第 25回 基礎から学ぶ薬剤師塾 Q&A
腎機能をしっかり見れる薬剤師を目指そう②
2023年5月13日(土)チャットによる質問
横浜栄共済病院薬剤部 浅野未咲先生
Q.DOAC発売当初、eGFR/1.73m2でDOACの禁忌を評価した場合、甘くなってしまって禁忌見逃しがかなりあったと思いますが、BSAの計算ができないときが悩ましいです。CG式でCr+0.2にするにしても、体重に比例しそうな気がして心配ですし
A.日腎薬のHP「eGFR・eCCrの計算」でBSAは簡単に算出できます。体表面積だけを知りたいときには身長・体重を入力し、その他の入力項目はダミーの数値を入力しても正しい体表面積は簡単に計算してくれます(右図; 右下図は体表面積の算出結果部分を拡大したもの)。
DOAC発売当初ということは、ダビガトランは添付文書ではCCr別用量になっていますので推算CCrを用いて治験をしたのでしょう。米国では2010年までは薬物投与のための腎機能はFDAが製薬企業に対し血清Cr値ではなくCG式を用いた推算CCrを推奨していましたが、血清Cr値の標準化が行われた2011年以降は、CG式によるCCrの臨床使用を使わず、CKD-EPI式によるeGFRを用いることを推奨することが米国腎臓財団NKFのGFR calculatorのサイトで明記されています。同じ時期にFDAはCCrはeGFR(mL/min/1.73m2)に読み替えろというお触れも出しています。
ダビガトランは明らかなハイリスク薬ですので、CG式を使いたいのであれば(血清Cr値+0.2)をCG式に代入すると、治験を行った時と同じ条件になります。そしてCG式の場合、肥満患者では明らかな肥満なら補正体重を使いましょう。
第100回の国家試験でも身長の記載されていない65歳男性患者で体重72kgの症例が出題されています(当ブログの「薬についてのまじめな話」の中のこんな問題出していいのか!:第100回薬剤師国家試験(2015年)を参照)。Cockcroft & Gault 式は以下のように72という係数で除す式ですから、患者の体重は72kgが選択されがちなのです。
推算CCr(mL/min)= (140−年齢)×体重(kg)×0.85(女性)
72×血清Cr(mg/dL)
でもこの症例の身長が150cmしかなかったらBMIが32の完璧な肥満です。CG式では補正体重を用いる必要があります。ただしメーカーは米国での治験状況と異なる酵素法による血清Cr値を用いたCCrを使ってくださいと言っていますし、肥満患者に対する注意喚起も全く行っていませんでした。酵素法によるCG式を使うように書かれた今まで配布済みのパンフレットが大量にあるため、これから腎機能の見方を変えますとはメーカーも言えないのだと思います。ただし製薬メーカーの言っていることを無視してよいのかの議論はここでは控えさせていただきます。
腎機能が低い人にダビガトランを腎機能の評価に苦労して投与しようとしないで、腎排泄されないエリキュースⓇ(アピキサバン)にすべきだと思います。ダビガトランはCCr(もちろんJaffe法なので個別eGFRとして対応可)が60mL/min未満であれば避けた方が無難です。
ファーマライズ薬局 羽村知穂先生
Q.私自身もデジタル的になってしまうことがあり、一時的に腎機能が低下した場合とかで、NSAIDs等で下がっていた等の腎機能の低下の原因を考える除外の方法を平田先生であればどのように考えるのかご教示いただければ幸いです。
A.急性腎障害を起こしやすい薬で平田が一番気にするのはNSAIDsですが、高齢者であれば利尿薬でも脱水から腎機能悪化になりやすいですし、RAS阻害薬も基本的に糸球体過剰濾過を軽減してGFRを下げる薬ですから高齢者には気を付けるべき薬です。また閉経後骨粗鬆症の予防に用いられる活性型ビタミンDでも高カルシウム血症(Ca剤やチアジド系利尿薬の併用によってなりやすい)になると多尿から、脱水、そして腎機能低下になりやすいです。
そのような腎前性の急性腎障害になりやすい原因薬物が投与されている高齢者では、腎前性腎障害になりやすいので、これらが原因による腎機能の一時的低下と判断できます。同様に腎後性の腎障害を起こすバラシクロビルやアシクロビルなども基本的に重症な腎障害ではありませんので、腎機能の一時的低下と判断できます。
ただしシスプラチンやアミノグリコシド系抗菌薬などによる尿細管障害や、免疫チェックポイント阻害などによるアレルギー性間質性腎炎は腎性腎障害なので若年者でも重症化し、簡単に治らない場合が多いので、メトホルミンなどを一時休薬する必要があることもあります。
帯広病院 吉田依里先生
Q.筋肉量が多い人でかつ腎機能が悪い場合、実際のGFRは算出されたものよりもう少しよいだろうと推測していいですか?この場合、腎機能はどう見積もりますか?
A.特にスポーツ選手であれば外傷は多いでしょうが、基本的に健康な方が多いので、実際のGFRは算出されたものよりもう少しよいだろうと推測してよいと思います。このように筋肉量の多いアスリートやボディビルダーの血清Cr値高値は筋肉量が多いことによることがあります。クレアチンサプリメントや加熱肉類の大量摂取時にも血清Cr値は上昇するので、腎機能が低く見積もられがちです。米国腎臓財団や日本のガイドラインでは筋肉量が多い方の腎機能推算にはシスタチンC によるeGFR式の使用を推奨しています。
しかし実際に筋肉量が多い人がシスタチンCに対するeGFRの使用が適しているという報告がなかったので、私が熊本大学在籍中にボディビルダーの多いジムのトレーナーさんたちと、熊本大学ラグビー部の選手の皆さん15名に参加していただき、検討してみました。その結果は血清Crによる推算では筋肉量の多い人では過小評価になるだろうと予想していました。結果は予想通りeGFRcrはeGFRcysに比し全員低値でしたが、実測CCrと推算CCr15名の間に有意な相関性は認められたものの、15名中5名は推算値の方が高値という結果でした。そして意外なことに15中11名でeGFRcysの方が実測値(実測CCr×0.715)に比し高値で、eGFRcysは実測値に比し有意に高値になり(図1左)、実測値との間に相関は認められずeGFRcysは過大評価されました(図1右)。この考察として図の黒色のバーの脂肪組織のシスタチンCのmRNAは発現量を1とするとは筋肉組織に比し、4.5倍高いこと(Naour N,et al:Obesity17: 2121-2126, 2009)が報告されており、対象者は筋肉量に比し脂肪量が少ないため、血清シスタチンCが低くなり、腎機能が高く推算されたのではないかと考えています(図2)。上記のように我々の結果からは筋肉量が多い方にはシスタチンCは適していないことになりましたが、対象者が15名のみなので、N数を増やした検討が必要だと思います。
アンケートによる質問
広島県福山市 セントラル病院薬局 野村温子先生
Q.自身もシスタチンCについて調べなおそうと思いますが、以前にシスタチンCの信頼できる範囲があると聞いたような気がします。講演のスライドに明示された項目を確認しますが、そのような注意点はあるのでしょうか?
A.「シスタチンCの信頼できる範囲」というのがよくわかりかねます。シスタチンCの基準値は0.5~1.0mg/L程度とされています。だいたい血清Cr値の1/10という感じだと思っていいのではないでしょうか。それとも、お聞きになりたいのは以下のことでしょうか?
