NSAIDsによる腎障害 ~Triple whammyを防げ~
13日目 NSAIDsの腎障害は腎前性腎障害(腎虚血)だけじゃない
~ 4種類のAKIと1種類の慢性腎不全 ~
薬剤性AKIの原因薬物のワースト3はほとんどの報告でNASIDs、抗菌薬、抗がん薬で、その中でもNSAIDsは抗菌薬と常に1位、2位を争うほど薬剤性AKIの原因薬物として頻度が高いのです(図1)1)。
ただし高齢者を対象とすると脱水による腎虚血を来たしやすいためNSAIDsが薬剤性腎障害の原因薬物のトップになります2)。腎機能が低下しているCKD患者ではレニン‐アンジオテンシン-アルドステロン系(RAAS)や交感神経系が亢進して腎機能の低下を食い止めています。これにより糸球体過剰濾過が起こり、腎の仕事量増大によってネフロン数は経時的に低下する状態にありますが、PGI2やPGE2やヒト心房性利尿ペプチド(hANP)などの血管拡張物質によって腎機能の悪化を食い止めているのです。
NSAIDsによる薬剤性腎障害のメカニズムはシクロオキシゲナーゼ(COX: cyclooxygenase)の阻害を介してPGの生合成を阻害する薬理作用に起因します。PGI2やPGE2は血管拡張物質ですが、これらの産生を低下させることによってNSAIDsは輸入細動脈の血管を収縮させ、腎血流の低下から、GFRの低下をもたらします(図2)3)。
NSAIDsは上述のような①輸入細動脈収縮による腎前性AKI以外にも、様々なメカニズムでAKIを発
症します。②尿細管を栄養する輸出細動脈の虚血による尿細管壊死(脱水状態が持続すると重篤化します)、③免疫反応が介在するポドサイト障害による微小変化型ネフローゼ症候群、膜性腎症などの糸球体障害、④アレルギー性間質尿細管性腎炎(図3)、さらにこれまで紹介したAKIではなく、慢性腎不全に至るのがOTC薬のアスピリン+アセトアミノフェンなどの鎮痛薬配合剤の長期大量連用による腎乳頭壊死(鎮痛薬腎症)があります。
米国老年医学学会の疼痛治療ガイドラインでも非選択性NSAIDs、COX-2選択的阻害薬は極めて厳重に注意して投与すべきであり、特殊な症例を除いて投与してはならない(質の高いエビデンス、強力に推奨)となっています4)。高齢者の持続的な痛みに対する初期および持続的薬物療法、特に筋・関節痛に対してはアセトアミノフェンを推奨(効果および安全性に関して質の高いエビデンスがあり、強く推奨)しています5)。ただしアセトアミノフェンは肝不全には禁忌、アルコール中毒・肝障害には慎重投与で1日投与量は4gを越えないことが肝要です6)。
COX-2は炎症時に産生され、血管内皮や平滑筋、糸球体に限局して発現し、血管透過性亢進、発熱、痛みの発生に関与しているため、抗炎症作用のみを期待するにはセレコキシブ、メロキシカム、エトドラクなどの選択的COX-2阻害が望ましいことが期待されています。しかしCOX-2は例外的に腎臓と脳では構成型酵素であるためCOX-2選択的阻害薬でも腎障害が非選択性NSAIDsと同様に起こると考えられています。ただしCOX-2選択的阻害薬の中には多くの論文で、他の非選択的NSAIDsよりも腎障害を起こしにくいという報告があるものがあります。それは次回に解説させていただきます。
引用文献
1)和泉 智, 他 日本病院薬剤師会雑誌, 46: 17-21, 2010
2)Baraldi A, et al: Nephrol Dial Transplant, 13: 25-29, 1998
3)Whelton A, et al: J Clin Pharmacol 31:588-598, 1991
4)American Geriatrics Society Panel on Pharmacological Management of Persistent Pain in Older Persons: J Am Geriat Soc, 57: 1331-1346, 2009
5)Swan SK, et al: Ann Intern Med, , 133: 1-9, 2000
6)Henrich WL, et al: Am J Kidney Dis 27: 162-165, 1996