いまだに多くの医師・薬剤師が腎機能の指標として血清クレアチニン(Cr)値を使っているという学会発表や調査報告があります。以下の2人の患者の血清Cr値は同じ値ですが、皆さんは腎機能をどのように判断しますか?

Aさん:20歳男性180cm70kg、血清Cr1.2mg/dL

Bさん:80歳女性155cm50kg、血清Cr1.2mg/dL

 Aさんは若くてアスリートのような体形を予想させますね。でもデータだけで腎機能を判断するのはよくないです。実際にAさんBさんの体格と活動度を確認する必要があります。Aさんは大学生でバスケットボール部のキャプテンで、筋骨たくましい男性でしたが、肉離れで整形外科を受診していました。そしてBさんは大きな病気はないものの、腰痛や膝関節症などで、整形外科に通っており、日常生活は通常にできているものの、ほとんど運動はしていません。血清Cr値が同じで、腎機能を判断しにくいので、腎機能推算式として汎用されているCockcroft-Gault によるクレアチニンクリアランス(CCr)を算出してみましょう。そうすると図1のようにAさんは97L/min、アスリートでなかったら筋肉量は少ないので、もっと高いCCrになり、多分120130mL/minはあるのではないかと思います。

 BさんはAさんの1/3以下の29mL/minで高度腎障害に分類される腎機能した。もっと運動ができていたら、血清Cr値はもっと高くなってCCr20mL/minに推算されていたかもしれません。Cockcroft-Gault式は肥満患者では腎機能を高く推算し、元気な高齢者では腎機能を低く見積もってしまうという2つの欠点がありましたが2人とも肥満ではなくBさんも活動度は低いので、推算値と実測値との乖離はそんなにないと思われます。

 ただしこれらはあくまで推算値であり実測値ではありませんが、血清Cr値が同じでも推算CCrはこんなに差があり、実測するともっと差が出るかもしれないなと平田は予測します。

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 ということで、わす化に高い程度の血清Cr値で腎機能を判断するのはあまりよくありません。今後はCCr、いやもっと精度の高い体表面積未補正eGFRmL/min)を使うべきだと思います。なぜこのようなことをブログで書いたのかというと、201648日にFDAから”FDA Drug Safety Communication: FDA revises warnings regarding use of the diabetes medicine metformin in certain patients with reduced kidney function“という医薬品安全性情報(Drug Safety Communicationshttp://www.fda.gov/Drugs/DrugSafety/ucm493244.htm)が出されたからです。内容は以下の通りです。

We are recommending that the measure of kidney function used to determine whether a patient can receive metformin be changed from one based on a single laboratory parameter (blood creatinine concentration) to one that provides a better estimate of kidney function in patients with kidney disease (i.e., glomerular filtration rate estimating equation (eGFR)). 

 メトホルミンを投与している患者に対しては血中Cr濃度のような単一の検査値からではなく腎機能をより正しく見積もることのできるeGFRに変えましょうという内容です。そうです。時代は変わってきているのです。国際間で、測定法の違いによって値が異なり、加齢・性別によって評価の仕方を注意しなければならない血清Cr値や、肥満患者で過大評価し、元気な後期高齢者では過小評価してしまう推算クレアチニンクリアランス(CCr)からeGFRを使って腎機能を評価しようという時代になりつつあるのです。

 これに呼応して{かどうかは分かりませんが}2016年5月12日日本糖尿病学会は「ビグアナイド薬の適正使用に関する Recommendation」http://www.jds.or.jp/modules/important/index.php?page=article&storyid=20をおよそ2年ぶりに改訂し「メトホルミンの適正使用に関する Recommendation」として発表しました。

 


「ビグアナイド薬の適正使用に関するRecommendation

メトグルコは中等度以上の腎機能障害患者では禁忌である。SCr値(酵素法)が男1.3mg/dL、女性1.2mg/dL以上の患者には投与を推奨しない

 高齢者ではSCr値が正常範囲内であっても実際の腎機能は低下していることがあるので、eGFR等も考慮して腎機能の評価を行う。ショック、急性心筋梗塞、脱水、重症感染症の場合やヨード造影剤の併用では急性増悪することがある。尚、SCrがこの値より低い場合でも添付文書の他の禁忌に該当する症例などで、乳酸アシドーシスが報告されている。 


