薬剤師塾Q&A

第 12回 基礎から学ぶ薬剤師塾 Q&A
腎臓が何をやっているか ~尿細管編 ようこそこの複雑で精密な世界へ ~

 

ゴダイ薬局 足立和夫先生
唯一、声を出していただいたご質問です。ありがとうございます。下記の内容だったと思いますが、記憶間違いしていればごめんなさい。

Q.フロセミドとアルブミンを併用する臨床的な意義は?
A.ネフローゼ症候群では糸球体が壊れて尿中にアルブミンが漏れ出るため、そして肝硬変では肝臓でのアルブミン合成ができなくなるため、低アルブミン血症になって血管外の水分を血管内に引き戻すことができず、ネフローゼは全身浮腫、肝硬変では腹水ができやすくなります。ループ利尿薬のフロセミドは非常に強力な利尿薬ですが、低アルブミン血症の時には、フロセミドを大量投与しても効きにくくなります。特に肝硬変の腹水などのサードスペース(非機能的細胞外液)を形成すると利尿薬は効かなくなります(図1)。消化管浮腫のためフロセミド上の吸収率が低下することがありますので、静注投与に切り替えてみるのもよいでしょう。サイアザイドを加えてみる、トルバプタンを加えてみる、半減期が非常に短いですからフロセミドを頻回投与するのもありだと思います。また血清アルブミン濃度が2.0g/dL前後の著明な低アルブミン血症などで、フロセミドの利きにくい浮腫(医師はよく「硬い浮腫」と言います)に対してアルブミンを併用すると著効します。

血中のアルブミンは血管外にしみ出た水分を血管内に引き戻す働きがありますが、これはアルブミンによる膠質浸透圧の作用によるものです(図2.3)。アルブミン製剤と一緒に投与すると間質液に貯留した水分を膠質浸透圧の力(スターリングの法則)で血管内に引き戻し、循環血漿量を増加させてめざましい利尿効果を上げることができます。しかしこれは一時的な効果なので、高価なアルブミン製剤を大量に使うことは問題があり、尿中アルブミン排泄増加に伴う腎機能悪化も考えられるため、アルブミン製剤の過度の使用は慎まなければならないとされています。

フロセミドは腎臓の濾過装置の糸球体によって濾過された後(後述しますが蛋白結合率が高いため遊離型濃度は低いです)、あるいは近位尿細管のOAT2を介する尿細管分泌によって、蛋白結合していない遊離型のフロセミドが尿細管のヘンレの係蹄に働いて利尿効果を現わします。しかしネフローゼ症候群が悪化した時にはアルブミンも同時に濾過装置である糸球体から漏れやすくなるため、尿細管内から漏れ出たアルブミンがフロセミドと結合して利尿作用を減弱してしまうという説がありますが(フロセミドの蛋白結合率は91~99%と高いため)、蛋白競合する薬物を併用しても利尿作用が強力にならなかったということで否定する論文もあります1)。平田は蛋白競合による相互作用はないと考えていますので(総濃度は低下しても遊離型濃度は変化しない)、尿中に漏出したアルブミンとフロセミドが結合して受容体に結合しにくくなり、利尿作用が低下する説は「あり」だと思っています。いずれにしても高価でヒトの血漿由来の高価なアルブミンを尿中に捨てるのはもったいですし、効果も減弱する可能性があるためネフローゼ症候群の時にはアルブミンを併用しません。

【ポイント】
ネフローゼの悪化によりアルブミンは糸球体基底膜を通過しやすくなり尿細管腔内濃度が上昇する。フロセミド(ラシックス®)の受容体は尿細管のヘンレ係蹄上行脚の管腔側にあるため、尿中に漏出したアルブミンとフロセミドが結合して受容体に結合しにくくなりラシックス®が効きにくくなるかもしれない。

1)Agarwal R, et al: J Am Soc Nephrol 2000; 11: 1100-1105


望星北浦和薬局・鈴木寛美先生
チャットでの質問

Q.「SGLT2阻害薬の、慢性腎臓病に対する投与量について、保険調剤の捉え方に関してご教示ください。
自身の勤務薬局が受ける腎臓内科処方せんにて、SGLT2阻害薬は、副作用回避のため、適応より少ない量(糖尿病に対する小さい規格の投与量)にて開始されることが多く、ほとんどのケースではそのままの量で継続されております。処方せんに検査値の掲載はまだなく、効果の判定はどのように行えばよいのか、投与量の増量は不要なのか疑問です。薬局薬剤師として、どのような関与が必要であるか、ぜひ教えていただければ幸いです。」

A.SGLT2阻害薬は初の大規模無作為化試験EMPA-REG OUTCOME試験で用いられたエンパグリフロジンの用量は10mgと25mgの2用量がプラセボ群と比較されましたが、10mgと25mgで全く差がないため、「腎保護作用・心保護作用については用量依存性はない」とされており、これは他のSGLT2阻害薬でも同じと思われています(ただしSGLT2阻害薬の尿中ブドウ糖排泄、血糖降下作用、尿酸低下作用は用量依存的です)。だから個人的には増量は不要ではないかと思っていますが、ダパグリフロジンの用量は5mgと10mgがありますが、10mgを用いて腎保護作用を見たDAPA-CKD試験や10mgを用いて心保護作用を見たDAPA-HF試験によって定められた保険用量は当然10mgのみになります。ですから糖尿病に用いていて用量が少ないと判断して、増量することは可能ですが、非糖尿病の心不全やCKDに対して用いる場合には定められた用量を変えることはできません。慢性心不全にエンパグリフロジンを用いた大規模試験EMPEROR-Reduced試験ではエンパグリフロジン10mgが用いられたため、10mgしか使えず、25mgに増量することはできません。これが慢性心不全で少量から漸増して最大用量を用いるβ遮断薬やRAS阻害薬とSGLT2阻害薬の異なるところです。

効果の判定はCKDではアルブミン尿やGFRの傾きの変化、心不全ではBNPの値の変化、自覚症状の変化など様々です。薬局薬剤師としてのSGLT2阻害薬に対する取り組みは非常に重要です。8つの大規模無作為化試験のメタアナリシスではSGLT2阻害薬の投与によって有意に増加した副作用は糖尿病性ケトアシドーシス(発症率0.22%)、性器感染症(3.8%)、脱水(4.5%)の3つのみです。性器真菌感染症は特に活動度の低い患者で多く、温水洗浄便座を用いる、尿量を気にして飲水を制限しすぎず、適切な飲水によって自浄作用を促すなど陰部を清潔に保っていただく指導が重要です。脱水をきたさないようこまめな水分摂取を促す服薬指導、そして稀ではありますが、重篤な糖尿病性ケトアシドーシスがありますので、糖尿病患者さんには厳格な糖質制限やカロリー制限はしないよう、ここでも「こまめな水分摂取」を指導することが重要になります。それと尿糖の排泄を促進して、痩せる薬ですから、サルコペニアやフレイル患者さんには投与すべきではないことも知っておきましょう。

 


薬師山病院 渡部孝太郎先生

Q1.薬剤の排泄過程で、脂溶性・水溶性の懸念があると思いますが、どの程度の分配係数であれば脂溶性薬剤または水溶性薬剤と評価してよいか、ご教示いただけますか。

A.医薬品のインタビューフォームを見ていただければわかると思いますが、分配係数は各社、各医薬品によって測定方法が異なります。多くはn-オクタノール/水分配係数 pH7.4に統一していただきたいのですが、様々な理由によりクロロホルムを使ったり、pH7.0を使ったり、統一性がありません。

平田自身ではn-オクタノール/水分配係数 pH7.4で比較すると10以上(Log>1)であれば肝代謝薬物(プロプラノロール、リドカイン、メチルプレドニゾロンなど)、0.1未満(LogP<-1)であれば腎排泄薬物(アシクロビル、テイコプラニン、エナラプリル)のような脂溶性と水溶性の分岐点のようなイメージを持っていますが、これはきれいに分かりやすい薬物を例示したまでで、実際にはこのようにきれいに分類できるものではありません。だから分配係数だけで正確に脂溶性薬剤または水溶性薬剤と評価することはむつかしいですが、薬物動態の考え方の補助因子として使える可能性はあります。薬物動態パラメータの中でもVdは臨床的には投与設計に使いやすいほうですが、CLは健常者であっても遺伝的な個人差が大きいため、使いにくいですよね。

Q2.加齢に伴い腎機能は低下していくかと考えますが、加齢に伴う正常な腎機能の低下もCKDのような病態と捉えても構わないもの良いのでしょうか。

A.加齢に伴い腎機能は低下します。つまり腎炎や糖尿病などの腎疾患がなくても高齢者は進行性に腎機能は低下します。1つの理由として加齢とともに心機能が低下することです。心機能が低下すると腎血流量も低下しますので、心臓と腎臓はつながっている。これを心腎連関と言います。そのほかにも加齢とともに柔らかかった血管が徐々に動脈硬化気味になります。その顕著な例が腎硬化症ですが、血圧が高い、塩分摂取量が多い、タバコを吸っているなどの様々な影響により、腎機能の悪化は促進します。

加齢とともに末梢の細動脈圧は上昇し、動脈硬化が進行し細動脈の内腔はリモデリングによって狭窄して腎血流量が低下して、糸球体での濾過能力が低下しますが、このリモデリングに関わっているのがレニンアンジオテンシン系(RAS)のアンジオテンシンⅡやアルドステロンです。腎血流量が低下しているのに、糸球体濾過量がある程度保たれているのはネフロン数は減少しているのに、RASの亢進によって正常に機能している数少ない糸球体に負荷がかかっているためと考えられます()。だから若年者で腎炎や糖尿病性腎症でCKDになった人と同じように、高齢者もネフロン数は減少し続けます。つまり、加齢に伴う正常な腎機能の低下も広い意味では、CKDのような進行性の病態と捉えても構わないと思います。


