20160912_3.jpgカープ、とうとうやりました!25年ぶりの優勝。15年連続4位以下だったチームが、奇跡のぶっちぎりの優勝。優勝の瞬間は武庫川女子大の非常勤講師のため、甲子園近くのホテルのテレビで観戦。黒田が泣き、新井と抱き合っているところで僕の涙腺も大いに緩んだ(ホテルの部屋の中でよかった)。やっぱりカープは最高!わしゃ、広島の呉出身じゃけん。

 思えば野村謙二郎監督のころの5年前、レギュラーは決まっておらず、毎試合、岩本、松山、広瀬、ニックあたりが日替わりで4番を打っていた。ほとんどの先発選手の背番号は50番か60番台の若手ばかりで、年俸は石原捕手の1億円以外は1000万前後の若手選手ばかり。先発選手9人併せて巨人の阿部1人分のほうが年棒が高かった。こんなんじゃ勝てるわけないよねって思ってた。4位になったらよく頑張ったとほめてやりたかった。クライマックスシリーズ出場なんて夢のまた夢だと思ってた。

 でもこのシチュエーションは僕が物心ついたころから大人なった1975年までとほぼ同じ。このころも4位になったらよく頑張ったと思ってた。それでも衣笠が入り、山本浩二が入って若手が台頭し、外古場・安仁屋の両エースが頑張っていた。3年連続最下位後の1975年、古葉監督の下でカープは奇跡の初優勝。そのとき僕は大阪薬科大学の3年生の20歳。唯一テレビのある食堂に集まるとまさに「広島県人会」の集まりで、優勝が決まるとみんなで抱き合い、「それゆけカープ」を熱唱し、大いに興奮したものだ。

 古場監督といえば熊本は濟々黌出身。野球が強くって校名がかっこよくって、クリームシチューの出身校って聞けば、私学だと思っていません?僕も熊本に来て初めて知ったのだけれど、濟々黌は由緒ある名門公立高校。偏差値もかなり高い。だけど情けないのは濟々黌のOBの学生たちのほとんど(野球好きの男子までも)が「古葉さん」の名前を知らない。濟々黌はなんてひどい教育をしてるんだろうね。「社会に貢献したOBの名前くらい教えろよ」と今も思っている。僕は濟々黌出身の学生たちに「古葉さん」のことを熊本で啓蒙するのが1つのライフワークだと思ってる。実はそんなむきになるほどのことではないのだが、ついつい、熱弁をふるうので、熊薬の濟々黌のOBたちは「平田ってしつこい、くどい」と思っているだろうね。

 ところで大きな声では言えないけれど、ぼくは今年、カープの試合を6回見に行った。3月の初めに学会スケジュールを調べ、金曜日から日曜日の空きを調べて、行く試合を決めてすぐに宿の予約をし、チケットを最速ゲットできる日をカレンダーに記入し、予約を怠らない。時には途中で抜けられない学会の仕事や会議が入って、僕だけ球場に行けないってこともあったっけ。でもカープは我が家の絆。カープがあるから一家が集まる。カープがあるから会話も弾む。

 でも今年、マツダスタジアムに行ったのはゼロ。毎年広島に23回行っているものだから、「広島はもう行き飽きた。広島でおいしいものも全部食べたし、広島の観光地にもほとんど行った。」と長男が言い出すものだから、今年は横浜2試合×2回、神宮2試合と関東地区で6試合見た。性格の悪い客の多い東京ドーム、ナゴヤドーム、甲子園はできるだけ避け、とっても平和で、黄緑よりも赤色が圧倒的に多い神宮(写真左)、地味な紺色よりも派手な赤色の客が圧倒的に多い横浜(写真右)に行ったのでした。戦績は33敗。う~ん、今年の圧倒的な強さで33敗は厳しい。でも去年の2勝3敗1引き分けよりまだましかな?

