新年のご挨拶

 あけましておめでとうございます。

 旧年中はひとかたならぬご厚誼を賜りまして、大変ありがとうございました。

 今年から臨床薬理学分野は大学院生が2名になり、大所帯になります。1月~5月の育薬フロンティアセミナーは1月12日のバイタルサインの測定から始まります。特に保険薬局の先生方には薬を理解するためにも参加していただければ幸いです。

 昨年、日本腎臓病薬物療法学会の会員数は1450名を超え、法人化も達成しました。これからは学会を上げての調査・研究活動、国際交流による意見交換も進めていきたいと思います。

 2015年に作成された日本腎臓学会の薬剤性腎障害ガイドライン、日本化学療法学会の抗菌薬TDMガイドライン、日本TDM学会・日本循環器病学会の循環器TDMガイドラインの作成に関わりましたが2016年にはそれらが公開されます。

 そして平田も今年で62歳。もう熊本大学に在籍できる時間もわずかになりました。今年は老体に鞭打って2月には熊本マラソンに挑みます。2017年には熊本市民会館崇城大学ホール・国際交流会館で第3回日本医薬品安全性学会、2019年には新設された熊本城ホールを中心に第13回日本腎臓病薬物療法学会を開催します。まだまだ老けてはいられません。この年になってこれだけのやりがいのある仕事に巡り合えるのは本当に幸せだと思います。そしてここまでやって来られたのも多くの人に支えられて来たからに違いありません。

 今年も平田は精いっぱい頑張りますので、本年もなにとぞよろしくお願いいたします。

 皆様に幸多き年となりますように。

 あぁ、呆けるまでにもう一度カープの日本一を見てみたい・・・・・。

20151225.jpg平成28年元旦

 14日目、いよいよ最終回です。実測CCrに0.715をかけるとGFRとして評価できます。Cockcroft-Gault式から算出された推算CCrに0.789をかけるとGFRとして評価できるとCKD診療ガイドライン2012に書かれています。でもちょっと待ってください・・・・・。


【 附則2 】

高齢者のeCCrEnzには0.789をかけない。 eCCrEnzに0.789をかけるのは若年者のみである。

  腎機能が加齢による影響を受けやすい、つまり若年者では高く(GFRよりもCCrが高いのは当たり前ですからこれは問題ありません)、後期高齢者では低い(CG式では1年に約1mL/minずつ低下しますが、実は平均的な日本人の腎機能は加齢によってそんなには低下しないことが分かっています; 図110)という特性を持っていることを理解する必要があります。若年者では推算CCrは腎機能を過大評価してしまうので、0.789倍してGFRとして評価する必要があります。高齢者では腎機能を過小評価しがちですので0.789をかけるべきではありません。実際には入退院を繰り返す高齢のフレイル症例は、健康で入院しない高齢者と異なり腎機能が低下していることが多いと考えられます。このような脆弱な患者さんにはCG式による推算CCrの方がeGFRよりも適していると言えるかもしれません。

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14日間に亘るブログの内容をまとめたものは下記URLからダウンロードできます。

http://cms.softsync.jp/rinshoyakuri/blog/

 

 13日目です。病態によってCrの尿細管分泌が増えることが報告されています。このような疾患では血清Cr値が低下し尿中Cr濃度が上昇するため、腎機能が高くなりますが、GFR(イヌリンクリアランス)には変化がありません。つまり実際には腎機能はよくないのによく見えてしまう現象(腎機能の過大評価)が起こります。


【 附則1 】

ネフローゼ症候群などによる低アルブミン血症や糖尿病ではCrの尿細管分泌が増加し、腎機能を過大評価してしまう。

ネフローゼ症候群などによる低アルブミン血症ではCrの尿細管分泌が増加し、腎機能を過大評価する程度が大きくなります。ただし総タンパク濃度との相関性は低いです1)。また同様の現象が糖尿病でも報告されており、血糖コントロールが不良な糖尿病患者ではCrの尿細管分泌が増加して腎機能を高く見積もることがあることが報告されています2)。

引用文献

1)Branten AJ, Vervoort G, Wetzels JF: Serum creatinine is a poor marker of GFR in nephrotic syndrome. Nephrol Dial Transplant 20:707-711, 2005

