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第 21回 基礎から学ぶ薬剤師塾 Q&A
薬剤性腎障害を防ぐ
~Quadruple whammyを防げ!~
薬剤師塾は、もともと芦屋のI&H本社の大会議室で対面でのライブ形式で行おうと思っていましたが、コロナ対策のためオンラインで行っています。薬剤師塾にライブで参加している皆さんには、できるだけ熱いディスカッションをしていただき、薬剤師塾を盛り上げていただきたいと思います。どうしても自信のない方は所属・氏名、質問内容をチャットに記載してください。何も質問が出なければ、一方向の講演になってしまい、再放送を聞いている方は全く面白くありませんし、私もやりがいがありません。ですから、私の講演を聞いている間に不明な点やご意見などがあれば、積極的に質問して、どうか薬剤師塾を盛り上げることのご協力いただきたいと思います。どうかよろしくお願いいたします。
第21回基礎から学ぶ薬剤師塾では直接の質問は残念ながら皆無でしたが、チャットでの質問、アンケートでの質問をいただきましたので、いつものようにQ&A方式で回答させていただきます。
半減期の延長する薬物=初回通過効果は受けなかったけど、全身循環血が肝臓を通るたびに消失の遅延が生じる薬物(肝でのCYP2C9による代謝を腎不全では受けにくいフェキソフェナジン、
などを思い浮かべるとよいですね。Y軸が対数軸だと半減期の延長が明らかにわかりやすくなります。
チャットでの質問
北上済生会病院 八重樫恭平先生
Q.腎保護の観点からRAS阻害薬を使用する場合、半減期が長いものほど有効でしょうか。
A.あまり考えたことがありません。ACE-Iは腎排泄なので、腎機能が低下するほど半減期は長くなります。半減期の長短により腎保護作用が強力かどうかについてはあまり知りませんが、ACE-Iに関しては汎用されているエナラプリルの活性代謝物35hr、リシノプリル34~39hr、ベナゼプリルの活性代謝物22hrと長いものが多いです。ARBに関してはバルサルタン4~6hr、ロサルタン活性代謝物4hr以外は10hr以上ですが、半減期の長いものの効果が高いとは思えません。RAS阻害薬同士の直接対決のRCTでもやらない限り、どちらが有効かを証明することはできないと思いますが、おそらくやられていないと思います。RAS阻害薬はクラスイフェクトとしてタンパク尿・アルブミン尿のある患者の腎保護を期待できますので、RAS阻害薬を投与するうえではタンパク尿・アルブミン尿の有無の方が重要だと思います。
ファーマライズ薬局 羽村知穂先生
Q1.今のトリプルワーミーのNSAIDsについてですが、例えばカロナールなどの腎排泄ではないものに変更をお願いするのがいいのでしょうか。他の痛み止めだと湿布や外用剤などで対応するしかないのでしょうか。
A.痛み止めはほぼすべて肝代謝薬物だと思います。NSAIDsによる腎障害、その他の副作用を回避するために有効で、NSAIDsよりも安全なものといえば、アセトアミノフェン(米国FDAはこれを推奨)、セレコキシブ(他のNSAIDsよりも腎には優しく心血管系に悪影響しないが、FDAは心筋梗塞が多発したロフェコキシブ事件からか、類薬のセレコキシブを推奨していません)、吸収しにくい外用パップ剤、痛みが強ければトラマドールなどが考えられます。あとはプラセボ効果を期待してノイロトロピン(副作用があったと聞いたことがない)、その他の漢方薬まで含めると選択肢はたくさんあります(図)。
Q2.アバスチンを点滴治療している方でたんぱく尿2+が出てきて血圧も上昇してきた場合、腎機能の保護のためにやはりRAS阻害薬がよろしいでしょうか?ファーストチョイスをしてカルシウム拮抗薬の方がいいのでしょうか?
A.抗VEGF抗体のベバシズマブは高血圧・タンパク尿を起こしやすい分子標的薬です。ベバシズマブ投与によってVEGFが阻害される、あるいはVEGFの欠損によって糸球体内皮障害が起こり、タンパク尿・腎機能悪化をきたします。タンパク尿2+であれば、タンパク尿のある患者での第1選択薬である降圧薬のRAS阻害薬を投与すべきと思います。
ココカラファインヘルスケア 恒吉春香先生
Q.心不全症例で、Triple whammy予防のために、利尿薬をループ利尿薬のかわりにSGLT2阻害薬を提案してみてもいいのでしょうか?そのときに押さえるポイントなどがあれば教えて下さい。
A.SGLT2阻害薬の利尿作用は持続しません。カナグリフロジンの尿量増加は1日のみです。その他のSGLT2阻害薬も糖利尿は持続しますが、Na利尿は初期のみで、尿量増加が期待できるのも短期間です。したがってSGLT2阻害薬は利尿薬の代わりにはなりませんが、利尿効果に関してはループ利尿薬と相乗作用を示しますので、ループ利尿薬を減量できるでしょうし、利尿薬による急性腎障害の予防は期待できるかもしれません(ただし投与初期の脱水には要注意!)。ARNIの利尿作用はANP, BNPの利尿作用(血管拡張作用もあります)によるものなので、SGLT2阻害薬よりも長期的な利尿作用は強いので利尿薬や降圧薬を減量できます。
飯塚病院 田先先生
Q.利尿薬によるトリプルワーミーのリスクはループ系とサイアザイド系で差に関する報告などはありますか?
A.トリプルワーミーの原因薬としての利尿薬は一般的には利尿降圧薬(利尿作用のある降圧薬)として投与され続けるサイアザイド系を指しているのだと思います。利尿作用がメインで降圧作用の弱いループ利尿薬は浮腫や心不全の呼吸困難などの症状があるときに短期間使います。半減期が短く降圧作用も弱いため、腎機能が悪化してサイアザイド系が効かない腎不全患者にしか降圧薬として使うことはありません。ループ利尿薬の利尿作用は非常に強力なため、当然、脱水をきたしやすく腎機能悪化リスクは高いとは思いますが、このように使用方法が異なりますし、使用対象患者も異なりますので、AKI発症リスクを比較できないと思います。
みきやま病院 田中先生
Q.体重が30kg程度で、シスタチンによるeGFRが30ml/min台の高齢者に経口抗菌薬を投与する場合、クレアチニンクリアランス30ml/min以上あれば減量の必要なしとなっているものは、減量せず通常投与量を投与した方がよいでしょうか。腎臓に関してアレルギー性の障害が多いなら、セフェム系やペニシリン系は副作用を心配して減量する意味は乏しいでしょうか(本題からやや外れた質問ですいません)
A.感染症は急性疾患ですので、「腎機能が低下していても用量依存的な副作用のないβラクタム系は積極的に投与すべし。初日投与量は腎機能が低下していても常用量投与すべし」というのが持論ではありますが、体重が30kgの高齢者というのであれば、一般成人の1/2の体重と考え、初日投与量は1/2の用量で十分です。その後は使用する抗菌薬の尿中排泄率によって用量・投与間隔を調整します。βラクタム系は安全とは言っても腎機能の低い後期高齢者に常用量で投与し続けるとけいれんなどの中枢症状は起こりえます。
保険薬局の先生方に気を付けていただきたいのはCCr<30で禁忌となっている場合、CCr≧30であればOKと考えCCr31mL/minであれば静観し、CCr29mL/min になれば疑義紹介する「デジタル薬剤師」にならないことです。同様に腎機能別用量がCCr<30で1000mg、CCr≧30の用量が2000mgであった場合であってもCCr29mL/minとCCr31mL/minの腎機能に差があるとは思えませんので、1人1人の患者さんの腎機能の変化、病態の変化を1点のみでとらえるのではなく、間を取って1500mg程度が適切用量だと考えてください。あとは腎機能がよくなりつつあるか、悪くなりつつあるかを観察していただき、そして体格も考慮したうえで用量を決めていただきたいと思います。
I&H株式会社 那須裕之先生
Q.外用ビタミンD3製剤について、①オキサロール以外も腎機能障害のある人に使用しないほうがいいですか?②NSAIDsの代わりにアセトアミノフェンを使うように、何か代用薬はありますか?
