第 21回 基礎から学ぶ薬剤師塾 Q&A
薬剤性腎障害を防ぐ
~Quadruple whammyを防げ!~
薬剤師塾は、もともと芦屋のI&H本社の大会議室で対面でのライブ形式で行おうと思っていましたが、コロナ対策のためオンラインで行っています。薬剤師塾にライブで参加している皆さんには、できるだけ熱いディスカッションをしていただき、薬剤師塾を盛り上げていただきたいと思います。どうしても自信のない方は所属・氏名、質問内容をチャットに記載してください。何も質問が出なければ、一方向の講演になってしまい、再放送を聞いている方は全く面白くありませんし、私もやりがいがありません。ですから、私の講演を聞いている間に不明な点やご意見などがあれば、積極的に質問して、どうか薬剤師塾を盛り上げることのご協力いただきたいと思います。どうかよろしくお願いいたします。
第21回基礎から学ぶ薬剤師塾では直接の質問は残念ながら皆無でしたが、チャットでの質問、アンケートでの質問をいただきましたので、いつものようにQ&A方式で回答させていただきます。
半減期の延長する薬物=初回通過効果は受けなかったけど、全身循環血が肝臓を通るたびに消失の遅延が生じる薬物(肝でのCYP2C9による代謝を腎不全では受けにくいフェキソフェナジン、
などを思い浮かべるとよいですね。Y軸が対数軸だと半減期の延長が明らかにわかりやすくなります。
チャットでの質問
北上済生会病院 八重樫恭平先生
Q.腎保護の観点からRAS阻害薬を使用する場合、半減期が長いものほど有効でしょうか。
A.あまり考えたことがありません。ACE-Iは腎排泄なので、腎機能が低下するほど半減期は長くなります。半減期の長短により腎保護作用が強力かどうかについてはあまり知りませんが、ACE-Iに関しては汎用されているエナラプリルの活性代謝物35hr、リシノプリル34~39hr、ベナゼプリルの活性代謝物22hrと長いものが多いです。ARBに関してはバルサルタン4~6hr、ロサルタン活性代謝物4hr以外は10hr以上ですが、半減期の長いものの効果が高いとは思えません。RAS阻害薬同士の直接対決のRCTでもやらない限り、どちらが有効かを証明することはできないと思いますが、おそらくやられていないと思います。RAS阻害薬はクラスイフェクトとしてタンパク尿・アルブミン尿のある患者の腎保護を期待できますので、RAS阻害薬を投与するうえではタンパク尿・アルブミン尿の有無の方が重要だと思います。
ファーマライズ薬局 羽村知穂先生
Q1.今のトリプルワーミーのNSAIDsについてですが、例えばカロナールなどの腎排泄ではないものに変更をお願いするのがいいのでしょうか。他の痛み止めだと湿布や外用剤などで対応するしかないのでしょうか。
A.痛み止めはほぼすべて肝代謝薬物だと思います。NSAIDsによる腎障害、その他の副作用を回避するために有効で、NSAIDsよりも安全なものといえば、アセトアミノフェン(米国FDAはこれを推奨)、セレコキシブ(他のNSAIDsよりも腎には優しく心血管系に悪影響しないが、FDAは心筋梗塞が多発したロフェコキシブ事件からか、類薬のセレコキシブを推奨していません)、吸収しにくい外用パップ剤、痛みが強ければトラマドールなどが考えられます。あとはプラセボ効果を期待してノイロトロピン(副作用があったと聞いたことがない)、その他の漢方薬まで含めると選択肢はたくさんあります(図)。
Q2.アバスチンを点滴治療している方でたんぱく尿2+が出てきて血圧も上昇してきた場合、腎機能の保護のためにやはりRAS阻害薬がよろしいでしょうか?ファーストチョイスをしてカルシウム拮抗薬の方がいいのでしょうか?
A.抗VEGF抗体のベバシズマブは高血圧・タンパク尿を起こしやすい分子標的薬です。ベバシズマブ投与によってVEGFが阻害される、あるいはVEGFの欠損によって糸球体内皮障害が起こり、タンパク尿・腎機能悪化をきたします。タンパク尿2+であれば、タンパク尿のある患者での第1選択薬である降圧薬のRAS阻害薬を投与すべきと思います。
ココカラファインヘルスケア 恒吉春香先生
Q.心不全症例で、Triple whammy予防のために、利尿薬をループ利尿薬のかわりにSGLT2阻害薬を提案してみてもいいのでしょうか?そのときに押さえるポイントなどがあれば教えて下さい。
A.SGLT2阻害薬の利尿作用は持続しません。カナグリフロジンの尿量増加は1日のみです。その他のSGLT2阻害薬も糖利尿は持続しますが、Na利尿は初期のみで、尿量増加が期待できるのも短期間です。したがってSGLT2阻害薬は利尿薬の代わりにはなりませんが、利尿効果に関してはループ利尿薬と相乗作用を示しますので、ループ利尿薬を減量できるでしょうし、利尿薬による急性腎障害の予防は期待できるかもしれません(ただし投与初期の脱水には要注意!)。ARNIの利尿作用はANP, BNPの利尿作用(血管拡張作用もあります)によるものなので、SGLT2阻害薬よりも長期的な利尿作用は強いので利尿薬や降圧薬を減量できます。
飯塚病院 田先先生
Q.利尿薬によるトリプルワーミーのリスクはループ系とサイアザイド系で差に関する報告などはありますか?