 横浜スタジアムは見た目きれいだが、座席が狭いし売店がとっても少ない。神宮は駅から遠いし、見た目が古臭いし、トイレが大行列。その点マツダスタジアムはトイレが混むことはないし、売店の充実度は日本一(日本の全部の球場に行ったわけじゃないですが多分、どこよりもいい)。売店やトイレの廊下が驚くほど広い。シートもバラエティに富んでいて、どの席もゆったり。横浜も神宮も甲子園も人とぶつかるのを避けるのに苦労する。もう1つ、僕のふるさと、呉市二河球場の外野の芝生席も、寝転がって見れるので最高です!1年に1回しかカープの試合はないけどね。

20160912_7.jpg左:神宮球場に虹がかかる。いざ出陣のカープ(撮影平田9/3●1-3)。

右:真っ赤に染まる横浜スタジアム(撮影平田8/123-2

  今年はみんなよくやった。特に若手が頑張った。1番「背は低いがパワーがあり、脚も速い広輔」、2番「人間離れ(サル並み?)驚異の守備範囲の菊池」、3番「顔がでかい丸で~すと自己紹介してた丸」、4番「阪神から戻ってきて大活躍の広島市民の新井さん(写真)」、5番「来年はトリプルスリーが狙える神ってる誠也」、6番「体重120kgだけど肥満じゃないのでCockcrof-Gault式もそのままOKの無双の怪力エルドレッド」、7番「走攻守三拍子揃った安部(カープの選手はほとんど走攻守三拍子揃ってるけど、安部ちゃんはあんまり特徴ないんだよね)」、8番「イケメンぞろいのカープの中で唯一のおじさん顔だけど、リードは抜群の石原(うちの嫁はなぜか石原の大ファン)」、9番「男気・一球の重み、雪に耐えて梅花麗し、20億円を蹴って4億円のカープに帰ってきてくれた元大リーガー黒田様(写真)」。それにセットアッパーのめっちゃ明るいジャクソン、マエケンのいじられ役だった守護神・中崎、みんなよく頑張ってくれました。なんで新井さんで黒田様か、これは僕の熊大でのあまり野球を知らない学生たちへの教育方針です。熊大薬学部臨床薬理学分野に入ると広島には3人の神様がいるから、呼び捨て厳禁。その3人は黒田博樹様、前田智徳様(写真)、そして監督の緒方孝市様(写真)。そしてカープに帰ってくれた新井さんも呼び捨てにしちゃ失礼だと、無理やり作り上げたカープ女子たちに教育しております(実は隠れホークスファンも多いらしいが・・・・)。

 やっぱり来年は全部が真っ赤なマツダスタジアムに行こう。あの聖地へ帰ろう。平和の都市・広島へ!あっ!2月にはキャンプ地の宮崎・日南の天福球場もおすすめです。 

20160912_6.jpg左から新井さん、黒田様、嫁が美人の監督・緒方様、熊本出身の引退した天才打者・前田様

ポスター作製秘話

  平田も今年で62歳。あと3年ちょっとで熊大を定年退職します。それまでにやっておかねばならない大仕事が、来年72223日開催の第3回日本医薬品安全性学会と、2019年、熊大最後の年に開催する第13回日本腎臓病薬物療法学会です。

  2017年の安全性学会の熊本開催はずいぶん前から決まっていましたが、予想にもしなかったのが、「熊本地震」です。開催する予定だった会場の熊本市民会館大ホールが地震で被災し、復旧のメドが立たない。宇野理事長には電話で、このような事情から開催を断念するかもしれないことも相談していました。全国規模の学会を開催するのは立地・収容人数から考えても熊本市民会館とお向かいの国際交流会館はどうしても外せなかったからです。

  ところが、熊本市の国際観光コンベンション協会(県外からの熊本への来訪客の誘致を促進するための団体)がここで動いてくれました。協会から紹介されたのは「ホテルメルパルク熊本」、便利な場所できれいなホテルというイメージはありましたが、県外の友人が止まったということも聞いたことがないし、馴染みのないホテルでした。なぜならこのホテルは宿泊施設としての部屋数は少ないのですが、結婚式などのイベント会場として有名だったからですが、「ホテルを学会会場として使うと高くつく」というイメージとは異なり、コスパのよい価格を提示してくれました。安全性学会の開催はいつも暑い7月。他の学会と競合しにくい日程を選んでいたのです。このころに結婚式はほとんどないため、思い切った価格を出してくれたのでした。