A.添付文書上では腎機能低下患者に外用活性型ビタミンD軟膏の全身塗布は禁忌ではありませんが、お見せしました平山先生の表では(表)、もともと腎機能の低下している症例(赤色)は極めて速やかに腎障害を発症しています(発症順に①②③④で示しています)。血清クレアチニン値は2~4週間に1回測定されると仮定すると①8日目、②12日目、③17日目、④18日目に腎機能が悪化したと考えるよりも、たまたま8日目に測定したから腎機能悪化を発見でしただけで、もっと速やかに腎障害が進行していた可能性は大いにあると考えられます。そのため、腎機能低下患者には外用活性型ビタミンD軟膏を全身塗布すべきではないと思います。ほぼすべての急性腎障害発症のリスク因子で最大のものは「既存の腎機能低下および高齢者」であることを肝に銘じていただきたいと思います。
ステロイド軟膏は抗炎症作用を期待して投与されますが、皮膚委縮や毛細血管拡張、感染症を誘発するとされており、活性型ビタミンD軟膏は強皮細胞の増殖抑制、分化誘導作用を期待して投与されますが、効果発現までに時間がかかると理解していますが、皮膚科で使用する薬剤についてはあまり詳しくないため、活性型ビタミンD軟膏の代用になる薬剤についてはよく知りません。申し訳ありません。
アンケートでの質問
国際医療福祉大学病院 大矢智則先生
Q.答えを聞き漏らしていたら申し訳ありませんが1点ご教示ください。講義の中でエディロールなど活性型VD3製剤の処方について整形外科医に中止を求めるという内容がありました。骨粗鬆症の予防にはエビデンスありませんが治療に対してはガイドラインによる推奨のある中で、薬剤師は骨粗鬆症があっても腎機能障害リスクや潜在的腎障害リスクと判断したら活性型VD3製剤の中止を提案すべきでしょうか?それとも講義中にありました定期的な腎機能モニタリングなどを提案すべきでしょうか?
A.「活性型VD3製剤の処方について整形外科医に中止を求める」とは言っておりません。活性型VD3製剤の添付文書上では定期的な血清Ca濃度のモニタリングが必要なのに、整形外科の先生方は一般的に採血をしていただけないことが多いのです。それによって特に後期高齢女性で高カルシウム血症による多尿・脱水から腎機能低下が起こると一般内科から腎臓内科に紹介入院になることが多いのです。閉経後骨粗鬆症に活性型ビタミンDの投与は必要です。ただし投与後の副作用モニタリングも必要だと言いたかったのです。間違って伝わっているとすれば、ごめんなさい。何も起こっていないのに活性型VD3製剤の処方を整形外科医に中止を求めることはあり得ません。
所属・氏名を記していただいた質問でしたが、厳しめの回答になったため氏名の公表を差し控えさせていただきます。
Q.小柄な高齢の女性は急性腎障害に注意とありましたが、日常の投薬設計時に理想体重補正したクレアチニンクリアランスを計算して、禁忌に達していたらDr.に疑義紹介しているのですが、この時に小柄な高齢の女性の患者さんの場合は本当に腎機能が悪いのか、体が小さい(体重補正すると尚一層なのですが)過小評価しているのか判断に迷う時があります。特にDOACなどの止めるのもリスクのある薬の場合判断に迷います。又、体の大きな男性高齢者でも寝たきりの状態であれば、クレアチニン値が低い時は0.6を挿入したりしています。この事について平田先生のご意見をお聞かせ頂けると幸いです。
A.クレアチニンクリアランスの推算式(CG式)は加齢に伴い直線的に低下する式なので(図)、フレイルなどの高齢者には過大評価になりがちなeGFRに比べ一般的にフィットしやすいです。CG式で最も考慮すべきポイントは肥満患者で過大評価しやすいことだと思います。その時には理想体重を使うこともありますが、多くの場合は補正体重の方がベターだと思っています。小柄な高齢女性でCG式に理想体重を代入する意義はないと思います。また血清クレアチニン値の代わりに0.6を代入するラウンドアップ法をCG式で使うと、これも腎機能の過小評価になってしまい、薬用量が少なすぎて効かなくなる恐れがあると思います。僕自身は腎機能が評価しにくい痩せて小柄な超高齢者ではeGFRは過大評価されがちなので安全性を考慮してラウンドアップ法を使うのはやむを得ないとは思いますが、CG式のラウンドアップはお勧めしません。
補正体重(Adjusted body weight:補正体重(kg)= 理想体重+[0.4×(実測体重-理想体重)]
これも所属・氏名を記していただいた質問でしたが、厳しめの回答になったため氏名の公表を差し控えさせていただきます。
Q.心不全増悪で入院の80代後半、非透析患者様で、eGFR(Cy)一桁、フロセミド20mg1T/1x、タケルダ、ベラパミル40mg3T/3x、ジャヌビア12.5mgなどを服用中でした。利尿薬調整後に改善し退院が決まった一方血圧は上昇してきたため、中止していた持参薬テルミサルタン20mg2T/2x再開を医師に打診すると、「腎血流量減ってさらに腎機能悪くなるのでは」と。このとき薬剤師としてどうするべきだったか考えています。例えばガイドラインで推奨される薬剤でも、弱った高齢者に追加することでdouble whammyによる腎機能低下が危惧されるジレンマに遭遇したとき、薬剤選択について指針となる考え方はございますでしょうか?