シスタチンCに基づくGFR推算式は
eGFRcys(mL/min/1.73m2) ={104×Cys-C-1.019(mg/L)×0.996Age×0.929(女性)}-8
で求められますが、最後の「-8」は何かというと非腎クリアランスです。おそらく脾臓でシスタチンCは代謝されるために、筋肉量の多い男性で腎機能が悪くなると血清Cr値は20mg/dL以上でも上がるのに、血清シスタチンC濃度はほぼ5mg/L以上には上がらないので(図)、末期腎不全には血清Crの方が使いやすいということでしょうか?これはシスタチンCの弱点とも思っていません。血清シスタチンCが4mg/L以上であれば末期腎不全ですから、血清Cr値で十分判断できるだけのことだと思います。
手束病院 楠本倫子先生
Q.固定用量の薬は個別eGFRで投与設計をとのお話でしたが、アミカシンについては如何でしょうか。標準eGFRで投与量設定されている資料があります。平田先生のご意見をお願いいたします。
A.アミノグリコシド系抗菌薬の添付文書用量は固定用量となっており、アミカシンに関しては「成人1回アミカシン硫酸塩として100〜200mg(力価)を1日1〜2回筋肉内投与する」となっており1回投与量が非常に少ないですね。この用量ではCpeak依存性の殺菌作用を示すアミノグリコシド系抗菌薬の効果を担保することはできません。
eGFRで投与量設定されている資料というのは「抗菌薬TDM臨床実践ガイドライン2022」ではないでしょうか?アミカシンに関しては「臨床効果および細菌学的効果は,Cpeak/MIC と相関し、Cpeak/MIC≧8~10が必要とされている」と記載されており、添付文書よりも正確ですね。そしてアミカシンの投与量は「AMK では通常量15 mg/kg×1 回/日(III-A)または高用量 20 mg/kg×1回/日(II)を使用する。AMK で20 mg/kg×1 回/日の高用量を使用する場合は5 日以内の使用にとどめることが望ましい(III-A)。」とあります。
このガイドライン用量は固定用量ではなく、体格用量になっていますから、腎機能として標準化eGFR(mL/min/1.73m2 )を用います。これに関しては当ブログの「◆連載◆腎機能評価の10の鉄則 3日目」の鉄則1「投与量が体格用量(抗菌薬・抗がん薬などで mg/kg や mg/m2になっている)の場合には標準化 eGFR(mL/min/1.73m2)を使う。」をご覧ください。
固定用量では体格の考慮された個別eGFR(mL/min)を用いないと小柄な方は中毒性副作用を起こしやすく大柄な方は効かないということがありますが、体格別用量で個別eGFR(mL/min)を用いるとこの値には身長・体重をすでに含んでいるため、体格が二重補正され、小柄な人では薬用量が過小になって効果が期待できず、大柄な人には過量投与になって副作用が表れやすくなるため、体格別用量には標準化eGFR(mL/min/1.73m2)を用います。
名古屋市立大学医学部附属東部医療センター薬剤部 鬼頭侑香先生
本日は貴重なお話をありがとうございました。教えていただきたいことが3点あります。
Q1.Giusti-Hayton法による投与補正係数を積極的に使用するべき場面はどのような時か。
A1.Giusti-Hayton法を使わなくても2年に1回発行される日腎薬の特別号(グリーンブック)またはじほうの腎機能別薬物投与量POCKET BOOKに腎機能別の薬物の減量基準が記載されていますので、この式を使う必要はないと思います。しかしこれらの書物に載っていない新薬では基本的にはGiusti-Hayton法を用いて減量基準を我々学会の委員会メンバーが決めます。そして実際に臨床使用してみるとその減量基準で投与しても中毒性副作用が起こりやすかったり、血中濃度が異常高値を示す場合には非腎クリアランスが上昇しているのではないかと予測することがあります。
Q2.この投与補正係数を算出する際に用いるものはGFRかCCrどちらがいいか、GFRであればやはり標準化されたものよりも個別化されたものの方がいいのか。
A2.腎機能のゴールドスタンダードはGFRですからCCRよりGFRが当然優れています。前問の回答のように固定用量の場合(例えば1日100mgなどほとんどの薬物)は個別化eGFR(mL/min)を用います。抗がん薬のようなハイリスク薬では体格用量が定められていることがありますが、この場合には二重補正を避けるために標準化eGFR(mL/min/1.73m2)を用います。
Q3.DMの既往がない心不全患者でSGLT2阻害薬を使用されている患者では糸球体濾過量はどうなるのか。
以上勉強不足で見当違いな質問となっていたら申し訳ありませんがご教授いただけますと幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。
A3.DMの既往がない心不全患者は高血糖に起因する糸球体過剰濾過がないため、GFRのinitial dippingはわずかだと思います。SGLT2阻害薬の利尿作用も投与初期のみ、Na利尿作用も初期のみで1か月以内には消失するといわれています。
日本調剤 中島鉄博先生
Q.腎障害診療ガイドラインに記載されている体表面積補正を行なったCCrとは、実際にどのように補正をするのでしょうか。また、活動度が低めの70代男性患者さんでプレドニン30mg/dayを内服、シスタチンCが測定されており、eGFRcys=45(mL/min)程度、eGFRcys>CCrで10程度乖離している場合、この結果はどのように解釈するべきですか。よろしくお願い致します。
A.体表面積補正を行なったCCr(つまり単位はmL/min/1.73m2ですね)はeGFR推算式がないときに腎機能評価の体格による影響を排除するために使っていましたが、eGFR推算式完成後は使う必要がなくなりました。
シスタチンCにも血清クレアチニンと同様、様々な問題があります。高用量ステロイド投与されたときには高めに測定される(つまり腎機能は低めに評価される)ことが報告されています。その他の影響因子については本ブログの★1.腎不全・検査値の25.血清シスタチンC濃度に影響を与える薬物と病態をご覧ください。
新渡戸記念中野総合病院 井澤理枝先生
Q.本日の講演で推算CCrのround up法は避けた方がよいとおっしゃっておりましたが、以前職場で感染に詳しいICTに属している薬剤師と抗菌薬の投与量の算出方法で揉めたことがあります。その薬剤師はSCrが0.6を切っていたらround up法で算出しているのですが、eGFRのround up法は否定しないという平田先生のお話から推算CCrのround upはやはり現場では濫用しない方がよいという認識でよろしいでしょうか?
A.Round up法はどういう方法かご存知ですか?「血清Cr値に0.6を用いると推算値と実測値がよく相関する」という方法ではありません。血清Cr値が0.1mg/dLでも0.5mg/dLでも一律に0.6mg/dLを代入する方法なので、測定値を一定に低めに見積もるという手法なので、全く科学的ではありません。
一定の低めの腎機能にすることによって推算値と実測値の乖離を小さくするのがround up法の利点といえば利点ですので、サルコペニア患者のeGFRは確実に過大評価されますから、安全性に配慮してround up法を使う価値はないとは言えません。
しかし推算CCrは加齢とともに低下するように推算される式なのです(図)。CG式によるCCrでは若年者の腎機能高値、加齢による腎機能低下が顕著です。だから活動度の低い高齢者の腎機能推算はeGFRに比しフィットしやすいのです。このような特徴を持っているCG式にround up法をすると腎機能が低く推算されるため、薬物用量も少なくなります。それによって薬効が低下すると困るような薬物(抗菌薬はまさにそうですよね)では全く科学的ではないround up法はすべきではありません。患者様の生命を守るためには、薬物の治療効果を下げないためには、シスタチンCによるeGFRを用いてください。検査費用が高いというのであれば手間であっても実測CCrを測定してください。
仙台循環器病センター 佐々木順也先生
Q.いつも貴重なご講演ありがとうございます。大変勉強になります。
サルコペニア患者におけるシスタチンCと腎機能評価についての質問です。
シスタチンCは3か月に1度しか測定できないため、測定できない期間の腎機能評価で悩む場合があります。
シスタチンCと血清Cr測定時、eGFRcysと個別化eGFRcrで乖離がある患者がいるとします。
測定できない期間は個別化eGFRcrに乖離分のクリアランスを補正し、クリアランスを推察してもいいのでしょうか。
もしくは乖離しているクリアランスを考慮したとしても、Crの変動要因は様々であり正確性に欠けるため、Crの変動は腎機能が改善・増悪しているかの判断に留めておくべきでしょうか。
シスタチンCを測定できない場合は実測CCrを用いるのが最適だとは思うのですが、それができない場合に上記の様な考え方で腎機能評価をしてもいいものなのでしょうか。
A.佐々木先生のご質問内容は複雑なので、アンケートではなく、講演後に質問していただき、ディスカッションできたのであれば、とてもよい議論になっただろうと思います。ごめんなさいね。架空の議論をしてしまうと、僕の回答はとても冗長になりますし、読者の方も迷ってしまうので、今後、アンケートでお聞きになりたいときには知りたいこと、困ったことを具体的にご質問していただければと思います。
例えば「eGFRcysと個別化eGFRcrで乖離」、どちらが高いのか記載されていませんので、情報不足で判断が出来ません。「Crの変動要因は様々であり」も、どういった理由でどの程度上がったのか、下がったを具体的に記載していただきたいのです。
当ブログの「腎機能評価10の鉄則 解説」を読んでいただくと、その中にヒントが書いていると思います。それからクレアチニンもシスタチンCも様々な弱点があります。それについては当ブログ★1.腎不全・検査値の1.血清クレアチニン値が異常値になりやすい人および25.血清シスタチンC濃度に影響を与える薬物と病態をご覧ください。
第 24回 基礎から学ぶ薬剤師塾 Q&A
腎機能をしっかり見れる薬剤師を目指そう①
2023年4月8日チャットによる質問
①岡山済生会総合病院 横田健司先生
Q.いつもわかりやすい講演ありがとうございます。講演でもうお話し済みで聞き流していたらすみません。2011年以降は海外でも酵素法で測定されてるのでしょうか?もし2011年以降酵素法で測定した薬の添付文書にCCrでの記載でしたらCCrで推算してもよろしいのでしょうか?宜しくお願い致します。
A.講演で話した通り、2011年以降(正確には2010年12月31日より)は米・カナダではIDMS(isotope dilution mass spectrometry)法に準じた測定法に全面的に変更しました。クレアチニン測定法をIDMS法に変えたのではなく、各医療機関でIDMS法によって血清クレアチニン値が正確に測定された検体を用いてキャリブレーションするようになっただけのことです。これによってそれまでJaffe法を使っているために血清クレアチニン値が0.2高く測定される不都合が解消されました。米国に医療機関がより正確な酵素法に変えたのかどうかについてはよくわかりませんが、論文を読んでいるとJaffe法のままIDMS法に準じた方法に変えているものがありました。だから酵素法がどれだけ普及しているのかどうかは分かりませんが、おそらく米国では今もJaffe法を使っている医療施設は多いのだと思います。
2011年以降は基本的にIDMS法に準じた血清クレアチニン値をもとに算出されたeGFRを用いて治験するようにFDAがメーカーに指導していると思いますので、「2011年以降、酵素法で測定した薬の添付文書にCCrでの記載」というケースはなくなるはずです。ただし2010年までCCr を用いて行っていた治験中のものを2011年から急にeGFRに切り替えることはできません。CCrとeGFRが混在すると統計上、おかしなことになりますので、2011年以降もCCrで治験が持続された薬物は例外的にあると思います。この場合、CCrJaffeなので、講演で話したように酵素法による推算CCrEnzを使うのはあまりよくないと思います。
②ファーマライズ薬局株式会社 羽村知穂先生
Q.すみません。初歩的な質問ですが、eGFRとGFRは違うのでしょうか?