   


「メトホルミンの適正使用に関する Recommendation

腎機能をeGFRで評価し、eGFR30mL//1.73m2)未満の場合にはメトホルミンは禁忌である。

 eGFR3045の場合にはリスクとベネフィットを勘案して慎重投与とする。脱水、ショック、急性心筋梗塞、重症感染症の場合などやヨード造影剤の併用などではeGFRが急激に低下することがあるので注意を要する。eGFR3060の患者では、ヨード造影剤検査の前あるいは造影時にメトホルミンを中止して48時間後にeGFRを再評価して再開する。尚、eGFR45以上また60以上の場合でも、腎血流量を低下させる薬剤(レニン・アンジオテンシン系の阻害薬、利尿薬、NSAIDsなど)の使用などにより腎機能が急激に悪化する場合があるので注意を要する。


 

「腎機能を正しく判断するには血清Cr値よりも推算CCr、推算CCrよりも体表面積未補正eGFRmL/min)を使いましょう。そして諸々の事情で推算値が適応しにくい症例には実測CCrを使いましょう。軽度腎機能低下時や筋肉量の影響を受けないシスタチンCによる体表面積未補正eGFRmL/min)も結構いいですよ」というのが今回のブログの結論です。

 皆様に、大変ご心配をおかけいたしましたが、熊本地震からはや1ヶ月。駅前の白川橋が通れないなどまだ完全にすべてが復旧しているわけではないので、ウィークデイの熊本市内の渋滞はひどいです。熊本空港の滑走路は全く問題なかったのですが、空港の場所は被害が最も大きかった益城町なので、空港の建物はまだまだ損傷したままで、欠航便はまだあります。とはいえ59日から大学での講義も再開され、ライフライン、インフラもほぼ回復し、元通りの暮らしが戻ってきました。建物が損壊した方々はまだまだ大変ですが、薬学部は学生、職員ともにみんな元気です。もちろん臨床薬理学分野のメンバーも全員、元気に研究・勉強をしております。

 多くの方々から安否の確認や励ましの連絡をいいただきました。この場をお借りいたしまして心より感謝申し上げます。

 PS: 東京腎薬の皆様から熊本腎薬のメンバー宛に、こんな集合写真を送ってもらいました。ありがとうございます!みんな元気でやっています。

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4月19日(火)10時

我が家は今日も水が出ない

 今日も水が出ない(ガスも出ないが、これは大した問題ではない)。市長は「18日から熊本市内で水道が使えるようにする」と言っていたらしいが、なかなかうまくはいかないらしい。透析には大量の水が必要だが透析ができない病院も多いと聞く。

 一昨日の大学のメールでは薬学部で自転車が盗まれたらしい。今まで住んでいた大阪では日常茶飯事だったが、治安が極めてよい熊大構内では非常に珍しいことなのだ。これを聞いて、いつも鍵をかけていない僕の教授室も施錠することにした。

 熊本には多くの物資が集まっているらしい。なのに益城町など、本当に困っている被災者に物資が届いていない。これはコンビニやスーパーも一緒だ。弁当や、おにぎり、パン、カップめん、ペットボトルの水などは何もない。置いているのはお菓子、ジュース、お酒、アイスクリームなど食生活に直接、困らないものばかり。それから意外と野菜類は豊富にある。なぜなら野菜料理するには水洗いしなきゃいけないし、煮炊き用にガスも必要だし、鍋やフライパンも洗わなくてはならないから、誰も買わないのだ。地震後の我が家の食器はすべて発泡スチロールにサランラップを敷いて食べ物をよそっている。これだとお皿も洗うための水が少しでも節約できるからだ。

 水やパン、弁当のような必需品が入荷する時間を予告すると、近隣の住民がコンビニやスーパーに列を作る。ガソリンスタンドも行列ができている。タンクローリーが来てもガソリンを入れるポンプが壊れており、人力でガソリンを入れるため、行列はなかなか縮まらないスタンドもあったそうだ。関西のあるテレビ局の中継車がこの列に割り込んだらしいが、熊本県民は絶対に割り込んだりしない。列を乱すことなく、何も文句を言わずに待ち続けることを、関西の人は知らなかったのだろうね。僕も関西に住んでいたけど、ドライバーのマナーは悪くって、自分は割り込むのに、他人には割り込みを許さない人が意外と多い。

