2023年3月22日 熊本市薬剤師会学術研修会 Q&A
腎機能の正しい評価
~添付文書の腎機能で使われるCCrは実は日本のCCrじゃない~

 


Q1.腎機能評価の指標として、糸球体濾過率が使用されていますが、年齢・体格・疾患や栄養状態など影響を与えうる因子が非常に多いことに評価の難しさを感じます。糸球体濾過率によらない、信頼性のある評価指標の研究結果はないでしょうか。

A.糸球体濾過率は機能している残存ネフロン数や腎血流量の変化を予測でき、CKD患者ではこれらの変化によって腎予後、透析導入までの期間も予測できる非常に優れた腎機能マーカーです。イヌリンクリアランスの実施はややこしい手順があるとしても、うまく病院内でシステム化すればできますし、実測クレアチニンクリアランスやシスタチンCを利用したeGFRは年齢、体格、疾患などの影響をほとんど受けないで極めて正確に腎機能を評価できます。講演ではこのことを中心に解説したつもりです。

 ただしeGFRが使いものにならないサルコペニアやフレイルの患者に対してeGFRや推算CCrなどの従来の方法で腎機能を判断することは腎臓内科の先生方にも僕にも、誰にもできません。eGFRや推算 CCrは血清クレアチニンとちょっとした患者情報があれば算出できますから楽ですよね。でもサルコペニアではいくら楽でも腎機能を過大評価しすぎるため、絶対値としては全く使い物にならないものになります。使えないものを楽だから使おうとして「評価がむつかしい」って言わないでいただきたいです。皆さんは占い師ではなく薬剤師ですよね?だったらなんで腎機能が評価できないって簡単にあきらめるのでしょう?副作用を防ぐために科学的な腎機能評価方法を医師に提言しないのでしょう?

 糸球体濾過率、あるいはそのサロゲートマーカーであるクレアチニンクリアランス(×0.715でGFRとして評価可能)が最も優れていて、100点満点で評価できて、患者さんに分かりやすく、経時的測定によって腎予後が予測できる点で、これほど優れた診断指標はありません。それが無理ならシスタチンCを基にしたeGFRもあるのです。これらは心不全におけるBNP、肝細胞障害におけるALTなどとは比べ物にならないくらいわかりやすい指標です。年齢・体格・疾患や栄養状態だけではなく、要介護度、筋肉量、服用薬物、サプリメントなどの影響も受けますが、それ等の影響を加味してより正確に「腎機能評価」ができるという話をしたつもりです。糸球体濾過率によらない、信頼性のある新しい腎機能評価指標の研究結果なんてありません。かつて1990年代に登場したシスタチンCは糸球体濾過率に相関性が高い評価指標として期待されました。そしてその有用性も確立されたのに、多くの薬剤師は測定依頼しないので、いまだに高価で3か月に1回しか測定できないままなのです。だからいまだに一般内科医すら「シスタチンCって何?」と言っています。血清クレアチニンが腎機能を表さないような筋肉量の少ない高齢者の正確な腎機能評価方法の決め手は実測イヌリンクリアランス、実測クレアチニンクリアランスがありますし、最も簡単なのがシスタチンCによるeGFRです。安易なものを知りたいと思う前に、正確な腎機能評価方法をしっかりマスターしようと努力してください。


Q2.平田先生が考えられる腎機能評価の理想はどのようなものと表現できるでしょうか。このような方法・指標が良いというようなものがあれば教えてください。

A.Q1、Q2は同じ質問者の方ですが、同様の質問になりますので1の回答で勘弁してください。繰り返しますが、講演で解説したとおり糸球体濾過量あるいはそのサロゲートマーカーであるクレアチニンクリアランス(×0.715でGFRとして評価可能)、シスタチンCによるeGFRがあれば年齢・体格・疾患や栄養状態、活動度、筋肉量の影響を受けずに腎機能を正確に評価することができます。


Q3.先生のブログで、簡易的な脱水の評価方法に毛細血管再充満時間をみると高い特異度でトリアージができるとありました。薬局内で実践しております。服薬期間中のフォローアップをする際に、電話先でご自身で行っていただく際に上記の手技が難しい場合は、口腔粘膜乾燥と舌乾燥の状況を確認することも有用だと感じましたが、いかがでしょうか。    

A.脱水の指標はほかにも様々あります。通常、若年者であれば、脱水になれば口渇を感じ、飲水するのですが、高齢者は口渇中枢に異常のある方がいるので、脱水をきたしやすくなります。患者様ご自身に評価していただくのでしたら、尿量が減少していないか、起立性低血圧によって立ち眩みしていないか、舌が乾燥していないか、皮膚の張り(スキンツルゴール)が低下していないかなどで、ある程度脱水を疑うことができます。脱水を起こしやすい高齢者には日ごろからこまめな飲水を指導してください。ただし心不全でループ利尿薬が投与されている方には循環器医と話し合って1日飲水量を設定し、朝起きた時、お風呂上がりには必ず飲水、それで残った水を定期的にこまめに摂取していただくように指導するとよいと思います。

プロフィール

平田純生
平田 純生
Hirata Sumio

趣味は嫁との旅行(都市よりも自然)、映画(泣けるドラマ)、マラソン 、サウナ、ギター
音楽鑑賞(ビートルズ、サイモンとガーファンクル、ジャンゴ・ラインハルト、風、かぐや姫、ナターシャセブン、沢田聖子)
プロ野球観戦(家族みんな広島カープ)。
それと腎臓と薬に夢中です(趣味だと思えば何も辛くなくなります)

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