NSAIDsによる腎障害 ~Triple whammyを防げ~
21日目 アセトアミノフェンについて深く知ろう
③鎮痛薬腎症はAKIではなく慢性腎不全。
その真犯人はフェナセチンだけではないことを突き止めたベルギーの論文を抄読してみよう!(1)

 鎮痛薬腎症Analgesic nephropathyは腎乳頭壊死と間質性腎炎を特徴とする慢性腎不全です。これはオーストラリアやベルギーで発症率が高く、オーストラリアの女性透析患者の22%がフェナセチンによる慢性腎不全だったといわれています。フェナセチンを含むOTCの鎮痛薬の大量消費が主原因とされていましたが、現在ではアセトアミノフェン、ピリン系鎮痛薬、多くのNSAIDs(アスピリン、フェナセチン、フェニルブタゾン、インドメタシン、メフェナム酸、フルフェナム酸、フェノプロフィン、ナプロキセン、およびイブプロフェン)も発症原因になることが分かっています1)。乳頭壊死は剖検や腎切除後など例外的な患者でないと証明されなかったのですが、近年ではCTスキャンによって診断できるようになりました。鎮痛薬腎症はゆっくりと潜在性に進行するため、多くの鎮痛薬腎症の患者は重症になって尿毒症症状が現れてから受診することが多いようです2)

 フェナセチンはベテランの薬剤師の先生方はご存知だと思いますが、1887年から使われていたメジャーな鎮痛薬で、代謝されてアセトアミノフェンとして作用するのですが、後になってアセトアミノフェンが活性体と分かっただけで、歴史のあるフェナセチンの方が汎用されていたようです。長期に大量を服用した場合の障害や腎盂膀胱腫瘍、血液障害の発生リスクの増大等が指摘されて1983年にフェナセチンが欧米で製造中止となり、日本での医療用フェナセチン(OTC薬のフェナセチンは1983年に中止済み)は重篤な腎障害の報告が相次いだため、遅れて2001年に製造中止になりました。

 欧米でフェナセチンが製造中止になった1983年11月以降はオーストラリア、ベルギーおよび「フランダースの犬」で有名なフランダース地方(オランダ南部・ベルギー西部・フランス北部の地域)での鎮痛薬腎症は年々、減少しつつあります(図13)20211018_1.png ここで紹介したいのはベルギーでの調査をまとめたElsevierの詳細な報告4)です。アセトアミノフェンが単独で腎障害を起こすか否かを最もクリアカットに説明できる論文だからです。この報告をしっかり読むと鎮痛薬腎症の実態(真犯人)が理解できると思います。フェナセチン製造中止になって7年後、つまり1990年のベルギー26区の透析の導入率と1983年のフェナセチンのみを鎮痛薬として含むOTC薬購入量との間に相関は認められておらず(図24)、当時汎用されていたAPC処方といわれる 20211018_2.png アスピリン、フェナセチン、カフェイン処方が1919年にオーストラリアで製剤化された(英語版Wikipediaより)OTC薬が問題だったことはこの当時から明らかだったようです。同様に26区の透析の導入率とアスピリンのみを鎮痛薬として含む1983年のOTC薬購入量との間にも相関は認められず(図3)、26区の透析の導入率と鎮痛薬 20211018_3.png を2種類含む+カフェイン±コデインの複合剤のOTC薬購入量にはR=0.86の強い正相関が認められました(図4)。

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 鎮痛薬腎症226名中、219名(97%)が鎮痛薬2剤+カフェインなどの複合剤を服用しており、フェナセチンが最多(鎮痛薬単剤+カフェインN=6、鎮痛薬単剤のみ N=1を除く)でした(図5上のバー)。ただし複数ブランドのOTC薬を服用していた症例はどのブランドのOTC薬が鎮痛薬腎症の原因になるのか不明なため除くと、179名に解析対象者が限定され(図5中のバー)、そのうち予想通りフェナセチン含有製剤が133名と圧倒的に多かったのでこれを除外しました。フェナセチン以外にも鎮痛薬腎症に関連している鎮痛薬があるとすれば何かということが、このフェナセチンを除いた=46人を解析すればわかるはずです(図5下のバー)。そして図5下の表を見れば一目瞭然です。フェナセチンを除けば鎮痛薬腎症の最多の鎮痛薬組成はピリン系2剤の複合剤で22名(こんなOTC薬は日本には存在しません)、アスピリンとアセトアミノフェンの複合剤が18名、アスピリンとピリン系の複合剤が4名、アセトアミノフェンとピリン系の配合剤が2名です。鎮痛薬単剤で腎症を発症したのは3%の7名のみですから、単剤ではほぼ鎮痛薬腎症を起こさないことは明らか、つまりアセトアミノフェンは単独投与では鎮痛薬腎症の原因にならないのです!今までにアセトアミノフェンを投与した群がNSAIDs群と同等に透析導入になった、あるいはアセトアミノフェン群の方がNSAIDs群よりも透析導入リスクが有意に高かったというのはすべてコホート研究かケースコントロールスタディでRCTではありません。前回に解説したとおり、CKD患者、高齢者であればNSAIDsではなくアセトアミノフェンが推奨されていたというバイアスを含んでいるためだったからだと平田は確信しております。

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引用文献
1) Brix A: Toxicol Pathol 30: 672-674, 2002
2)Elseviers MM, et al: 鎮痛薬とアミノサリチル酸, “臨床家のための腎毒性物質のすべて”, De Broe ME, et al編, シュプリンガー・ジャパン, 東京, 2008, pp214-226, 2008
3)Elseviers MA, De Broe ME: Analgestics and 5-aminosalycilic acid. Clinical Nephrotoxins 3rd ed, P2399-417, SPRINGER-VERLAG, 2008
4) Elseviers MM, De Broe ME: Am J Kidney Dis 28: S48-55, 1996



プロフィール

平田純生
平田 純生
Hirata Sumio

趣味は嫁との旅行(都市よりも自然)、映画(泣けるドラマ)、マラソン 、サウナ、ギター
音楽鑑賞(ビートルズ、サイモンとガーファンクル、ジャンゴ・ラインハルト、風、かぐや姫、ナターシャセブン、沢田聖子)
プロ野球観戦(家族みんな広島カープ)。
それと腎臓と薬に夢中です(趣味だと思えば何も辛くなくなります)