透析看護雑誌「透析ケア」などで有名なMCメディカ出版よりナース向けの「透析患者の薬剤ポケットブック改訂3版」が出版されました。第2版から約5年ぶりの改訂です。この5年間で新たに経口の腎性貧血治療薬が登場しましたし、高カリウム血症治療薬や、下剤も新たなものが続々と登場して、多様化しています。薬剤はすべて最新情報で、ページ数は増やさず薬剤を入れ替えてコンパクトにしました。薬の特徴を簡潔に写真つきで解説しており、その場でサッと調べられます。看護師、薬剤師はもちろん、透析患者にかかわるすべてのスタッフが、透析患者への正しい薬の使い方を学ぶことができます。熊本の仲間の先生方との共著ですが、透析に関わる最初の92ページは平田が書いています。ぜひ本書を参考にしていただき,透析患者さんに薬の正しい使い方を啓発・指導していただければ幸いです。
エクササイズ
熊本大学時代にはとても忙しくて土日もほとんど出勤していた。好きなことをやっていたので苦痛では感じなかったが、ジムに行く時間的余裕がなかった。2006年からの最初の2年半は単身赴任で大学から歩いて1分の宿舎に住んでおり、昼食は学生と1000kcal以上あるヘビーなランチを食べに行き、歩行距離も少なく、空腹時血糖値が105になって、体力の衰えを感じた。そのため宿舎を出て少し離れたマンションを借りて、できるだけ歩くように心がけ、
嫁が熊本に来てくれて食事内容も劇的に良くなった。60歳になってから無理やり時間をとってジム通いを始めた。金曜日の夜などは朝まで大学で夢中になって仕事していたので、明け方5時ころ24時間開いているAnytimeというジムに通ってトレッドミルで10~20km歩いたり走ったりしていた。僕は歩いているとき、運転をしているとき、ジムでエクササイズをしているときなど、いつもイヤホンをして英会話を聴いたり、教育系オーディオブックを聴いたりして自分を高めようと心掛けている。無駄な時間がとっても惜しいと思うからだ。そして毎年2月には熊本マラソンに出場するため、いつもは67kgある体重を63kgまで落として、第2回熊本マラソンから5回連続出場して完走できたが、マラソン後はすぐにリバウンドして67kgになっていた。これは2月のバレンタインデーのチョコレートによるリバウンドかもしれない。
神戸に来てからは規則正しい生活になって、ほぼ毎日ジムに行けるのと前述の16:8ダイエットで、体重を63kgに維持しているが、筋肉量を増やしたまま、体脂肪は20%未満になるよう保っている。それとライフスパンではよくないとされているプロテインはジムでは摂取している。そのためいつもBUNが高く、医師から「脱水じゃない?」と疑われるが、これはプロテイン摂取のせいだ。超健康体になった僕の場合は、後期高齢者になるまでは太らない
ようにしようと気を付けて、1か月に少なくとも30万歩は歩くようにしている。そして最近はやりの高強度インターバルトレーニング(HIIT)。これは僕にとっては最近聞いた言葉だけど、DMM英会話で先生たちに聞いてみると、フィリピンやヨーロッパ、アフリカ、中米など世界中の英会話の先生たちはすでに知っていた。ということは世界中で流行しているトレーニングで、前回のライフスパンでも高齢者ほどHIITが老化予防に効果的で運動するほどテロメアが長くなるらしい。HIITでの適正な心拍数は208-0.7×Ageで計算できる。ちなみに僕は66歳なので、208-0.7×Age=208-0.7×66=162/分になるように30~40秒運動+15~20秒の休息を数セットやっている。死にそうになるきついトレーニングなので、健康な若い人にしかおすすめはしない。
ジムとサウナ
これについては以前にブログで書いたけど、熊大を定年退職後に神戸に引っ越し、熊本で週1回は行っていた大好きなチムジルバンとサウナ付き大浴場のある「あがんなっせ」に行けないのはとても残念なのだが、六甲道に住んでよかったのは、近くにサウナやジャグジーなど完備の大浴場のついたジム「セントラルスポーツ」があることだ。ほぼ毎日、1時間のウォーキング・ランニングと10~30分の筋トレの後はサウナを楽しむ。サウナと冷水浴の繰り返しは「整う」という快感(この後、いいフレーズが頭の中にあふれるように出てきて論文がいくらでも書ける)を与えてくれるし、寒冷刺激は体に適度なストレスをかけることによって、エピゲノムが混乱しないため老化防止にもとてもいいのだ。
サプリ
ミヤBMは家族みんな、ビタミンD(活性型ではなくネイティブのもの)は熊本で透析患者の骨ミネラル代謝異常の専門家、田中元子先生に「飲んだ方がいいですよ」と言われて以来、夫婦でずっと飲んでいる。僕は結構、他人に影響されやすいのです。もしも活性型ビタミンを処方されている人がいたら、カルシウムの併用は高カルシウム血症から多尿から脱水になって腎機能が悪化しやすいので気をつけて!
以前にブログで「健康を保つためにやっていること 前編・後編」を書きましたが、前回の「ライフスパン」という名著の影響を受けて、今、僕がやっている健康法についてまとめました。
16:8ダイエット
僕も66歳の高齢者で、一般的に加齢に伴って筋肉量が減るために、ダイエットはしない方が良いといわれているが、僕は20年前から糖質制限食を続け、5年前からジム通いをはじめ、体組成計による体内年齢は常に50歳以下だ。
とても元気でウエイトトレーニングを定期的にやっているので、筋肉量は増加傾向のため、さらなる健康追及のために内臓脂肪は減らしたい。食事はずっと以前から炭水化物・脂肪をできるだけ摂らないで食物繊維の豊富な野菜がメインで鶏肉、魚、卵、乳製品などを加えた食事を心がけている。朝食は自家製ヨーグルトと果物、野菜ジュースがメインだったが、David A Sinclair教授の「ライフスパン 老いなき世界」を読んでから、朝食を抜いて遅い昼食をとる「16:8ダイエット」を実施、おかげで楽に減量でき体脂肪率が下がった。16:8ダイエットは、例えば20時に夕食を摂ると、朝食は抜いて16時間後の12時に昼食を食べ、8時間以内に夕食を摂る。最初は空腹を感じたが慣れるとなんでもなくなり、昼食をたっぷり摂ると夕食時に食欲がなくて何も食べないこともあり、かなり体重が減る。僕は甘いもの、和菓子やチョコレート、アイスクリームが大好物だが、これをたくさん食べると当然、太って、体脂肪が増えていたが「16:8ダイエット」実施後は太らなくなった。今は170cm、63kg、BMI 22で体表面積1.73m2の標準体型を保っている。
でもあまり我慢しすぎるのもよくないので、気晴らしに週に1度は外食で好物のとんかつ(熊本の勝烈亭は最高においしい)、カツカレーなどの肉類やうどん、ラーメン、餃子(神戸市灘区にはおいしい餃子屋が結構ある)など好きなものを食べる。本来、「16:8ダイエット」ダイエットや軽い飢餓状態は細胞内での異常なタンパク質の蓄積を防いだり、過剰にタンパク質合成したときや栄養環境が悪化したときにタンパク質のリサイクルを行ったり、細胞質内に侵入した病原微生物を排除したりすることで生体の恒常性を維持するためのシステムの「オートファジー」を活性化することに意味があるらしい。
