第 32回 基礎から学ぶ薬剤師塾 Q&A
初心者向けシリーズ④ 降圧薬を極める

 


 

セントラル病院 薬剤科 野村温子先生

Q .サイアザイドが腎機能低下者に大きな降圧効果をもたらすのは、ループ利尿薬と併用した場合のみで単独での使用にはあまり効果がないと考えてよろしいでしょうか?

A.一概に「サイアザイドが腎機能低下者には効果がない」とは言えませんが、一応CKD診療ガイドライン2023では重度腎障害以上(G4, G5)では効果が減弱するため、使用は推奨されず、半減期が延長するので長時間作用型のループ利尿薬が体液貯留患者にサイアザイドに代わる降圧薬としても用いられます。

 サイアザイドの使用目的は利尿作用に伴う降圧作用です。ループ利尿薬は利尿薬ですが、サイアザイドとループの併用は高度腎障害以上の患者でも「強力な利尿効果・降圧効果」をもたらすことが報告されています。


 

海邦病院 後藤夏美先生

Q .ARBと比較して低血圧の副作用はあるものの、腎イベントや高カリウムの副作用が少ないARNIは今後75歳以上の高齢者の降圧剤の一手になりうるのでしょうか。

A.ARNIは確かに腎イベントや高カリウムの副作用がRAS阻害薬に比し少なく、しかも高齢者でリスクの高い心不全に対する効果も高いので、高齢者には、使いやすそうですね。でもRAS阻害薬にNa利尿ペプチドの作用が加わるため、降圧作用がより強力になり、合併症があるため血圧をコントロールできていない高齢者にはよい選択になると思います。ただしその反面、過降圧による弊害には気を付ける必要があるでしょう。


 

日本調剤 中島鉄博先生

Q .RAS阻害薬と利尿薬の併用によって蛋白尿はより減少していましたが、腎機能は悪化してしまうのは虚血やそれに伴う糸球体内圧の減少が影響として大きいからでしょうか。また、時間軸をより長期で見た場合にも腎機能低下の傾きはより大きいと予想されますか。宜しくお願いします。

A.以前から言っていますように利尿薬は脱水による腎血流量の低下、RAS阻害薬は糸球体内圧の低下から蛋白尿(-)の患者では腎保護のメリットよりも腎機能低下が心配になります。ただし、蛋白尿(+)の患者に対してどちらもうまく使えば、つまり脱水、糸球体内圧の低下を予防するための腎機能モニタリング、電解質などのモニタリングのしっかりした医師が使い、薬剤師もきちんとした脱水防止のための服薬指導を行い、NSAIDsとの併用に対してきちんと疑義照会すれば、より強力な腎保護作用が期待できると思います。ただし、腎臓内科医以外の医師、特に他科の開業医の先生方がRAS阻害薬と利尿薬を併用する場合、あまり血液検査・尿検査をしていただけないようであれば、腎保護よりも急性腎障害のリスクの方が心配になります。

 腎機能が低下してきて脱水のリスクが高まる後期高齢者は、CKD診療ガイドライン2023ではRAS阻害薬や利尿薬よりもCa拮抗薬を第一選択薬として推奨しています。それはCa拮抗薬には蛋白尿を抑制する作用は期待できないものの、急性腎障害の心配が少ないためだと思います。

プロフィール

平田純生
平田 純生
Hirata Sumio

趣味は嫁との旅行(都市よりも自然)、映画(泣けるドラマ)、マラソン 、サウナ、ギター
音楽鑑賞(ビートルズ、サイモンとガーファンクル、ジャンゴ・ラインハルト、風、かぐや姫、ナターシャセブン、沢田聖子)
プロ野球観戦(家族みんな広島カープ)。
それと腎臓と薬に夢中です(趣味だと思えば何も辛くなくなります)

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