第 15回 基礎から学ぶ薬剤師塾 Q&A
透析を科学する
~CHDFでは透析よりも薬がよく抜けるのはなぜ?~

 

チャットによる質問

匿名

Q.エベレンゾ(ロキサデュスタット)の透析性は?

A蛋白結合率99%ですから全く透析で除去されません。


アンケートによるご質問

滋賀医大 福井先生

Q.CHDF時の用量設定について、透析機器設定から計算される腎機能と血液検査での腎機能に大きく乖離がある場合でも(無尿)、計算上で考えられる投与量を投与して問題ありませんでしょうか。

Aごめんなさい。「透析機器設定から計算される腎機能」というのがよくわかりません。


薬局フォーリア 河村美弥子先生

Q.基本的なことで申し訳ないのですが透析クリアランスと透析性と同じ意味と思っていました。透析クリアランスは速度を表し、透析性というのは性質のことで、透析除去率というのは割合ということでしょうか??? 

A透析性は透析除去率と同じ意味で使われており、「薬物の透析による除去率(透析性)=1回の透析によって体外に除去された薬物量/もともと体内にあった薬物量」で通常は%で表されます(だから割合ですね)。透析クリアランスはクリアランスですから、単位時間あたりに浄化された液体の総量ですから通常はmL/minで表します(だから速度ですね)。いくらダイアライザークリアランスが高くてもVdが大きな薬物の除去率は高くなるとは限りません。講演の時に理解度チェックその1で昇圧薬のリズミックの例を出しましたが、図に誤記があったために分かりにくかったと思いますので正しいものを示します。

 


佐賀大学医学部附属病院 薬剤部 橘川奈生先生

Q.HD・CHDF・PDでアンモニアの除去率に違いはございますでしょうか。また、リバウンドにも差がございますでしょうか。ご教示いただけますと幸いです。

A分離量の小さいアンモニアは尿素と同様、血液浄化法でよく抜けます。ただし講演のスライドで示しましたように何らかの中毒症状の治療にCAPDは低クリアランスであるため有効ではないのと同様、日本のような低クリアランスのCHDFも有効性は低いと思います(これは平田の意見です)。ですから溶質の除去率はアンモニア以外も含めてHD>CHDF>CAPDになります。
 それからHDのような急激な血液浄化法ほどリバウンド現象は強いのですが、持続的血液浄化法ではリバウンドはほとんど認められません。小児の高アンモニア血症のように250μmol/L以上の危険な状態で内科的治療が無効な場合には、間欠的HDが使われることがあります。ただし海外では高クリアランスのCRRTも実施可能なため、間欠的HDではリバウンドが危惧される場合には、持続的にアンモニアを除去するためにCRRTを高アンモニア血症の治療に用いられることもありますが、もちろんHDの方が除去性能は高いです。ただしその分、栄養素も短時間の間に急激に除去され体力を消耗するため、CRRTを選ぶこともあるようです。150μmol/L以下になれば治療を中止してよいそうです。ただし血液浄化時に除水をしてしまうと血圧が下がったり、腎虚血によって腎機能が悪化しますし、透析液は透析患者用のものなので、低リン血症、低カリウム血症にならないよう注意して血液透析を実施する必要があります。
 これらの情報はおそらく大学病院では活用可能なUpToDateで「hyperammonemia×blood purification」を検索ワードとして情報を入手できます。


手束病院 楠本倫子先生

Q.バンコマイシンのTDMで採血ポイントはいつがベストでしょうか? 1回の時と2回採血する場合を教えて頂ければ幸いです。又、今まで安定していたトラフ値が突然倍近くになったり、腎機能が急激に悪くなるとすれば病態(敗血症のような重症例)によるものか、それとも腎機能が過大評価されていた可能性(CG式Ccrで判断)も否定できないのでしょうか?

A患者さんはHD患者さんではなく、定常状態に達していると仮定して答えさせていただきます。1回の採血ではトラフ値、つまり次回投与直前の採血だけでよいでしょう。ただし重症感染症の場合、抗菌薬TDMガイドライン2022ではピーク濃度とトラフ濃度の2点採血を行ってAUC/MICを400-600としているため、2点採血が必要となります。バンコマイシンのピーク濃度は点滴終了後1~2時間となっておりますが、1時間は完全にα相(分布相)で、組織と血中濃度が平衡状態になっていません(図1)。2時間以降経過したβ相(消失相)で採血しないとAUCは過大評価されますし(図2:この図では大した差ではないように見えますが、腎機能が低下すればするほどAUCの過大評価が顕著になります)、ピーク濃度が高くなるということはVdが過小評価されます。私は透析患者のTDMをやってきたので、透析終了時から点滴を開始して、点滴終了後2時間(可能なら2時間以上経過した方が確実にβ相になるため望ましい)をピーク値として、次回透析前をトラフ値とし、その2点からKelの傾きを算出して点滴終了時の値をピーク値として採血することが多かったため、バンコマイシンのVdを0.9~1.0L/kgだと信じていますが、点滴終了後1時間で採血している病院ではVdが0.6L/kg程度を採用していると思います。透析患者さんでは非透析時のバンコマイシンの半減期は200時間程度と極めて消失が遅いため、点滴終了後2時間以降のの採血はあまり問題にはなりませんでした。