利尿薬やNSAIDsの併用がなければ、弱った高齢者でもACE阻害薬/ARBの腎保護作用は期待できると考えてよいですか?お忙しいところ恐縮ですが、ご教授頂けますと幸いです。
A.eGFR(Cy)一桁ということは末期腎不全で透析導入間近の症例ですね。RAS阻害薬を持続すると糸球体過剰濾過を抑制して、透析導入が早まることを懸念して主治医はテルミサルタンを中止したのではないかと思います。RAS阻害薬は蛋白尿・アルブミン尿のある患者、慢性心不全患者では非常に頼りになる薬ですが、一方で、腎機能が悪化し高カリウム血症を起こしやすい降圧薬です。そういうリスクの高い患者さん(特に腎機能の低下した後期高齢者)で降圧薬が必要であれば、腎虚血による悪影響を及ぼさないCa拮抗薬の方が、使いやすいと思います。
第22回 基礎から学ぶ薬剤師塾 2023年2月11日(土)13:30から15:30まで の申し込みを始めます。
登録していただいた方は再放送を繰り返し視聴できますが、再放送は質疑応答はできかねます。今回のテーマは「慢性心不全とその治療薬~これからはFantastic Fourの時代~」です。
高齢化の進行とともに心不全患者数は大幅に増加し、「心不全パンデミック」と言われ、5年生存率は50%前後でがん全体の5年生存率66.4%よりも低いのです。しかし薬物療法に関しては眩しいくらいに明るい兆しが見えてきました。Fantastic Fourと称される4種の薬物の併用、つまりβ遮断薬+ARNI+MRA+SGLT2阻害薬で生命予後が大きく改善し、心不全入院が大幅に減らせることが報告されつつあります。しかしMRAはアルドステロンを抑えることで心肥大や線維化を抑制できますが、高カリウム血症が怖い。SGLT2阻害薬は心不全の入院や死亡率を下げる作用は強力だし、ヘフペフに唯一有効な薬。でもフレイル患者には使いにくいし、腎機能の一時的な悪化、性器感染症、脱水、ケトアシドーシスの副作用があってやはり使いにくい。ARNIはNa利尿ペプチドを増やしてくれるものの、降圧作用が強力で使いにくいことがある。などという理由からFantastic Fourの導入は進んでいないのが現状ではないでしょうか。
まずはこれらの作用機序、副作用の対処法、各々または併用時の有効性のエビデンス、投与する順序などについてしっかり把握することから始め、Fantastic Fourによる有効性をより高め、安全に使用するキーパーソンとして薬剤師は必要不可欠だといえるようになれればと思っています。
参加を希望される方は 申し込みフォーム に記入のうえ、送信してください。
薬剤師塾となっていますが、医師・看護師など医療従事者であれば参加可能です。ただし薬剤師塾への参加者は、ぜひ学会発表を目指している方に参加していただきたいと思います。そしてその先には原著論文を書くんだという大きな夢を持つ人になっていただきたいと思います。300名まで参加可能ですが、最近の登録者数は200名を超えていますので、早めに登録してください。
あけましておめでとうございます。
旧年中はひとかたならぬご厚誼を賜りまして
大変ありがとうございました。
今年こそライブの薬剤師塾をやりたい!「平田の薬剤師塾」という新刊書も出ます!
2021年の4月からWeb開催ではありますが、念願の「基礎から学ぶ薬剤師塾」が再開できました。でもライブでない薬剤師塾の反省点は振り返ってみるといろいろとありました。熱い討論あってこその「薬剤師塾」、アンケートの質問に答えるだけの質疑で薬剤師塾と言えるだろうか・・・・・・・というものです。
コロナ禍が徐々に和らぎ、学会の多くもライブあるいはハイブリッドになりつつあります。平田は今年69歳になりますが、まだまだ元気ですし、新しい情報を知りたいという意欲もまったく衰えません。平田はライブだからこそ、熱いメッセージが届けられるタイプだし、熱いディスカッションが見れてこその薬剤師塾です。今年こそは芦屋のI&H株式会社本社4階で100名程度参加可能なライブの薬剤師塾(I&H社員でなくても病院薬剤師も薬局薬剤師も参加可能)ができればと思っています。芦屋から遠い方々の視聴も可能なオンラインの良さも分かってきましたので、オンラインとライブのハイブリッド開催を目指したいですね。
実は全国版の「基礎から学ぶ薬剤師塾」だけではなく、I&H株式会社の社員向けの基礎から学ぶ症例検討会の「I&H平田塾」も毎月、第2土曜日に開催しています。これはCKDだけではなく、心不全、心房細動、高血圧、糖尿病、虚血性心疾患、感染症、高齢者薬物療法など、身近な症例にも取り組んでいます。このようなスタイルのスモールグループディスカッションも薬剤師塾で全国発信できたらいいかもしれませんね。
それと2023年6月15日(木)~18日(日)にはEDTA-ERA(欧州透析移植-腎臓学会)がイタリアのミラノで開催されます。2019年のハンガリー・ブダペストでのEDTA-ERAに参加しましたが、大変勉強になりました。2020年にコロナ禍の中、ミラノでオンライン開催されましたが今年も同じミラノでライブ開催になりそうです。平田は夫婦で行く予定にしていますので、イタリア観光がてら、皆さんも参加してみませんか?薬剤師塾仲間で一緒に学会で勉強し、ミラノで一緒に食事でも出来たらいいですね。
それから日時はまだ未定ですが、「平田の薬剤師塾~腎と薬に関する質問に真摯にお答えします~」(仮題)という新刊書が近々、じほうから出版されます。これは熊本大学でやってきた薬剤師塾、学会で開催した平田塾などで受けた質問に対して回答してきましたが、その中で最も重要で、知っておけば薬剤師としての実力がアップするものだけを項目別に分類・厳選して、回答したものです。これらのQ&Aを読むだけで腎臓病薬物療法のすべてが分かるようにまとめました。すでに脱稿済みですが、これから校正にかかります。2022年にあまりブログの連載ができなかったのは、この本を書くためだったからなのですね。ごめんなさい。
この本のほかにもJSNPの学会誌にSGLT2阻害薬+MRA+ARNIについての総説を投稿しようと思っていますし、「調剤薬局のための服薬指導Q&A」についての新刊書も書きたいと思っていますので、よろしくお願いいたします。
平田は61歳の時に、20代に走っていたフルマラソンに久しぶり再挑戦しました。これが熊本城マラソン2016です。30歳から続くひざの故障で全く走れないことを承知で、時速7kmで歩くトレーニングを積んで、最後まで歩いて完走(完歩?)しましたが6時間2分と情けないタイムでした。そしてグルコサミン・コンドロイチンのおかげで(たまたまかもしれませんが)、膝の痛みが徐々に改善して少しずつ走れるようになりましたが、20~30kmあたりでまた痛んで走れなくなり、なかなか5時間を切れませんでした。最高タイムは65歳の時の豪雨の熊本城マラソン2020の5時間16分でした。I&H株式会社では昨年、10名の社員でI&Hランナーズを結成、メンバーにはフルマラソンを2時間30分~2時間40分で走れるエリートランナーが2人いますが、僕のような5時間前後のランナーも一緒に、おそろいのユニフォームのTシャツで駅伝やリレーマラソンに参加しました。これで走るのがますます楽しくなり、ジムで2時間半を切るマラソンランナーのパーソナルトレーナーのKさんにストレッチと、ランナーのための筋トレを教えてもらって、故障しなくなりました。そのおかげで68歳になった11月の第10回神戸マラソンで60代で初めて膝が全く痛まず、最後まで走りきることができました。タイムは4時間42分。若返ってるじゃん!