僕はその後、英検準1級を取得したものの、 実は英字新聞も満足に読めないし英語の小説も読めない、映画やテレビドラマも字幕がなければ完全には理解できない。プロ野球のヒーローインタビューで元大リーガーたちの話す英語は80%分からない(関係ないけど嫁の故郷、鹿児島の高齢者同士の会話は95%分からない)。
ラミレス前横浜監督の英語はネイティブスピーカーじゃなかったのでほぼ100%分かったけど。だけど医学論文だけは辞書なし、もちろんgoogle翻訳なしで理解できるし、国際学会に行っても、スライドがあれば日本語と全く変わらず理解できるようになったし、英語で質問もディスカッションもできるようになった。普通の英米人と話していても医学英語に関しては僕の方がはるかによく知っていた。これは半年のオレゴン州立大学での生活で伸びたのではない、まさに23歳の時にやった毎日、論文を訳してきた経験によるのだ。
今回、伝えたいことは、どうやったら英語が上達するのかではなく、どうやったら、自分に自信を持てるかという1例を若い人たちに知ってもらいたかった。そして、なにかを極めるためには努力じゃない。だって努力はつらいもの。つらいことは続けられないし、無理したら心を病んじゃう。ドキドキワクワクしながら夢中になってやることは自分を信じられないくらいに変えてくれる。でもちょっとだけ好きになる努力は必要だ。だから患者さんを好きになれない人、薬に全く興味のわかない薬剤師は早く転職したほうがいいとも思っている。いつも僕がいつも言うように「オタク」は天才に勝てるのだ。まさに23歳の時、夢中になってやっていれば、頭が多少悪くても何かができるんだ、ということをつかんだターニングポイントだったと思う。今井眞一郎教授の講演を聞いてこの時のころのことを思い出した。
後日談
結局、「中分子量物質が尿毒素」というのは完全な眉唾だった。今は誰もこの研究に関わっていない。僕はこの学会発表をするまでに、元気な人ほど中分子量物質濃度が高いという気がしてならなかった。図はその当時、僕の作ったスライドだが、
ピークa~cあたりが中分子領域といわれていたが、Bёrgstromに言わせると、これが高くなると尿毒症性の心不全で死亡しやすいと言っていたが、僕の測定結果では元気な人ほど高かった。BёrgstromやManの言っていることと全く異なったデータしか得られなかった。中分子量物質の正体が何だったのかよくわからない。ひょっとしたら下条文武先生が発見したβ2ミクログロブリンだったのかもしれないが、元気な人ほど食べているから、低分子蛋白やペプチド(微量のホルモンではなく栄養素としてのペプチド)などの濃度が高かっただけではないかと僕は思っている。この研究は1回の学会発表で終わったけれど、終えて良かったと思っている。なおこのころから10数年後、MacのPCが医学界を席巻するまでのスライドはすべて手書きだ。
ロットリングペンと製図用テンプレートを使って描いていた。すべて英文なのは格好をつけているんじゃない。薬剤師の研究に病院がお金を出してくれないから、自分で一番安上がりのスライドを作らなくっちゃいけない。ドクターはラフデザインを描くだけで天満橋にあるスライド屋さんが作ってくれ、病院がその代金の数万円を立て替えてくれていたが、薬剤師の僕たちは和文発表なのに、すべて英語で書かれたスライドを使わざるを得なかった、昭和の時代のことである。
長寿遺伝子のトップ研究者のワシントン大学の今井眞一郎教授が母校の慶応大学で講演した時のこと。学生の「オリジナリティのある研究テーマやビジョンをどうやって探せばいいのですか」という質問に対し、「1日1報、原著論文(アブストラクトではだめ)を全文読んでください。まずは1か月続けてください。1か月するとその分野で何が起こっているかが分かってくる。2か月続けるとばらばらだった知識が結合してくる(知識をブラッシュアップできる)。それを続けて3か月、つまり90報読むと、ほぼ何がこの分野で分かっていて、ここが分かっていないこと、これから何をやるべきかが分かってくる。」と答えていらっしゃり、大いに納得した。
大阪薬科大学の4年間は、高校までまったく自信がなく、女子と話すなんてできないくらいシャイだった僕が、いろんな先輩や友人のおかげで、人間的に成長できた素晴らしい4年間だったと思っている。でも悪い先輩たちから薬理と薬品製造と衛生以外は出席しなくてもいいというのを信じ込み、授業には全くついてゆけず、ほぼ最低の成績だった。卒業して研究志向は高いが、当時30床くらいしかなかった小さな透析をやっている個人病院の白鷺病院に入職し、1年後に「尿毒素としての中分子量物質」のテーマに興味を持った。透析で小分子は抜けるが中分子量物質は抜けが悪い。だから中分子量物質が蓄積して尿毒症を悪化させるというものだった。
学生時代はダメ学生だったので、目指した薬理学教室には成績が悪くて入れえず、仕方なく僕がお世話になっていた若い先生のもとで合成をやっていた。ただし申し訳ないことに合成には全く興味なく、合成反応後のクロマトによる結晶の精製に手間取り、先生方や同僚に迷惑ばかりかけていた。卒業発表でも質問に立ち往生しボロボロになりかっこ悪かった。でもこの時にやっていたクロマトグラフィーの技術が役に立ったのだ。透析患者の尿毒症体液成分を用いてSephadex G15を用いたゲルクロマトグラフィーを用いて分析するのだが、卒業して初めてクロマトの原理について1から学んだ。そして分析に取り組み、初の学会発表の機会を得た。分子量物質仮説についてはスウェーデンのBёrgstrom、フランスのManらがそれらの学説をけん引していた。関連する文献は英語論文ばかりで20くらいしかなかったが、医師から鋭い質問が来るかもしれないので、卒業発表のトラウマがあったためとても怖くなった。
この20の文献をメーカーに頼んで取り寄せ、それを毎日1つずつ読もうとした。その当時、一番多くの専門語の載っていたリーダーズ英和辞典を1万円も出して買って、論文に書かれているほとんどの単語の意味が分からないから、論文が鉛筆で書いた日本語訳だらけになった。
夜12時になっても訳せなかったが、次の日の仕事があるので、2時か3時までには病院の寮に帰るしかなかった。でもこれは全く苦痛ではなかった。1~2本読んだ時点で僕は白鷺病院で一番、中分子量物質について知っているという喜びを感じることができたから。誰も知らないことを知るって、楽しいじゃない?5本読めば大阪で一番の物知りに、20本読めば知識の上では日本のトップに立てるのだ。誰とディベートしても、たとえ東大の教授に突っ込まれた質問をしても勝てるんだという自信が持てる、だめ薬剤師としては初めてのワクワクドキドキする体験だった。1本の論文を全訳するのに深夜まで病院に残って2~3日かかっていたのが、そのうち1日1本訳せるようになり、辞書を引く回数が減った。20本を訳し終えた時には、1日2本読めるようになり、ほとんど辞書が要らなくなった。これは自分にとって大きな驚きだった。そして学会発表の時にも自信を持てたので、何が来ても、どんなえらい医師が質問しても怖くなかった。学生時代の卒業研究発表会とは違って、ワクワクしながら学会発表できたことを覚えている。
3.適度な飢餓と運動が老化を防止し、若返る?
