薬剤師塾Q&A

第 17回 基礎から学ぶ薬剤師塾 Q&A
物性から薬物動態を理解してみよう
~「動態=薬の顔・特徴」だと思えば難しくない(2)~

 

チャットでの質問について
質問を4ついただきましたが、その内容をコピペし忘れておりました。そのため、一部、どの先生からの質問かが不明になってしまいました。申し訳ありません。


①チャットによる質問

高田調剤薬局 永石 潤先生

Q.デエビゴ(レンボレキサント)は半減期が長いのですが、頓服でも有効でしょうか?

A.断っておきますが、私は、向精神薬の薬理についてはあまり詳しくありません。「レンボレキサントは、2種のオレキシン受容体サブタイプ(OX1R及びOX2R)の両者に対し、競合的かつ可逆的拮抗作用 を有するオレキシン受容体拮抗剤である。OX1R及びOX2Rの両者に親和性を示し、結合及び解離を示した(in vitro)。」とインタビューフォームにあり、これだけでは、血中濃度依存的に効果を示すかどうかは分からないのですが、血中濃度依存的と仮定してお答えさせていただきます。

 初回投与時から効きますので、頓服でも効くはずです。でないと不眠症治療薬として臨床使用できるはずがないと常識的に考えます(インタビューフォームには「不眠症患者に対するレンボレキサント投与により、客観的評価による夜間後半部分の中途覚醒時間の短縮が認められた」とあります)。レンボレキサント10mg単回投与時の消失半減期は56.15時間と長いのですが、10mg投与後のCmaxが2時間で約36ng/mLですが、投与5時間足らずには約15ng/mL未満に低下しており、半減期は約3時間未満になります(図:インタビューフォームより)。ただしその後、血中濃度は非常に緩やかに消失し、24時間後もゼロにはなっていません。ですからレンボレキサントは1-コンパートメントモデルに適応する薬物ではなく、マルチコンマートメントモデルに適応するのだと思います。消失半減期は長いのですが、分布が終了する前のα相の濃度が高くなるため、催眠作用を示すのではないでしょうか。あくまで私の予想ですが・・・・。

 ベンゾジアゼピン系のニトラゼパムやジアゼパムも半減期はそれぞれ、26時間、20~70時間ととても長いですが、早朝覚醒しにくいような薬ではありません。
この図のように採血を何度も行うと、薬物によっては2コンパートメント、3コンパートメント以上の薬物があり、消失相もβ相だけではなく、γ相やδ相が認められることがあります。例えばアミノグリコシド系抗菌薬のゲンタマイシンは、薬物によって抗菌力や抗菌スペクトルは異なるものの、薬物動態は同一のパラメータを使えます。例えば腎機能が正常であれば半減期は1~4時間ですが、採血ポイントを増やすと血液から間質液に移行するα相(半減期は極めて短い)が認められますし、いわゆる臨床での消失相のβ相(1~4時間)が認められ、長期投与すると腎臓の近位尿細管上皮細胞に蓄積して、中止後、しばらくしても、腎臓に蓄積した薬物がじわじわと排泄されるため、半減期100時間のγ相が認められることがあります。この観察だけでもアミノグリコシド系を長期投与することが薬剤性腎障害のリスクであることが理解できますね。

 あくまで個人的な予想ですが、分配係数log P=3.7と極めて使用性の高い薬物であるため、中枢か脂肪組織などに蓄積したレンボレキサントが、じわじわと溶出して肝代謝されているのかもしれません。


②アンケートによる質問

高田調剤薬局 永石 潤先生

Q.デエビゴは反復投与でのCmaxが単回投与に比べて高くなりますが、頓用でも有効と考えて良いでしょうか?それとも連用すべきなのでしょうか?

A.私は薬理学の専門家ではないし、向精神薬についてはあまりよく知りませんので推測に過ぎないのですが、頓服で無効、連用しないと効かないような薬物は臨床で睡眠導入薬としては使い物になりませんから、レンボレキサントは頓服でも有効だと思いますし、連用しなくても効く薬だと思っています。でないと不眠治療薬としては使い物にはなりませんから。

 確かにインタビューフォームを見ると10mgを14日間反復経口投与後のピーク濃度は70.2ng/mL で初回投与時のピーク濃度46.5ng/mLの2倍足らずになっています。これによってずっと眠ってしまうような薬物であれば、不眠治療薬としては不適格で、鎮静剤としてしか利用できないはずです。だからこの薬の薬理作用は血中濃度と相関しにくいメカニズムがあるのではないかと思っています。

 たとえば抗血小板薬のアスピリンは不可逆的にシクロオキシゲナーゼを、PPIも不可逆的にプロトンポンプを阻害するため、血中濃度がゼロになっても薬効が持続するような薬物がありますし、抗うつ薬のように薬物の血中濃度とは無関係に2~3週間経過してから効果を表し始める薬物もあります。このように、薬物によっては必ずしも血中濃度と薬効がパラレルな関係にならないものもあります。

 これらの回答はあくまで個人的な意見ですが、インタビューフォームの「治療の関する項目」「薬効薬理に関する項目」を見ると様々な臨床効果について記載されており、Cmaxが高くなることによる不利益はあまりないように思います。


③チャットによる質問

Q.定常状態になるまで薬物の効果が発現しないのでしょうか?

A.血中濃度依存的に薬効を示す薬であれば、半減期ごとの投与間隔で投与するとすれば、1回投与しただけで定常状態の50%になります。TDMの対象薬のように有効治療濃度域が狭い薬物でも、目標濃度の1/2で全く効かない薬は少ないと思いますので、多くの薬が1回目でも効果があると思います。ただし2回目の方が、よりよく効くでしょうし、3回目の方がもっと効くはずですが、定常状態になるとそれ以上投与しても効果は望めません。これは先述のように血中濃度依存的に薬効を示す薬の場合です。

 頓服で効果を示す薬が多くあるように、定常状態にならなくても効果が発現するものも多くあります。またフロセミドのように半減期が0.3~1.5時間と短い薬は、初回投与時から定常状態になっていると考えてよいでしょう。

 また前問②のようにたとえば抗血小板薬のアスピリンは不可逆的にシクロオキシゲナーゼを、PPIも不可逆的にプロトンポンプを阻害するため、服用後の時間がかなり経過して、血中濃度がゼロになっても薬効が持続するような薬物がありますし、抗うつ薬のように薬物の血中濃度とは無関係に2~3週間経過してから効果を表し始める薬物もあります。また講演でお話ししたようにアミノグリコシド系やキノロン系などでは血中濃度がゼロになっても殺菌効果が持続するpost antibiotic effect(PAE: 抗菌薬残存効果)が認められることがあります。


④チャットによる質問

Q.バンコマイシンの血中濃度が上がらない人がいます。どのような理由が考えられるのでしょうか?

A.ICUに入院している若年男性では、血管作動薬が投与されたり、全身熱傷で大量輸液などをすると、ARC (augmented renal clearance: 過大腎クリアランス)といって腎機能が高くなってバンコマイシンなど腎排泄性抗菌薬の血中濃度が上がらないため、効かないことがあります。これらの患者では実際にGFRが150~200mL/minと高くなるため、1.5~2倍以上投与しないと血中バンコマイシン濃度が十分上がりません(図1)。

 また糖尿病の初期の男性でもGFRが150mL/minになることはふつうに見られます。これは血糖値が非常に高いため、近位尿細管でSGLT2が過剰発現してブドウ糖とNaを一生懸命再吸収するため、尿細管腔中のNa濃度が低下し、それを感知したマクラデンサが輸入細動脈を拡張するという「尿細管糸球体フィードバック異常」になり、糸球体過剰濾過が起こるためです(図2)。そのためこの状態を放置しておくとアルブミンが尿中に漏出し腎機能が悪化するのが典型的な糖尿病性腎症です。それを防ぐためにRAS阻害薬やSGLT2阻害薬の投与が推奨されています。この状態でも腎機能が高いため尿中排泄率90%と総クリアランスの90%が腎クリアランスを占めるバンコマイシンの血中濃度は総クリアランスの増大によって上がりにくくなります。血中濃度=投与量/総CLですからね。

 これらの方々は血清Cr値が男性なのに0.5mg/dL程度と低く、eGFRが150~200mL/min/1.73m2になることがありますが、これは痩せた高齢者のように腎機能が過大評価されたのではなく、実際に腎機能が高いのです。


⑤チャットによる質問

Q.妊娠中の体重増加時には推算CCrの式に標準体重を用いてよいのでしょうか?

A.妊娠時には血圧が上がり、腎血流も妊娠前に比し約30%上がり、GFRも妊娠前に比し50~60%程度上昇し、糸球体に負担がかかるため妊娠高血圧腎症になることがあります。そのため、血清Cr値はほぼ半減しますが、これは腎機能が過大評価されているためではなく、実際に腎機能が高くなっているためです。しかも妊娠第1期、2期、3期と腎機能が変化する可能性があります。ただし妊娠時に腎排泄性の薬物を投与することはまれでしょうが、感染症か何かでしょうか?「何のために腎機能を知る必要があるのか?」について、もう少し情報が欲しいところです。妊娠時の腎機能の推算について聞かれたのは私にとって初めての経験ですが、妊娠時の腎機能把握するための標準は24時間畜尿の実測CCrになります。

 でもそれは簡易に測定できるものではありませんので、「pregnancy × estimation of renal function × body weight」でPubMed検索したところ、85論文がヒットしましたが、「CG式の計算式には妊娠前の体重を使用した。(140 – 年齢 × 体重 [kg] × 0.85)/72 x 血清Cr (mg/dL). CCrについては第1期26例、第2期33例、第3期21例、産後15例を比較し、蛋白排泄については第1期16例、第2期29例、第3期15例、産後15例を比較検討した。3つの期間を合わせたCCrの実測値(105±40mL/分[平均±SD])は、CGクリアランス(113±52mL/分;r = 0.87)と有意な相関があった。」1)と記載されていますので、妊娠前の体重を用いるのがよいかもしれません。r=0.87ということは臨床で確実性は必ずしも高くはないけれども参考にできると思います。

 その他の論文2)では妊娠時の腎機能をCG式、MDRD式、CKD-EPI式を用いた腎機能と胎児の大きさを調べた報告では、おそらく何も特別な記載がないので、実測体重が使われていると思います。

 また妊婦の血清シスタチンC値は、妊娠第1期には0.89±0.12mg/lと高値を示し、第2期には0.651±0.14mg/lと有意に減少し(第1期と比較してp = 0.0000)、第3期には0.82±0.191mg/lに再び上昇した。出産後は0.94 +/- 0.12 mg/lに上昇した。血清シスタチンCと血清Crの間に強い相関が認められた。女性ではGFRとシスタチンC値との間に強い負の相関が認められた(r = -0.546, p = 0.000)。GFRとシスタチンC値の間には直線的な関係が認められたという興味深い報告もありましたが、どの体重を用いたかは不明です3)

 妊婦の実測CCrと各予測法で算出された推算CCrの間には計的に有意な強い相関が認められ、徐脂肪体重を用いると有意に低くなるが、実測値により近いクリアランス推定値が得られたという報告もありました4)

 ただし、正確な腎機能を知りたい場合には、実測CCrを測定することをお勧めします。

引用文献
1)Quadi KH, et al: Assessment of renal function during pregnancy using a random urine protein to creatinine ratio and Cockcroft-Gault formula. Am J Kidney Dis 1994; 24: 416-420
2)Morken NH, et al: Maternal glomerular filtration rate in pregnancy and fetal size. PLoS One. 2014 Jul 8;9(7):e101897. doi: 10.1371/journal.pone.0101897. eCollection 2014.
3)Babay Z, et al: Serum cystatin C in pregnant women: reference values, reliable and superior diagnostic accuracy. Clin Exp Obstet Gynecol. 2005; 32: 175-179.
4)Sawyer WT, et al: A multicenter evaluation of variables affecting the predictability of creatinine clearance. Am J Clin Pathol. 1982; 78: 832-838.


⑥アンケートによる質問

手束病院 楠本倫子先生 

Q.以前バンコマイシンの血中濃度について質問させて頂きました。今日も説明して頂いたのでとてもよく理解できました。臨床の現場では、日本化学療法学会のPATと言うソフトを使っています。ピーク値は点滴終了後2時間の値だとすれば、このソフトに入力する時もピーク値として入力した方が良いでしょうか?点滴終了後2時間後と言う選択肢もあるので、迷いますが。

A.ごめんなさい。PATというソフトを使ったことがありませんので、よくわかりません。僕は透析患者のバンコマイシンのTDMをやっていましたので、ソフトは使えなかったので、使った経験がありません。

 透析患者では非透析時半減期200時間と非常に消失が遅いため、点滴終了後2時間の採血をピーク値としても大過ありませんが、腎機能がよければトラフ値と消失相に入った点滴終了2時間以降の2点の延長線と点滴終了時の交点をピーク値とすべきでしょう。


⑦アンケートによる質問

森之宮病院 力石慶子先生 

Q.低alb血症ではバルプロ酸の血中濃度が上がりにくいと思いますが、増量を続けていくうちに血中濃度が有効血中濃度まで上がってきました。この場合、血中濃度と効果をどう評価すべきでしょうか。組織へはかなり分布してしまうのでしょうか。血中濃度の割に傾眠はでやすいでしょうか。

A.バルプロ酸はフェニトインと逆の非線形薬物動態を示し、投与量が増えるほど、低アルブミン血症や尿毒症でも総血中濃度が上がりにくくなります。それで副作用がなく、てんかん発作が抑えられていればよいのですが、血中総濃度が低いからといって、増量すると遊離型濃度のみ上昇しますので、危険です()。総濃度のみを測定するTDMを実施することによって薬剤師が増量を提言して、副作用が起こってしまう最悪のパターンが想定されます。理想的にはアミコンフィルターを使ってフリー濃度を測定することをお勧めします。総濃度の有効治療域は50~100µg/mLで、腎機能正常者であれば蛋白結合率は90%と考えて、有効治療濃度が5~10µg/mLに入れるのが基本です。ただし抗てんかん薬は有効治療域以下でもコントロールできている人もあれば、有効治療域以上でも副作用を起こさずてんかん発作をコントロールできている人もいます。ですから、有効治療域にこだわるよりも発作が抑えられていて副作用が起こっていなければ、通常は投与量を変更しない方がよろしいかと思います。てんかんの専門医はそのようにしているはずです。


⑧アンケートによる質問

北見赤十字病院 加藤理愛先生

Q.知識不足でお恥ずかしいのですが、非腎クリアランスが上昇することでどんな問題が生じるのでしょうか?