Kさん、本当にありがとうございました。このままいけば70歳で4時間を切れたら、栄光の70歳ランナーのサブフォー!夢かもしれませんが、目指してみたいと思います。
木曜日の夜には王子公園の坂道走+競技場でのインターバルで追い込みます。実のところ、全力疾走は本当につらいんだけど、どこも痛まずに疾走できる喜びを感じます。日曜日は西宮から明石あたりまで神戸のいい景色を楽しみながら1日20~30kmのLSD(long slow distanceの略で2Lの水分をリュックに背負って、とてもゆっくり長い距離を走ります)を日課にしています。新長田には鉄人28号(平田の世代はガンダムじゃない!)のモニュメントがありますし、神戸駅近くのハーバーランド、メリケンパーク、脚を延ばして明石大橋、舞妓の海岸、須磨海浜公園、六甲アイランド、神戸空港はいずれも暖かい瀬戸内海の景色がよくてテンションが上がります。そして神戸が本社のアシックスが作った小野寺公園のランニングコースにはウッドチップが敷き詰められていて脚にやさしいのです!
いわゆる健康寿命は男性で72.7歳と言われていますから、平田が健康でいられるのはあと5年もないと思っている人がいるかもしれませんが、ほぼ毎日ジムに行きサウナに入り交代浴で疲れを取り、土日以外はI&H本社に出勤し、今年の2月にも大阪マラソンを走る予定で、完走すれば2016年から8年連続のフルマラソン完走で、本当に元気いっぱいなのです。見た目は高齢者ですが中身は若年者なのです。平田は100歳になっても薬剤師塾をやっていけるんじゃないかと本気で思っています。あわてものなので突然、事故死しないように気をつけなくっちゃ。神戸マラソン前後に3回転倒しましたが、今はGPSウォッチのガーミンとアイフォンがショックを感じると妻に緊急連絡してくれるので、なかなか死ねないですね(3回とも急いで解除しましたが)。
ということで今年も平田は精いっぱい頑張りますので、本年もなにとぞよろしくお願いいたします。
講演依頼に関しましては平田のメールアドレスhirata@kumamoto-u.ac.jpまでお気軽にご連絡ください。 少人数での症例検討会も可能です(症例についてディスカッションするのは6名まで、その他はオーディエンスとして適宜、ディスカッションに加わってもらいます)。大学での薬物治療学などの非常勤講師も可能です。
第 20回 基礎から学ぶ薬剤師塾 Q&A
腎機能低下時に減量が必要な薬
~根拠は尿中排泄率だけじゃない~
前回の基礎から学ぶ薬剤師塾「腎機能低下時に減量が必要な薬~根拠は尿中排泄率だけじゃない~」はむつかしかったというアンケート結果が多かったです。おそらく前半はいつも話している腎排泄性薬物による副作用なので優しかったのでしょうが、非腎クリアランスの低下する薬は「このCYPが問題!このトランスポータが問題だ!」などと言い切ることができないため、まとめにくい内容です。それでもCYP2C9基質は腎不全・尿毒素の影響を受けやすいということがある程度、予測できるようになったことを中心にまとめさせていただきました。
バイオアベイラビリティが低下する薬物、半減期の延長する薬物も難しかったかも?
バイオアベイラビリティが低下する薬物=小腸における初回通過効果(CYP3A4)を受けにくいか、肝における初回使用効果を受けにくい薬物=投与量を増やしたのと同じ
半減期の延長する薬物=初回通過効果は受けなかったけど、全身循環血が肝臓を通るたびに消失の遅延が生じる薬物(肝でのCYP2C9による代謝を腎不全では受けにくいフェキソフェナジン、
肝臓に取り込むOATPが腎不全では機能しないため肝代謝が遅延するエリスロマイシン)
などを思い浮かべるとよいですね。Y軸が対数軸だと半減期の延長が明らかにわかりやすくなります。
講演後のアンケートでいただいた質問
ファーマライズ薬局株式会社 羽村知穂先生
Q1.内容としてとても面白かったのですが、やはり難しく感じました。薬物の中で腎排泄のものが肝代謝より少ないので腎を覚えてというのはとても参考になりました。ただ覚えることが多いのでまずは代表的な薬品の尿中排泄率を覚えていくのがいいのでしょうか?
ただ肝臓で代謝された活性代謝物も腎排泄として腎機能低下している方は蓄積により副作用の上昇を考えなければならないというところでまずは高齢で小柄の方、腎機能低下がある人は注意という着眼点でいくのがいいのでしょうか?
A.リスクの高い腎排泄性薬物を覚えてゆけばよいでしょう。日本腎臓病薬物療法学会(JSNP)では学会HPに「腎機能低下時に最も注意が必要な薬剤投与量一覧」を掲載していますが、これだけでも236薬品あります。じほうから発売されている腎機能別薬剤投与量 pocket book 第4版または学会HPで会員のみが閲覧可能な「腎機能別薬剤投与量一覧」では◎になっているものが最重要となりますが、これは「腎機能低下時に最も注意が必要な薬剤投与量一覧」に載っているものはすべて◎です。236薬品ってすごく多いですが、同一薬効でヨード造影剤やアミノグリコシド系抗菌薬など薬効を基準に見てみると意外と共通点があります。ポケットブックでは次に重要な薬物は〇、気を付けていただきたいものは△にしていますので、この順に重要と考えていただくとよいでしょう。腎排泄性ではなくても活性代謝物が蓄積しやすいハイリスク薬物のSU薬も◎にしていますが、グリクラジド(グリミクロン)は〇です。
そして副作用のターゲットになりやすいのは体格・腎機能が小さいのにそのどちらか、あるいは両方を考慮せずに投与してしまった場合が最も起こりやすいです。それが「小柄な後期高齢女性」です。講義でも説明したとおり、プレガバリンもバラシクロビルもシベンゾリンも小柄な後期高齢者で副作用が頻発していいますから。
Q2.グリーンブック並びにポケットブックは、2024年の9月までに入会すればもらえるとおっしゃっておりましたが、今年入会しても来年になるという認識でよろしいのでしょうか?
