New England Journal of Medicineの3月17日号に載った論文「Safer Prescribing–A Trial of Education, Informatics, and Financial Incentives. より安全な処方のための教育、情報の提供、金銭的インセンティブ」を紹介します。これは薬剤師が自由に参加できる育薬フロンティアセンター主催の抄読会で6年生の福元君によって紹介されました。

  NSAIDsや抗血小板薬をリスクの高い患者に投与するハイリスク処方による消化管出血、NSAIDsをCKD患者に投与したり、RA阻害薬+利尿薬と併用することによる急性腎障害(AKI: acute kidney injury)、あるいは心不全患者にNSAIDsを投与することによっておこる心機能悪化による入院に対して介入することによって、副作用による入院を減少できるかという研究が実施されました。

  対象はプライマリケア診療所を営む英国スコットランドの開業医で、どのような介入をしたかというと、まず最初に行ったのが薬剤師など専門家によるハイリスク薬に関する教育なのです。そのほかの介入は表1に示す通りです。


表1. NSAIDsと抗血小板薬を含むハイリスク処方に対し3つの介入

(1)薬剤師など専門家による教育 (開始時に1時間受講)、その後8週ごとにレターなどが送付

(2)電子カルテから処方の見直しが必要な患者データを特定するなどの情報システムによる支援

(3)ハイリスク処方について見直しを行った際に支払う金銭的インセンティブ (初回固定額として600ドル、見直した患者ごとに25ドル;フルタイム医師当たり平均収入の約0.6 %に相当する平均約910ドルの支払いを見込んだ)をそれぞれ提供した。


  では実際にどのような介入をハイリスク薬と定義したのかというと表2に示すNSAIDsと抗血小板薬を含む9種の処方でこれらを主要評価項目にしています。表2(1)から(6)まではハイリスク患者に消化管出血を起こす可能性のあるハイリスク処方であり、(7)(8)は急性腎障害(AKI)になるハイリスク処方であり、(9)は心不全を悪化させる可能性のあるハイリスク処方です。ではなぜ(7)(8)によるAKIになるかもしれない処方をハイリスク処方としたのかというと、英国では1999年から2009年の間に薬剤性腎障害による入院が約2倍に増加しており、AKIの重要な原因が薬剤性であるにもかかわらず薬剤間相互作用が急性腎障害リスクに及ぼす影響についてはほとんど知られていなかったことに起因します。


表2.NSAIDsと抗血小板薬に関する9種のハイリスク処方(主要評価項目)

(1)消化管潰瘍患者に胃粘膜保護薬処方なしでNSAIDまたはアスピリン処方

(2)75歳以上患者に胃粘膜保護薬処方なしでNSAID処方

(3)65歳以上患者に胃粘膜保護薬処方なしでNSAID処方

(4)65歳以上・アスピリン服用患者に胃粘膜保護薬処方なしでクロピドグレル処方

(5)経口抗凝固薬服用患者に胃粘膜保護薬処方なしでNSAID処方

(6)経口抗凝固薬服用患者に胃粘膜保護薬処方なしでアスピリンまたはクロピドグレル処方

(7)RAS阻害薬と利尿薬服用患者にNSAID処方

(8)慢性腎臓病患者にNSAID処方

(9)心不全歴あり患者にNSAID処方


  副次評価項目として解析したのはこれらの処方に関連した「入院」です。統計解析は除外対象になったものも解析に含めるintention-to-treat解析です。

  AKIに関しては199711日から20081231日までに降圧薬投与を受けていた成人患者を登録し、487372人からなるコホートを対象にしています。主要転帰評価指標は、2剤または3剤の現在使用者のAKIによる入院に設定しています。最終的には試験を完了した33診療所を含み、介入前の対象患者3万3,334例と、介入後の対象患者3万3,060人について統計的解析を行っています。

では結果を示しましょう。事前に規定したハイリスク処方(あらゆるリスクを有した患者)の発生率は、介入直前の3.7%(29,537例中1,102例)から、介入終了時の2.2%(3187例中674例)へと40%程度減少し(P0.001(図1)、介入後もその傾向は持続しています。

