第 20回 基礎から学ぶ薬剤師塾 Q&A
腎機能低下時に減量が必要な薬
~根拠は尿中排泄率だけじゃない~
前回の基礎から学ぶ薬剤師塾「腎機能低下時に減量が必要な薬~根拠は尿中排泄率だけじゃない~」はむつかしかったというアンケート結果が多かったです。おそらく前半はいつも話している腎排泄性薬物による副作用なので優しかったのでしょうが、非腎クリアランスの低下する薬は「このCYPが問題!このトランスポータが問題だ!」などと言い切ることができないため、まとめにくい内容です。それでもCYP2C9基質は腎不全・尿毒素の影響を受けやすいということがある程度、予測できるようになったことを中心にまとめさせていただきました。
バイオアベイラビリティが低下する薬物、半減期の延長する薬物も難しかったかも?
バイオアベイラビリティが低下する薬物=小腸における初回通過効果(CYP3A4)を受けにくいか、肝における初回使用効果を受けにくい薬物=投与量を増やしたのと同じ
半減期の延長する薬物=初回通過効果は受けなかったけど、全身循環血が肝臓を通るたびに消失の遅延が生じる薬物(肝でのCYP2C9による代謝を腎不全では受けにくいフェキソフェナジン、
肝臓に取り込むOATPが腎不全では機能しないため肝代謝が遅延するエリスロマイシン)
などを思い浮かべるとよいですね。Y軸が対数軸だと半減期の延長が明らかにわかりやすくなります。
講演後のアンケートでいただいた質問
ファーマライズ薬局株式会社 羽村知穂先生
Q1.内容としてとても面白かったのですが、やはり難しく感じました。薬物の中で腎排泄のものが肝代謝より少ないので腎を覚えてというのはとても参考になりました。ただ覚えることが多いのでまずは代表的な薬品の尿中排泄率を覚えていくのがいいのでしょうか?
ただ肝臓で代謝された活性代謝物も腎排泄として腎機能低下している方は蓄積により副作用の上昇を考えなければならないというところでまずは高齢で小柄の方、腎機能低下がある人は注意という着眼点でいくのがいいのでしょうか?
A.リスクの高い腎排泄性薬物を覚えてゆけばよいでしょう。日本腎臓病薬物療法学会(JSNP)では学会HPに「腎機能低下時に最も注意が必要な薬剤投与量一覧」を掲載していますが、これだけでも236薬品あります。じほうから発売されている腎機能別薬剤投与量 pocket book 第4版または学会HPで会員のみが閲覧可能な「腎機能別薬剤投与量一覧」では◎になっているものが最重要となりますが、これは「腎機能低下時に最も注意が必要な薬剤投与量一覧」に載っているものはすべて◎です。236薬品ってすごく多いですが、同一薬効でヨード造影剤やアミノグリコシド系抗菌薬など薬効を基準に見てみると意外と共通点があります。ポケットブックでは次に重要な薬物は〇、気を付けていただきたいものは△にしていますので、この順に重要と考えていただくとよいでしょう。腎排泄性ではなくても活性代謝物が蓄積しやすいハイリスク薬物のSU薬も◎にしていますが、グリクラジド(グリミクロン)は〇です。
そして副作用のターゲットになりやすいのは体格・腎機能が小さいのにそのどちらか、あるいは両方を考慮せずに投与してしまった場合が最も起こりやすいです。それが「小柄な後期高齢女性」です。講義でも説明したとおり、プレガバリンもバラシクロビルもシベンゾリンも小柄な後期高齢者で副作用が頻発していいますから。
Q2.グリーンブック並びにポケットブックは、2024年の9月までに入会すればもらえるとおっしゃっておりましたが、今年入会しても来年になるという認識でよろしいのでしょうか?
A.JSNPの会計年度が8月31日ですから、2022年8月31日までに入会していた方には4月頃にグリーンブック、9月頃にポケットブックが郵送されました。2023年の作成予定はありませんので、2024年の8月末までに会員になっていれば(必ずしも2023年8月末に会員でなくても)、グリーンブック(特別号改訂5版)並びに新規改訂版の腎機能別薬剤投与量 POCKET BOOK 第5版がもらえます。
I&H 運営管理課 那須裕之先生
Q.プレガバリンを腎機能の低下した患者に投与する際、添付文書の表記に従うと過量になるリスクがあることをご解説いただきました。ミロガバリンはいかがでしょうか?ミロガバリンについても添付文書に記載があります
A.申し訳ありません。医中誌およびPubMedで比較しようとしましたが、ミロガバリンは米国では発売されていないようで情報が不足しており、私自身も経験がありませんので、全くわかりません。
そのほかにも質問がありましたが、ご質問される場合には、所属と氏名のご記入をお願い致しておりますので、所属・氏名が不明な場合は、お答えできません。今回は講演後の質問はありませんでしたが、薬剤師塾の理想は氏名・所属を明らかにしたうえでのディスカッションを目指していますので、よろしくお願いいたします。
平田への講演依頼に関しましては平田のメールアドレス
hirata@kumamoto-u.ac.jp までお気軽にご連絡ください。