A.GFRは糸球体濾過速度glomerular filtration rateの略でイヌリンクリアランスのことで、静注投与されたイヌリンは「全く蛋白と結合せず、糸球体で100%濾過され、尿細管で再吸収も分泌もされずにそのまま尿中に排泄される」という特性から濾過されたイヌリン量=尿中に排泄されたイヌリン量になるため血漿イヌリン濃度×糸球体濾過速度(mL/min)=尿中イヌリン量×尿量になります。この式を変形すると
GFR(mL/min)=尿中イヌリン量×尿量/血漿イヌリン濃度 となってGFRが算出できます。
eGFRは推算糸球体濾過速度です。国内80施設が参加して413人を対象に腎機能評価のgold standardであるイヌリンクリアランス(GFR)と血清クレアチニン値を測定し、2009年に大阪大学の堀尾勝先生が以下の新たな推算式を作成しました(Matsuo S, et al: Am J Kidney Dis 53: 982-992, 2009)。
eGFR(mL/min/1.73m2) =194×Cr-1.094×Age-0.287×0.739 (女性)
この式によって血清クレアチニン値、年齢、性別の3項目だけで腎機能を推算することが可能になりました。
eGFRは体表面積補正されていますので、これによって体格に関係なく、腎機能がよいのか悪いのかをG1(正常または高値)~G5(末期腎不全で透析が必要)と診断することができるようになりました(図)。CKDはeGFR(mL/min/1.73m2)が60mL/min/1.73m2未満か蛋白尿またはアルブミン尿が陽性が3か月以上持続した場合、CKDと診断します。
③千葉大学医学部附属病院 椎名瞳先生
Q.抗菌薬治療の参考書であるサンフォードではCCrを元に記載されていますが、患者の体格を考慮すると個別化eGFRを当てはめ、かつ感染の重症度で判断すべきでしょうか。
A.日本の抗菌薬TDM臨床実践ガイドライン2022も、それ以前の2016年も基本的にCCrではなくeGFRに変わったと思います。ただし重症感染症に罹患しやすい方は、ほとんどが高齢者で免疫能が低下して栄養状態の不良な方々です。講演でも話した通り、栄養状態が不良で活動度が低下した方の筋肉量は少ないので、eGFRでは腎機能が過大評価されるのでほとんど使えません。使えるとしたらシスタチンCを用いたeGFRcysか、蓄尿による実測CCr×0.715でGFRとして評価する方法のみです。感染症専門の薬剤師の前で講演した時には、血清Cr値によるeGFRcrは感染症症例では過大評価することがほとんどですから、よりフィットしやすい推算CCrを用いている方がほとんどでした。サンフォードでもCCrがフィットしやすいために用いているのか、新たな抗菌薬が開発されていない=eGFRで治験された抗菌薬がないから治験時の腎機能のCCrを使っているのかよくわかりません。米国ではFDAはeGFR≒ 推算CCrとみなしてよいとしているので、そのままCCrを使っていても問題ないからかもしれません。例えば95歳の認知症患者でご家族が延命を望まない症例と、70歳で本人もご家族も延命を望んでいる症例を同じよう「○○で腎機能を判断すべき」などとは言えません。どの腎機能で選択すべきかについては症例ごとにご自身で判断していただきたいと思います。
④日本調剤 中島鉄博先生
Q.「推算CCrがサルコペニアに意外と有効」というスライドがありましたが、最後寝たきりなどでは実測またはシスタチンCでないとわからないということで、推算CCrはどこまで有効なのでしょうか。
A.血清Cr値によるeGFRcrはサルコペニアでは確実に腎機能を過大評価します。推算CCrはサルコペニア患者には意外とフィットしやすいのは確かです。少なくともeGFRcrよりも推算CCrの方が加齢に伴う低下が急峻なため、高齢患者での過大評価の程度は少なくなります。ただし「どこまで有効」という疑問に答えられるほどの答えは持ち合わせていません。サルコペニア患者の腎機能の絶対値を知りたいのであればシスタチンCを用いたeGFRcysか、蓄尿による実測CCr×0.715でGFRとして評価する方法のどちらかを用いるのがベストだと思っています。
⑤望星薬局 加藤博昭先生
Q.本当に初歩的な質問で申し訳ありません。仮に毎日血清クレアチニンを測定すると、数値の変動はあるのでしょうか?それとも大きな変動はないのでしょうか?
A.基本的に体調や生活に大きな変化がなければ、血清クレアチニン値はいつ測っても一定です。だから朝に測っても夜に測っても一定で、月曜日に測っても水曜日に測っても一定です。筋肉の中に含まれる筋力のパワーの源となるクレアチニンリン酸がクレアチンとして約100g(男女差があるので男120g 、女80gで平均100gくらいじゃないかなと思います)ありますが、そのうちの1%の1gが非酵素的に老廃物のクレアチニンに変換されます。そして産生されたクレアチニンは不要な老廃物ですので、尿中にすべて排泄されます。
だから薬を24時間365日、持続点滴でクレアチニンを投与して一定の血中濃度に保ち、クレアチニンの尿中排泄率が100%で一定速度で排泄されているので、「クレアチニン産生速度=クレアチニン排泄速度という定常状態になっているため、血清濃度はずっと一定になっている」と想像すると薬剤師的には理解しやすいのではないでしょうか。
2023年4月8日アンケートによる質問
介護老人保健施設 玉川すばる 薬剤部 廣瀬里美子先生
Q.病院から老健に転職しましたが腎機能が危うい高齢者ばかりです。しかし点滴での水分が補充できない状態にあるが(ルートをとっていない)腎負担の薬剤を投与しなくてはならないシーンに出会いますが、十分な飲水もままならず薬用量については先生はいかがお考えでしょうか。マニュアル通りに(体格や生活スタイルは考慮していますが)もう一つ工夫はあるでしょうか。ご意見あれば教えていただきたくよろしくお願いいたします。
A.ご本人、および家族がずっと長生きしたい、長生きしてほしいと願っているのでしたら、患者様たちのご希望に沿って、一生懸命、治療する必要があると思います。
リハビリを積極的に取り組んでいて、全く介護を必要とせず、運動機会の多い方は血清クレアチニン値を基にした推算腎機能(eGFRまたは推算CCr)でほぼ正確な腎機能が分かると思いますが、老健施設では要介護度の高い高齢者がほぼ全員と思います。このような場合、ある種の工夫で腎機能が分かるなんて魔法のようなものはありません。面倒だとは思いますが、下記の①か②しか腎機能の真の値(に近いもの)を知ることは不可能です。
腎不全で血中濃度が上昇する本当に怖い薬を投与せざるを得ないときには①血清シスタチンCを測定していただき、eGFRcysを日腎薬のHPで計算して投与量を決める、②実測CCrを測定していただくのも腎機能を把握するにはよい方法ですが、おむつをしている患者さんには無理です。バルンカテーテルを入れ、蓄尿できる患者さんでは24時間畜尿は勧められませんが、実測CCrの測定をトライしてもいいかもしれません。
手束病院 楠本倫子先生
Q.聞き逃していたらすみません。リリカやTS-1の投与設計で血清クレアチニンに0.2を足して計算する方が良いという事でよろしかったでしょうか?日常的にその計算はした事がなかったのですが、そうすべき薬かどうかはどこで判断できますか?今日お話になかったDOACもそうなのでしょうか?
A.血清クレアチニンに0.2を足して腎機能を計算すると、米国でJaffe法による治験時のデータに極めて近くなります。ということは添付文書でCCrによる腎機能別用量の記載が信頼できるものになります。
ただしこの方法をすべての薬に適応すると、大変だと思いますので、楠本先生ご自身が、この薬はハイリスク薬とお考えであれば、トライしてみてください。DOACに関しては腎排泄型のダビガトランは絶対に避けること、そして腎排泄の影響の最も少ないアピキサバンなどを使うほうがよいと思います。
2023年3月22日 熊本市薬剤師会学術研修会 Q&A
腎機能の正しい評価
~添付文書の腎機能で使われるCCrは実は日本のCCrじゃない~
Q1.腎機能評価の指標として、糸球体濾過率が使用されていますが、年齢・体格・疾患や栄養状態など影響を与えうる因子が非常に多いことに評価の難しさを感じます。糸球体濾過率によらない、信頼性のある評価指標の研究結果はないでしょうか。
A.糸球体濾過率は機能している残存ネフロン数や腎血流量の変化を予測でき、CKD患者ではこれらの変化によって腎予後、透析導入までの期間も予測できる非常に優れた腎機能マーカーです。イヌリンクリアランスの実施はややこしい手順があるとしても、うまく病院内でシステム化すればできますし、実測クレアチニンクリアランスやシスタチンCを利用したeGFRは年齢、体格、疾患などの影響をほとんど受けないで極めて正確に腎機能を評価できます。講演ではこのことを中心に解説したつもりです。
ただしeGFRが使いものにならないサルコペニアやフレイルの患者に対してeGFRや推算CCrなどの従来の方法で腎機能を判断することは腎臓内科の先生方にも僕にも、誰にもできません。eGFRや推算 CCrは血清クレアチニンとちょっとした患者情報があれば算出できますから楽ですよね。でもサルコペニアではいくら楽でも腎機能を過大評価しすぎるため、絶対値としては全く使い物にならないものになります。使えないものを楽だから使おうとして「評価がむつかしい」って言わないでいただきたいです。皆さんは占い師ではなく薬剤師ですよね?だったらなんで腎機能が評価できないって簡単にあきらめるのでしょう?副作用を防ぐために科学的な腎機能評価方法を医師に提言しないのでしょう?