老化は避けられないものではなく、「病気」なのだ。病気だから薬や食事などで直すことができる。ただし一つの病気を治したからといって、別の病気で死ぬ確率が低くなるわけではない。私達に必要なのは、病気の全てを取り払うこと、つまり身体の衰えをもたらし、病的異常を伴う「老化という病気」を撲滅することである。老化を避けるための内容は今までにも言われてきた欧米化した食事ではなく低カロリーで食物繊維の多いものを摂り、運動などの生活習慣の改善だけでなく、薬物療法やサプリメントの摂取も深く関わっている。では具体的に何をすればいいのかについて要約してみよう。生体に適度なストレスがかかると、長寿遺伝子が始動する。例えば絶食、低タンパク質の食事、運動、高温や低温にさらすなどだ。これは加齢に関係なく、いつから始めてもよい。
(1)食べる量を減らすこと
肥満が健康に良くないことは様々な研究で分かっていることで、カロリー制限が長寿につながることは、周知の事実だ。具体的には
・野菜をたくさん摂取し、肉を口にするのはなるべく避ける。植物性タンパク質は良いが動物性タンパクは良くないからだ。プロテインにはアミノ酸が豊富でmTOR(mammalian target of rapamycin )を活性化して、筋肉量を増やす。ちなみにmTORを阻害すると、がん細胞の増殖や血管新生を阻害することができる。mTORの活性化は長寿にとってはデメリットになるが、後期高齢者でサルコペニアになるのを避けるには、運動したときに肉やプロテインを積極的に摂取するのはメリットになると思う(平田の考察)。著者も運動の時には肉を食べると言っている。
・mTORを働かせないようにすると、オートファジー(古くなったたんぱく質を再利用する働き)が促進する。オートファジーによるたんぱく質の再利用は健康寿命を延ばす。カロリー制限が老化防止に良いはこの作用による。肉や乳製品の摂取量を減らしても同じく、オートファジー活性化効果がある。
・1日どれか1食を抜くか、少なくともごく少量に抑えるようにする。カロリー制限のため週2日の断食とか、朝食を抜くのもよい。月に5日カロリーを制限する。間欠的断食でも効果は同じか高い。
・朝食を抜いて遅い昼食をとるもの(「16:8ダイエット」:例えば20時に夕食を摂ると、朝食は抜いて16時間後の12時に昼食を食べ、8時間以内に夕食を摂る)や、週に2日はカロリーを75%に減らすもの(「5:2ダイエット」)がある。もう少し挑戦したいなら、週に2~3日は食物をいっさい摂らない(「イート・ストップ・イート法」)のもいい。あるいは、健康問題の権威であるピーター・アッティア医師が実践しているように、毎月丸々1週間を空腹で過ごしてもいい。週に2日はカロリーを75%に減らすのもよいし、アミノ酸を少し制限するのもよい。ただし今井教授はMNMには昼間に高くなるというサーカディアンリズムがあるので、朝、しっかり食べて、その後に空腹時間を長く摂るようにしているらしい。
(2)運動療法
サバイバル回路を作動させることが有効ならば、それは食事以外の活動、例えば運動でも構わない。運動が遺伝子のスイッチを入れ、私達を細胞レベルで若返らせてくれる。
・毎週のジム通い。バーベルを挙げ、少しジョギング、サウナでしばらく過ごしてから、氷のように冷たい水風呂に浸かる。他にも、寒さに身を曝せばサバイバル回路が動作することが分かっている(暑さに身をさらすのがプラスに働くかははっきりしていない)。
・健康を増進する遺伝子を一番多く活性化したのは「高強度インターバルトレーニング(HIIT)」だっ
た。HIITは心拍数や呼吸数が著しく上昇する。一般的に脂肪を減らす目的で行われているが、本書では高齢の被験者ほど、HIITによる遺伝子活性化効果が大きかったということ。
・運動するほどテロメアが長い。運動は体にストレスをかける。これもHIITの活性化効果が高い。断食と運動を組み合わせる必要がある。精進料理を食べて滝行で体を冷やし、高野山・真言宗の阿闍梨のように山中を歩き続ける修行はサーチュインとNAD濃度が上昇して長寿になれるかもしれない(図6)。

(3)薬物療法(薬剤師としての解説も加えています)
食事、運動以上にエピゲノム系を変えるツールは「薬」である。老化が病気であると認識して、きちんとそれに対処する薬物療法によって、老化を遅くしたり、健康寿命を伸ばせる。エピゲノム化に重要なのがサーチュインという遺伝子であり、この遺伝子を活性化させるのは適度なストレスだが、NADがないと働けない。NADが細胞質内のSIR2酵素の活性を高める。NADは加齢とともに減少するのでその前駆物質を補充してやらないといけない。体内ではNR(ニコチンアミドリボシド)は体内でNMNに変換され、NADに変わる。NRをサプリとして飲んでいるヒトもいるがNMNのほうが安定しており効果が高いのではないかと著者は推測している(研究としてはNRを用いたものが多い)。
他にも古い蛋白の分解やDNAの修復、老化細胞によって引き起こされた炎症を軽減するmTOR、代謝をコントロールしてエネギーレベルの低下に対処するAMPKなどの老化関連遺伝子として重要。これらは生体にストレスがかかると始動するので、低タンパク食やカロリー制限を行うことによってストレスをかける。
以下が長寿に効果のあると言われている薬物だ。
ラパマイシン(シロリムス):モアイ像で有名なイースター島の土壌から発見されたマクロライド系抗菌薬で免疫抑制薬としてPTCAの時に使われるステントに配合されたり、リンパ脈管筋腫症治療薬として用いられている。オートファジーを阻害するmTORを阻害し、NADの産生を促して寿命を延ばす働きを持つ。mTORを阻害することによる生命延長効果は動物実験ではわかっているもののmTOR阻害薬はもともと免疫抑制薬なので、感染症を発症しやすいし、消化器障害、蛋白尿や腎障害など多くの副作用があるためヒトでは臨床試験はやっていないようだ。
NMN:サーチュイン遺伝子を活性化させるのは適度なストレスだが、細胞質内のSIR2酵素の活性を高めるためにはNADがないと働けない。NADは加齢とともに減少するので、その前駆物質を補充してやらないといけない。体内ではNRは体内でNMNに変換されるので、NMNの方が効果的。本書ではNMNを摂取した高齢女性に止まったはずの生理が戻ってきたり、馬の生殖能力が回復した事例が報告されている。ヒトでの検証については今井教授が行っていて、動態的には吸収するためにはトランスポータが必要なものの非常に吸収が早く、枝豆、ブロッコリー、アボガドや血中に豊富なのでスッポンの生き血にも多いそうだが、NMNとして摂取したほうが現実的だ。今井教授らのマウスを使ったNMNの効果を図7に示す(Mills KF, et al: Cell Meta 2016 Dec 13;24(6):795-806.)。

メトホルミン:もともとはインスリン抵抗性を改善させ、安価なので欧米での糖尿病治療薬の第1選択薬。糖尿病治療薬としては①肝における糖新生を抑制し②筋肉・脂肪細胞でのインスリンの働きを良くする(糖取り込み促進)とともに③小腸からブドウ糖が吸収されるのを抑制する。ラパマイシンと同様、メトホルミンを摂取した場合もカロリー制限に似た効果が現われ、ミトコンドリアの働きを活性化し、エネルギーレベルの低下に対処するAMPK(AMP活性化プロテインキナーゼ: AMP-activated protein kinase)などの遺伝子を活性化することによって細胞内シグナル伝達系を刺激することにより、糖代謝を改善するとともにアンチエイジング効果を持つ。発がんリスク低減作用も注目されている。最近の報告では2型糖尿病患者の膵島ではオートファジー機構の不全があること、メトホルミンの添加がオートファジー機構の不全を改善することが明らかになっている。ただし、ラパマイシンのようにmTORを阻害するのではなく、ミトコンドリアの代謝反応を制限する方向に働く。ミトコンドリアは「細胞の発電所」ともいわれ、ブドウ糖などをエネルギーに変換する仕事をしているが、メトホルミンにはこのプロセスを遅らせる作用がある。すると、AMPKが活性化して細胞内にブドウ糖を取り込むのはメトホルミンの主作用だ(図8)。