A.JSNPの会計年度が8月31日ですから、2022年8月31日までに入会していた方には4月頃にグリーンブック、9月頃にポケットブックが郵送されました。2023年の作成予定はありませんので、2024年の8月末までに会員になっていれば(必ずしも2023年8月末に会員でなくても)、グリーンブック(特別号改訂5版)並びに新規改訂版の腎機能別薬剤投与量 POCKET BOOK 第5版がもらえます。
I&H 運営管理課 那須裕之先生
Q.プレガバリンを腎機能の低下した患者に投与する際、添付文書の表記に従うと過量になるリスクがあることをご解説いただきました。ミロガバリンはいかがでしょうか?ミロガバリンについても添付文書に記載があります
A.申し訳ありません。医中誌およびPubMedで比較しようとしましたが、ミロガバリンは米国では発売されていないようで情報が不足しており、私自身も経験がありませんので、全くわかりません。
そのほかにも質問がありましたが、ご質問される場合には、所属と氏名のご記入をお願い致しておりますので、所属・氏名が不明な場合は、お答えできません。今回は講演後の質問はありませんでしたが、薬剤師塾の理想は氏名・所属を明らかにしたうえでのディスカッションを目指していますので、よろしくお願いいたします。
平田への講演依頼に関しましては平田のメールアドレス
hirata@kumamoto-u.ac.jp までお気軽にご連絡ください。
第21回 基礎から学ぶ薬剤師塾 2023年1月14日(土)13:30から15:30まで の申し込みを始めます。
登録していただいた方には再放送を繰り返し視聴できるようになりました。ただし、再放送は質疑応答のQ&Aはありません。今回のテーマは「薬剤性腎障害を防ぐ~Quadruple whammyを防げ~」です。
加齢とともに服用薬剤数が増え、それによる薬剤性腎障害が起こりやすくなります。そしてその対処が遅れれば腎機能は不可逆的に悪化して透析導入に、なんてこともあり得ます。今までに言われていたtriple whammyはNSAIDs、利尿薬、RAS阻害薬による3重攻撃ですが、今回は閉経後骨粗鬆症でよく投与される活性型ビタミンDを加えたQuadruple whammy、つまり4重攻撃についてです。この処方による薬剤性腎障害を防ぐキーパーソンは薬剤師ではないでしょうか?その具体的な防止対策、服薬指導について薬剤師塾で考えてみたいと思います。
参加を希望される方は 申し込みフォーム に記入のうえ、送信してください。
薬剤師塾となっていますが、医師・看護師など医療従事者であれば参加可能です。ただし薬剤師塾への参加者は、ぜひ学会発表を目指している方に参加していただきたいと思います。そしてその先には原著論文を書くんだという大きな夢を持つ人になっていただきたいと思います。300名まで参加可能ですが、最近の登録者数は200名を超えていますので、早めに登録してください。
第 19回 基礎から学ぶ薬剤師塾 Q&A
腎機能悪化を防ぐこれからのtriple therapy
~SGLT2阻害薬、ARNI、MRAの適正使用について考える~
講演中にいただいた質問
I&H株式会社 那須裕之先生
Q1.心不全患者にSGLT2阻害薬を投与する際の「こまめな飲水」は具体的には何時間おきにすればいいのですか?
A.重症の心不全では心不全患者の心不全悪化による入院理由で溢水による呼吸困難などはよくあることで、ループ利尿薬を投与して症状が軽減したら退院します。このような症例に対して、飲水励行はしません。ただし心不全患者の多くが高齢者(口渇中枢の機能が低下している)であることを考慮すると、飲水量は少なめであっても「こまめな飲水」をしてもらわないと、SGLT2阻害薬の副作用である脱水(とそれに伴う腎機能悪化)、性器感染症、糖尿病性ケトアシドーシスになりやすくなりますので、医師の指示した1日飲水量、例えば冬では1日1.2L程度、発汗の多い夏にはより多め水をのどが乾いていなくても少量ずつ飲んでいただくことになります。具体的に1~2時間おきでしょうか。起床時やお風呂上がりにも飲んでいただきましょう。むくみ(足背部の圧痕性浮腫pitting edema:図1)、体重増加、息苦しさがあれば飲水量を少なめに、逆に脱水(皮膚の張り:図2、口腔内乾燥のチェック、爪毛細血管再充満時間≧2秒(表)など)、体重減少などがあれば多めの飲水を心がけてもらってもよいでしょう。
Q2.SGLT2阻害薬による尿糖排泄作用はずっと持続するはずなのに、カナグルⓇの利尿作用は1日のみなのはなぜですか?
A.SGLT2阻害薬後の尿量変化の報告が少ないので、明確ではないのですが、カナグルⓇに関しては初日にプラセボに比し、尿量の増加が認められましたが、この効果は2日目以降には消失したと報告されており1)、カナグリフロジン、ダパグリフロジン、エンパグリフロジンともに投与1日目には尿量が増加するものの、7日目には投与前と同じになる(7日以内に利尿が消失しているのは確かだがいつ利尿作用が消失したかは不明)という報告もあります2)。ダパグリフロジン投与後尿中グルコース排泄量は1週間かけて有意に増加し、尿量は、尿中Na排泄量、尿中Cl排泄量は0日目に比し、2日目に増加したものの、7日目には元に戻った3)。ダパグリフロジン投与後の尿量は7日間にわたり数値的に増加した4)など、報告によって異なります。一方、エンパグリフロジン投与後、800~900mL/日の増加5)がみられた、あるいはエンパグリフロジンの利尿はフロセミド併用によって6週間後も続く6)ことが報告されていますが、これらはいずれもループ利尿薬が併用されています。ループ利尿薬との併用効果は尿中Na排泄量の増加を伴わずに24時間尿量を有意に増加させたことが報告されており6)7)、SGLT2阻害薬とループ利尿薬の併用時の尿中Na排泄分画(FENa)の増強は、単剤投与時に比べて4倍以上であったことも報告されていることから、SGLT2阻害薬とループ利尿薬は相乗作用を示すと考えられ6)、SGLT2阻害薬投与初期及びループ利尿薬併用時には脱水に要注意と思われます。ということでSGLT2阻害薬の利尿作用、Na排泄作用は一過性であるが、薬によってその持続時間は異なるかもしれません。ただしSGLT2阻害薬投与後の尿糖排泄促進作用は持続します。Na利尿は投与初期には認められますが、早期に減弱します。例えばエンパグリフロジン、ダパグリフロジンのNa排泄促進作用は3日以内6)、7日以内には消失します3)。
まとめますと投与2日を超えると7日目でほぼ利尿作用がなくなるという報告もあれば、1か月くらい利尿作用が続く症例もあるようです。概してSGLT2阻害薬投与初期にみられた尿量増加は、持続的にはみられないことが多く、SGLT2阻害薬投与時の尿量は飲水量が規定因子となるため、飲水量や回数を過度に増やすことは頻尿や尿量増加につながります。脱水の副作用は8つのRCTのメタ解析で8)、SGLT2阻害薬群で有意となった副作用の1つであり、発症率も高いため、利尿作用がどれくらい持続するかは重要な問題ですが、今のところ尿量の持続に関する報告は限られています。
SGLT2阻害薬の利尿作用が持続しないメカニズムについては動物実験ではありますが、髄質の尿素増加9)とアクアポリン210)およびバソプレシンV2受容体のタンパク質発現量が増加11)してバソプレシンを介した水再吸収によって、SGLT2阻害薬を継続投与すると、その利尿作用は持続しないと考えられています。Na利尿に関しても近位尿細管でSGLT2阻害薬がNaの再吸収を阻害しても、遠位部でNaを再吸収して低ナトリウム血症になるのを防いでいるのだと思われます。ただしブドウ糖については近位尿細管以外に再吸収部位がないため、糖利尿は持続するのだと思います。
引用文献
1)Tanaka H, et al,: Adv Ther 2017; 34: 436-51
2)Nakagaito M, et al: Circ Rep 2019;1:405-413
3)Masuda T, et al: POJ Diabetes Obes 1: 1-8, 2017
4)Ohara K, et al: Nephrology. 2019 ;24:904-911.
