イースター島上陸前
これまでのところピースボートは太平洋を東に向かって1週間くらいずつ走ってハワイ、タヒチ、そして今回のチリ領のイースター島に行き、今日は1月10日、早朝6時に火山島のイースター島(現地語名ラパ・ヌイ)に着きました。ピースボートではハワイに着くまではハワイアン音楽とフラダンスを教える人を水先案内人として招待し、タヒチを訪問するまではタヒチやポリネシアの歴史や文化を学びます。決して観光情報だけではなく、学習するのです。ラパ・ヌイに着くまではオーバーツーリズムによる環境問題について学びました。そしてラパ・ヌイのダンサーでミュージシャンも水先案内人として招かれました。
ラパ・ヌイには日本の与那国島のように大きな船が着岸できるような水深が深い港がないため、飛行機で行くこともできますが、ピースボートの場合、パシフィックワールド号の所有する小さなテンダーボートという船(写真1-4)、数隻を使って1回100人足らずが分散して2日間に分かれて上陸します。1800名の乗客のほとんどがイースター島を訪れるので、1人当たりが島で過ごすのは3時間足らずです。
僕たちは2日目の朝、出発しましたが、1日目の観光が終わってから、ラパ・ヌイの島民たちがピースボートに乗り込み、夜、一番大きなシアターで素晴らしい音楽と踊りを見せてくれました。(写真5)ギター2本と2つのパーカッション、そしておそらくアンデスの民族音楽「フォルクローレ」で用いるチャランゴ(もともとは表板以外はアルマジロが使われていましたが、今は木製)だろうと思いますが、マンドリンやウクレレのような高い音色の楽器2本が絶妙なリズムとハーモニーを生み出していました。(写真6)ダンスはポリネシアに位置するためか、女性はハワイのフラダンス、男性はニュージーランド原住民のマオリ族のような勇壮な踊り(ラグビーの国際試合前にニュージーランドのオールブラックスが見せるあの踊り)です。
いよいよイースター島上陸
翌日はいよいよテンダーボートに乗ってイースター島に上陸ですが、オプショナルツアーには4種類あって、僕らのツアーはかつてイースター島の「長」を決めるための「鳥人儀礼」の伝説の場所、オロンゴ岬を訪問する特別なコースです。この儀礼は海鳥の生息する小島に泳いで渡りその鳥の卵を速く持ち帰った男が1年間、島を支配するというもので(写真7-9)、かつてイースター島は5万人の住人がいて、10の部族に分かれており、その部族の代表たちが「長」
になるために平和的に競ったらしいのです。でもこのオロンゴ岬を見るために、一番の興味である、モアイ像を見る時間がほとんどなってしまったため、僕たちのグループは合計8体のモアイ像しか見れませんでした(写真10)。他のグループは数十体のモアイ像を見れたそうで、僕たちのグループは少し物足りませんでした。10世紀以前から造られ始めたモアイ像は17世紀まで造られ続け、モアイを造って運び、建てるために大量の木材が伐採されたため、あるいは人口爆発によって木が伐採されたという説もあり、イースター島にはかつてあった森林が消滅し、今は岩がむき出しになっているところが多く、それによってこの島独自の文明が崩壊したそうです。この他にも西欧から持ち込まれた天然痘や結核が猛威を振るった結果(あるいは西欧による侵略の説もある)、最盛期には5万人いた人口がさらに激減し島民は絶滅寸前まで追い込まれ、この過程で文化伝承は断絶したと言われています。その後、チリ領になって現在に至っています。僕たちが上陸中にスコールのような雨が3回降り、来ている服がびしょびしょになりました。でもその雨の後、とってもきれいな虹を見れたのが不幸中の幸いでした(写真11)。
阻害薬ラパマイシンはこの島で発見された
もう1つ、薬剤師として知っておきたいことはラパ・ヌイのモアイ像のある土壌から発見されたマクロライド系の抗菌薬です。しかしこの物質からは抗菌作用よりも、かの有名なmTOR(mammalian target of rapamycin)タンパク質に結合して、それを阻害して過剰な細胞増殖や血管新生に関わる遺伝子の働きを抑え、オートファジーを促進し、AMPプロテインキナーゼを活性化して長寿になれると言われているラパマイシン(別名シロリムス)が作られてました。がん細胞の増殖などに関わる特定の分子の情報伝達を阻害することで抗腫瘍効果をあらわす分子標的薬として使われているほか、アルツハイマー病や心不全など加齢に伴う疾患の予防治療に役立っている薬物です。またmTOR阻害薬のラパマイシンは移植された組織や臓器に対する拒絶反応を引き起こすリンパ球(免疫系細胞の一種)の働きを抑える免疫抑制剤として腎移植後に広く用いられているほか、シロリムスは再狭窄の防止の目的で冠動脈ステントのコーティング剤としても使われています。
なぜか赤道に近い南半球なのに朝夕は半袖では寒いくらい、涼しいです。そして日の出は午前7時すぎ、日の入りは午後9~10時となんか時間間隔がおかしくなりそうな今日この頃です。短い旅でしたが2日間停留したイースター島を終え、ピースボートはペルーの首都リマのカヤオ港に向かっています。ようやく太平洋の島ではなく南アメリカ大陸です。1月18~21日までとカヤオ滞在期間が長いのは、おもにインカ帝国の秘境のマチュピチュやウユニ塩湖など見どころ豊富な場所に行くためです。