AMPKは酵素の一種で、エネルギー量が低下したときにミトコンドリアの機能を回復させる機能をもつ。メトホルミンはSirt1(サートワン)というサーチュインファミリーのタンパクの活性(NADを使ってタンパクの脱アセチル化を進める)も高める。ほかにも、がん細胞の代謝を抑えたり、ミトコンドリアの数を増やしたり(ミトコンドリアの機能低下を補うために細胞がミトコンドリアをより多く生成しようとするため)、折りたたみ不全のタンパク質を除去したりする効果が明らかになっている。
レスベラストロース:Sirt1を活性化して寿命を延ばす。赤ワインに含まれ、カロリー制限と同様の効果が得られると期待されている。赤ワインだと1日100杯分のまないと効かないので、サプリメントとして大量摂取するのが現実的だ。
ちなみにSinclair教授が服用している薬物療法は以下の通り。ラパマイシンは免疫抑制作用に伴う様々な副作用が懸念されるためか、服用していない。
健康系・教育系Youtuberが「NMNはアマゾンでも売っているが、1日1gも摂ると高額で1か月10万円もする」という人が複数いたし、レスベラトロールも1日1gではかなり高額なものが多いが、海外からの輸入商品を丹念にチェックすると2021年6月現在の最安値はアマゾンではなく楽天でNMNは6.95mg/円、他のサイトでの海外商品レスベラトロールは16.16mg/円であった。1日推奨摂取量はSinclair教授自身にも分かっていないので、きっと十分量を摂って、余ったものは尿中に捨てればいいと思っているはずだ。そして欧米人に比べて日本人は小柄ということを併せて考えてみれば、それぞれ1日500mgを摂るとするとNMNは1日78円、レスベラトロールは1日30.9円。1日100円と考えれば、決して高い金額ではない。
(4)意外と健康に良くないもの
一般的に筋トレに有用とされている分子差鎖アミノ酸(BCAA)の中で、特にロイシンは良くない。筋肉がつくのはロイシンがmTORを活性化するからだ。ベジタリアンが長寿である理由も同じ。赤肉に含まれるカルニチンは腸内細菌によって、心血管病変を悪化させる尿毒素トリメチルアミン-N-オキサイド(TMAO:本ブログのわかりやすい細菌と抗菌薬の話 第12回参照)に変換されるになるためよくない。ということで肉は良くない。メチオニンはオートファジーを抑制するmTORを活性化するので、摂取を制限する。
抗酸化サプリはCoQ10,α-リポ酸、ビタミンE、アスタキサンチンなど長寿とは無縁だ。様々なサプリメーカーが長寿を謳っているだけで、論文で証明されているものではない。レスベラトロールは抗酸化サプリとしても発売されているが、sir2酵素を活性化することによって寿命を延ばす作用が証明されている。
あとがき
Sinclair教授はオーストラリア出身でハーバード大学医学部の老化と寿命延長の生物学に関する医学研究者です。1969年生まれなので私よりも15歳若いのですが、2013年にはシドニーのオペラハウスでTED Talkで講演をされています。とても人を惹きつける講演内容であり、Youtubeで見れます。日本人ではワシントン大学の今井教授も長寿遺伝子の研究をしており、母校の慶應義塾大学での講演でYoutubeでのリーダーシップのあり方、講演のテクニックに関しての講演も秀逸です(これは日本語)。
この研究成果を見て、高齢者がどんどん増えていったらどうなるんだ、と考える人も多いかと思いますが、健康寿命が高くなれば、若年者が少なく未来の希望の光の見えない日本でも、元気な高齢者が社会を活性化できればいいという考え方もできると思います。
長寿遺伝子の研究はいまだ完成されているとは思いません。でも10年後、20年後、現在行われているヒトでのデータが蓄積すれば、戦前までは結核や肺炎などの感染症が不治の病だったのが、今では抗菌薬で簡単に治癒できるのと同じように、「あの頃の平均寿命は80歳くらいって言われてたけど、今は80歳じゃまだまだ現役で仕事ができるものね(現に平田が子供のころの60歳は腰の曲がった老婆か完全なご隠居さんのイメージだった)」という時代が来るかもしれません。60歳代の現役プロ野球選手、60歳の横綱が生まれ、80歳のマラソンランナーが3時間以内でフルマラソンを完走できるのは、ひょっとしたら将来的にはありかもしれません。ただし超高齢のねたきり末期心不全患者がジョギングできるようになる、透析患者の尿量が増えて透析が不要になる、老眼も白内障も緑内障も完治するようになるには幹細胞移植の助けも必要になるのではないでしょうか。
テキストダウンロードはこちらからできます。↓
第3回 基礎から学ぶ薬剤師塾 7月10日(火)18時から20時(予定)の申し込みを始めます。
第2回目は1回目よりもより多くの質問を受けることができましたが、チャットでの質問にすべて答えられなくて、反省点もありましたが、改善してまいりたいと思います。でもチャットだけではなく直接、納得いくまでディスカッションしたい人は勇気をもって質問していただければ塾も盛り上がると思いますので、よろしくお願いいたします
参加を希望される方は以下の申し込みフォームに記入のうえ、送信してください。https://forms.gle/Y4FhcsSAu8wHc1888
第3回のテーマは事前アンケートで最も多かった腎機能の見方です。「腎機能をしっかり見れる薬剤師を目指そう」です。腎機能についての話は、結構難しい内容になりがちですが、できるだけわかりやすくしたいと思います。質問を丁寧に受けると1回では終われないかもしれません。
薬剤師塾への参加者はどなたでも構いませんが、ぜひ学会発表を目指している方に参加していただきたいと思います。そしてその先には原著論文を書き、海外の学会で発表し、英語論文をまとめて博士号を取るんだというような大きな夢を持つ人になっていただきたいと思います。 300名参加可能(これって結構な金額になるんですよ)ですが、前回の登録者数は220名でしたので、早めに登録してください。
わが国の高齢化率は2位のイタリア以下を5ポイント近く大きく引き離して、圧倒的な超高齢者大国になっており、これがさらに2042年まで上昇し続けるといわれています(図1) 。
日本の医療は、高齢者薬物療法の問題が顕在化しており、私もこれについて講演したり執筆する機会が増えています。平均寿命は2019年、男81.41歳(65歳の平均余命は19.83歳)、女87.45歳(65歳の平均余命は24.63歳)といわれていますが、介護が不要な健康寿命は2013年の厚労省のデータによると男71.19歳、女74.21歳です。10~13年、介護が必要というのはつらいものです。今、超元気でありながら、見た目は着実に老化の一途を辿っている現在66歳の平田(図2)にとって健康寿命はこのデータによるとあとわずか5年なのです。
この5年間のうちにできることはやっておきたい、悔いは残したくないから。
腎機能は良くはならず加齢とともに低下していくのと同じように、老化は避けて通れないものと、誰もが考えているでしょうが、非常に著名な医学者のDavid A Sinclair教授が2019年に著し翌年邦訳された「ライフスパン 老いなき世界 人類は老いない身体を手に入れる(原題:Lifespan: Why We Age – and Why We Don’t Have To)」が話題になっています。内容は今はやりの「健康本」や「ダイエット本」ではありません。
ちゃんと査読の厳しいNature, Cell, Scienceなどの医学のトップジャーナルに掲載された根拠のあるものです。500ページ近くあって、とてもわかりやすく書いているものの、科学に疎い人には内容的には難しいのですが、非常に興味深く、インパクトの強い内容、すなわち老化を防ぎ健康寿命を増やす(だけでなく最高寿命も増やせる)方法について記されています。書評はこのブログでは初めてですが、とても興味深かったのでワシントン大学の今井教授のNMNというニコチン酸誘導体に関する仕事や、平田の薬剤師としての持論も交えて解説してみたいと思います。
