臨床経過を追う

 入院当初、Aさんはジソピラミドカプセル100mgを1日1回投与されていた。そのうち不整脈が起こったため、主治医は100mgを1日2回投与に変更すると、徐脈・頻脈は完全に抑えられたが、案の定、視覚異常・食欲不振が現れた。100mg/日と200mg/日の1日おき投与を行ったが、視覚異常・食欲不振は持続し、100mgを1日1回投与に戻しても視覚異常・食欲不振は持続したため、主治医は100mgを28時間おきに投与するという変則処方を行った。今度は恐れていた徐脈・頻脈が現れた。結局、処方は入院当初の100mgを1日1回投与に戻ったが、Aさんの症状を観察していると視覚異常・食欲不振と徐脈・頻脈は決して同時には起こっていないことがわかった。ジソピラミドのtmaxは約3時間。ヒステリシスがあったとしても服用して3〜4時間が最大効果を示すと予測されるが、その時間帯では必ず視覚異常・食欲不振が起こっていた。そして次回服用前あたり、つまり血中濃度が最低になるトラフ値付近では必ず徐脈・頻脈が現れるのである。ここで初めてTDMの実施を決意した。その前にジソピラミドの薬物動態について調べた(表)。腎排泄型であるため半減期は延長しているはず。ジソピラミドは塩基性薬物であるため、アルブミンではなくα1-酸性糖タンパク質(AAG)と結合する。AAGの絶対量はアルブミンの1/40しかないため、ジソピラミドとの結合は容易に飽和する。そのため、蛋白結合率は5〜65%と幅広い。となると総濃度のトラフ値とピーク値だけでは効果の指標にならない。遊離型ジソピラミド濃度を測定するため限外濾過膜を購入し血清AAG濃度も測定した。遊離型濃度は低濃度であるため、師と仰ぐ上野和行先生(現新潟薬科大学教授)に教えを請い、HPLC法によって血清ジソピラミド濃度を測定した。

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プロフィール

平田純生
平田 純生
Hirata Sumio

趣味は嫁との旅行(都市よりも自然)、映画(泣けるドラマ)、マラソン 、サウナ、ギター
音楽鑑賞(ビートルズ、サイモンとガーファンクル、ジャンゴ・ラインハルト、風、かぐや姫、ナターシャセブン、沢田聖子)
プロ野球観戦(家族みんな広島カープ)。
それと腎臓と薬に夢中です(趣味だと思えば何も辛くなくなります)

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