A.トリプルワーミーの原因薬としての利尿薬は一般的には利尿降圧薬(利尿作用のある降圧薬)として投与され続けるサイアザイド系を指しているのだと思います。利尿作用がメインで降圧作用の弱いループ利尿薬は浮腫や心不全の呼吸困難などの症状があるときに短期間使います。半減期が短く降圧作用も弱いため、腎機能が悪化してサイアザイド系が効かない腎不全患者にしか降圧薬として使うことはありません。ループ利尿薬の利尿作用は非常に強力なため、当然、脱水をきたしやすく腎機能悪化リスクは高いとは思いますが、このように使用方法が異なりますし、使用対象患者も異なりますので、AKI発症リスクを比較できないと思います。
みきやま病院 田中先生
Q.体重が30kg程度で、シスタチンによるeGFRが30ml/min台の高齢者に経口抗菌薬を投与する場合、クレアチニンクリアランス30ml/min以上あれば減量の必要なしとなっているものは、減量せず通常投与量を投与した方がよいでしょうか。腎臓に関してアレルギー性の障害が多いなら、セフェム系やペニシリン系は副作用を心配して減量する意味は乏しいでしょうか(本題からやや外れた質問ですいません)
A.感染症は急性疾患ですので、「腎機能が低下していても用量依存的な副作用のないβラクタム系は積極的に投与すべし。初日投与量は腎機能が低下していても常用量投与すべし」というのが持論ではありますが、体重が30kgの高齢者というのであれば、一般成人の1/2の体重と考え、初日投与量は1/2の用量で十分です。その後は使用する抗菌薬の尿中排泄率によって用量・投与間隔を調整します。βラクタム系は安全とは言っても腎機能の低い後期高齢者に常用量で投与し続けるとけいれんなどの中枢症状は起こりえます。
保険薬局の先生方に気を付けていただきたいのはCCr<30で禁忌となっている場合、CCr≧30であればOKと考えCCr31mL/minであれば静観し、CCr29mL/min になれば疑義紹介する「デジタル薬剤師」にならないことです。同様に腎機能別用量がCCr<30で1000mg、CCr≧30の用量が2000mgであった場合であってもCCr29mL/minとCCr31mL/minの腎機能に差があるとは思えませんので、1人1人の患者さんの腎機能の変化、病態の変化を1点のみでとらえるのではなく、間を取って1500mg程度が適切用量だと考えてください。あとは腎機能がよくなりつつあるか、悪くなりつつあるかを観察していただき、そして体格も考慮したうえで用量を決めていただきたいと思います。
I&H株式会社 那須裕之先生
Q.外用ビタミンD3製剤について、①オキサロール以外も腎機能障害のある人に使用しないほうがいいですか?②NSAIDsの代わりにアセトアミノフェンを使うように、何か代用薬はありますか?
A.添付文書上では腎機能低下患者に外用活性型ビタミンD軟膏の全身塗布は禁忌ではありませんが、お見せしました平山先生の表では(表)、もともと腎機能の低下している症例(赤色)は極めて速やかに腎障害を発症しています(発症順に①②③④で示しています)。血清クレアチニン値は2~4週間に1回測定されると仮定すると①8日目、②12日目、③17日目、④18日目に腎機能が悪化したと考えるよりも、たまたま8日目に測定したから腎機能悪化を発見でしただけで、もっと速やかに腎障害が進行していた可能性は大いにあると考えられます。そのため、腎機能低下患者には外用活性型ビタミンD軟膏を全身塗布すべきではないと思います。ほぼすべての急性腎障害発症のリスク因子で最大のものは「既存の腎機能低下および高齢者」であることを肝に銘じていただきたいと思います。
ステロイド軟膏は抗炎症作用を期待して投与されますが、皮膚委縮や毛細血管拡張、感染症を誘発するとされており、活性型ビタミンD軟膏は強皮細胞の増殖抑制、分化誘導作用を期待して投与されますが、効果発現までに時間がかかると理解していますが、皮膚科で使用する薬剤についてはあまり詳しくないため、活性型ビタミンD軟膏の代用になる薬剤についてはよく知りません。申し訳ありません。
アンケートでの質問
国際医療福祉大学病院 大矢智則先生
Q.答えを聞き漏らしていたら申し訳ありませんが1点ご教示ください。講義の中でエディロールなど活性型VD3製剤の処方について整形外科医に中止を求めるという内容がありました。骨粗鬆症の予防にはエビデンスありませんが治療に対してはガイドラインによる推奨のある中で、薬剤師は骨粗鬆症があっても腎機能障害リスクや潜在的腎障害リスクと判断したら活性型VD3製剤の中止を提案すべきでしょうか?それとも講義中にありました定期的な腎機能モニタリングなどを提案すべきでしょうか?