糸球体濾過率、あるいはそのサロゲートマーカーであるクレアチニンクリアランス(×0.715でGFRとして評価可能)が最も優れていて、100点満点で評価できて、患者さんに分かりやすく、経時的測定によって腎予後が予測できる点で、これほど優れた診断指標はありません。それが無理ならシスタチンCを基にしたeGFRもあるのです。これらは心不全におけるBNP、肝細胞障害におけるALTなどとは比べ物にならないくらいわかりやすい指標です。年齢・体格・疾患や栄養状態だけではなく、要介護度、筋肉量、服用薬物、サプリメントなどの影響も受けますが、それ等の影響を加味してより正確に「腎機能評価」ができるという話をしたつもりです。糸球体濾過率によらない、信頼性のある新しい腎機能評価指標の研究結果なんてありません。かつて1990年代に登場したシスタチンCは糸球体濾過率に相関性が高い評価指標として期待されました。そしてその有用性も確立されたのに、多くの薬剤師は測定依頼しないので、いまだに高価で3か月に1回しか測定できないままなのです。だからいまだに一般内科医すら「シスタチンCって何?」と言っています。血清クレアチニンが腎機能を表さないような筋肉量の少ない高齢者の正確な腎機能評価方法の決め手は実測イヌリンクリアランス、実測クレアチニンクリアランスがありますし、最も簡単なのがシスタチンCによるeGFRです。安易なものを知りたいと思う前に、正確な腎機能評価方法をしっかりマスターしようと努力してください。
Q2.平田先生が考えられる腎機能評価の理想はどのようなものと表現できるでしょうか。このような方法・指標が良いというようなものがあれば教えてください。
A.Q1、Q2は同じ質問者の方ですが、同様の質問になりますので1の回答で勘弁してください。繰り返しますが、講演で解説したとおり糸球体濾過量あるいはそのサロゲートマーカーであるクレアチニンクリアランス(×0.715でGFRとして評価可能)、シスタチンCによるeGFRがあれば年齢・体格・疾患や栄養状態、活動度、筋肉量の影響を受けずに腎機能を正確に評価することができます。
Q3.先生のブログで、簡易的な脱水の評価方法に毛細血管再充満時間をみると高い特異度でトリアージができるとありました。薬局内で実践しております。服薬期間中のフォローアップをする際に、電話先でご自身で行っていただく際に上記の手技が難しい場合は、口腔粘膜乾燥と舌乾燥の状況を確認することも有用だと感じましたが、いかがでしょうか。
A.脱水の指標はほかにも様々あります。通常、若年者であれば、脱水になれば口渇を感じ、飲水するのですが、高齢者は口渇中枢に異常のある方がいるので、脱水をきたしやすくなります。患者様ご自身に評価していただくのでしたら、尿量が減少していないか、起立性低血圧によって立ち眩みしていないか、舌が乾燥していないか、皮膚の張り(スキンツルゴール)が低下していないかなどで、ある程度脱水を疑うことができます。脱水を起こしやすい高齢者には日ごろからこまめな飲水を指導してください。ただし心不全でループ利尿薬が投与されている方には循環器医と話し合って1日飲水量を設定し、朝起きた時、お風呂上がりには必ず飲水、それで残った水を定期的にこまめに摂取していただくように指導するとよいと思います。
本を今までにたくさん書いたし、論文もたくさん書いた。学会での講演もたくさんやらせてもらってきた。だけどいつも時間いっぱい話したくなるし、同じことを何度も繰り返してしまう。論文を書けば、査読者から決まって「冗長(くどくて無駄に何度も繰り返している)」といわれる。でもこれが平田の個性なんだよね。
子供のころ出来が悪くって、成績は中の下。たまに小テストで満点を取ると、ほぼクラスの半分が満点を取るような内容でも教師から「やればできる」と言われた。運動神経もクラスで一番鈍く、走るのが一番遅かった。さかあがりができるようになったのも一番最後だった。何をやっても不器用で、遅かった。先生の言ってることが理解できないのだ。1回の説明では理解できないんだ、僕の鈍い頭では。1回のお手本では、すぐにさかあがりができないんだ、僕の能力では。1回や2回ではコツがつかめないから。
中学校に入って最初の中間テストは学年200人中130番だった。たまに何度も繰り返していってくれる先生がいると、その教科が好きになって徐々に成績は良くなってきた。それがたまたま数学と英語と化学と生物だったから、私学の薬学部に入れることができのかもしれない。古典や漢文はいい先生だったけど、手取り足取り教えてくれるタイプではなかったので、理解するコツがつかめなかった。大人になって司馬遼太郎さんの小説にのめりこみ、その後は明治から昭和などの現代史にのめりこむと日本史や世界史全体が大人になってから好きになった。このころ古典や漢文、歴史の授業があったら、僕は前のめりにのめりこむことができたんだろうなと思った。
で、僕はダメ薬剤師を40歳になるまで続けて、ある出会いがきっかけで「薬剤師」という仕事にのめりこむことができるようになった。そして講演会の前座の10分の症例報告のチャンスをもらい、それがうまくいくと30分の話をさせてもらい、それらの繰り返しで、いずれ教育講演や特別講演を任されるようになったが、もともと理解するのが苦手だったから、かっこいいことを話すんじゃなくって「何にも知らいない人でもわかるような話し方、そして分かりやすいスライドの作り方にしようと心に誓った。そしていずれ、薬学系雑誌に掲載依頼が来ても、出版の話が来ても、くどいくらい何度も何度も、試行錯誤しながら理解できるように繰り返す。だから本当に編集者泣かせなんだ、僕って著者は。そして60分の講演依頼があれば、60分を使って何とかわかってもらいたいために、またいつものようにくどい話をするので座長泣かせなんだ、僕って演者は。たまに僕の話を「熱い」といってくれる人がいるが、僕はほんとに不器用なんだ。だから熱く何度も何度も語って、わかってもらいたいんだ。こんな話し方だから、何度も聞いてる人は飽きちゃうよね。でも大事なのは同じテーマで講演依頼があっても、僕は最新の話題、新たなスライドを必ず入れる。それをしないと僕自身が、エキサイトできないから。ごめんなさい、いつもいつも平田塾は長い話ばかりで、そしてくどい話ばかりで。でも僕は平田塾をやらせてもらっているから、昨日より今日の方が少しだけでも成長している薬剤師になれているんだと思う。
第 23回 基礎から学ぶ薬剤師塾 Q&A
高齢者薬物療法と薬物動態の変化
アンケートでの質問
手束病院 楠本倫子先生
Q.いつもわかりやすく熱い講演をありがとうございます。
バンコマイシン点滴静注用についてですが、MRSA感染症、寝たきりで高齢者、低アルブミン、SCr:0.8以下でも低体重の為CCr30mL/min未満でしたら他の抗MRSA薬を考慮すべきでしょうか?バンコマイシンを例えば負荷投与後は500〜750mgを24時間毎などの低用量を検討しても良いのでしょうか? TDMは外注になるので結果が出るのにタイムラグがあり、最近はあまりしていないのですがそれでも測る方が良いのでしょうか? 先生のお考えをお聞かせいただけたら幸いです。
A.抗菌薬TDM臨床実践ガイドライン2022ではバンコマイシンは「eGFR<30 mL/min/1.73 m2 の患者は腎障害発現率が高率になるので代替薬を考慮する」と記載されていますが、推奨度は一番低いⅣ(無効性や害を示す科学的根拠があり,行わないように勧められる)とされています。この引用文献の内容は「初期段階におけるAKIの有意な危険因子は、Cmin > 20 mg/L、ICU滞在、利尿薬またはピペラシリン/タゾバクタムの同時使用、および既存の腎機能障害であると特定された。」とありますので、テイコプラニンなどに変更した方が腎機能悪化の副作用は回避できそうですが、平田の個人的な見解では投与できないわけではないと思っています。
TDMは積極的に行った方が、投与設計能力が身につきますので外注でも積極的にやってみましょう。腎機能として「 寝たきりで高齢者、低アルブミン、SCr:0.8以下でも低体重の為、CCr30mL/min未満」というのはいかがでしょう?寝たきりの方の血清Cr値は0.2~0.4mg/dLが通常ですので、eGFRは過大評価してしまうので、CCrの方がフィットしやすいのですが、高齢の小柄な女性であれば血清Cr値が0.8mg/dLであればCCr30mL/minを切りますが、0.7以下であればCCrはおそらく30以上あるでしょうし、男性で0.8以下であれば推算CCrは確実に30以上あるでしょう。ということでCCr>30でバンコマイシンが投与できるとすれば、体格にもよりますが、50kgであれば初回負荷投与は1.0~1.5gを投与し、翌日からの維持用量は500~750mg/日で投与して、TDM結果のトラフ値が解析ソフトの予測値よりも高ければ、より減量、低ければより増量して、様子を見てはいかがでしょう。低アルブミン血症ではクレアチニンの尿細管分泌の寄与が増大するため血清Crが低値になり、eGFRはGFRよりも高く推算されることも頭の中に入れておいてください。
引用論文
Hashimoto N, et al: Candidates for area under the concentration-time curve (AUC)-guided dosing and risk reduction based on analyses of risk factors associated with nephrotoxicity in vancomycin-treated patients. J Glob Antimicrob Resist; 2021 Dec;27:12-19.
帯広病院 吉田依里先生
Q.急性腎障害のように腎機能が刻々と変化している場合の腎機能評価で気をつけることを教えて頂きたいです。(腎機能が変化している段階だからeGFRの式を使ってはいけないと【熊本腎と薬剤研究会】過去の講義動画で拝聴しました。数時間で変化するから評価自体が難しいという解釈でしょうか?今回の講義内容からの質問ではないため、大変失礼致します。)
A.急性腎障害(AKI)であれば、腎機能が急速に悪化するため、ワンポイントの腎機能を測定しても、変動しているため、「AKIではeGFRを使ってはいけない」というよりも、ワンポイントのeGFRでは正確な薬物の投与設計はできません。その理由として、クレアチニンの産生速度は遅いため、腎機能が低下してゼロになったとしても、ゆっくり上昇し続け、定常状態になりにくいことが考えられます。通常は定常状態になるまで1~2日を要するとされるクレアチニンは100%腎排泄(腸内細菌によるクレアチニン分解がなければ)なので腎機能低下によりさらに定常状態になる期間が延長します。例えば無尿になってクレアチニンが全く排泄されない状態になるとCCrもGFRもゼロになっているはずなのですが、血清クレアチニン濃度はゆっくりとしか上がりません。それによって算出されるeGFRも速やかに下がってくれません(図1)。
だからワンポイントのeGFRでは投与設計しにくいのです。できれば複数ポイントのeGFRを算出して、悪くなりつつあるのか、腎機能がよくなりつつあるのか、そしてその悪化速度あるいは改善速度を把握した方がよいでしょう。例えば、図1のように無尿の状態が続けば、血清クレアチニン値は直線的に上昇し続け、血液透析か腎移植をしない限り、上がり続けるでしょう(ただしやがて尿毒症で患者さんは生き続けることができなくなります)。この場合、どこからも全く排泄されない血清クレアチニン値は定常状態にならないのですから。この血清クレアチニン濃度の上昇も筋肉量の多い若年男性ではより速やかに上昇し、筋肉量の少ない高齢女性では非常に緩やかにしか上昇しません。
ただし無尿になった後、徐々に腎機能が回復すれば、クレアチニンが尿中排泄されるため、血清クレアチニン値の半減期は短縮し、直線的に上昇することはなく定常状態になって、eGFRとの乖離も徐々に縮小します(図2)。そしていずれ定常状態になり、数日以内に実際の腎機能とeGFRが一致します。この時点のeGFRによって薬物投与設計すれば、より有効で安全な投与設計ができると思います。
とここまで書いてみて、eGFRは全く不明より、あった方がよいのですが、急性腎障害時には絶対値として信用できないので、正確な投与設計はできないのです。正確な投与設計を使用と思ったら実測GFRか実測CCrを測定するしかありません。
ただしその間にeGFRに基づいてバンコマイシンが投与されていてTDMを実施してトラフ値が予測値以上に上昇してれば、実際の腎機能はeGFRよりも低いことが分かりますし、トラフ値が予測値よりも低ければ、実際の腎機能はeGFRよりも高かったと判断することができます。
参考文献