5)Damman K, et al: Eur J Heart Fail. 2020 Apr;22(4):713-722. doi: 10.1002/ejhf.1713.
6)Mordi M, et al: Circulation 2020; 142:1713-1724.
7)Damman K, et al: Eur J Heart Fail. 2020 Apr;22(4):713-722. doi: 10.1002/ejhf.1713.
8)Qui M, et al: Diab Vasc Res Mar-Apr 2021;18(2):doi: 10.1177/14791641211011016.
9)Marton A, et al: Nat Rev Nephrol 17: 65–77
10)Chung S., et al: Front Physiol 10, 271. 10.3389/fphys.2019.00271
11)Masuda T, et al: Physiol Rep 8 , e14360. 10.14814/phy2.14360
沼津市民病院 平野雄一先生
Q.フィネレノン投与時に注意すべき点は?
A.フィネレノンはMRAの中では高カリウム血症を最も起こしにくいと言われていますが、やはりMRAなので、高カリウム血症です。投与初期の腎機能悪化initial dippingはSGLT2阻害薬と比べると非常に軽度ですし、降圧作用・利尿作用も弱いので、ARNIのように過降圧や利尿作用による脱水もあまり問題にはなりません。
講演後のアンケートでいただいた質問
平成横浜病院 廣瀬里美子先生
Q.CKD以外の腎機能の低くなりつつある人たちにもSGLT-2阻害薬は効果があるのであれば、日常症状を感じないのに健康診断で腎機能があまりよくない予備軍の人たちは受診して服薬していくという未来もあるのでしょうか。これで日本の、医療や世界の医療費が軽減するなんて感動します。
A.SGLT2阻害薬は蛋白尿またはアルブミン尿があって腎機能が低下した症例で、腎保護作用が非常に強力になるとされますので、それのない疾患、つまり高血圧が持続すれば腎機能が低下しますが、そのような腎硬化症予備軍が加齢に伴いCKDになっても大きな効果を示しにくいかもしれません。ただしSGLT2阻害薬は長寿遺伝子を活性化させる作用や酸化ストレスを軽減し抗炎症作用を持つなど、腎疾患、心疾患を持たない方にとっても様々な健康増進作用が期待できるかもしれません。
北見赤十字病院 加藤理愛先生
Q.ARNIの腎保護効果はアルブミン尿と関係しないのはなぜでしょうか?
A.Voors AA, et al: Eur J Heart Fail 2015; 17: 510-517の結果に基づいて、36週間後のARNI群の腎機能悪化は-1.5mL/min/1.73m2、バルサルタン群は-5.2mL/min/1.73m2でARNIの方が有意に腎機能悪化速度が緩やかでした(調整後のP = 0.002:図1)が、ARNIの尿中アルブミン/Cr比の幾何平均値はARNI群で増加した(2.1-4.0mg/mmol)のに対し、バルサルタン群では横ばいに推移した(1.5-2.6mg/mmol、36週間の差に関するP=0.016:図2)で2つの介入群間でUACRに有意差が生じました。これって2.1-4.0mg/mmolは18.6-35.4mg/gCrにあたり、1.5-2.6mg/mmol は13.3-23mg/gCrにあたります。尿中アルブミンは30mg/gCr未満は正常ですので、ARNI群はバルサルタン群に比し有意にアルブミン尿を増やしたのは確かですが、単位に騙されました。アルブミン尿はARNIを投与しても平均値としては正常域内です。大変失礼いたしました。図2は意味ないですね。
北九州宗像中央病院 高田由美子先生
Q.eGFRが30前後でHbA1cは6.7前後、ジャヌビアⓇを50mg服用中です。このままで続けるか、SGLT -2を追加するか、SGLT-2に変更するか、処方提案をどうしたらいいか悩んでいます。先生はいかがお考えですか?
A.この症例の年齢、BMIが知りたいです。後期高齢者でBMIの低い症例には使いにくいと思います。
それとSGLT2阻害薬はeGFRが25mL/min/1.73m2未満の患者では、効果が期待できるかどうかについてもよくわかっておりませんし、フィネレノンも高カリウム血症のリスクがあるため、eGFRが30前後の症例に積極的な処方提案はしにくいと思います。
第20回 基礎から学ぶ薬剤師塾 2022年12月10日(土)13:30から15:30まで の申し込みを始めます。
登録していただいた方には再放送を繰り返し視聴できるようになりました。ただし、再放送は質疑応答のQ&Aはありません。今回のテーマは「腎機能低下時に減量が必要な薬~根拠は尿中排泄率だけじゃない~」です。
腎機能が低下すれば、尿中未変化体排泄率の高い薬物は腎機能に応じて減量しないと中毒性副作用が起こることは今や常識になりました。しかし中には活性代謝物が蓄積して思わぬ副作用が起こったり、腎で代謝される薬物も副作用が遷延しやすいことも知られています。そして最近になって分かったのは完全に肝代謝型薬物なのに、腎機能低下患者で血中濃度が異常に上昇する薬物の原因としてある種の代謝酵素、トランスポータの発現量が低下していることも分かってきました。
この辺のことは医師にはわかりませんし、腎を専門としない薬剤師にも理解しにくいと思いますが、「ある種の代謝酵素、トランスポータ」が最近になって明確になりつつあります。患者さんに中毒性副作用を起こさせない、有効かつ安全な薬物療法を提供できる有能な薬剤師になるためには避けて通れない情報と思われます。
参加を希望される方は 申し込みフォーム に記入のうえ、送信してください。
薬剤師塾となっていますが、医師・看護師など医療従事者であれば参加可能です。ただし薬剤師塾への参加者は、ぜひ学会発表を目指している方に参加していただきたいと思います。そしてその先には原著論文を書くんだという大きな夢を持つ人になっていただきたいと思います。300名まで参加可能ですが、最近の登録者数は200名を超えていますので、早めに登録してください。
2022年10月24日 アスヤクlife研修会 Q&A
今回、私の声が聞きにくかったというアンケート結果が多かったようですが、これは私のテンションが低かったからではなく、おそらく機器上の問題だと思います。音が小さいということが早めに分かっていれば、ヘッドセットを交換してみるなどの手段が取れますので、今後はチャットなどを利用して指摘していただければ幸いです。
Q.リオナで、便が鉄臭く、便器にもつくので飲みたくない患者さんが数名いましたが、リオナはタール便ではないのですか?