 我が家は水道がストップする前に、妻が風呂に汲み置きしていたが、水量が日に日に減っていく。幸い大学の研究室は水が出るので、今は朝起きたらまず大学の教授室で歯磨き、洗髪、洗顔、清拭している。その間、妻は5Lの水をもらいに毎日、給水車に列を作って並んでくれている。昨日からは洗濯が楽なジャージの上下に、鈴鹿医療大の八重徹司先生から紹介してもらった裸足で履くビブラムファイブフィンガーズという地下足袋のような特殊なランニングシューズで大学に通うことにした。

 大学に行く前の早朝、熊本市内を歩いてみた。我が家の賃貸マンションは市街地に歩いて5分、熊本城までさらに5分の便利な場所だ。その熊本城は天守閣の上にしゃちほこがなく、瓦がない淋しい姿になっていた。12.png熊本城の櫓のうち1つは完全に崩壊していた。近所の駐車場の壁も大きく崩れ、1階が押しつぶされてなくなっていた医院もあった。これらの写真を撮っておいたが、熊大の方針でブログには載せてはいけないことになっている。熊本城以外は我が家からすべて歩いて5分以内の場所だから被害の大きさが実感できる。大学に着くと、熊本大学薬学部でも壊滅的状態になった棟があり、講義室も使用できない状態になっていると聞いた。13.png

 僕の研究室の食事部屋に久しぶりに人影が見えた。5年生の自宅通いのSさんだ。「家にいても余震が怖いので、今から人手が足らない南区にボランティアに行ってきます」と元気な笑顔を見せてくれた。熊大では学生のボランティアを募集しており、多くの学生たちがいろんなところで頑張っている。

 予定通り、教授室の小さな流しで歯磨きし、洗顔し、洗髪し、清拭した。気持ち良かった。水道があるだけでこんなに幸せになれる。当たり前のことが本当にありがたく感じられる。 

写真

1枚目:屋根瓦がなくなった熊本城天守閣

2枚目:崩壊した櫓

 

  ご心配をおかけいたしました。

  たくさんの人からお見舞いのメールやお電話をいただきましたが、おかげさまで臨床薬理学のメンバーも僕も元気です。実は僕は2つの大きな地震の時に長崎市と千葉の柏市におり、被災していないのです。1回目の地震の起こった4月14日(木)の21時半には長崎腎薬での講演会で懇親会の席にいました。今、当然、僕は熊本に帰ってきており、いまだに頻繁に続く余震の中で熊本地震の顛末を書いています。

    長崎にいたので揺れは感じたが、iPhoneを見ると震源地は熊本。すぐに妻の携帯に電話しても、我が家の固定電話に電話してもかからない。大学院生や6年生の携帯に電話してもかからない。そのうち6年生から「先生、研究室が大変なことになっています!」と聞いて、初めて事実を把握した。そのうち何人かに何回か電話をし、事情を詳しく聴き、実験室で器具が破損し、機械が倒れ、書棚からほとんどすべての本が落ちていることを確認した。家庭ではタンスと仏壇が倒れ、僕の部屋は書棚が倒れたためにドアが、全く開かない状態になっているとのこと。

  でも、この時間じゃ熊本に帰れないし15日(金)の夜には千葉県柏市で講演会があるため、予定通り、明日の昼前に、熊本に帰り、残った仕事をこなして熊本空港から羽田を経由して千葉に行く予定だった。まあ、明日、熊本に戻ればと思って、長崎のホテルでテレビを見ていると九州新幹線が脱線したとのこと。

  「やばい・・・・。明日は熊本には戻れない。」、明日の朝一番でJALに電話して確認しよう。そして「長崎から羽田に飛ぼう。」と決心した。そして学生たちに1人1人、安否確認の携帯メールをするが、ラインなどの楽にみんなに送れる手段を知らないため、3時ころまでかかった。