平田純生: 重症・慢性化を早期に防ぐ! 急性腎障害(AKI)の薬物療法. 月間薬事64: 3351-3356, 2022
第 22回 基礎から学ぶ薬剤師塾 Q&A
慢性心不全とその治療薬
~これからはFantastic Fourの時代~
チャットでの質問
荒木脳神経外科病院薬剤部 戸田智美先生
Q.脳梗塞患者への持参薬継続としてSGLT2阻害薬の継続は可能でしょうか。
A.「脳梗塞を起こした患者さんの持参薬の中にSGLT2阻害薬が入っていたが、継続しても大丈夫か?」という質問と理解しました。SGLT2阻害薬の重要な副作用として脱水があり、それによって脳梗塞が起こることを懸念されているのかもしれませんが、SGLT2阻害薬による脱水は投与初期の利尿作用による血液濃縮によって脳梗塞を起こすことがあり得ます。ただしSGLT2阻害薬による利尿作用はNa利尿と糖利尿による尿量増加によりますが、この尿量増加はカナグリフロジンでは1日のみで、2日目以降は利尿作用が消失します(Tanaka H, et al,: Adv Ther 2017; 34: 436-51)。エンパグリフロジンの利尿作用は4日後も減少しませんが、この報告では全員ループ利尿薬が投与されており(Damman K, et al: Eur J Heart Fail. 2020 Apr;22(4):713-722. doi: 10.1002/ejhf.1713.)、エンパグリフロジンはフロセミドと相乗作用を示します。フロセミドとの併用で6週間以降も利尿作用は持続するするが、Na排泄は変化がなかったと報告されています(Mordi M, et al: Circulation 2020 Nov 3;142(18):1713-1724.)。
まとめますと、SGLT2阻害薬によるブドウ糖排泄作用は持続しますが、Na排泄量は10日程度持続するものの、それ以降は低下し1か月後にはプラセボ群と差がなくなります。ということで本題に戻りますが、SGLT2阻害薬は利尿作用がありますが、本症例が1か月以上投与されていれば、利尿作用は消失し、SGLT2阻害薬は心血管病変の発症を低下させますので、継続投与は問題ないというか、推奨されるかもしれません。ただし、この症例にループ利尿薬が併用されていれば(脳梗塞を発症した症例には通常、入院していない限りループ利尿薬を投与はしないと思いますが)脱水による脳梗塞を起こさないよう循環器医と相談のうえ、こまめな飲水指導をして投与を継続する必要があると思います。
アンケートでの質問
北九州宗像中央病院 高田由美子先生
Q.66歳男性、糖尿病性腎臓病で糖尿病外来に通院して3年になります。eGFRは29と30を切ってしまいました。今はグラクティブ(シタグリプチン)を50mg服用中ですが、この先、このままでいいのか、SGLT2阻害薬に変えなくていいのか心配です。どのようにお考えになりますか。
A.僕自身はDPP-4阻害薬をあまり評価していません。血糖は下げますが糖尿病性腎臓病の腎予後や先生予後を改善するという効果は証明されていないからです。でもSGLT2阻害薬を投与するには腎機能が高度腎障害のステージ4では、腎に作用するこの薬の効果が100%発揮できないと思いますが、効果が期待できないわけでもありません。平田は個人的には末期腎不全(eGFR<15mL/min/1.73m2)になっても、透析導入までは継続していいのではないかと思っています。 RAS阻害薬が併用されていれば血圧の下がりすぎに配慮してARNIに変更する(ただし腎保護の適応はありません)、腎機能がこのレベルになると高カリウム血症が怖いので場合によってはケイキサレートやロケルマを併用しつつMRAを併用するなど、腎臓内科医と相談してベストな薬物療法を考えるとよいと思います。
東京歯科大学市川総合病院 薬剤部の平井さやか先生
Q.最近ではダパグリフロジンでフレイル患者に使用した場合の論文がでており、フレイル患者でも比較的安全に使用できるのではないかという話も耳にします。フレイル患者には慎重に使用すべきであると考えますが、平田先生は避けたほうがよいというお考えでしょうか。
A.海外の論文で確かにフレイルの心不全患者でSGLT2阻害薬の有効性が示されたという報告があります。DAPA-HF試験のサブ解析で、ダパグリフロジンは、フレイル指数(0から1)にかかわらず、心不全の悪化や心血管死のリスクを減少させたことが報告されています(Butt JH, et al: Ann Intern Med. 2022 Jun;175(6):820-830. doi: 10.7326/M21-4776.)。ただしこの論文の内容をよ~く精査するとClass1(フレイルのない患者)のBMIは平均26.9、Class2のフレイル患者で平均28.9、Class3の強度フレイル患者の平均BMIはなんと30.6なのです(175cmで体重93~4kgに相当します)。白人・黒人ともにインスリン分泌能が高いため、これだけ太ったフレイル患者が多数を占めているのです。そりゃBMI30の患者にSGLT2阻害薬を投与すれば、グルカゴン/インスリン比が上がって体脂肪をケトン体に変換してエネルギーにしますので、体脂肪率がみるみる減って、動くのが楽になり、心不全も軽快するよねと思ってしまいました。
ただし欧米人とアジア人は異なります。痩せ気味の日本人のフレイル高齢者ではSGLT2阻害薬は尿糖を排泄することによって、体脂肪だけでなく、さらに筋肉量が減少してサルコペニアになってしまう危険性があります。しかもフレイルの高齢女性だと性器感染症も懸念されますので、平田は痩せが特徴的な日本人の高齢フレイル患者にはSGLT2阻害薬は投与を避けた方が無難だと考えています。
金沢医科大学病院薬剤部 高多瞭治先生
Q.大変勉強になりました。ありがとうございます。心不全(HFrEF)の透析患者さんに対して、ARNIやβブロッカーは積極的に使用していただくように医師とディスカッションを行っております。SGLT2阻害薬に関しては、透析患者さんでは効果が期待できないため投与は検討されませんが、MRAに関しては少し迷うところがあります。心臓のアルドステロン受容体遮断による心臓の線維化や心肥大の抑制は期待できますでしょうか?添付文書上はスピロノラクトンなどは禁忌であり、適応としても薬剤選択に苦慮します。何かご存知のエビデンスがありましたらご教授ください。
A.MRAは利尿作用、Na排泄促進作用などの腎臓への作用を介した効果が透析患者の心不全ではあまり期待できない可能性があります
スピロノラクトンに関してはPubMed検索では透析患者に投与した大規模研究はなく、少人数であまりレベルの高くない医学雑誌のものが多いのですが、左室肥大の改善、左室駆出率の上昇、心血管機能が改善したという報告が散見されます。それらのうちRCT>のメタ解析では全死亡や左室肥大やEFの改善が認められましたが、アジア人では25mgの低用量で有効性が高かったものの副作用も多かったことが記載されていました(Liu J, et al: Front Med (Lausanne). 2022 Mar 17;9:828189. doi: 10.3389/fmed.2022.828189. eCollection 2022.)。
医中誌検索では大学の腎臓内科医の先生が臨床透析誌38: 29-34, 2022に「ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬では,抄録に透析患者においても有用である可能性が示されている」と書かれていました。
佐賀大学医学部附属病院 橘川奈生先生
Q.エンレストには蛋白尿減少効果はございますでしょうか。もともとタンパク尿がありARBを内服していた患者がが、ARBからエンレストに切り替えた場合、タンパク尿が増えますでしょうか。ご教示いただけますと幸いです。よろしくお願いいたします。
A.エンレストはバルサルタン群に比し、有意にアルブミン尿を増加させるという報告が確かにあります(Voors AA, et al: Eur J Heart Fail 2015; 17: 510-517)。それによると36週間後のARNI群の腎機能悪化は-1.5mL/min/1.73m2、バルサルタン群は-5.2mL/min/1.73m2でARNIの方が有意に腎機能悪化速度が緩やかでした(調整後のP = 0.002)。ARNIの尿中アルブミン/Cr比の幾何平均値はARNI群で増加した(2.1-4.0mg/mmol)のに対し、バルサルタン群では横ばいに推移し(1.5-2.6mg/mmol、36週間の差に関するP=0.016)、2群間で尿中アルブミン/クレアチニン比に有意差が生じました。これって2.1-4.0mg/mmolは18.6-35.4mg/gCrにあたり、1.5-2.6mg/mmol は13.3-23mg/gCrにあたります。尿中アルブミンは30mg/gCr未満が正常ですので、ARNI群はバルサルタン群に比し有意にアルブミン尿を増やしたのは確かですが、単位に騙されました。アルブミン尿はARNIを投与しても、ほぼほぼ正常域内です。だから正解はわずかにアルブミン尿は増えますが、増えたところでほぼ正常域内ですから、あまり心配ないように思っています。
第 21回 基礎から学ぶ薬剤師塾 Q&A
薬剤性腎障害を防ぐ
~Quadruple whammyを防げ!~
薬剤師塾は、もともと芦屋のI&H本社の大会議室で対面でのライブ形式で行おうと思っていましたが、コロナ対策のためオンラインで行っています。薬剤師塾にライブで参加している皆さんには、できるだけ熱いディスカッションをしていただき、薬剤師塾を盛り上げていただきたいと思います。どうしても自信のない方は所属・氏名、質問内容をチャットに記載してください。何も質問が出なければ、一方向の講演になってしまい、再放送を聞いている方は全く面白くありませんし、私もやりがいがありません。ですから、私の講演を聞いている間に不明な点やご意見などがあれば、積極的に質問して、どうか薬剤師塾を盛り上げることのご協力いただきたいと思います。どうかよろしくお願いいたします。
第21回基礎から学ぶ薬剤師塾では直接の質問は残念ながら皆無でしたが、チャットでの質問、アンケートでの質問をいただきましたので、いつものようにQ&A方式で回答させていただきます。
半減期の延長する薬物=初回通過効果は受けなかったけど、全身循環血が肝臓を通るたびに消失の遅延が生じる薬物(肝でのCYP2C9による代謝を腎不全では受けにくいフェキソフェナジン、
などを思い浮かべるとよいですね。Y軸が対数軸だと半減期の延長が明らかにわかりやすくなります。
チャットでの質問
北上済生会病院 八重樫恭平先生
Q.腎保護の観点からRAS阻害薬を使用する場合、半減期が長いものほど有効でしょうか。
A.あまり考えたことがありません。ACE-Iは腎排泄なので、腎機能が低下するほど半減期は長くなります。半減期の長短により腎保護作用が強力かどうかについてはあまり知りませんが、ACE-Iに関しては汎用されているエナラプリルの活性代謝物35hr、リシノプリル34~39hr、ベナゼプリルの活性代謝物22hrと長いものが多いです。ARBに関してはバルサルタン4~6hr、ロサルタン活性代謝物4hr以外は10hr以上ですが、半減期の長いものの効果が高いとは思えません。RAS阻害薬同士の直接対決のRCTでもやらない限り、どちらが有効かを証明することはできないと思いますが、おそらくやられていないと思います。RAS阻害薬はクラスイフェクトとしてタンパク尿・アルブミン尿のある患者の腎保護を期待できますので、RAS阻害薬を投与するうえではタンパク尿・アルブミン尿の有無の方が重要だと思います。
ファーマライズ薬局 羽村知穂先生
Q1.今のトリプルワーミーのNSAIDsについてですが、例えばカロナールなどの腎排泄ではないものに変更をお願いするのがいいのでしょうか。他の痛み止めだと湿布や外用剤などで対応するしかないのでしょうか。
A.痛み止めはほぼすべて肝代謝薬物だと思います。NSAIDsによる腎障害、その他の副作用を回避するために有効で、NSAIDsよりも安全なものといえば、アセトアミノフェン(米国FDAはこれを推奨)、セレコキシブ(他のNSAIDsよりも腎には優しく心血管系に悪影響しないが、FDAは心筋梗塞が多発したロフェコキシブ事件からか、類薬のセレコキシブを推奨していません)、吸収しにくい外用パップ剤、痛みが強ければトラマドールなどが考えられます。あとはプラセボ効果を期待してノイロトロピン(副作用があったと聞いたことがない)、その他の漢方薬まで含めると選択肢はたくさんあります(図)。
Q2.アバスチンを点滴治療している方でたんぱく尿2+が出てきて血圧も上昇してきた場合、腎機能の保護のためにやはりRAS阻害薬がよろしいでしょうか?ファーストチョイスをしてカルシウム拮抗薬の方がいいのでしょうか?