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  副次的評価項目である入院率の検討を行うと入院前の8週間における規定したハイリスク処方に関する潜在的な薬物関連入院に関しては消化管潰瘍や消化管出血による入院は、介入前の4.6/1万患者年から介入期間中の0.4/1万患者年へと、有意に減少し(P=0.004)、AKIによる入院も、34.6/1万患者年から11.1/1万患者年へと、有意に減少しました(P0.001)。一方、NSAIDsによる心不全による入院は、59.0/1万患者年から32.1/1万患者年へと、有意な減少は認められませんでした(P=0.34)(図2)。

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また、規定したハイリスク処方によらない潜在的な薬物関連入院に関しては消化管潰瘍や消化管出血による入院も、介入前の55.7件/1万患者年から介入期間中の37.0件/1万患者年へと、有意に減少しました(率比:0.66、95%CI:0.51-0.86、P=0.002)。心不全による入院も、707.7件/1万患者年から513.5件/1万患者年へと、有意に減少しました(率比:0.73、95%CI:0.56-0.95、P=0.02)。一方、AKIによる入院は、101.9件/1万患者年から86.0件/1万患者年へと、有意な減少は認められませんでした(率比:0.84、95%CI:0.68-1.09、p=0.19)。

  この研究に参加した診療所は参加しなかった診療所よりもより意欲的でありハイリスク処方を変更する大きな能力を持っていた可能性があるなどのリミテーションはあるものの、ハイリスク処方を改善するための介入にプライマリケア専門医に対する薬剤師による教育が行われ、その他の介入もあったものの、結果として不適切処方による消化管出血やAKIなどの医原病が有意に減少できたことは大いに意義深い検討と言えます。日本では多剤投薬された患者の減薬を行うと点数が算定できるようになりましたが、まだまだ無駄な処方がされていることの裏付けかもしれません。入院を要するようなハイリスク薬処方を疑義照会によって減少させて、入院件数を減らすことに成功した薬剤師に点数が加算されるシステムが導入されれば、医薬品の安全性を担保することのできる薬剤師が誰なのかがわかる、つまり有能な薬剤師がは誰かを判断できる時代が来るかもしれません。

 

原著論文

Dreischulte T, Donnan P, Grant A, Hapca A, McCowan C, Guthrie B: Safer Prescribing–A Trial of Education, Informatics, and Financial Incentives. N Engl J Med. 374(11): 1053-1064, 2016

 身長183cm、109kg。う~ん、Cockcroft-Gault式には理想体重を入れなくちゃいけない体格・・・・、あっ、いつもの薬剤師癖が出ちゃいました。ではなく昨年、カープに在籍した「天使」マイク・ザガースキー投手が日本に帰ってきます。でも残念なことに優良外人が豊富なカープではなく、リリーフ陣が苦戦しているDeNAにです。

 ザガースキー投手は昨年の前半、左腕のセットアッパーとして活躍していながら、外人選手が豊富なカープの中では出場機会に恵まれず、残念なことにわずか1年で退団になってしまいました。でも彼はカープファンに絶大な人気がありました。愛くるしいぽっちゃり体型といつも笑顔の癒し系、だけでなくすっごく人がいいのです。2群では登板するたびに若いカープ女子たちから「かわいい~!かわいい~!」と黄色い歓声が上がっていました。そしていつしか「天使」「ザガちゃん」と呼ばれるようになったのです。

  以下はザガちゃんの「いい人伝説」のきっけとなった、これも性格がとってもいい大瀬良大地投手の昨年のブログから紹介します。

大瀬良 大地
@Ohsera_Daichi
雨で試合が中断してる時にぐちゃぐちゃのスパイクで歩いてたらザガースキーが自分の履いてるスリッパを脱いで手に取り、これ使えって差し出してくれました!断ったんだけど頑なに渡してくるので使わせてもらいました。あなた靴下じゃん…と自分を後回しにしてまで人を思いやる心に少し泣きそうになりました。
2015/04/14 20:29:25

まさに天使ですね。ザガースキーの背中には羽根があるのかも?