九州労災病院 重見貴子先生

Q.危険性は充分承知しておりますが終末期のNSAIDS使用は、やむを得ず、利益も大きいと考えます。もちろん臓器障害によるあらたな苦痛を生む可能性もありますが、実際ご逝去される最後の時間まで腎不全にいたることなくオピオイドとともに力になることが多いようにおもっています。
モルヒネに限ってはCCr30(実測値ではございません)のCKDであっても注射製剤は活性代謝物蓄積はあっても量に注視すればかえって苦痛なく使用できる場面もございます。
リリカやミダゾラムなどと異なり、活性代謝物の主作用が強度でない場合・許容できる場合は問題ないのであれば、躊躇なく提案してもよろしいものか、それとも筋肉量の低下で数値異常のCKDは進行しているととらえて一切使用すべきでないのか尿細管障害がでていない腎障害に関しまして、今後のご講義の中でご教授賜れればと存じます。

A.僕が薬剤師をやっていた2005年まではモルヒネしかがんの疼痛緩和に用いられる強オピオイドのラインナップはそろっていませんでした。そして透析患者さんに使っていましたし、そんなに使いにくいとも思っておりませんでした。でも今はせん妄を起こしにくい強オピオイドのフェンタニルやオキシコドンが使えるようになったので、腎機能低下患者にはあえてモルヒネを使わなくてもいいのではと思っています。

NSAIDsはアセトアミノフェンと異なり、抗炎症作用があります。だから痛風のような急性疼痛については間違いなくNSAIDsを使用すべきでしょう。しかし後期高齢者で膝や腰が慢性的に痛む方やがん患者さんにずっとロキソプロフェン3錠×30日分の漫然処方はいかがなものでしょうか?僕は腎臓が専門なので、腎障害の話をしていますが、実臨床で最も悩ましいのは胃障害と消化管出血だと思っています。後期高齢者は胃も弱っていますし、痩せて体格も小さくなっている方もいます。NSAIDsを漫然投与して、消化管出血による突然死を経験したことはないですか?空腹時に服用して、胃痛のため、のたうち回って苦しんで入院する方を見たことはありませんか?微小変化型ネフローゼの小児がステロイド投与によって、前日まで何の消化器症状もなかったのに、大量輸血が間に合わないくらいの吐血をしながら死亡した症例も複数経験しました。がん患者さんや高齢で栄養状態不良の透析患者さんに「空腹時には飲んではいけません。必ず何か食べてから」というNSAIDsの服薬指導は通用しにくいと思います。またCYP2C9基質薬物が薬剤師の目の届かないところで併用されることもあり得ますが、イブプロフェン、インドメタシン、メフェナム酸、ピロキシカム、テノキシカム、セレコキシブもCYP2C9を阻害して起こる消化管出血の報告もありますが、ロキソプロフェンについてはCYP2C9基質かどうかすら分かっていません。

僕は主治医と相談してNSAIDs経口薬の処方に対して、直接の胃障害を防ぐためにNSAIDsの座薬に変更していただいたことも多くありました。ただしこれも漫然投与すると、前述のステロイドと同じようにある日、突然、症状もなく消化管出血を起こすんじゃないかしらと心配しつつ投与することを考えると、まだトラマドールやアセトアミノフェンの方が使いやすいと思っています。そしてもう少し使用経験が増えれば、胃には優しく出血を助長せず、心血管病変や腎障害の少ないセレコキシブの選択もありだと思います。

すみません。感傷的な答えになっているかもしれませんね。経験した症例というのははエビデンスレベルが低いものです。上記の情報に関してエビデンスレベルの高い報告については以下の論文をご覧ください。

Hiragi S, et al. Clin Epidemiol. 2018; 10: 265-276
Miki K, et al: I Orthop Sci 23: 483-487, 2018
Inoue G, et al: Spine Surg Relat Res5: 252-263, 2020


南相馬市立総合病院 中島鉄博先生

Q.腎臓の髄質の高い浸透圧を形成するNa、尿素の蓄積の機序についてご教授下さい。宜しくお願い致します。

A.おっしゃる通り、尿の濃縮は髄質で行われますが、機序はヘンレループの下行脚での水の再吸収によって濃縮されます。腎臓のはなし – 130グラムの臓器の大きな役割(中公新書)の著者の坂井建雄先生は言及されていませんが、その駆動力にはアクアポリンが関わっているという説があります。水だけが再吸収されればヘンレ係蹄の最下部の髄質ではNa、尿素が濃縮されて高くなります。尿素は細胞膜を自由に行き来できるため、有効浸透圧物質にはなりませんが、髄質の管腔外の尿素濃度はもともと高く、尿素は下降脚で尿細管腔内に分泌されるため、Na、尿素濃度ともに高くなることによって髄質内の高浸透圧を保つことができます。しかも髄質はヘンレループだけではなく集合管や細動脈などの周囲の浸透圧も高いのです。これは対向流増幅系モデルと言われます()。細動脈ではNaは受動拡散によって上行血管から下行血管に、水は下行血管から上行血管に入ることによって髄質の深部に行くほど高い浸透圧を保っています。そしてヘンレループの上降脚(太い部)ではNa+/K+/2Cl共輸送体(ループ利尿薬が作用する共輸送体)がNaと水を再吸収するので浸透圧が低くなります。ADHが分泌されない、あるいは最終的に集合管にADHが作用しなければヒトは1200mOsm/Lの濃縮尿を出せます。この機序によって、不感蒸泄(呼気や汗)によって失われる水(1日約1000mL)に対する対応ができるのです。ただし血漿の約4 倍の1,200mOsm/Lの濃縮尿を出せるのがヒトの限界です。だからヒトは水があって体脂肪が20%あれば2か月程度は、何も食料がなくても生きられますが、水がなければ炎天下では1~4日で死亡すると思います。砂漠に住む哺乳類であれば5,000mOsm/Lの濃縮尿を排泄できますので、水がなくてももっと長期間生きることができますし、海中に棲息するイルカやアザラシなどの哺乳類は腎葉の数を増やすことによって海水よりも濃い塩水の排泄能力を高めています。でもより高い濃縮尿を排泄できるということは、砂漠由来の猫と同じように腎後性腎障害になりやすく寿命も短くなること意味すると思います。ヒトでも髄質深くまで達する長ループネフロンのヘンレループでは1,200mOsm/L以上に濃縮できるかもしれませんが(平田のopinion)、長ループネフロンの方が障害を受けやすいといわれています。

そしてヒトが稀釈尿を排泄することができるのはヘンレループの上行脚がNa+を再吸収することによりますが、ここでは水や尿素は非透過性であるため、髄質の浸透圧は高いまま。そしてさらに遠位尿細管でも能動輸送によってNa+が再吸収され水に対して不透過性であるため、尿の稀釈が起こって浸透圧が非常に低くなりますが、ゼロではなく50~100mOsm/の中途半端な低張尿にするのは、尿素という老廃物でヒトにとって全く不要なものなので、尿素を排泄するためだと勝手に思っています(平田のopinion)。まとめますと髄質の高い浸透圧を作っているのはヘンレループの上行脚と下行脚の物質透過性の違いによる対向流増幅系モデルによると考えられます。


平成横浜病院 廣瀬 里美子先生

Q.腎機能が悪くなると、尿酸値が上がってきますが、尿酸値を下げる薬は飲んだほうが良いのでしょうか? 低腎機能だと処方しにくい薬も多いのですがそれなりの補正は必要なのでしょうか。補正する医師と、無視する医師、混在する私の病院では意見が分かれています。先生のご意見もうかがいたくよろしくお願いいたします。 

A.平田はアロプリノールによる中毒性表皮壊死融解症(TEN)による死亡者を経験しています。その時、僕の病院でも死亡に携わった医師のように補正しない派と尿酸値10以上ではさすがに放っておけないという派に分かれました。僕は前者で、痛風腎以外では放っておいていいと思っています。ある地方都市で透析クリニックの院長ばかり20名が集まって講師をしたことがあり、この話題になって、「アロプリノールによる死亡者を経験したことがある人はいますか?」と聞くと、なんと半数の10名がアロプリノールによるTENによる死亡者を経験しており、そのうち3名は「全くアロプリノールを投与していない」と言っており、透析患者では13mg/dLまで上昇するがそれ以上は上がらず、何も起こらないということでした。これも個人的な経験談で申し訳ありません。

アロプリノールは台湾ではHLA-B*5801というHLAの遺伝子検査をしないと投与できないという話もありますし、アロプリノールの活性代謝物のオキシプリノールが腎不全患者で蓄積しやすいことが問題になっており、Hung ら 1)も腎不全患者 ではこの過敏症が 4.7 倍起こりやすいこともあわせて報告しています。TENは3型アレルギーという説もありますがラモトリギンでも過量投与によるTENの報告が多いことから、やはり腎機能に応じたアロプリノールの減量は必要と思いますが、高度腎障害で1日1回50mgの用量では実際には尿酸値をコントロールできないことが多いです。

透析患者ではフェブキソスタット、CKDではそれに加えてドチラヌドという選択肢が出てきましたので、TENを防ぐにはこれらを使えると思います。ベンズブロマロンはよく効きますが、肝障害がきつくて海外では製造中止になっている国が多いです。フェブキソスタットはアロプリノールに比し、心血管死の発症が多かったという報告も併せて薬剤の選択を考慮していただければと思います。

1)Hung SI, et al: Proc Natl Acad Sci U S A. 102: 4134-4139, 2005

 

第 11回 基礎から学ぶ薬剤師塾 Q&A
腎臓が何をやっているか ~糸球体編 ようこそこの複雑で精密な世界へ ~

 

Q.貴重なお話ありがとうございます。チャットで記入していましたら間に合いませんでした。基礎的で申し訳ないのですが腎機能低下は両方で同じように起こるのでしょうか?片方摘出する場合摘出後は、腎機能は改善するのでしょうか?