   翌日は長崎空港から羽田経由で千葉に入って講演を終え、ホテルに帰ると睡眠不足もあり、すぐに寝付いたが、2時ころ目が覚めたので、テレビをつけると相変らず熊本地震のニュース。でも何かおかしい。映像が昨日と全然違う。ようやく神戸淡路の震災と同レベルの強烈な「本震」が起こったことを理解できた。iPhoneを見ると妻からの着信があったので電話すると「今から隣のご夫婦と一緒に避難する。昨日の地震どころじゃない。ずっと揺れがやまないので、マンションは危ない」とのことで妻は車の中で眠れぬ1夜を過ごしたようだ。学生からも「これから我が家全員で非難します」という留守電が入っていた。そのまま、まったく眠れず、朝5時になると熊本空港は終日閉鎖。九州新幹線は全面運休とわかった。

 1.png 何とか福岡空港に飛び、そこから遠路、タクシーで熊本の我が家に帰ると、ぐったりとした妻の顔。しばらく話を聞いて、自分の部屋に入ろうとするがドアが開かないので中に入れない。今夜から大雨が降るというのに、地震で自然に窓が開いてしまったようだ。なんとかドアをこじ開けて荷物を小出しにすると、何とか中に入れた。しかしまさに足の踏み場もないほどの惨状だったが、片付けることは後回しにしてでも、窓を閉めて、学生たちのいる大学に向かった。

 学生から電話で聞いていた通り、体育館には一般の被災者でいっぱいで、そのため駐車場も被災者の車で埋まっており、ほとんど空きがなかった。研究室に行くと疲れ果てた男子学生が3人いた。

   2.pngせっかく地震が終わったと思って、みんなで研究室を片付けて「お疲れさん。よくやってくれた。」と言って帰した昨夜の1時25分の強烈な本震に遭遇して、みんな自分の住居のことだけで手一杯、心が折れてしまっていた。研究室の食事部屋は図書が散乱したままであった。直しても直しても散乱するので片付けても仕方ない状況なのだ。大学のホールには1人暮らしの学生たちがみんな疲れ果てて寝泊まりし、体育館は一般の避難してきた人でいっぱいだった。

  1人暮らしの学生たちは身の危険を感じるのと、アパートのライフラインが欠如しているため、何とか熊本を脱出しようとしているが、広い熊本市内全域で公共交通が全く機能していない。近県の学生は親が迎えに来てくれて、同郷の学生も便乗させてくれる。臨床薬理学分野でも帰りたくても帰れない学生がいたので、翌日朝6時に彼と彼の同級生3人を乗せて博多駅に向かった。そのあと、福岡で車にガソリンを入れた。熊本ではガソリン不足になっているのを聞いていたから。3.png

 熊本に着くとブロック塀の壊れた家がたくさんあり、水の配給で公園に並ぶ人たち、たまに開いているコンビニにも行列ができていた。家に帰ると妻が炊き出し用のおにぎりをいっぱい作っていた。我が家は水道も出ていないのに妻はよく頑張ってくれている。

 大学に行く前に妻に頼まれて米と水を買いに、空いているスーパーに行くが、駐車もできないくらい車であふれていた。とりあえず車を止めて店に入ると米で残っているのはもち米だけ、カップめんも水も陳列台はあるけど品物が全くなかった4.png。店もあと1時間で品切れになるので、すぐに閉店するとアナウンスしている。あきらめて大学に行くと、研究室の廊下は散乱したまま。学生は研究室には1人もいない。熊大薬学部の研究室は壊滅状態のところもあるらしいが、臨床薬理分野はまだましな方かもしれない。でも上の実験室の配管が壊れて、1つの実験室は水浸しになっていた。今回の震災で破損した備品を新たに購入しなければならない。もうすぐ新3年生が研究室配属されてくるが、この予算では十分な研究をさせてあげることができるかどうかが心配・・・・。

 ぐちゃぐちゃになっていた教授室11.pngを何とか整理し、苦労してパソコンを立ち上げて、たくさんただいたお見舞いのメールの返事を書き、今、時々揺れるPCを左手で押さえながらこの文章を書いている。

   4月17日(日)15時。余震はまだまだ続いています。平田は疲れていますが、元気です。研究室の学生たちも妻もみんな疲れていますが、みんな元気です。

 