  ただし熊本の観光は地震の影響を強く受けました。シンボルの熊本城は無残な姿、阿蘇は主要道路が寸断され、水前寺公園の庭園の池も水がなくなっていたのです。もうすぐ岐阜大会が迫ってくる。プロのデザイナー以上のデザイン能力を持つ秘書さん(名前は内緒です)に、熊本のシンボルを避けて「安全性」をイメージしたポスターを数種類作成してもらいましたが、20160907_2.png宇野理事長には「やっぱり熊本城が一番いいね」と言われました。内心、ぼくもそう思いました。苦肉の策ではありますが、熊本城をメインにしたポスターを作成し、第3回のテーマを「医薬品の安全性を担保せよ!~復興・熊本からのメッセージ~」とさせていただきました。熊本は地震の被害を受けましたが、頑張って復興します。学会の時には熊本城の本丸もまだ改修は終わっていませんが、あえて、そのありのままの熊本城を見ていただきたい。そしてその1~2年後は本丸の改修工事が終わる予定ですので改めて立派な熊本城を見なおしていただきたいのです。熊本に1人でも多くの人に集まっていただきたいというメッセージを込めてこの大3回大会を開催しようと思います。安全性学会は第1回大会を福山、第2回大会は岐阜、そして第3回大会は熊本、この共通点はお城で有名な都市であること。やはり日本3大名城といわれる熊本城をメインにしたポスターが一番だなと改めて思います。20160907_3.png

  安全性学会は医薬品の安全性を主眼に置いた唯一の学会です。安全性は軽いテーマではありません。どの講演もシンポジウムも、演題も聞きごたえのある面白い学会です。勉強になる学会です。そして本当にためになるプログラムを一生懸命考えていきたいと思います。ぜひとも2017年の7月22日、23日には熊本に来てください。よろしくお願いいたします。


≪ 第3回安全性学会のトピックス ≫

 トピックス1

  来年の安全性学会はクールビズでやります!上着・ネクタイ不要です(何らかの着衣は必要です)。

 トピックス2

  以下の講演が決まりました。

20160907.png

   特別講演:「医薬品安全性を高めるための育薬の役割」東京大学大学院育薬学講座・澤田康文先生 

   理事長講演:「医薬品の交差アレルギーを極める」日本医薬品安全性学会理事長・宇野勝次先生 

   大会長講演:「薬剤性腎障害を防ぐ」熊本大学薬学部・平田純生


 

9月に熊本大学薬学部で4回連続して開催している育薬フロンティアセミナーのお知らせです。
熊本大学臨床薬理学分野HP「育薬フロンティアセミナー」のサイトはこちらです。
育薬フロンティアセミナー

この研修はエコファーマに認定されました。

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熊本大学臨床薬理学分野HP「薬剤師のための医療薬科学研修会」のサイトは

こちらです。 ⇒ 育薬剤師のための医療薬科学研修会サイト

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~熊本腎薬下石会長からのメッセージ~

全国の腎薬の先生方には発災直後より、多くの励ましのお言葉や、温かいお便り、メールを頂きました。ありがとうございます。

おかげ様で、熊本腎薬スタッフ全員、元気に震災を乗り切ることができました。

まだまだ余震も続いてはいますが、7月から研修会も再開し、来るべき2019年腎臓病薬物療法学会in熊本開催に向けて、熊本腎薬スタッフ一同、心を一つに頑張っていきます、いや “がまだし” ます。

熊本腎と薬剤研究会会長 下石 和樹

20160623.png

 いまだに多くの医師・薬剤師が腎機能の指標として血清クレアチニン(Cr)値を使っているという学会発表や調査報告があります。以下の2人の患者の血清Cr値は同じ値ですが、皆さんは腎機能をどのように判断しますか?