A.抗VEGF抗体のベバシズマブは高血圧・タンパク尿を起こしやすい分子標的薬です。ベバシズマブ投与によってVEGFが阻害される、あるいはVEGFの欠損によって糸球体内皮障害が起こり、タンパク尿・腎機能悪化をきたします。タンパク尿2+であれば、タンパク尿のある患者での第1選択薬である降圧薬のRAS阻害薬を投与すべきと思います。
ココカラファインヘルスケア 恒吉春香先生
Q.心不全症例で、Triple whammy予防のために、利尿薬をループ利尿薬のかわりにSGLT2阻害薬を提案してみてもいいのでしょうか?そのときに押さえるポイントなどがあれば教えて下さい。
A.SGLT2阻害薬の利尿作用は持続しません。カナグリフロジンの尿量増加は1日のみです。その他のSGLT2阻害薬も糖利尿は持続しますが、Na利尿は初期のみで、尿量増加が期待できるのも短期間です。したがってSGLT2阻害薬は利尿薬の代わりにはなりませんが、利尿効果に関してはループ利尿薬と相乗作用を示しますので、ループ利尿薬を減量できるでしょうし、利尿薬による急性腎障害の予防は期待できるかもしれません(ただし投与初期の脱水には要注意!)。ARNIの利尿作用はANP, BNPの利尿作用(血管拡張作用もあります)によるものなので、SGLT2阻害薬よりも長期的な利尿作用は強いので利尿薬や降圧薬を減量できます。
飯塚病院 田先先生
Q.利尿薬によるトリプルワーミーのリスクはループ系とサイアザイド系で差に関する報告などはありますか?
A.トリプルワーミーの原因薬としての利尿薬は一般的には利尿降圧薬(利尿作用のある降圧薬)として投与され続けるサイアザイド系を指しているのだと思います。利尿作用がメインで降圧作用の弱いループ利尿薬は浮腫や心不全の呼吸困難などの症状があるときに短期間使います。半減期が短く降圧作用も弱いため、腎機能が悪化してサイアザイド系が効かない腎不全患者にしか降圧薬として使うことはありません。ループ利尿薬の利尿作用は非常に強力なため、当然、脱水をきたしやすく腎機能悪化リスクは高いとは思いますが、このように使用方法が異なりますし、使用対象患者も異なりますので、AKI発症リスクを比較できないと思います。
みきやま病院 田中先生
Q.体重が30kg程度で、シスタチンによるeGFRが30ml/min台の高齢者に経口抗菌薬を投与する場合、クレアチニンクリアランス30ml/min以上あれば減量の必要なしとなっているものは、減量せず通常投与量を投与した方がよいでしょうか。腎臓に関してアレルギー性の障害が多いなら、セフェム系やペニシリン系は副作用を心配して減量する意味は乏しいでしょうか(本題からやや外れた質問ですいません)
A.感染症は急性疾患ですので、「腎機能が低下していても用量依存的な副作用のないβラクタム系は積極的に投与すべし。初日投与量は腎機能が低下していても常用量投与すべし」というのが持論ではありますが、体重が30kgの高齢者というのであれば、一般成人の1/2の体重と考え、初日投与量は1/2の用量で十分です。その後は使用する抗菌薬の尿中排泄率によって用量・投与間隔を調整します。βラクタム系は安全とは言っても腎機能の低い後期高齢者に常用量で投与し続けるとけいれんなどの中枢症状は起こりえます。
保険薬局の先生方に気を付けていただきたいのはCCr<30で禁忌となっている場合、CCr≧30であればOKと考えCCr31mL/minであれば静観し、CCr29mL/min になれば疑義紹介する「デジタル薬剤師」にならないことです。同様に腎機能別用量がCCr<30で1000mg、CCr≧30の用量が2000mgであった場合であってもCCr29mL/minとCCr31mL/minの腎機能に差があるとは思えませんので、1人1人の患者さんの腎機能の変化、病態の変化を1点のみでとらえるのではなく、間を取って1500mg程度が適切用量だと考えてください。あとは腎機能がよくなりつつあるか、悪くなりつつあるかを観察していただき、そして体格も考慮したうえで用量を決めていただきたいと思います。
I&H株式会社 那須裕之先生
Q.外用ビタミンD3製剤について、①オキサロール以外も腎機能障害のある人に使用しないほうがいいですか?②NSAIDsの代わりにアセトアミノフェンを使うように、何か代用薬はありますか?
A.添付文書上では腎機能低下患者に外用活性型ビタミンD軟膏の全身塗布は禁忌ではありませんが、お見せしました平山先生の表では(表)、もともと腎機能の低下している症例(赤色)は極めて速やかに腎障害を発症しています(発症順に①②③④で示しています)。血清クレアチニン値は2~4週間に1回測定されると仮定すると①8日目、②12日目、③17日目、④18日目に腎機能が悪化したと考えるよりも、たまたま8日目に測定したから腎機能悪化を発見でしただけで、もっと速やかに腎障害が進行していた可能性は大いにあると考えられます。そのため、腎機能低下患者には外用活性型ビタミンD軟膏を全身塗布すべきではないと思います。ほぼすべての急性腎障害発症のリスク因子で最大のものは「既存の腎機能低下および高齢者」であることを肝に銘じていただきたいと思います。
ステロイド軟膏は抗炎症作用を期待して投与されますが、皮膚委縮や毛細血管拡張、感染症を誘発するとされており、活性型ビタミンD軟膏は強皮細胞の増殖抑制、分化誘導作用を期待して投与されますが、効果発現までに時間がかかると理解していますが、皮膚科で使用する薬剤についてはあまり詳しくないため、活性型ビタミンD軟膏の代用になる薬剤についてはよく知りません。申し訳ありません。
アンケートでの質問
国際医療福祉大学病院 大矢智則先生
Q.答えを聞き漏らしていたら申し訳ありませんが1点ご教示ください。講義の中でエディロールなど活性型VD3製剤の処方について整形外科医に中止を求めるという内容がありました。骨粗鬆症の予防にはエビデンスありませんが治療に対してはガイドラインによる推奨のある中で、薬剤師は骨粗鬆症があっても腎機能障害リスクや潜在的腎障害リスクと判断したら活性型VD3製剤の中止を提案すべきでしょうか?それとも講義中にありました定期的な腎機能モニタリングなどを提案すべきでしょうか?
A.「活性型VD3製剤の処方について整形外科医に中止を求める」とは言っておりません。活性型VD3製剤の添付文書上では定期的な血清Ca濃度のモニタリングが必要なのに、整形外科の先生方は一般的に採血をしていただけないことが多いのです。それによって特に後期高齢女性で高カルシウム血症による多尿・脱水から腎機能低下が起こると一般内科から腎臓内科に紹介入院になることが多いのです。閉経後骨粗鬆症に活性型ビタミンDの投与は必要です。ただし投与後の副作用モニタリングも必要だと言いたかったのです。間違って伝わっているとすれば、ごめんなさい。何も起こっていないのに活性型VD3製剤の処方を整形外科医に中止を求めることはあり得ません。
所属・氏名を記していただいた質問でしたが、厳しめの回答になったため氏名の公表を差し控えさせていただきます。
Q.小柄な高齢の女性は急性腎障害に注意とありましたが、日常の投薬設計時に理想体重補正したクレアチニンクリアランスを計算して、禁忌に達していたらDr.に疑義紹介しているのですが、この時に小柄な高齢の女性の患者さんの場合は本当に腎機能が悪いのか、体が小さい(体重補正すると尚一層なのですが)過小評価しているのか判断に迷う時があります。特にDOACなどの止めるのもリスクのある薬の場合判断に迷います。又、体の大きな男性高齢者でも寝たきりの状態であれば、クレアチニン値が低い時は0.6を挿入したりしています。この事について平田先生のご意見をお聞かせ頂けると幸いです。
A.クレアチニンクリアランスの推算式(CG式)は加齢に伴い直線的に低下する式なので(図)、フレイルなどの高齢者には過大評価になりがちなeGFRに比べ一般的にフィットしやすいです。CG式で最も考慮すべきポイントは肥満患者で過大評価しやすいことだと思います。その時には理想体重を使うこともありますが、多くの場合は補正体重の方がベターだと思っています。小柄な高齢女性でCG式に理想体重を代入する意義はないと思います。また血清クレアチニン値の代わりに0.6を代入するラウンドアップ法をCG式で使うと、これも腎機能の過小評価になってしまい、薬用量が少なすぎて効かなくなる恐れがあると思います。僕自身は腎機能が評価しにくい痩せて小柄な超高齢者ではeGFRは過大評価されがちなので安全性を考慮してラウンドアップ法を使うのはやむを得ないとは思いますが、CG式のラウンドアップはお勧めしません。
補正体重(Adjusted body weight:補正体重(kg)= 理想体重+[0.4×(実測体重-理想体重)]
これも所属・氏名を記していただいた質問でしたが、厳しめの回答になったため氏名の公表を差し控えさせていただきます。
Q.心不全増悪で入院の80代後半、非透析患者様で、eGFR(Cy)一桁、フロセミド20mg1T/1x、タケルダ、ベラパミル40mg3T/3x、ジャヌビア12.5mgなどを服用中でした。利尿薬調整後に改善し退院が決まった一方血圧は上昇してきたため、中止していた持参薬テルミサルタン20mg2T/2x再開を医師に打診すると、「腎血流量減ってさらに腎機能悪くなるのでは」と。このとき薬剤師としてどうするべきだったか考えています。例えばガイドラインで推奨される薬剤でも、弱った高齢者に追加することでdouble whammyによる腎機能低下が危惧されるジレンマに遭遇したとき、薬剤選択について指針となる考え方はございますでしょうか?