ちょっとしたエピソードです。 その後彼はヒースと何事もなかったかのように笑いながら会話してるのを見て、こういうことを当たり前にやってきたんだろうなと彼の優しさを感じた瞬間でした。 ではでは、お疲れ様です^ ^

— 大瀬良 大地 (@Ohsera_Daichi) 2015/04/14 20:31:03

  そして数々の天使エピソードを残しながら外国人枠の都合で2軍降格となったザガースキー投手のために、1軍選手たちが「ザガースキーが1群に戻ってくるまでに一丸となって頑張ろう」と誓い合ったことが報じられました。そして代わりに1群登録となったいわば生き残りをかけたライバルのヒース投手にザガちゃんは1群の他球団の情報をつぶさに教えていたとか・・・・。本当にいい人なんだね。ザガースキーは。DeNAに入っても応援しようと思います。頑張って「天使」!

ザガースキー写真集

  1. 来日草々、節分の日に恵方巻きを食べ、ご満悦の彼(写真①)は翌日、練習中に右足首を捻挫し全治3週間出遅れた。

  2. 彼は日本にしかない「ハイチュウ」が大好き。これは同じハイチュウ好きの黒田投手の影響かも?(写真②)

  3. なんとか開幕には間に合い、マウンドでの雄姿。(写真③)

  4. 4月2日にはDeNA戦でマウンド上ですってんころりん(写真④・⑤)

  5. 天使「ザガちゃん」のマウンドでの雄姿(写真⑥)

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 私は毎年、熊本中央病院健診センターで人間ドックにかかっています。毎年、血清クレアチニン値は0.9mg/dLで昨年のeGFR67.6mL/min/1.73m2です。私の身長は170cm、体重は63kgですから体表面積はちょうど1.73m2ですので正味の腎機能も同じく67.6mL/minと考えてよいわけです。ところが今年の検査結果ではeGFR59.6 mL/min/1.73m2になりました。「L(異常値を示すマークで低値を示します)」の字がしっかりついており、CKDになってしまいました。

 心配していただける方があるかもしれませんが、実は私はこの2年間、週に12回フィットマッチョ.jpgネスクラブに通っており、ずっと上体は細く両腕も細かったのが、ようやく細マッチョというか、ちょっとした逆三角形の体型になれたのです。そうです。平田は「脱いでもすごい」体型になったのです。おかげで筋肉量の指標でもある血清クレアチニン値はいつもの0.9mg/dLから、ようやく1.0mg/dLに上昇しました。言い換えればCKDになってしまったのではなく、頑張ってCKDになることができたのでした。

 現在、頑張っているのは心肺機能の向上です。2月の熊本城マラソンには完走できたけれど、タイムは恥ずかしながら6時間2分。左膝を壊したためにほとんど歩いての完走でした。20歳代では3時間20分前後で完走できていたのに、悔しい限りです。これからは心肺機能を 上げて、腎血流を上げて筋肉はあるけど血清クレアチニンは低いというスパーボディを手に入れたいと思っています。

 サプリ.jpgただし恥ずかしながら認知機能はずいぶん低下しており、人の名前が覚えられない。歯磨きの代わりに洗顔料で歯を磨いたり、シャンプーをいくらたっぷりつけても泡立たないので、よく見るとコンディショナーだったりしたことも1度や2度だけじゃない。DHAは毎日、サプリメントとして飲んでいるのですが、「あれ、さっき飲んだような・・・・、いや飲んでなかったっけ?」と、極めてアドヒアランスの悪い症例になりつつあります。

