第 31回 基礎から学ぶ薬剤師塾 Q&A
初心者向けシリーズ③糖尿病性腎臓病とその治療薬

 


 

2023年11月17日アンケートによる質問

氏名を書いていただきましたが、匿名とさせていただきます(批判的な回答をしましたので)。



Q1 .SGLT2の腎機能低下例への投与について、先日eGFR30を下回ってる患者への投与で薬効が期待出来ないとの事から疑義をしましたが、投与するという回答でした。本日のご講演から20を下回らなければ投与に意義があると考えていいのでしょうか。

A.「薬効が期待出来ない」からで考え方は合っています。たしかにSGLT2阻害薬を腎機能低下例に投与すると腎に作用する薬ですから効きにくくなりますが、メトホルミンのように乳酸アシドーシスという致死性副作用を起こしたりNSAIDsのように薬剤性腎障害で透析導入などのリスクが高くなるわけではありませんので、個人的には透析導入になるまで、疑義照会せず、見守っていいんじゃないかと思います。

 SGLT2阻害薬の添付文書には「 重度の腎機能障害のある患者又は透析中の末期腎不全患者では本剤の血糖降下作用が期待できないため、投与しないこと」となっています。重度というのは一般的にeGFR30 mL/min/1.73m2未満のことですが、この添付文書はおそらく発売当初から書かれた内容だと思いますが、添付文書はよほどのことがない限り、書き直されることはありません。しかしその後の臨床試験はそれより低い腎機能の患者を対象にしたものもあり、それによって各国の学会の指標も変わりつつあります。

 厳密に言うとエンパグリフロジンのRCT試験はeGFR20 mL/min/1.73m2以上を対象とした試験があるため、20以上あれば投与開始できます。ダパグリフロジンのRCT試験はeGFR25以上を対象としているため、25以上あれば投与開始できます。カナグリフロジンはeGFR30以上のDM患者のみを対象としています。それ以外のSGLT2阻害薬はDM患者のみを対象としており、心不全やCKD患者に対する試験は行われていません。⽇本腎臓学会 のCKD 治療におけるSGLT2 阻害薬の適正使用に関するrecommendationでは要約すると以下のことが明記されています。

①糖尿病合併 CKD においては eGFR20 mL/min/1.73m2 以上であれば,クリニカルエビデンスを有する SGLT2 阻害薬の 積極的な投与開始を検討すべき

②eGFR15mL/min/1.73m2未満では新規に開始すべきではない。

③SGLT2 阻害薬開始後に eGFR15 mL/min/1.73m2未満となった場合には,副作⽤に注意しながら継続する。

 だから平田は添付文書通りに「eGFR30mL/min/1.73m2未満の患者さんには禁忌です」という型にはまったような疑義紹介をするデジタル薬剤師にはなってほしくないと思っています。

 開始基準は上記の試験の通りですが、患者さんに不都合が生じないのであれば、いったん開始したSGLT2阻害薬を透析導入までは続けてもいいと思います。SGLT2 阻害薬が腎機能が落ちてもある程度効果があるのはなぜなのかについては明確にされていないし、どこまで効くかもよくわかっていないからです。

 ですから多面的な薬理作用と強力な腎保護作用を持つSGLT2阻害薬ですから、添付文書に記載されたよりも低い腎機能低下患者への治療効果の可能性を確認したい医師がいれば、薬剤師としては一緒になって副作用が起こらないようサポートし、効果が得られるかどうかを見守ってみてもいいんじゃないかなと思っています。



Q2 .SGLT2阻害薬が投与されている患者さんへの説明の中で、「食事ができないときには、服用しないように。」と伝えていますが、「どれくらい食べられたら飲んでも良いですか?」と聞かれます。食べられないのが単回の事であれば、パン1個とか、おにぎり1個程度食べたら、服用しても大丈夫なのでしょうか?目安等があれば、お教えください。

A.「食事ができないときには、服用しないように。」は良い指導だとは思いますが、実はSGLT2阻害薬を1日、服用をやめても尿糖は出続けます。おそらく数日間(1週間以内)、尿糖排泄は持続しますので、しばらくはグルカゴン/インスリン比が上がり、脂肪が分解されケトン体の産生する状況が持続すると思います。

 ですから「この薬を服用する場合には全く炭水化物を摂らないような厳格な糖質制限食や、極端な低カロリー食はやめてください(ケトン体の産生が亢進しますので)。毎食、少しのご飯かパン(ジャガイモやカボチャなどがおかずに入っているだけでもいい)を摂るようにしてください。でないとケトン体産生が亢進しすぎると脱水になって、嘔気・嘔吐、腹痛、意識障害の激しい症状(ケトアシドーシス)が起こることがあります」という指導の方がよいように思います。目安としては少しのご飯かパン(炭水化物)を必ず摂るように(炭水化物を多く摂りすぎると血糖値が上がるのでインスリン分泌が増え、SGLT2阻害薬の薬理作用が期待できなくなる)でいいと思います。



Q3.1型糖尿病患者へのSGLT2阻害薬処方時にケトン体測定チップをお渡ししようと思いますが、その他1型糖尿病への特別な注意点があれば、ご教示ください。

A.1型糖尿病患者さんはインスリン依存状態なので、2型に比べて極めてケトアシドーシスになりやすいので、ケトン体測定チップをお渡しすることはとても良いことだと思いますが、自己測定によるケトン体測定について僕はあまり知りません。ごめんなさい。

 ただ調べてみると、結構、測定法によって正確性にばらつきがあるようで、病院で測定する正確な静脈血中βヒドロキシ酪酸濃度に近くなるような直接的に毛細血管中のβヒドロキシ酪酸を測定するものがいいようです(PMID: 18637083)。

 

プロフィール

平田純生
平田 純生
Hirata Sumio

趣味は嫁との旅行(都市よりも自然)、映画(泣けるドラマ)、マラソン 、サウナ、ギター
音楽鑑賞(ビートルズ、サイモンとガーファンクル、ジャンゴ・ラインハルト、風、かぐや姫、ナターシャセブン、沢田聖子)
プロ野球観戦(家族みんな広島カープ)。
それと腎臓と薬に夢中です(趣味だと思えば何も辛くなくなります)

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