運動会狂想曲

 タヒチ島を後にしてマチュピチュに行くための寄港地、南米大陸のペルーのカヤオ港まではやはり1週間近くを要します。ピースボートの乗客は1800人、日本人は1200人で中国語圏のシンガポール、台湾、中国本土、それから韓国人、欧米人が残りの600人です。この中に200名くらいでしょうか、各国の20歳代の若い人たちが中心になって運動会の実行委員会が結成され、彼らは朝早くから、深夜まで運動会のために働きます。以前にも書いたように僕たちが学生時代の学園祭実行委員会と同じですね。乗客を誕生月によって赤団、青団、黄団、緑団の4団に分かれて競います。もちろん国籍や年齢で別れることはありません。僕は9月生まれなので、1月、5月、9月生まれの人が属する黄団に入り、黄色のTシャツを着て、黄色の細い布を首にかけるか鉢巻きにして参加します(写真1)。僕の出場種目は綱引きです。運動会は1月15日に開催されましたが、それまでに様々な種目の練習をしたり、応援の練習をしたり、盛り上げようとたくさんの乗客に参加を呼び掛けたりで、若い人たち、ご苦労様です。

 運動会の日は、あいにく曇りで、強風でいつ雨が降ってもおかしくない中、奇跡的に雨が降らず、朝8時半に集合し、開会式が行われました。あとで学んだことですが、赤道に近い南半球でしかも季節からいうと夏なのに涼しいのはペルー海峡という寒流のためだそうで、このため紀元前に作られたペルーのナスカの地上絵がいまだに残っているのも曇っているけど雨が降らないため、ペルーの海岸の近くが砂漠化しているからだそうです。

 アナウンスはいつもの通り、日本語、英語、中文、ハングルの4か国語で行われ、国境を越えて4つの団が競うのです。参加者全員が集まって行う全体写真撮影会、開会式、体操、○×ゲーム、応援合戦(これも審査対象になります:写真2)、大縄跳び、障害物リレー、綱引き(写真3,4)、玉入れ、玉送りなどを終え、16時15分に再度、全体集合記念写真を撮って1日中続くプログラムを終了しました。僕の参加した綱引きでは黄団は見事に勝利し、全体の優勝もできました。でも勝負は関係ない。高齢者にも参加を呼び掛け、若い実行委員たちがみんなで楽しませんてくれた。この10日間以上、朝早くから深夜まで運動会の準備をして、進行を行ったのはみんな若い人達です。運動会を終わってからも結束した若者たちは飲んで騒いで、充実した日々をかみしめているかのようでした。

 

日韓関係、日中関係とは異なる韓国の方、中国の方たちとの生活

 日韓関係は一時期に比べ、よくなっていますが、日本にいると日本側の考えばかり聞くことになります。在韓の人達や韓国の人たちと一般の日本人が日韓関係について話をすることを僕たちは避けています。ピースボートでは上記の運動会のように僕たちは韓国の人や中国の人達と交わりながら生活をしています。慰安婦や徴用工問題があらわになった後、日韓関係は以前よりもぎくしゃくし、日本人は韓国人を嫌うようになりました。その理由は韓国の反日教育のせい?様々な理由があり、それらはもっともかもしれません。だけど「日本は韓国のインフラを整備し、教育を充実させてあげて、人口も増えて、貧しい生活を豊かに変えてあげた。戦後の漢江の奇跡も日本が韓国に多額の資金を援助したからできたこと。韓国人は日本人に感謝すべきなのに、何でここまで日本人を嫌うんだろう?」という考えが日本では定着しつつありますよね。