写真

1枚目:我が家の僕の部屋

2枚目:研究室の書庫(せっかく整理しなおした後に2回目の地震で)

3枚目:学生たちの避難場所(宮本記念館)

4枚目:カップめんのコーナーに何も置いていないスーパー

5枚目:僕の部屋(教授室:これも学生たちが復旧してくれた後の深夜の地震で)

  New England Journal of Medicineの3月17日号に載った論文「Safer Prescribing–A Trial of Education, Informatics, and Financial Incentives. より安全な処方のための教育、情報の提供、金銭的インセンティブ」を紹介します。これは薬剤師が自由に参加できる育薬フロンティアセンター主催の抄読会で6年生の福元君によって紹介されました。

  NSAIDsや抗血小板薬をリスクの高い患者に投与するハイリスク処方による消化管出血、NSAIDsをCKD患者に投与したり、RA阻害薬+利尿薬と併用することによる急性腎障害(AKI: acute kidney injury)、あるいは心不全患者にNSAIDsを投与することによっておこる心機能悪化による入院に対して介入することによって、副作用による入院を減少できるかという研究が実施されました。

  対象はプライマリケア診療所を営む英国スコットランドの開業医で、どのような介入をしたかというと、まず最初に行ったのが薬剤師など専門家によるハイリスク薬に関する教育なのです。そのほかの介入は表1に示す通りです。


表1. NSAIDsと抗血小板薬を含むハイリスク処方に対し3つの介入

(1)薬剤師など専門家による教育 (開始時に1時間受講)、その後8週ごとにレターなどが送付

(2)電子カルテから処方の見直しが必要な患者データを特定するなどの情報システムによる支援

(3)ハイリスク処方について見直しを行った際に支払う金銭的インセンティブ (初回固定額として600ドル、見直した患者ごとに25ドル;フルタイム医師当たり平均収入の約0.6 %に相当する平均約910ドルの支払いを見込んだ)をそれぞれ提供した。


  では実際にどのような介入をハイリスク薬と定義したのかというと表2に示すNSAIDsと抗血小板薬を含む9種の処方でこれらを主要評価項目にしています。表2(1)から(6)まではハイリスク患者に消化管出血を起こす可能性のあるハイリスク処方であり、(7)(8)は急性腎障害(AKI)になるハイリスク処方であり、(9)は心不全を悪化させる可能性のあるハイリスク処方です。ではなぜ(7)(8)によるAKIになるかもしれない処方をハイリスク処方としたのかというと、英国では1999年から2009年の間に薬剤性腎障害による入院が約2倍に増加しており、AKIの重要な原因が薬剤性であるにもかかわらず薬剤間相互作用が急性腎障害リスクに及ぼす影響についてはほとんど知られていなかったことに起因します。


表2.NSAIDsと抗血小板薬に関する9種のハイリスク処方(主要評価項目)

(1)消化管潰瘍患者に胃粘膜保護薬処方なしでNSAIDまたはアスピリン処方

(2)75歳以上患者に胃粘膜保護薬処方なしでNSAID処方

(3)65歳以上患者に胃粘膜保護薬処方なしでNSAID処方

(4)65歳以上・アスピリン服用患者に胃粘膜保護薬処方なしでクロピドグレル処方

(5)経口抗凝固薬服用患者に胃粘膜保護薬処方なしでNSAID処方

(6)経口抗凝固薬服用患者に胃粘膜保護薬処方なしでアスピリンまたはクロピドグレル処方

(7)RAS阻害薬と利尿薬服用患者にNSAID処方

(8)慢性腎臓病患者にNSAID処方

(9)心不全歴あり患者にNSAID処方


  副次評価項目として解析したのはこれらの処方に関連した「入院」です。統計解析は除外対象になったものも解析に含めるintention-to-treat解析です。

  AKIに関しては199711日から20081231日までに降圧薬投与を受けていた成人患者を登録し、487372人からなるコホートを対象にしています。主要転帰評価指標は、2剤または3剤の現在使用者のAKIによる入院に設定しています。最終的には試験を完了した33診療所を含み、介入前の対象患者3万3,334例と、介入後の対象患者3万3,060人について統計的解析を行っています。