2)Nakatani S,et al: Poor glycemic control and decreased renal function are associated with increased intrarenal RAS activity in Type 2 diabetes mellitus. Diabetes Res Clin Pract 105: 40-46,  2014

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「今日はここまで、それではまた次回お楽しみに!」

 12日目です。連載はまだまだ続きますが最後の鉄則となりました。腎機能評価は大切と言ってきましたが、安全域の広い薬物ではCCrを用いてもGFRを用いても大きな問題はありません。問題は抗がん薬や低血糖を起こしやすい薬物、抗凝固薬・抗血小板薬などの超ハイリスク薬、あるいは通常の薬物でも腎機能が低下するとハイリスク薬になってしまうような尿中排泄率の高い薬物(バンコマイシン、ピルシカイニドプレガバリン、H2遮断薬など)の投与設計時には腎機能の正確な見積もりが必要になります。

 よく私の作成した腎機能別投与一覧表で「セフェム系やペニシリン系の用量が腎機能が低下しても多めの投与量になっていますが大丈夫ですか?」という質問を受けますが、これらの薬物は安全性が高く、怖いのはアレルギー性副作用です。また急性疾患なので、早期の効果を期待したいこと、短期間しか投与されないこと、一般的になどを考慮したうえで定めた容量であり、あくまで目安として利用してください。これのみが正解というものではありません。


 

【 鉄則10】

上記の記載は腎機能低下患者にハイリスク薬を投与するとき、あるいは腎機能低下に伴いハイリスク薬になる薬を投与するときに考慮すべきものである。安全性の高い薬物では患者の腎機能にCCrenzを用いても大きな問題はない。

  セフェム系やペニシリン系の抗菌薬、あるいはフェキソフェナジンなど安全性の高い薬物は多くあります。このような薬物では腎機能低下患者で血中濃度が上昇する薬物であっても、腎機能としてeGFRを用いてもCCrを用いてもどちらでも構いません。腎機能が悪くなれば確実に血清Cr値は上昇し、eGFRもCCrもゼロに収束するため、腎機能の見積もりミスも少なくなります。

  しかし経口抗凝固薬であるダビガトランや抗がん薬のカルボプラチン、TS-1などでは厳密な投与設計が必要ですので、できる限り上記の鉄則を守ってください。また高齢のフレイル症例が日和見感染症に罹患した場合、1回目の抗菌薬治療が失敗すれば二の矢が継げないことになってしまいます。特に尿中排泄率90%と高いバンコマイシンの投与設計は腎機能低下に伴い難しくなります。このような時にも腎機能を正確に見積もるよう気を付けましょう。

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「今日はここまで、それではまた次回お楽しみに!」

 11日目です。いよいよシスタチンCの登場です。腎機能を推算するために汎用される血清Cr値の測定費用は安価なものの、腎機能の影響だけでなく筋肉量の影響を受けるという致命的な欠点がありました。シスタチンCは小児から高齢者まで簡便にGFRを予測することができます。ただし3か月に1回の測定しか保険適応になっていないなど様々な問題点もありますが、筋肉量の少ない患者の腎機能予測をしたいが、蓄尿は大変という場合には一番頼りになる腎機能マーカーになると思われます。そして軽度~中等度腎障害では血清Cr値はすぐには上がってくれません。このような時にも頼りになる腎機能マーカーとも言えます。


【 鉄則9】

軽度~中等度腎機能低下症例にはシスタチンCによるeGFRcysも推奨される。

 20160113_6.jpg 栄養状態が不良の症例では血清Cr値が低いのだから少なくとも腎機能が極度に悪いということは考えられません。このように加齢に伴い若干、腎機能が低下しているかもしれないという時に有用なのがシスタチンCです。シスタチンCはhouse-keeping geneをコードしているため、炎症などの細胞外の影響を受けにくく、全身の有核細胞から一定の割合で産生されるタンパク質で、広く生体内体液に存在しています。分子量が13,250Daであり、細胞外液中のシスタチンCは全くタンパクと結合せず、すべて糸球体で濾過され、濾過後はほとんどが近位尿細管で再吸収され、アミノ酸に分解されるため、血中には戻りません。血中濃度はGFRに依存し、血清Cr値に比し、食事や筋肉量、性差、運動、年齢差の影響を受けず、軽度の腎機能の低下に反応して血清シスタチンCの濃度が上昇します1)。そのため、CrはGFRが30~40mL/min前後まで低下しないと上昇しないのに対し、GFRで60~70mL/minの早期の腎障害の進行度を判断できるのが特徴です(図9)。