A.ごめんなさい。お恥ずかしいのは私の方でした。最後のスライド「今回の研究のヒント」で、「末期腎不全患者では非腎クリアランスが上昇する」と書いており、言い間違いを連発していました。非腎クリアランスの「上昇」ではなく、「低下」です。訂正させていただきます(訂正版の図)。

 2000年より以前では腎排泄性薬物では腎機能に応じて薬物投与量の減量をすればそれでよかったのです。そして、もちろん肝代謝型薬物は腎不全患者では減量をする必要はありませんでした。しかしFDAも日本の厚労省もメーカーに腎不全患者に投与したときの薬物動態を提示するよう求めたことから、様々な肝代謝薬物の血中濃度が末期腎不全患者で上昇することや腎排泄性薬物であってもGiusti-Hayton法で推測された腎機能別用量では血中濃度が上がってしまう薬物があることが明らかになってきました。

 例えばサインバルタのように尿中排泄率がゼロであっても高度腎障害患者に投与すると血中濃度が2倍になるため投与禁忌になっているような薬物が少なからずあります。この理由はおそらく尿毒素が蓄積したため、代謝酵素のCYP2C9や排泄トランスポータのP-糖タンパク質などの発現量やmRNAの発現量が低下して、薬物の代謝・排泄が低下するためと考えられています。ですから、高度腎障害、末期腎不全など、腎機能がかなり低下してから尿毒素が蓄積して血中濃度が上昇することが多いと思います。これらは非腎クリアランスの低下によって末期腎不全患者では血中濃度が上昇します。


平田への講演依頼に関しましては平田のメールアドレス hirata@kumamoto-u.ac.jp までお気軽にご連絡ください。

第 16回 基礎から学ぶ薬剤師塾 Q&A
物性から薬物動態を理解してみよう
~「動態=薬の顔・特徴」だと思えば難しくない~

 

チャットによる質問

①今井病院 粕谷美枝子先生

Q.薬物動態学が本当に苦手で大嫌いでしたが、平田先生のご講演を拝聴するたびに、その重要性を痛感しています。基本から勉強し直するためにお薦めの【薬物動態学】の参考書をお教え頂ければ幸いです。

A.僕も薬物動態学はむつかしい、特に難解な式を理解できないし、2-コンパートメントモデルなんて実臨床に本当に必要なの?と思っていました。薬物動態を身近にしてくれたのは現どんぐり工房の菅野彊先生が1998年に書かれた「わかる臨床薬物動態が理論の応用」という医薬ジャーナルの本でした。とても分かりやすい解説とかわいいイラストが薬物動態学のハードルを下げてくれました。僕にとっては革命的な本でした。ただし残念ながらこの医薬ジャーナル社は負債を抱えて事業停止になりましたので、この本は廃版になっていますが中古が手に入るかもしれません。

 菅野彊先生はその後、「薬剤師のための『添付文書の読み方10の鉄則』改訂第3版(‎ アドバンスクリエイト株式会社)」や「薬物動態を推理する55Question(南江堂)」を書かれていますし、どんぐり工房のお弟子さんの佐藤ユリ先生が「どんぐり未来塾の薬物動態マスター術 第2版(じほう)」を著されています。慶応義塾大学薬学部の大谷壽一先生の「マンガでわかる薬物動態学」を僕は読んだことがないのですが、大谷先生(九大大学院の時の僕のメンターです)の薬物動態学の講演はとても分かりやすく、濃い内容だったのできっと素晴らしい内容だと思います。これらの本をじっくり読んでいただけると薬物動態学を好きになるかもしれません。 それと僕の場合、このような入門書で、ある程度、薬物動態が理解できるようになったら、いわゆる大学で使っている教科書の加藤隆一先生の「臨床薬物動態学(改訂第5版): 臨床薬理学・薬物療法の基礎として」、緒方宏泰先生の「第4版 臨床薬物動態学: 薬物治療の適正化のために」「ウィンターの臨床薬物動態学の基礎―投与設計の考え方と臨床に役立つ実践法」などの教科書を3冊以上を読んで薬物動態理論を補強しました。よく売れているシリーズの「薬がみえる」vol.4は薬物動態学だけでなく薬力学や相互作用もかなり詳しく、そして分かりやすく解説されていますので、若い皆さんにはこれが一番かもしれません。

 理解できないようなむつかしい数式を理解することはあきらめて、読み飛ばしていいのです。だって2-コンパートメントモデルなんて、何度も採血しないといけないので、臨床で使うのは無理があるし、分からないことはどうやっても分からないのだから!でも、これらの複数の教科書を読むと、すでに入門書で理解したことであっても、もっとわかりやすく理解できるようになるヒントが隠されていますし、「これって実臨床に使えそう」、「以前に体験した症例はこれで説明できる!」という薬剤師としての「気づき」が臨床薬剤師としての実力をアップしてくれるのだと思っています。


②たかだ調剤薬局 永石潤先生

Q.アセトアミノフェンのお話がありましたが、胃腸障害の副作用はないと考えてよろしいでしょうか?

A僕が米国で研修させてもらった大学病院でもがん患者さんに「痛いときに」頓服でアセトアミノフェン650mg錠を6回分/日(3,900mg/日)、痛みのある多くの患者さんに投与されていました。癌性疼痛がきつくなれば服用錠数が徐々に増えるので、服用錠数が痛みのVASスケールの役割をして、0錠から2錠、4錠と増えることを強オピオイドの投与量を増やすマーカーにしていました。また米国の別の病院の小児科ではTPN(total parenteral nutrition)施行時、つまり絶食時の発熱や未熟児の発熱に対しアセトアミノフェンの懸濁液が汎用されていましたが、これは解熱に用いる低用量投与では胃障害が少ないことの裏づけと考えてもよいでしょう。

 ただしアセトアミノフェンは用量増加に伴い胃腸障害を起こすことがありうるため、鎮痛用量では空腹時服用は推奨されません。日本ではアセトアミノフェンは添付文書上では解熱目的には1回300~500mg を頓用とし原則として1日2回まで、鎮痛目的には1回300~500mgを4~6時間おきとなっています。

 NSAIDsを空腹時に飲むとのたうち回るような強烈な胃障害を起こしますが、OTC薬のタイレノールのパッケージには「空腹時にものめる優しさで、効く」と書いてあるように、NSAIDsに比べると胃障害は格段に弱いのですが、日本の添付文書では解熱用量でも添付文書上は空腹時の投与は避けることが望ましいとなっており、特に用量が多いときには胃障害を起こしやすくなるため、食後に投与すべきだと思っています。


③平成横浜病院 廣瀬里美子先生

Q.体重が多いのは一口に腎不全による浮腫であったり筋肉であったり脂肪太りだったりと色々ですが薬物動態の違いはどう理解すればよいでしょうか。基本的でお恥ずかしいのですがアドバイスお願いします。

A.薬物動態における「体重」の判断は薬用量の設定時にどう判断するか?という質問だと思って回答させていただきます。

 筋肉が多い人は病気しにくいのですが、ジゴキシンはNaポンプ阻害薬なのでNa+-K+-ATPaseの豊富にある筋肉には血中濃度の10~20倍、心筋には30~50倍の濃度で分布するため、分布容積が大きくなります(初回負荷投与するとすれば多めに投与する必要があります)。でも患者さんの薬用量はジゴキシンが腎排泄性であるためVdではなく腎機能、つまり腎クリアランスによって決まります。

 浮腫であれば間質液が増えていますので、細胞外液のみに分布する親水性薬物(脂質二重層を通って細胞内に移行できない薬物)の投与設計では重要です。アミノグリコシド系抗菌薬やβラクタム系抗菌薬がそのような親水性薬物です。ではアミノグリコシド系抗菌薬に関する例題を解いてみましょう。

例題:通常時の体重が50kgの肝硬変患者がMRSA肺炎に罹患した。本症例は肝硬変による腹水を伴う溢水により体重が65kgに増加している。この患者にアルベカシン(ハベカシン®)の初回投与量の投与設計をどのようにすべきか。アルベカシンの目標ピーク濃度は17µg/mLとし、Vdは0.3L/kgとする。

解答:アルベカシンXmgを65kgの患者に投与し17µg/mLを目標ピーク濃度にするとXmg/(0.3L/kg×65kg)=17µg/mLとなり、332mgを投与すると十分なピーク濃度を保てるはず(図1左)。ただし腹水は細胞外液のため、実際には通常体重50kgのVd 15L+腹水15Lが分布容積に近似すると考える。つまり溢水患者のVdは感染症患者のVd(0.3L/kg×50kg)に体重増加量15Lを加算して、Xmg/(0.3L/kg×50kg+15L)=17µg/mLとなり、目標ピーク濃度を17µg/mLにするならば510mgの投与量が必要(図1右、図2)。初回投与量は腎機能による差はありませんが、2日目以降は腎機能に応じた減量または投与間隔の延長が必要になります。

 ただし本症例が肝硬変ではなく、末期腎不全による尿量減少によって体重が65kgに上昇しているとすれば、主治医には保存期腎不全患者であれば腎毒性のない他剤を選択すべきです。

 添付文書には「1日1回150〜200mg(力価)を30分〜2時間かけて点滴静注する(2回に分けてもよい)」と書かれているので、医師の多くが「こんな大量投与したことがない」と言って引いてしまいますが、200mg/日では効きません。アミノグリコシドの添付文書のほとんどがピーク濃度が低いため効かず、ましてや2回に分けるとピーク値は下がりトラフ値が上がって、効きめはより弱くなって、腎障害が起こりやすくなります。

 ただし浮腫があって体重が増えても腎機能がよくなるわけがないので(腎うっ血によってかえって悪くなることがあります)、eGFRや推算CCrに代入する体重は浮腫のないときの体重を使いましょう。

 肥満患者で腎機能を推算するときに問題になるのが、推算CCrで身長が考慮されていないため、体重が2倍になると腎機能も2倍に評価されますが(図3)、脂肪太りの場合も、太ったために腎機能がよくなるわけではないので(一般的に肥満はCKDの進行要因になります)、太っていないときの体重は理想体重ですが、生来肥満気味の人は体重が多い分だけ、筋肉も使いますので、筋肉量も増えると考えると、通常、補正体重を使うのがよいとされています。

理想体重(男性)=50+{2.3×(身長−152.4)}/2.54

理想体重(女性)=45.5+{2.3×(身長−152.4)}/2.54

補正体重(kg)= 理想体重+[0.43×(実測体重-理想体重)]

 ただし薬物によって体重の評価に何を使うのかが異なります()。僕自身は組織に分布しやすい(Vdの大きい)薬物は実測体重、親水性の高い薬物は理想体重を使うイメージを持っています。例えばバンコマイシンは実測体重を用いますが、米国の病院で200kg以上の肥満患者がMRSA敗血症で入院してきて「スミオ、バンコマイシンのトラフが5µg/mLにしかならないのよ」と相談を受けましたが、投与量は4gを超えて投与したことがないので、4gを初日投与したとのこと。PubMedで調べるとバンコマイシンは実測体重で投与設計することが分かったので、「8g/日投与しなきゃ効かないよ」と答え、実際に倍量投与してトラフ値が10以上になりました。


④伊奈オリーブ薬局 米坂由可里先生

Q.フェノフィブラート を肝機能低下傾向の方が服用していました。その後肝機能は改善しましたが、腎機能が悪化しました。どのように理解すればよろしいでしょうか?

A.この限られた情報で判断することはなかなかできないのですが、フィブラート系の投与によって腎機能が悪化すると、ふつうは横紋筋融解症による腎機能悪化を疑います。骨格筋が壊死して融解し、筋肉内の成分が血中に溶けだして、ミオグロビンが尿細管に詰まって急性腎障害が起こります。クレアチンキナーゼ上昇とともに LDH, AST, ALT などが上昇し、血尿が観察されれば、横紋筋融解症と考えてよいでしょう。フェノフィブラートの活性代謝物のフェノフィブリン酸の尿中排泄率は73%と高いため、腎排泄性薬物ですが、肝機能低下傾向患者に発症した理由はこれだけの情報では不明です。もしかして横紋筋融解症によってAST, ALTが高くなったため、肝機能低下傾向と判断したのではないでしょうか?


⑤今井病院 粕谷美枝子先生

Q.グリメピリド1mgを腎機能CCr35mL/minくらいの80歳代の患者さまに使用しており、低血糖症状と思われる症状が時々出るのですが、減量提案をしても処方医にあまり取り上げていただけません。認知機能も低下しており本人の自覚症状も薄いため、本日の先生のお話を聴いて低血糖症状の遷延化が不安になりました。 このような場合、減量提案よりも処方変更を提案した方が良いでしょうか。

A.腎機能の低下した後期高齢者の低血糖、とても危ないですね。SU薬とナテグリニドは重篤な腎機能低下(CCr<30mL/min)には禁忌です。CCr35mL/minであれば安全域の広い薬であれば投与しても構わないのですが、SU薬の低血糖と抗凝固薬による出血は超ハイリスク薬にあたる副作用ですからCCr<30mL/minには禁忌となっていてもCCr<50mL/minでも投与しない方が無難な薬と言えます。講演でお話ししましたように表に示すSU薬とナテグリニドには活性代謝物があり、それらは親化合物よりも親水性が高いため特異的に腎機能低下患者で蓄積しやすいのです。だからCCr35mL/minだからという理由でSU薬の投与にこだわる医師であれば、活性代謝物のないグリミクロン錠がより低血糖リスクが少ないので、変更を提案してみてはいかがでしょうか?以下の3点で理論武装しましょう。

腎機能低下患者は遷延性低血糖が起こりやすく、重症低血糖はインスリン拮抗ホルモンであるカテコラミンの分泌を介して重症高血圧、低カリウム血症、QT延長→トルサード・ポアン→心停止など、心血管病変の悪化原因になるとても危険。

②活性代謝物のあるアマリール錠はインスリン抵抗性を改善する作用のある第3世代SU薬と言われているが、活性代謝物のないグリミクロン錠の方が安全。ミチグリニドが禁忌じゃないのにナテグリニドだけが禁忌なのは発売後に透析患者が重症低血糖事故が起こったため。

③80歳代でCCr35mL/minという腎機能は不可逆的に(進行性に)腎機能が悪化するため、重篤な腎機能障害でSU薬が禁忌になる腎機能になるのは間近です。


時間内に回答できなかった質問

⑥南相馬市立総合病院 中島先生

Q.薬剤の効果の持続時間は薬剤が有効血中濃度域にある間と考えています。薬剤毎の有効血中濃度域はどのように調べたら良いのでしょうか

A.薬剤の有効治療域は常に有効下限以上の濃度でないといけないわけではありません。前述のようにアミノグリコシド系抗菌薬のように、トラフ値が低いほど腎障害が起こりにくいので、血中トラフ濃度がゼロになっても構いません。アミノグリコシド系抗菌薬やキノロン系のように殺菌力の強い抗菌薬にはPAE(post antibiotic effect:抗菌薬残存効果)があるため、MIC以下のゼロになっても抗菌メカニズムは持続しますから。このようにPKだけではなく、PDも考慮した投与設計が必要になります。

 すべての薬に有効治療域が設定されているわけではありません。TDM対象薬であっても有効治療域が不明な抗てんかん薬があります。抗てんかん薬はアドヒアランス不良でてんかん発作を起こすため、アドヒアランスの確認の意味だけでもTDMを実施する価値があります。TDM対象薬の治療域に関してはこのブログ「育薬に活用できるデータベース」の「2.薬物動態・TDM」に知りうる限りの有効治療域が載っています。


⑦高砂市民病院 白木先生

Q.CYPの寄与率や阻害率を確認する方法はありますか。

⑦佐賀大学医学部附属病院 橘川奈生先生

Q.CYPの寄与率などを用いて計算できる薬剤についてご教示いただけますと幸いです。薬剤のプロファイルにより異なるかと存じますが、約何倍までですと安全性の面から許容されますでしょうか。

A.これらに関しましては僕は専門家ではないので、よくわかりません。鈴木洋史先生、大野能之先生の著された「これからの薬物相互作用マネジメント 臨床を変えるPISCSの基本と実践 第2版(じほう)」を参照してください。

 例えばスタチン薬のシンバスタチンのFは5%と極めて低いのは、CYP3A4の寄与がほぼ100%のため小腸のCYP3Aによって初回通過効果を受けやすいから→CYP3A4を100%近く阻害するボリコナゾールやイトラコナゾールでは血中濃度が約20倍近くになるはず。そしてグレープフルーツを食べたりすると10倍近く血中濃度が上がるので、横紋筋融解症が起こりやすい→薬剤師はFの小さいシンバスタチン、アトルバスタチン、フェロジピンに関しては「グレープフルーツを食べたり飲んではいけません」という薬剤情報提供用紙を渡すだけではだめで、ちゃんと口頭でも注意しなくてはならない などの理論展開が可能になります。

 薬の安全性は薬によって大きく異なります。βラクタム系抗菌薬は腎排泄性薬物でアレルギー性副作用が怖いが、安全性が高いので、初回負荷投与は思い切りいこう。だけど2回目以降も減量せず投与すると1週間くらいで数倍以上の血中濃度が持続すると痙攣をおこすことがあるので、腎機能低下患者や高齢者に減量せずに継続投与はあり得ない。抗凝固薬のダビガトランは超ハイリスク薬であるため、血中濃度はほんの数倍でも非常に危険です。繰り返しますが、薬の安全性はこのように薬によって大きく異なります。

 フェニトインは非線形薬物動態を取るTDM対象薬ですから数10倍の血中濃度になると「致死濃度」になるかというと、30年前くらいに恐怖の「アレビアチン原末」が売られていました。僕はこれは危ないと思っていましたが、当時の精神科医は1包に複数の抗てんかん薬の散薬を混ぜて投与することを好んでいたので、カサの高い10倍酸はではなく原末を好んでいたため、製薬会社も危ない原末の製造中止に踏み切れなかったのです。そこで10倍散の代わりに原末を調剤したという薬剤師の誤薬が10件以上も起こったのですが、十数症例目の誤薬でようやく死亡例が出たのです。フェニトイン濃度は10倍ではなく、非線形であるため、数百倍あるいは1000倍近くになったのかもしれません。その時「非線形でTDM対象薬のフェニトインでも人はそう簡単には死亡しないんだ」と感じた方は多かったと思います。でもCCr<30mL/minで禁忌のダビガトランは発売半年間で24名が出血死しました。24名中22名が70歳以上の高齢者です。

 これで何が言いたいかわかりますか?フェニトイン服用患者は結構若年者や青年患者が多いですよね。何倍という血中濃度だけではなく、70歳以上の後期高齢者は弱い!しかも心房細動は心不全をきたすことが多い。心不全でフレイル、サルコペニアの高齢者は極めて脆弱、という患者側の要因も考慮しなくてはならないということです。ちなみに皆さんの把握している薬物動態パラメータは治験時に行われた第1相試験、つまり「若年青年男子」が対象なのです。でも疾病の多くは高齢者に発症し、当然薬を飲む多くの人は高齢者ですよね。薬の専門家である皆さんは薬物動態パラメータのデータを高齢者に翻訳しなければならないのです!PBRはアルブミン濃度の低い高齢者では低くなるはず、tmaxは消化管運動の遅延する高齢者では遅延するはず、腎機能は当然低下するはず…………のようにです。


⑧道ノ尾病院 渕上朋一先生

Q.薬物動態について、理解がより深まる講演をありがとうございました。講演の中で、ファーマコジェネティクスと薬物動態の話しがでてきましたが、エピジェネティクス機構が薬物動態の個人差となることはあるのでしょうか?