Aさん:20歳男性180cm70kg、血清Cr1.2mg/dL

Bさん:80歳女性155cm50kg、血清Cr1.2mg/dL

 Aさんは若くてアスリートのような体形を予想させますね。でもデータだけで腎機能を判断するのはよくないです。実際にAさんBさんの体格と活動度を確認する必要があります。Aさんは大学生でバスケットボール部のキャプテンで、筋骨たくましい男性でしたが、肉離れで整形外科を受診していました。そしてBさんは大きな病気はないものの、腰痛や膝関節症などで、整形外科に通っており、日常生活は通常にできているものの、ほとんど運動はしていません。血清Cr値が同じで、腎機能を判断しにくいので、腎機能推算式として汎用されているCockcroft-Gault によるクレアチニンクリアランス(CCr)を算出してみましょう。そうすると図1のようにAさんは97L/min、アスリートでなかったら筋肉量は少ないので、もっと高いCCrになり、多分120130mL/minはあるのではないかと思います。

 BさんはAさんの1/3以下の29mL/minで高度腎障害に分類される腎機能した。もっと運動ができていたら、血清Cr値はもっと高くなってCCr20mL/minに推算されていたかもしれません。Cockcroft-Gault式は肥満患者では腎機能を高く推算し、元気な高齢者では腎機能を低く見積もってしまうという2つの欠点がありましたが2人とも肥満ではなくBさんも活動度は低いので、推算値と実測値との乖離はそんなにないと思われます。

 ただしこれらはあくまで推算値であり実測値ではありませんが、血清Cr値が同じでも推算CCrはこんなに差があり、実測するともっと差が出るかもしれないなと平田は予測します。

20160523.png

 ということで、わす化に高い程度の血清Cr値で腎機能を判断するのはあまりよくありません。今後はCCr、いやもっと精度の高い体表面積未補正eGFRmL/min)を使うべきだと思います。なぜこのようなことをブログで書いたのかというと、201648日にFDAから”FDA Drug Safety Communication: FDA revises warnings regarding use of the diabetes medicine metformin in certain patients with reduced kidney function“という医薬品安全性情報(Drug Safety Communicationshttp://www.fda.gov/Drugs/DrugSafety/ucm493244.htm)が出されたからです。内容は以下の通りです。

We are recommending that the measure of kidney function used to determine whether a patient can receive metformin be changed from one based on a single laboratory parameter (blood creatinine concentration) to one that provides a better estimate of kidney function in patients with kidney disease (i.e., glomerular filtration rate estimating equation (eGFR)). 

 メトホルミンを投与している患者に対しては血中Cr濃度のような単一の検査値からではなく腎機能をより正しく見積もることのできるeGFRに変えましょうという内容です。そうです。時代は変わってきているのです。国際間で、測定法の違いによって値が異なり、加齢・性別によって評価の仕方を注意しなければならない血清Cr値や、肥満患者で過大評価し、元気な後期高齢者では過小評価してしまう推算クレアチニンクリアランス(CCr)からeGFRを使って腎機能を評価しようという時代になりつつあるのです。

 これに呼応して{かどうかは分かりませんが}2016年5月12日日本糖尿病学会は「ビグアナイド薬の適正使用に関する Recommendation」http://www.jds.or.jp/modules/important/index.php?page=article&storyid=20をおよそ2年ぶりに改訂し「メトホルミンの適正使用に関する Recommendation」として発表しました。

 


「ビグアナイド薬の適正使用に関するRecommendation

メトグルコは中等度以上の腎機能障害患者では禁忌である。SCr値(酵素法)が男1.3mg/dL、女性1.2mg/dL以上の患者には投与を推奨しない

 高齢者ではSCr値が正常範囲内であっても実際の腎機能は低下していることがあるので、eGFR等も考慮して腎機能の評価を行う。ショック、急性心筋梗塞、脱水、重症感染症の場合やヨード造影剤の併用では急性増悪することがある。尚、SCrがこの値より低い場合でも添付文書の他の禁忌に該当する症例などで、乳酸アシドーシスが報告されている。 


   


「メトホルミンの適正使用に関する Recommendation

腎機能をeGFRで評価し、eGFR30mL//1.73m2)未満の場合にはメトホルミンは禁忌である。

 eGFR3045の場合にはリスクとベネフィットを勘案して慎重投与とする。脱水、ショック、急性心筋梗塞、重症感染症の場合などやヨード造影剤の併用などではeGFRが急激に低下することがあるので注意を要する。eGFR3060の患者では、ヨード造影剤検査の前あるいは造影時にメトホルミンを中止して48時間後にeGFRを再評価して再開する。尚、eGFR45以上また60以上の場合でも、腎血流量を低下させる薬剤(レニン・アンジオテンシン系の阻害薬、利尿薬、NSAIDsなど)の使用などにより腎機能が急激に悪化する場合があるので注意を要する。