では結果を示しましょう。事前に規定したハイリスク処方(あらゆるリスクを有した患者)の発生率は、介入直前の3.7%(29,537例中1,102例)から、介入終了時の2.2%(3187例中674例)へと40%程度減少し(P0.001(図1)、介入後もその傾向は持続しています。

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  副次的評価項目である入院率の検討を行うと入院前の8週間における規定したハイリスク処方に関する潜在的な薬物関連入院に関しては消化管潰瘍や消化管出血による入院は、介入前の4.6/1万患者年から介入期間中の0.4/1万患者年へと、有意に減少し(P=0.004)、AKIによる入院も、34.6/1万患者年から11.1/1万患者年へと、有意に減少しました(P0.001)。一方、NSAIDsによる心不全による入院は、59.0/1万患者年から32.1/1万患者年へと、有意な減少は認められませんでした(P=0.34)(図2)。

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また、規定したハイリスク処方によらない潜在的な薬物関連入院に関しては消化管潰瘍や消化管出血による入院も、介入前の55.7件/1万患者年から介入期間中の37.0件/1万患者年へと、有意に減少しました(率比:0.66、95%CI:0.51-0.86、P=0.002)。心不全による入院も、707.7件/1万患者年から513.5件/1万患者年へと、有意に減少しました(率比:0.73、95%CI:0.56-0.95、P=0.02)。一方、AKIによる入院は、101.9件/1万患者年から86.0件/1万患者年へと、有意な減少は認められませんでした(率比:0.84、95%CI:0.68-1.09、p=0.19)。

  この研究に参加した診療所は参加しなかった診療所よりもより意欲的でありハイリスク処方を変更する大きな能力を持っていた可能性があるなどのリミテーションはあるものの、ハイリスク処方を改善するための介入にプライマリケア専門医に対する薬剤師による教育が行われ、その他の介入もあったものの、結果として不適切処方による消化管出血やAKIなどの医原病が有意に減少できたことは大いに意義深い検討と言えます。日本では多剤投薬された患者の減薬を行うと点数が算定できるようになりましたが、まだまだ無駄な処方がされていることの裏付けかもしれません。入院を要するようなハイリスク薬処方を疑義照会によって減少させて、入院件数を減らすことに成功した薬剤師に点数が加算されるシステムが導入されれば、医薬品の安全性を担保することのできる薬剤師が誰なのかがわかる、つまり有能な薬剤師がは誰かを判断できる時代が来るかもしれません。

 

原著論文

Dreischulte T, Donnan P, Grant A, Hapca A, McCowan C, Guthrie B: Safer Prescribing–A Trial of Education, Informatics, and Financial Incentives. N Engl J Med. 374(11): 1053-1064, 2016

 身長183cm、109kg。う~ん、Cockcroft-Gault式には理想体重を入れなくちゃいけない体格・・・・、あっ、いつもの薬剤師癖が出ちゃいました。ではなく昨年、カープに在籍した「天使」マイク・ザガースキー投手が日本に帰ってきます。でも残念なことに優良外人が豊富なカープではなく、リリーフ陣が苦戦しているDeNAにです。

 ザガースキー投手は昨年の前半、左腕のセットアッパーとして活躍していながら、外人選手が豊富なカープの中では出場機会に恵まれず、残念なことにわずか1年で退団になってしまいました。でも彼はカープファンに絶大な人気がありました。愛くるしいぽっちゃり体型といつも笑顔の癒し系、だけでなくすっごく人がいいのです。2群では登板するたびに若いカープ女子たちから「かわいい~!かわいい~!」と黄色い歓声が上がっていました。そしていつしか「天使」「ザガちゃん」と呼ばれるようになったのです。

  以下はザガちゃんの「いい人伝説」のきっけとなった、これも性格がとってもいい大瀬良大地投手の昨年のブログから紹介します。

大瀬良 大地
@Ohsera_Daichi
雨で試合が中断してる時にぐちゃぐちゃのスパイクで歩いてたらザガースキーが自分の履いてるスリッパを脱いで手に取り、これ使えって差し出してくれました!断ったんだけど頑なに渡してくるので使わせてもらいました。あなた靴下じゃん…と自分を後回しにしてまで人を思いやる心に少し泣きそうになりました。
2015/04/14 20:29:25

まさに天使ですね。ザガースキーの背中には羽根があるのかも?