A.透析導入の3大疾患である糖尿病、腎炎、腎硬化症は両方同じように腎機能低下が起こります。片方だけ悪くなるのは腎がん、腎結核くらいでしょうか。


Q.NSAIDは避けてカロナールを推奨されてたのですが、実際には痛みを訴える患者さんが多くてロキソニンやボルタレンも使われていて、効かないからもっと多くほしいと希望されることもあります。(カロナールも効かないと訴えあり)許容範囲を決める時にどの視点から考えれば良いか教えてください。また、トラムセットも併用で出されたりしていますが、カロナール以外の痛み止めのおすすめがあれば教えてください。

A.若い方へのNSAIDsはあまり気にしなくてもよいでしょうが、問題は高齢者(と小児)です。もともとRAS阻害薬や利尿薬が投与されている高齢者には非常に危ない。しかも胃障害もきついし出血しやすいし血圧は上がり心血管疾患に罹患しやすくなる。NSAIDsは抗炎症作用があるので、痛風などの炎症を伴う急性疼痛には第一選択ですが、漫然と投与する高齢者の膝、腰の痛みは急性ではありません。アセトアミノフェンを投与してもらいたいものです。また1回500mgくらいで「効かない」と判断しないでほしいです。1回750mg×3回、頓服で1日1回程度なら1000mgくらい使ってから効かないと判断してもらいたいです。透析患者の半数近くがPPIを必要とし、NSAIDsでは胃痛、消化管出血が怖いので、直接の胃刺激の少ないボルタレンサポやインダシン座薬を勧めたこともあります。RAS阻害薬や利尿薬が投与されている高齢者で痛みがきつければ、トラマドールの方がよほど安全だと思っています。


Q.貴重なご講演をありがとうございました。腎障害の患者、透析を行なっている患者の方への手術後の疼痛管理ですが、アセトアミノフェンが効かない患者へはどういった薬剤がいいでしょうか?ご教示をよろしくお願いします。

A.透析患者ではこれ以上腎機能が悪くならないので「腎障害が悪化するため禁忌」という考え方は間違っています。ただし透析患者さんは胃が弱い方が多く、胃障害が怖いので、僕は医師にボルタレンサポやインダシン座薬を勧めていました。今はトラマドールも使えます。

腎障害の患者さんに対しては前問の回答をご覧ください。


Q.毎回わかりやすく丁寧な塾を開講いただきありがとうございます。SGLT2阻害薬について質問させてください。SGLT2阻害薬間で腎保護作用の違いはあるのでしょうか?SGLT2の選択性が高いダパグリフロジンで効果が認められていますが、SGLT2にそれほど選択性のない(SGLT1にも作用する)カナグリフロジンでも腎保護作用が認められたとの報告もあり、今後のSGLT2阻害薬の使い分けが気になります。何かお考えがあれば、ご教示ください。

A.SGLT2阻害薬間で腎保護作用の違いを調べた報告はないと思います。そして腎に関してはダパグリフロジンとカナグリフロジンしか主要評価項目を腎にしていないと思います。それに加えてエンパグリフロジンでもサブ解析で腎保護作用が認められていますし、ほぼクラスイフェクトと言ってよいと思っています。ほかにもSGLT2阻害薬もありますが、大規模試験をやるだけの体力・財力がないだけかもしれませんね。

カナグリフロジンの次に選択性が低いのはダパグリフロジンのはずです。SGLT2選択選択性の低いものであれば腸管上皮のブドウ糖の吸収に関与するSGLT1の活性も阻害するので血糖降下作用が腎機能に依存しないので、この2つが腎に関するトライアルをやったのではと勘繰る人もいます。報告によってはSGLT1は小腸、心、肝、肺にも存在するためSGLT2選択性は副作用に関与(特に小腸に作用すれば下痢)すると総説には書かれています。


Q.ダイエット、筋トレ後の筋肉増強のため、プロテインをたくさん摂る人がいます。タンパク質多量摂取における、腎臓への負担について教えていただきたいです。

A.浅学の方が「プロテインの摂取は腎機能を悪化させる」と言うことがありますが、これは間違いです。熊大の時に健常な筋肉系スポーツ選手を対象に臨床試験をやろうとして、1つの目的は筋肉量が多い方なので、血清クレアチニン値が過大評価されないかということ、そしてもう1つは1年間のクレアチンサプリメント、プロテイン摂取で腎機能は悪化しないかということでした。実は後者の試験はクレアチンサプリメントの臨床報告が結構よくない報告が少なからずあったのでやめたのですが、プロテインの摂取で腎機能が悪くなったという報告は皆無に等しいくらいになかったです。

だから健常者のプロテイン摂取は大丈夫だと思いますが、腎不全患者であればたんぱく摂取は窒素老廃物だけでなく、腎機能を悪化させ心血管病変を悪化させる尿毒素(インドキシル硫酸、p-クレジル硫酸、TMAO)が蓄積します。炭水化物・脂質は水とCO2になるとてもクリーンなエネルギーですが、たんぱく質はBUN、クレアチニン、尿酸などの老廃物を作りますから腎の負担にもなります。だから腎機能が悪化すれば0.8g/kg、さらに悪化すれば0.6g/kgにたんぱく質摂取量を少なくしてもらいます。ただし、肉、魚、卵などは良質なたんぱくですから後期高齢者などで栄養状態が悪い方へのたんぱく制限は、サルコペニアになってしまい、免疫力低下から感染症による死亡も懸念されますので極端なたんぱく制限は避けた方がよいと思います。実は腎不全患者のたんぱく制限によって予後が改善したという報告はほとんどないのです。


Q.薬局の外来で腎機能が落ちてきた高齢者に「お水をこまめに飲みましょう」とよく言うことがありますが、「そんなに多く水を飲めない」と言われることがあります。脱水状態になるのも良くないと思いますが、実際どのくらいの飲水量を維持できれば急激な悪化なく腎機能を保つことができるでしょうか?

A.暑い夏以外は「お水をこまめに飲みましょう」という服薬指導は必要ありませんし、若年者にも不要だと思っています(のどが渇けば水を飲んでくれますので)。ただし利尿作用の強い(特に投与初期の利尿作用が強い)SGLT2阻害薬が高齢者に投与された場合には夏以外では、起きた時、10時と3時にもお茶か水を程度でよいのではないかと思います。

夏に利尿薬、RAS阻害薬、NSAIDs、バラシクロビル、活性型ビタミンD、SGLT2阻害薬のいずれかの複数の組み合わせが高齢者に投与されれば、起きてすぐ、朝食時、10時、昼食時、3時、夕食時、ふろ上がりなどにグラス1杯の水を飲めばほぼペットボトル500mL×3本分になりますね。

ただし溢水のために利尿薬が処方されている患者さんに対して飲水の是非については主治医と相談をしてから指導をしましょう。


Q.心不全など何らかの原因で胸水がある患者さんの場合、利尿剤をフロセミド、サムスカなど数種類併用され続けられるのですが、体重が減少していっても胸水は減らず、腎機能が悪い高齢者だとBUN、SCrがどんどん上昇します。しかし、Dr.は利尿剤を減らしてくれませんし、補液投与もしてくれない事があります。高齢者だと水分補給もなかなか進みませんし、そうしているうちに腎機能もさらに悪化してしまいます。薬剤師として何かできることはあるのでしょうか?また、尿酸値も上昇するのですが、Dr.は10を超えるようならフェブリクを検討されています。そんなに上昇するまで放っておいていいのでしょうか?

A.溢水で呼吸困難になるためにフロセミド、サムスカが投与されているのであるのに、飲水すれば、より呼吸困難が悪化しますので飲水指導を勝手にやってはいけませんが、BUN、SCrがどんどん上昇するのは脱水による腎機能低下の可能性が極めて高いです。直ちに医師と相談して、脱水を防ぐための「約束事」を作ってみませんか?フロセミド、サムスカが投与されていて体重が1.0kg以上減少した時、血圧が10mmHg以上低下した時には脱水の可能性があるので、〇mLの飲水指導をする、体重が2.0kg以上減少した時、血圧が20mmHg以上低下した時には脱水の可能性があるので、飲水をして直ちに受診する、その他のシックデイ対策などを考えた方が患者様のためになると思います。


Q.退出前ににっこりしたモノクロの平田先生の写真を拝見しましたが、いつ頃のお写真ですか?いい笑顔で癒されて退出しました。

A.ありがとうございます。そんなに前じゃないですが、Facebookに参加した5年前の写真で、僕の誕生日に学生たちがケーキを買ってきてくれて祝った時に写真です。最近、眼鏡をかけなくなったのは遠視が進みすぎて近視が治ったためです。今は年老いて鏡を見るのが嫌になりました。


Q.仕事と家庭を両立させる秘訣は?

A.自慢させてください。とても性格が良く、ちょっとだけかわいい妻を持てたこと、自分が楽しいと思うことに一生懸命になったことが秘訣だと思います。


Q.最近、この講座の事を知りました。初回からの講座を視聴する方法はないのでしょうか?