1.何故生物は老いて死ぬのか
かつては、そして今も老衰や高齢による衰弱は主な死因であり、加齢に伴い疾病数は増え、高血圧、糖尿病罹患率も上昇する。現在の医療のようなもぐらたたきのように、個々の病気を治療するだけでは健康寿命は伸ばせない。老化は一つの病気であり、治療できるというのが本書の内容だ。なぜ老いるのか?我々の体にはDNAの損傷が見られるとき、つまり厳しい環境下では細胞の増殖を遅らせることで、損傷が治るまで自身の修復にエネルギーを振り向ける仕組みが備わっている。これまでの生命科学ではDNAの損傷、恒常性の消失、ミトコンドリアの機能の低下などの様々な要因によって老化が起こると考えられてきた。それは間違いではないが、「そもそもどうして老化現象が表れるのか」については解明できていなかった。著者は、これら諸要因に共通する「唯一の原因」を探し出した。それは「エピゲノム情報の喪失」である。つまり老化とは情報の喪失によるものだ。
ここでエピゲノムについて説明しておこう。体内には2種類の情報がある。1つはデジタル情報であり、A, G, C, Tで表される核酸塩基がこれに該当する。もう1つはアナログ情報であり、これは「エピゲノム」と呼ばれる。DNAの塩基配列を変えることなしに、細胞内での遺伝子発現の仕方を変えることを「エピジェネティクス」という。この「DNAによらないアナログな仕組み(DNA塩基配列の変化を伴わない遺伝子発現を制御・伝達するシステム)」が、老化を止めるための重要な要素である。例えば同じ遺伝子を持っている一卵性双生児であっても環境の違いによってアナログ情報であるエピゲノムが変化すると、有名な写真の図3のように変化する(左が喫煙者、右が非喫煙者の双子)。
わかりやすく説明するために著者は「ゲノムをピアノだとすればエピゲノムはピアニストのような関係である。ピアノの大きさや形は変えられない。芋虫は人間になれないが、その代わり、変態の過程でエピゲノムが変化することにより、ゲノムの配列自体は何も変わらないのに蝶へと変身する。」と説明する。エピゲノムはDNAの損傷など、細胞が大きく傷つけられたとき、機能不全が生じる。ピアニストで言えば、「レ」の音を必ず間違えて演奏しつづけるようなものだ。たった一度のミスなら気にならないが、これがずっと続くと不協和音となり協奏曲全体が崩壊していく。この情報変換のミスが老化なのだ。老化という身体の変化はこのようにして起こっているのだ。
なぜ、「DNAによらないアナログな仕組み」が、老化を止めるための重要な要素になるのかというと、老化は昔からDNAの変質によって引き起こされる不可逆的な現象だと捉えられてきた。老化の症状に影響する遺伝子はすでに見つかっているが、実は老化の原因となる単一の遺伝子は見つかっていないからだ。私達の遺伝子が老化を引き起こすために進化したわけではないからである。であるならば、エピゲノムという可逆的なアナログ情報に生じたエラーを取り除くことができれば、若いころのDNAを復活させることができるはずなのだ。
2.老化の情報理論
老化の典型的特徴の1つ1つがなぜ起きるのかは、老化は情報ミスであるという「老化の情報理論」で説明できる。この理論は、一見ばらばらに思える老化の要因を、普遍的な生死のモデルへと統合させることが可能で、それを分かりやすく表すと以下のようになる。
若さ→DNAの損傷→ゲノムの不安定化→DNAの巻きつきとエピゲノムの混乱→細胞のアイデンティティの喪失→細胞の老化→病気→死
エピゲノムは「クロマチン」という構造にしまわれ、いくつかに分割された上で「ヒストン」というごく小さな珠状のタンパク質に、ヨーヨーのように巻きついている(図4)。
「エピゲノム」とは、わかりやすく言えば「どの遺伝子を使い、どの遺伝子を使わないかを決めるスイッチ」のようなもので、DNAと違って化学物質・ストレス・その他の外部からの刺激などの要因によって変化する。このモデルのDNAの巻きつきとエピゲノムの混乱→アイデンティティの喪失には、サーチュイン(sirtuin)という寿命を調節する酵素が重要な役割を果たしている。サーチュイン遺伝子の働きは災害対応部隊の指揮官のようなものであり、DNAが損傷したとき、普段の仕事、つまり遺伝子の制御を通して、細胞がアイデンティティを失わないようにすることを手放して、損傷個所に修復にかけつける。
ここでサーチュインが酷使される=DNAの損傷が頻発することであり、生殖など生命本来の仕事に手が回らなくなり、生命に深刻なダメージが及ぶ。このゲノムの混乱状態が「老化」なのだ。つまり老化は遺伝子変異ではく、DNAの損傷を引き金とするエピゲノムの変化によってもたらされているのだ。エピゲノムの混乱を収束してやれば、若いころのDNAがまた動き出す。つまり老化は可逆的で治療可能ということになる。酵母を用いたサーチュイン遺伝子の研究結果から、酵母の寿命を延ばすのはSIR2遺伝子であることが明らかになった。細胞が作り出せるsir2酵素の量には限りがあるが、sir2を増やせれば、細胞内に十分な量ができ、いつもの仕事とDNAの修復を並行して行えるようになるはずだ。マウスの実験ではサーチュインを活発化させるNAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)を混ぜた餌を与えたら、ヒトに例えると65歳の老齢マウスが通常のマウスでは生涯に走り切れないくらいのウルトラマラソン級の距離を走り続けて、走行距離計を壊してしまった。老齢マウスのサーチュインを活性化させる酵素が増え、エピゲノムが安定してミトコンドリア数が増加し、あらたな毛細血管ができて若返ったのだ。

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はじめに
透析除去率の計算式、Murakami&Hirata式なるものを何の前触れもなく、2021年の初めに本ホームページに掲載しましたが、その紹介する文章が遅れて申し訳ありません。この式は、生体内の薬物量が1回の血液透析で何%除去されるかを正確に(今のところ)予測することができる式です。ようやく臨床使用に耐える予測式が完成し、Blood Purification誌に掲載されましたので、急ぎ、にホームページに掲載しましたが、それまでのいきさつ、薬物の透析性についてまとめてみました。
薬物の透析性
透析で除去されやすい薬は透析後に補充投与しないと効かなくなる。例えばアミノグリコシド系の抗菌薬は細胞外液のみに分布し、アルブミンなどの蛋白質にほとんど結合しないため、透析で半分以上が除去されてしまう。当然、濃度依存性の抗菌作用を示すこの抗菌薬の殺菌力は期待できなくなってしまうであろう。βラクタム系抗菌薬も細胞外液のみに分布するが、蛋白結合率(PBR)は薬によってさまざまだ。汎用されているカルバペネム系抗菌薬のメロペネムのPBRは5%足らずで、アミノグリコシド系と同様なので、半分以上は透析で抜ける。ただし第3世代セフェムのセフトリアキソンやセフォペラゾンのPBRは90%なので、ほぼ除去できないので透析後の追加投与は必要ない。グリコペプチド系のテイコプラニンのPBRは90%と高いだけではなく、分子量が1,564~1,894Da(6種の薬物の混合物である)と大きいため、主に拡散の原理によって生体内物質を除去する血液透析では全く除去できない。
薬物の透析性予測式なんて、必要ないと思っている方もいるかもしれないが、体中から抜けた薬物を抜けた分だけ補充する必要があるとすれば、「抜けやすい」「抜けにくい」だけではなく明確に何%抜けるという精度の高い予測式があれば、それは有用なものになるであろう。たとえば抗がん薬を透析患者に投与された報告は極めて乏しい。投与量も論文によって実にさまざまだ。そして透析による除去について体系的に言及された論文はさらに少ない、というかほとんどない。抗がん薬の場合、効きすぎれば、当然、有害反応が起こるであろうし、効かなければがんの悪化によって生死を分けるかもしれないのに、透析によってどれくらい除去されるかどうかについて分かっているものは、シスプラチンなど特殊な抗がん薬を除いてほとんどないのが現実だ。