A.僕はこの分野の専門家ではありませんが、双子であっても1人は喫煙者、1人は非喫煙者であればCYP1A2の誘導により、テオフィリンやプロプラノロールのクリアランスが2倍近くの差が出てくるはずですし、飲んでいる薬によって耐性、自己誘導などを起こしえますので、環境因子によって薬物動態は変わります。したがってエピジェネティクス機構が薬物動態の個人差となることは十分にあると思います。

第 15回 基礎から学ぶ薬剤師塾 Q&A
透析を科学する
~CHDFでは透析よりも薬がよく抜けるのはなぜ?~

 

チャットによる質問

匿名

Q.エベレンゾ(ロキサデュスタット)の透析性は?

A蛋白結合率99%ですから全く透析で除去されません。


アンケートによるご質問

滋賀医大 福井先生

Q.CHDF時の用量設定について、透析機器設定から計算される腎機能と血液検査での腎機能に大きく乖離がある場合でも(無尿)、計算上で考えられる投与量を投与して問題ありませんでしょうか。

Aごめんなさい。「透析機器設定から計算される腎機能」というのがよくわかりません。


薬局フォーリア 河村美弥子先生

Q.基本的なことで申し訳ないのですが透析クリアランスと透析性と同じ意味と思っていました。透析クリアランスは速度を表し、透析性というのは性質のことで、透析除去率というのは割合ということでしょうか??? 

A透析性は透析除去率と同じ意味で使われており、「薬物の透析による除去率(透析性)=1回の透析によって体外に除去された薬物量/もともと体内にあった薬物量」で通常は%で表されます(だから割合ですね)。透析クリアランスはクリアランスですから、単位時間あたりに浄化された液体の総量ですから通常はmL/minで表します(だから速度ですね)。いくらダイアライザークリアランスが高くてもVdが大きな薬物の除去率は高くなるとは限りません。講演の時に理解度チェックその1で昇圧薬のリズミックの例を出しましたが、図に誤記があったために分かりにくかったと思いますので正しいものを示します。

 


佐賀大学医学部附属病院 薬剤部 橘川奈生先生

Q.HD・CHDF・PDでアンモニアの除去率に違いはございますでしょうか。また、リバウンドにも差がございますでしょうか。ご教示いただけますと幸いです。

A分離量の小さいアンモニアは尿素と同様、血液浄化法でよく抜けます。ただし講演のスライドで示しましたように何らかの中毒症状の治療にCAPDは低クリアランスであるため有効ではないのと同様、日本のような低クリアランスのCHDFも有効性は低いと思います(これは平田の意見です)。ですから溶質の除去率はアンモニア以外も含めてHD>CHDF>CAPDになります。
 それからHDのような急激な血液浄化法ほどリバウンド現象は強いのですが、持続的血液浄化法ではリバウンドはほとんど認められません。小児の高アンモニア血症のように250μmol/L以上の危険な状態で内科的治療が無効な場合には、間欠的HDが使われることがあります。ただし海外では高クリアランスのCRRTも実施可能なため、間欠的HDではリバウンドが危惧される場合には、持続的にアンモニアを除去するためにCRRTを高アンモニア血症の治療に用いられることもありますが、もちろんHDの方が除去性能は高いです。ただしその分、栄養素も短時間の間に急激に除去され体力を消耗するため、CRRTを選ぶこともあるようです。150μmol/L以下になれば治療を中止してよいそうです。ただし血液浄化時に除水をしてしまうと血圧が下がったり、腎虚血によって腎機能が悪化しますし、透析液は透析患者用のものなので、低リン血症、低カリウム血症にならないよう注意して血液透析を実施する必要があります。
 これらの情報はおそらく大学病院では活用可能なUpToDateで「hyperammonemia×blood purification」を検索ワードとして情報を入手できます。


手束病院 楠本倫子先生

Q.バンコマイシンのTDMで採血ポイントはいつがベストでしょうか? 1回の時と2回採血する場合を教えて頂ければ幸いです。又、今まで安定していたトラフ値が突然倍近くになったり、腎機能が急激に悪くなるとすれば病態(敗血症のような重症例)によるものか、それとも腎機能が過大評価されていた可能性(CG式Ccrで判断)も否定できないのでしょうか?

A患者さんはHD患者さんではなく、定常状態に達していると仮定して答えさせていただきます。1回の採血ではトラフ値、つまり次回投与直前の採血だけでよいでしょう。ただし重症感染症の場合、抗菌薬TDMガイドライン2022ではピーク濃度とトラフ濃度の2点採血を行ってAUC/MICを400-600としているため、2点採血が必要となります。バンコマイシンのピーク濃度は点滴終了後1~2時間となっておりますが、1時間は完全にα相(分布相)で、組織と血中濃度が平衡状態になっていません(図1)。2時間以降経過したβ相(消失相)で採血しないとAUCは過大評価されますし(図2:この図では大した差ではないように見えますが、腎機能が低下すればするほどAUCの過大評価が顕著になります)、ピーク濃度が高くなるということはVdが過小評価されます。私は透析患者のTDMをやってきたので、透析終了時から点滴を開始して、点滴終了後2時間(可能なら2時間以上経過した方が確実にβ相になるため望ましい)をピーク値として、次回透析前をトラフ値とし、その2点からKelの傾きを算出して点滴終了時の値をピーク値として採血することが多かったため、バンコマイシンのVdを0.9~1.0L/kgだと信じていますが、点滴終了後1時間で採血している病院ではVdが0.6L/kg程度を採用していると思います。透析患者さんでは非透析時のバンコマイシンの半減期は200時間程度と極めて消失が遅いため、点滴終了後2時間以降のの採血はあまり問題にはなりませんでした。

 トラフ値が突然倍近くになったのはAKIの可能性があります。1つはバンコマイシンによるAKIも考えられますが、重症感染症のために脱水を来たしBUN/Crが30以上になっている場合には輸液をすることでBUNが急低下し、Cr値もやや下がることが多いですので、重症感染症での輸液管理は非常に大切です。それと重症感染症になりやすい方は痩せて栄養状態が不良の高齢者が多いですから、重症感染症が長引けば長引くほど、筋肉量が低下し、血清Cr値が低くなり、腎機能の過大評価をしてしまう原因にもなります。この際には24時間畜尿の実測CCr(×0.715でGFRとして評価できます)かシスタチンCによるeGFRの算出が望ましいと思います。 一般的には感染症に罹患しやすい高齢者ではeGFRの方が推算CCrに比べ過大評価しやすいです。だから感染症に携わっている薬剤師は推算CCrを使う方が多いです。


石川県小松市民病院 薬剤科 小川 依先生

Q.中規模程度の病院でICU担当薬剤師なのですが、CHDF、HD、CAPD患者さん、それぞれにおけるバンコマイシンの投与設計で迷うことがございます。
 CHDFの患者さんに対しては山本武人先生のクリアランス理論に基づくCRRT患者の投与設計論文を参考にして、体重, QF, QDを元に投与設計をしています。残存腎機能を加えられることが臨床で役に立っておりこちらを使うことが多いのですが、今日の講演で先生がご提示して頂いた20mg/kg loadingから、7.5-10mg/kg維持で投与計画を行い、そのあとの血中濃度でフォローする方法も一考なのでしょうか。サブラットの適応もあり、QF+QDがそれほど変化することもないため、確かに特殊な条件とならなければ、固定量投与も一考かと愚考いたします。
 そしてもう一つ悩ましいのがCAPD患者さんのバンコマイシン投与設定です。HD患者さんはある程度明示されたものがあるのですが、CAPD患者さんでのバンコマイシン投与設計はどのように行えば良いのか悩む時が多いです。特に腹膜炎でのCAPD内にバンコマイシンを混注する場合や、敗血症で全身投与する場合もあり状況に応じての投与設計をどうすれば良いか悩んでおります。母集団解析ソフトにはこのような患者は含まれていないと思うのですが、ccr6ml/min前後としてある程度の参考にして考える場合もあります。
 何か投与設計するときのコツはありますでしょうか。血液透析患者さんのように決められた一定量を投与する方法等があるのでしょうか。
 小生のような未熟者ですが、ご教示いただけますと幸いです。

A講演で私がご提示した20mg/kg loadingから、毎日7.5-10mg/kg維持で投与計画を行い、そのあとの血中濃度でフォローする方法はあくまでサブラッドのような置換液を20L/日使用した無尿のCHDF患者の場合です。いわゆる日本で行われているCHDF患者さんの典型です。
 施設によってCHDFのやり方が異なる場合、例えば20L/日ではなく30L/日の補液を使っていれば、投与量は私の示した典型の1.5倍必要です。また患者さんの尿量があり、患者さん自身のGFRが14mL/minで、置換液使用量が同じ20L/日であればCHDFクリアランスが14mL/minですので、加えるとGFR28mL/minの高度CKD患者の用量と同じになり、この場合の投与量は私の示した典型の2倍必要になりますが、これらは山本武人先生のクリアランス理論と同じ考え方です。一応、抗菌薬TDMガイドライン2022ではeGFR<30mL/min/1.73m2では「バンコマイシンの適応としない」となっていますが、これは投与してはいけないというものではなく、化学療法学会でも腎機能が低下してもバンコマイシンを好んで使う感染症専門医もいらっしゃいます。
 CAPD患者さんでMRSA腹膜炎では腹腔内にバンコマイシンを有効濃度に保つには局所投与になるので、15~30mg/kgを5~7日毎で十分だと思いますが、MRSA敗血症や肺炎となると全身投与が必要になります。PBRが34-55%なので腹腔内投与しても半分くらいしか血中に移行しないですし、腹膜への刺激性を考慮すると腹膜炎以外ではあまり抗菌薬の腹腔内投与はしたくありません。血清Cr値が同体型のHD患者さんと同等であれば、ほぼHD患者と同じ用量でよいはずです。血清Cr値が同体型のHD患者さんよりも高く、例えば15mg/dLと高値の男性であれば、そのCAPD患者さん自身の腎機能は低いと思います(いずれHD+CAPD療法が必要になり、やがてHDに完全移行することになるでしょう)。厳密にCAPD患者さんの腎機能を知ろうとすれば、CAPD患者さんの24時間畜尿CCrを測定するとよいでしょうが、ふつうそこまではせず、バンコマイシンのTDMを実施して予測した濃度よりも高ければ腎機能が予想したよりも低い、というように判断して投与設計しなおすのが一般的なやり方だと思います。

第 14回 基礎から学ぶ薬剤師塾 Q&A
腸腎連関
心血管病変・腎機能を悪化させる尿毒素は腸内細菌によって産生される

 

チャットによる質問

まつもと薬局本店 岡幸博先生

Q.クレメジン細粒をあえて少ない量1日1~2gで処方されるのですが、効果あるのですか?教えて下さい。

A.アドヒアランス不良を憂慮して、少量投与されているのかもしれませんが、6g投与群とプラセボ群とで行われたRCTのCAP-KD試験ではRAS阻害薬服用のSCr<5mg/dLの460人を対象に56週間のRCTが行われました。エンドポイントは透析導入、腎移植、死亡、SCrの2倍化またはSCr6mg/dL到達でしたが、1次エンドポイントに差はありませんでした(図1:Akizawa T, et al: Am J Kidney Dis 54: 459-467, 2009)。したがって1-2gの投与では効果があるかどうかは疑わしいと思います。

 ただしこの研究のサブ解析ではeGFRの低下率を有意に遅延することができました(図2)。この試験ではおそらくプラセボを作成しやすいアドヒアランス不良の代名詞ともいうべきクレメジンカプセルが用いられましたが、飲みやすい即崩錠を使っていたら、アドヒアランスが改善してもう少しいいデータが出ていたかもしれません。その後の試験でも生存率を改善しないものの、透析導入は有意に遅延することが明らかになりました(Hatakeyama S, et al: Int J Nephrol  2012;2012:376128.doi: 10.1155/2012/376128. Epub 2012 Jan 12)。


日本赤十字社和歌山医療センター 榊本亜澄香先生

Q.最後の研究のヒントのところで、「便秘の強度」とあったのですが、具体的にどのように分類すればよいでしょうか?「便の頻度」での分類、「便の状態」での分類など、いろいろあるかと思っています。

A.便の性状を排便ごとに患者さんに選んでいただいて、スコア化する「Bristol stool scale」が一番有名だと思います(図3)。便秘スコア(constipation scoring system)は様々な方が様々な方法でスコア化していますが表1にその1例を示します。僕は患者さんに便の硬さによって10cmの棒にバツ印を入れていただくVAS scaleを研究に使ったことがあります(図4:平田純生, 他: 透析会誌37: 1967-1973, 2004.)。これらを参考にして、榊本先生もぜひ研究に取り組んでください。


アンケートによるご質問

平成横浜病院 廣瀬先生

Q.体調不良で下痢が続いている患者さんで早くミヤリ菌が定着して欲しいのにいつまでも下痢が続いているケースがあります。せっかくの良い菌が腸内に定着するためのプレバイオティクスの研究で何か効果が出ているものなど報告はありますか?