利尿薬やNSAIDsの併用がなければ、弱った高齢者でもACE阻害薬/ARBの腎保護作用は期待できると考えてよいですか?お忙しいところ恐縮ですが、ご教授頂けますと幸いです。
A.eGFR(Cy)一桁ということは末期腎不全で透析導入間近の症例ですね。RAS阻害薬を持続すると糸球体過剰濾過を抑制して、透析導入が早まることを懸念して主治医はテルミサルタンを中止したのではないかと思います。RAS阻害薬は蛋白尿・アルブミン尿のある患者、慢性心不全患者では非常に頼りになる薬ですが、一方で、腎機能が悪化し高カリウム血症を起こしやすい降圧薬です。そういうリスクの高い患者さん(特に腎機能の低下した後期高齢者)で降圧薬が必要であれば、腎虚血による悪影響を及ぼさないCa拮抗薬の方が、使いやすいと思います。
第 20回 基礎から学ぶ薬剤師塾 Q&A
腎機能低下時に減量が必要な薬
~根拠は尿中排泄率だけじゃない~
前回の基礎から学ぶ薬剤師塾「腎機能低下時に減量が必要な薬~根拠は尿中排泄率だけじゃない~」はむつかしかったというアンケート結果が多かったです。おそらく前半はいつも話している腎排泄性薬物による副作用なので優しかったのでしょうが、非腎クリアランスの低下する薬は「このCYPが問題!このトランスポータが問題だ!」などと言い切ることができないため、まとめにくい内容です。それでもCYP2C9基質は腎不全・尿毒素の影響を受けやすいということがある程度、予測できるようになったことを中心にまとめさせていただきました。
バイオアベイラビリティが低下する薬物、半減期の延長する薬物も難しかったかも?
バイオアベイラビリティが低下する薬物=小腸における初回通過効果(CYP3A4)を受けにくいか、肝における初回使用効果を受けにくい薬物=投与量を増やしたのと同じ
半減期の延長する薬物=初回通過効果は受けなかったけど、全身循環血が肝臓を通るたびに消失の遅延が生じる薬物(肝でのCYP2C9による代謝を腎不全では受けにくいフェキソフェナジン、
肝臓に取り込むOATPが腎不全では機能しないため肝代謝が遅延するエリスロマイシン)
などを思い浮かべるとよいですね。Y軸が対数軸だと半減期の延長が明らかにわかりやすくなります。
講演後のアンケートでいただいた質問
ファーマライズ薬局株式会社 羽村知穂先生
Q1.内容としてとても面白かったのですが、やはり難しく感じました。薬物の中で腎排泄のものが肝代謝より少ないので腎を覚えてというのはとても参考になりました。ただ覚えることが多いのでまずは代表的な薬品の尿中排泄率を覚えていくのがいいのでしょうか?
ただ肝臓で代謝された活性代謝物も腎排泄として腎機能低下している方は蓄積により副作用の上昇を考えなければならないというところでまずは高齢で小柄の方、腎機能低下がある人は注意という着眼点でいくのがいいのでしょうか?
A.リスクの高い腎排泄性薬物を覚えてゆけばよいでしょう。日本腎臓病薬物療法学会(JSNP)では学会HPに「腎機能低下時に最も注意が必要な薬剤投与量一覧」を掲載していますが、これだけでも236薬品あります。じほうから発売されている腎機能別薬剤投与量 pocket book 第4版または学会HPで会員のみが閲覧可能な「腎機能別薬剤投与量一覧」では◎になっているものが最重要となりますが、これは「腎機能低下時に最も注意が必要な薬剤投与量一覧」に載っているものはすべて◎です。236薬品ってすごく多いですが、同一薬効でヨード造影剤やアミノグリコシド系抗菌薬など薬効を基準に見てみると意外と共通点があります。ポケットブックでは次に重要な薬物は〇、気を付けていただきたいものは△にしていますので、この順に重要と考えていただくとよいでしょう。腎排泄性ではなくても活性代謝物が蓄積しやすいハイリスク薬物のSU薬も◎にしていますが、グリクラジド(グリミクロン)は〇です。
そして副作用のターゲットになりやすいのは体格・腎機能が小さいのにそのどちらか、あるいは両方を考慮せずに投与してしまった場合が最も起こりやすいです。それが「小柄な後期高齢女性」です。講義でも説明したとおり、プレガバリンもバラシクロビルもシベンゾリンも小柄な後期高齢者で副作用が頻発していいますから。
Q2.グリーンブック並びにポケットブックは、2024年の9月までに入会すればもらえるとおっしゃっておりましたが、今年入会しても来年になるという認識でよろしいのでしょうか?
A.JSNPの会計年度が8月31日ですから、2022年8月31日までに入会していた方には4月頃にグリーンブック、9月頃にポケットブックが郵送されました。2023年の作成予定はありませんので、2024年の8月末までに会員になっていれば(必ずしも2023年8月末に会員でなくても)、グリーンブック(特別号改訂5版)並びに新規改訂版の腎機能別薬剤投与量 POCKET BOOK 第5版がもらえます。
I&H 運営管理課 那須裕之先生
Q.プレガバリンを腎機能の低下した患者に投与する際、添付文書の表記に従うと過量になるリスクがあることをご解説いただきました。ミロガバリンはいかがでしょうか?ミロガバリンについても添付文書に記載があります
A.申し訳ありません。医中誌およびPubMedで比較しようとしましたが、ミロガバリンは米国では発売されていないようで情報が不足しており、私自身も経験がありませんので、全くわかりません。
そのほかにも質問がありましたが、ご質問される場合には、所属と氏名のご記入をお願い致しておりますので、所属・氏名が不明な場合は、お答えできません。今回は講演後の質問はありませんでしたが、薬剤師塾の理想は氏名・所属を明らかにしたうえでのディスカッションを目指していますので、よろしくお願いいたします。
平田への講演依頼に関しましては平田のメールアドレス
hirata@kumamoto-u.ac.jp までお気軽にご連絡ください。
第 19回 基礎から学ぶ薬剤師塾 Q&A
腎機能悪化を防ぐこれからのtriple therapy
~SGLT2阻害薬、ARNI、MRAの適正使用について考える~
講演中にいただいた質問
I&H株式会社 那須裕之先生
Q1.心不全患者にSGLT2阻害薬を投与する際の「こまめな飲水」は具体的には何時間おきにすればいいのですか?
A.重症の心不全では心不全患者の心不全悪化による入院理由で溢水による呼吸困難などはよくあることで、ループ利尿薬を投与して症状が軽減したら退院します。このような症例に対して、飲水励行はしません。ただし心不全患者の多くが高齢者(口渇中枢の機能が低下している)であることを考慮すると、飲水量は少なめであっても「こまめな飲水」をしてもらわないと、SGLT2阻害薬の副作用である脱水(とそれに伴う腎機能悪化)、性器感染症、糖尿病性ケトアシドーシスになりやすくなりますので、医師の指示した1日飲水量、例えば冬では1日1.2L程度、発汗の多い夏にはより多め水をのどが乾いていなくても少量ずつ飲んでいただくことになります。具体的に1~2時間おきでしょうか。起床時やお風呂上がりにも飲んでいただきましょう。むくみ(足背部の圧痕性浮腫pitting edema:図1)、体重増加、息苦しさがあれば飲水量を少なめに、逆に脱水(皮膚の張り:図2、口腔内乾燥のチェック、爪毛細血管再充満時間≧2秒(表)など)、体重減少などがあれば多めの飲水を心がけてもらってもよいでしょう。
Q2.SGLT2阻害薬による尿糖排泄作用はずっと持続するはずなのに、カナグルⓇの利尿作用は1日のみなのはなぜですか?