A.鉄剤による便はタール便ではなく、黒色便です。タール便と黒色便との違いは講演中に述べた通りです。鉄を含む薬剤(特にピートルⓇ)では下痢しやすくなりますし、鉄臭い便が排泄されることはありますが、タール便は消化管出血によるものなので、血液を大量に含み、もっともっと鉄臭く、気色悪いです。
Q.カルタンを服用中にPPIが追加処方された場合、P値に影響がなければそのままカルタンを継続が通常ということでしょうか。それとも念のため他のリン吸着薬に変更していくのでしょうか。
A.カルタンⓇを投与しているのは、低カルシウム血症で高リン血症などのそれなりの理由があると思われます。私の経験ではカルタンⓇ投与中に著明にリンが上がる方はそんなに多くはありません。そのようにリンの上がりやすい方には他のリン吸着薬に変更していただき、血清Ca濃度を上げる必要があるなら活性型ビタミンDの増量などの工夫が必要と思います。
Q.リンを健常者並みにコントロールした方が予後が良いという報告も見かけましたが、先生はどの様に考えますか。
A.私もリンを健常者並みにコントロールした方が予後が良くなると思っています。食事が十分摂れないためにリンが低い方はやせて栄養状態が不良なため、アルブミン濃度も低下し免疫能も低下しますので、感染症などによる死亡率が高くなります。そのため総合的なデータでみるとリンの低い人は死亡率が高くなります。ただしもしも十分な栄養をしっかり摂れている人であれば、3.5~5.0mg/dL程度の低い方がいいです。低すぎはよくありません。
Q.リン吸着力が強い薬剤がたくさん出てきているのに、レナジェルやキックリンの10錠以上/回を選択する理由にどんなことが考えられますか。
A.それは患者さんが下痢気味なのでこれらのポリマーを選ばれたのか、医師の好みか、患者さんの好みかによると思います。鉄が充足していて(フェリチン<300ng/mL)、リオナⓇ、ピートルⓇが投与できない、ホスレノールⓇはむかつきがあるため服用できないなどの問題があるのかもしれません。
Q.腎機能CCrが40台 70代高齢の患者様で徐々に腎機能低下しているのですが、便秘の症状があり酸化マグネシウムが1日3回でよく効いていたのですがどの程度腎機能が下がったら他の薬剤に切り替えるのがいいのでしょうか?血清マグネシウム値などを見ながら考えればよろしいのでしょうか?
A.血清マグネシウム値をモニターしながらなら、酸化マグネシウムは腎不全患者さんにでも透析患者さんになってでも使えます。ただしさすがに3~6g/日の大量を処方する医師はいないはずです。血清Mg濃度の基準値は1.8~2.6mg/dLとなっていますので、2.6mg/dLを超えると「高マグネシウム血症」と決めつけてはいけません。透析患者の血清Mg濃度は2.7-3.0mg/dLで有意に全死亡が低下したという報告(図1)1)、高リン血症に伴う心血管死亡リスクの上昇は、血中Mg濃度の低い群(血清Mg濃度<2.7mg/dL)では顕著であったが、血中Mg濃度が高くなるにつれてリスクは軽減され、特に血中Mg濃度高値群(血清Mg濃度≧3.1mg/dL)では血中リン濃度が上昇しても死亡リスクは有意な変化を示さなかった(図2)という報告があります2)。さらに血清Mg濃度が低いほどインスリン抵抗性が大きくなることも報告されています3)。Mgは心血管病変を防ぐために重要な元素なのです。ただし定期的なモニターをしていない施設では高マグネシウム血症(図3)を避けるため、腎機能低下患者にMg剤を漫然と投与すべきではありません。
引用文献
1)図説 我が国の慢性透析療法の現況 2014年12月31日現在
2)図説 我が国の慢性透析療法の現況 2015年12月31日現在
3)Chutia H, Lynrah KG: J Lab Physicians 7:75-78, 2015
10月18日に開催された群馬腎薬「CKD患者さんの療養指導~透析導入を減らすための薬剤師からの処方提案~」では質疑応答の時間が取れなかったために、ブログ上で質問に答えさせていただきます。
Q.急性腎不全患者で入院した患者の内服薬について。薬の用量の考え方が難しいです。3剤ほど減量の提案をしたのですが「元々の腎機能は正常な患者なので問題ありません」との回答でした。
A.急性腎不全というのは急性腎障害(AKI)の中でも重篤なものとして考えると、急性腎不全時によって腎機能が急激に低下して一時無尿になったとしても、血清クレアチニン(Cr)値はすぐに下がってくれないことがあるため、急性腎不全時発症直後の腎機能の評価はむつかしいです。通常は血清Cr値によるeGFRでは腎機能が過小評価されますので、腎排泄性薬物の過剰投与が危惧されます(図)。
ただし脱水などによっておこる軽度の腎障害の場合、医師の判断では急性腎障害になったけれど回復しつつあるという判断をされたのかもしれません。たとえば、いつものCCrは50以上だったけど、今回だけ、明らかな脱水によるAKIで一時的にCCr<30になっただけなのに「メトホルミンは禁忌ですので中止してください」という疑義照会をしたら、医師から怒られたという話をよく聞きます。病態を十分、観察して検査値の動きを把握しておけばこのようなことは起こらないですね。
例えばSGLT2阻害薬を投与されている患者の腎機能が今回だけ下がっても、副作用が起こるわけではなく「効きにくくなる可能性がある」だけですから、疑義照会は熟慮してやりましょう。CCr<30で禁忌の薬があった時、29になったという1回の検査値のみで疑義照会をする「デジタル薬剤師」にならないよう注意したいものです。
Q.血圧を下げすぎるとeGFRが下がるとのことですが、降圧薬の服用をしていない低血圧の体質のCKD患者さんは血圧を100/50くらいにあげた方がいいのでしょうか。
A.血圧を下げすぎると当たり前にeGFRが下がるのではなく、正確にはSPRINT studyで収縮期血圧を120mmmHg以下に下げた群でeGFRが低下した症例が有意に多かったということです。血圧を下げすぎるとみんなeGFRが下がるわけではありません。
高血圧を放置すると腎硬化症によって高齢者になると腎機能が悪化することはふつうにあります。ただしこの状況を通り過ぎて、さらに高齢になると心機能が低下して血圧を上げることができなくなって腎血流が低下します。心腎連関といいますね。このような状態であれば動脈硬化は進行していて収縮期血圧は高いものの、拡張期血圧が低い、つまり脈圧が大きくなります。収縮期血圧が高いので、血圧を下げたいのですが、拡張期血圧が低すぎて降圧薬を使いにくくなります。
低血圧は低血圧症状のある人に対しては治療が必要ですが、無症状の人であれば治療する必要はありません。駆出率の低い心不全になったために血圧が下がった(血圧を上げる力がなくなった)症例に、RAS阻害薬やβ遮断薬を投与すべきかとなると、非常に悩ましいと思います。循環器医のご判断にお任せするしかないと思います。
Q.アセトアミノフェン750〜1000mg/回を推奨というお話がありましたが、これは体重50kg程度として考えてよろしいでしょうか。
A.体重50kg以上として考えてください。80歳以上の高齢女性で35kgなんて症例では500mgでも十分だと思います。
Q.心不全治療でfantastic fourとして注目されているARNIですが、RAS阻害薬に比較して腎障害作用が少ないとの一部データもあるようです。平田先生の見解はいかがでしょうか。
A.ARNIに関しては今のところ心不全に対する報告のみで、そのサブ解析でARNIのCKD予防作用はSGLT2阻害薬単独よりも明らかになっています血清クレアチニンの0.3 mg/dLを超える増加(AKI)および/またはeGFRの25%以上の低下,ESRDの発症,または腎死の複合アウトカムではARNIはRAS阻害薬群に比し、有意に優れていました(RR 0.84; 95% CI 0.72-0.96, p = 0.01;図)。
しかし降圧作用がARNI>RAS阻害薬だし、ARNIはANPやBNPを産生させるため利尿作用も強いことから、AKIには要注意かもしれません。上記のデータはあくまで複合アウトカムですので。カリウムの上昇はRAS阻害薬よりもやや軽度みたいです。
引用文献: Xu Y,et al. Front Pharmacol 2021 Nov 19;12:604017.