ちょっとしたエピソードです。 その後彼はヒースと何事もなかったかのように笑いながら会話してるのを見て、こういうことを当たり前にやってきたんだろうなと彼の優しさを感じた瞬間でした。 ではでは、お疲れ様です^ ^

— 大瀬良 大地 (@Ohsera_Daichi) 2015/04/14 20:31:03

  そして数々の天使エピソードを残しながら外国人枠の都合で2軍降格となったザガースキー投手のために、1軍選手たちが「ザガースキーが1群に戻ってくるまでに一丸となって頑張ろう」と誓い合ったことが報じられました。そして代わりに1群登録となったいわば生き残りをかけたライバルのヒース投手にザガちゃんは1群の他球団の情報をつぶさに教えていたとか・・・・。本当にいい人なんだね。ザガースキーは。DeNAに入っても応援しようと思います。頑張って「天使」!

ザガースキー写真集

  1. 来日草々、節分の日に恵方巻きを食べ、ご満悦の彼(写真①)は翌日、練習中に右足首を捻挫し全治3週間出遅れた。

  2. 彼は日本にしかない「ハイチュウ」が大好き。これは同じハイチュウ好きの黒田投手の影響かも?(写真②)

  3. なんとか開幕には間に合い、マウンドでの雄姿。(写真③)

  4. 4月2日にはDeNA戦でマウンド上ですってんころりん(写真④・⑤)

  5. 天使「ザガちゃん」のマウンドでの雄姿(写真⑥)

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 私は毎年、熊本中央病院健診センターで人間ドックにかかっています。毎年、血清クレアチニン値は0.9mg/dLで昨年のeGFR67.6mL/min/1.73m2です。私の身長は170cm、体重は63kgですから体表面積はちょうど1.73m2ですので正味の腎機能も同じく67.6mL/minと考えてよいわけです。ところが今年の検査結果ではeGFR59.6 mL/min/1.73m2になりました。「L(異常値を示すマークで低値を示します)」の字がしっかりついており、CKDになってしまいました。

 心配していただける方があるかもしれませんが、実は私はこの2年間、週に12回フィットマッチョ.jpgネスクラブに通っており、ずっと上体は細く両腕も細かったのが、ようやく細マッチョというか、ちょっとした逆三角形の体型になれたのです。そうです。平田は「脱いでもすごい」体型になったのです。おかげで筋肉量の指標でもある血清クレアチニン値はいつもの0.9mg/dLから、ようやく1.0mg/dLに上昇しました。言い換えればCKDになってしまったのではなく、頑張ってCKDになることができたのでした。

 現在、頑張っているのは心肺機能の向上です。2月の熊本城マラソンには完走できたけれど、タイムは恥ずかしながら6時間2分。左膝を壊したためにほとんど歩いての完走でした。20歳代では3時間20分前後で完走できていたのに、悔しい限りです。これからは心肺機能を 上げて、腎血流を上げて筋肉はあるけど血清クレアチニンは低いというスパーボディを手に入れたいと思っています。

 サプリ.jpgただし恥ずかしながら認知機能はずいぶん低下しており、人の名前が覚えられない。歯磨きの代わりに洗顔料で歯を磨いたり、シャンプーをいくらたっぷりつけても泡立たないので、よく見るとコンディショナーだったりしたことも1度や2度だけじゃない。DHAは毎日、サプリメントとして飲んでいるのですが、「あれ、さっき飲んだような・・・・、いや飲んでなかったっけ?」と、極めてアドヒアランスの悪い症例になりつつあります。

ダメ薬剤師が変われるきっかけ
 

 AさんのTDMの成果は高く評価され、白鷺病院では他の抗不整脈薬、ジゴキシン、抗MRSA薬、抗てんかん剤など、TDMは幅広く実施されるようになった。TDMを実施することによって薬剤師に幅広い薬学的知識が身に付くと、TDM対象薬以外にもその知識は応用でき、より多くの薬物の有効かつ安全な投与が可能になった。そして「100床以下の小病院では学会発表なんて無理」なんて思っていた頃のことが嘘のように、薬剤科の学会発表数、文献執筆数は毎年、倍々ゲームのように増え続けた。93年ゼロだった文献数は94年1本、95年2本と増え続け、2003年には総説を加えると薬剤師5人で文献数は31本になった。学会発表や文献執筆は病院外へのアピールも大きいが、僕は病院内でのアピールが最も効果が高かったように思う。医師をはじめとした医療スタッフの信頼が得られ、その結果、薬剤師が薬剤師らしい仕事をできるように変われたことが一番のメリットだと考えている。

