いよいよ10日目になりました。今回は偽性薬剤性腎障害の話です。つまり腎機能は全く悪くなっていないのに血清Cr値が20~30%上昇してしまったということがトリメトプリムやシメチジン投与後によく見られます。当然、CCrは低下しますが、GFRは変化しません。ということはCrの尿細管分泌をこれらの薬剤が阻害したということになります。この時に得られる実測CCrはGFRに近似するため、イヌリンを投与しないでGFRを測定する方法として使えるという報告もあります。ただしこれらの薬剤によってCrの尿細管分泌を100%抑えていないとGFRとして評価できませんが・・・・。
【 鉄則8】
ST合剤、シメチジン、コビシスタットは尿細管におけるCrの尿細管分泌を阻害するため腎機能の悪化がなくても血清Cr値がわずかに上昇する。
ST合剤中のトリメトプリム、シメチジンはCrのmultidrug and toxin extrusion(MATE)1およびMATE2-Kという有機カチオン/H+交換輸送体(以前は有機カチオントランスポータと言われていました)を介した尿細管分泌を競合阻害することにより、腎機能が悪化していなくても血清Cr値が軽度上昇することがあります。
ただしトリメトプリム、シメチジンともにアレルギー性の間質性腎炎の原因薬物になる可能性があることに留意しておくこと、またST合剤は十分な輸液を行わないと遠位尿細管や集合管で結晶が析出して腎後性腎障害を起こしやすいことに留意する必要があります。最近、HIV感染症治療薬スタルピリドⓇ配合錠に含有されているコビシスタットも同様の機序で血清Cr値が軽度上昇することがあることが明らかになりました。
このような薬剤が投与されている場合はGFR推算式やCG式によるCCrなどの予測式を用いることはできませんが蓄尿CCrではGFRに近い値が得られる可能性があり、シスタチンCを用いると何の影響もなく腎機能を正しく評価できます。
「今日はここまで、それではまた次回お楽しみに!」