ダメ薬剤師が変われるきっかけ
 

 AさんのTDMの成果は高く評価され、白鷺病院では他の抗不整脈薬、ジゴキシン、抗MRSA薬、抗てんかん剤など、TDMは幅広く実施されるようになった。TDMを実施することによって薬剤師に幅広い薬学的知識が身に付くと、TDM対象薬以外にもその知識は応用でき、より多くの薬物の有効かつ安全な投与が可能になった。そして「100床以下の小病院では学会発表なんて無理」なんて思っていた頃のことが嘘のように、薬剤科の学会発表数、文献執筆数は毎年、倍々ゲームのように増え続けた。93年ゼロだった文献数は94年1本、95年2本と増え続け、2003年には総説を加えると薬剤師5人で文献数は31本になった。学会発表や文献執筆は病院外へのアピールも大きいが、僕は病院内でのアピールが最も効果が高かったように思う。医師をはじめとした医療スタッフの信頼が得られ、その結果、薬剤師が薬剤師らしい仕事をできるように変われたことが一番のメリットだと考えている。

 94年以前、僕たちは調剤しかできないダメ薬剤師だった。薬剤師が変わるきっかけはいろんなところにある。筆者にとってはAさんとの出会い、そして一生懸命、頑張ったTDMが成果を結んだことが変わるきっかけの1つと信じている。

(この原稿はファルマシア40(4): 304-306, 2004.に掲載されたものを改変しました)

TDMとは?

 AさんのTDMに際してはTDMの結果からさまざまな処方介入を行った。薬剤師が処方介入して、病状が悪化するとドクターの信頼を失い、TDMの依頼も来なくなる恐れがある。介入をした後は毎朝、毎夕、Aさんのベッドサイドに行った。そして処方変更後の効果の確認、副作用の観察を注意深く行った。結局、AさんのTDMを介して学んだことは「TDMは決して血中濃度を有効治療濃度域に直すためにやるのではなく、患者様を治すためにやっているのだということ。患者さんを見ないで血中濃度に対する薬学的コメントを書くべきではないこと」である。そしてそのポリシーは今も白鷺病院薬剤科で続いており、必ず服薬指導をしている薬剤師が血中濃度に対するコメントを書き、ドクターに報告している。試験室の薬剤師が血中薬物濃度を測定し、患者さんを見ないで薬学的コメントを書いている施設があるとすればそれはTDM(therapeutic drug monitoring)ではなくTDA(therapeutic drug assay/analysis)であると思う。これは筆者の勝手な解釈かもしれないが、AさんのTDMから学んだこと、「Monitoringにはその薬がちゃんと効いているかどうか、副作用は現れていないかどうかをmonitorするという意味もTDMには含んでいる」ということを信じている。

Aさんのその後
 

 Aさんの病状は改善し、疑問も解決した。しかし投与方法を変更しただけで副作用も不整脈も起こらなかったのは、奇跡としか言いようがない。危惧していた通り、約半年後にAさんは再び調子が悪くなり、50mgを1日2回投与ではコントロールできなくなって徐脈・頻脈が再発した。主治医は仕方なく50mgを1日3回投与に増量した。徐脈・頻脈は完全に消失したが、やはり視覚異常・食欲不振が再発した。再び文献検索した。何とか抗コリン作用を抑えられないものか?動物実験ではあったがジソピラミドの抗コリン作用はコリン剤で相殺できると書いてある文献を見つけた。しかしナパジシル酸アクラトニウムというマイルドな抗コリン剤を医師に勧めたが、ほとんど効果がなかった。結局、劇薬指定の強力なコリン剤である塩酸ベタネコールを1回15mg、1日3回ジソピラミドと一緒に投与するよう医師に勧めた。これは効きすぎた。下痢、腹痛、寝汗という強力な抗コリン作用が現れた。塩酸ベタネコールの最大作用発現時間は服用後1時間で作用持続時間は2時間と短い。これに対しジソピラミドはtmaxも遅く、透析患者では半減期が延長しているため、僕の投与設計ミスであった。結局1回7.5mgを1日6回という頻回投与することによってAさんの不整脈は副作用を全く起こすことなくコントロールできた。そのうちAさんは少量のベタネコールをジソピラミドのピーク濃度の直前に頓用すると副作用を防げるということを学んだ。