 94年以前、僕たちは調剤しかできないダメ薬剤師だった。薬剤師が変わるきっかけはいろんなところにある。筆者にとってはAさんとの出会い、そして一生懸命、頑張ったTDMが成果を結んだことが変わるきっかけの1つと信じている。

(この原稿はファルマシア40(4): 304-306, 2004.に掲載されたものを改変しました)

TDMとは?

 AさんのTDMに際してはTDMの結果からさまざまな処方介入を行った。薬剤師が処方介入して、病状が悪化するとドクターの信頼を失い、TDMの依頼も来なくなる恐れがある。介入をした後は毎朝、毎夕、Aさんのベッドサイドに行った。そして処方変更後の効果の確認、副作用の観察を注意深く行った。結局、AさんのTDMを介して学んだことは「TDMは決して血中濃度を有効治療濃度域に直すためにやるのではなく、患者様を治すためにやっているのだということ。患者さんを見ないで血中濃度に対する薬学的コメントを書くべきではないこと」である。そしてそのポリシーは今も白鷺病院薬剤科で続いており、必ず服薬指導をしている薬剤師が血中濃度に対するコメントを書き、ドクターに報告している。試験室の薬剤師が血中薬物濃度を測定し、患者さんを見ないで薬学的コメントを書いている施設があるとすればそれはTDM(therapeutic drug monitoring)ではなくTDA(therapeutic drug assay/analysis)であると思う。これは筆者の勝手な解釈かもしれないが、AさんのTDMから学んだこと、「Monitoringにはその薬がちゃんと効いているかどうか、副作用は現れていないかどうかをmonitorするという意味もTDMには含んでいる」ということを信じている。

Aさんのその後
 

 Aさんの病状は改善し、疑問も解決した。しかし投与方法を変更しただけで副作用も不整脈も起こらなかったのは、奇跡としか言いようがない。危惧していた通り、約半年後にAさんは再び調子が悪くなり、50mgを1日2回投与ではコントロールできなくなって徐脈・頻脈が再発した。主治医は仕方なく50mgを1日3回投与に増量した。徐脈・頻脈は完全に消失したが、やはり視覚異常・食欲不振が再発した。再び文献検索した。何とか抗コリン作用を抑えられないものか?動物実験ではあったがジソピラミドの抗コリン作用はコリン剤で相殺できると書いてある文献を見つけた。しかしナパジシル酸アクラトニウムというマイルドな抗コリン剤を医師に勧めたが、ほとんど効果がなかった。結局、劇薬指定の強力なコリン剤である塩酸ベタネコールを1回15mg、1日3回ジソピラミドと一緒に投与するよう医師に勧めた。これは効きすぎた。下痢、腹痛、寝汗という強力な抗コリン作用が現れた。塩酸ベタネコールの最大作用発現時間は服用後1時間で作用持続時間は2時間と短い。これに対しジソピラミドはtmaxも遅く、透析患者では半減期が延長しているため、僕の投与設計ミスであった。結局1回7.5mgを1日6回という頻回投与することによってAさんの不整脈は副作用を全く起こすことなくコントロールできた。そのうちAさんは少量のベタネコールをジソピラミドのピーク濃度の直前に頓用すると副作用を防げるということを学んだ。

プロフィール

平田純生
平田 純生
Hirata Sumio

趣味は嫁との旅行(都市よりも自然)、映画(泣けるドラマ)、マラソン 、サウナ、ギター
音楽鑑賞(ビートルズ、サイモンとガーファンクル、ジャンゴ・ラインハルト、風、かぐや姫、ナターシャセブン、沢田聖子)
プロ野球観戦(家族みんな広島カープ)。
それと腎臓と薬に夢中です(趣味だと思えば何も辛くなくなります)

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