A.ごめんなさい。「良い菌が腸内に定着するためのプレバイオティクスの研究で何か効果が出ているものなど報告 」を調べようがありません。この質問内容では具体的に何をお知りになりたいのが分かりません。下痢につきましてはストレスによる下痢、潰瘍性大腸炎の下痢など慢性的な下痢を対象とすべきでしょうが、細菌性の下痢、ウイルス性の下痢の予防効果を見るようなプロトコルも可能かもしれませんが、いずれにしても特定した下痢に対して効果があるかどうかの試験プロトコルが必要になってくると思います。定着するかどうかは宿主の病態にもよりますので、漠然と下痢に対して宮入菌C. butyricumが効くかどうかの研究はできないと思います。

 ただし私が講演で話したように小児のCD(Clostridioides difficile)腸炎の予防効果については報告されています(Seki H, et al: Pediatr Int 2003;45:86-90)。最新の総説でもCDの増殖を抑制するプロバイオティクスだけではなく、C. butyricumは、院内感染の原因菌であるClostoridioides difficileだけではなく、胃がんの原因菌であるHelicobacter pylori、抗生物質耐性大腸菌などに広く有効であることが定説になっているように記載されています(Ariyoshi A, et al: Biomedicine 2022; 10: 483. doi: 10.3390/biomedicines10020483.)。

 それによるとC. butyricumの産生する酪酸がCDトキシンを阻害するだけでなく、腸管免疫を介してCDの成長・定着を阻害すること、H. pylori感染には抗生物質による除菌療法時の腸内細菌叢の破壊による下痢に対し、C. butyricumの投与によって嫌気性菌であるBacteroides属とBifidobacterium属の減少を防ぐことなどが記載されています。宮入菌って、地味そうですが、改めてすごい薬だと思いました。


一般社団法人唐津東松浦薬剤師会薬局七山店 高木一範先生

Q.今まで地域ぐるみの取り組みで平田先生が関与された活動があれば教えて下さい。 

A.透析導入患者数を減らす、腎機能低下患者で起こりやすい薬剤性腎障害や中毒性副作用などを防ぐことは、薬剤師の学会を作るだけではなく地域ぐるみでやらないとできないことですので、「腎と薬剤研究会」の設立を地元の腎に興味ある薬剤師の有力者にお願いしました。現在、全国で27か所ある各地の「腎と薬剤研究会」は年2回以上の定期的な講演会を開催しています。おかげで熊本で生まれたCKDシール(平田が作ったのではありません。僕の熊本での仲間たちの発想がオリジナルです)も各地に広がりつつあります。各地の「腎と薬剤研究会」は日本腎臓病薬物療法学会の下部組織ではありません。各地の腎薬が「地域連絡協議会」を通じて我々の学会組織と協力して活動しています。


北見赤十字病院 加藤理愛先生

Q.本日も非常に勉強になるご講演ありがとうございました。病棟担当の薬剤師ですが、便秘の患者さんが多く、医師からよく下剤の相談をされます。アミティーザが効く人もいれば無効で、同効薬のリンゼスに変更したら著効したというような方もいます。どちらも効果がなくモビコールや酸化マグネシウムが効いたという方もいます。この個人差には何か原因あるのでしょうか?

A.それぞれ、薬理作用の異なる下剤ですから、どれが効きやすいかは便秘の原因によると思います。例えば過敏性腸症候群で下痢型の方であればリンゼスがあっているでしょうね。ただし、僕の経験からはモビコールや酸化マグネシウムなどの浸透圧下剤は用量を増やせば効かない人はいないんじゃないかと思っています。


手束病院 楠本倫子先生

Q.第三世代セフェム系の経口薬についてですが、大腸菌などが原因になりやすい膀胱炎に著効例が見受けられます。特に、高齢者や若い女性にもレボフロキサシンより使いやすい様に感じておりますが、先生のご意見をお伺いできればと思います。

A.効いたからいいんじゃなくって、吸収率の低い抗菌薬は腸内細菌叢に悪影響を及ぼします。それによって膀胱炎は治っても、Fが低すぎるため、下痢は良く起こりますし、若年者では腸内細菌叢の変化によっておこる、アレルギー性疾患、自己免疫疾患、精神神経疾患になれば一生の問題になりかねません。ほかに吸収率の高い抗菌薬がありますし、重症であれば静注製剤を使えば腸内細菌叢に悪影響も低くなると思います。

 レボフロキサシンは膀胱炎を治すには抗菌スペクトルが広すぎます。キノロンはグラム陰性にも陽性にも細胞内寄生菌や結核菌にまで効く原爆のような薬で、投与した後には何も残らないです。こんな抗菌薬は生命を左右する重症感染症のために取っておくべきだと思っていますが、開業医の先生方は好きですね。しっかりした感染症専門医のいる病院では在庫を置かないところもあるそうです。それとキノロンは使いすぎたことによると思いますが、E.coli耐性率が高いです。ただしFが99%と非常に高いのは第3世代セフェムよりはいいですね。膀胱炎では経口剤であればβ-ラクタマーゼ配合ペニシリン、ホスホマイシン、ファロペネムの方がまだましでは?と思っています。


南相馬市立総合病院 中島鉄博先生

Q.経口第三セフェムは動態、原因菌を考慮すると必要な場面はほぼ無いと思いますが、Dr.の中には経口第三セフェムが有効な場面もあり、あえて選択肢を狭めるべきではないっといった記事もありました。実際には経口第三セフェムが使用されている印象があります。どのように捉えるべきでしょうか。宜しくお願い致します。

A.セフジトレンのバイオアベイラビリティ(F)は14%、セフジニルの吸収率は25%といわれていますから、成人用量の1回100mgを投与してもそれぞれ14mg, 25mgを静注投与したのと同じことになります。実質、セフジトレンの1日吸収量は42mgのみでピペラシリンの最大用量4gの1%程度しかないのです!。βラクタム系の静注抗菌薬製剤の成人用量で1回100mg未満のものはないはずですから、これらが本当に効果あったとは思えません。適応のある咽頭・喉頭炎、急性気管支炎、中耳炎、副鼻腔炎などは本当に抗菌薬が必要でしょうか?神戸大学医学部附属病院の感染症科の岩田健太郎教授のおっしゃる「使った、治った、だから効いた」の「サンタ論法」で認可されたものではないかと思います。


光晴会病院 薬剤科 杉本悠花先生

Q.クレメジンのアドヒアランスが分かる検査項目(採血など)がありますでしょうか?

Aクレメジンは吸収されないので、全身作用を示しません。だからアドヒアランスに影響するような検査データに直接、大きな変化を及ぼしませんので、検査値によってアドヒアランスの良否は分からないと思います。ただし、きっちりと服用していただければ、インドールなどの尿毒素前駆体を吸着し糞便中に排泄できますので、これらの尿毒素濃度を低下させる可能性はあります。また長期的に投与すれば、服用以前と比べて血清Cr値の逆数、あるいはeGFR、CCrの悪化速度を緩やかにする作用は期待できます。

第 13回 基礎から学ぶ薬剤師塾 Q&A
透析患者の便秘と下剤の適正使用
 ~たかが便秘と考えないで!腸管穿孔することも~ 

 

甲府城南病院 木下先生

Q.当院ではMgは外注になるためモニタリングされてるケースはあまりありません。CKD患者さまや高齢者で酸化Mgを使用する場合は、必ず医師にモニタリングをお願いした方がよろしいでしょうか?またどのぐらいの頻度でモニタリングをお願いしたら良いですか。

A.はい。定期的に測定することと添付文書や「適正使用のお願い」に書かれています。私のいた病院では透析患者ではMg剤の投与の有無に関わらず全員、2週間に1回電解質・腎機能を測定しており、その中のセットに血清Mg濃度も入っておりました。一般的には患者様の腎機能が低いほど、Mg剤の投与量が多いほど高頻度で測定すべきだと思いますが、私の経験では酸化Mgを6g/日も投与されて紹介入院となった患者さまでも血清Mg濃度が6mg/dLを超えたことはありませんでした。ただしこれはあくまでも平田の数少ない経験上のことです。

 私が薬剤師塾で紹介したイレウスに至った便秘に対してクエン酸マグネシウム34g(クエン酸塩なので多いように見えますがカマグ4.5g分です)を投与された後期高齢患者では血清Mg濃度16.6mg/dL と著明に上昇して嗜眠状態、血圧は50mmHg未満になっていますが、これは結腸内圧上昇によって結腸が菲薄化しバリア機能が失われて通常は吸収されにくいMgが直接血中に移行した可能性があります。腸管内圧が上がると結腸が伸びて薄くなって著明な炎症所見を示します。そして結腸のバリア機能が失われるとMgだけでなく、腸内細菌や吸収されない薬剤のバンコマイシンも重症偽膜性大腸炎患者では59µg/mLと当時の偽膜性大腸炎患者の世界最高濃度になったことを経験しました。ということで、あくまで平田個人の見解ですが、数日間も排便がないため、下剤や浣腸の大量投与などによって腸管内圧が増大すると、結腸の菲薄化や結腸の炎症によるleaky gut状態化で、もともと吸収されにくいMgが極めて吸収されやすくなって致死性の高マグネシウム血症になりうるのではないかと考えています。


望星薬局 加藤博昭先生

Q.高マグネシウム血症に関して、一点質問させて下さい。センナ等の刺激性下剤による”大腸メラノーシス”の有無が、酸化マグネシウムの腸管からの吸収に影響を及ぼす可能性等はあるのでしょうか。

A.平田が薬剤師をやっていたころは結腸が内視鏡で見ると黒くはなるが、深刻な症状は経験したことがない、何も起こらないという認識の医師がほとんどでした。ただしよく調べてみると最近では大腸粘膜が傷害され、色素の正体はリポフスチンと言って、刺激性の下剤で大腸粘膜が傷害され、死滅した細胞をマクロファージが貪食することで、リポフスチンが沈着して黒くなるとありました。これが炎症であればleaky gutを起こしMgが吸収される可能性はないわけではないと思います。ただし腸管内圧の急上昇による虚血性腸炎や結腸穿孔は非常に激烈で耐えがたい腹痛を呈しますので、Mg剤服用中なのに2週間排便がないので高圧浣腸またはプルゼニドやラキソベロンの大量投与をしてleaky gutを起こすとMgだけでなく、結腸内の様々な細菌が血中に移行します。これによって死亡したら敗血症と診断するか、虚血性腸炎と診断するか、腹膜炎と診断するか・・・・。そしてたまたまMg濃度が15mg/dLのような高値になって心停止あるいは呼吸停止したら、高マグネシウム血症と診断するかもしれません。これも平田個人の見解ですが、本当にMg剤が悪いのではなく、腸管の炎症がMgの腸管透過性を亢進させているだけかもしれません。


鹿児島市立病院 薬剤部 中村成志先生

Q.モビコールは溶解して使用する必要があると思うのですが、水分制限がある患者においては溶解の水分量による影響はどの程度あるとお考えでしょうか。適切な溶解量であれば吸収される水分量はほとんどないと考えて問題ないでしょうか。

A.硬結便がない患者さんであれば、ニフレックに比べればモビコールの水分量は少ないです。成人の最大用量はモビコール配合内用剤HDで3包あたり360mLです。水を多く含んだ便が排泄されれば脱水気味になると思いますし、効果ない場合にもマクロゴール4000が浸透圧下剤作用を示して腸管に水分が移行すると思いますので、あまり問題になる水分量とは思えません。ただし溢水が気になる症例であれば飲水を伴う下剤以外を選択すれば問題ありませんね。


I&H 薬事課 那須先生

Q.Ca型レジンに良いところは無いのでしょうか? 

A.低カルシウム血症気味の方、下痢気味の方にはCa型の方にはよい選択になると思います。Na型は低カリウム血症にもなりやすいので、マイルドなCa型を選びたいということもあるでしょうし、心不全で水分貯留に敏感な医師はNa型を嫌がると思います。


川崎幸病院 市本先生

Q.本日の講会内容についての質問です。刺激性下剤を連日何錠も服用されている患者さんについて、刺激性下剤を頓用にしたり使用量を減量できないかと思うのですが、その際に別の下剤を追加し刺激性下剤を中止してしまっていいのか、徐々に減量するほうがいいのかなど、アドバイスを頂きたいです。

A.下剤は抗凝固薬のようなハイリスク薬ではありませんので、徐々に変更しても、一度に全面的に変更しても、どちらでも構わないと思います。平田はプルセニド10錠以上/日服用中の患者と医師を説得して中止していただき、ソルビトールに変更していただき、毎日、排便が得られるようになった症例を数例経験していますが、ほとんどの症例で1回7.5mL(粉末で5g相当)のソルビトールを1日2~6回程度で効果があり、1日6回を超えたソルビトールが必要な患者さんは皆無でした。ただしソルビトールは腸内細菌に利用されるため腹鳴・放屁の副作用を訴えることがあります。


宜野湾記念病院 後藤夏美先生

Q.168cm43kg85歳男性でCr0.65でVCM初回投与設計を行ったところ、実測値が26.7µg/mlと大きく外れた為、VCM投与終了後、Cys-Cの測定を依頼しました。その結果2.19mg/l、体表面積未補正eGFRcys21.27ml/minとなりました。腎機能低下時はeGFR≒CCrと考え、次回TDM時にはCCr20ml/min程と考え(使用しているTDMソフトがCCrをもとに推算します)この結果を活かせるでしょうか。この薬剤師塾をきっかけにCys-Cの測定提案ができました。この結果を正しく活かしていくために先生のご意見をお聞きできれば大変ありがたいです。

A.血清Cr値を測定すると腎機能正常と思っていたのにTDM結果は高トラフ値なので、血清Cys-Cの測定をしたのはお見事です。少し訂正すると腎機能低下時はeGFR≒CCrではありますが正確にはeGFR=推算CCr×0.789の関係です。ただし問題になるのが使用しているTDMの解析ソフトのデータが2000年以前のものを利用して作成されていれば推算CCrを使っていたとしてもこの推算CCrのCr測定がJaffe法によるもの(CCrJaffe)なのか、酵素法によるもの(CCrEnz)なのか、あるいはこれらが混在しているものかが不明です。2000年以降は日本での血清Cr値はほぼ酵素法に代わりました。CCrJaffeであればeGFR≒CCrとしても構わないと思いますが、より正確に推算するには酵素法で測定した血清Cr値に0.2を加えて推算CCrを算出するとCCrJaffeが算出されます。TDMの解析ソフトのデータがCCrEnzであればそのまま計算して構わないと思います。

第 12回 基礎から学ぶ薬剤師塾 Q&A
腎臓が何をやっているか ~尿細管編 ようこそこの複雑で精密な世界へ ~

 

ゴダイ薬局 足立和夫先生
唯一、声を出していただいたご質問です。ありがとうございます。下記の内容だったと思いますが、記憶間違いしていればごめんなさい。

Q.フロセミドとアルブミンを併用する臨床的な意義は?
A.ネフローゼ症候群では糸球体が壊れて尿中にアルブミンが漏れ出るため、そして肝硬変では肝臓でのアルブミン合成ができなくなるため、低アルブミン血症になって血管外の水分を血管内に引き戻すことができず、ネフローゼは全身浮腫、肝硬変では腹水ができやすくなります。ループ利尿薬のフロセミドは非常に強力な利尿薬ですが、低アルブミン血症の時には、フロセミドを大量投与しても効きにくくなります。特に肝硬変の腹水などのサードスペース(非機能的細胞外液)を形成すると利尿薬は効かなくなります(図1)。消化管浮腫のためフロセミド上の吸収率が低下することがありますので、静注投与に切り替えてみるのもよいでしょう。サイアザイドを加えてみる、トルバプタンを加えてみる、半減期が非常に短いですからフロセミドを頻回投与するのもありだと思います。また血清アルブミン濃度が2.0g/dL前後の著明な低アルブミン血症などで、フロセミドの利きにくい浮腫(医師はよく「硬い浮腫」と言います)に対してアルブミンを併用すると著効します。

血中のアルブミンは血管外にしみ出た水分を血管内に引き戻す働きがありますが、これはアルブミンによる膠質浸透圧の作用によるものです(図2.3)。アルブミン製剤と一緒に投与すると間質液に貯留した水分を膠質浸透圧の力(スターリングの法則)で血管内に引き戻し、循環血漿量を増加させてめざましい利尿効果を上げることができます。しかしこれは一時的な効果なので、高価なアルブミン製剤を大量に使うことは問題があり、尿中アルブミン排泄増加に伴う腎機能悪化も考えられるため、アルブミン製剤の過度の使用は慎まなければならないとされています。