  シスタチンCは保険適応の関係上、3カ月に1回しか測定できませんが、腎機能が安定している症例では、以後は血清Cr濃度変化を基に予測するなどの工夫が必要です。しかしシスタチンCの血中濃度は腎機能が低下すると頭打ちになることが分かっており、末期腎不全では腎機能を正確に反映できないため、血清Cr値が2mg/dL以上になればシスタチンCの測定意義は低くなり血清Cr値のみで腎機能を評価するのがよいでしょう。

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シスタチンCの問題点

  シスタチンCに関しては、ステロイド、シクロスポリンなどの薬剤の使用や甲状腺機能低下症で、高値に測定されることを念頭に置く必要があります。シスタチンCの測定キットは当初、メーカーによってそれぞれ異なる社内標準品を基準にしていたため、メーカー間で測定値に差が出るのが問題でした。しかし2010年以降、認証標準物質DA471/IFCCができたため、メーカー間の測定誤差がなくなってきています。CKD診療ガイド2012ではHorioら2)および小児に関してはUemuraら3)が新たに開発したシスタチンCによる新しい日本人向けGFR推算式が掲載されているので、以下に紹介します。    

                                      

日本人のGFR cys推算式(mL/min/1.73m2) 

男性:(104×シスタチンC-1.019×0.996Age)-8

女性:(104×シスタチンC-1.019×0.996Age×0.929)-8

小児:104.1/シスタチンC-7.80

体表面積補正をしないeGFRcys=eGFRcys×(体表面積/1.73) 

 

引用文献

1) Grubb AO: Cystatin C-properties and use as diagnostic marker. Adv Clin Chem 35: 63-99, 2000

2) Horio M, et al: GFR estimation using standardized serum cystatin C in Japan. Am J Kidney Dis 61: 197-203, 2013

3) Uemura O, et al: Cystatin C-based equation for estimating glomerular filtration rate in Japanese children and adolescents. Clin Exp Nephrol 18: 718-725, 2014

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「今日はここまで、それではまた次回お楽しみに!」

 いよいよ10日目になりました。今回は偽性薬剤性腎障害の話です。つまり腎機能は全く悪くなっていないのに血清Cr値が20~30%上昇してしまったということがトリメトプリムやシメチジン投与後によく見られます。当然、CCrは低下しますが、GFRは変化しません。ということはCrの尿細管分泌をこれらの薬剤が阻害したということになります。この時に得られる実測CCrはGFRに近似するため、イヌリンを投与しないでGFRを測定する方法として使えるという報告もあります。ただしこれらの薬剤によってCrの尿細管分泌を100%抑えていないとGFRとして評価できませんが・・・・。


 

【 鉄則8】

ST合剤、シメチジン、コビシスタットは尿細管におけるCrの尿細管分泌を阻害するため腎機能の悪化がなくても血清Cr値がわずかに上昇する。

  ST合剤中のトリメトプリム、シメチジンはCrのmultidrug and toxin extrusion(MATE)1およびMATE2-Kという有機カチオン/H+交換輸送体(以前は有機カチオントランスポータと言われていました)を介した尿細管分泌を競合阻害することにより、腎機能が悪化していなくても血清Cr値が軽度上昇することがあります。

  ただしトリメトプリム、シメチジンともにアレルギー性の間質性腎炎の原因薬物になる可能性があることに留意しておくこと、またST合剤は十分な輸液を行わないと遠位尿細管や集合管で結晶が析出して腎後性腎障害を起こしやすいことに留意する必要があります。最近、HIV感染症治療薬スタルピリド配合錠に含有されているコビシスタットも同様の機序で血清Cr値が軽度上昇することがあることが明らかになりました。

  このような薬剤が投与されている場合はGFR推算式やCG式によるCCrなどの予測式を用いることはできませんが蓄尿CCrではGFRに近い値が得られる可能性があり、シスタチンCを用いると何の影響もなく腎機能を正しく評価できます。

 

