10月18日に開催された群馬腎薬「CKD患者さんの療養指導~透析導入を減らすための薬剤師からの処方提案~」では質疑応答の時間が取れなかったために、ブログ上で質問に答えさせていただきます。


Q.急性腎不全患者で入院した患者の内服薬について。薬の用量の考え方が難しいです。3剤ほど減量の提案をしたのですが「元々の腎機能は正常な患者なので問題ありません」との回答でした。

A.急性腎不全というのは急性腎障害(AKI)の中でも重篤なものとして考えると、急性腎不全時によって腎機能が急激に低下して一時無尿になったとしても、血清クレアチニン(Cr)値はすぐに下がってくれないことがあるため、急性腎不全時発症直後の腎機能の評価はむつかしいです。通常は血清Cr値によるeGFRでは腎機能が過小評価されますので、腎排泄性薬物の過剰投与が危惧されます()。

 

 

 

 ただし脱水などによっておこる軽度の腎障害の場合、医師の判断では急性腎障害になったけれど回復しつつあるという判断をされたのかもしれません。たとえば、いつものCCrは50以上だったけど、今回だけ、明らかな脱水によるAKIで一時的にCCr<30になっただけなのに「メトホルミンは禁忌ですので中止してください」という疑義照会をしたら、医師から怒られたという話をよく聞きます。病態を十分、観察して検査値の動きを把握しておけばこのようなことは起こらないですね。

 例えばSGLT2阻害薬を投与されている患者の腎機能が今回だけ下がっても、副作用が起こるわけではなく「効きにくくなる可能性がある」だけですから、疑義照会は熟慮してやりましょう。CCr<30で禁忌の薬があった時、29になったという1回の検査値のみで疑義照会をする「デジタル薬剤師」にならないよう注意したいものです。


Q.血圧を下げすぎるとeGFRが下がるとのことですが、降圧薬の服用をしていない低血圧の体質のCKD患者さんは血圧を100/50くらいにあげた方がいいのでしょうか。

A.血圧を下げすぎると当たり前にeGFRが下がるのではなく、正確にはSPRINT studyで収縮期血圧を120mmmHg以下に下げた群でeGFRが低下した症例が有意に多かったということです。血圧を下げすぎるとみんなeGFRが下がるわけではありません。

 高血圧を放置すると腎硬化症によって高齢者になると腎機能が悪化することはふつうにあります。ただしこの状況を通り過ぎて、さらに高齢になると心機能が低下して血圧を上げることができなくなって腎血流が低下します。心腎連関といいますね。このような状態であれば動脈硬化は進行していて収縮期血圧は高いものの、拡張期血圧が低い、つまり脈圧が大きくなります。収縮期血圧が高いので、血圧を下げたいのですが、拡張期血圧が低すぎて降圧薬を使いにくくなります。

 低血圧は低血圧症状のある人に対しては治療が必要ですが、無症状の人であれば治療する必要はありません。駆出率の低い心不全になったために血圧が下がった(血圧を上げる力がなくなった)症例に、RAS阻害薬やβ遮断薬を投与すべきかとなると、非常に悩ましいと思います。循環器医のご判断にお任せするしかないと思います。


Q.アセトアミノフェン750〜1000mg/回を推奨というお話がありましたが、これは体重50kg程度として考えてよろしいでしょうか。

A.体重50kg以上として考えてください。80歳以上の高齢女性で35kgなんて症例では500mgでも十分だと思います。


Q.心不全治療でfantastic fourとして注目されているARNIですが、RAS阻害薬に比較して腎障害作用が少ないとの一部データもあるようです。平田先生の見解はいかがでしょうか。

A.ARNIに関しては今のところ心不全に対する報告のみで、そのサブ解析でARNIのCKD予防作用はSGLT2阻害薬単独よりも明らかになっています血清クレアチニンの0.3 mg/dLを超える増加(AKI)および/またはeGFRの25%以上の低下,ESRDの発症,または腎死の複合アウトカムではARNIはRAS阻害薬群に比し、有意に優れていました(RR 0.84; 95% CI 0.72-0.96, p = 0.01;)。

 

 

 

 しかし降圧作用がARNI>RAS阻害薬だし、ARNIはANPやBNPを産生させるため利尿作用も強いことから、AKIには要注意かもしれません。上記のデータはあくまで複合アウトカムですので。カリウムの上昇はRAS阻害薬よりもやや軽度みたいです。

引用文献: Xu Y,et al. Front Pharmacol 2021 Nov 19;12:604017.


Q.トリプルワーミーを見た瞬間に疑義紹介するべきですか?

A.弱った高齢者のトリプルワーミー処方に関しては疑義照会すべきです。ただし、ちゃんと理論武装して、資料を見せて、医師に納得してもらわないと、その後のトリプルワーミー処方の減少にはつながらないと思います。ぼくが保険薬局薬剤師だったら電話で疑義紹介した後、論文を持参して医師とディスカッションしに行きます。


Q.米国と日本のCVDリスクと透析導入の差については医療制度の違いなどが影響しているのでしょうか?