米国では麻薬の濫用が大きな問題になっており、オピオイドの透析性についてはかなり探求されている。横紋筋融解症やQT延長といった重篤な副作用の多いメサドンに関しては、PBRが89.4%で分布容積(Vd)が1~8L/kgであることから、動態的に見て透析では抜けないことは明らかである(後述)。透析で抜けないという報告が古くからすでに複数あり1)2)、最近の報告ではメサドンの1日投与量の2.3%(範囲、1,25-3,70%)であったという報告3)や古い報告でも1%しか抜けないという報告4)があるにもかかわらず、メサドン専用の透析性の予測式を作ったという報告もあるが5)、ほとんど臨床的な価値はないと思う。
個々の薬物の透析性は論文になりやすいのだ。例えばAという新薬の透析性については検討がされていなければ、動態的には除去されないことが分かり切っていたとしても、医師が査読をすると「新規性がある」とみなされ、容易にアクセプトされる。そしてCHDならノイエス、CHDFの報告は初だからノイエス、CHFでもノイエス、CVVHDFでもノイエスとみなされアクセプトされる。もっとひどい文献だと、知りうる限り最大の分布容積の薬物「アミオダロンによる透析性」についての英語論文の査読を依頼されたことがあるが、本来、筆者は教育的な配慮からrejectしない方針であるが、さすがにこれは「透析で全く除去されないことは動態的に明らかなことなのに、数名の透析患者で頻回採血を行って透析性を調べた」ことは倫理的に間違っているということでrejectしたことがある。このように薬物個々の報告、様々な血液浄化法での報告もまた、あまたとあるが、このような報告を待たなくても、あるいは文献を検索しなくても、1つの予測性の高い式ができれば、有用なことは間違いないのだが、これに関する報告は極めて少ないのが現実なのだ。
薬物の透析性に関わる因子
1983年にKellerら6)がPBR, 分布容積の逆数(1/Vd), 分子量を基に薬物の透析性の予測式を作成したが、R2=0.27と低く、臨床では全く使えないものであった。ただしこの報告により薬物の透析性に関わる因子はPBRと分子量以外にも、Vdが重要であることが明らかにされた。
Vdは薬物の組織移行性を表す指標で、前述のようにアミノグリコシド系の抗菌薬やβラクタム系抗菌薬は親水性であるため細胞膜の脂質二重層を通過できないので細胞外液のみに分布する。細胞外液が体重の20%であるためこれらの薬物のVdは0.2~0.3L/kg(重症感染症では炎症によってアルブミンが間質液に漏出するため0.3L/kg近くになる)となるが、PBRが90%のセフォペラゾン、セフトリアキソンはアルブミンにトラップされているため、間質液内濃度は血清濃度の1/10になるので、Vdは0.2L/kg以下になる(図1)。
尿素、炭酸リチウム、エタノールなどは分子量が100Da以下の水溶性物質であるため、脂質二重層の細孔を自由に行き来できるため(図2)、細胞内液・細胞外液に均等に分布する。
そのためこれらのVdは体内水分量に等しい0.6L/kgになり、これらの物質は分子量が小さいため拡散性能が極めて高く、血漿中だけでなく赤血球中からも除去可能である。
では強心配糖体のジゴキシンはどうだろうか?ジゴキシンはNa+-K+-ATPase阻害薬であるためこの酵素が多く存在する心筋や骨格筋に高濃度で分布し、心筋では血清濃度の30~70倍、骨格筋には10~20倍の高濃度で分布するため、血清濃度は相対的に低くなる。Vd=体内薬物量/血清薬物濃度で表されるため、ジゴキシンのVdは4~8L/kgと高い。血清及び間質液、つまり細胞外液を中心に浄化している血液透析だが、ジゴキシンは体内総量の4%しか細胞外液には存在しない(図3)。
また組織から細胞外液へのジゴキシンの移行速度が透析による除去速度に比し極めて遅いため、Vdの大きいジゴキシンは透析では除去不可能だ。PBRが高くても活性炭による血液吸着や血漿交換によって除去可能であるが、Vdが大きい薬物は透析だけでなく、いかなる血液浄化法によっても除去されにくいのである。
ただしVdが小さいと透析で除去されやすいかというと、そうではない。例えば動物実験で血漿量を測定するために用いられるアゾ染料のエバンスブルー(医療用ではない)は血漿中でアルブミンとの親和性が極めて高いためPBRが100%なので、Vdは0.05L/kgとVdの最小の薬物だし、分子量がアルブミンよりもはるかに大きい抗体製剤も0.05L/kgとVdは最小だが、透析で抜けるわけがない。ワルファリンのPBRは99%以上であるため、Vdは0.15L/kgと細胞外液量よりも小さい。NSAIDsのPBRは90%以上のものが多いが、イブプロフェン、ジクロフェナク、ナプロキセンのPBRは99%でVdは0.10~0.17L/kgとワルファリンとよく似ているが、PBR 93.1%のスリンダクのVdは2L/kgと大きい。Vdが小さくてもPBRが90%以上であれば透析によって全く抜けることはない。
血液透析で除去されにくい薬物
1997年に筆者は血液透析で除去されにくい薬物の共通点はPBRの高い薬物、脂溶性の高い薬物、腎排泄性の低い薬物、Vdが大きい薬物、分子量の大きい薬物であると推測した7)。さらに2004年に筆者は血液透析による除去率とVdの関係は図4に示すように双曲線を描くため8)、
直線回帰では1/Vdの方が相関性は高くなるというKellerら6)の報告を再確認できた。そのうえで、
①PBR>90%以上の薬物は血液透析によって除去されない(図5)
②Vd>2.0L/kgの薬物は除去されにくい(図6)
③PBR>80%かつVd>1.0L/kgの薬物は除去されにくい(図7)
ことを明らかにした9)。
重回帰分析を行うとPBR、1/Vdは薬物の透析性に関与する有意な因子になったが、分子量は有意な因子ではなかった(表1)8)。
分子量と除去率の間に相関性は認められなかったものの(図8)、分子量の大きい薬物(MW>2,000)は拡散能が低いため除去されにくく、アルブミン以上の分子量の薬物(MW>66,000)は全く除去されないことは予測できた。
これらの取り組みによって透析によって抜けるか抜けないかを定性的に示すことはできるようになったが、透析による薬物除去率が何%で、透析後に薬物をどれだけ追加すべきかを推算する式、つまり定量的に推算できる薬物除去率推算式については、その後の浦田元樹博士、村上鞠奈氏の貢献が大きいが、その予測式の構築はややこしい話になるので、ここでは省略する。知りたい方は文献を読んでいただきたい10)11)。
村上&平田式の予測性
薬物の特性を以下の特徴的な6つのカテゴリーに分類し、予測式に用いなかった薬物を主に用いてMH式による予測性を再確認した(図9)。
①分子量100Da未満の水溶性物質は極めて除去されやすい、②PBRが低く水溶性の薬物で細胞外液のみに分布する薬物の除去率はとても高い、③水溶性の薬物で細胞外液のみに分布する薬物の除去率はPBRに依存して変化する、④Vdが小さいもののPBRが95%以上の脂溶性薬物は除去されない、⑤分子量が数万Da以上のものおよびPBR 100%の薬物は除去されない、⑥Vdが5L/kg以上の脂溶性薬物は除去されない。それぞれのカテゴリーに合致した特徴的な薬物でMW、PBR、fe、Vdの4つのパラメータが既知の薬物を2~3個ずつ、ランダムに示した。実測値と予測値の間にはy=1.009x-2.113でR2=0.924, P<0.0001の有意な正相関が認められた。
Kellerら6)の予測式はR2=0.27、平田は定性的にHDで除去されない基準を作成した9)。そして浦田氏の簡易式の予測性はR2=0.64になり10)、MH式でR2=0.81に向上し11)、臨床使用可能な高い予測性を示すことができるようになった(図10)。

透析による薬物除去率予測式をどのように活用するか?