A.これまでずっと新ネタをやってきましたが、あと数回で新ネタが尽きれば、今までの講演内容をアップデートして繰り返し講演しますので、ずっと聴き続いけていただければ幸いです。


Q.パワーポイント等のテキストが、頂ければ、幸いです。

A.一般の方々にはテキストを配布して、見ていただければ、理解力が高まっていいなと思いますが、そのままコピペして自分の講演で「平田の講演内容から引用」などと断らずに使う輩、ほぼ同じスライドを少しだけ変えて自分が作ったかのように総説論文で使う輩が結構いるのです。僕はスライド作りにかなりの労力とお金をかけています(図や写真を購入する費用など)。この盗用する方々は実力がある人ですが、引用元を明記したり、引用論文として記載していただくなどのルールを守らずに盗用されるのはやはりいい気がしません。ブログの図も無断引用されますし、こんなことが続けばブログも薬剤師塾もやってられないくらいに悔しいです。


 

講演依頼に関しましては平田のメールアドレスhirata@kumamoto-u.ac.jpまでお気軽にご連絡ください。
大学での非常勤講師も可能です。「実務実習で代表的な8疾患」のうち高血圧、糖尿病、心疾患、感染症の4疾患の薬物治療学+腎疾患、輸液、TDMなどについて国家試験対策も含めを教えることができます。

 

アスヤクLife研修会 Q&A(2022.2.28)

 

Q1.様々なことに興味を持って調べたり、勉強します。コロコロと変わっても良いものでしょうか。

A.次々と興味を持ったことを調べることはとてもいいことです。ぜひとも幅広い知識、多様性のある情報を身に着けてください。これをやっていない医療人との差は、すぐにつくと思いますので頑張って興味あることについて調べてみてください。

衝撃を受けるくらい興味を抱いたことについては深掘りしてみるのもいいですね。僕の場合は書籍を購入して読破し、さらに最新の情報をPubMed検索するなどして最新の情報を導き出します。このような習慣を身に着ければ、いずれあなたは○○市でトップの情報を身に着けた薬剤師→○○県でトップの→日本で有数の情報を身に着けた薬剤師になれることでしょう。


Q2.リリカのお話を聞きまして、普段、有害反応、と判断するのが難しいと感じてることを思い出しました。起こった事象が、その薬物が原因であると、何を根拠に判断すればいいのでしょうか。

A.副作用報告に関する論文を書くと、「有害事象と有害反応が区別できていない。有害反応の定義はどうやって定めたの?」って査読者に聞かれることがあります。「有害反応 有害事象 違い」でググってみてください。あるいはNaranjo scaleなどを知らべてみてください。副作用を①9以上で確実、②5-8点でほぼ副作用だろう、③1-4点で副作用の可能性あり、④0点で副作用とは疑わしいに分類できます。①②を副作用と定義したという論文が多いように思います。

この他にも「血清Ca濃度が10mg/dL以上とか、リン濃度が6mg/dL以上、クレアチニン濃度が1.2mg/dL以上になると」、とか、「血清クレアチニン値が0.3mg/dL上昇すれば急性腎障害」など診療ガイドラインなどを見ると、副作用と定義しやすくなると思います。


Q3.いつも薬剤師塾をわくわくしながら拝聴しております(ときめいています)。平田先生の影響を受けて英語の論文を少しでも読もうとしていますが、英単語を調べるのに時間がかかりなかなか進みません。おすすめの媒体はありますか?今は主にインターネットで単語を調べています。医療用英語の辞書の方が良いのでしょうか…

A.2000年ころまではリーダーズ英和辞典 が28万語だったのでこれを使っていましたが、ALCの出版している「英辞郎 第11版」は217万語が単語数で群を抜いて多いので(もちろん医療英語も満載です)、これをPCにインストールしていました。今はオンライン英会話もやっていますし、英語論文投稿時や個人輸入時のトラブル、海外旅行の旅程の予約などに英文Eメールを書くこともありますので、例文数が多い年額3,630円で英辞郎on the Web Proを使っています。

翻訳ソフトに関してはGoogle翻訳よりも韓国のPapago、Papagoよりも日本のDeepL翻訳のほうが医療系文献の翻訳能力では高いと思っていますので、試してみてください。どれも無料で使えます。DeepL翻訳は特におすすめです。


Q4.6年制の第1期生です。大学院に行き博士号を取りたいと思いながら、気づけば10年目の薬剤師になってしまいました。出身大学は遠方なので難しいです。何かきっかけが欲しいです。アドバイスお願いします!

A.学位が欲しいために博士号を取りたいのですか?博士号を持っていても得になることと言えば、大学の教員になりやすいことくらいではないでしょうか?これから薬剤師として生き残るには認定・専門薬剤師をとった方がよいのではないかと思います。僕は臨床の面白さに没頭した薬剤師なので、博士号は不要だと思っています。薬剤師として学会発表し、論文を書くようになると実力のある薬剤師になれるし、周りの方々も注目してくれます。つまり薬剤師としてのスキルを高めるために、自分のやった仕事を残すために、査読付き論文を書いてきました。「博士号」が目的ではなかったです。論文を書いていたら博士号がおまけについてきたようなものです。

博士号を取るために大学院に入学する方のほとんどは基礎研究しています。基礎研究が好きであれば近い大学に行けばいいでしょう。ただし働きながらだと、大学卒業して大学院に入った学生と比べて非常に不利ですから、留年することも覚悟が必要ですし、薬剤師をやめて研究を3~4年続けるつもりで大学院に入った方がよいように思います。


Q5.若手対象のお話のようで恥ずかしいのですが・・子育てが一段落して学会発表を試みて2年たちました。症例報告をしました。次回は研究レベルに挑戦したいと思っています。調剤薬局に勤務しています。調剤薬局の方々の研究発表はアンケート調査がほとんどです。違った視点での薬局薬剤師の研究で先生がご存じのもの、何かありましたら教えていただけるでしょうか

A.テーマになる候補のものは探せば、薬局薬剤師でもいっぱいありますが、あなたが何に興味があり何をやりたいかが一番重要です。興味のないことに人は一生懸命になれませんから。薬剤師のあなたであれば、学生と違うのですから、「このテーマをやりなさい」と言われるのを待つのではなく、自分が薬剤師として仕事をしていくうちに疑問に思ったことに関して、いっぱい文献を読んで、何が分かっていないか?何をやるべきか?を自分で見つけてください。アンケート以外でもできることはいっぱいありますが、何がやられていないかを知るには、いっぱい学会で情報を得て、いっぱい論文を読まないと分からないです。

論文をチェックできれば、いいテーマが見つかります。やられていることは知識として身に着け、やられていないことを研究テーマして解明すればいいのです。

結構身近なことでわかっていそうで分かっていないことは多いものです。薬剤師の論文はレベルが低くてもやられていないことが多いから、結構英語論文になりやすいのです。


Q6.基本的なことかもしれません。日本語論文と英語論文の違いとその理由を知りたいです。英語論文の方が審査が厳しいということでしょうか?

A.薬剤師も医師も実力のある研究者は、研究を開始した時点からすべて英語論文を目指しますが、英語論文にならないレベルの内容であれば、仕方なく日本語論文にしています。だから違いは「レベルが違う。英語論文の方が日本語論文よりもはるかにレベルが高い」のです。日本語論文の読者は1.2億人に過ぎないが英語論文だと78億人が見る可能性があるのだから当然と言えば当然です。さらに言えば、英語論文でも日本語雑誌や日本語学会誌に英語で書いたものの評価はあまり高くありません。査読付き英文専門誌に掲載されれば、PubMedにも載りますし、さらにimpact factorの高い英文誌に載れば、この著者はかなりの実力者と専門家が判断してくれます。

ただし非常にレベルの高い日本語総説もあります。これは広く日本人読者に読んでもらいたいために、専門家が英文総説になるのに、意図的に日本語で書くことがあります。たとえば日本腎臓学会誌などの専門分野の学会誌に載っている総説は非常にレベルが高く、読みごたえがあり、ありがたいと思っています。僕もよく知ってもらいたいことについては日腎薬誌に査読付き総説として投稿します。


Q7.調剤薬局で勤務している場合、病院と異なりカルテなどが見れないなどの特徴がありますが、その場合どのような調剤薬局で臨床研究をし、発表につなげていくことができると考えられますでしょうか。

A.カルテが見れると、患者さんの検査データだけではなく、看護師が聞き取りした家族背景、性格や病歴などの個人情報も見ることができます。毎日の血圧・脈拍の変動、食事摂取量も分かります。これらを繰り返し見れば、僕は病棟に行き初めて、2年もたてば検査データを見るだけで「病態が予測できる」ようになり「副作用はなにをマークすべきか」が分かるようになりました。これは単にカルテを見れるからではなく、病棟に行って医師やナースと症例についてディスカッションできることも関係していると思います。つまり臨床現場を見ることができるところが病院薬剤師の良さです。さらに病院を選ぶなら回診に連れて行ってくれる科、病院を選ぶとさらに実力アップします。

そのような経験から僕はその後、大学で教えることになるのですが、奨学金を返すのに、給与の高い薬局に就職しなければならない子や病院のハードワークに耐えれないような子は除き、学生たちには「2年間は病院薬剤師を経験した方がいい」と言っていました。今は薬局で働いている方も、あとからでもいいから病院で経験した方がいいでしょう。そうすれば調剤薬局ですぐに実力を発揮できる薬剤師になれるリーダー格になれると思っています。調剤薬局チェーン店の中には大学病院薬剤部で、調剤薬局の給与をもらいながら研修できるシステムのある所があります。実は僕の所属するI&H株式会社もこのようなシステムがあり、その研修を終えた薬剤師は「さすが」と言えるほどの薬剤師に成長していますが、このシステムがありながら、利用者が少ないらしいのです。なんで?

おっと、答えが随分とずれてしまいました。研究テーマはいろいろなものがあります。アンケートも気の利いたものであればアンケートは有用です。僕もCa拮抗薬全盛時に、RAS阻害薬が登場して、透析患者への使用頻度はCa拮抗薬が高かったのです。これは関西腎と薬剤研究会の仲間と組んで様々なデータを集めたのですが、使用頻度を調べました。患者数は2500人くらい。透析患者としてはすごいデータです。しかもβ遮断薬はその当時第1選択薬だったのに心不全目的以外で降圧薬としては全く使われていないことも分かりました。これを透析医学会誌に載せました。その後、医師はこれから透析患者に対してどの降圧薬を使いたいのだろうと疑問に思い、これをアンケートに取りました。当時、Ca拮抗薬は頻脈になるものばかりで、心臓を鞭打ってしまうので透析患者にどんどん投与するのはいかがなもんだろうと思ったからです。で、出た結果はARBを使いたい医師が最多だったのです。これで関西腎と薬剤研究会のスタッフは全員2報の原著論文の著者になれたのです。

DOACが出てきたときに透析患者にはワルファリンしか使えないことに事実上なっていましたが、ここで医師にアンケートをとると「ワルファリンが重篤な腎障害に禁忌」ということを80%以上の医師が知らなかったのです。

アセトアミノフェンの添付文書を見せると「これはNSAIDs」だと間違ってしまう医師も多いはずです。だってアセトアミノフェンの添付文書の内容は完璧に間違っていますから。こんな間違いだらけのクイズをやって医師、薬剤師の正答率を見てみると興味深い内容になると思いませんか?

