません。
このような患者さん(血清Crが0.3mg/dLなどのように低値)だけでなく、筋ジストロフィーの患者さん(血清Crが0.2mg/dl以下になることもあります)ではeGFRが500~1000mL/min/1.73m2などに過大評価されますが、これは「腎機能がよい」のではなく「筋肉量が少ない」ことを表しています。

  このような症例では科学的ではありませんが、具体的な対応として臨床現場では血清Cr値が0.6mg/dL未満の症例に対して0.6を代入して推算式を使うと、腎機能の予測精度が上がると言われており、ラウンドアップ(round up)法と言います。またその他の具体的な対応としてはカルボプラチンの投与設計で推奨されているeGFRが高値に計算されていても上限を125mL/minとするキャッピング(Capping)法もあります。

  高齢長期臥床患者ではeGFRが正常値よりも高くなることがありますが20151106_5.jpg、高齢者なのに腎機能が正常より高いはずはありません。この様な症例では筋肉量が低下しているため推算式では正しく推算されません。医療従事者自身の目で患者の体格を確認しましょう。中には毎日、元気に農作業に出ているけれども痩せている高齢者もいますし、このような患者では痩せていても筋肉量は長期臥床患者と比べて多いと考えられます。このように痩せた高齢者に対し、重要な腎排泄薬物(MRSA感染症時のバンコマイシン、がん患者におけるカルボプラチンやティーエスワン、ダビガトランなど)を投与する場合には、24時間蓄尿により実測CCrを算出し、0.715倍してGFRとして評価するか、シスタチンCによってeGFRcysを算出する必要があります。

 

20151106_8.jpg

「今日はここまで、それではまた次回お楽しみに!」

プロフィール

平田純生
平田 純生
Hirata Sumio

趣味は嫁との旅行(都市よりも自然)、映画(泣けるドラマ)、マラソン 、サウナ、ギター
音楽鑑賞(ビートルズ、サイモンとガーファンクル、ジャンゴ・ラインハルト、風、かぐや姫、ナターシャセブン、沢田聖子)
プロ野球観戦(家族みんな広島カープ)。
それと腎臓と薬に夢中です(趣味だと思えば何も辛くなくなります)

月別アーカイブ