2020年9月に神戸国際会議場で開催された第66回化学療法学会学術大会のハイブリッド形式でのシンポジウムでは「SARS-COV-2感染症でCHDFを施行している患者にはアビガン?を多めに投与しているが、どれくらい量を投与したらよいかわからない」ということが話題になったが、MH式を使用する際に必要なVdが「0.34L/kg未満」となっているが、その値を代入すると透析による除去率は「少なくとも32.5%」と推算され(図11)、
透析とCHDFのクリアランスを比べるとクレアチニンに関しては、透析療法は週に3回、1回4時間だが常時行われると仮定すると5~10mL/min、CHDFで13~14mL/min(尿量があればさらにクリアランスが高くなる)なので、CHDF患者では透析患者よりも多めに投与する必要があることが分かる(図12)。

引用文献
1)Furlan V, et al: Methadone is poorly removed by haemodialysis. Nephrol Dial Transplant 14: 254-255, 1999
2)Perlman R, et al: Intradialytic clearance of opioids: methadone versus hydromorphone. Pain 154: 2794-2800, 2013
3)Opdal MS, et al: Effects of Hemodialysis on Methadone Pharmacokinetics and QTc. Clin Ther 37: 1594-1599, 2015
4)Kreek MJ, et al: Methadone use in patients with chronic renal disease. Drug Alcohol Depend 5: 197-205, 1980
5) Linares OA, et al: In silico ordinary differential equation/partial differential equation hemodialysis model estimates methadone removal during dialysis. Daly AL. J Pain Res. 8: 417-429, 2015
6) Keller F, Wilms H, Schultze G, Offerman G, Molzahn M: Effect of plasma protein binding, volume of distribution and molecular weight on the fraction of drugs eliminated by hemodialysis. Clin Nephrol 19: 201-205, 1983
7) 平田純生, 金 昌雄, 上野和行, 田中一彦: 薬物の透析性. TDM研究, 14: 277-287, 1997
8) 平田純生, 和泉 智, 古久保拓, 太田美由希, 藤田みのり, 山川智之: 血液透析による薬物除去率に影響する要因. 透析会誌37: 1893-1900, 2004
9) 平田純生, 和泉 智, 古久保拓, 太田美由希, 藤田みのり, 山川智之: 血液透析による薬物除去率に影響する要因. TDM研究22: 142-1430, 2005
10) Urata M, Narita Y, Fukunaga M, Kadowaki D, Hirata S: A simple formula for predicting drug removal rates during hemodialysis. Ther Apher Dial 22: 485-493, 2018
11) Murakami M, Narita Y, Urata M, Ichigi M, Nakatani S, Fukunaga F, Kondo Y, Ishitsuka Y, Irie T, Kadowaki D, Hirata S: Revised Formula for Predicting Hemodialyzability of intravenous and oral drugs. Bllod Purif 9: 1-11, 2021
腎機能をよくするための薬に食塩やNSAID?
腎機能は基本的に良くはならない。腎臓の糸球体の一部は再生できないからだ。ただし見かけの腎血流を一時的に高めれてやれば腎機能は改善したように見える。例えば終戦直後には腎機能をよくするためにその当時の医師は食塩摂取を勧めたそうだ。これによって循環血漿量が増え(腎臓への負荷をかけて)、糸球体内圧が上がってGFRが上がる。それによって一時的に血清クレアチニン値が下がれば、腎機能がよくなったように見えるのだ。ただし食塩摂取は長い目で見て血圧が上がり腎臓への負担を上げて、長い目で見ると腎機能は悪くなるだけでなく、高血圧を助長して心血管病、特に脳出血を増やすことはよく知られている。
これは良かれと思って慢性心不全にカテコラミンなどのβ刺激薬などの強心薬を用いると一時的に心機能は良くなるものの、長い目で見ると心臓の負荷が増大して予後が悪化する治療法によく似ている。現在は慢性心不全には「逆転の発想」でβ遮断薬を用いて前負荷を軽減して心臓を休ませ、レニン-アンジオテンシン系阻害薬を用いて後負荷・前負荷を軽減する薬物療法が主流になっている(図1)。
筆者が新米薬剤師のころ、つまり1980年前後にはネフローゼ症候群で蛋白尿を抑制するためにNSAIDのインドメタシンが用いられていたし、「今日の治療指針」にも書かれていた。確かにNSAIDは輸入細動脈を収縮することによって糸球体内圧を下げるので、蛋白尿は減少するはずだ。RAS阻害薬が輸出細動脈を拡張して、糸球体内圧を下げて(腎臓への負荷を軽減して)、蛋白尿を減少させるのと似た考え方だ(図2)。
しかし休ませすぎると腎虚血によって急性腎障害になりやすい要注意の薬物なので、RAS阻害薬は蛋白尿のある患者にはとても効果的だが、蛋白尿のない症例ではうまく使わないと腎機能を悪化させてしまうことがある。NSAIDsは①輸入細動脈の血流減少によって腎前性急性腎障害の原因薬物になるだけではなく、②脱水時などにも連用すれば尿細管を栄養する輸出細動脈の血流が著明に低下すると重篤な尿細管壊死に至ることもあるし、③糸球体障害によるネフローゼをきたすこともあり、アレルゲン性の高い薬物であるため④アレルギー反応による尿細管間質性腎炎をきたすこともあるため、腎機能をよくする薬物にはなりえないのだ(図3)。

低栄養高齢者への低たんぱく療法の是非
炭水化物や脂肪はエネルギーを産生するとH2OとC2Oになるクリーンな栄養素だが、たんぱく質は尿素やクレアチニンといった老廃物、つまり燃えカスができる。このような尿毒素が腎不全になると蓄積して尿毒症を起こし、腎機能を悪化させる。老廃物の蓄積を抑えるためにはその発生源となるたんぱく質を制限すればよいのだが、制限しすぎると栄養状態が悪化する。CKD患者のほとんどが高齢者であり、加齢に伴い筋肉が脂肪に置き換わり、筋力が低下し活動が低下してエネルギーの消費をしなくなるから食事量が減少すると、蛋白異化が亢進してさらに筋肉量が減ってサルコペニアになってしまうというフレイルサイクルに陥ってしまう(図4)。