A.「活性型VD3製剤の処方について整形外科医に中止を求める」とは言っておりません。活性型VD3製剤の添付文書上では定期的な血清Ca濃度のモニタリングが必要なのに、整形外科の先生方は一般的に採血をしていただけないことが多いのです。それによって特に後期高齢女性で高カルシウム血症による多尿・脱水から腎機能低下が起こると一般内科から腎臓内科に紹介入院になることが多いのです。閉経後骨粗鬆症に活性型ビタミンDの投与は必要です。ただし投与後の副作用モニタリングも必要だと言いたかったのです。間違って伝わっているとすれば、ごめんなさい。何も起こっていないのに活性型VD3製剤の処方を整形外科医に中止を求めることはあり得ません。
所属・氏名を記していただいた質問でしたが、厳しめの回答になったため氏名の公表を差し控えさせていただきます。
Q.小柄な高齢の女性は急性腎障害に注意とありましたが、日常の投薬設計時に理想体重補正したクレアチニンクリアランスを計算して、禁忌に達していたらDr.に疑義紹介しているのですが、この時に小柄な高齢の女性の患者さんの場合は本当に腎機能が悪いのか、体が小さい(体重補正すると尚一層なのですが)過小評価しているのか判断に迷う時があります。特にDOACなどの止めるのもリスクのある薬の場合判断に迷います。又、体の大きな男性高齢者でも寝たきりの状態であれば、クレアチニン値が低い時は0.6を挿入したりしています。この事について平田先生のご意見をお聞かせ頂けると幸いです。
A.クレアチニンクリアランスの推算式(CG式)は加齢に伴い直線的に低下する式なので(図)、フレイルなどの高齢者には過大評価になりがちなeGFRに比べ一般的にフィットしやすいです。CG式で最も考慮すべきポイントは肥満患者で過大評価しやすいことだと思います。その時には理想体重を使うこともありますが、多くの場合は補正体重の方がベターだと思っています。小柄な高齢女性でCG式に理想体重を代入する意義はないと思います。また血清クレアチニン値の代わりに0.6を代入するラウンドアップ法をCG式で使うと、これも腎機能の過小評価になってしまい、薬用量が少なすぎて効かなくなる恐れがあると思います。僕自身は腎機能が評価しにくい痩せて小柄な超高齢者ではeGFRは過大評価されがちなので安全性を考慮してラウンドアップ法を使うのはやむを得ないとは思いますが、CG式のラウンドアップはお勧めしません。
補正体重(Adjusted body weight:補正体重(kg)= 理想体重+[0.4×(実測体重-理想体重)]
これも所属・氏名を記していただいた質問でしたが、厳しめの回答になったため氏名の公表を差し控えさせていただきます。
Q.心不全増悪で入院の80代後半、非透析患者様で、eGFR(Cy)一桁、フロセミド20mg1T/1x、タケルダ、ベラパミル40mg3T/3x、ジャヌビア12.5mgなどを服用中でした。利尿薬調整後に改善し退院が決まった一方血圧は上昇してきたため、中止していた持参薬テルミサルタン20mg2T/2x再開を医師に打診すると、「腎血流量減ってさらに腎機能悪くなるのでは」と。このとき薬剤師としてどうするべきだったか考えています。例えばガイドラインで推奨される薬剤でも、弱った高齢者に追加することでdouble whammyによる腎機能低下が危惧されるジレンマに遭遇したとき、薬剤選択について指針となる考え方はございますでしょうか?
利尿薬やNSAIDsの併用がなければ、弱った高齢者でもACE阻害薬/ARBの腎保護作用は期待できると考えてよいですか?お忙しいところ恐縮ですが、ご教授頂けますと幸いです。
A.eGFR(Cy)一桁ということは末期腎不全で透析導入間近の症例ですね。RAS阻害薬を持続すると糸球体過剰濾過を抑制して、透析導入が早まることを懸念して主治医はテルミサルタンを中止したのではないかと思います。RAS阻害薬は蛋白尿・アルブミン尿のある患者、慢性心不全患者では非常に頼りになる薬ですが、一方で、腎機能が悪化し高カリウム血症を起こしやすい降圧薬です。そういうリスクの高い患者さん(特に腎機能の低下した後期高齢者)で降圧薬が必要であれば、腎虚血による悪影響を及ぼさないCa拮抗薬の方が、使いやすいと思います。