2022年10月24日 アスヤクlife研修会 Q&A
今回、私の声が聞きにくかったというアンケート結果が多かったようですが、これは私のテンションが低かったからではなく、おそらく機器上の問題だと思います。音が小さいということが早めに分かっていれば、ヘッドセットを交換してみるなどの手段が取れますので、今後はチャットなどを利用して指摘していただければ幸いです。
Q.リオナで、便が鉄臭く、便器にもつくので飲みたくない患者さんが数名いましたが、リオナはタール便ではないのですか?
A.鉄剤による便はタール便ではなく、黒色便です。タール便と黒色便との違いは講演中に述べた通りです。鉄を含む薬剤(特にピートルⓇ)では下痢しやすくなりますし、鉄臭い便が排泄されることはありますが、タール便は消化管出血によるものなので、血液を大量に含み、もっともっと鉄臭く、気色悪いです。
Q.カルタンを服用中にPPIが追加処方された場合、P値に影響がなければそのままカルタンを継続が通常ということでしょうか。それとも念のため他のリン吸着薬に変更していくのでしょうか。
A.カルタンⓇを投与しているのは、低カルシウム血症で高リン血症などのそれなりの理由があると思われます。私の経験ではカルタンⓇ投与中に著明にリンが上がる方はそんなに多くはありません。そのようにリンの上がりやすい方には他のリン吸着薬に変更していただき、血清Ca濃度を上げる必要があるなら活性型ビタミンDの増量などの工夫が必要と思います。
Q.リンを健常者並みにコントロールした方が予後が良いという報告も見かけましたが、先生はどの様に考えますか。
A.私もリンを健常者並みにコントロールした方が予後が良くなると思っています。食事が十分摂れないためにリンが低い方はやせて栄養状態が不良なため、アルブミン濃度も低下し免疫能も低下しますので、感染症などによる死亡率が高くなります。そのため総合的なデータでみるとリンの低い人は死亡率が高くなります。ただしもしも十分な栄養をしっかり摂れている人であれば、3.5~5.0mg/dL程度の低い方がいいです。低すぎはよくありません。
Q.リン吸着力が強い薬剤がたくさん出てきているのに、レナジェルやキックリンの10錠以上/回を選択する理由にどんなことが考えられますか。
A.それは患者さんが下痢気味なのでこれらのポリマーを選ばれたのか、医師の好みか、患者さんの好みかによると思います。鉄が充足していて(フェリチン<300ng/mL)、リオナⓇ、ピートルⓇが投与できない、ホスレノールⓇはむかつきがあるため服用できないなどの問題があるのかもしれません。
Q.腎機能CCrが40台 70代高齢の患者様で徐々に腎機能低下しているのですが、便秘の症状があり酸化マグネシウムが1日3回でよく効いていたのですがどの程度腎機能が下がったら他の薬剤に切り替えるのがいいのでしょうか?血清マグネシウム値などを見ながら考えればよろしいのでしょうか?
A.血清マグネシウム値をモニターしながらなら、酸化マグネシウムは腎不全患者さんにでも透析患者さんになってでも使えます。ただしさすがに3~6g/日の大量を処方する医師はいないはずです。血清Mg濃度の基準値は1.8~2.6mg/dLとなっていますので、2.6mg/dLを超えると「高マグネシウム血症」と決めつけてはいけません。透析患者の血清Mg濃度は2.7-3.0mg/dLで有意に全死亡が低下したという報告(図1)1)、高リン血症に伴う心血管死亡リスクの上昇は、血中Mg濃度の低い群(血清Mg濃度<2.7mg/dL)では顕著であったが、血中Mg濃度が高くなるにつれてリスクは軽減され、特に血中Mg濃度高値群(血清Mg濃度≧3.1mg/dL)では血中リン濃度が上昇しても死亡リスクは有意な変化を示さなかった(図2)という報告があります2)。さらに血清Mg濃度が低いほどインスリン抵抗性が大きくなることも報告されています3)。Mgは心血管病変を防ぐために重要な元素なのです。ただし定期的なモニターをしていない施設では高マグネシウム血症(図3)を避けるため、腎機能低下患者にMg剤を漫然と投与すべきではありません。
引用文献
1)図説 我が国の慢性透析療法の現況 2014年12月31日現在
2)図説 我が国の慢性透析療法の現況 2015年12月31日現在
3)Chutia H, Lynrah KG: J Lab Physicians 7:75-78, 2015