 20歳代の在韓の男女2人が企画した「日本に過ごす韓国の若者の考えを聞いてみよう」に参加しました。僕たちは彼らの考えを聞いたことがなかったから参加したのですが、大いに考えさせられました。「日本は韓国を併合して(植民地ではない)、韓国は日本になった。だからインフラや教育制度を日本本土と同じにするのは当然のこと。だけど明らかに韓国人を差別してきた。これって豚によいエサを与え、よりよい環境を与えて太らせて、豚の持ち主が儲けるためにやっているだけのことじゃない?これで豚はしあわせになったと言えますか?」といわれて、複雑な心境になりました。ただし、戦争を起こした人たちは決して公正ではないけれど、裁判で裁かれ、今は全く違う世代になっているのに、いつまでも謝罪し続ける必要はないじゃないかとは思っています。過去に日本人はアジア諸国に大変な迷惑をかけたことは忘れてはいけないと思いますが、新しい世代の人たちは新しい関係を築ければいいなと思っています。日本人は中国人のことも「うるさい、声が大きい、マナーが悪い」といっていますが、一緒に毎日を過ごしてみると「中華圏の人たちは一般的に日本人よりも明るくて積極的」と僕には映ります。日本人は個性よりも、とても調和を重んじる関係を好みます。そして質問をしても日本人は他人の気に障るようなことをしたくないので答えはあいまいなことが多く、答えないことも多いです。だから常に他人のことを気にかけながら生きなくてはならない文化があり、オリジナリティのある答えをすると嫌われるかもしれません。そして上下関係にも厳しい。ああ息苦しい。僕は海外旅行をするときに、旗を持った日本人ツアーガイドについていく多人数参加の日本人ツアーは面白くないので好きじゃありません。だって、誰もコミュニケーションを取ろうとしないから。日本人は個性を嫌うくせに、個性のある白人を素敵だと思う一方、個性のある同じアジアの同胞をあまり好きになれない傾向にあるのはなぜなんでしょうか?

 こんなことについて長々と書くと、「平田はピースボートに洗脳されたの?」と右翼がかった人たちから言われそうだからこれ以上は書きません。だけど、世代も政府も変わったとはいえ、日本は多くの国を侵略して多大の迷惑をかけたのは確かです。それと日本軍が先に手を出したとはいえ、日本でも多くの人々が米軍によって無差別爆撃され、広島、長崎と2回も原爆を落とされ多くの一般民・在日韓国人だけではなく12人の捕虜になった米兵が亡くなりましたよね。実際にあった歴史をゆがめずに理解したうえで、政府の高官どうしだけではなく、一般の人々どうしがまじめに話し合う場を持って、若い人たちに新しい平和な国際関係を築いてもらいたいなあと思います。

 

スマホを見ない生活

 ピースボートに乗っているとWifi環境が悪いため、高齢者も若者も誰もスマホを見ていません。僕はスマホの便利さは認めますが、ちょっとヒマになるとスマホをのぞく若い人たち、通勤電車に乗っている人たちのほとんどがスマホに夢中になっている。若い人も中年のサラリーマンもほとんどがメールのやり取りか漫画を見るか、ゲームをやっている。小説を読む人、受験勉強している高校生は本当に少なくなりました。会社の休憩時間でもコミュニケーションをとる人よりも1人でスマホに没頭している人たちが多い。ついつい「日本人全体がバカになっている」と思ってしまいます。スマホをうまく使いこなせない僕の方がバカかもしれませんが・・・・。スマホを使わない船内の生活はとても文化的です。講演や文化的な情報交換、芸術や趣味や運動、歓談に費やす時間で暇がなくなるっていうのはとても充実した毎日を過ごせていることだと思っています。

 今日もピースボートは南米大陸に向けて進み続けています。海に沈む夕焼けがとても美しかった(写真5)。

プロフィール

平田純生
平田 純生
Hirata Sumio

趣味は嫁との旅行(都市よりも自然)、映画(泣けるドラマ)、マラソン 、サウナ、ギター
音楽鑑賞(ビートルズ、サイモンとガーファンクル、ジャンゴ・ラインハルト、風、かぐや姫、ナターシャセブン、沢田聖子)
プロ野球観戦(家族みんな広島カープ)。
それと腎臓と薬に夢中です(趣味だと思えば何も辛くなくなります)

月別アーカイブ