 

「腎機能を正しく判断するには血清Cr値よりも推算CCr、推算CCrよりも体表面積未補正eGFRmL/min)を使いましょう。そして諸々の事情で推算値が適応しにくい症例には実測CCrを使いましょう。軽度腎機能低下時や筋肉量の影響を受けないシスタチンCによる体表面積未補正eGFRmL/min)も結構いいですよ」というのが今回のブログの結論です。

 皆様に、大変ご心配をおかけいたしましたが、熊本地震からはや1ヶ月。駅前の白川橋が通れないなどまだ完全にすべてが復旧しているわけではないので、ウィークデイの熊本市内の渋滞はひどいです。熊本空港の滑走路は全く問題なかったのですが、空港の場所は被害が最も大きかった益城町なので、空港の建物はまだまだ損傷したままで、欠航便はまだあります。とはいえ59日から大学での講義も再開され、ライフライン、インフラもほぼ回復し、元通りの暮らしが戻ってきました。建物が損壊した方々はまだまだ大変ですが、薬学部は学生、職員ともにみんな元気です。もちろん臨床薬理学分野のメンバーも全員、元気に研究・勉強をしております。

 多くの方々から安否の確認や励ましの連絡をいいただきました。この場をお借りいたしまして心より感謝申し上げます。

 PS: 東京腎薬の皆様から熊本腎薬のメンバー宛に、こんな集合写真を送ってもらいました。ありがとうございます!みんな元気でやっています。

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4月19日(火)10時

我が家は今日も水が出ない

 今日も水が出ない(ガスも出ないが、これは大した問題ではない)。市長は「18日から熊本市内で水道が使えるようにする」と言っていたらしいが、なかなかうまくはいかないらしい。透析には大量の水が必要だが透析ができない病院も多いと聞く。

 一昨日の大学のメールでは薬学部で自転車が盗まれたらしい。今まで住んでいた大阪では日常茶飯事だったが、治安が極めてよい熊大構内では非常に珍しいことなのだ。これを聞いて、いつも鍵をかけていない僕の教授室も施錠することにした。

 熊本には多くの物資が集まっているらしい。なのに益城町など、本当に困っている被災者に物資が届いていない。これはコンビニやスーパーも一緒だ。弁当や、おにぎり、パン、カップめん、ペットボトルの水などは何もない。置いているのはお菓子、ジュース、お酒、アイスクリームなど食生活に直接、困らないものばかり。それから意外と野菜類は豊富にある。なぜなら野菜料理するには水洗いしなきゃいけないし、煮炊き用にガスも必要だし、鍋やフライパンも洗わなくてはならないから、誰も買わないのだ。地震後の我が家の食器はすべて発泡スチロールにサランラップを敷いて食べ物をよそっている。これだとお皿も洗うための水が少しでも節約できるからだ。

 水やパン、弁当のような必需品が入荷する時間を予告すると、近隣の住民がコンビニやスーパーに列を作る。ガソリンスタンドも行列ができている。タンクローリーが来てもガソリンを入れるポンプが壊れており、人力でガソリンを入れるため、行列はなかなか縮まらないスタンドもあったそうだ。関西のあるテレビ局の中継車がこの列に割り込んだらしいが、熊本県民は絶対に割り込んだりしない。列を乱すことなく、何も文句を言わずに待ち続けることを、関西の人は知らなかったのだろうね。僕も関西に住んでいたけど、ドライバーのマナーは悪くって、自分は割り込むのに、他人には割り込みを許さない人が意外と多い。

 我が家は水道がストップする前に、妻が風呂に汲み置きしていたが、水量が日に日に減っていく。幸い大学の研究室は水が出るので、今は朝起きたらまず大学の教授室で歯磨き、洗髪、洗顔、清拭している。その間、妻は5Lの水をもらいに毎日、給水車に列を作って並んでくれている。昨日からは洗濯が楽なジャージの上下に、鈴鹿医療大の八重徹司先生から紹介してもらった裸足で履くビブラムファイブフィンガーズという地下足袋のような特殊なランニングシューズで大学に通うことにした。