臨床的な問題を見つけて、よーく論文をチェックすると何がやられていて、何がやられていない=今後の研究テーマになる ということが見えてきます。アンケートでもうまくやれば英語論文になっています。Q5の回答と同じになりますが、論文をチェックできれば、いいテーマが見つかります。やられていることは知識として身に着け、やられていないことを研究テーマして解明すればいいのです。

結構身近なことでわかっていそうで分かっていないことは多いものです。薬剤師の論文はレベルが低くてもやられていないことが多いから、結構英語論文になりやすいのです。

 

講演依頼に関しましては平田のメールアドレスhirata@kumamoto-u.ac.jpまでお気軽にご連絡ください。
大学での非常勤講師も可能です。「実務実習で代表的な8疾患」のうち高血圧、糖尿病、心疾患、感染症の4疾患の薬物治療学+腎疾患、輸液、TDMなどについて国家試験対策も含めを教えることができます。

 


先日、ある県の薬剤師会の講演会で以下のような質問がありました。

Q.ナラティブとイナーシャはどう使い分けたらいい?

 今まで医療者は患者様に寄り添う「ナラティブ・ベイスド・メディスン」というが重要と信じてきましたが、高血圧治療ガイドライン2019に「臨床イナーシャ」が高血圧で問題になっていると聞き驚きました。イナーシャとナラティブはどう使い分ければよいのでしょうか?(保険薬局薬剤師)

 「ナラティブ・ベイスド・メディスン(NBM: narrative based medicine)は患者さんが対話を通じて語る病気になった理由や経緯、病気についていまどのように考えているかなどの「物語(narrative)」から,医療者は病気の背景や人間関係を理解し、患者の抱えている問題に対して全人的(身体的、精神・心理的、社会的)にアプローチしていこうとする臨床手法です。NBMは患者さんとの対話と信頼関係を重視し、サイエンスとしての医学と人間同士の触れあいのギャップを埋めることが期待されています。「根拠に基づく医療(EBM:evidence based medicine)」という科学的な根拠も重要だけど、NBMによって傾聴も大事だと気付かせてくれました。

 それに対して臨床イナーシャ(clinical inertia)は高血圧治療ガイドライン2019に記載されて注目をされるようになりました(図1)。Clinical inertiaは直訳すると「臨床的な惰性」という意味で、治療目標が達成されていないにもかかわらず、治療が適切に強化されていないことです。患者さんの問題を認識していながら、それを解決する行動を起こすことができずに医療人の惰性によって患者の症状が悪化するのが問題になっています。これは高血圧だけでなく糖尿病や脂質異常症、高尿酸血症などの生活習慣病でも同じです。血圧・血糖・脂質が高くても、「これまでより頑張っているからいいや」ではなく医療者は達成すべき目標のために行動を起こす必要があることを自覚しなくてはなりません。だって蛋白尿があって至適血圧130/80mmHg(家庭血圧では125/75)未満が守れていないけど、150/100だったのが140/90によくなったから「頑張っていますね、その調子ですよ」と言っていながら、透析導入になっちゃったら患者さんが一番つらいわけですから。いくら心やさしい医療者であっても、全く患者さんのためになっていなかったら問題だと思うのです。

 これに対する僕は「難しいけど、うまく使い分けてください」とわけのわからない回答をしてしまいました。後で、よーく考えなおしてみると、ナラティブもイナーシャも

A.どちらも患者さんのことを思ってのことであり、使い分けるものではなく、むしろ共存させるべきもの

だと思ったのです。

 わが国の高血圧患者は4,300万人で降圧目標を達成できているのは1,200万人のみ。これによって脳卒中・心筋梗塞・心不全・腎不全による透析導入患者が増加していますので、高血圧を甘く見てはいけないのです!そしてわが国の糖尿病患者は1,000万人で23.4%が未治療、予備軍の4割が未治療。糖尿病や脂質異常症の分野でもイナーシャは問題視されています。

平田からのアドバイス

皆さんは、服薬指導するときに

「血圧を下げる薬です」+ひとこと言っていますでしょうか?

つまり

「血圧を下げる薬です」+「あなたの疾患の目標血圧は○○/○○mmHg未満です。家庭血圧はそれより5mmHg低いですね」と言っていますでしょうか?

「血圧を下げる薬です」+「最近の血圧はどれくらいですか?」をうかがっていますでしょうか?

DM患者に「最近のHbA1c値はどれくらいの値ですか?」を聞いていますでしょうか?

そして

 糖尿病の目標血圧を知っているでしょうか?診察室血圧で130/80未満でしたね。「この血圧より低い値を守っていれば長生きできますよ」と優しく指導してあげてください。

 蛋白尿のないCKD患者さんの目標血圧を知っているでしょうか?診察室血圧でやや高めの140/90mmHg未満でしたね。米国の高血圧の定義を140/90mmHg未満から130/80mmHg未満に変えるきっかけとなったSPRINT研究では標準血圧群(収縮期血圧140mmHg未満)に比し、厳格降圧群(収縮期血圧120mmHg未満)では心血管病変を29%も低下させたものの(図2左)、腎機能悪化は3.53倍も増えてしまったため(図2右)、蛋白尿のないCKDでは収縮期血圧120mmHg未満になると虚血による腎障害が心配ですよね。米国ではCKDは心血管病変のリスクとして大変恐れられていますが、日本ではCKDは心血管病変のリスクよりも透析導入リスクの方が強く表れます。血清クレアチニン値をモニタリングしつつ、「血圧が下がりすぎたり、しんどくなったら来院してくださいね」と優しく指導してあげてください。

 蛋白尿のあるCKDの第1選択薬、蛋白尿のある糖尿病の第1選択薬を知っているでしょうか?そのような方にARBあるいはACE阻害薬が投与されていれば「この降圧薬があなたにぴったりの血圧を下げる薬です。蛋白尿を少なくすることによって腎機能が悪化するのを防いでくれますよ」とやさしく指導してあげてください。おそらく今まで以上に忘れずにのんでいただけることでしょう。蛋白尿のない後期高齢者であれば、RAS阻害薬でもいいのですが、腎虚血を起こしにくいCa拮抗薬の方が安全かもしれません。

 基本的に医療人は患者さんに対して優しくあるべきですから「ナラティブ」の気持ちを忘れてはいけません。ただしイナーシャは厳しく指導しろと言っているわけではありません。平田はナラティブとイナーシャは使い分けるものではなく、むしろ共存させるべきものだと考えています。十分に傾聴したうえで、常に患者さんのことを思って、以上のような「一言」を付け加えていただきたいと思います。

 

 

第 10回 基礎から学ぶ薬剤師塾(2022年2月1日) アンケート結果

 今回の薬剤師塾では3名の方から質問をいただき、初めてディスカッションらしいことできました。ほかの参加者の皆さんも、単純にわかりにくいことを気軽に聞いていただければと思います。徐々に「薬剤師塾」らしいものができつつあると思いますので、次回が楽しみになりました。次回より内容はコンパクトにして、皆さんとより議論できるような薬剤師塾にしていきたいと思っております。

 アンケートでは「18時開始が早すぎる」という意見が多くみられました。次回は3月1日18時よりと日時を告知しておりますので、変更できませんが、4月からは土曜日の13時開始に変更させていただきたいと思います。4月だけ第3土曜日の4月16日の13時よりを予定しています。それ以外は毎月第2土曜日の13時からです(最後尾にこれまでの薬剤師塾の内容、これからの薬剤師塾の予定を入れています)。


第2回 薬剤師塾Q&A「透析患者の薬② ~応用編 合併症と薬物療法~」

Q. 近くの腎クリニックが、レグパラやオルケディアをやめて、ウパシタ静注に切り替えています。単純に儲かるからだそうです。内服剤と比べて、効果について優れた研究報告はございますでしょうか?

A. ごめんなさい、保険に関することはあまり知りません。効果についての明確な差は今のところ、ないように思います。


Q.ビタミンD製剤とCa受容体作動薬を併用する場合も多く見かけるのですが、CaとPに対して相反する機序をもつと思うのですがどういった場面で用いられるのでしょうか。また、アドヒアランスは問題ないとして、ビタミンD製剤及びCa受容体作動薬の内服または透析時の投与ではそれぞれメリットデメリット、もしくは使い分け等あるのでしょうか?

A. 活性型ビタミンDはCaもリンも上げますよね。だからPTHが下がったとしてもCaもリンも上がりすぎるので、Ca×リン積が上昇して異所性石灰化が危惧されて、なかなか使いづらかったのです。レグパラはPTHも下げてくれますが、Caもリンも下げてくれます。となるとCaとリンのコントロールはとても楽になりました(図左)。しかもこのころにはリン吸着薬もCaを含まないものや、強力なものまで多様化したので、医師、薬剤師が1人1人の透析患者の血清リン値、Ca値、PTHのレベルを把握して、薬物療法を変えればリン、Caの目標値を適正に保つことができて(図右)、骨折を防ぎ、異所性石灰化によるとんでもない高血圧、心臓の弁石灰化、その後のうっ血性心不全、そして悩ましい猛烈な皮膚掻痒症などから、透析患者さんを救うことができます。だから透析に携わっている薬剤師、透析患者さんのためにも頑張れ!