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「今日はここまで、それではまた次回お楽しみに!」

  9日目です。これまで血清Crが低い痩せた高齢者では腎機能を過大評価してしまうという話をしてきましたが、今回は血清Crが低いけれども痩せていない若年者(論文では50歳以下と書かれていますが、実際には60歳以下でも十分にみられます)の話です。全身熱傷などでICUに入院した患者でよくみられることですが、大量輸液や血管作動薬の投与によって腎血流が増加しGFRが高くなっているためと考えられるため、この場合には血清Cr値が低いことは素直に腎機能がよいと考えていい場合が多いのです。


 

【 鉄則7 】病院薬剤師用

 60歳以下の腎機能正常者で全身炎症(SIRS)によりICU管理下で血管作動薬・輸液の投与を受けている患者ではeGFRが150~160mL/min/1.73m2に上昇することがある。これは過大腎クリアランス(ARC)により腎機能が高くなっており、血清Cr値は0.6未満になることもあるが、腎機能推算式や0.6mg/dLを代入するラウンドアップ法を使わず実測CCrの測定による腎機能の正確な把握が望まれる。

若年の腎機能正常者で血管作動薬や輸液が投与されている全身性炎症反応症候群(SIRS)の患者(多くはICUの症例)では血清Cr値が0.3~0.5mg/dLに低下した場合、筋肉量が少ないのではなく腎機能が上昇していることがあります。60歳以下の若年者で腎障害のない感染症が引き起こすSIRSの病態下では心拍出量増加・血管拡張や腎血流増加により過大腎クリアランス(ARC: Augmented Renal Clearance)が発現し通常100mL/min/1.73m2のGFRが150~160mL/min/1.73m2に上昇し、抗菌薬の大量投与を行わないと十分な効果が得られないことがあります。この場合、eGFRや推算CCrは腎機能を過小評価するため、蓄尿による実測CCrによる腎機能の正確な把握が推奨されます1)。ましてや0.6mg/dLを代入するラウンドアップ法は行うべきではありません。ARCのリスク因子は①年齢(60歳以下)、②敗血症、③外傷・手術、④外傷性脳損傷、⑤熱傷、⑥低アルブミン血症、⑦血液がんなどが提言されています(図7)2)。

引用文献

1)Baptista JP, et al: A comparison of estimates of glomerular filtration in critically ill patients with augmented renal clearance. Crit Care 2011; 15: R139.

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「今日はここまで、それではまた次回お楽しみに!」

 8日目です。推算CCrは肥満患者の腎機能を過大評価することを鉄則4で述べましたが、今回は逆に痩せた患者ではeGFRが過大評価してしまうということについてです。これは体表面積補正eGFR(mL/min/1.73m2)でも未補正eGFR(mL/min)でも同様の傾向を示します。この場合も蓄尿して得られる実測CCrに0.715をかけてGFRとして評価することができる非常に正確に腎機能マーカーになりますが、そこまで出来ない場合、血清Cr値が0.6mg/mL未満の場合には0.6を代入すると予測性が高くなることがあり、ラウンドアップ法とよばれています。シスタチンCを測定してeGFR(mL/min)を算出するのもよい方法ですが、これについては後述します。


【 鉄則6 】

血清Cr値が0.6mg/dL未満の高齢フレイル症例の腎機能推算式の血清Cr値として0.6mg/dLを代入すると予測性が高くなることが多い。ただし自分の目で症例の体格を確認すること。まれに痩せているがフレイルではなく活動的な症例の場合、腎機能がよい可能性がある。

  GFRは推算式を用いる場合、血清Cr値をもとに算出しています。Crは同一個人では産生速度が一定で、タンパクと全く結合していないため100%糸球体濾過され、まったく再吸収されないため腎機能を反映しやすい生体内物質です。ただし尿細管からわずかに分泌されるのがやや欠点です。血清Cr値は0.6から0.9mg/dLに上昇しても正常値範囲内で腎機能を判断しにくいためeGFR(正常値100mL/min/1.73m2)で表すと90から60mL/min/1.73m2と30%も低下していることがわかるため、eGFRは腎機能を評価するのに分かりやすいですね。