フロセミドは腎臓の濾過装置の糸球体によって濾過された後(後述しますが蛋白結合率が高いため遊離型濃度は低いです)、あるいは近位尿細管のOAT2を介する尿細管分泌によって、蛋白結合していない遊離型のフロセミドが尿細管のヘンレの係蹄に働いて利尿効果を現わします。しかしネフローゼ症候群が悪化した時にはアルブミンも同時に濾過装置である糸球体から漏れやすくなるため、尿細管内から漏れ出たアルブミンがフロセミドと結合して利尿作用を減弱してしまうという説がありますが(フロセミドの蛋白結合率は91~99%と高いため)、蛋白競合する薬物を併用しても利尿作用が強力にならなかったということで否定する論文もあります1)。平田は蛋白競合による相互作用はないと考えていますので(総濃度は低下しても遊離型濃度は変化しない)、尿中に漏出したアルブミンとフロセミドが結合して受容体に結合しにくくなり、利尿作用が低下する説は「あり」だと思っています。いずれにしても高価でヒトの血漿由来の高価なアルブミンを尿中に捨てるのはもったいですし、効果も減弱する可能性があるためネフローゼ症候群の時にはアルブミンを併用しません。

【ポイント】
ネフローゼの悪化によりアルブミンは糸球体基底膜を通過しやすくなり尿細管腔内濃度が上昇する。フロセミド(ラシックス®)の受容体は尿細管のヘンレ係蹄上行脚の管腔側にあるため、尿中に漏出したアルブミンとフロセミドが結合して受容体に結合しにくくなりラシックス®が効きにくくなるかもしれない。

1)Agarwal R, et al: J Am Soc Nephrol 2000; 11: 1100-1105


望星北浦和薬局・鈴木寛美先生
チャットでの質問

Q.「SGLT2阻害薬の、慢性腎臓病に対する投与量について、保険調剤の捉え方に関してご教示ください。
自身の勤務薬局が受ける腎臓内科処方せんにて、SGLT2阻害薬は、副作用回避のため、適応より少ない量(糖尿病に対する小さい規格の投与量)にて開始されることが多く、ほとんどのケースではそのままの量で継続されております。処方せんに検査値の掲載はまだなく、効果の判定はどのように行えばよいのか、投与量の増量は不要なのか疑問です。薬局薬剤師として、どのような関与が必要であるか、ぜひ教えていただければ幸いです。」

A.SGLT2阻害薬は初の大規模無作為化試験EMPA-REG OUTCOME試験で用いられたエンパグリフロジンの用量は10mgと25mgの2用量がプラセボ群と比較されましたが、10mgと25mgで全く差がないため、「腎保護作用・心保護作用については用量依存性はない」とされており、これは他のSGLT2阻害薬でも同じと思われています(ただしSGLT2阻害薬の尿中ブドウ糖排泄、血糖降下作用、尿酸低下作用は用量依存的です)。だから個人的には増量は不要ではないかと思っていますが、ダパグリフロジンの用量は5mgと10mgがありますが、10mgを用いて腎保護作用を見たDAPA-CKD試験や10mgを用いて心保護作用を見たDAPA-HF試験によって定められた保険用量は当然10mgのみになります。ですから糖尿病に用いていて用量が少ないと判断して、増量することは可能ですが、非糖尿病の心不全やCKDに対して用いる場合には定められた用量を変えることはできません。慢性心不全にエンパグリフロジンを用いた大規模試験EMPEROR-Reduced試験ではエンパグリフロジン10mgが用いられたため、10mgしか使えず、25mgに増量することはできません。これが慢性心不全で少量から漸増して最大用量を用いるβ遮断薬やRAS阻害薬とSGLT2阻害薬の異なるところです。

効果の判定はCKDではアルブミン尿やGFRの傾きの変化、心不全ではBNPの値の変化、自覚症状の変化など様々です。薬局薬剤師としてのSGLT2阻害薬に対する取り組みは非常に重要です。8つの大規模無作為化試験のメタアナリシスではSGLT2阻害薬の投与によって有意に増加した副作用は糖尿病性ケトアシドーシス(発症率0.22%)、性器感染症(3.8%)、脱水(4.5%)の3つのみです。性器真菌感染症は特に活動度の低い患者で多く、温水洗浄便座を用いる、尿量を気にして飲水を制限しすぎず、適切な飲水によって自浄作用を促すなど陰部を清潔に保っていただく指導が重要です。脱水をきたさないようこまめな水分摂取を促す服薬指導、そして稀ではありますが、重篤な糖尿病性ケトアシドーシスがありますので、糖尿病患者さんには厳格な糖質制限やカロリー制限はしないよう、ここでも「こまめな水分摂取」を指導することが重要になります。それと尿糖の排泄を促進して、痩せる薬ですから、サルコペニアやフレイル患者さんには投与すべきではないことも知っておきましょう。

 


薬師山病院 渡部孝太郎先生

Q1.薬剤の排泄過程で、脂溶性・水溶性の懸念があると思いますが、どの程度の分配係数であれば脂溶性薬剤または水溶性薬剤と評価してよいか、ご教示いただけますか。

A.医薬品のインタビューフォームを見ていただければわかると思いますが、分配係数は各社、各医薬品によって測定方法が異なります。多くはn-オクタノール/水分配係数 pH7.4に統一していただきたいのですが、様々な理由によりクロロホルムを使ったり、pH7.0を使ったり、統一性がありません。

平田自身ではn-オクタノール/水分配係数 pH7.4で比較すると10以上(Log>1)であれば肝代謝薬物(プロプラノロール、リドカイン、メチルプレドニゾロンなど)、0.1未満(LogP<-1)であれば腎排泄薬物(アシクロビル、テイコプラニン、エナラプリル)のような脂溶性と水溶性の分岐点のようなイメージを持っていますが、これはきれいに分かりやすい薬物を例示したまでで、実際にはこのようにきれいに分類できるものではありません。だから分配係数だけで正確に脂溶性薬剤または水溶性薬剤と評価することはむつかしいですが、薬物動態の考え方の補助因子として使える可能性はあります。薬物動態パラメータの中でもVdは臨床的には投与設計に使いやすいほうですが、CLは健常者であっても遺伝的な個人差が大きいため、使いにくいですよね。

Q2.加齢に伴い腎機能は低下していくかと考えますが、加齢に伴う正常な腎機能の低下もCKDのような病態と捉えても構わないもの良いのでしょうか。

A.加齢に伴い腎機能は低下します。つまり腎炎や糖尿病などの腎疾患がなくても高齢者は進行性に腎機能は低下します。1つの理由として加齢とともに心機能が低下することです。心機能が低下すると腎血流量も低下しますので、心臓と腎臓はつながっている。これを心腎連関と言います。そのほかにも加齢とともに柔らかかった血管が徐々に動脈硬化気味になります。その顕著な例が腎硬化症ですが、血圧が高い、塩分摂取量が多い、タバコを吸っているなどの様々な影響により、腎機能の悪化は促進します。

加齢とともに末梢の細動脈圧は上昇し、動脈硬化が進行し細動脈の内腔はリモデリングによって狭窄して腎血流量が低下して、糸球体での濾過能力が低下しますが、このリモデリングに関わっているのがレニンアンジオテンシン系(RAS)のアンジオテンシンⅡやアルドステロンです。腎血流量が低下しているのに、糸球体濾過量がある程度保たれているのはネフロン数は減少しているのに、RASの亢進によって正常に機能している数少ない糸球体に負荷がかかっているためと考えられます()。だから若年者で腎炎や糖尿病性腎症でCKDになった人と同じように、高齢者もネフロン数は減少し続けます。つまり、加齢に伴う正常な腎機能の低下も広い意味では、CKDのような進行性の病態と捉えても構わないと思います。


九州労災病院 重見貴子先生

Q.危険性は充分承知しておりますが終末期のNSAIDS使用は、やむを得ず、利益も大きいと考えます。もちろん臓器障害によるあらたな苦痛を生む可能性もありますが、実際ご逝去される最後の時間まで腎不全にいたることなくオピオイドとともに力になることが多いようにおもっています。
モルヒネに限ってはCCr30(実測値ではございません)のCKDであっても注射製剤は活性代謝物蓄積はあっても量に注視すればかえって苦痛なく使用できる場面もございます。
リリカやミダゾラムなどと異なり、活性代謝物の主作用が強度でない場合・許容できる場合は問題ないのであれば、躊躇なく提案してもよろしいものか、それとも筋肉量の低下で数値異常のCKDは進行しているととらえて一切使用すべきでないのか尿細管障害がでていない腎障害に関しまして、今後のご講義の中でご教授賜れればと存じます。

A.僕が薬剤師をやっていた2005年まではモルヒネしかがんの疼痛緩和に用いられる強オピオイドのラインナップはそろっていませんでした。そして透析患者さんに使っていましたし、そんなに使いにくいとも思っておりませんでした。でも今はせん妄を起こしにくい強オピオイドのフェンタニルやオキシコドンが使えるようになったので、腎機能低下患者にはあえてモルヒネを使わなくてもいいのではと思っています。

NSAIDsはアセトアミノフェンと異なり、抗炎症作用があります。だから痛風のような急性疼痛については間違いなくNSAIDsを使用すべきでしょう。しかし後期高齢者で膝や腰が慢性的に痛む方やがん患者さんにずっとロキソプロフェン3錠×30日分の漫然処方はいかがなものでしょうか?僕は腎臓が専門なので、腎障害の話をしていますが、実臨床で最も悩ましいのは胃障害と消化管出血だと思っています。後期高齢者は胃も弱っていますし、痩せて体格も小さくなっている方もいます。NSAIDsを漫然投与して、消化管出血による突然死を経験したことはないですか?空腹時に服用して、胃痛のため、のたうち回って苦しんで入院する方を見たことはありませんか?微小変化型ネフローゼの小児がステロイド投与によって、前日まで何の消化器症状もなかったのに、大量輸血が間に合わないくらいの吐血をしながら死亡した症例も複数経験しました。がん患者さんや高齢で栄養状態不良の透析患者さんに「空腹時には飲んではいけません。必ず何か食べてから」というNSAIDsの服薬指導は通用しにくいと思います。またCYP2C9基質薬物が薬剤師の目の届かないところで併用されることもあり得ますが、イブプロフェン、インドメタシン、メフェナム酸、ピロキシカム、テノキシカム、セレコキシブもCYP2C9を阻害して起こる消化管出血の報告もありますが、ロキソプロフェンについてはCYP2C9基質かどうかすら分かっていません。

僕は主治医と相談してNSAIDs経口薬の処方に対して、直接の胃障害を防ぐためにNSAIDsの座薬に変更していただいたことも多くありました。ただしこれも漫然投与すると、前述のステロイドと同じようにある日、突然、症状もなく消化管出血を起こすんじゃないかしらと心配しつつ投与することを考えると、まだトラマドールやアセトアミノフェンの方が使いやすいと思っています。そしてもう少し使用経験が増えれば、胃には優しく出血を助長せず、心血管病変や腎障害の少ないセレコキシブの選択もありだと思います。

すみません。感傷的な答えになっているかもしれませんね。経験した症例というのははエビデンスレベルが低いものです。上記の情報に関してエビデンスレベルの高い報告については以下の論文をご覧ください。

Hiragi S, et al. Clin Epidemiol. 2018; 10: 265-276
Miki K, et al: I Orthop Sci 23: 483-487, 2018
Inoue G, et al: Spine Surg Relat Res5: 252-263, 2020


南相馬市立総合病院 中島鉄博先生

Q.腎臓の髄質の高い浸透圧を形成するNa、尿素の蓄積の機序についてご教授下さい。宜しくお願い致します。

A.おっしゃる通り、尿の濃縮は髄質で行われますが、機序はヘンレループの下行脚での水の再吸収によって濃縮されます。腎臓のはなし – 130グラムの臓器の大きな役割(中公新書)の著者の坂井建雄先生は言及されていませんが、その駆動力にはアクアポリンが関わっているという説があります。水だけが再吸収されればヘンレ係蹄の最下部の髄質ではNa、尿素が濃縮されて高くなります。尿素は細胞膜を自由に行き来できるため、有効浸透圧物質にはなりませんが、髄質の管腔外の尿素濃度はもともと高く、尿素は下降脚で尿細管腔内に分泌されるため、Na、尿素濃度ともに高くなることによって髄質内の高浸透圧を保つことができます。しかも髄質はヘンレループだけではなく集合管や細動脈などの周囲の浸透圧も高いのです。これは対向流増幅系モデルと言われます()。細動脈ではNaは受動拡散によって上行血管から下行血管に、水は下行血管から上行血管に入ることによって髄質の深部に行くほど高い浸透圧を保っています。そしてヘンレループの上降脚(太い部)ではNa+/K+/2Cl共輸送体(ループ利尿薬が作用する共輸送体)がNaと水を再吸収するので浸透圧が低くなります。ADHが分泌されない、あるいは最終的に集合管にADHが作用しなければヒトは1200mOsm/Lの濃縮尿を出せます。この機序によって、不感蒸泄(呼気や汗)によって失われる水(1日約1000mL)に対する対応ができるのです。ただし血漿の約4 倍の1,200mOsm/Lの濃縮尿を出せるのがヒトの限界です。だからヒトは水があって体脂肪が20%あれば2か月程度は、何も食料がなくても生きられますが、水がなければ炎天下では1~4日で死亡すると思います。砂漠に住む哺乳類であれば5,000mOsm/Lの濃縮尿を排泄できますので、水がなくてももっと長期間生きることができますし、海中に棲息するイルカやアザラシなどの哺乳類は腎葉の数を増やすことによって海水よりも濃い塩水の排泄能力を高めています。でもより高い濃縮尿を排泄できるということは、砂漠由来の猫と同じように腎後性腎障害になりやすく寿命も短くなること意味すると思います。ヒトでも髄質深くまで達する長ループネフロンのヘンレループでは1,200mOsm/L以上に濃縮できるかもしれませんが(平田のopinion)、長ループネフロンの方が障害を受けやすいといわれています。

そしてヒトが稀釈尿を排泄することができるのはヘンレループの上行脚がNa+を再吸収することによりますが、ここでは水や尿素は非透過性であるため、髄質の浸透圧は高いまま。そしてさらに遠位尿細管でも能動輸送によってNa+が再吸収され水に対して不透過性であるため、尿の稀釈が起こって浸透圧が非常に低くなりますが、ゼロではなく50~100mOsm/の中途半端な低張尿にするのは、尿素という老廃物でヒトにとって全く不要なものなので、尿素を排泄するためだと勝手に思っています(平田のopinion)。まとめますと髄質の高い浸透圧を作っているのはヘンレループの上行脚と下行脚の物質透過性の違いによる対向流増幅系モデルによると考えられます。


平成横浜病院 廣瀬 里美子先生

Q.腎機能が悪くなると、尿酸値が上がってきますが、尿酸値を下げる薬は飲んだほうが良いのでしょうか? 低腎機能だと処方しにくい薬も多いのですがそれなりの補正は必要なのでしょうか。補正する医師と、無視する医師、混在する私の病院では意見が分かれています。先生のご意見もうかがいたくよろしくお願いいたします。 

A.平田はアロプリノールによる中毒性表皮壊死融解症(TEN)による死亡者を経験しています。その時、僕の病院でも死亡に携わった医師のように補正しない派と尿酸値10以上ではさすがに放っておけないという派に分かれました。僕は前者で、痛風腎以外では放っておいていいと思っています。ある地方都市で透析クリニックの院長ばかり20名が集まって講師をしたことがあり、この話題になって、「アロプリノールによる死亡者を経験したことがある人はいますか?」と聞くと、なんと半数の10名がアロプリノールによるTENによる死亡者を経験しており、そのうち3名は「全くアロプリノールを投与していない」と言っており、透析患者では13mg/dLまで上昇するがそれ以上は上がらず、何も起こらないということでした。これも個人的な経験談で申し訳ありません。

アロプリノールは台湾ではHLA-B*5801というHLAの遺伝子検査をしないと投与できないという話もありますし、アロプリノールの活性代謝物のオキシプリノールが腎不全患者で蓄積しやすいことが問題になっており、Hung ら 1)も腎不全患者 ではこの過敏症が 4.7 倍起こりやすいこともあわせて報告しています。TENは3型アレルギーという説もありますがラモトリギンでも過量投与によるTENの報告が多いことから、やはり腎機能に応じたアロプリノールの減量は必要と思いますが、高度腎障害で1日1回50mgの用量では実際には尿酸値をコントロールできないことが多いです。

透析患者ではフェブキソスタット、CKDではそれに加えてドチラヌドという選択肢が出てきましたので、TENを防ぐにはこれらを使えると思います。ベンズブロマロンはよく効きますが、肝障害がきつくて海外では製造中止になっている国が多いです。フェブキソスタットはアロプリノールに比し、心血管死の発症が多かったという報告も併せて薬剤の選択を考慮していただければと思います。

1)Hung SI, et al: Proc Natl Acad Sci U S A. 102: 4134-4139, 2005

 

第 11回 基礎から学ぶ薬剤師塾 Q&A
腎臓が何をやっているか ~糸球体編 ようこそこの複雑で精密な世界へ ~

 

Q.貴重なお話ありがとうございます。チャットで記入していましたら間に合いませんでした。基礎的で申し訳ないのですが腎機能低下は両方で同じように起こるのでしょうか?片方摘出する場合摘出後は、腎機能は改善するのでしょうか?