 おっと、熱くなりすぎて質問の内容と違った方向に行ってしまいました。ビタミンDは何もなければ最低用量は投与しておいた方が様々なベネフィットがあることは薬剤師塾でお伝えしましたが、PTHを下げるためにはロカルトロールカプセルを多めの量で週に1~2回投与するミニパルスにすることを考えてください。PTHがとても高いならオキサロール静注、ロカルトロール静注を使って強力なパルス療法をする必要があります。ただしCa、リンが上がってくればもちろんCa受容体作動薬が必要ですし、ビタミンDより使いやすいです。相互作用やむかつきを考えるとレグパラはやめておいた方がいいでしょう。レグパラさんには2008年以降ずっとお世話になりました。本当にお疲れさまでした。今後、オルケディア錠、パーサピブ静注、ウパシタ静注どれを使うかはまだ明快な答えを持ち合わせておりませんので、使いやすいものを選択してください。


Q.ビタミンD製剤(アルファロールとロカルトロール)の使い分けについて質問です。以前、あるDrからはロカルトロールはパルス的に使うと聞いたことがあるのですが、そのような使い方は一般的なのでしょうか?

A. パルス療法はステロイドでよく使われる(静注メチルプレドニゾロンが主役ですね)治療法ですが、「強力な薬理作用を期待するため大量投与したいが、大量投与すると副作用が怖いので、投与と休薬を繰り返す」方法です。半減期が短くtmaxも短いシャープな血中濃度上昇によって強力な薬理作用を持っていて(ということは静注製剤が都合よい)、なおかつ消失も早い薬(副作用が持続しない)がパルス療法に使いやすいです。活性型ビタミンDも大量に使うとPTH分泌を抑制し副甲状腺の腫大も防げますが、使い続けると高カルシウム血症が起こって血管などの石灰化のリスクが上昇します。だから通常はオキサロール静注かロカルトロール静注製剤がビタミンD パルス療法に使われますが、内服のロカルトロールを少し多めに週1~3回投与すると高カルシウムを避けて、なおかつPTHも上がりにくくできます。これもパルス療法と言っていいでしょうが、静注製剤ほどの強さはないので、僕たちは「ロカルトロールカプセルによるミニパルス療法」と呼んでいました。

 ではアルファロールはPTHを下げる作用が弱いので、存在価値はないかというと、そうではありません。活性型ビタミンD本来の作用である腸管からのCaとリンの吸収をよくしてくれる作用が長時間持続しますし、肝臓を通ってから活性化されるため、血中の活性型ビタミンD濃度の立ち上がりが遅いので、長期間にわたって作用が持続するし、急激なCa濃度変化が少ない、あるいは少々飲み忘れてもあまり大きな影響がないなどのメリットがあると思います。


Q.先生は仕事と家庭の両立をどうやってされているのでしょうか?

A. 僕は40歳から薬剤師という仕事に熱中できました。その時には下の子も小学校に入っていて、手がかからなくなってきたので、夜遅く帰っても妻から小言を言われることがなくなったのでラッキーでした。30歳代のころは早く家に帰って子供たちを風呂に入れて、絵本を読んで寝かせてあげることができましたし、土日には子供たちを外へ連れ出し、家族でキャンプにもよく行きました。今は子供たちは2人とも独立していますので、僕は好きなことをさせてもらっています。妻とは旅行にも外食にもよく行って楽しんでます。コロナが終息したらEDTA-ERAという欧州腎臓学会+透析医学会に毎年参加するなど、一緒に世界中を旅したいですね。


Q.ご講演ありがとうございます。クレメジンについてですが、当院では処方されることが減っています。使い方、注意点等ご教示をお願い致します。

A. クレメジンは、強力に腎機能を悪化させ心血管病変を引き起こす尿毒素インドキシル硫酸の前駆体のインドールを吸着して糞便中に排泄するメカニズムと言われていますが、インドールへの特異性が特に高いわけではないので、そのほかの尿毒素、今では主役になりつつあるTMAOの前駆体のTMAなども除去できるのではないかと思っていますので、期待したいところです。処方量が減りつつあるのは飲む量が多い、のみにくいというのが原因の1つですが、速崩錠は1日12錠に減りとても飲みやすいと患者さんから聞いております。ただし2015年に報告されたEPPIC試験で主要評価項目の複合エンドポイントでプラセボ群に有意差をつけられなかったのが処方減になっているかもしれないので残念です。ちなみにこの時に使われた実薬は速崩錠ではなくクレメジンカプセルでした(速崩錠のプラセボは作れない!)ので、1日30カプセルのまなくてはならない、しかも他剤と同時服用はできないので食後2時間以降に服用となると、アドヒアランス不良は絶対にあったでしょうから有意差をつけられなかった原因かもしれません。


Q.PPIとカルタンの併用についての話題が出ましたが、PPIを寝る前にできるなら、そうした方が良いのでしょうか?

A.PPIはプロトンポンプを不可逆的に阻害するため、血中濃度依存的な効果を示しません。PPIの多くは半減期1時間程度と短いのですが、朝飲んで、昼過ぎには「胃がむかむかする」という自覚症状が出てくることはありませんよね。だからカルタンを食直後に、PPIを寝る前にという時間差攻撃はほとんど功を奏さないのです。ではカルタンを食直後に、H2ブロッカーを寝る前にという時間差攻撃もH2ブロッカーの多くが3時間程度(ガスターで2~9時間)と長いので、ほぼ無駄です。完璧に胃内のpHを上げ続けたい場合にはPPIの注射薬を1日2回投与することもあります。


Q.透析患者における腸内細菌叢の正常化、leaky gut の予防のため酪酸が良い、ビオスリーが良いとのお話でしたが、透析患者さんに対して、ミヤBM、ビオスリー、ビオフェルミン、ラックビー、と様々な処方を散見します。何か使い分けがあるのでしょうか?患者さんと腸内細菌との相性もありますか?

A. 医師のほとんどがそれらの違いを意識していないのでうまく使い分けができていないように思います。整腸剤で意識するとすれば抗菌薬と併用する場合には「抗菌薬耐性」と称するビオフェルミンRやラックビーRなどを使わなくちゃ保険で査定を受けることくらいではないでしょうか?ぜひ薬剤師が使い方を教えていただきたいと思います。

 だけどこれらは「抗菌薬耐性」と称していても古いペニシリンやセフェムでは死滅しないのですが、抗菌力の強いキノロンやバンコマイシンで死滅するものが多いのです。唯一、死滅しないのは芽胞()を形成する酪酸菌である宮入菌Clostridium butyricumです。胃酸にも死にませんし、消毒薬にも耐性で抗菌薬と併用してもまったく死滅することなく「芽胞になって死んだふりをして」、投与30分後に小腸上部から小腸中部で発芽し、2時間後には小腸下部から大腸にかけて分裂増殖を開始します。他のプロバイオティクスは胃酸に弱く90%が胃酸で死滅しますが、その分泌液が餌となってプロバイオティクスを増やします(だから死菌でもまったく意味ないわけではありません)。これを成分としているものは、ミヤBMとビオスリーのみです。だから抗菌薬と併用する場合にはRのついた製剤よりもClostridium butyricum含有製剤が最も優れていると平田は確信しています。さらにClostridium butyricumClostridioides difficileによるいわゆるCD腸炎の予防にも適しているのではないかと思っています。CDは芽胞を形成し抗生物質耐性が高い偏性嫌気性菌腸内細菌ですから、院内感染が起これば消毒薬が全く効かないので物理的に手洗いで対処しないと病棟中に蔓延することがあります。平田も経験あり、この時ICTの主要メンバーだったのでナースに手洗いの徹底をお願いすることによって死亡者を出さずに済みました。2016年よりCDはClostridium属からClostridioides属に名称変更しましたが、Clostridium butyricumは今まで通りClostridium属だということも知っておいてください。

 Clostridium butyricumは主に酪酸を作るので酪酸菌ともいわれますよね。そういう意味からするとビオフェルミン、ラックビーは乳酸菌と言われていますが実は酢酸、乳酸、酪酸の順に産生量が多いので「酢酸菌」と言った方がいいかもしれません。

 これらは下痢気味の人も便秘気味の人も正常化するのがいわゆる「整腸剤」ですが、使い分けるとすると、あくまで平田の私的見解ですが、下痢気味の人には酪酸は腸のバリア機能を高め、抗炎症作用を有し結腸粘膜の栄養になってバクテリアルトランスロケーションを抑制するので、酪酸菌がよいでしょう。ビオフェルミン、ラックビーは分子量の小さいより短鎖の酢酸、乳酸、プロピオン酸を増やしてくれますので、これらの緩徐な浸透圧作用を期待して便秘の改善に貢献できそうだと思っています。抗菌薬と併用なら迷いなくミヤBMです。腸内細菌叢は多様性が重要と考えるなら、ビオスリーもいいでしょう。

 ただしこれらのプロバイオティクスは畑に種をまくようなもので、やせ細った土地では増えてくれませんので、野菜・果物などプレバイオティクスも摂取する必要がありますが、透析患者ではカリウム上昇のため十分摂取できないことを考えると、カリウムを含まない食物繊維サプリメントを併用するのがよいでしょう。


Q.Pが高い患者の場合、Caが低くてもPが高いから、という理由で活性型ビタミンD製剤の投与を見送っている例をしばしば見かけます。やはりPが高いとビタミンD製剤によるP上昇が生じるのは避けるべきなのでしょうか。ビタミンD製剤を開始してもよいP値の目安などあるのでしょうか。

A.平田は基本的には透析患者さんではビタミンDの腎での活性化が行われていないのですから、ビタミンDは様々な利点を考えると投与した方がいいと思っています()。リンが高くても現在、リン吸着薬が多様化してコントロールできない人は「薬剤師塾」で質問のあった特殊な症例を除き、ほとんどいないと思います。ですから、血清リン値はコントロール可能になりました。透析患者さんにはリンを含んでいても、肉や魚や卵など気にせずたくさん食べてもらってもいいし、少々の加工食品のリンも気にせず(極端ですが…)、好きなものを食べていただいて、上がったリンをリン吸着薬を適切にのんでいただき、血清リン値は6mg/dL以下に、できれば5mg/dL以下にコントロールできればよいと思っています。


Q.保存期CKDの方でワーファリン投与中の方ですが、ワーファリンがなかなか効きづらく、今現在7mg投与中です。本来重度の腎障害には禁忌とありますが、この患者さんの様に効きにくい事例もあるのでしょうか? 相互作用は確認済みで問題はないのです。

A.日本では1日5mgを超える人は珍しいですが、米国のAnticoagulation clinicでは普通に見かけました。米国ではビタミンKを含むマルチビタミンを飲んでもらってもいいからだと思っていました。ただし「ワルファリンは絶対飲み忘れちゃだめですよ」と指導します。2015年の報告ではアジア人ではビタミンKの作用部位のVKORC1の遺伝子多型が多い(90-95%)ので、凝固能がもともと低いため(図の青色のドット)、ワルファリンの投与量が少ない人が多いことを知りました。だからご指摘の1日7mg服用の患者さんは野生型のVKORC1の遺伝子を持っているアジア人の中では5~10%のヒトだと予想されます。全く不思議なことじゃないですね。


Q.腸内細菌叢が健常者と透析患者さんとではこんなに違うという話がありましたが、透析患者さんに好気性菌が多いのは腸内腐敗産物が多いからとおっしゃってましたが、腎機能不全の為尿毒素を尿中排泄しきれないからという理解でよろしかったでしょうか?