  ただしCrは筋肉を作っているクレアチンの最終代謝産物であるため筋肉量が少ないとeGFRが高く推算されてしまうのが大きな欠点です。ですから長期臥床高齢者で筋肉量が少ない患者さんでは90歳なのに150mL/min/1.73m2のような正常値以上に推算されることがあります。腎機能は加齢とともに低下するためこれはあり得ません。
このような患者さん(血清Crが0.3mg/dLなどのように低値)だけでなく、筋ジストロフィーの患者さん(血清Crが0.2mg/dl以下になることもあります)ではeGFRが500~1000mL/min/1.73m2などに過大評価されますが、これは「腎機能がよい」のではなく「筋肉量が少ない」ことを表しています。

  このような症例では科学的ではありませんが、具体的な対応として臨床現場では血清Cr値が0.6mg/dL未満の症例に対して0.6を代入して推算式を使うと、腎機能の予測精度が上がると言われており、ラウンドアップ(round up)法と言います。またその他の具体的な対応としてはカルボプラチンの投与設計で推奨されているeGFRが高値に計算されていても上限を125mL/minとするキャッピング(Capping)法もあります。

  高齢長期臥床患者ではeGFRが正常値よりも高くなることがありますが20151106_5.jpg、高齢者なのに腎機能が正常より高いはずはありません。この様な症例では筋肉量が低下しているため推算式では正しく推算されません。医療従事者自身の目で患者の体格を確認しましょう。中には毎日、元気に農作業に出ているけれども痩せている高齢者もいますし、このような患者では痩せていても筋肉量は長期臥床患者と比べて多いと考えられます。このように痩せた高齢者に対し、重要な腎排泄薬物(MRSA感染症時のバンコマイシン、がん患者におけるカルボプラチンやティーエスワン、ダビガトランなど)を投与する場合には、24時間蓄尿により実測CCrを算出し、0.715倍してGFRとして評価するか、シスタチンCによってeGFRcysを算出する必要があります。

 

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「今日はここまで、それではまた次回お楽しみに!」

  7日目です。腎機能推算式はほとんどが血清Cr値(例外的にシスタチンCもありますがこれについては後述します)を用いて腎機能を推算しています。Crは筋肉を構成しているクレアチン(体内に約120g程度存在します)から筋肉で代謝されて1日約1%が老廃物であるCrが産生されています。Crは代謝されず血漿タンパクと結合しないため、100%糸球体濾過され、再吸収もされませんが、20~30%程度尿細管分泌されるため糸球体濾過量(GFR: 正常値100mL/min)よりも高く、CCrの正常値は120~130mL/minになります。

 血清Cr値は筋肉量と相関するため男性で高く、女性で低いなど筋肉量による個人差があります。またこの血清Cr値を基に推算される推算CCrやeGFRは痩せた患者では血清Cr値が低いため腎機能がよいとみなしてしまうために腎機能を過大評価し、腎排泄性薬物の過剰投与から副作用の原因になります。

 一方、蓄尿して得られる実測CCrは尿細管分泌されるため0.715をかけてGFRとして評価することができる非常に正確に腎機能マーカーになります。ただしこれは蓄尿が正確に行われていないと正確な評価ができません。蓄尿し忘れは腎機能を低く見積もられ、腎排泄型薬物が効果を示さないことが危惧されます。またシスタチンCを測定してeGFR(mL/min)を算出するのもよい方法ですが、これについては後述します。


【 鉄則5 】

高齢者のフレイルなど、腎機能予測式では正確な評価ができない症例には24時間畜尿による実測CCrenz×0.715によりGFRとして評価すると正確な腎機能が得られる。畜尿CCrは畜尿忘れがないよう「畜尿忘れがあれば必ず伝えてください。正直に言ってくれないと薬が効かなくなる恐れがあります」と指導する。

  CG式による推算CCrもeGFRも血清Cr値を基にした予測式です。血清Cr値に影響を与えるものの中に栄養状態(筋肉量)、筋肉疾患、食事摂取内容、薬剤の併用による相互作用などが考えられます。高齢者で血清Crが低値であるということは腎機能が非常に良いというよりも、ほとんどの場合、筋肉量が少ない栄養状態が不良の患者、つまりフレイル症例と考えてよいでしょう。