A.アジア人はインスリン分泌量が少ないので、太りにくい。そして米国での食事摂取量や摂取カロリー量ははとても多いので肥満患者が非常に多いです。米国では心筋梗塞・心不全による死亡ががんよりも高いのは肥満が最も心血管病変リスクになっているためと思っています。貧しい人ほど安価なファストフードを食べざるを得ないので貧困者の方が肥満になりやすく、貧しいがゆえに保険を持っていない事によって心血管病変を起こしても十分なケアができないこともその理由だと思います。米国の医療レベルは非常に高いものの、先進国の中で皆保険制度がない国は米国だけといわれていますので、米国人のCVDリスクが高いのはおっしゃる通り医療制度も関与していると思われます。


Q.エンパグリフロジン開始初期はeGFR低下前か低下後、どちらの値で腎機能評価を行うほうが良いのでしょうか?

A.SGLT2阻害薬の投与によって腎機能は少しだけ低下しますが(効きすぎると腎機能が悪くなりすぎて投与しにくい人もいますが・・・)、過大評価も過小評価もされていないのですから低下後、その時の腎機能をそのまま用いるべきだと思います。


Q.腎保護作用についてはナトリウム利尿との認識でしたが、スライドの中でATPの消費量が影響しているのでしょうか?

A.最近の研究でSGLT2阻害薬のNa利尿は初期だけで、持続しないと言われています。おそらく腎でのNaを調整する機構が関わってSGLT2阻害薬によるNa利尿を調整しているのだと思います。ただし尿細管上皮細胞内のNa過剰は確実に起きていますので、SGLT2阻害薬による近位尿細管上皮細胞内でのNaポンプを回すためのATPの消費量軽減は、弱った腎臓を休ませてくれる可能性は大いにあると思っています。


Q.トリプルワーミーの論文間でリスク比がだいぶ違うのですが、その理由はどのようなことでしょうか?

A.トリプルワーミーの論文間で使っているNSAIDs、利尿薬、RAS阻害薬がみんなばらばらだからオッズ比に差があるのは当然です。NSAIDsだけでもセレコキシブのように腎機能に影響が少なく、心血管病変を起こしにくいものもありますが、ピロキシカムやメロキシカムのように半減期の長いオキシカム系は一般的に腎障害も胃障害も強いです。利尿薬だってサイアザイド系とループ利尿薬では利尿作用ははるかにループ利尿薬で強いですから、差が出て当然でしょう。また対象患者が日本人のように高齢者がほとんど、しかも後期高齢者が多いとなるとオッズ比は高くなりますから、対象患者の年齢や人種が異なることによって結果が異なることも考えられます。

 SGLT2阻害薬のように併用によって急性腎障害が少なくなったという報告は前向きの大規模RCTのメタ解析によるものですから、リスク比・ハザード比がより均一なデータとして表れますが、トリプルワーミーの報告は薬剤師による後ろ向きの報告も多く、前向きの大規模RCTはほとんどないと思います。


Q.エンレストのバルサルタンの作用と抗利尿効果にNSAIDsを併用することはTriple Whammyとなるとお考えでしょうか。

A.エンレストもRAS阻害作用を持つので狭義のRAS阻害薬と考えていいと思います。それにNa利尿ペプチドの作用増強が加わりますので、降圧作用・利尿作用はRAS阻害薬より強く、カリウム上昇はRAS阻害薬よりも弱いです。となると脱水・降圧による腎機能悪化には気を付けるべきなので、Triple Whammyのリスクがあると今のところは考えています。ただしARNIはGFRを上げて腎保護作用を示すことからSGLT2阻害薬のようにAKIを予防する効果が出てくるかもしれませんが・・・・・。


Q.循環器疾患においてPCI後など低用量アスピリンを使用することが多く、RAS阻害薬が推奨されたりARNIが使用されるようになっております。その場合、心不全患者では既にダブルワーミーとなる場合が多くあると思います。やはりそういった患者様も腎障害リスクは高くなるのでしょうか?

A.心筋梗塞後で梗塞部位の大きければ心不全は必発です。心不全ではRAS阻害薬またはARNIの投与が必須になります。PCI後は低用量アスピリンを含めた2剤の抗血小板薬の併用は12か月は必要です。低用量アスピリンが腎機能を悪化させるかどうかは不明ですが、心不全の自覚症状が強くなれば利尿薬が必要になりますので、これらの薬物療法のそれぞれが腎障害リスクを上げる可能性があります。また心腎連関によって心不全自体が腎機能を悪化させます。

 

プロフィール

平田純生
平田 純生
Hirata Sumio

趣味は嫁との旅行(都市よりも自然)、映画(泣けるドラマ)、マラソン 、サウナ、ギター
音楽鑑賞(ビートルズ、サイモンとガーファンクル、ジャンゴ・ラインハルト、風、かぐや姫、ナターシャセブン、沢田聖子)
プロ野球観戦(家族みんな広島カープ)。
それと腎臓と薬に夢中です(趣味だと思えば何も辛くなくなります)

月別アーカイブ