A.「腎機能不全のため尿毒素を尿中排泄しきれない」という考えもできると思いますが、平田は①高カリウム血症のため、プレバイオティクスが取れない、②心不全予防のため水分制限される、③透析患者の高齢化・糖尿病患者(神経障害により便秘も下痢もしやすい)増加による蠕動力・排便力の低下、④カリメートなど便秘する薬剤が投与されることが多い、⑤透析後の低カリウム血症によって腸管蠕動が弱くなる(イレウスのリスク)、⑥バイオアベイラビリティの低い無意味な経口抗菌薬の投与(図左)、⑦透析中の便意を我慢する、⑧刺激性下剤の多用などの様々な理由によって腸内細菌叢の異常をきたし、それによる短鎖脂肪酸を産生するいわゆる善玉菌の減少によって尿毒素産生菌が増加するという流れで理解しています(図右)。これらの尿毒素は基本的に腎排泄されるため、腎不全患者では蓄積し、心血管病変を悪化させ腎機能も悪化させるなどの弊害の原因になります。


Q.食事由来にトリプトファン、チロシン、カルニチン、コリンは腸内細菌叢によって変化して…という話とTMAOは腎排泄が多いという話がくっつかないです。でも、スライドの図は似ている話なのかなと思いながら聞いてしまったので、中途半端な理解になってしまいました。それらの関係性も教えていただけると嬉しいです。

A. トリプトファンは腸内細菌の持つ酵素によってインドールになり、チロシンは腸内細菌の持つ酵素によってp-クレゾールやフェノールになり、カルニチン、コリンは腸内細菌の持つ酵素によってトリメチルアミンになり、これらが肝臓に行って尿毒素になりますが、これらは腎臓から排泄ますので、腎機能低下により蓄積し、さらに腎機能を悪化させ、心血管合併症を増加させます()。


Q.便秘は細菌層の破綻→短鎖脂肪酸→全身炎症、尿毒素産生→腸粘膜の損傷、潰瘍性大腸炎→?←PPI投与、小児期の抗菌薬投与という円形の図のスライドがありましたが、?にあたる部分をもう一度教えていただけると嬉しいです。

A.肥満、アレルギー、自己免疫疾患、不安や鬱、自閉症などの心の病は腸の膜の透過性の向上によるリポ多糖の血中への移行とその後に起こる慢性炎症が原因とされており、腸粘膜の損傷が自己免疫疾患の増加に寄与しているといわれています。PPI投与は胃での殺菌が不完全になり、腸内への細菌の侵入を許容します。小児期の抗菌薬投与は腸内細菌叢を破綻させることによってアレルギー疾患や自己免疫疾患の増加につながっていると思われます。抗菌薬によって終戦直後まで死亡原因の1位、2位だった結核や肺炎などの感染症の治癒率が高くなったことは非常に喜ばしいことですが、一方でアレルギー疾患や自己免疫疾患の増加につながっているのです。またこれらの疾患の増加はジャンクフードの増加などによって、野菜などのプレバイオティクス、発酵食品などのプロバイオティクスの摂取減少も関与しているといわれています。興味のある方は当ブログの第12回:前編 共生生物としての腸内細菌の役割~腸内細菌叢とTregの話~、およびこの後編をご覧ください。


今までの薬剤師塾とこれからの薬剤師塾の予定

回数 講演タイトル 日時
01 薬剤師ってなに? 2021.04.24
02 高齢者薬物療法について考える triple whammy処方への対応 2021.06.01
03 腎機能をしっかり見れる薬剤師を目指そう 2021.07.06
04 CKD患者の腎機能を守るための薬剤師の役割 ポイントは蛋白尿と血圧 2021.08.10
05 腎機能低下時に減量が必要な薬 根拠は尿中排泄率だけじゃない 2021.09.07
06 NSAIDsの腎障害 アセトアミノフェンに腎障害はある? 2021.10.05
07 SGLT2阻害薬の腎機能低下抑制作用とAKI防止作用 2021.11.02
08 初めての学会発表から、博士号取得までの道 2021.12.07
09 透析患者の薬① 基礎編 病態と薬物療法 2022.01.04
10 透析患者の薬② 応用編 合併症と薬物療法 2022.02.01
11 腎臓が何をやっているか①糸球体編 ようこそこの複雑で精密な世界へ 2022.03.01
12 腎臓が何をやっているか②尿細管編 ようこそこの複雑で精密な世界へ 2022.04.16
13 腸腎連関 心血管病変・腎機能を悪化させる尿毒素は腸内細菌によって産生される 2022.05.14
14 透析を科学する CHDFの薬用量、透析後の補充用量ってわかります? 2022.06.11

 

講演依頼に関しましては平田のメールアドレスhirata@kumamoto-u.ac.jpまでお気軽にご連絡ください。大学での非常勤講師も可能です。「実務実習で代表的な8疾患」のうち高血圧、糖尿病、心疾患、感染症の4疾患+腎疾患、輸液について国家試験対策も含め薬物治療学を教えることができます。

 

 

第 9回 基礎から学ぶ薬剤師塾(2022年1月4日) アンケート結果

 1月4日の講演『透析患者の薬①~基礎編 病態と薬物療法~』はひどい出来でした。大変申し訳ありませんでした。1回目の「薬剤師とは?」もかなり時間が押して、ひどい内容でしたが、今回も準備不足がたたり、詰め込みすぎて無駄な話題も多かったため論点が絞れなかったと反省しています。

 アンケートで「18時開始が早すぎる」という意見が多くみられました。次回は日時が決まっておりますので、変更できませんが、次々回からは18:30開始または土曜日の13時開始というオプションを提案したいと思います。皆様のご意見によって3月から開始日時の変更を考えてみたいと思います。

 また、スライド資料を配布してほしいという方が多いのですが、これは勘弁してください。1つの理由は以前、皆さんの理解向上のため、講演会で事前にPDFを配布していたのですが、平田オリジナルの図表を無断盗用する方が少なからずいます。学会で明らかに平田が作ったスライドのPDFから切り取ってそのまま盗用する人、雑誌社などから依頼された総説論文で、そのまま盗用する人、少しだけ修飾して盗用する人が後を絶ちません。このブログで公開した図を改変して使用する場合も、せめて引用論文くらいには入れてほしいと思います。とはいえ、私自身は薬剤師塾で使っている写真や図表はできるだけ、iStockなどから購入しているのですが、NETで拾ってきた写真や図表やイラストを薬剤師塾で使わざるを得ないこともあるのですから、文句は言えたものではないのですが、引用先は記載するようにしています。近年、このようなNETで拾ってきた写真や図表を配布することも問題になってきておりますことをご理解していただければと思います。


第1回 薬剤師塾Q&A「透析患者の薬① ~基礎編 病態と薬物療法~」

Q.今回の内容とはかけ離れていますが、リコモジュリンは重篤な腎機能障害で減量との記載があります。目安にする投与量をご教授いただければ幸いです。

A.リコモジュリンの添付文書によると常用量は「1日1回380U/kgを約30分かけて点滴静注する。重篤な腎機能障害のある患者には、患者の症状に応じ、適宜130U/kgに減量して投与すること」となっています。

この根拠として添付文書では尿中未変化体排泄率73.6%と高いための減量基準だと思いますが、Hayakawaら1)は組換えヒト可溶性トロンボモジュリン(ART-123)を腎機能正常者から末期腎不全まで腎機能の異なる患者に380U/kgを投与しても血清ART-123濃度は末期腎不全でも腎機能正常者でも差がなく(右図)、忍容性も高かったことを報告しています。

その結果の表(下の表)から腎機能正常者に常用量を投与した際の24時間の尿中未変化体排泄率は13.7%となっています。ただし半減期が16.2時間なので、この値はやや過小評価になりますが、添付文書の尿中未変化体排泄率73.6%は明らかに高すぎます。MW52,124Daと高いので、糸球体基底膜を70%以上もすり抜けられないのでは?という疑問も生じます。おそらくART-123だけではなく、そのフラグメントのペプチドも一緒に測定していたためではないかと考えられます。悩ましいのはこのような報告が出ても、日本の添付文書は変わらないことです。長くなりましたが、答えは「リコモジュリンは腎機能低下患者でも減量する必要なく1日1回380IU/kg, 30分点滴で構わない」です。

日本腎臓病薬物療法学会の出版している日腎薬誌の特別号、いわゆるグリーンブックはこれらのことがすでに記載されています。このグリーンブックは2年に1回の改訂で、今年の春に発行されますが、学会会員はこれとポケットブック(現行版3,960円)が無料で郵送されますので、学会の会計年度の9月1日以前、つまり8月までに入会されれば、大変お得です。

1)Hayaawa M, et al: Thromb Haemoast 117: 851-859, 2017


Q.CRRTの用量について質問に答えていただき、ありがとうございました。各国のCRRTによるクリアランスと薬用量で比例計算などで参考量を求められればと思い、質問させていただいたのですが難しいのですね。また、改めて勉強していこうと思います。勉強不足で見当違いな質問をしてしまったかもしれませんが、少しずつでも成長していければと思います。これからも、よろしくお願いします。

