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今年の国家試験を見ていてとんでもない問題が出ているので驚きました。す。それは問334です。じっくり見てください。

第100回薬剤師国家試験問題(2015年

問334

65歳男性。体重72kg。非弁膜症性心房細動との診断で下記の処方薬を服用していた。数日前から、めまい、ふらつき、冷汗、手の震え、軽度の意識障害にて昨日入院となった。本日病室を訪問した薬剤師は、下記の処方薬を日頃欠かさず服用していたことを付添いの家族から聴取した。また、カルテから入院時検査結果が血清クレアチニン値は2.0mg/dL、BUN は39mg/dL、空腹時血糖は40mg/dLであることを確認した。

シベンゾリンコハク酸塩錠100mg   1回1錠(1日3錠)
ベラパミル塩酸塩錠40mg  1回1錠(1日3錠)
ニコランジル錠5mg1回1錠(1日3錠)  1日3回 朝昼夕食後
ダビガトランエテキシラートカプセル110mg 1日1カプセル(1日2カプセル)
ニフェジピン徐放錠10mg (12時間持続)    1回1錠(1日2錠)1日2回 朝夕食後

担当の薬剤師は、入院時の不快症状と検査値から薬の副作用を疑い、医師に薬剤の変更を提案しようと考えた。該当する薬剤はどれか。1つ選べ。

1 シベンゾリンコハク酸塩錠
2 ベラパミル塩酸塩錠
3 ニコランジル錠
4 ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩カプセル
5 ニフェジピン除放錠

 

まず血清クレアチニン値は2.0mg/dL、BUN は39mg/dLであることから明らかに腎不全。腎機能低下による有害反応は肝代謝型薬物のベラパミル塩酸塩錠、ニコランジル錠、ニフェジピン除放錠では起こりません。これで選択肢は1か4になります。だけどどちらも超ハイリスク薬です。

ただし起こった有害反応は「めまい、ふらつき、冷汗、手の震え、軽度の意識障害」しかもご丁寧に空腹時血糖は40mg/dLとくれば、問題なくシベンゾリンコハク酸塩錠が正解になるはずです。比較的やさしい問題だけど、ダビガトランエテキシラートも腎排泄でCCr<30mL/min未満の患者には禁忌です。じゃあ念のためにCCrを計算してみましょう。CCrの計算にはCockcroft-Gault式を用いればいいですね。体重は計算しやすいように72kgになっています。

推算CCr={(140-年齢)×体重×0.85(女性)}/(72×血清Cr値)

    ={(140-65)×72×0.85(女性)}/(72×2.0)=37.5mL/min

CCrが30以上あるから投与しても問題ない・・・・

じゃないです!腎排泄型のハイリスク薬は腎機能の推算結果だけで投与の可否を簡単に線引きしちゃいけません!

ダビガトランは2011年にワルファリン以来50年ぶりに発売された新規経口抗凝固薬ですが尿中排泄率85%と非常に高い薬物であるため、発売後半年間に、腎機能の低下した高齢者が23名出血死した超ハイリスク薬です。

添付文書を見ると腎機能正常者に比べCCr<30mL/minの重度腎障害患者ではAUCが6.3倍、半減期が13.4hrが27.2hrに延長しています。ということから「透析患者を含む高度の腎障害(クレアチニンクリアランス30mL/min未満)のある患者では本剤は主に腎臓を介して排泄されるため、血中濃度が上昇し出血の危険性が増大するおそれがあるため投与禁忌」になっています。

AUCが6.3倍になるのならCCr<30mL/minでは常用量の1/6以下の50mg/日以下にすべき薬ですが禁忌になってますが、CCrが30mL/minであれば220mg/日投与できるのです。ハイリスク薬なのに大胆すぎる投与設計なので怖い感じがしています。それとCockcroft-Gault式をよーく見直してください。これって体重が2倍になると腎機能は2倍に推算されちゃいますよね。

推算CCr={(140-年齢)×体重×0.85(女性)}/(72×血清Cr値)

