NSAIDsによる腎障害 ~Triple whammyを防げ~
14日目 経口NSAIDsを使うとしたら腎障害の少ないエビデンスレベルの高いものは何?
経口NSAIDsとして使うとしたら腎障害の少ないものはあるのでしょうか?プロドラッグで腎におけるPG阻害の程度が他のNSAIDsと比べ軽いといわれていたクリノリル?(腎組織において再度非活性型に変換されるため、腎機能障害が少ないとされていた)やCOX-2選択性が高いとわれていたハイペン?などが、AKIを起こさないという確たるエビデンスがないのに、メーカーに騙されて使っている医師が多かったようですが、これは今も続いているようです。COX-2選択性阻害薬のセレコキシブに関しては腎障害が少ないという報告は筆者が検索しただけでも少なくとも6報ありました。腎障害患者にはアセトアミノフェンと並んで推奨できる可能性のある唯一のNSAIDとなるかもしれません。今回はそれらの論文を精査してみましょう。
① 無作為化クロスオーバー単盲検比較試験でナプロキセン1000mg/日群に比しセレコキシブ800mg/日群では有意にGFR低下度が軽度であったが、セレコキシブ400mg/日群もGFR低下度が軽度ではあったが有意ではなかった(図)。Whelton A, et al : Arch Intern Med 160: 1465-1470, 2000
② 600人を対象にした無作為化二重盲検プラセボ比較試験でジクロフェナクでは有意な血清Cr値上昇を認めたが、セレコキシブでは差がなかった。McKenna F, et al: Scand J Rheumatol 30: 11-18, 2001
③ 腎機能の悪化リスク (2.38 rofecoxib vs 0.70 celecoxib; P < 0.01)、腎不全になるリスク(2.22 vs 1.09; P < 0.01)はrofecoxibに比し、セレコキシブで有意に低かった。Zhao SZ, et al: Clin Ther 23: 1478-1491, 2001
④ 19,163人のコホートスタディでセレコキシブはロフェコキシブに比し、末期腎不全に移行するリスクが有意に低かった。Kuo HW, et al: Drug Saf 19: 745-751, 2010
⑤ 44人の男性前立腺がん患者のコホートスタディ。セレコキシブ800mg/日の大量投与でもeGFRに変化がなかった。Benson P, et al: Clin Nephrol 78: 376-381, 2012
そして最後の論文は
⑥ 24,081人の患者を3種のNSAIDsにランダムに割り付けたPRECISION study(RCT)で重篤な腎イベントはイブプロフェン群(平均2,045±246mg/日で日本人用量の3倍以上)に比しセレコキシブ群(平均209±37mg)で有意に低かったが、ナプロキセン群(852±103mg/日)とは差なし。Nissen SE, et al: N Engl J Med 375: 2519-2529, 2016
ただし⑥の論文に関してはFunded by Pfizer(ファイザー社による資金提供で行った試験)でした。セレコキシブの平均用量は平均209±37mg(セレコキシブの最大用量は400mg/日ですが、400mgカプセルもあり、急性の痛みの管理と原発性月経困難症の治療のために、投与量は最初に400mgの後200mgを追加可能です。これは日米でほぼ共通です)でほぼ日本の常用量200mg/日と同じであったのに対し、イブプロフェンは600mg/日程度が日本の常用量なのに対し、平均2,045±246mg/日で日本人用量の3倍以上でした(イブプロフェンの最大用量は医療用で3,200mg/日、OTC薬で1,200mg/日)。これはいくら何でも明らかに日本に比しイブプロフェンの用量が多すぎなので、日本で応用できるとは思いません!しかもこの稿の①⑤の論文で使用しているセレコキシブは800mg/日と⑥のこの論文の4倍量でナプロキセンに有意差を付けてGFRの低下が軽減されたのです。⑥の大用量のイブプロフェンに比し、低用量のセレコキシブの方が腎障害が少なくなるのは当たり前ではないでしょうか。それにしても2,000mg/日を超える投与量のイブプロフェンと比較するなんて、意図的じゃないのかな・・・。日本ではイブプロフェンは比較的安全性の高いNSAIDと思われていますが、米国では日本の常用量の5倍用量以上の投与が可能なので他のNSAIDsと同じ扱いでした。イブプロフェンはマイルドなイメージで安全なのではなく、日本人用量が少なかっただけだと今は思っています。
COX-2選択的阻害薬の第1号のrofecoxibは世界中で、8,000万人以上の人々使われブロックバスターになりましたが、88,000~140,000例の重篤な心臓病が発生して市場から撤退しました。しかもメーカーのメルク社はこれらのリスクに関する情報をキャッチしていながら、公表を差し控えたことが明らかになり、大問題になりました。セレコキシブも同じCOX-2選択的阻害薬ということで、疑念がかけられましたが、8,246,403人の大規模研究ですべてのNSAIDsを総合すると心不全の入院リスク入院が24%増加している中で、セレコキシブが一般的な服用量で心不全のリスクを高めたという根拠がないことが明らかになりました(図2)1)。
ジクロフェナクについてはあまり良い報告がありません。NSAIDs使用開始から30日以内のMACE(主要な心血管イベント)発症率を比較するとイブプロフェン群、ナプロキセン群に比し有意に発生率が高いという報告2)、ジクロフェナクは1日投与量の2倍で心不全リスクが2倍以上になるという報告1)、ジクロフェナク服用30日以内の心血管リスクはNSAIDs非投与群に比しすべてのMACEの発症率が有意に高く、アセトアミノフェンに比し、主要心血管病変の発症率が有意に高く、イブプロフェン、ナプロキセンに比しMACEの発症率が有意に高いことなどが報告されています3)。
引用文献
1)Andrea Arfe, et al : BMJ 2016; 28;354:i4857.
2)Schmidt M: BMJ 2018 Sep 4;362:k3426. doi: 10.1136/bmj.k3426.
3)Carter S, et al: JAMA Network Open. 2018;1(3):e180756. doi:10.1001