 トラフ値が突然倍近くになったのはAKIの可能性があります。1つはバンコマイシンによるAKIも考えられますが、重症感染症のために脱水を来たしBUN/Crが30以上になっている場合には輸液をすることでBUNが急低下し、Cr値もやや下がることが多いですので、重症感染症での輸液管理は非常に大切です。それと重症感染症になりやすい方は痩せて栄養状態が不良の高齢者が多いですから、重症感染症が長引けば長引くほど、筋肉量が低下し、血清Cr値が低くなり、腎機能の過大評価をしてしまう原因にもなります。この際には24時間畜尿の実測CCr(×0.715でGFRとして評価できます)かシスタチンCによるeGFRの算出が望ましいと思います。 一般的には感染症に罹患しやすい高齢者ではeGFRの方が推算CCrに比べ過大評価しやすいです。だから感染症に携わっている薬剤師は推算CCrを使う方が多いです。


石川県小松市民病院 薬剤科 小川 依先生

Q.中規模程度の病院でICU担当薬剤師なのですが、CHDF、HD、CAPD患者さん、それぞれにおけるバンコマイシンの投与設計で迷うことがございます。
 CHDFの患者さんに対しては山本武人先生のクリアランス理論に基づくCRRT患者の投与設計論文を参考にして、体重, QF, QDを元に投与設計をしています。残存腎機能を加えられることが臨床で役に立っておりこちらを使うことが多いのですが、今日の講演で先生がご提示して頂いた20mg/kg loadingから、7.5-10mg/kg維持で投与計画を行い、そのあとの血中濃度でフォローする方法も一考なのでしょうか。サブラットの適応もあり、QF+QDがそれほど変化することもないため、確かに特殊な条件とならなければ、固定量投与も一考かと愚考いたします。
 そしてもう一つ悩ましいのがCAPD患者さんのバンコマイシン投与設定です。HD患者さんはある程度明示されたものがあるのですが、CAPD患者さんでのバンコマイシン投与設計はどのように行えば良いのか悩む時が多いです。特に腹膜炎でのCAPD内にバンコマイシンを混注する場合や、敗血症で全身投与する場合もあり状況に応じての投与設計をどうすれば良いか悩んでおります。母集団解析ソフトにはこのような患者は含まれていないと思うのですが、ccr6ml/min前後としてある程度の参考にして考える場合もあります。
 何か投与設計するときのコツはありますでしょうか。血液透析患者さんのように決められた一定量を投与する方法等があるのでしょうか。
 小生のような未熟者ですが、ご教示いただけますと幸いです。

A講演で私がご提示した20mg/kg loadingから、毎日7.5-10mg/kg維持で投与計画を行い、そのあとの血中濃度でフォローする方法はあくまでサブラッドのような置換液を20L/日使用した無尿のCHDF患者の場合です。いわゆる日本で行われているCHDF患者さんの典型です。
 施設によってCHDFのやり方が異なる場合、例えば20L/日ではなく30L/日の補液を使っていれば、投与量は私の示した典型の1.5倍必要です。また患者さんの尿量があり、患者さん自身のGFRが14mL/minで、置換液使用量が同じ20L/日であればCHDFクリアランスが14mL/minですので、加えるとGFR28mL/minの高度CKD患者の用量と同じになり、この場合の投与量は私の示した典型の2倍必要になりますが、これらは山本武人先生のクリアランス理論と同じ考え方です。一応、抗菌薬TDMガイドライン2022ではeGFR<30mL/min/1.73m2では「バンコマイシンの適応としない」となっていますが、これは投与してはいけないというものではなく、化学療法学会でも腎機能が低下してもバンコマイシンを好んで使う感染症専門医もいらっしゃいます。
 CAPD患者さんでMRSA腹膜炎では腹腔内にバンコマイシンを有効濃度に保つには局所投与になるので、15~30mg/kgを5~7日毎で十分だと思いますが、MRSA敗血症や肺炎となると全身投与が必要になります。PBRが34-55%なので腹腔内投与しても半分くらいしか血中に移行しないですし、腹膜への刺激性を考慮すると腹膜炎以外ではあまり抗菌薬の腹腔内投与はしたくありません。血清Cr値が同体型のHD患者さんと同等であれば、ほぼHD患者と同じ用量でよいはずです。血清Cr値が同体型のHD患者さんよりも高く、例えば15mg/dLと高値の男性であれば、そのCAPD患者さん自身の腎機能は低いと思います(いずれHD+CAPD療法が必要になり、やがてHDに完全移行することになるでしょう)。厳密にCAPD患者さんの腎機能を知ろうとすれば、CAPD患者さんの24時間畜尿CCrを測定するとよいでしょうが、ふつうそこまではせず、バンコマイシンのTDMを実施して予測した濃度よりも高ければ腎機能が予想したよりも低い、というように判断して投与設計しなおすのが一般的なやり方だと思います。

プロフィール

平田純生
平田 純生
Hirata Sumio

趣味は嫁との旅行(都市よりも自然)、映画(泣けるドラマ)、マラソン 、サウナ、ギター
音楽鑑賞(ビートルズ、サイモンとガーファンクル、ジャンゴ・ラインハルト、風、かぐや姫、ナターシャセブン、沢田聖子)
プロ野球観戦(家族みんな広島カープ)。
それと腎臓と薬に夢中です(趣味だと思えば何も辛くなくなります)

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