A.透析導入の3大疾患である糖尿病、腎炎、腎硬化症は両方同じように腎機能低下が起こります。片方だけ悪くなるのは腎がん、腎結核くらいでしょうか。


Q.NSAIDは避けてカロナールを推奨されてたのですが、実際には痛みを訴える患者さんが多くてロキソニンやボルタレンも使われていて、効かないからもっと多くほしいと希望されることもあります。(カロナールも効かないと訴えあり)許容範囲を決める時にどの視点から考えれば良いか教えてください。また、トラムセットも併用で出されたりしていますが、カロナール以外の痛み止めのおすすめがあれば教えてください。

A.若い方へのNSAIDsはあまり気にしなくてもよいでしょうが、問題は高齢者(と小児)です。もともとRAS阻害薬や利尿薬が投与されている高齢者には非常に危ない。しかも胃障害もきついし出血しやすいし血圧は上がり心血管疾患に罹患しやすくなる。NSAIDsは抗炎症作用があるので、痛風などの炎症を伴う急性疼痛には第一選択ですが、漫然と投与する高齢者の膝、腰の痛みは急性ではありません。アセトアミノフェンを投与してもらいたいものです。また1回500mgくらいで「効かない」と判断しないでほしいです。1回750mg×3回、頓服で1日1回程度なら1000mgくらい使ってから効かないと判断してもらいたいです。透析患者の半数近くがPPIを必要とし、NSAIDsでは胃痛、消化管出血が怖いので、直接の胃刺激の少ないボルタレンサポやインダシン座薬を勧めたこともあります。RAS阻害薬や利尿薬が投与されている高齢者で痛みがきつければ、トラマドールの方がよほど安全だと思っています。


Q.貴重なご講演をありがとうございました。腎障害の患者、透析を行なっている患者の方への手術後の疼痛管理ですが、アセトアミノフェンが効かない患者へはどういった薬剤がいいでしょうか?ご教示をよろしくお願いします。

A.透析患者ではこれ以上腎機能が悪くならないので「腎障害が悪化するため禁忌」という考え方は間違っています。ただし透析患者さんは胃が弱い方が多く、胃障害が怖いので、僕は医師にボルタレンサポやインダシン座薬を勧めていました。今はトラマドールも使えます。

腎障害の患者さんに対しては前問の回答をご覧ください。


Q.毎回わかりやすく丁寧な塾を開講いただきありがとうございます。SGLT2阻害薬について質問させてください。SGLT2阻害薬間で腎保護作用の違いはあるのでしょうか?SGLT2の選択性が高いダパグリフロジンで効果が認められていますが、SGLT2にそれほど選択性のない(SGLT1にも作用する)カナグリフロジンでも腎保護作用が認められたとの報告もあり、今後のSGLT2阻害薬の使い分けが気になります。何かお考えがあれば、ご教示ください。

A.SGLT2阻害薬間で腎保護作用の違いを調べた報告はないと思います。そして腎に関してはダパグリフロジンとカナグリフロジンしか主要評価項目を腎にしていないと思います。それに加えてエンパグリフロジンでもサブ解析で腎保護作用が認められていますし、ほぼクラスイフェクトと言ってよいと思っています。ほかにもSGLT2阻害薬もありますが、大規模試験をやるだけの体力・財力がないだけかもしれませんね。

カナグリフロジンの次に選択性が低いのはダパグリフロジンのはずです。SGLT2選択選択性の低いものであれば腸管上皮のブドウ糖の吸収に関与するSGLT1の活性も阻害するので血糖降下作用が腎機能に依存しないので、この2つが腎に関するトライアルをやったのではと勘繰る人もいます。報告によってはSGLT1は小腸、心、肝、肺にも存在するためSGLT2選択性は副作用に関与(特に小腸に作用すれば下痢)すると総説には書かれています。


Q.ダイエット、筋トレ後の筋肉増強のため、プロテインをたくさん摂る人がいます。タンパク質多量摂取における、腎臓への負担について教えていただきたいです。

A.浅学の方が「プロテインの摂取は腎機能を悪化させる」と言うことがありますが、これは間違いです。熊大の時に健常な筋肉系スポーツ選手を対象に臨床試験をやろうとして、1つの目的は筋肉量が多い方なので、血清クレアチニン値が過大評価されないかということ、そしてもう1つは1年間のクレアチンサプリメント、プロテイン摂取で腎機能は悪化しないかということでした。実は後者の試験はクレアチンサプリメントの臨床報告が結構よくない報告が少なからずあったのでやめたのですが、プロテインの摂取で腎機能が悪くなったという報告は皆無に等しいくらいになかったです。

だから健常者のプロテイン摂取は大丈夫だと思いますが、腎不全患者であればたんぱく摂取は窒素老廃物だけでなく、腎機能を悪化させ心血管病変を悪化させる尿毒素(インドキシル硫酸、p-クレジル硫酸、TMAO)が蓄積します。炭水化物・脂質は水とCO2になるとてもクリーンなエネルギーですが、たんぱく質はBUN、クレアチニン、尿酸などの老廃物を作りますから腎の負担にもなります。だから腎機能が悪化すれば0.8g/kg、さらに悪化すれば0.6g/kgにたんぱく質摂取量を少なくしてもらいます。ただし、肉、魚、卵などは良質なたんぱくですから後期高齢者などで栄養状態が悪い方へのたんぱく制限は、サルコペニアになってしまい、免疫力低下から感染症による死亡も懸念されますので極端なたんぱく制限は避けた方がよいと思います。実は腎不全患者のたんぱく制限によって予後が改善したという報告はほとんどないのです。


Q.薬局の外来で腎機能が落ちてきた高齢者に「お水をこまめに飲みましょう」とよく言うことがありますが、「そんなに多く水を飲めない」と言われることがあります。脱水状態になるのも良くないと思いますが、実際どのくらいの飲水量を維持できれば急激な悪化なく腎機能を保つことができるでしょうか?

A.暑い夏以外は「お水をこまめに飲みましょう」という服薬指導は必要ありませんし、若年者にも不要だと思っています(のどが渇けば水を飲んでくれますので)。ただし利尿作用の強い(特に投与初期の利尿作用が強い)SGLT2阻害薬が高齢者に投与された場合には夏以外では、起きた時、10時と3時にもお茶か水を程度でよいのではないかと思います。

夏に利尿薬、RAS阻害薬、NSAIDs、バラシクロビル、活性型ビタミンD、SGLT2阻害薬のいずれかの複数の組み合わせが高齢者に投与されれば、起きてすぐ、朝食時、10時、昼食時、3時、夕食時、ふろ上がりなどにグラス1杯の水を飲めばほぼペットボトル500mL×3本分になりますね。

ただし溢水のために利尿薬が処方されている患者さんに対して飲水の是非については主治医と相談をしてから指導をしましょう。


Q.心不全など何らかの原因で胸水がある患者さんの場合、利尿剤をフロセミド、サムスカなど数種類併用され続けられるのですが、体重が減少していっても胸水は減らず、腎機能が悪い高齢者だとBUN、SCrがどんどん上昇します。しかし、Dr.は利尿剤を減らしてくれませんし、補液投与もしてくれない事があります。高齢者だと水分補給もなかなか進みませんし、そうしているうちに腎機能もさらに悪化してしまいます。薬剤師として何かできることはあるのでしょうか?また、尿酸値も上昇するのですが、Dr.は10を超えるようならフェブリクを検討されています。そんなに上昇するまで放っておいていいのでしょうか?

A.溢水で呼吸困難になるためにフロセミド、サムスカが投与されているのであるのに、飲水すれば、より呼吸困難が悪化しますので飲水指導を勝手にやってはいけませんが、BUN、SCrがどんどん上昇するのは脱水による腎機能低下の可能性が極めて高いです。直ちに医師と相談して、脱水を防ぐための「約束事」を作ってみませんか?フロセミド、サムスカが投与されていて体重が1.0kg以上減少した時、血圧が10mmHg以上低下した時には脱水の可能性があるので、〇mLの飲水指導をする、体重が2.0kg以上減少した時、血圧が20mmHg以上低下した時には脱水の可能性があるので、飲水をして直ちに受診する、その他のシックデイ対策などを考えた方が患者様のためになると思います。


Q.退出前ににっこりしたモノクロの平田先生の写真を拝見しましたが、いつ頃のお写真ですか?いい笑顔で癒されて退出しました。

A.ありがとうございます。そんなに前じゃないですが、Facebookに参加した5年前の写真で、僕の誕生日に学生たちがケーキを買ってきてくれて祝った時に写真です。最近、眼鏡をかけなくなったのは遠視が進みすぎて近視が治ったためです。今は年老いて鏡を見るのが嫌になりました。


Q.仕事と家庭を両立させる秘訣は?

A.自慢させてください。とても性格が良く、ちょっとだけかわいい妻を持てたこと、自分が楽しいと思うことに一生懸命になったことが秘訣だと思います。


Q.最近、この講座の事を知りました。初回からの講座を視聴する方法はないのでしょうか?

A.これまでずっと新ネタをやってきましたが、あと数回で新ネタが尽きれば、今までの講演内容をアップデートして繰り返し講演しますので、ずっと聴き続いけていただければ幸いです。


Q.パワーポイント等のテキストが、頂ければ、幸いです。

A.一般の方々にはテキストを配布して、見ていただければ、理解力が高まっていいなと思いますが、そのままコピペして自分の講演で「平田の講演内容から引用」などと断らずに使う輩、ほぼ同じスライドを少しだけ変えて自分が作ったかのように総説論文で使う輩が結構いるのです。僕はスライド作りにかなりの労力とお金をかけています(図や写真を購入する費用など)。この盗用する方々は実力がある人ですが、引用元を明記したり、引用論文として記載していただくなどのルールを守らずに盗用されるのはやはりいい気がしません。ブログの図も無断引用されますし、こんなことが続けばブログも薬剤師塾もやってられないくらいに悔しいです。


 

講演依頼に関しましては平田のメールアドレスhirata@kumamoto-u.ac.jpまでお気軽にご連絡ください。
大学での非常勤講師も可能です。「実務実習で代表的な8疾患」のうち高血圧、糖尿病、心疾患、感染症の4疾患の薬物治療学+腎疾患、輸液、TDMなどについて国家試験対策も含めを教えることができます。

 

アスヤクLife研修会 Q&A(2022.2.28)

 

Q1.様々なことに興味を持って調べたり、勉強します。コロコロと変わっても良いものでしょうか。

A.次々と興味を持ったことを調べることはとてもいいことです。ぜひとも幅広い知識、多様性のある情報を身に着けてください。これをやっていない医療人との差は、すぐにつくと思いますので頑張って興味あることについて調べてみてください。

衝撃を受けるくらい興味を抱いたことについては深掘りしてみるのもいいですね。僕の場合は書籍を購入して読破し、さらに最新の情報をPubMed検索するなどして最新の情報を導き出します。このような習慣を身に着ければ、いずれあなたは○○市でトップの情報を身に着けた薬剤師→○○県でトップの→日本で有数の情報を身に着けた薬剤師になれることでしょう。


Q2.リリカのお話を聞きまして、普段、有害反応、と判断するのが難しいと感じてることを思い出しました。起こった事象が、その薬物が原因であると、何を根拠に判断すればいいのでしょうか。

A.副作用報告に関する論文を書くと、「有害事象と有害反応が区別できていない。有害反応の定義はどうやって定めたの?」って査読者に聞かれることがあります。「有害反応 有害事象 違い」でググってみてください。あるいはNaranjo scaleなどを知らべてみてください。副作用を①9以上で確実、②5-8点でほぼ副作用だろう、③1-4点で副作用の可能性あり、④0点で副作用とは疑わしいに分類できます。①②を副作用と定義したという論文が多いように思います。

この他にも「血清Ca濃度が10mg/dL以上とか、リン濃度が6mg/dL以上、クレアチニン濃度が1.2mg/dL以上になると」、とか、「血清クレアチニン値が0.3mg/dL上昇すれば急性腎障害」など診療ガイドラインなどを見ると、副作用と定義しやすくなると思います。


Q3.いつも薬剤師塾をわくわくしながら拝聴しております(ときめいています)。平田先生の影響を受けて英語の論文を少しでも読もうとしていますが、英単語を調べるのに時間がかかりなかなか進みません。おすすめの媒体はありますか?今は主にインターネットで単語を調べています。医療用英語の辞書の方が良いのでしょうか…

A.2000年ころまではリーダーズ英和辞典 が28万語だったのでこれを使っていましたが、ALCの出版している「英辞郎 第11版」は217万語が単語数で群を抜いて多いので(もちろん医療英語も満載です)、これをPCにインストールしていました。今はオンライン英会話もやっていますし、英語論文投稿時や個人輸入時のトラブル、海外旅行の旅程の予約などに英文Eメールを書くこともありますので、例文数が多い年額3,630円で英辞郎on the Web Proを使っています。

翻訳ソフトに関してはGoogle翻訳よりも韓国のPapago、Papagoよりも日本のDeepL翻訳のほうが医療系文献の翻訳能力では高いと思っていますので、試してみてください。どれも無料で使えます。DeepL翻訳は特におすすめです。


Q4.6年制の第1期生です。大学院に行き博士号を取りたいと思いながら、気づけば10年目の薬剤師になってしまいました。出身大学は遠方なので難しいです。何かきっかけが欲しいです。アドバイスお願いします!