薬剤師としての疑問解決

 6月の終わりにAさんの症状は改善し退院した。しかし薬剤師としての疑問は残ったままである。

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①非常に低い遊離型濃度なのにピーク値付近では不整脈を抑えられたこと。②総濃度は有効治療域内にあるのに強力な抗コリン作用が発現したこと。この2点の疑問を解く鍵はクロマトグラムにあった。腎機能正常者のクロマトグラムには小さなピークとしてしか現れないジソピラミドの前のピークが必ず、Aさんのクロマトグラムでは振り切れるくらいの巨大ピークとして現れるのだ。使用しているカラムはODSカラム、つまり逆相分配クロマトであるため、水溶性のものほどretention timeが早い。「腎臓は水溶性薬物を排泄する。肝臓は腎臓で排泄されやすいように薬物を極性の高い代謝物に変換する。そのため代謝物は親化合物よりも極性が高い。」と、ある薬物動態の教科書に書いてあったことを思い出した。ジソピラミドの代謝経路を調べた。ラッキーなことに1つの経路しかない。脱アルキル化されてmono-N-dealkyldisopyramide(MND)になる。インタビューフォームによるとMNDには活性があるらしい(図1)。

早速、2つの原著論文を取り寄せると同時にジソピラミドを製造しているフランスのルセルに英文でMNDの原末を取り寄せるべく手紙を書いた。取り寄せた文献によると動物の様々な不整脈モデルでジソピラミドの1/4から同等の抗不整脈作用を持つことが明らかになった。これで①の疑問は解決するかもしれない。そしてさらにMNDの抗コリン作用についてPubMedを使って文献検索した。ある文献のAbstractを見て思わず鳥肌が立った。「MNDは親化合物の24倍の抗コリン作用を有する」と書いてあった。これで②の疑問も解決するかもしれない。9月のはじめになってようやくMNDの原末がフランスから届いた。早速、HPLCに注入した。そして見事、Aさんのクラマトグラムで必ずジソピラミドの前に現れた巨大ピークと一致した(図2)。

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これで薬剤師としての疑問は何とか解決できた。つまり①非常に低い遊離型濃度なのにピーク値付近では不整脈を抑えられたのはMNDに抗不整脈作用があったため、②総濃度は有効治療域内にあるのに強力な抗コリン作用が発現したのはMNDの抗コリン作用が強力であったためと考えた。

TDMの結果から投与設計

 総濃度でのトラフ値は0.75、ピーク値は2.87µg/mL、AAG濃度は103〜127mg/dLと健常者の約2倍あったため、蛋白結合率は約85%と高く、遊離型濃度はトラフ値が0.09、ピーク値は0.40µg/mLと低かった。この結果には薬剤師として大きな疑問が2つ生じた。①このような低い遊離型ピーク濃度では不整脈を抑えられないはずなのにピーク値付近では不整脈が完全に抑えられていたこと。②総濃度は有効治療域(2〜5µg/mL)内にあるのにピーク値付近では通常では起こりえない強力な抗コリン作用が発現していたことである。
トラフ値が低すぎたために徐脈・頻脈が現れ、ピーク値が高すぎたために視覚異常・食欲不振が発現するというAさんの病態から、投与方針は容易に決まった。ピーク値/トラフ値比をできるだけ大きくするためには少量頻回投与するべきである。至急50mgのカプセルを購入し、1日2回投与してもらうよう医師に勧めた。思った通り、ピーク値は下がり、トラフ値は上がった。そして奇跡的にAさんの徐脈・頻脈は1日中治まり、視覚異常・食欲不振も全く消失した。まさに奇跡であった。いくら内科医がAさんの投与方法を変更してもコントロールできなかった不整脈と副作用を薬剤師がTDMを実施することで完全にコントロールでき、退院できたのである。しかし薬剤師としての2つの疑問は残ったままだった。