低栄養は免疫能の低下も引き起こすから肺炎の死亡率順位は加齢とともに上がってゆく(表1)。
腎機能の悪化を防ぐにはたんぱく質摂取制限は重要な治療法ではあるが、低栄養状態の高齢者となると非常に悩ましい。一般的にはCKDステージ3aでは0.8~1.0 g/kg・標準体重/日、CKDステージ3b以降では0.6~0.8 g/kg・標準体重/日の摂取制限が推奨されている。高齢 CKD 患者においては、CKDステージ4~5 であっても十分な余命が見込まれる場合においてのみ、現状の BMI を維持すべき十分なエネルギー量を確保した上で,たんぱく質の摂取量を考慮する必要があるというところが妥当な落としどころであろう。現在の妥協点は高齢患者においても、0.8 g/kg・標準体重/日を目安にたんぱく質摂取制限が推奨されている。しかし高齢者が十分なエネルギー摂取ができれば体蛋白異化を防げて問題ないのだが、食欲の低下した高齢者に白米をたくさん食べていただくことには無理がある。筆者の個人的な考えではカロリーの多い中鎖脂肪酸(MCT)などをうまく活用していただくなどで、体蛋白の崩壊を防ぐ、あるいは後期高齢者・超高齢者では肉、魚、卵などの良質な動物性たんぱくは制限せずに、もちろんカリウムやリン値などには気を付けながら好きなものを何でも食べていただき、筋肉を減らさないようにしていただきたいと思っている。
食物繊維の摂取は腎機能悪化を防ぐ
クレメジン?がインドールを吸着して糞便中に排泄することによって、尿毒素のインドキシル硫酸の産生を抑制して腎機能の進行を阻止することはよく知られている(図5)。
ただしこの図5でトリプトファンからインドールに変換する細菌は近年、大腸菌よりもBacteroides属がメインだといわれている。たんぱく質の摂取は窒素代謝産物の産生を助長し、その中には腎機能を悪化させる尿毒素も産生されている。以前に本HP内「わかりやすい細菌と抗菌薬の話」の第11回、12回で解説したようにインドキシル硫酸だけでなく、p-クレジル硫酸、トリメチルアミン-N-オキサイド(TMAO)の蓄積はいずれも死亡率を上げ、腎機能を悪化させたり、心血管病変を惹起する。そしてこれらすべての尿毒素の産生には腸内細菌が関わっており(図6)
、便秘や肉食、食物繊維不足、肥満などによって尿毒素の産生はさらに助長される。
Mishimaら1)はアデニン誘発慢性腎不全のマウスに新規下剤のルビプロストン500μg/日を投与し効果を検証した。投与マウスでは腸液の分泌が増加し、腸壁の悪化・善玉菌の減少が改善した。TMAOやインドキシル硫酸などの尿毒素の蓄積も軽減し、BUNの上昇・尿細管間質障害・腎線維化が抑制された。腸内細菌叢の改善に伴ってインドキシル硫酸・馬尿酸・ trans-aconitateの血漿濃度が低下した。これによって腸内細菌叢・腸内環境の改善によって尿毒素の蓄積を抑制することによって腎障害の進行が抑制されたことが明らかになった。
筆者らも腎不全モデルマウスに浸透圧下剤でありプレバイオティクスであるラクツロースを投与するとインドキシル硫酸やp-クレジル硫酸濃度が低下するとともに腎機能悪化が抑制されたことを明らかにした。また腎不全モデルマウスのTGF-βのmRNA発現が低下し、腎線維化が抑制されたことも明らかにした2)。しかも興味深いことにラクツロース投与群ではインドキシル硫酸産生に関与し、肉類を多く摂取する米国人に多いBacteroides属が減少し、食物繊維分解作用が強く食物繊維を多く摂取する東南アジア人に多いPrevotella属が増加した(図7)。
発展途上国の住民は、米国住民よりも腸内細菌叢の構成が多様で、腸管内に有益な微生物が多く存在するが米国に移住すると腸内細菌叢が変化し肥満や慢性疾患のリスクが高まることが知られている3)。さらにPrevotella属が多いタイプには認知症患者がいない4)、Prevotella属が有意に減少すると潰瘍性大腸炎が再燃しやすい5)などの報告もある。
便秘が腎機能を悪化させ透析導入を増やすことも明らかにされているが6)、以前、保存期CKD患者に大黄甘草湯を投与すると腎機能の悪化を抑制できたという報告があったが7)、これは個人的には下剤によってたんぱく質の吸収を抑える低たんぱく療法の一種だと思っていたが、ひょっとすると便秘を改善することによる腸内細菌叢改善作用だったのかもしれない。単に便秘改善だけではなく腸内細菌叢の改善あるいは多様化が腎機能悪化に関与していると筆者は考えている。21世紀以降、DNAシーケンシング分析とそのメタゲノミクスへの応用の技術的進歩は目覚ましく、複雑な細菌叢を定量化し、それらが人間の健康と病気に与える影響の解明に貢献している。腸内細菌叢の解明によって腸脳連関や腸腎連関に関する報告も増加しつつある。
腎機能正常者1,630人を6年追跡し、CKD発症率と食物繊維摂取量の三分位との関連についてみた報告では8)、総繊維摂取量の最低三分位と比較して総繊維摂取量最高の被験者のORは0.47(95% CI 0.27、0.86)。さらに、総繊維摂取量が5 g /日増加するごとに、CKDの発症リスクが11%減少したことが報告されており、交絡因子を調節しても結果は変わらず、特に野菜・豆類が良いそうだ。ということで、腎機能を悪化させない決め手は尿毒素を増やさない、低たんぱく食だけでなく、食物繊維やプレバイオティクス、プロバイオティクスの摂取による腸内細菌叢の改善による尿毒素産生低下かもしれない。
高カリウム血症には気を付けて!
このように「食物繊維は腎機能悪化を防ぐ」ことを聞いて、安易に高齢者や腎機能低下患者に野菜や果物の摂取を推奨しないでいただきたい。腎機能低下患者では高カリウム血症が起こりやすく、高カリウム血症を助長するRAS阻害薬を服用している患者が非常に多いからだ。聞くところによると、ある市ではカリウム摂取は血圧を下げるので、糖尿病やCKDを合併した高齢者に保健婦さんや栄養士さんが野菜・果物の摂取を勧めているそうだ。もしも心不全などでRAS阻害薬だけでなくスピロノラクトンやエキサセレノンなどのMRAが併用されている高齢患者では突然死のリスクになる。それとST合剤に含まれるトリメトプリムも高カリウム血症のリスクが非常に高い。ケールを主成分とする青汁もカリウム含量が非常に高いため、腎機能低下患者にはNGだ。難消化性デキストリンなどのカリウムを含まない水溶性食物繊維サプリメントやカリウムを含まない不溶性繊維サプリメントの方が安全なので、これらのことをよく知ってうえで患者指導にあたっていただきたい。
引用文献
1)Mishima E, et al: J Am Soc Nephrol , 2014
2)Sueyoshi M, et al: Clin Exp Nephrol, 2019; 23: 908-919
3)Vangay P, et al: Cell 2018; 175: 962-972 PMID: 30388453
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