A.CRRTとは持続的腎代替療法、日本ではCHDFのことですね。皆さんも悩んでいる問題だと思いますが、ただ1人、質問していただき、心より感謝申し上げます。僕が目指している薬剤師塾は一方向性の講演会ではなく、「塾」ですから、本当にわからないことをぶつけてほしいし、それをみんなで話し合うような熱い討論ができれば理想的だと思っています。前々回の薬剤師塾「初めての学会発表から博士号取得までの道」で、言わせていただきましたように(スライド)、講演会を視聴するとき「1受講者であっても講演会は演者との戦いの場と思え」、僕は40歳以降、臨床薬剤師としてはとても遅いスタートでしたが、こんな心がけで講演会に臨むことによって速やかに実力をつけることができました。「薬剤師塾」も学会も、勉強会も講師だけじゃない、皆さんと一緒に創るもの、「講師がつまらなかったら、ディスカッションで盛り上げてやる」くらいの気持ちをもっていただきたいと思っています。


Q.糖尿病患者さんへの服薬指導に悩みます。自覚症状はないし、薬飲んでいるからと、食改善しない。透析になると、辛いんですよとつい言ってしまいたくなります。どのように指導したら良いでしょうか?透析前の方が食事制限がキツいとは、驚きでした。

A.透析導入前には様々な電解質異常、尿毒素の蓄積による尿毒症症状が現れやすくなるため、食事制限は非常に厳しいです。透析導入すると電解質異常、尿毒症症状は透析によって是正されて、軽減しますので、食事制限ははるかに楽になります。リン制限はたんぱく制限につながりますので、栄養状態の悪不良な高齢透析患者に強いるのは栄養不良で予後を悪化させるだけでなく「生きる楽しみも奪う」ことになります。

保存期に「疲れやすくて何もしたくない、食欲もない」という方が透析導入後に「頭がしゃきっとして倦怠感がなくなって、すごく元気になった。こんなことなら早く透析していたらよかった」という声を何度も聞いたことがあります。若年の慢性腎炎の方ではこのような方がほとんどですが、糖尿病で高齢者の方ではこのような目覚ましい改善が得られるとは限らないのが現実です。でも患者様の希望を失わせるような服薬指導をしていると「透析なんてしたくない、透析するくらいなら死んだ方がましだ」という辛い患者様を増やしてしまいます。

透析導入だけではありません。早期のCKD患者様には「CKDが進行すると心筋梗塞や脳卒中で突然死する危険性が高いです。低下した腎機能は元にもどらず、低下すれば早死にします。厳しい塩分・蛋白制限をしなくては・・・

腎機能が悪くなると一生、透析を続けなければなりません。」なんて間違いではありませんが、患者様を暗くして生きる喜びを奪ってしまう服薬指導です。

僕は「軽度の蛋白尿が早期発見できてよかったですね。これからの治療、頑張りましょう!」とかARBなど(今だったらSGLT2阻害薬も)が投与されたら「この錠剤を1日1錠飲のむだけで蛋白尿を少なくして、腎臓が悪くなるのを防げます。しかも心筋梗塞や脳卒中になるのも防いでくれます。月に1回必ず受診すれば一病息災でかえって長生きできるかもしれませんね」という明るい服薬指導を心がけていました。


Q.CHDFの場合、濾液流量が日本の速度より早い場合、それに合わせて腎機能を考え、尿量を足して考えれば良いんでしょうか?

A.サブラッドを置換液+透析液として使用したCHDFの場合、ほぼ血清濃度と同じ廃液が得られます。だからCHDF自体のクレアチニンのクリアランス(CCr)は濾液量(廃液量)と等しくなります。20L/日の廃液が得られたとするなら、CCr 20L/日=13.9mL/minになります。患者様の腎機能が実測CCrで30mL/minであれば(若干血清Cr値がCHDFで低めになりますが、そこは大目に見ても問題ありません)、この患者さんに腎排泄性の薬物を投与する場合、30mL/min+13.9mL/minで43.9mL/minの患者様の投与量を投与すればよいことになります。

海外のCRRTはサブラッドの代わりに透析液を浄化して大量置換をしていますので、これらの報告は参考にしない方がいいです(スライド)。


Q.HDFはHDに比べ、実際どのくらい行われてるのでしょうか?質問意図がずれたら申し訳ありません。

A.いえいえ、非常に良い質問です!HDFは2016年のオンラインHDFの保険適応とともに患者数が伸びています。2020年末の調査によると全透析患者34.8万人に対し、16万人近くがHDF患者です(2015年は44,527人なので5年間で3倍以上です!)。そのうち11.1万人がオンラインHDFをやっています。オンラインHDFではサブラッドを使わず、浄化した透析液を大量に使って大量の濾過を行いますので、大きい分子量のものが除去されやすく、痒みやイライラが、不眠など様々な尿毒症症状が消失し、様々な合併症が改善しやすいといわれていますので、患者数が増えているのはうなづけます。


Q.透析導入前は必ずクレメジンを使用されているのでしょうか

A.必ずしも処方されていません。クレメジンについてはCAP-KD試験というRAS阻害薬服用のSCr<5mg/dLの460人を対象に56週間のRCTの結果が2009年に報告されました。エンドポイントは透析導入、腎移植、死亡、SCrの2倍化またはSCr6mg/dL到達としましたが、1次エンドポイントで差が認められませんでした1)。この結果からクレメジンの処方率は上がっていないと思われます。クレメジンカプセルというのみにくい製剤を使用したため、アドヒアランス不良があったのかもしれませんが、クレメジン群はeGFRの低下率を有意に遅延したという結果も得られています。

1)Akizawa T, et al: Am J Kidney Dis 54: 459-467, 2009


Q.透析患者でカルニチンが欠乏した場合に、食物からの摂取には限界があり、カルニチン補充療法になるかと思いますが、カルニチンの投与期間の目安はあるでしょうか?ご教授いただくと幸いです。

A.カルニチンは羊肉、乳製品などの動物性食品に多く含まれます。確かにわが国の透析患者さんは平均年齢約70歳と高齢化は著明で肉をたくさん食べられないでしょうから、欠乏すれば補充する必要があると思います。カルニチンは長鎖脂肪アシル補酵素A(CoA)エステルを筋細胞のミトコンドリアに輸送するために必要で、欠乏すると低血糖、筋壊死・ミオグロビン尿・脂質蓄積性ミオパチー、筋肉痛、脂肪肝、心筋症を伴う高アンモニア血症を引き起こすことがあり、透析患者ではESA抵抗性貧血などの原因になるとされています。投与期間の目安については分かりかねますが上記の症状がないのに、漫然と投与を継続すべきではありません。アシルカルニチン/遊離カルニチン比(AC/FC)が正常では≦0.25ですが、>0.4 の場合は二次性カルニチン欠乏症として投与継続の判断としてもよいかもしれません。

薬剤のエルカルチンFF錠の吸収率は11.2-16.3%ですが、食物として摂取すると75%と高いです。ということはエルカルチン錠の80%以上は腸を通って糞便中に排泄されるか、心血管病変を悪化させる尿毒素のトリメチルアミンN-オキサイドの原料になる可能性がありますので(◆連載◆腸腎連関gut-kidney axis~腎機能を悪化させる尿毒素Ureic toxinの蓄積には腸内細菌が関わっている~ 第11回図12参照)、できれば食物から摂取することが望ましいのですが、十分な摂取ができない場合には「1回300mg錠を1日2回などの低用量から投与を開始する」よりも「エルカルチンFF静注を週3回HD後に1回10~20mg/kgを静脈側透析回路に注入する」方法の方が尿毒素を増やさないためにはよいのではないかと思っています。


Q.今日の講演でCHDF患者さんのCCrは13.9+その患者さん自身のCCr。寝たきりの場合は蓄尿した尿バッグから測れますが、寝たきりでない人も蓄尿して測ったほうがいいですか?

A.CHDFは1日中ベッドで施行されますので、寝たきりになります。寝たきりでないCHDF患者はいません。寝たきりになると個人差があり1日1-4%、筋肉量が減少し1)、平均67歳では10日間で20%減少する2)と報告されていますし、ICU患者では1週間に20%程度の筋肉が減少し、特に人工呼吸器を装着するとさらに呼吸筋が著明に減少します3)。同様にICUに入っているCHDF患者は日に日に筋肉量が減少しますので、腎機能の過大評価が問題となります。

逆に特に若年のICU患者では輸液や血管作動薬の投与などの影響によってARC(過大腎クリアランス)になることもあり4)本当に腎機能が非常に高いこともありますので、蓄尿して実測CCrを測定することは、腎排泄性ハイリスク薬を投与するときの腎機能評価では非常に重要と思われます。

寝たきりでない人の畜尿は病院のトイレ(畜尿室)で患者名の書かれた畜尿容器に尿を貯めて測ります。入院患者ではよほど認知症の進行した方でない限り、蓄尿忘れはないと思います。

1)Müller EA : Arch Phys Med Rehabil 51 : 449-462, 1970
2)Kortebein P, et al:. JAMA  297 : 1772-1774, 2007
3) Liano-Diez M, et al Crit Care 2012; 16: R209
4) Udy AA, et al: Clin Pharmacokinet 49: 1-16, 2010


また講演依頼に関しましては平田のメールアドレスhirata@kumamoto-u.ac.jpまでお気軽にご連絡ください。

 

 

プロフィール

平田純生
平田 純生
Hirata Sumio

趣味は嫁との旅行(都市よりも自然)、映画(泣けるドラマ)、マラソン 、サウナ、ギター
音楽鑑賞(ビートルズ、サイモンとガーファンクル、ジャンゴ・ラインハルト、風、かぐや姫、ナターシャセブン、沢田聖子)
プロ野球観戦(家族みんな広島カープ)。
それと腎臓と薬に夢中です(趣味だと思えば何も辛くなくなります)