臨床経過を追う

 入院当初、Aさんはジソピラミドカプセル100mgを1日1回投与されていた。そのうち不整脈が起こったため、主治医は100mgを1日2回投与に変更すると、徐脈・頻脈は完全に抑えられたが、案の定、視覚異常・食欲不振が現れた。100mg/日と200mg/日の1日おき投与を行ったが、視覚異常・食欲不振は持続し、100mgを1日1回投与に戻しても視覚異常・食欲不振は持続したため、主治医は100mgを28時間おきに投与するという変則処方を行った。今度は恐れていた徐脈・頻脈が現れた。結局、処方は入院当初の100mgを1日1回投与に戻ったが、Aさんの症状を観察していると視覚異常・食欲不振と徐脈・頻脈は決して同時には起こっていないことがわかった。ジソピラミドのtmaxは約3時間。ヒステリシスがあったとしても服用して3〜4時間が最大効果を示すと予測されるが、その時間帯では必ず視覚異常・食欲不振が起こっていた。そして次回服用前あたり、つまり血中濃度が最低になるトラフ値付近では必ず徐脈・頻脈が現れるのである。ここで初めてTDMの実施を決意した。その前にジソピラミドの薬物動態について調べた(表)。腎排泄型であるため半減期は延長しているはず。ジソピラミドは塩基性薬物であるため、アルブミンではなくα1-酸性糖タンパク質(AAG)と結合する。AAGの絶対量はアルブミンの1/40しかないため、ジソピラミドとの結合は容易に飽和する。そのため、蛋白結合率は5〜65%と幅広い。となると総濃度のトラフ値とピーク値だけでは効果の指標にならない。遊離型ジソピラミド濃度を測定するため限外濾過膜を購入し血清AAG濃度も測定した。遊離型濃度は低濃度であるため、師と仰ぐ上野和行先生(現新潟薬科大学教授)に教えを請い、HPLC法によって血清ジソピラミド濃度を測定した。

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服薬指導をはじめたきっかけ

 1994年の4月になり100床以下の病院でもやっと薬剤管理指導業務の算定ができるようになった。病院の大小によって薬剤師の質が決まるものではない。小さな病院という理由だけで「病棟における服薬指導業務」ができないというのは理不尽な決まりであったが、そんなことを恨んでいても何も始まらない。僕たちは「100床以下」という枠が取り去られてから、すぐさま「病棟服薬指導業務」を開始した。そんな時に出会ったのが透析歴20年以上で腹膜透析施行中の40歳台の主婦Aさん。洞不全症候群といって、洞結節やその周辺の障害が元で、心拍数が40に落ちたり180まであがったりを繰り返す、いわゆる徐脈・頻脈症候群を呈していた。主治医はペースメーカーの植え込みを勧めたが、ある宗教上の理由から手術をかたくなに拒むため、内科療法として抗不整脈薬を投与せざるを得なかった。循環器内科医の診断によりVaughan Williams分類Ⅰa族のジソピラミド(リスモダン®)が有効であろうということで投与された。ジソピラミドはAさんに実によく効いたが、同時に副作用も強力に現れた。ジソピラミドの主な副作用は抗コリン作用に基づくもの。口渇や、便秘などは耐えられる副作用であるが、Aさんに発現する抗コリン作用は強力で、ジソピラミドの投与量を増やすと視調節障害が現れ、目を開けているとピントが合わないため、食欲不振になり、やがてほとんど食事が摂れなくなった。副作用がきついので、他剤に変更すると効果がない。仕方なく減量してジソピラミドを投与すると徐脈・頻脈が現れる。そして増量すると視覚異常・食欲不振が現れる。こんなことの繰り返しで抗不整脈薬療法がうまくいかないため、この1年間Aさんは入退院を繰り返してきた。筆者が服薬指導をはじめたのはAさんが再入院した94年の5月のことである。 

プロフィール

平田純生
平田 純生
Hirata Sumio

趣味は嫁との旅行(都市よりも自然)、映画(泣けるドラマ)、マラソン 、サウナ、ギター
音楽鑑賞(ビートルズ、サイモンとガーファンクル、ジャンゴ・ラインハルト、風、かぐや姫、ナターシャセブン、沢田聖子)
プロ野球観戦(家族みんな広島カープ)。
それと腎臓と薬に夢中です(趣味だと思えば何も辛くなくなります)

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