Q.トリプルワーミーを見た瞬間に疑義紹介するべきですか?
A.弱った高齢者のトリプルワーミー処方に関しては疑義照会すべきです。ただし、ちゃんと理論武装して、資料を見せて、医師に納得してもらわないと、その後のトリプルワーミー処方の減少にはつながらないと思います。ぼくが保険薬局薬剤師だったら電話で疑義紹介した後、論文を持参して医師とディスカッションしに行きます。
Q.米国と日本のCVDリスクと透析導入の差については医療制度の違いなどが影響しているのでしょうか?
A.アジア人はインスリン分泌量が少ないので、太りにくい。そして米国での食事摂取量や摂取カロリー量ははとても多いので肥満患者が非常に多いです。米国では心筋梗塞・心不全による死亡ががんよりも高いのは肥満が最も心血管病変リスクになっているためと思っています。貧しい人ほど安価なファストフードを食べざるを得ないので貧困者の方が肥満になりやすく、貧しいがゆえに保険を持っていない事によって心血管病変を起こしても十分なケアができないこともその理由だと思います。米国の医療レベルは非常に高いものの、先進国の中で皆保険制度がない国は米国だけといわれていますので、米国人のCVDリスクが高いのはおっしゃる通り医療制度も関与していると思われます。
Q.エンパグリフロジン開始初期はeGFR低下前か低下後、どちらの値で腎機能評価を行うほうが良いのでしょうか?
A.SGLT2阻害薬の投与によって腎機能は少しだけ低下しますが(効きすぎると腎機能が悪くなりすぎて投与しにくい人もいますが・・・)、過大評価も過小評価もされていないのですから低下後、その時の腎機能をそのまま用いるべきだと思います。
Q.腎保護作用についてはナトリウム利尿との認識でしたが、スライドの中でATPの消費量が影響しているのでしょうか?
A.最近の研究でSGLT2阻害薬のNa利尿は初期だけで、持続しないと言われています。おそらく腎でのNaを調整する機構が関わってSGLT2阻害薬によるNa利尿を調整しているのだと思います。ただし尿細管上皮細胞内のNa過剰は確実に起きていますので、SGLT2阻害薬による近位尿細管上皮細胞内でのNaポンプを回すためのATPの消費量軽減は、弱った腎臓を休ませてくれる可能性は大いにあると思っています。
Q.トリプルワーミーの論文間でリスク比がだいぶ違うのですが、その理由はどのようなことでしょうか?
A.トリプルワーミーの論文間で使っているNSAIDs、利尿薬、RAS阻害薬がみんなばらばらだからオッズ比に差があるのは当然です。NSAIDsだけでもセレコキシブのように腎機能に影響が少なく、心血管病変を起こしにくいものもありますが、ピロキシカムやメロキシカムのように半減期の長いオキシカム系は一般的に腎障害も胃障害も強いです。利尿薬だってサイアザイド系とループ利尿薬では利尿作用ははるかにループ利尿薬で強いですから、差が出て当然でしょう。また対象患者が日本人のように高齢者がほとんど、しかも後期高齢者が多いとなるとオッズ比は高くなりますから、対象患者の年齢や人種が異なることによって結果が異なることも考えられます。
SGLT2阻害薬のように併用によって急性腎障害が少なくなったという報告は前向きの大規模RCTのメタ解析によるものですから、リスク比・ハザード比がより均一なデータとして表れますが、トリプルワーミーの報告は薬剤師による後ろ向きの報告も多く、前向きの大規模RCTはほとんどないと思います。
Q.エンレストのバルサルタンの作用と抗利尿効果にNSAIDsを併用することはTriple Whammyとなるとお考えでしょうか。
A.エンレストもRAS阻害作用を持つので狭義のRAS阻害薬と考えていいと思います。それにNa利尿ペプチドの作用増強が加わりますので、降圧作用・利尿作用はRAS阻害薬より強く、カリウム上昇はRAS阻害薬よりも弱いです。となると脱水・降圧による腎機能悪化には気を付けるべきなので、Triple Whammyのリスクがあると今のところは考えています。ただしARNIはGFRを上げて腎保護作用を示すことからSGLT2阻害薬のようにAKIを予防する効果が出てくるかもしれませんが・・・・・。
Q.循環器疾患においてPCI後など低用量アスピリンを使用することが多く、RAS阻害薬が推奨されたりARNIが使用されるようになっております。その場合、心不全患者では既にダブルワーミーとなる場合が多くあると思います。やはりそういった患者様も腎障害リスクは高くなるのでしょうか?
A.心筋梗塞後で梗塞部位の大きければ心不全は必発です。心不全ではRAS阻害薬またはARNIの投与が必須になります。PCI後は低用量アスピリンを含めた2剤の抗血小板薬の併用は12か月は必要です。低用量アスピリンが腎機能を悪化させるかどうかは不明ですが、心不全の自覚症状が強くなれば利尿薬が必要になりますので、これらの薬物療法のそれぞれが腎障害リスクを上げる可能性があります。また心腎連関によって心不全自体が腎機能を悪化させます。