  栄養状態の不良な患者あるいは筋肉量の少ない患者では血清Cr値は低値です。血清Cr値の基準値は男性で0.6~1.2mg/dL、女性で0.4~1.0mg/dLで、男女差があります。Crは筋肉を構成しているクレアチンの最終代謝産物ですから、筋肉量の少ない人では血清Cr値が低いため、これらの推算式では腎機能がよいと推算されてしまいます。一般的には長期臥床の高齢者がこれにあたります。痩せた高齢者のeGFRが150mL/minだったからと言って、健常青年よりも腎機能がよいなんて判断はしないでください。

  その他に筋ジストロフィーなどの筋肉の委縮する疾患では0.1mg/dL以下の顕著な低下を示すため、eGFRが1,000mL/minなどの健常者の10倍くらいの値になることもありますが、これもあり得ないことです。これらの患者で腎機能を正確に把握する必要があるときには蓄尿CCrまたはイヌリンクリアランスを測定する必要があります。あるいはシスタチンCを測定しeGFRcysによって判断するのもよい方法です(後述)。

  栄養状態が悪く痩せた長期臥床高齢者では筋肉量が少ないため、eGFR、推算CCrがともに高く見積もられる症例が多くあります。このような症例に対しては蓄尿による実測CCr×0.715をGFRとして投与設計するとよいでしょう。ただし高齢男性では前立腺肥大による排尿困難患者が多いため、短時間畜尿は適していません。24時間蓄尿が推奨されます。

  蓄尿し忘れると腎機能を過小評価してしまいます。「絶対に蓄尿を忘れてはいけませんよ」と言われれば「忘れると怒られる」という心理が働きます。「蓄尿を忘れないほうがよいのですが、忘れることはよくあります。もしも忘れたら正直におっしゃって下さい。もしも正直に言ってくれなかったら、腎機能が悪いとみなされ、薬の量が減ります。そうするとあなたの飲んでいる薬が効かなくなる恐れがあります」というように説明しましょう。

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「今日はここまで、それではまた次回お楽しみに!」

  6日目です。前日のイントロでも触れましたように臨床上、Cockcroft-Gault(CG)式は最も優れたCCr推算式と言えます。ただし肥満患者では腎機能を過大評価するため、薬物投与設計にCG式を用いると過量投与の原因になるため、「肥満患者では理想体重または標準体重を入力する必要がある」というルールを認識していない医療従事者が多いので、これは要注意です。標準体型の方にCG式はそのまま用いて構いませんが、明らかな肥満患者ではCG式には理想体重または標準体重を代入しましょう。 


【 鉄則4 】

肥満患者の推算CCr算出のための体重は理想体重または標準体重を用いる。

  CG式は薬物投与設計に使えますが、計算式に必要なデータは血清Cr値、年齢、体重、性別だけです。身長が考慮されていないため、肥満患者で体重が2倍になれば腎機能も2倍に推算される欠点があります(図6)。そのため肥満患者では理想体重を用いる必要があります。体表面積未補正eGFR(mL/min)では身長体重が考慮されているため、そのまま使用しても構いませんが、CG法による推算CCrでは理想体重を使用します。

理想体重(男性)=50+{2.3×(身長−152.4)}/2.54

理想体重(女性)=45+{2.3×(身長−152.4)}/2.54

ややこしい式ですので、標準体重(kg)=身長(m)×身長(m)×22でも構いません。

  eGFR(mL/min/1.73m2)算出に必要なデータはCG式に比しさらに少なく、血清Cr値、年齢、性別だけです。体重も入っていないということは、体が大きい人でも小さい人でも同じ腎機能に推算されるため(図6)、薬物投与設計には使えないことが理解できます。このように体格補正されていないため、薬物投与設計ではeGFR(mL/min)を用いるべきなのです。この式は肥満の影響も受けないためCG式よりも正確度が高いですが、痩せた高齢者では高く推算されることが欠点です。

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「今日はここまで、それではまた次回お楽しみに!」

プロフィール

平田純生
平田 純生
Hirata Sumio

趣味は嫁との旅行(都市よりも自然)、映画(泣けるドラマ)、マラソン 、サウナ、ギター
音楽鑑賞(ビートルズ、サイモンとガーファンクル、ジャンゴ・ラインハルト、風、かぐや姫、ナターシャセブン、沢田聖子)
プロ野球観戦(家族みんな広島カープ)。
それと腎臓と薬に夢中です(趣味だと思えば何も辛くなくなります)

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