 大学に行く前の早朝、熊本市内を歩いてみた。我が家の賃貸マンションは市街地に歩いて5分、熊本城までさらに5分の便利な場所だ。その熊本城は天守閣の上にしゃちほこがなく、瓦がない淋しい姿になっていた。12.png熊本城の櫓のうち1つは完全に崩壊していた。近所の駐車場の壁も大きく崩れ、1階が押しつぶされてなくなっていた医院もあった。これらの写真を撮っておいたが、熊大の方針でブログには載せてはいけないことになっている。熊本城以外は我が家からすべて歩いて5分以内の場所だから被害の大きさが実感できる。大学に着くと、熊本大学薬学部でも壊滅的状態になった棟があり、講義室も使用できない状態になっていると聞いた。13.png

 僕の研究室の食事部屋に久しぶりに人影が見えた。5年生の自宅通いのSさんだ。「家にいても余震が怖いので、今から人手が足らない南区にボランティアに行ってきます」と元気な笑顔を見せてくれた。熊大では学生のボランティアを募集しており、多くの学生たちがいろんなところで頑張っている。

 予定通り、教授室の小さな流しで歯磨きし、洗顔し、洗髪し、清拭した。気持ち良かった。水道があるだけでこんなに幸せになれる。当たり前のことが本当にありがたく感じられる。 

写真

1枚目:屋根瓦がなくなった熊本城天守閣

2枚目:崩壊した櫓

 

  ご心配をおかけいたしました。

  たくさんの人からお見舞いのメールやお電話をいただきましたが、おかげさまで臨床薬理学のメンバーも僕も元気です。実は僕は2つの大きな地震の時に長崎市と千葉の柏市におり、被災していないのです。1回目の地震の起こった4月14日(木)の21時半には長崎腎薬での講演会で懇親会の席にいました。今、当然、僕は熊本に帰ってきており、いまだに頻繁に続く余震の中で熊本地震の顛末を書いています。

    長崎にいたので揺れは感じたが、iPhoneを見ると震源地は熊本。すぐに妻の携帯に電話しても、我が家の固定電話に電話してもかからない。大学院生や6年生の携帯に電話してもかからない。そのうち6年生から「先生、研究室が大変なことになっています!」と聞いて、初めて事実を把握した。そのうち何人かに何回か電話をし、事情を詳しく聴き、実験室で器具が破損し、機械が倒れ、書棚からほとんどすべての本が落ちていることを確認した。家庭ではタンスと仏壇が倒れ、僕の部屋は書棚が倒れたためにドアが、全く開かない状態になっているとのこと。

  でも、この時間じゃ熊本に帰れないし15日(金)の夜には千葉県柏市で講演会があるため、予定通り、明日の昼前に、熊本に帰り、残った仕事をこなして熊本空港から羽田を経由して千葉に行く予定だった。まあ、明日、熊本に戻ればと思って、長崎のホテルでテレビを見ていると九州新幹線が脱線したとのこと。

  「やばい・・・・。明日は熊本には戻れない。」、明日の朝一番でJALに電話して確認しよう。そして「長崎から羽田に飛ぼう。」と決心した。そして学生たちに1人1人、安否確認の携帯メールをするが、ラインなどの楽にみんなに送れる手段を知らないため、3時ころまでかかった。

   翌日は長崎空港から羽田経由で千葉に入って講演を終え、ホテルに帰ると睡眠不足もあり、すぐに寝付いたが、2時ころ目が覚めたので、テレビをつけると相変らず熊本地震のニュース。でも何かおかしい。映像が昨日と全然違う。ようやく神戸淡路の震災と同レベルの強烈な「本震」が起こったことを理解できた。iPhoneを見ると妻からの着信があったので電話すると「今から隣のご夫婦と一緒に避難する。昨日の地震どころじゃない。ずっと揺れがやまないので、マンションは危ない」とのことで妻は車の中で眠れぬ1夜を過ごしたようだ。学生からも「これから我が家全員で非難します」という留守電が入っていた。そのまま、まったく眠れず、朝5時になると熊本空港は終日閉鎖。九州新幹線は全面運休とわかった。