A.SGLT2阻害薬後の尿量変化の報告が少ないので、明確ではないのですが、カナグルⓇに関しては初日にプラセボに比し、尿量の増加が認められましたが、この効果は2日目以降には消失したと報告されており1)、カナグリフロジン、ダパグリフロジン、エンパグリフロジンともに投与1日目には尿量が増加するものの、7日目には投与前と同じになる(7日以内に利尿が消失しているのは確かだがいつ利尿作用が消失したかは不明)という報告もあります2)。ダパグリフロジン投与後尿中グルコース排泄量は1週間かけて有意に増加し、尿量は、尿中Na排泄量、尿中Cl排泄量は0日目に比し、2日目に増加したものの、7日目には元に戻った3)。ダパグリフロジン投与後の尿量は7日間にわたり数値的に増加した4)など、報告によって異なります。一方、エンパグリフロジン投与後、800~900mL/日の増加5)がみられた、あるいはエンパグリフロジンの利尿はフロセミド併用によって6週間後も続く6)ことが報告されていますが、これらはいずれもループ利尿薬が併用されています。ループ利尿薬との併用効果は尿中Na排泄量の増加を伴わずに24時間尿量を有意に増加させたことが報告されており6)7)、SGLT2阻害薬とループ利尿薬の併用時の尿中Na排泄分画(FENa)の増強は、単剤投与時に比べて4倍以上であったことも報告されていることから、SGLT2阻害薬とループ利尿薬は相乗作用を示すと考えられ6)、SGLT2阻害薬投与初期及びループ利尿薬併用時には脱水に要注意と思われます。ということでSGLT2阻害薬の利尿作用、Na排泄作用は一過性であるが、薬によってその持続時間は異なるかもしれません。ただしSGLT2阻害薬投与後の尿糖排泄促進作用は持続します。Na利尿は投与初期には認められますが、早期に減弱します。例えばエンパグリフロジン、ダパグリフロジンのNa排泄促進作用は3日以内6)、7日以内には消失します3)。
まとめますと投与2日を超えると7日目でほぼ利尿作用がなくなるという報告もあれば、1か月くらい利尿作用が続く症例もあるようです。概してSGLT2阻害薬投与初期にみられた尿量増加は、持続的にはみられないことが多く、SGLT2阻害薬投与時の尿量は飲水量が規定因子となるため、飲水量や回数を過度に増やすことは頻尿や尿量増加につながります。脱水の副作用は8つのRCTのメタ解析で8)、SGLT2阻害薬群で有意となった副作用の1つであり、発症率も高いため、利尿作用がどれくらい持続するかは重要な問題ですが、今のところ尿量の持続に関する報告は限られています。
SGLT2阻害薬の利尿作用が持続しないメカニズムについては動物実験ではありますが、髄質の尿素増加9)とアクアポリン210)およびバソプレシンV2受容体のタンパク質発現量が増加11)してバソプレシンを介した水再吸収によって、SGLT2阻害薬を継続投与すると、その利尿作用は持続しないと考えられています。Na利尿に関しても近位尿細管でSGLT2阻害薬がNaの再吸収を阻害しても、遠位部でNaを再吸収して低ナトリウム血症になるのを防いでいるのだと思われます。ただしブドウ糖については近位尿細管以外に再吸収部位がないため、糖利尿は持続するのだと思います。
引用文献
1)Tanaka H, et al,: Adv Ther 2017; 34: 436-51
2)Nakagaito M, et al: Circ Rep 2019;1:405-413
3)Masuda T, et al: POJ Diabetes Obes 1: 1-8, 2017
4)Ohara K, et al: Nephrology. 2019 ;24:904-911.
5)Damman K, et al: Eur J Heart Fail. 2020 Apr;22(4):713-722. doi: 10.1002/ejhf.1713.
6)Mordi M, et al: Circulation 2020; 142:1713-1724.
7)Damman K, et al: Eur J Heart Fail. 2020 Apr;22(4):713-722. doi: 10.1002/ejhf.1713.
8)Qui M, et al: Diab Vasc Res Mar-Apr 2021;18(2):doi: 10.1177/14791641211011016.
9)Marton A, et al: Nat Rev Nephrol 17: 65–77
10)Chung S., et al: Front Physiol 10, 271. 10.3389/fphys.2019.00271
11)Masuda T, et al: Physiol Rep 8 , e14360. 10.14814/phy2.14360
沼津市民病院 平野雄一先生
Q.フィネレノン投与時に注意すべき点は?
A.フィネレノンはMRAの中では高カリウム血症を最も起こしにくいと言われていますが、やはりMRAなので、高カリウム血症です。投与初期の腎機能悪化initial dippingはSGLT2阻害薬と比べると非常に軽度ですし、降圧作用・利尿作用も弱いので、ARNIのように過降圧や利尿作用による脱水もあまり問題にはなりません。
講演後のアンケートでいただいた質問
平成横浜病院 廣瀬里美子先生
Q.CKD以外の腎機能の低くなりつつある人たちにもSGLT-2阻害薬は効果があるのであれば、日常症状を感じないのに健康診断で腎機能があまりよくない予備軍の人たちは受診して服薬していくという未来もあるのでしょうか。これで日本の、医療や世界の医療費が軽減するなんて感動します。
A.SGLT2阻害薬は蛋白尿またはアルブミン尿があって腎機能が低下した症例で、腎保護作用が非常に強力になるとされますので、それのない疾患、つまり高血圧が持続すれば腎機能が低下しますが、そのような腎硬化症予備軍が加齢に伴いCKDになっても大きな効果を示しにくいかもしれません。ただしSGLT2阻害薬は長寿遺伝子を活性化させる作用や酸化ストレスを軽減し抗炎症作用を持つなど、腎疾患、心疾患を持たない方にとっても様々な健康増進作用が期待できるかもしれません。
北見赤十字病院 加藤理愛先生
Q.ARNIの腎保護効果はアルブミン尿と関係しないのはなぜでしょうか?
A.Voors AA, et al: Eur J Heart Fail 2015; 17: 510-517の結果に基づいて、36週間後のARNI群の腎機能悪化は-1.5mL/min/1.73m2、バルサルタン群は-5.2mL/min/1.73m2でARNIの方が有意に腎機能悪化速度が緩やかでした(調整後のP = 0.002:図1)が、ARNIの尿中アルブミン/Cr比の幾何平均値はARNI群で増加した(2.1-4.0mg/mmol)のに対し、バルサルタン群では横ばいに推移した(1.5-2.6mg/mmol、36週間の差に関するP=0.016:図2)で2つの介入群間でUACRに有意差が生じました。これって2.1-4.0mg/mmolは18.6-35.4mg/gCrにあたり、1.5-2.6mg/mmol は13.3-23mg/gCrにあたります。尿中アルブミンは30mg/gCr未満は正常ですので、ARNI群はバルサルタン群に比し有意にアルブミン尿を増やしたのは確かですが、単位に騙されました。アルブミン尿はARNIを投与しても平均値としては正常域内です。大変失礼いたしました。図2は意味ないですね。
北九州宗像中央病院 高田由美子先生
Q.eGFRが30前後でHbA1cは6.7前後、ジャヌビアⓇを50mg服用中です。このままで続けるか、SGLT -2を追加するか、SGLT-2に変更するか、処方提案をどうしたらいいか悩んでいます。先生はいかがお考えですか?
A.この症例の年齢、BMIが知りたいです。後期高齢者でBMIの低い症例には使いにくいと思います。
それとSGLT2阻害薬はeGFRが25mL/min/1.73m2未満の患者では、効果が期待できるかどうかについてもよくわかっておりませんし、フィネレノンも高カリウム血症のリスクがあるため、eGFRが30前後の症例に積極的な処方提案はしにくいと思います。
2022年10月24日 アスヤクlife研修会 Q&A
今回、私の声が聞きにくかったというアンケート結果が多かったようですが、これは私のテンションが低かったからではなく、おそらく機器上の問題だと思います。音が小さいということが早めに分かっていれば、ヘッドセットを交換してみるなどの手段が取れますので、今後はチャットなどを利用して指摘していただければ幸いです。
Q.リオナで、便が鉄臭く、便器にもつくので飲みたくない患者さんが数名いましたが、リオナはタール便ではないのですか?
A.鉄剤による便はタール便ではなく、黒色便です。タール便と黒色便との違いは講演中に述べた通りです。鉄を含む薬剤(特にピートルⓇ)では下痢しやすくなりますし、鉄臭い便が排泄されることはありますが、タール便は消化管出血によるものなので、血液を大量に含み、もっともっと鉄臭く、気色悪いです。
Q.カルタンを服用中にPPIが追加処方された場合、P値に影響がなければそのままカルタンを継続が通常ということでしょうか。それとも念のため他のリン吸着薬に変更していくのでしょうか。
A.カルタンⓇを投与しているのは、低カルシウム血症で高リン血症などのそれなりの理由があると思われます。私の経験ではカルタンⓇ投与中に著明にリンが上がる方はそんなに多くはありません。そのようにリンの上がりやすい方には他のリン吸着薬に変更していただき、血清Ca濃度を上げる必要があるなら活性型ビタミンDの増量などの工夫が必要と思います。
Q.リンを健常者並みにコントロールした方が予後が良いという報告も見かけましたが、先生はどの様に考えますか。
A.私もリンを健常者並みにコントロールした方が予後が良くなると思っています。食事が十分摂れないためにリンが低い方はやせて栄養状態が不良なため、アルブミン濃度も低下し免疫能も低下しますので、感染症などによる死亡率が高くなります。そのため総合的なデータでみるとリンの低い人は死亡率が高くなります。ただしもしも十分な栄養をしっかり摂れている人であれば、3.5~5.0mg/dL程度の低い方がいいです。低すぎはよくありません。
Q.リン吸着力が強い薬剤がたくさん出てきているのに、レナジェルやキックリンの10錠以上/回を選択する理由にどんなことが考えられますか。
A.それは患者さんが下痢気味なのでこれらのポリマーを選ばれたのか、医師の好みか、患者さんの好みかによると思います。鉄が充足していて(フェリチン<300ng/mL)、リオナⓇ、ピートルⓇが投与できない、ホスレノールⓇはむかつきがあるため服用できないなどの問題があるのかもしれません。
Q.腎機能CCrが40台 70代高齢の患者様で徐々に腎機能低下しているのですが、便秘の症状があり酸化マグネシウムが1日3回でよく効いていたのですがどの程度腎機能が下がったら他の薬剤に切り替えるのがいいのでしょうか?血清マグネシウム値などを見ながら考えればよろしいのでしょうか?
A.血清マグネシウム値をモニターしながらなら、酸化マグネシウムは腎不全患者さんにでも透析患者さんになってでも使えます。ただしさすがに3~6g/日の大量を処方する医師はいないはずです。血清Mg濃度の基準値は1.8~2.6mg/dLとなっていますので、2.6mg/dLを超えると「高マグネシウム血症」と決めつけてはいけません。透析患者の血清Mg濃度は2.7-3.0mg/dLで有意に全死亡が低下したという報告(図1)1)、高リン血症に伴う心血管死亡リスクの上昇は、血中Mg濃度の低い群(血清Mg濃度<2.7mg/dL)では顕著であったが、血中Mg濃度が高くなるにつれてリスクは軽減され、特に血中Mg濃度高値群(血清Mg濃度≧3.1mg/dL)では血中リン濃度が上昇しても死亡リスクは有意な変化を示さなかった(図2)という報告があります2)。さらに血清Mg濃度が低いほどインスリン抵抗性が大きくなることも報告されています3)。Mgは心血管病変を防ぐために重要な元素なのです。ただし定期的なモニターをしていない施設では高マグネシウム血症(図3)を避けるため、腎機能低下患者にMg剤を漫然と投与すべきではありません。
引用文献
1)図説 我が国の慢性透析療法の現況 2014年12月31日現在
2)図説 我が国の慢性透析療法の現況 2015年12月31日現在
3)Chutia H, Lynrah KG: J Lab Physicians 7:75-78, 2015