TDMの結果から投与設計

 総濃度でのトラフ値は0.75、ピーク値は2.87µg/mL、AAG濃度は103〜127mg/dLと健常者の約2倍あったため、蛋白結合率は約85%と高く、遊離型濃度はトラフ値が0.09、ピーク値は0.40µg/mLと低かった。この結果には薬剤師として大きな疑問が2つ生じた。①このような低い遊離型ピーク濃度では不整脈を抑えられないはずなのにピーク値付近では不整脈が完全に抑えられていたこと。②総濃度は有効治療域(2〜5µg/mL)内にあるのにピーク値付近では通常では起こりえない強力な抗コリン作用が発現していたことである。
トラフ値が低すぎたために徐脈・頻脈が現れ、ピーク値が高すぎたために視覚異常・食欲不振が発現するというAさんの病態から、投与方針は容易に決まった。ピーク値/トラフ値比をできるだけ大きくするためには少量頻回投与するべきである。至急50mgのカプセルを購入し、1日2回投与してもらうよう医師に勧めた。思った通り、ピーク値は下がり、トラフ値は上がった。そして奇跡的にAさんの徐脈・頻脈は1日中治まり、視覚異常・食欲不振も全く消失した。まさに奇跡であった。いくら内科医がAさんの投与方法を変更してもコントロールできなかった不整脈と副作用を薬剤師がTDMを実施することで完全にコントロールでき、退院できたのである。しかし薬剤師としての2つの疑問は残ったままだった。

プロフィール

平田純生
平田 純生
Hirata Sumio

趣味は嫁との旅行(都市よりも自然)、映画(泣けるドラマ)、マラソン 、サウナ、ギター
音楽鑑賞(ビートルズ、サイモンとガーファンクル、ジャンゴ・ラインハルト、風、かぐや姫、ナターシャセブン、沢田聖子)
プロ野球観戦(家族みんな広島カープ)。
それと腎臓と薬に夢中です(趣味だと思えば何も辛くなくなります)

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