A.学位が欲しいために博士号を取りたいのですか?博士号を持っていても得になることと言えば、大学の教員になりやすいことくらいではないでしょうか?これから薬剤師として生き残るには認定・専門薬剤師をとった方がよいのではないかと思います。僕は臨床の面白さに没頭した薬剤師なので、博士号は不要だと思っています。薬剤師として学会発表し、論文を書くようになると実力のある薬剤師になれるし、周りの方々も注目してくれます。つまり薬剤師としてのスキルを高めるために、自分のやった仕事を残すために、査読付き論文を書いてきました。「博士号」が目的ではなかったです。論文を書いていたら博士号がおまけについてきたようなものです。

博士号を取るために大学院に入学する方のほとんどは基礎研究しています。基礎研究が好きであれば近い大学に行けばいいでしょう。ただし働きながらだと、大学卒業して大学院に入った学生と比べて非常に不利ですから、留年することも覚悟が必要ですし、薬剤師をやめて研究を3~4年続けるつもりで大学院に入った方がよいように思います。


Q5.若手対象のお話のようで恥ずかしいのですが・・子育てが一段落して学会発表を試みて2年たちました。症例報告をしました。次回は研究レベルに挑戦したいと思っています。調剤薬局に勤務しています。調剤薬局の方々の研究発表はアンケート調査がほとんどです。違った視点での薬局薬剤師の研究で先生がご存じのもの、何かありましたら教えていただけるでしょうか

A.テーマになる候補のものは探せば、薬局薬剤師でもいっぱいありますが、あなたが何に興味があり何をやりたいかが一番重要です。興味のないことに人は一生懸命になれませんから。薬剤師のあなたであれば、学生と違うのですから、「このテーマをやりなさい」と言われるのを待つのではなく、自分が薬剤師として仕事をしていくうちに疑問に思ったことに関して、いっぱい文献を読んで、何が分かっていないか?何をやるべきか?を自分で見つけてください。アンケート以外でもできることはいっぱいありますが、何がやられていないかを知るには、いっぱい学会で情報を得て、いっぱい論文を読まないと分からないです。

論文をチェックできれば、いいテーマが見つかります。やられていることは知識として身に着け、やられていないことを研究テーマして解明すればいいのです。

結構身近なことでわかっていそうで分かっていないことは多いものです。薬剤師の論文はレベルが低くてもやられていないことが多いから、結構英語論文になりやすいのです。


Q6.基本的なことかもしれません。日本語論文と英語論文の違いとその理由を知りたいです。英語論文の方が審査が厳しいということでしょうか?

A.薬剤師も医師も実力のある研究者は、研究を開始した時点からすべて英語論文を目指しますが、英語論文にならないレベルの内容であれば、仕方なく日本語論文にしています。だから違いは「レベルが違う。英語論文の方が日本語論文よりもはるかにレベルが高い」のです。日本語論文の読者は1.2億人に過ぎないが英語論文だと78億人が見る可能性があるのだから当然と言えば当然です。さらに言えば、英語論文でも日本語雑誌や日本語学会誌に英語で書いたものの評価はあまり高くありません。査読付き英文専門誌に掲載されれば、PubMedにも載りますし、さらにimpact factorの高い英文誌に載れば、この著者はかなりの実力者と専門家が判断してくれます。

ただし非常にレベルの高い日本語総説もあります。これは広く日本人読者に読んでもらいたいために、専門家が英文総説になるのに、意図的に日本語で書くことがあります。たとえば日本腎臓学会誌などの専門分野の学会誌に載っている総説は非常にレベルが高く、読みごたえがあり、ありがたいと思っています。僕もよく知ってもらいたいことについては日腎薬誌に査読付き総説として投稿します。


Q7.調剤薬局で勤務している場合、病院と異なりカルテなどが見れないなどの特徴がありますが、その場合どのような調剤薬局で臨床研究をし、発表につなげていくことができると考えられますでしょうか。

A.カルテが見れると、患者さんの検査データだけではなく、看護師が聞き取りした家族背景、性格や病歴などの個人情報も見ることができます。毎日の血圧・脈拍の変動、食事摂取量も分かります。これらを繰り返し見れば、僕は病棟に行き初めて、2年もたてば検査データを見るだけで「病態が予測できる」ようになり「副作用はなにをマークすべきか」が分かるようになりました。これは単にカルテを見れるからではなく、病棟に行って医師やナースと症例についてディスカッションできることも関係していると思います。つまり臨床現場を見ることができるところが病院薬剤師の良さです。さらに病院を選ぶなら回診に連れて行ってくれる科、病院を選ぶとさらに実力アップします。

そのような経験から僕はその後、大学で教えることになるのですが、奨学金を返すのに、給与の高い薬局に就職しなければならない子や病院のハードワークに耐えれないような子は除き、学生たちには「2年間は病院薬剤師を経験した方がいい」と言っていました。今は薬局で働いている方も、あとからでもいいから病院で経験した方がいいでしょう。そうすれば調剤薬局ですぐに実力を発揮できる薬剤師になれるリーダー格になれると思っています。調剤薬局チェーン店の中には大学病院薬剤部で、調剤薬局の給与をもらいながら研修できるシステムのある所があります。実は僕の所属するI&H株式会社もこのようなシステムがあり、その研修を終えた薬剤師は「さすが」と言えるほどの薬剤師に成長していますが、このシステムがありながら、利用者が少ないらしいのです。なんで?

おっと、答えが随分とずれてしまいました。研究テーマはいろいろなものがあります。アンケートも気の利いたものであればアンケートは有用です。僕もCa拮抗薬全盛時に、RAS阻害薬が登場して、透析患者への使用頻度はCa拮抗薬が高かったのです。これは関西腎と薬剤研究会の仲間と組んで様々なデータを集めたのですが、使用頻度を調べました。患者数は2500人くらい。透析患者としてはすごいデータです。しかもβ遮断薬はその当時第1選択薬だったのに心不全目的以外で降圧薬としては全く使われていないことも分かりました。これを透析医学会誌に載せました。その後、医師はこれから透析患者に対してどの降圧薬を使いたいのだろうと疑問に思い、これをアンケートに取りました。当時、Ca拮抗薬は頻脈になるものばかりで、心臓を鞭打ってしまうので透析患者にどんどん投与するのはいかがなもんだろうと思ったからです。で、出た結果はARBを使いたい医師が最多だったのです。これで関西腎と薬剤研究会のスタッフは全員2報の原著論文の著者になれたのです。

DOACが出てきたときに透析患者にはワルファリンしか使えないことに事実上なっていましたが、ここで医師にアンケートをとると「ワルファリンが重篤な腎障害に禁忌」ということを80%以上の医師が知らなかったのです。

アセトアミノフェンの添付文書を見せると「これはNSAIDs」だと間違ってしまう医師も多いはずです。だってアセトアミノフェンの添付文書の内容は完璧に間違っていますから。こんな間違いだらけのクイズをやって医師、薬剤師の正答率を見てみると興味深い内容になると思いませんか?

臨床的な問題を見つけて、よーく論文をチェックすると何がやられていて、何がやられていない=今後の研究テーマになる ということが見えてきます。アンケートでもうまくやれば英語論文になっています。Q5の回答と同じになりますが、論文をチェックできれば、いいテーマが見つかります。やられていることは知識として身に着け、やられていないことを研究テーマして解明すればいいのです。

結構身近なことでわかっていそうで分かっていないことは多いものです。薬剤師の論文はレベルが低くてもやられていないことが多いから、結構英語論文になりやすいのです。

 

講演依頼に関しましては平田のメールアドレスhirata@kumamoto-u.ac.jpまでお気軽にご連絡ください。
大学での非常勤講師も可能です。「実務実習で代表的な8疾患」のうち高血圧、糖尿病、心疾患、感染症の4疾患の薬物治療学+腎疾患、輸液、TDMなどについて国家試験対策も含めを教えることができます。

 


先日、ある県の薬剤師会の講演会で以下のような質問がありました。

Q.ナラティブとイナーシャはどう使い分けたらいい?

 今まで医療者は患者様に寄り添う「ナラティブ・ベイスド・メディスン」というが重要と信じてきましたが、高血圧治療ガイドライン2019に「臨床イナーシャ」が高血圧で問題になっていると聞き驚きました。イナーシャとナラティブはどう使い分ければよいのでしょうか?(保険薬局薬剤師)

 「ナラティブ・ベイスド・メディスン(NBM: narrative based medicine)は患者さんが対話を通じて語る病気になった理由や経緯、病気についていまどのように考えているかなどの「物語(narrative)」から,医療者は病気の背景や人間関係を理解し、患者の抱えている問題に対して全人的(身体的、精神・心理的、社会的)にアプローチしていこうとする臨床手法です。NBMは患者さんとの対話と信頼関係を重視し、サイエンスとしての医学と人間同士の触れあいのギャップを埋めることが期待されています。「根拠に基づく医療(EBM:evidence based medicine)」という科学的な根拠も重要だけど、NBMによって傾聴も大事だと気付かせてくれました。

 それに対して臨床イナーシャ(clinical inertia)は高血圧治療ガイドライン2019に記載されて注目をされるようになりました(図1)。Clinical inertiaは直訳すると「臨床的な惰性」という意味で、治療目標が達成されていないにもかかわらず、治療が適切に強化されていないことです。患者さんの問題を認識していながら、それを解決する行動を起こすことができずに医療人の惰性によって患者の症状が悪化するのが問題になっています。これは高血圧だけでなく糖尿病や脂質異常症、高尿酸血症などの生活習慣病でも同じです。血圧・血糖・脂質が高くても、「これまでより頑張っているからいいや」ではなく医療者は達成すべき目標のために行動を起こす必要があることを自覚しなくてはなりません。だって蛋白尿があって至適血圧130/80mmHg(家庭血圧では125/75)未満が守れていないけど、150/100だったのが140/90によくなったから「頑張っていますね、その調子ですよ」と言っていながら、透析導入になっちゃったら患者さんが一番つらいわけですから。いくら心やさしい医療者であっても、全く患者さんのためになっていなかったら問題だと思うのです。

 これに対する僕は「難しいけど、うまく使い分けてください」とわけのわからない回答をしてしまいました。後で、よーく考えなおしてみると、ナラティブもイナーシャも

A.どちらも患者さんのことを思ってのことであり、使い分けるものではなく、むしろ共存させるべきもの

だと思ったのです。

 わが国の高血圧患者は4,300万人で降圧目標を達成できているのは1,200万人のみ。これによって脳卒中・心筋梗塞・心不全・腎不全による透析導入患者が増加していますので、高血圧を甘く見てはいけないのです!そしてわが国の糖尿病患者は1,000万人で23.4%が未治療、予備軍の4割が未治療。糖尿病や脂質異常症の分野でもイナーシャは問題視されています。

平田からのアドバイス

皆さんは、服薬指導するときに

「血圧を下げる薬です」+ひとこと言っていますでしょうか?

つまり

「血圧を下げる薬です」+「あなたの疾患の目標血圧は○○/○○mmHg未満です。家庭血圧はそれより5mmHg低いですね」と言っていますでしょうか?

「血圧を下げる薬です」+「最近の血圧はどれくらいですか?」をうかがっていますでしょうか?

DM患者に「最近のHbA1c値はどれくらいの値ですか?」を聞いていますでしょうか?

そして

 糖尿病の目標血圧を知っているでしょうか?診察室血圧で130/80未満でしたね。「この血圧より低い値を守っていれば長生きできますよ」と優しく指導してあげてください。

 蛋白尿のないCKD患者さんの目標血圧を知っているでしょうか?診察室血圧でやや高めの140/90mmHg未満でしたね。米国の高血圧の定義を140/90mmHg未満から130/80mmHg未満に変えるきっかけとなったSPRINT研究では標準血圧群(収縮期血圧140mmHg未満)に比し、厳格降圧群(収縮期血圧120mmHg未満)では心血管病変を29%も低下させたものの(図2左)、腎機能悪化は3.53倍も増えてしまったため(図2右)、蛋白尿のないCKDでは収縮期血圧120mmHg未満になると虚血による腎障害が心配ですよね。米国ではCKDは心血管病変のリスクとして大変恐れられていますが、日本ではCKDは心血管病変のリスクよりも透析導入リスクの方が強く表れます。血清クレアチニン値をモニタリングしつつ、「血圧が下がりすぎたり、しんどくなったら来院してくださいね」と優しく指導してあげてください。

 蛋白尿のあるCKDの第1選択薬、蛋白尿のある糖尿病の第1選択薬を知っているでしょうか?そのような方にARBあるいはACE阻害薬が投与されていれば「この降圧薬があなたにぴったりの血圧を下げる薬です。蛋白尿を少なくすることによって腎機能が悪化するのを防いでくれますよ」とやさしく指導してあげてください。おそらく今まで以上に忘れずにのんでいただけることでしょう。蛋白尿のない後期高齢者であれば、RAS阻害薬でもいいのですが、腎虚血を起こしにくいCa拮抗薬の方が安全かもしれません。

 基本的に医療人は患者さんに対して優しくあるべきですから「ナラティブ」の気持ちを忘れてはいけません。ただしイナーシャは厳しく指導しろと言っているわけではありません。平田はナラティブとイナーシャは使い分けるものではなく、むしろ共存させるべきものだと考えています。十分に傾聴したうえで、常に患者さんのことを思って、以上のような「一言」を付け加えていただきたいと思います。

 

 

第 10回 基礎から学ぶ薬剤師塾(2022年2月1日) アンケート結果

 今回の薬剤師塾では3名の方から質問をいただき、初めてディスカッションらしいことできました。ほかの参加者の皆さんも、単純にわかりにくいことを気軽に聞いていただければと思います。徐々に「薬剤師塾」らしいものができつつあると思いますので、次回が楽しみになりました。次回より内容はコンパクトにして、皆さんとより議論できるような薬剤師塾にしていきたいと思っております。

 アンケートでは「18時開始が早すぎる」という意見が多くみられました。次回は3月1日18時よりと日時を告知しておりますので、変更できませんが、4月からは土曜日の13時開始に変更させていただきたいと思います。4月だけ第3土曜日の4月16日の13時よりを予定しています。それ以外は毎月第2土曜日の13時からです(最後尾にこれまでの薬剤師塾の内容、これからの薬剤師塾の予定を入れています)。


第2回 薬剤師塾Q&A「透析患者の薬② ~応用編 合併症と薬物療法~」

Q. 近くの腎クリニックが、レグパラやオルケディアをやめて、ウパシタ静注に切り替えています。単純に儲かるからだそうです。内服剤と比べて、効果について優れた研究報告はございますでしょうか?

A. ごめんなさい、保険に関することはあまり知りません。効果についての明確な差は今のところ、ないように思います。


Q.ビタミンD製剤とCa受容体作動薬を併用する場合も多く見かけるのですが、CaとPに対して相反する機序をもつと思うのですがどういった場面で用いられるのでしょうか。また、アドヒアランスは問題ないとして、ビタミンD製剤及びCa受容体作動薬の内服または透析時の投与ではそれぞれメリットデメリット、もしくは使い分け等あるのでしょうか?

A. 活性型ビタミンDはCaもリンも上げますよね。だからPTHが下がったとしてもCaもリンも上がりすぎるので、Ca×リン積が上昇して異所性石灰化が危惧されて、なかなか使いづらかったのです。レグパラはPTHも下げてくれますが、Caもリンも下げてくれます。となるとCaとリンのコントロールはとても楽になりました(図左)。しかもこのころにはリン吸着薬もCaを含まないものや、強力なものまで多様化したので、医師、薬剤師が1人1人の透析患者の血清リン値、Ca値、PTHのレベルを把握して、薬物療法を変えればリン、Caの目標値を適正に保つことができて(図右)、骨折を防ぎ、異所性石灰化によるとんでもない高血圧、心臓の弁石灰化、その後のうっ血性心不全、そして悩ましい猛烈な皮膚掻痒症などから、透析患者さんを救うことができます。だから透析に携わっている薬剤師、透析患者さんのためにも頑張れ!

 おっと、熱くなりすぎて質問の内容と違った方向に行ってしまいました。ビタミンDは何もなければ最低用量は投与しておいた方が様々なベネフィットがあることは薬剤師塾でお伝えしましたが、PTHを下げるためにはロカルトロールカプセルを多めの量で週に1~2回投与するミニパルスにすることを考えてください。PTHがとても高いならオキサロール静注、ロカルトロール静注を使って強力なパルス療法をする必要があります。ただしCa、リンが上がってくればもちろんCa受容体作動薬が必要ですし、ビタミンDより使いやすいです。相互作用やむかつきを考えるとレグパラはやめておいた方がいいでしょう。レグパラさんには2008年以降ずっとお世話になりました。本当にお疲れさまでした。今後、オルケディア錠、パーサピブ静注、ウパシタ静注どれを使うかはまだ明快な答えを持ち合わせておりませんので、使いやすいものを選択してください。


Q.ビタミンD製剤(アルファロールとロカルトロール)の使い分けについて質問です。以前、あるDrからはロカルトロールはパルス的に使うと聞いたことがあるのですが、そのような使い方は一般的なのでしょうか?

