NSAIDsによる腎障害 ~Triple whammyを防げ~
9日目 降圧薬処方に対して薬剤師らしい服薬指導やってる?
高齢者の腎機能を悪化させるのはTriple whammyだけじゃありません。高血圧の是正も重要なのです。糖尿病性腎臓病、CKD患者の目標血圧はご存知でしょうか? 各患者様に単に「血圧の薬です」「血糖値を下げる薬です」とだけ言って渡していませんか?これって服薬指導といえますか。薬剤師だったら1歩踏み込んで、指導しなきゃいけないと自覚していますでしょうか?
忙しすぎる?時間がない?患者さんが聞いてくれない?患者さんは医師の前ではいろんなことを訴え、いろんなことを学んでますよね。なんで薬剤師の前では「時間がないから早くして」としか言わないのでしょうか?こんなおかしな状態を1つ1つ薬剤師自身が変えようと思わない限り、何も変わりません。何度も何度も挫折しながらでも、繰り返すことによって少しずつでも変えていこうと思いませんか?薬剤師がまともな情報を発信し続けたら、少しずつ患者さんの薬剤師に対する見る目も変わってくるはずです。少なくとも「できる薬剤師だな」と感じた患者さんはその薬剤師を頼りにしてくれるようになるはずです。
高血圧治療ガイドライン2014 1)では糖尿病と蛋白尿陽性のCKD患者のみの目標診察室血圧が130/80mmHg未満であったのが、5年後の高血圧治療ガイドライン2019 2)では、ほとんどの疾患で実質上130/80未満になりました。従来通り高めの目標値になったのは75歳以上の高齢者(併存疾患の降圧目標が収縮期130未満の場合、忍容性があれば130未満)、両側頸動脈狭窄や脳主幹動脈閉塞あり、または未評価の脳血管障害患者と蛋白尿陰性のCKD患者のみになったのです(表)。
この中で後期高齢者は従来の<150/90から下げられたので、特殊な脳血管障害患者を除けば、2019年のガイドラインは蛋白尿陰性のCKD患者だけが高い血圧管理の140/90未満が推奨されたといってもいいでしょう。日本だけではありません。欧州のガイドラインもわずかな例外を除いて130/80mmHg未満が推奨されていますが、日本も欧州も高血圧の定義は140/90mmHg以上のままです。しかし米国では高血圧の定義そのものが130/80未満になりました。
ではどうしてこのようなガイドラインが大幅に変更されたのかというと、50歳以上で収縮期血圧(SBP)130~180mmHgで、心血管疾患リスク因子 を一つ以上有する9,361例 (糖尿病と脳卒中は除外)を対象にしたSPRINT studyの結果によります。この研究では目標SBP140mmHg群を対象として、目標SBP<120mmHgの群(厳格降圧群)では全死亡のハザード比が0.73に低下した、つまりすべての死亡者数が27%も厳格降圧群で減少したという結果によります(図1)3)。
心不全が38%低下、心血管死は43%低下など患者さんの予後を大きく改善し、これらが有意に低下したため目標SBP140mmHgの持続は倫理的に問題ということで5年間の予定が中央値3.26年で早期終了しました。
ただし非CKD患者で30%以上eGFRが低下する腎機能の悪化は厳格降圧群で3.49倍に増加したのです。図2 4)はeGFRが60mL/min/1.73m2以上の非CKD患者6,662例を対象にしたSPRINT studyのサブ解析を示しますが、3年後の心血管病(CVD)インシデントは厳格降圧群で29%低下したものの(図2左)、CKDになるインシデントは逆に厳格降圧群で3.53倍増加してしまったのです(図2右)。
じゃあなんで米国だけ高血圧の定義まで変えたのかというと、米国では腎機能の悪化よりも心血管病変の改善による利益の方がはるかに高かったからじゃないかと思います。米国は肥満大国でがんよりも心臓病による死亡者が多い国ですから、CKDという病気は透析導入の原因疾患としてよりも、透析導入になるまでに心血管病によって死亡するリスクの方がはるかに高いからだと思います。片や日本ではCKDはいまだに慢性腎不全による透析導入が大問題なのです。だから米国では腎機能悪化のリスクよりも、心血管疾患減少というベネフィットをとって厳格降圧は絶対にいいんだということで130/80未満になったのだと平田は愚考します。
ということで、今回は血圧についてでした。全身血圧が高いということは動脈硬化を起こして細動脈の内腔が狭まるし、糸球体内圧も高くなって、蛋白尿が漏れ出て腎機能を悪化する原因になります。動脈硬化性疾患である糖尿病性腎臓病の目標血圧は130/80mmHg未満、CKD患者の目標血圧は蛋白尿(+)なら130/80mmHg未満ですが、蛋白尿(-)なら140/90mmHg、つまり蛋白尿がなければ過度の降圧はメリットよりもデメリットの方が大きいので、例外的に高めに設定されたという理由が分かっていただけたかと思います。
もう1度繰り返します。各患者様に単に「血圧の薬です」だけ言って薬を渡していませんか?これって服薬指導のうちに入りませんよね。薬剤師だったら1歩踏み込んで、何のためにこの降圧薬をのまなくちゃいけないのか?目標血圧はいくらなのかをきちんと指導していただきたいと強く思います。これによって心血管疾患の発症、腎機能の悪化を抑えられるかもしれないのですから。
引用文献
1)日本高血圧学会: 高血圧治療ガイドライン2014
2)日本高血圧学会: 高血圧治療ガイドライン2019
3) SPRINT Research Group: N Engl J Med 373: 2103-2116, 2015
4) Beddhu S, et al: Ann Intern Med 167: 375-383, 2017