 1.png 何とか福岡空港に飛び、そこから遠路、タクシーで熊本の我が家に帰ると、ぐったりとした妻の顔。しばらく話を聞いて、自分の部屋に入ろうとするがドアが開かないので中に入れない。今夜から大雨が降るというのに、地震で自然に窓が開いてしまったようだ。なんとかドアをこじ開けて荷物を小出しにすると、何とか中に入れた。しかしまさに足の踏み場もないほどの惨状だったが、片付けることは後回しにしてでも、窓を閉めて、学生たちのいる大学に向かった。

 学生から電話で聞いていた通り、体育館には一般の被災者でいっぱいで、そのため駐車場も被災者の車で埋まっており、ほとんど空きがなかった。研究室に行くと疲れ果てた男子学生が3人いた。

   2.pngせっかく地震が終わったと思って、みんなで研究室を片付けて「お疲れさん。よくやってくれた。」と言って帰した昨夜の1時25分の強烈な本震に遭遇して、みんな自分の住居のことだけで手一杯、心が折れてしまっていた。研究室の食事部屋は図書が散乱したままであった。直しても直しても散乱するので片付けても仕方ない状況なのだ。大学のホールには1人暮らしの学生たちがみんな疲れ果てて寝泊まりし、体育館は一般の避難してきた人でいっぱいだった。

  1人暮らしの学生たちは身の危険を感じるのと、アパートのライフラインが欠如しているため、何とか熊本を脱出しようとしているが、広い熊本市内全域で公共交通が全く機能していない。近県の学生は親が迎えに来てくれて、同郷の学生も便乗させてくれる。臨床薬理学分野でも帰りたくても帰れない学生がいたので、翌日朝6時に彼と彼の同級生3人を乗せて博多駅に向かった。そのあと、福岡で車にガソリンを入れた。熊本ではガソリン不足になっているのを聞いていたから。3.png

 熊本に着くとブロック塀の壊れた家がたくさんあり、水の配給で公園に並ぶ人たち、たまに開いているコンビニにも行列ができていた。家に帰ると妻が炊き出し用のおにぎりをいっぱい作っていた。我が家は水道も出ていないのに妻はよく頑張ってくれている。

 大学に行く前に妻に頼まれて米と水を買いに、空いているスーパーに行くが、駐車もできないくらい車であふれていた。とりあえず車を止めて店に入ると米で残っているのはもち米だけ、カップめんも水も陳列台はあるけど品物が全くなかった4.png。店もあと1時間で品切れになるので、すぐに閉店するとアナウンスしている。あきらめて大学に行くと、研究室の廊下は散乱したまま。学生は研究室には1人もいない。熊大薬学部の研究室は壊滅状態のところもあるらしいが、臨床薬理分野はまだましな方かもしれない。でも上の実験室の配管が壊れて、1つの実験室は水浸しになっていた。今回の震災で破損した備品を新たに購入しなければならない。もうすぐ新3年生が研究室配属されてくるが、この予算では十分な研究をさせてあげることができるかどうかが心配・・・・。

 ぐちゃぐちゃになっていた教授室11.pngを何とか整理し、苦労してパソコンを立ち上げて、たくさんただいたお見舞いのメールの返事を書き、今、時々揺れるPCを左手で押さえながらこの文章を書いている。

   4月17日(日)15時。余震はまだまだ続いています。平田は疲れていますが、元気です。研究室の学生たちも妻もみんな疲れていますが、みんな元気です。

 

写真

1枚目:我が家の僕の部屋

2枚目:研究室の書庫(せっかく整理しなおした後に2回目の地震で)

3枚目:学生たちの避難場所(宮本記念館)

4枚目:カップめんのコーナーに何も置いていないスーパー

5枚目:僕の部屋(教授室:これも学生たちが復旧してくれた後の深夜の地震で)

プロフィール

平田純生
平田 純生
Hirata Sumio

趣味は嫁との旅行(都市よりも自然)、映画(泣けるドラマ)、マラソン 、サウナ、ギター
音楽鑑賞(ビートルズ、サイモンとガーファンクル、ジャンゴ・ラインハルト、風、かぐや姫、ナターシャセブン、沢田聖子)
プロ野球観戦(家族みんな広島カープ)。
それと腎臓と薬に夢中です(趣味だと思えば何も辛くなくなります)

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