A. パルス療法はステロイドでよく使われる(静注メチルプレドニゾロンが主役ですね)治療法ですが、「強力な薬理作用を期待するため大量投与したいが、大量投与すると副作用が怖いので、投与と休薬を繰り返す」方法です。半減期が短くtmaxも短いシャープな血中濃度上昇によって強力な薬理作用を持っていて(ということは静注製剤が都合よい)、なおかつ消失も早い薬(副作用が持続しない)がパルス療法に使いやすいです。活性型ビタミンDも大量に使うとPTH分泌を抑制し副甲状腺の腫大も防げますが、使い続けると高カルシウム血症が起こって血管などの石灰化のリスクが上昇します。だから通常はオキサロール静注かロカルトロール静注製剤がビタミンD パルス療法に使われますが、内服のロカルトロールを少し多めに週1~3回投与すると高カルシウムを避けて、なおかつPTHも上がりにくくできます。これもパルス療法と言っていいでしょうが、静注製剤ほどの強さはないので、僕たちは「ロカルトロールカプセルによるミニパルス療法」と呼んでいました。

 ではアルファロールはPTHを下げる作用が弱いので、存在価値はないかというと、そうではありません。活性型ビタミンD本来の作用である腸管からのCaとリンの吸収をよくしてくれる作用が長時間持続しますし、肝臓を通ってから活性化されるため、血中の活性型ビタミンD濃度の立ち上がりが遅いので、長期間にわたって作用が持続するし、急激なCa濃度変化が少ない、あるいは少々飲み忘れてもあまり大きな影響がないなどのメリットがあると思います。


Q.先生は仕事と家庭の両立をどうやってされているのでしょうか?

A. 僕は40歳から薬剤師という仕事に熱中できました。その時には下の子も小学校に入っていて、手がかからなくなってきたので、夜遅く帰っても妻から小言を言われることがなくなったのでラッキーでした。30歳代のころは早く家に帰って子供たちを風呂に入れて、絵本を読んで寝かせてあげることができましたし、土日には子供たちを外へ連れ出し、家族でキャンプにもよく行きました。今は子供たちは2人とも独立していますので、僕は好きなことをさせてもらっています。妻とは旅行にも外食にもよく行って楽しんでます。コロナが終息したらEDTA-ERAという欧州腎臓学会+透析医学会に毎年参加するなど、一緒に世界中を旅したいですね。


Q.ご講演ありがとうございます。クレメジンについてですが、当院では処方されることが減っています。使い方、注意点等ご教示をお願い致します。

A. クレメジンは、強力に腎機能を悪化させ心血管病変を引き起こす尿毒素インドキシル硫酸の前駆体のインドールを吸着して糞便中に排泄するメカニズムと言われていますが、インドールへの特異性が特に高いわけではないので、そのほかの尿毒素、今では主役になりつつあるTMAOの前駆体のTMAなども除去できるのではないかと思っていますので、期待したいところです。処方量が減りつつあるのは飲む量が多い、のみにくいというのが原因の1つですが、速崩錠は1日12錠に減りとても飲みやすいと患者さんから聞いております。ただし2015年に報告されたEPPIC試験で主要評価項目の複合エンドポイントでプラセボ群に有意差をつけられなかったのが処方減になっているかもしれないので残念です。ちなみにこの時に使われた実薬は速崩錠ではなくクレメジンカプセルでした(速崩錠のプラセボは作れない!)ので、1日30カプセルのまなくてはならない、しかも他剤と同時服用はできないので食後2時間以降に服用となると、アドヒアランス不良は絶対にあったでしょうから有意差をつけられなかった原因かもしれません。


Q.PPIとカルタンの併用についての話題が出ましたが、PPIを寝る前にできるなら、そうした方が良いのでしょうか?

A.PPIはプロトンポンプを不可逆的に阻害するため、血中濃度依存的な効果を示しません。PPIの多くは半減期1時間程度と短いのですが、朝飲んで、昼過ぎには「胃がむかむかする」という自覚症状が出てくることはありませんよね。だからカルタンを食直後に、PPIを寝る前にという時間差攻撃はほとんど功を奏さないのです。ではカルタンを食直後に、H2ブロッカーを寝る前にという時間差攻撃もH2ブロッカーの多くが3時間程度(ガスターで2~9時間)と長いので、ほぼ無駄です。完璧に胃内のpHを上げ続けたい場合にはPPIの注射薬を1日2回投与することもあります。


Q.透析患者における腸内細菌叢の正常化、leaky gut の予防のため酪酸が良い、ビオスリーが良いとのお話でしたが、透析患者さんに対して、ミヤBM、ビオスリー、ビオフェルミン、ラックビー、と様々な処方を散見します。何か使い分けがあるのでしょうか?患者さんと腸内細菌との相性もありますか?

A. 医師のほとんどがそれらの違いを意識していないのでうまく使い分けができていないように思います。整腸剤で意識するとすれば抗菌薬と併用する場合には「抗菌薬耐性」と称するビオフェルミンRやラックビーRなどを使わなくちゃ保険で査定を受けることくらいではないでしょうか?ぜひ薬剤師が使い方を教えていただきたいと思います。

 だけどこれらは「抗菌薬耐性」と称していても古いペニシリンやセフェムでは死滅しないのですが、抗菌力の強いキノロンやバンコマイシンで死滅するものが多いのです。唯一、死滅しないのは芽胞()を形成する酪酸菌である宮入菌Clostridium butyricumです。胃酸にも死にませんし、消毒薬にも耐性で抗菌薬と併用してもまったく死滅することなく「芽胞になって死んだふりをして」、投与30分後に小腸上部から小腸中部で発芽し、2時間後には小腸下部から大腸にかけて分裂増殖を開始します。他のプロバイオティクスは胃酸に弱く90%が胃酸で死滅しますが、その分泌液が餌となってプロバイオティクスを増やします(だから死菌でもまったく意味ないわけではありません)。これを成分としているものは、ミヤBMとビオスリーのみです。だから抗菌薬と併用する場合にはRのついた製剤よりもClostridium butyricum含有製剤が最も優れていると平田は確信しています。さらにClostridium butyricumClostridioides difficileによるいわゆるCD腸炎の予防にも適しているのではないかと思っています。CDは芽胞を形成し抗生物質耐性が高い偏性嫌気性菌腸内細菌ですから、院内感染が起これば消毒薬が全く効かないので物理的に手洗いで対処しないと病棟中に蔓延することがあります。平田も経験あり、この時ICTの主要メンバーだったのでナースに手洗いの徹底をお願いすることによって死亡者を出さずに済みました。2016年よりCDはClostridium属からClostridioides属に名称変更しましたが、Clostridium butyricumは今まで通りClostridium属だということも知っておいてください。

 Clostridium butyricumは主に酪酸を作るので酪酸菌ともいわれますよね。そういう意味からするとビオフェルミン、ラックビーは乳酸菌と言われていますが実は酢酸、乳酸、酪酸の順に産生量が多いので「酢酸菌」と言った方がいいかもしれません。

 これらは下痢気味の人も便秘気味の人も正常化するのがいわゆる「整腸剤」ですが、使い分けるとすると、あくまで平田の私的見解ですが、下痢気味の人には酪酸は腸のバリア機能を高め、抗炎症作用を有し結腸粘膜の栄養になってバクテリアルトランスロケーションを抑制するので、酪酸菌がよいでしょう。ビオフェルミン、ラックビーは分子量の小さいより短鎖の酢酸、乳酸、プロピオン酸を増やしてくれますので、これらの緩徐な浸透圧作用を期待して便秘の改善に貢献できそうだと思っています。抗菌薬と併用なら迷いなくミヤBMです。腸内細菌叢は多様性が重要と考えるなら、ビオスリーもいいでしょう。

 ただしこれらのプロバイオティクスは畑に種をまくようなもので、やせ細った土地では増えてくれませんので、野菜・果物などプレバイオティクスも摂取する必要がありますが、透析患者ではカリウム上昇のため十分摂取できないことを考えると、カリウムを含まない食物繊維サプリメントを併用するのがよいでしょう。


Q.Pが高い患者の場合、Caが低くてもPが高いから、という理由で活性型ビタミンD製剤の投与を見送っている例をしばしば見かけます。やはりPが高いとビタミンD製剤によるP上昇が生じるのは避けるべきなのでしょうか。ビタミンD製剤を開始してもよいP値の目安などあるのでしょうか。

A.平田は基本的には透析患者さんではビタミンDの腎での活性化が行われていないのですから、ビタミンDは様々な利点を考えると投与した方がいいと思っています()。リンが高くても現在、リン吸着薬が多様化してコントロールできない人は「薬剤師塾」で質問のあった特殊な症例を除き、ほとんどいないと思います。ですから、血清リン値はコントロール可能になりました。透析患者さんにはリンを含んでいても、肉や魚や卵など気にせずたくさん食べてもらってもいいし、少々の加工食品のリンも気にせず(極端ですが…)、好きなものを食べていただいて、上がったリンをリン吸着薬を適切にのんでいただき、血清リン値は6mg/dL以下に、できれば5mg/dL以下にコントロールできればよいと思っています。


Q.保存期CKDの方でワーファリン投与中の方ですが、ワーファリンがなかなか効きづらく、今現在7mg投与中です。本来重度の腎障害には禁忌とありますが、この患者さんの様に効きにくい事例もあるのでしょうか? 相互作用は確認済みで問題はないのです。

A.日本では1日5mgを超える人は珍しいですが、米国のAnticoagulation clinicでは普通に見かけました。米国ではビタミンKを含むマルチビタミンを飲んでもらってもいいからだと思っていました。ただし「ワルファリンは絶対飲み忘れちゃだめですよ」と指導します。2015年の報告ではアジア人ではビタミンKの作用部位のVKORC1の遺伝子多型が多い(90-95%)ので、凝固能がもともと低いため(図の青色のドット)、ワルファリンの投与量が少ない人が多いことを知りました。だからご指摘の1日7mg服用の患者さんは野生型のVKORC1の遺伝子を持っているアジア人の中では5~10%のヒトだと予想されます。全く不思議なことじゃないですね。


Q.腸内細菌叢が健常者と透析患者さんとではこんなに違うという話がありましたが、透析患者さんに好気性菌が多いのは腸内腐敗産物が多いからとおっしゃってましたが、腎機能不全の為尿毒素を尿中排泄しきれないからという理解でよろしかったでしょうか?

A.「腎機能不全のため尿毒素を尿中排泄しきれない」という考えもできると思いますが、平田は①高カリウム血症のため、プレバイオティクスが取れない、②心不全予防のため水分制限される、③透析患者の高齢化・糖尿病患者(神経障害により便秘も下痢もしやすい)増加による蠕動力・排便力の低下、④カリメートなど便秘する薬剤が投与されることが多い、⑤透析後の低カリウム血症によって腸管蠕動が弱くなる(イレウスのリスク)、⑥バイオアベイラビリティの低い無意味な経口抗菌薬の投与(図左)、⑦透析中の便意を我慢する、⑧刺激性下剤の多用などの様々な理由によって腸内細菌叢の異常をきたし、それによる短鎖脂肪酸を産生するいわゆる善玉菌の減少によって尿毒素産生菌が増加するという流れで理解しています(図右)。これらの尿毒素は基本的に腎排泄されるため、腎不全患者では蓄積し、心血管病変を悪化させ腎機能も悪化させるなどの弊害の原因になります。


Q.食事由来にトリプトファン、チロシン、カルニチン、コリンは腸内細菌叢によって変化して…という話とTMAOは腎排泄が多いという話がくっつかないです。でも、スライドの図は似ている話なのかなと思いながら聞いてしまったので、中途半端な理解になってしまいました。それらの関係性も教えていただけると嬉しいです。

A. トリプトファンは腸内細菌の持つ酵素によってインドールになり、チロシンは腸内細菌の持つ酵素によってp-クレゾールやフェノールになり、カルニチン、コリンは腸内細菌の持つ酵素によってトリメチルアミンになり、これらが肝臓に行って尿毒素になりますが、これらは腎臓から排泄ますので、腎機能低下により蓄積し、さらに腎機能を悪化させ、心血管合併症を増加させます()。


Q.便秘は細菌層の破綻→短鎖脂肪酸→全身炎症、尿毒素産生→腸粘膜の損傷、潰瘍性大腸炎→?←PPI投与、小児期の抗菌薬投与という円形の図のスライドがありましたが、?にあたる部分をもう一度教えていただけると嬉しいです。

A.肥満、アレルギー、自己免疫疾患、不安や鬱、自閉症などの心の病は腸の膜の透過性の向上によるリポ多糖の血中への移行とその後に起こる慢性炎症が原因とされており、腸粘膜の損傷が自己免疫疾患の増加に寄与しているといわれています。PPI投与は胃での殺菌が不完全になり、腸内への細菌の侵入を許容します。小児期の抗菌薬投与は腸内細菌叢を破綻させることによってアレルギー疾患や自己免疫疾患の増加につながっていると思われます。抗菌薬によって終戦直後まで死亡原因の1位、2位だった結核や肺炎などの感染症の治癒率が高くなったことは非常に喜ばしいことですが、一方でアレルギー疾患や自己免疫疾患の増加につながっているのです。またこれらの疾患の増加はジャンクフードの増加などによって、野菜などのプレバイオティクス、発酵食品などのプロバイオティクスの摂取減少も関与しているといわれています。興味のある方は当ブログの第12回:前編 共生生物としての腸内細菌の役割~腸内細菌叢とTregの話~、およびこの後編をご覧ください。


今までの薬剤師塾とこれからの薬剤師塾の予定

回数 講演タイトル 日時
01 薬剤師ってなに? 2021.04.24
02 高齢者薬物療法について考える triple whammy処方への対応 2021.06.01
03 腎機能をしっかり見れる薬剤師を目指そう 2021.07.06
04 CKD患者の腎機能を守るための薬剤師の役割 ポイントは蛋白尿と血圧 2021.08.10
05 腎機能低下時に減量が必要な薬 根拠は尿中排泄率だけじゃない 2021.09.07
06 NSAIDsの腎障害 アセトアミノフェンに腎障害はある? 2021.10.05
07 SGLT2阻害薬の腎機能低下抑制作用とAKI防止作用 2021.11.02
08 初めての学会発表から、博士号取得までの道 2021.12.07
09 透析患者の薬① 基礎編 病態と薬物療法 2022.01.04
10 透析患者の薬② 応用編 合併症と薬物療法 2022.02.01
11 腎臓が何をやっているか①糸球体編 ようこそこの複雑で精密な世界へ 2022.03.01
12 腎臓が何をやっているか②尿細管編 ようこそこの複雑で精密な世界へ 2022.04.16
13 腸腎連関 心血管病変・腎機能を悪化させる尿毒素は腸内細菌によって産生される 2022.05.14
14 透析を科学する CHDFの薬用量、透析後の補充用量ってわかります? 2022.06.11

 

講演依頼に関しましては平田のメールアドレスhirata@kumamoto-u.ac.jpまでお気軽にご連絡ください。大学での非常勤講師も可能です。「実務実習で代表的な8疾患」のうち高血圧、糖尿病、心疾患、感染症の4疾患+腎疾患、輸液について国家試験対策も含め薬物治療学を教えることができます。

 

 

プロフィール

平田純生
平田 純生
Hirata Sumio

趣味は嫁との旅行(都市よりも自然)、映画(泣けるドラマ)、マラソン 、サウナ、ギター
音楽鑑賞(ビートルズ、サイモンとガーファンクル、ジャンゴ・ラインハルト、風、かぐや姫、ナターシャセブン、沢田聖子)
プロ野球観戦(家族みんな広島カープ)。
それと腎臓と薬に夢中です(趣味だと思えば何も辛くなくなります)