つまりCockcroft-Gault式は肥満を考慮していないのでに示すように体重の影響を強く受けます。

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ということはこの患者の身長は不明ですが、本来は肥満患者では身長から理想体重をを算出して入力すべきです。160cmだったら理想体重は56.88kgになり、腎機能は29.63mL/minに計算され禁忌になります。150cmだとしたら理想体重は47.83kgになり、腎機能は
24.91mL/minに計算されます。非常に危ない投与になります。

処方をもう1度見直してもらえますか?相互作用は考えられないでしょうか?心房細動では当たり前のように併用されるレートコントロール薬のベラパミルが投与されています。ベラパミル錠は120mg/日をジゴキシンと併用するとおそらくジゴキシンの血中濃度は1.5倍になるため、私が薬剤師時代には、あらかじめジゴキシンの投与量を2/3に減量することを医師に提言してからベラパミルを投与してもらっていました。そうです。ベラパミルにはP-糖タンパク阻害作用があり、ジゴキシンもダビガトランもP-糖タンパク質の基質なのです。ではダビガトランの添付文書の記載を見てみましょう。

以下の患者では、ダビガトランの血中濃度が上昇するおそれがあるため、本剤1回110mg1日2回投与を考慮し、慎重に投与すること。

・中等度の腎障害(クレアチニンクリアランス30-50mL/min)のある患者
・P-糖蛋白阻害剤(経口剤)を併用している患者

[「慎重投与」、「重要な基本的注意」、「相互作用」の項参照]

以下のような出血の危険性が高いと判断される患者では、本剤1回110mg1日2回投与を考慮し、慎重に投与すること。

・70歳以上の患者
・消化管出血の既往を有する患者

 ご覧のように「70歳以上の患者は出血の危険性が高いため、本剤1回110mg1日2回投与を考慮し、慎重に投与すること」ということも添付文書に書かれていますが、本症例は65歳です。これも安易に線引きしていると思いませんか?それから「中等度の腎障害は220mg/日に減量」かつ「P-糖タンパク質阻害剤(経口剤)を併用している患者は220mg/日に減量」の患者には何mgにすべきでしょうか?220mg/日でよいはずはなく、これは投与禁忌と考えるべきでしょう。

さらにさらに、カナダの添付文書では日本と同じくCCr<30mL/minは禁忌になっています(なぜか米国は減量して投与可能)。ただし日本の血清Cr値は正確な酵素法により測定しているためCCrの正常値は120-130mL/minであるのに対し、血清Cr値が酵素法より0.2高いJaffe法によって測定している国のCCrの正常値は100mL/minです。すなわち海外でCCr<30mL/minで禁忌なら30mL/minをやや超えている日本の症例も明らかに禁忌と考えるべきです。

私はここで減量・投与すべきでないことばかり書きましたが、経口抗凝固薬は投与量を少なすぎて出血が起こらなければよいという種類の薬ではありません。致死的な血栓症を抑えなくては意味がありません。つまりこの薬の有効治療域は「出血と梗塞の間」なのです。多すぎても少なすぎてもダメで、上手にコントロールする必要があります。

経口抗凝固薬は超ハイリスク薬です。腎機能が低下すると同様に血中濃度が上昇するアレグラやセフゾンのような安全性の高い薬物とは一緒にしてはいけません。CCrが30mL/minあれば投与できる、29mL/minでは投与してはいけない、あるいは69歳だったら300mg/日、70歳なら220mg/日というような簡単に線引きができる薬でもありません。

いずれにしてもこの問題が過去問として国家試験対策用の問題集に載り、薬学生だけでなく薬剤師までもが、「国家試験に出るくらいだからダビガトランやティーエスワンはCCrが30mL/min以上なら何も考えずに投与しても問題ない。相互作用も重要じゃないんだ」と思ってしまうことを予想するとぞっとしてしまいます。

 


プロフィール

平田純生
平田 純生
Hirata Sumio

趣味は嫁との旅行(都市よりも自然)、映画(泣けるドラマ)、マラソン 、サウナ、ギター
音楽鑑賞(ビートルズ、サイモンとガーファンクル、ジャンゴ・ラインハルト、風、かぐや姫、ナターシャセブン、沢田聖子)
プロ野球観戦(家族みんな広島カープ)。
それと腎臓と薬に夢中です(趣味だと思えば何も辛くなくなります)